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HOME > 遊戯王SS一覧 > 03 Origin(後編)

03 Origin(後編) 作:Ales


 そこは修羅場であった。

 「あんた、誰?」

 英語にすると‘‘Who are you?’’。実にシンプルで、初対面の人間に対して投げる言葉として割とよくある言葉である。


 高校生活初日の、誰もが新生活への期待と不安を抱いている様な状況でなければ、であるが。



 お父様、お母様、僕は元気です。音に聞く京の山桜は実に優美で、実に観光地としての魅力を引き出しておりました。舞妓さんはいません。正確には見掛けません。駅が広くて、聞こえるのは中国語でした。駅前の家電量販店も中国語アナウンスでした。足下が寒く感じたので、小型のファンヒーターを探しておりました。空気清浄機を買わされそうになり、足下だけでなく懐も寒くなるところでした。お父様、お母様、とにかく僕は元気です。



 「教室、間違えたかな?1年の3組、ここで合って……うん、合ってるね。」

 念のために教室外のプレートを見ると、確かに1年3組の文字が刻印されていた。しかし目の前の少女は、そんなことはどうでも良いとばかりに濃紺色の髪をかき上げて牽制を続けた。

 「今は私が質問しているの。あんた、誰?」
 「……少なくともこの1年間、クラスメイトになるんだからもうちょっとマイルドに訊いて欲しいかな。」

 自分では100%の正論を述べたつもりであった。しかしながら、そもそも通常でない切り出し方の人間というのは、往々にして通常でない思考の持ち主である。そのことが遊士の誤算であった。

 「あのさ、私はここで待ってる人がいるの。邪魔とは言わないから、私の視界から出てくれないかな。」
 「と、言われても……ここは僕の教室でもあるし、話しかけてこなかったら壁のフリでもしてるから、どうぞお構いなく。」

 そう言って後ろから二番目、窓際の席を選択した。鞄を置いて椅子に腰を落ち着けると、しかし件の少女は尚も食いかかってきたのであった。

 「あんたねぇ、それで私が引き下がるとでも思ってるの?」
 「引き下がってくれるとありがたいかな。」

 そう言って無視を決め込もうと、遊士は本を取り出したのだがどうやら逆効果だったようである。

 「鬱陶しいんだけど。」

 言葉と共に、刃物が取り出された。



 「はぁ……なんでそっちに向いちゃうかなぁ……」

 カッターナイフを持って苛立ちを隠さない少女の前に立ち、遊士はそう呟いた。

 「何の話よ?あんたがおとなしく出てってくれていればこんなもの出したりしないわ。」
 「随分嫌われたものだね、僕も。」
 「話がわかるわね。で、さっさと出て行ってくれない?」


 (前にもこんなシチュエーション、あったな……)

 少女が明確に拒絶の意を示していることは、言動からはっきりとわかることである。無論それがわからない遊士ではない。しかしながら今回ばかりは、少しだけ意固地になってしまっていた。



 「…………それ、動かさないでね。」

 当人からすれば軽い脅しのつもりであり、言わば抑止力のつもりであったのだろう。だが当人にとっては、遊士は意外な行動にとって出たのだ。

 「は?あんた、何言って……っ!?」

 長く伸びたカッターナイフの刃を、遊士は左手で掴んだ。

 「ちょっと、やめなさいよ!切れるじゃない!」
 「うん、だから動かさないでね?」
 「そういう問題じゃないわよ!やめなさい……悪かったから!やめて……」

 刃物というのは、余程切れ味の良いものでない限り押しつけただけでは切れない。当てて斜めに動かしてはじめて切れるものであり、握った状態であっても刃の方向に動かさなければ切れることはない。

 「えっと、僕は前原遊士。少なくとも一年間は同じクラス、って事になってるから、とりあえずよろしく。」
 「あんた、この状況で自己紹介っておかしいんじゃないの?まず放しなさいよ!」
 「迂闊に放すと切れちゃうからね……君の方が放してくれると助かるんだけど。」
 「本当に?切れないわよね……?」

 脅しのつもりであって実際に害を与えるつもりがなかったからか、少女の関心事は遊士の手先に移っていた。

 「切れないよ。そのまま、静かに放してくれたら。」
 「う、うん……わかった。」
 「はい、ありがとう。」

 ゆっくりと少女の手が離れると、遊士は右手で静かに柄を握り、左手を慎重に刃から放した。

 「はい、これは返すよ。怪我させるつもりじゃないなら……とは言わないけど、こういうものは人に向けない方がいいよ。少なくとも、直接殴るよりトラブルになるから。」
 「……まるで見知ったようなことを言うのね。」

 少女の言葉に軽く肩を竦めた遊士は、敵意を喪失した背を向けて席へ戻った。


 「待たせて悪かったね、希実……っと、先客さんがいらっしゃいましたか。」

 遊士が席に戻ったのと時を同じくして、教室の扉が開いた。

 「あ、信君……うん、待った……よ?」

 妙にしおらしい彼女の様子に違和感を覚えたのか、信と呼ばれた少年は遊士の隣に座って声をかけた。

 「初めまして、だね。もしかして、希実が何かしたかな?」
 「初めましてですね。別に、特に何もされてませんよ。」
 「そっか。じゃあ何かあったのかな?」

 遊士は希実と呼ばれた少女を横目で見た。が、彼女は背中を向けて萎んでいた。



 「おっはよー……って何じゃこの空気?お通夜の会場と間違えたか?」

 ややあって、いつかに聞いた声が響いた。

 「あ、らんらん。おはよう……」
 「おう、会場はおまえかい!珍しいね、のぞみんが萎れてるの。」
 「萎れてないわよ……もう。」
 「うん、ならば良し……っておぉ?おにーさん、約束通り来てくれましたかー!」

 教室の扉側二人の視線を曳きながら、新田蘭が遊士の机の前にやってきた。

 「うん、ちゃんと来られた。約束、忘れてないよ。」
 「うんうん、それはよかった!よかったよー!」

 しきりによかったよかったと言って跳ね回る蘭に続き、ブロンドの髪が輝く少女が入室した。

 「ヨー、レッゲルト……いえ、おはようございます。」
 「えりりん、おっはよ!聞いて聞いて!これ、わたしが言ってた子だよー!」
 「これ扱いですか……」

 そしてどうやら、このハイテンション少女こと新田蘭は口が緩いらしい。それはともかくとして、今し方入室したブロンドの少女は机越しに遊士と正対した。

 「お初にお目にかかります。わたくし、ヴィクトル・エーリカと申しますわ。どうぞ、エリカとお呼び下さい。」
 「ご丁寧にどうも、前原遊士です。えっと……蘭さんから一体どんなことを聞いたんです?」
 「おう?私そんなに信用ない?」
 「あら、蘭さんからはほとんど何も聞いておりませんわ。ただ、教員を相手に勝たれたのは貴方だけでしたから、自然と耳目を集めますわ。」

 エリカの説明によると、そもそも入学時の実技試験で教員が相手をしていたのは数十年前までで、それ以後は生徒によって構成されるデュエルアドバイザーという組織が担当する並びとなったという。代理の生徒に頼むにも、休みの日を割くことになれば誰も同意しない。そんな訳で、自然と教員の誰か、という事になったようである。

 「あんときさ、私風邪でダウンしちゃってて仕方なくみこっちゃんがやるって……そういえば、うちのクラスの担任、みこっちゃんみたいだよ!うんうん、楽しみになってきたね!」
 「新田さん……教師を名前で呼ぶのはともかく、せめて先生としての尊敬を、といつも言っていますでしょう?」
 「んでもでも、みこっちゃんはみこっちゃんだし!」
 「答えになってないですよ、それ……」

 底抜けに明るい少女は、今日も底が抜けていた。逆に抜けた底から転落したように影のある少女が、次いで入室してきた。

 「お、くれにゃー!こっちこっち!これだよー!わたしが言ってたやつ!」
 「これ……ははは……」
 「ま、まあ、新田さんの口調が個性的なのは昔からですわ。どうぞ寛大な眼で見てやってくださいませ。」

 慌てた様子でエリカがフォローするが、会って数分でこれだのあれだの言われた挙句しがみつかれてアホ毛で殴られた遊士としては、最早さして気にならないことであった。

 「言っていた……?ああ、受験生の方ですね。」

 気怠げな様子と目元まで覆う髪のせいか、暗い印象を受ける少女もまたエリカの横、つまり遊士の前に来て一礼した。

 「籐篠紅那……です。忘れて下さって構いません。」
 「前原遊士です。で、僕の話はどこまで広がっているんですか?」

 明るい性格から交友関係も広そうな印象を受ける蘭のことである。どこまでもあらぬ事が広がっていそうである。

 「らんらんは友人が多いですから、恐らくほとんど全校に広まっていると思います……」
 「ですが、この学校に前評判を気にする方はほとんどおられません。その話を口実にデュエルを申し込まれることもあるでしょうが、恐らくそうでなくともデュエルすることになりますわ。」
 「うんうん!わたしも君とはデュエルしたいってずっと言い続けてきたし!約束、覚えてるよね?」


 合格したらいっっちばん最初にらんらんとデュエルしてね-


 竜巻のように色々なものを巻き起こしていった少女は、最後にそう言った。

 「もちろん、覚えてるよ。」

 遊士の言葉を聞いた蘭の表情が更に明るくなった。

 「じゃあ放課後!っても今日はホームルームだけだから終わってすぐね!」
 「ははは……わかったよ。」

 こうして互いに確約を得て席に戻った訳であるが、遊士はきっちりと気付いていた。



 デュエルの前に恐らく、もうひと波乱あるだろう。





---





 担任となったのは(無論そんなことは当人の口から語られることはなかったが、事前情報と知っていた)学年主任でもある関深琴(せき みこと)であった。遊士からすればデュエル中の態度から堂々として落ち着いた女性、という印象があるのだが、どうも進学組からは割と「楽しいタイプの」教員であるとの認識があるらしい。穏やかな笑顔で入学の祝辞からはじまるホームルームを滞りなく進行した彼女は確かに、厳しさよりは優しさを感じる立ち振る舞いであった。さて終始和やかな顛末であったホームルームから急転直下、立ち上がったところを遊士は後ろから腕を掴まれた。

 「ちょっと、来なさい。」

 有無を言わさず教室の外まで引っ張ったのはそう、一番はじめに教室にいた件の少女である。

 「んお?のぞみんが信君を放置するのは珍しいねー。」

 放課後に真っ先に声をかけようと待機していた蘭であるが、その相手が別の人物によっって消えたので手持ち無沙汰になり、近くにいた生徒に声をかけた。

 「ははは、そうだね。あの子、何をしたのかな?後で様子見てデュエルスペースに案内しとくから、蘭は先に行って待っててくれるかな?」
 「ほいさー!らんらん超特急……は危ないから、らんらん通勤快速ぐらいでいってきまー!」

 電車と言うにはあまりに最大荷重の足りていないそれを見送った後、少年は軽く頭をかきながら立ち上がった。

 「さて、と。あの子、どこ行ったかな……」





 彼女は遊士を空き教室に入れると、遊士を正面から見据えた。

 「その……今朝はその……ごめんなさい。」

 何をされるかと思ったら、少女はいきなり頭を下げた。

 「え?ああ、まあ怪我した訳じゃないから、別に良いよ。でも、ああいうのはしない方が良いね。」
 「うん、わかってる……って、やっぱり……」

 遊士の左手に視線を移した少女は、それを持ち上げて確信があったかのように呟いた。

 「怪我、してるじゃない……」
 「ん?そういえばちょっとだけ血が出たけど、放っておけば治る……」

 遊士が何でもないように言って手を放そうとするが、少女は意外な行動に打って出た。

 「ん……あ、む……」
 「…………何やってるの?」


 「ぷぁ……見てわかるでしょ、消毒よ。」

 彼女は膝を折ると、小指の付け根にできた傷口を口に含んだのだ。無論強引に引き剥がすことも出来るだろうが、遊士はそこまで頭の整理が追いついていなかった。

 「いや、大した怪我じゃないって。そんな、そこまでしなくても……」
 「悪いのは……私なんだから、出来ることは何でも……するわよ。」

 彼女なりの贖罪のつもりなのだろうか。遊士からすれば気をつけようね、はいわかりました、で終わっていた話であっただけに、妙にむず痒い。

 「じゃあ、名前、教えてくれないかな。ホームルームでも聞いたけど、改めて自己紹介。」
 「んぁ……自己紹介?」

 左手から顔を放した少女は、そのまま見上げるように遊士を見た。血のように赤い双眸を眼前に、遊士の心臓が不意にざわついた。

 (っ……!なんだろう、これ……)

 こんなに近くで他人を見たのが初めてだったからだろうか。それとも、眼底にどろっとした暗さを感じたからだろうか。

 「ん、っと……松野希実……です。身長が……去年測ったときは158で、体重は……その……言わなきゃ駄目、ですか?」

 頬を僅かに上気させ、少女は心なしか潤んだ眼で問うた。

 「え?いや、そこまでは聞いてないよ……」
 「そう……じゃあ、男の子が気になるのってスリーサイズとか……?私、自慢できるようなスタイルじゃないから、それも恥ずかしいけど。」

 言われて身体に視線を移す。確かに、メリハリのないシンプルな体型である。

 「言いたくないことは言わなくていいから……というか、僕も名前しか言ってなかったから、他のことは別に……」
 「そ、そう……そんなのでいい訳?」
 「今のところは、ね。少なくとも一年は同じクラスになる訳だから、とりあえずその、よろしく。」
 「うん、よろしく……お願いします?」

 はて何がよろしくなのかよくわかっていない二人であるが、言うこともなくなってはてどうしたものかと互いに思案していた。


 「あー、ここだったかー。ごめんねー、希実が何かしたみたいで……って、ちょっとお邪魔だったかな?」

 闖入者が現れたことで、互いに今の状況に気付く。遊士は立ったまま希実を見ている。では希実の方はどうかというと、頬を少しばかり赤らめて遊士の前に膝を折っている訳で、見ようによってはそういった行為を想起させるのである。

 「あ、信君!ちょっと、こいつとはそう言うのじゃないから!私には信君以外見えてないからぁ!ごめんね、何でもするから許して?」

 信と呼ばれた少年の元に、希実が駆け寄って腕を胸元に寄せる。信の方はというとまったくいやそうな素振りも見せずにこれが普通ですといったように入室時と変わらぬ笑顔を見せていた。

 「ははは、わかってるから。冗談だよ、冗談。それより君、遊士君……だったよね?デュエルスペースで蘭が待ってるから、早く行ってあげた方がいいよ。」
 「あっはい、ご丁寧にありがとうございます。で、デュエルスペースってどこにあるんですか?」

 案内するよー、と言って希実を引き摺ったまま出て行く信の後に続いて辿り着いた先で、新田蘭は仁王立ちして待っていた。



 「待たせたね。」
 「うん、2ヶ月ぐらい待った!んだから、早く始めよ!」

 所定の立ち位置に立って正対すると、否が応でも気が締まる。



 「「デュエル!」」




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光芒
ついにメインキャラ(?)が集結。しかし、いつにも増してアクの濃い面子に囲まれて初日から遊士の胃が心配でなりません。でもよくよく考えてみたら、デュエリストでアクの濃くないキャラを見たことがないんですがどうなんでしょうね。

そしてやっぱりみこっちゃんは深琴でしたか。あの中二病が教師になるんだからわからないもんですね。でも素の彼女は結構常識人だった気がするので、案外向いているのかもしれません。ところで過去の振る舞いを弄られる展開はまだですか?(鬼畜
(2017-12-24 12:53)
Ales(from PC)
光芒さん
これで同学年のメインキャラクターは出揃いました。後にキセキの世代とか呼ばれそうなメンツですが、まあ遊士君も同類なのでさして問題ないでしょう(常識とは何だったのか)

>よくよく考えてみたら、デュエリストでアクの濃くないキャラを見たことがないんですがどうなんでしょうね
???「俺がいるぞ!」
いやぁ、いたような、いなかったような……遊戯王ではよくある事で片付けてしまうと常識の基準がわからなくなるので、そこはなんとも言えませんね。

>やっぱりみこっちゃんは深琴でしたか。あの中二病が教師になるんだからわからないもんですね
私はキャラクターを作成する段階からそのキャラクター個別のストーリーを考えるタイプでして、深琴は登場時から既に教師になるという設定があったので今回同じ世界を描くに際して組み込んでみようと思いこうなりました。ちなみに担当は現代国語という設定です。

>ところで過去の振る舞いを弄られる展開はまだですか
番外編……ですかねぇ…… (2017-12-25 01:27)

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