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遊戯王Scar/Scar /12:その手に添う 作:げっぱ

   *   *   *

ブラムが『カオスクロス』に入ったのは、単にその方が生きやすいからだった。

生まれた頃には既に世界は狂い、ブラムは弱者の位置に生きていた。
それが当然であるが故に恨みなど抱えている余裕はなく、『カオスクロス』に加わる事に躊躇いは無かった。
そこに入れば、少なからず苦しまずに生きていけると信じての事だった。

試験を受け、及第点に届かず命を落とした者を哀れに思いながら、ブラムは『カオスクロス』の構成員として認められた。
実際、『カオスクロス』に入ってから、不自由する事は無かった。
衣食住は揃い、カードも十分にある。時折、任務の際に人々を襲うが、罪悪感は感じなかった。
そうすれば楽に生きられるのならば、それを目指して生きる事に文句を言われる筋合いなどないと考えていた。

その代わり、生きる事に執着したその立場に、楽しみと呼べる物はなかった。
下劣な思想、劣悪な暴虐、それを喜び勇んで行う同輩と異なり、ブラムはそれらに快感を得る事ができなかった。

唯一の楽しみは、恵まれた自身と張り合える、『カオスクロス』ではない者たちとのデュエル。
一度のドロー、一度のコイントス、ダイスロール、見えぬカード情報の取捨選択。
何かが違っていれば負けていたのは自分かもしれない状況に、血が沸騰するように熱くなり、体を巡り、心を揺らした。
ただ純粋に、自分も魂や誇りと言う物を懸けられるデュエルが楽しかった。
それができるのであれば、『カオスクロス』の枠組みなど関係なかった。

暫くして、構成員として成績を伸ばしたブラムは、特殊部隊に配属された。
反逆者を排除するのではなく、程よく反逆の芽を摘み取る為にカードを奪う部隊、『スティーラー』。

そこで与えられる「スティールライド」と、自由にデッキを組むためのカード。
デュエルディスクには、コイントスやダイスロールと言ったランダム要素が全て自身に都合の良い結果になる機能。
デッキトップに来るカードが全て指定した順番になるデッキ操作機能。装置を使った1ターンキルの為に必ず後攻になる機能。
『カオスクロス』構成員のスティーラーとしての必勝を求められた、イカサマだった。

ブラムは、それを受け取った。
張る意地など持たないと思い、生き残る事を優先したのだ。その為に『カオスクロス』に入ったのだから。

そして、ブラムの生きる世界は色褪せた。

決まった結果をドローし、決まった行動をし、相手を撃つ。

無力も実力者も関係なく、逆らう者はその流れで始末する。

ただ生きるために。生きているだけの為に。

略奪から、無情にして感動のない乾いた「処刑」を繰り返してきた。



スカー「このデッキの一番上のカード……それをドローすれば『カオスクロス』を潰せるなら、いくらでもそうする」

スカー「ライフが尽きるまで……傷の、復讐を果たすまで……」

スカー「お前たちに解るものか」



この男は。ブラムの何もかもを跳ね返してそうのたまった。

ブラムの身体が、燃え上がるような熱を帯びた。自然と笑みが零れる。
嘗て人生を彩った戦いが行われている実感に、何度も何度も剥ぎ取ったフィールドを立て直すしぶとさに。
失っていたデュエリストとしての興奮が、一気にブラムの身体を燃やし、嬉しい気持ちが溢れて止まらない。

この男を全力で捻り潰したい。
それでも尚、打ち倒されるのが己であったとしても、まやかしの力を以って負けるよりは本望だ。
その願望を叶えるにあたり、全て定められた機能など野暮でしかない。
許されるなら今からでも、一手一手に誇りを懸けたい。

全てをかなぐり捨ててでも、何よりも優先した「生きる」と言う原始的欲求よりも。
もう二度と味わう事ができないだろうこの「喜び」に、全てを賭す。
一時的快楽にその価値があるのかどうか、誰にも分かりはしない。

ブラム「お前の……名を教えてくれ」

気が付けば、口が勝手に動いていた。男は訝しんでブラムを睨む。
それらしい言葉は、男についてきた少女が何度も言っている。だが、本人から直接聞く事に意味を感じた。

少し間を置いて、男は言った。

スカー「スカーだ」

ブラム「俺はブラム。ブラムだ」

ブラムはデュエルディスクの相手に見えない位置に備え付けられたスイッチを押し、「イカサマ機能」を切った。


ブラム「お前を全力で叩きのめす」


   *   *   *

先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
■…リバースカード
逆…SSS-逆襲の傷跡
槍…SSS-フレイム・スピア 装備対象:SSS-ヴェンジェンス
執念…SSS-ヴェンジェンス ATK/3500(1800) DEF/1500(1300)攻撃
□|■| .槍 |□|逆
□|□|執念|□|□

□|□|ガ|□ |□
□|□| □|未|□
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/2600 DEF/1200 攻撃
未…未来融合-フューチャー・フュージョン 対象:ガトリング・ドラゴン
後攻:ブラム / 手札:0 / LP:5300


ブラム「俺の、ターン…………ドロー」

唐突な謎のやり取りの後、ブラムと名乗るスティーラーはようやくカードをドローした。
その言葉の真意を図るつもりは無いが、気になるのは、デュエルディスクをいじったように見えた事と、心なしか語気に気迫が込められたように感じる事。
どちらも気にしたところでどうしようもなく、気にする必要もない事だが、ある種不気味である。
散々コイントスを大成功させて、この上でまだ全力でないとすればもはや勝ち目など無いのだが。

そしてドローカードを見る事なく、それをデュエルディスクに置いて発動した。

ブラム「メインフェイズに通常魔法、「貪欲な壺」を発動」


「貪欲な壺」 通常魔法
①:自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。


そのカードならば、汎用性からスカーも使用する、よく知っているカードだ。墓地に送られたモンスターをデッキに戻し、手札へと変換する。
手札増強以外にモンスターの再利用も見込めるが、デッキによっては墓地のモンスターが多い事をアドバンテージとする場合もあり、それを削る事を良しとしないデッキには入らない場合もある。
特に闇属性にはその帰来があり、特に先ほどブラムが使用した「オーバーロード・フュージョン」等は最たる物だ。
そしてブラムの墓地のモンスターの数は丁度5体。墓地のモンスター全てを戻さなければならない。
今後の展開に影響が出る手だが、ブラムに迷いの類は見受けられなかった。

ブラム「俺の墓地のモンスター5体を対象とし、そのカードをデッキに戻し、2枚ドローする」

ブラム「デッキに戻すのは「ガトリング・ドラゴン」、2体の「ツインバレル・ドラゴン」、「リボルバー・ドラゴン」「ブローバック・ドラゴン」!」

ブラム「対象の5体をデッキに戻し……!」

融合モンスターである「ガトリング・ドラゴン」はエクストラデッキに、それ以外の4体はメインデッキに戻される。
デュエルディスクがデッキをシャッフルし、そのデッキトップに指を添える。

ブラム「2枚ドローッ!」

今までと異なりまるで祈るように間を置き、カードを引いた。

ブラム「手札から通常魔法、2枚目の「パーツ・インストール」!」

ブラム「エクストラデッキの「ガトリング・ドラゴン」を見せ、その融合素材モンスターである「リボルバー・ドラゴン」と「融合」を1枚ずつ手札に加える!」

再び「パーツ・インストール」を使用した事により、ブラムの手札は3枚へと増える。
どちらもすぐに使用できるカードではないが、もしも手札に「ブローバック・ドラゴン」が来ているならば……。
1ターン目でのブラムの行動が脳裏に浮かび、スカーは汗が流れるのを感じた。

ブラム「さらに、通常魔法「闇の誘惑」発動!」


「闇の誘惑」 通常魔法
①:自分はデッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。手札に闇属性モンスターが無い場合、手札を全て墓地へ送る。


ブラム「デッキから2枚ドローし、手札の闇属性モンスター1体を除外する。手札に闇属性モンスターが無い場合は、手札を全て墓地へ送る!」

続け様に発動するのは、新たなるドローソース。「ブローバック・ドラゴン」ではなかったものの、安心できるものではない。
一般的なドローソースは発動条件としてコストを先に払いドローする。それとは異なり「闇の誘惑」は、ドローしてからドローしたカードを含めて手札コストを後払いする。
他のドローソースに比べて比較的安全に手札交換ができ、土壇場でも腐り辛いのが特徴だ。
ブラムは事前に「パーツ・インストール」で「リボルバー・ドラゴン」をサーチしているため、手札の交換は確定で行われる。
それで終われば良いが、ドローしたカードが「ブローバック・ドラゴン」と何か闇属性モンスターであった場合は、「ガトリング・ドラゴン」の素材が揃う事になる。

ブラム「デッキから2枚、ドロー!」

ドローしたカードを見て、思うような手札を引けなかったのか、ブラムは悔し気な声を漏らす。

ブラム「その後手札の闇属性モンスター、「リボルバー・ドラゴン」を除外する」

ブラム「…………なら、「ガトリング・ドラゴン」の効果を発動する!」

状況はお互いの場にモンスターが1体ずつ。コイントスで表が二つ以上出なければ、スカーの敗北が決定する。
普通ならば事故を避けるために、出せるのであれば隣にモンスターを並べて「ガトリング・ドラゴン」の被害を抑えるのが定石だ。
それをしないとなるとモンスターを引けなかった、と考えるのが筋だが、ブラムは前のターンで同じ状況になった時、躊躇わず「ガトリング・ドラゴン」の効果を発動した。
余程自身があるのだろうし、スカーはそれを警戒して妨害した。

ここで止めない道理はない。

スカー「その効果にチェーンしてリバースカードオープン、カウンター罠「SSS-悪を殲滅する力」!」

スカー「三つの効果の内、俺のフィールドの「SS」モンスター1体をリリースし、モンスター効果を無効にする効果を選んで発動!」

カードの発動と同時に、「ヴェンジェンス」の身体が炎に包まれる。
しかし悲鳴を上げる事は無く、割れた仮面から剥き出しになっている眼には尚も強い光。
その身を燃やしながら振り被り、「ガトリング・ドラゴン」目掛け真っ直ぐに炎の槍を投擲した。

放たれた炎の槍が「ガトリング・ドラゴン」を穿つのと、「ヴェンジェンス」の体が燃えて崩れるのは殆ど同時だった。


「ガトリング・ドラゴン」「未来融合-フューチャー・フュージョン」破壊!


ブラム「づッ……またそのカードを!」

「ガトリング・ドラゴン」の効果こそ止めたが、これはスカーにとっては分の悪い賭けでしかない。
今まで自身を守ってきた「ヴェンジェンス」を失い、スカーのフィールドにはモンスターがいないのだ。
残り少ないスカーのライフをもぎ取るならば、それこそレベル1のモンスターでも難しくはない。

ブラム「リバースカードを2枚伏せ、ターンエンド!」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|□|□|□|逆
□|□|□|□| □

□|□|□|□|□
□|□|■|■|□
■…リバースカード
後攻:ブラム / 手札:1 / LP:5300


ブラムの手札に後続のモンスターはいなかったらしく、このターンこそ生き延びたが、依然として状況は不利だ。
手札もライフも残っていないこの状況で、スカーが生き残るにはどうすれば良いか。

それは、このデッキトップをドローしなければ分かるまい。

スカー「俺のターン、ドロー!」

スカー「……スタンバイフェイズ、メインフェイズに入り、通常魔法「増援」を発動!」


「増援」 通常魔法
①:デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。


スカー「その効果でデッキからレベル4以下の戦士族モンスター、2体目の「SS-グリーフ」を手札に加える」

スカー「リバースモンスター1体を裏守備表示で召喚し、ターン終了……」

これが、今のスカーにできる精一杯の事。

相手の場には2枚のリバースカード。残る手札の1枚は「融合」のカードだろう。
次のターンにブラムがモンスターを引かなければ、まだ勝機はある。

それを手繰り寄せるまで、絶対に諦めない。

先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
□|□|□|□|逆
□|□|■|□| □

□|□|□|□|□
□|□|■|■|□
■…リバースカード
後攻:ブラム / 手札:1 / LP:5300


ブラム「俺のターン、ドロー!」

ブラム「メインフェイズにリバースカードオープン! 永続罠「闇次元の解放」発動!」


「闇次元の解放」 永続罠
①:除外されている自分の闇属性モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊され除外される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


ブラム「除外されている闇属性モンスター1体を対象とし、特殊召喚する! 対象は「リボルバー・ドラゴン」!」

発動されたカードのヴィジョンの正面の空間に、不気味な亀裂が入った。
黒い歪みのようなそれは、まるで世界を砕くかのような音を立てて広がり、中央が膨らんでいく。
歪な円を描くようなその穴から、除外されていた「リボルバー・ドラゴン」が現れた。


「リボルバー・ドラゴン」帰還!


ブラム「リバースモンスターを対象に「リボルバー・ドラゴン」の効果発動!」

スカー「チェーンして墓地の「スキル・プリズナー」を除外し、リバースモンスターを対象に効果発動!」

スカー「このターン、そのカードを対象とするモンスター効果を無効にする!」

ブラム「関係ない、手札から通常魔法「融合」を発動!」

ここに来ての、「融合」カードの発動。素材モンスターがいなければ発動すらできないそのカードだが、それを使ったという事は、その条件を満たした事に他ならない。

スカー「その手札のカードは……!」

ブラム「フィールドの「リボルバー・ドラゴン」と手札の「ブローバック・ドラゴン」を融合し、「ガトリング・ドラゴン」を融合召喚する!」

フィールドの「リボルバー・ドラゴン」のヴィジョンが捻じれるように消え、代わりにそこに現れるのは、五度目の融合召喚となる「ガトリング・ドラゴン」。
何度現れようと変わらない、息吹のような弾丸を上空へと撃ち放ち、その存在を誇示する。


「ガトリング・ドラゴン」融合召喚!


ブラム「「ガトリング・ドラゴン」の効果発動!」

そして再び、召喚されるや否や、その銃口をフィールドのリバースモンスターのヴィジョンとスカーへと向ける。
まるで失敗を恐れないその攻撃的な姿勢を食い止める手段は、今のスカーのフィールドにはない。

今度こそ、本当に祈る事しかできないコイントスを、ブラムは行った。
指に弾かれ、地面に落ちたコインの絵柄は、太陽。

アン「表……!」

これで、モンスター1体の破壊が決まる。スカーが耐えるには、もう一度表が出なければならない。
続くコイントス。空中を躍るコインが、地面に落ち、弾けて転がった先で見せたのは、月の絵柄。
このデュエルで初めて出た、裏だ。

スカー「裏……!」

ブラム「最後のコイントスだ!」

嘗てなく、ブラムの言葉にも力が入る。コインを高々と弾き、その顛末を天に委ねる。
表が出れば、お互いのフィールドからモンスターがいなくなる。裏が出れば……その先は、考えても仕方がない。
軽い金属音が響く。落ちたコインの絵柄は、太陽。

ブラム「クッ……表は二回、よってフィールドから2体のモンスター、リバースモンスターと「ガトリング・ドラゴン」自身を破壊する!」

息吐く暇もなく、「ガトリング・ドラゴン」の効果処理が行われる。
三つ首の内一つは「ガチリ」と何かが噛み合わない音を鳴らし、内一つはリバースモンスター目掛け撃ちまくる。
巻き込まれまいと咄嗟に逃げたスカーが次に「ガトリング・ドラゴン」を目にした時、残る一つの首が爆発した。
それに連動して、胴体と他の首も煙を吹き、間も無く爆発四散した。


「ガトリング・ドラゴン」「SS-グリーフ」破壊!


ブラム「これでターンエンドだ!」

ヴィジョンの爆発から身を庇いながら、ブラムは忌々しげにターンを終了する。


先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|□|□|□|逆
□|□|□|□| □

□|□|□| □|□
□|□|■|闇|□
闇…闇次元の解放
■…リバースカード
後攻:ブラム / 手札:0 / LP:5300


何とか生き残ったものの、手札もライフも無いこの状況は依然として不利に変わりない。
どちらかを調達できれば動きようもあるが、ブラムのトリッキーとも言えるギャンブルセンスのおかげでそれもままならない。
ともかく、生き延びる手段を引き込まなければ話にもならない。

スカー「俺のターン、ドロー!」

スカー「……リバースカードを1枚セットし、ターン終了」

防戦一方であるが、耐え忍ぶしかないのだ。


先攻:スカー / 手札:0 / LP:200
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
□|■|□|□|逆
□|□|□|□| □

□|□|□| □|□
□|□|■|闇|□
闇…闇次元の解放
■…リバースカード
後攻:ブラム / 手札:0 / LP:5300


ブラム「俺のターン、ドロー!」

ブラム「スタンバイフェイズ、メインフェイズに入り、「ツインバレル・ドラゴン」を召喚!」

防戦を強いられるスカーと違い、ブラムの攻め手は止まない。
モンスターを展開されるのは勿論の事、何より辛いのは同時に除去を繰り出す事だ。

ブラム「「ツインバレル」の召喚成功時に、リバースカードを対象として効果発動!」

攻める為ならば自分が負うリスクさえも度外視するブラムが、このまたとない機会を見逃すわけがなく。
スカーの頼みの綱であるリバースカードの除去を試み、コイントスを行う。
一度目のコイントスは、表。二度目のコイントスは、裏。

ブラム「効果は失敗か……ならバトルフェイズだ! 「ツインバレル」でダイレクトアタック!」

スカー「攻撃宣言時にリバースカードオープン、「ツインバレル・ドラゴン」を対象に通常罠「ドレインシールド」発動!」


「ドレインシールド」 通常罠
①:相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分だけ自分はLPを回復する。


スカーがカードを発動した直後、「ツインバレル・ドラゴン」は発砲する。
次の瞬間、弾丸はスカーを撃ち抜く……事は無く、その寸前に、現れた盾によって阻まれていた。

スカー「対象のモンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分だけ自分のライフを回復する!」LP:200→1900

ブラム「本当にしぶとい奴だ、流石にやるな! バトルフェイズを終了し、そのままターンエンドだ」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:1900
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|□|□|□|逆
□|□|□|□|□

□|双|□|□ |□
□| □|■|闇|□
双…ツインバレル・ドラゴン ATK/1700 DEF/200 攻撃
闇…闇次元の解放
■…リバースカード
後攻:ブラム / 手札:0 / LP:5300


欲を言えば「ガトリング・ドラゴン」等の最上級モンスターの攻撃力を吸収したかったが、取り敢えずライフは得た。
後はこれを元手に展開するだけだ。

ブラムの、スカーを全力で叩きのめす闘志が次々とスカーを追い詰めているのであれば、精神論が罷り通るのであれば、スカーとて意志の強さは負けていない。
このドローで、動けるカードを引く。希望ではなく、実行するのだ。

スカー「俺のターン、ドロー!」

スカー「スタンバイ、メインフェイズに、通常魔法「貪欲な壺」を発動!」

ブラム「そのカード……お前もか!」

スカー「墓地の「ヘイト」3体、「グリーフ」、「グラッジ」を1体ずつ対象とし、デッキに戻す」

スカー「そして2枚ドロー!」

新たな手札2枚。そこから辿れるルートの中で、このターンで決着が付くものがある。
問題はブラムのリバースカードだが、それを怪しんでいては勝機を逃してしまう。
ブラムに倣うわけではないが、多少のリスクは度外視して進むしかない。

スカー「手札から「SS-グラッジ」を召喚。召喚成功時に二つの効果の内、ライフを払う効果を選んで発動」LP:1900→900

スカー「デッキから1枚ドローし、手札を1枚捨てる」捨てたカード→「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」

「グラッジ」の効果でドローしたカードだが、先ほどと同じようにそのまま墓地へ送る。

スカー「そして俺が「SS」モンスターの効果で手札を捨て、ライフを払ったターンに、このカードは発動できる」

スカー「通常魔法「SSS-ウェイク・アップ」発動!」


「SSS-ウェイク・アップ」 通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。
①:自分が「SS」モンスターの効果で手札を捨て、LPを払ったターンに発動できる。自分の墓地から「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚し、LPを1000回復し、デッキから1枚ドローする。


スカー「その効果で墓地の「SS」モンスター、「SS-ネメシス」を特殊召喚する!」

スカー「戻れ、「ネメシス」!」

効果によって現れた炎のヴィジョンから、「ネメシス」が飛び出す。
傷だらけの体に、更に銃創を重ねて、しかし戦士は蘇り、片翼の炎を燃え上がらせる。


「SS-ネメシス」復活!


スカー「その後、デッキから1枚ドローし、ライフを1000回復する!」LP:900→1900

スカー「特殊召喚に成功した「ネメシス」の効果の内、ライフを払う効果を選んで発動する!」LP:1900→900

スカー「ライフを1000払い、このターン「ネメシス」は二回攻撃できる!」

「ネメシス」の翼の炎が尚強く、闘志の如く燃え盛る。

スカー「バトルフェイズだ、「SS-ネメシス」で「ツインバレル・ドラゴン」を攻撃!」

その炎をバーニアのようにして加速を得て、「ツインバレル・ドラゴン」へと突撃。
「ツインバレル・ドラゴン」が撃鉄を下ろすよりも早く、純粋な突進が機械の体を弾き砕いた。


「ツインバレル・ドラゴン」破壊!


ブラム「くっ!」LP:5300→4800

スカー「ダメージ計算終了時に「逆襲の傷跡」の効果で攻撃力1000アップ! 続いて「ネメシス」で二回目の攻撃、ダイレクトアタック!」

「逆襲の傷跡」の効果により、「ネメシス」の攻撃力は都合3300。後に控える「グラッジ」の直接攻撃と合わせて、ブラムのライフをもぎ取るには十分だ。

ブラム「リバースカードオープン! 通常罠「ガード・ブロック」発動!」

更に加速を得た「ネメシス」とのインパクトの寸前に、ブラムはリバースカードを開いた。


「ガード・ブロック」 通常罠
①:相手ターンのダメージ計算時に発動できる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキから1枚ドローする。


「ネメシス」の拳は確かにブラムを捉えた。だが、ブラムはピクリとも動かない。
その勢いは装置を経由してカードの効果によって殺されたのだ。

ブラム「その効果でこの戦闘ダメージは0になり、そして1枚ドロー!」

スカー「くっ……ダメージ計算終了時に「逆襲の傷跡」の効果で「ネメシス」の攻撃力が更に1000アップ」

今この時、一番高い火力を相殺され、ブラムは大きくライフに余裕を得た。
「ミラー・フォース」のような除去カードで無かったのは救いと言えば救いだが、このターンで終わらせるつもりで攻めたのが災いして、スカーには次のターンを凌ぐためのカードが無い。
効果破壊に対して殆ど丸腰の状態でターンを渡さなければならなくなったのは、勝機を見誤った失策としか言いようがない。

取り敢えず、できる事をするしかない。

スカー「次に「グラッジ」でダイレクトアタックだ!」

「ネメシス」が戻り、代わりに「グラッジ」が攻撃を仕掛ける。
今度こそ妨害札は無く、「グラッジ」は躊躇いなくブラムを殴りつけた。

ブラム「がはぁっ……!」LP:4800→3200

ブラムは衝撃で後ずさり、膝を衝く。その目には、生気。強い戦意が残っていた。
本当に、先ほどまでの無感情な状態と同一人物とは思えない。その闘志をスカーが引き出したのだとすれば…………。
望ましくないが、恐らくブラムは、それをスカーに叩き付けなければ気が済まないだろう。

スカー「ダメージ計算終了時に「グラッジ」の攻撃力も1000アップする」

スカー「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2。リバースカードを1枚セットし、ターン終了!」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:900
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
恨…SS-グラッジ ATK/2600(1200) DEF/1500(1100) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/4200(1800) DEF/1700(1300) 攻撃
□|■| □ | .□. |逆
□|□|恨|執念| □

□|□|□| □ |□
□|□|□|闇|□
闇…闇次元の解放
後攻:ブラム / 手札:1 / LP:3200


状況として見れば、一時的であるが攻撃力4000越えのモンスターが控え、戦闘ダメージは遮断し、万が一にも戦闘破壊されても後続のサーチができ、一応リバースカードもあるスカーが有利だ。
しかしそれを覆すのならば、何度もスカーがやっているように、手札が1、2枚と少しのライフがあれば十分。

ブラム「俺のターン、ドロー!」

そしてブラムに、それを諦める様子はない。

ブラム「メインフェイズに入り、フィールドの「闇次元の解放」を墓地へ送って手札から2枚目の「マジック・プランター」発動! 2枚ドロー!」

ブラム「まだだ、更に通常魔法「強欲で貪欲な壺」発動!」

「強欲で貪欲な壺」 通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
①:自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。


ブラム「デッキの上から10枚のカードを裏側で除外し、2枚ドロー!」

残り少ないデッキを、利用不可能な状態で更に削り、ブラムは手札を求める。

ブラム「墓地の「リボルバー・ドラゴン」と「融合」を対象とし、通常魔法「融合回収」発動!」


「融合回収」 通常魔法
①:自分の墓地の、「融合」1枚と融合召喚に使用した融合素材モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。


ブラム「融合素材となった対象のモンスターと「融合」を手札に戻す!」

二つのドローソースと一枚のサルベージカードを振り回し、ブラムの手札がまるで尽きない弾丸のようにどんどんと増えていく。
まだ、幸運はブラムに微笑んでいるとでも言うのか。

ブラム「そして手札を1枚捨て、装備魔法「D・D・R」発動!」捨てたカード→「融合」


「D・D・R」 装備魔法
①:手札を1枚捨て、除外されている自分のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。


ブラム「除外されている「ブローバック・ドラゴン」を特殊召喚し、このカードを装備する! 戻れ、「ブローバック」!」

「闇次元の解放」と同様に、空間に亀裂が走る。穴のように広がったそこから、「ブローバック・ドラゴン」が現れ、挨拶と言わんばかりに一発放った。


「ブローバック・ドラゴン」帰還!


ブラム「「SSS-逆襲の傷跡」を対象に「ブローバック」の効果発動! コイントスを行い、2回表が出れば破壊する!」

「SS」たちに高い攻撃力を与えているのは「逆襲の傷跡」の効果だ。それがフィールドを離れれば、「SS」たちは大きく弱体化してしまう。
それどころか今まで回避してきた戦闘ダメージも受けるようになり、そのまま「グラッジ」を攻撃されれば負けてしまう。

ブラムがコインを弾く。一度目のコイントスは、太陽の絵柄。二度目のコイントスは、またも太陽の絵柄。

ブラム「表は2回、効果成功により、対象のカードを破壊する!」

満を持して、「ブローバック・ドラゴン」が銃身のスライドさせ、弾丸を装填する。
刹那、轟音が轟き、反応する間さえなく、撃ち抜かれた「逆襲の傷跡」のヴィジョンが砕け散った。


「SSS-逆襲の傷跡」破壊!


スカー「くうっ!」

ブラム「これが俺の全力だ……通常魔法「パワー・ボンド」ッ!」

スカー「「パワー・ボンド」だと……!」


「パワー・ボンド」 通常魔法
①:自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その機械族融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。この効果で融合召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。
②:このカードの①の効果を発動したターンのエンドフェイズに以下の効果を適用する。●自分はこのカードの①の効果でアップした攻撃力分のダメージを受ける。


ブラム「手札・フィールドから融合素材モンスターを墓地へ送り、機械族融合モンスターを融合召喚する!」

フィールドの「ブローバック・ドラゴン」のヴィジョンが捻じれる。
車輪の駆動音が鳴り渡る。銃身が回転する音が聞こえる。
今度こそ、真に処刑を為すために、「ガトリング・ドラゴン」が咆哮を上げた。


「ガトリング・ドラゴン」融合召喚!


ブラム「そしてこの効果で融合召喚されたモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップし、俺はターン終了時にその数値分のダメージを受ける」

ブラム「「ガトリング・ドラゴン」の元々の攻撃力は2600、よって二倍の5200!」

「融合」「未来融合」「オーバーロード・フュージョン」に次ぐ四種類目の融合カード。
その最後に、中途半端では超えられない壁が聳えた。

アン「攻撃力5200……」

見守るアンは呆気に取られ、スカーでさえ舌打ちを鳴らした。

それでもまだ、ブラムの猛攻は止まらない。

ブラム「これで終わりだと思うな! 融合素材として墓地へ送られた「ブローバック」を対象に通常魔法「死者蘇生」発動!」


「死者蘇生」 通常魔法
①:自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。


ブラム「対象のモンスターを自分フィールドに特殊召喚する! 蘇れエッ!」

地面が裂け、「ブローバック・ドラゴン」が這い出てくる。
殺戮の道具を模した巨大な龍が二体、傷だらけの戦士の前に立ちはだかった。


「ブローバック・ドラゴン」復活!


ブラム「一度フィールドを離れた「ブローバック」は、もう一度効果を発動できる。対象は「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」!」

フィールドを離れた事で同一個体である情報がリセットされ、「ブローバック・ドラゴン」は再び効果を発動する。
ブラムのコイントスは、二度とも表を出した。

ブラム「表は2回、対象のカードを破壊しろ、「ブローバック」!」


「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」破壊!


フィールド魔法である「ウィーカーズ・ハビタット」が破壊された事で、周囲の景色が廃村から荒野へと戻る。

スカー「クッ……これで「SS」たちの攻撃力は元の数値に戻る……!」

「ウィーカーズ・ハビタット」には、自分フィールドの「SS」モンスターをリリースする事で破壊から守る効果がある。
だが「ガトリング・ドラゴン」の効果が残っている現状で、自分からモンスターを減らすのは得策ではない。
リバースカードを狙わないのが気になるが、スカーが多用したフリーチェーンのカードを警戒しての事だろう。
それで効果をすかされるくらいならば、他の物を除去するのは理解できる話だ。

ブラム「「ガトリング・ドラゴン」の効果発動! どう転んでもこれが最後だ!」

全力の意味するところは、このターンで決着が付くか、倒しきれずに息切れして敗北するかの二つに一つだ。
ブラムはまだ、スカーが抵抗する事を警戒しているのだ。だからこそ、次の自分のターンは訪れないと踏んでの「最後」なのだろう。

ブラムは強く、ヴィジョンのコインを握り締める。それまでになかった、祈るような行為だ。
そして弾く。一度目のコイントスは、太陽の絵柄。
二度目のコイントスは、月の絵柄。
三度目のコイントスは、月の絵柄。

ブラム「表は1回、よってモンスター1体、「SS-ネメシス」を破壊する!」

「ガトリング・ドラゴン」の真ん中の首がうねりを上げる。
スカーが飛び退くのと、「ガトリング・ドラゴン」が鉄のブレスを吐き散らかすのは同時だった。


「SS-ネメシス」破壊!


地面を転げるようにして避けたスカーは、起き上がり際に肩で息をしている事に気付いた。
デッキキャパシティだけではない、死が広すぎる範囲を追ってくる事に、肉体的にも精神的にも参っているのだ。

ブラム「バトルフェイズだ! 「ガトリング・ドラゴン」で「SS-グラッジ」を攻撃!」

想定外の疲労に気を取られ、反応が遅れたスカーは、ハッとして為すべき事を行う。

スカー「攻撃宣言時に墓地の2枚目の「カウンター・ストライク」を除外し、効果発動!」

墓地の効果に加えてリバースカードを発動しながら、手遅れになる前にスカーは駆け出した。

スカー「更にチェーンして、リバースカードオープン! 通常罠「SSS-傷だらけのララバイ」!」


「SSS-傷だらけのララバイ」 通常罠
①:自分の墓地の「SS」モンスターを任意の数だけ除外して発動できる。自分のLPを除外したモンスターの数×1000回復する。その後、除外したモンスター3体につきデッキから1枚ドローできる。


スカー「俺の墓地から任意の数だけ「SS」モンスターを除外し、その数×1000ポイント分ライフを回復する!」

スカー「最初に墓地へ送られた「ヴィンディクト」を残し、残り7体を全て除外!」

スカー「ライフを7000回復し、その後除外したモンスター3体につき、1枚ドロー!」LP:900→7900

スカー「そして「カウンター・ストライク」の効果で、このターン「SS」モンスターは戦闘では破壊されない!」

ブラム「関係ない! 撃ち抜け、「ガトリング・ドラゴン」ッ!」

効果処理が終わり、いよいよ「ガトリング・ドラゴン」が攻撃を始める。三つ首全てが、逃げ続けるスカーに追従する「グラッジ」を狙い、撃ちまくる。
攻撃を迎え撃つ為、「グラッジ」のヴィジョンはその場に留まり、炎を纏う。
「ガトリング・ドラゴン」の弾丸が「グラッジ」を襲うが、その全てが炎によって遮られ、消失し、「グラッジ」に届く事は無い。
だが飽和した攻撃は流れ弾となり周囲を削り取っていく。その中の数発が、疲労で動きが鈍ったスカーの足を、腕を、掠めて抉った。

スカー「ぐああッ!」LP:7900→3900

ガトリングとは従来、戦車やヘリなどの兵器に搭載するか、固定して撃ち放つ、反動が強い分だけ破壊力も高い武器だ。
その威力は鉄板を千切り、硬いものは片っ端から砕く。集中すれば地面が抉れる威力を見れば判り切った事だ。
そんなものが人体を、直撃こそしなくても掠めればどうなるかなど、想像に難くない。

スカーの足が縺れ、その場に倒れる。それでもせめて弾丸から逃れようと、地面を転がって離脱し、起き上がる。
弾が掠った部分は食い破られたかのように削れて無くなり、傷の重さを知らしめるかのように血が噴き出した。
三つ、四つ、スカーの体を血の滝が赤く染めていく。

アン「スカー!」

そんな姿を見て、アンは堪らず叫び、駆け寄ろうとする。

スカー「来るなッ!」

それを、声を張り上げて制止した。アンは体を引き攣らせて止まる。

アンが「ガトリング・ドラゴン」の銃撃に晒されても無事でいるのは「安全地帯」のカードの効果によるものだ。それは、「そのカード」が「そこに留まる」のを条件にしている。
アンが動いてしまえば「安全地帯」の条件から外れてしまい、その効果が消失してしまう。だから何があっても、その場から移動してはならないのだ。

たとえここでスカーが命を落とそうとも、少なくともアンだけは生き残る。

スカー「来るんじゃない……!」

衝撃の痺れと激痛を堪えながら、声を絞り出してアンを止める。

アンの顔が歪んだ。悲しさ、悔しさ、恐怖、様々な負の感情を一度に噛み潰すかのような、泣きそうな顔。
アンが堪えている事を感じ取ったスカーは、改めて「ガトリング・ドラゴン」へと向き直る。
傷付いて尚も衰えないスカーの戦意は、ブラムの闘争本能を掻き立てた。

ブラム「その足ではまともに逃げられまい。だが、容赦はしない!」

ブラム「戦闘破壊はできなくともダメージは通る、「ブローバック・ドラゴン」で「グラッジ」を攻撃!」

続いて「ブローバック・ドラゴン」が、「グラッジ」へと向けて撃ち放った。

スカー「うおおおお!」

狙いは「グラッジ」だが、また流れ弾が当たってはたまらない。
痛みに悲鳴を上げる体に鞭を打ち、ふらつきながらも隣に転がった。

「グラッジ」が纏う炎に、「ブローバック・ドラゴン」が撃った弾は遮られる。
連続して更に銃声が轟くも、その殺意は「グラッジ」には届かない。

スカー「ハアッ、ハアッ……!」LP:3900→2800

息も絶え絶えに、ブラムを睨み付ける。生き残ったは良いものの、満身創痍の体は満足に動かせない。
取り分け銃弾を掠めた右腕と右脚は衝撃が響いているのか神経をやったのか未だ痺れ、痛みで震えるばかりで言う事をきかない。
何とか掴んでいた、と言うより動かない指に挟まっていた手札のカードも、零れ落ちていく。

ブラム「…………運の良い奴だ。その腕では、デュエルを続けられない」

スカーの様子を見たブラムが、熱気を奪われたかのように冷ややかに告げる。

ブラム「三分間、デュエルディスクに対する操作が無い場合、続行意思の放棄と見做され、デュエルに敗北する扱いとなる」

ブラム「だが、万が一にも命を落とすよりかはマシだろう」

その言葉に、スカーは歯を食い縛る。『カオスクロス』らしくない言葉だが、何よりも屈辱的だった。
憎き『カオスクロス』から情けを受けるくらいならば死を、などと戯言を言うつもりはない。
どのような形であれ手が届かず、膝を衝いてしまう事が悔しいのだ。

ブラム「バトルフェイズを終了し、そのままエンドフェイズ。俺は「パワー・ボンド」の効果で2600ポイントのダメージを受ける」LP:3200→600

ブラム「ターンエンドだ」


先攻:スカー / 手札:2 / LP:2800
恨…SS-グラッジ ATK/1200 DEF/1100 攻撃
□|□| □|□|□
□|□|恨|□|□

□|□|ガ|ブ|□
□|□| □ |□ |□
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/5200(2600) DEF/1200 攻撃
ブ…ブローバック・ドラゴン ATK/2300 DEF/1200 攻撃
後攻:ブラム / 手札:0 / LP:600


スカー「ぐうっ……俺の、ターン……!」

その怒りを糧に体を動かす。と言うのも願望に過ぎない。
落とした手札を拾う事はおろか、その指先は震えるばかりで摘まむ動作すらできない。
出血量も軽視できないレベルだ。このまま三分が過ぎるのが早いか、血を失って意識を無くすのが早いか、時間の問題だ。

だと言うのに、ピクリとも動かない右腕に、もどかしさと苛立ちばかりが募る。
遅れて、鈍い痛み。痛覚以外の感覚が無くなったような錯覚に陥る。

スカー「ぐううおおおっ…………!」


   *   *   *


スカーに「ガトリング・ドラゴン」の攻撃が当たった時。

アンは、気が狂いそうなくらいの不安に駆られた。

スカーを失ってしまう恐怖が蘇り、呼吸がどんどん乱れていく。
今すぐ駆け寄りたい。その傍に寄り添い、その後はどうなるのかなんて考えられない。とにかくそうしたかった。

だが、自分がスカーの傍に行って、何になるだろう。
ただでさえ手傷を負った状態で、ただでさえ足手纏いのアンが近くにいても、邪魔以外の何物でもない。
スカーを事を思えばこそ、信じて留まるしかできないのだと気付いてしまう。
アンは知らぬ間に唇を噛み締め、情けなさと絶望に由来する怒りに身を震わせた。

スカーのターンが訪れる。苦痛か、屈辱か、スカーは呻いた。
手足から夥しい血を流して、それでもデュエルを続けようとする。だけど、腕が動かないのだ。

腕。傷付いたスカーの腕。

アンは自分の腕を見る。スカーと自分の腕に、何か差はあるだろうか。
足の代わりにはなるまいが、腕ならば、代われるのではないだろうか。

アンは気付いてしまった。そして一切の躊躇いも無く、明確な安全圏を示す浮き出た地面から離れた。
「安全地帯」の効果適用外になったのか、何か軽いものが割れて弾ける音が聞こえた。

そのまま、自分にしてはしっかりした足取りで、スカーの傍へと寄る。
その事に気付いたスカーが叫んだ。

スカー「アン、来るな! 戻れ!」

アン「私もたたかう」

スカー「駄目だ!」

アン「たたかう」

スカーの前に立ち、はっきりと返した。
スカーが落とした手札を拾いながら言葉を続ける。


アン「私は何度も「スカーソルジャー」とデュエルしている。動かし方は知ってる」

アン「スカーが腕を動かせないなら、私が腕の代わりになる。助けられるのは私だけなの」

アン「私をおいてかないで、スカー」


そして真正面に、スカーと見つめ合う。面食らったような、普段のスカーからは想像できない、ちょっと面白い顔をしていた。
スカーに、自分の姿はどう見えたのだろう。

少し間をおいて、いつもの怒ったような顔に戻って、言った。

スカー「時間がない。ドローを、頼む」

アン「うん」

頷き、スカーのデュエルディスクを操作しやすいように、スカーに抱かれるようにして胸元に収まる。
スカーの血が付いた。荒い吐息が頭に掛かる。体の震えが直に伝わり、辛いのがよく分かる。

何も考えていない自分だけど、それでここにいる自分だけど、この人だけは失いたくない。
大切なもの。これが、守りたいと言う感情なのだと、アンは思い知った。

スカーの手札を左手に、右手でデッキトップを引く。

アン「私たちのターン、ドロー!」

ドローカードと、手札のカードをスカーに見せて判断を仰ぐ。
でもきっと、スカーと意見は一致する。この手札ならばスカーはこうすると言える自信があった。

スカー「分かるな、アン」

震えながら、強くスカーは尋ねた。

アン「うん。まかせて」

アンも力強く答えた。

アン「スタンバイフェイズに墓地の「ヴィンディクト」の効果発動!」

スカー「フィールドから墓地へ送られた「ヴィンディクト」が存在するスタンバイフェイズに一度だけ、手札を1枚捨てて、ライフを1000払って、ヴィンディクトを特殊召喚する!」LP:2800→1800 捨てたカード→「SS-グリーフ」

目の前に炎が燃え盛る。こんなに近い場所でこの炎を見るのは初めてだ。
スカーと視覚を共有できた事がどことなく嬉しく思うが、その気持ちは後で実感する。
ふわふわした気持ちのアンを置いて、炎の中から「ヴィンディクト」が飛び出した。

アン「特殊召喚に成功した「ヴィンディクト」の効果発動! ライフを1000払い、このカードを破壊!」LP:1800→800

出るや否や、さっそく炎に包まれる「ヴィンディクト」。その後ろ姿に後悔やアンに対する恨みなどは感じない。
勇ましく、仲間への勝利に身を捧ぐ精神に、尊敬の念を代わりに感じた。

アン「そして墓地から「ヴィンディクト」以外の「SS」モンスターを特殊召喚する!」

アン「たった今、「ヴィンディクト」の蘇生効果で墓地へ送られた「グリーフ」を特殊召喚!」

そして「ヴィンディクト」の炎から現れる、長身の戦士。
どことなく気だるげな印象があったが、近い場所で見る戦士の「スカーソルジャー」随一の長身は頼もしさを憶える。

アン「特殊召喚に成功した「グリーフ」の効果発動! 手札を1枚捨て、自分フィールドの「スカーソルジャー」モンスターの数×1000ポイントライフを回復する!」捨てたカード→「SSS-カウンター・ストライク」

スカー「俺たちのフィールドの「SS」は「グラッジ」と「グリーフ」の2体。よって2000回復する!」LP:800→2800

アン「「グリーフ」の効果で墓地へ送られた3枚目の「カウンター・ストライク」の効果発動! 1枚ドローして、ライフを1000回復!」LP:2800→3800

これで準備は整った。相手の手札にカードは無く、伏せカードは無い。墓地で発動できる効果も無い。

アン「メインフェイズ! いくよ、スカー。フィールドのモンスター2体をリリースして――――!」

「グラッジ」と「グリーフ」のヴィジョンが炎に包まれて消える。
その炎は一つの大きな炎に変わり、ごうごうと揺れて荒ぶる。
装置を経由したヴィジョンだと言うのに、不思議と熱くはなかった。
強いて言うなら、スカーに似た、優しさのような温かさを感じた。


スカー&アン「「SS-アヴェンジャー」、アドバンス召喚!」


炎が弾けた。

屹立する、仮面を付けた傷だらけの戦士。
仮面越しでも覗ける眼光は、強い怒りを宿す。
弾けた炎を吸収した髪は、その炎が燃えるように赤く輝く。

復讐の戦士がそこにいた。


「SS-アヴェンジャー」 炎 ☆8 ATK/1900 DEF/1900
戦士族/効果
このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。相手フィールドのカード1枚を選んで破壊し、自分のライフを1000回復する。
 ●ライフを1000払う。デッキから1枚ドローする。そのカードが「SS」モンスターだった場合、そのカードを特殊召喚できる。
 ●手札を1枚捨て、ライフを1000払う。相手フィールドの表側表示モンスター1体を選んで効果を無効にし、攻撃力・守備力を0にする。その後、このカードの攻撃力・守備力はフィールドのカードの数×300アップする。


ブラム「出たな、最上級モンスター! その下級モンスター程度の攻撃力で何をする!」

まるで挑発するようにブラムは叫んだ。ここまでのデュエルを見て、生半可なデュエルセンスではない事は分かっている。
これは侮っているのではなく、この状況で出すからこそ何かある、と思っての事だろう。

ならば望み通り、やってやろうではないか。

アン「召喚に成功した「アヴェンジャー」の効果発動! 3つの効果から、三番目の効果を選ぶ!」

アン「手札を1枚捨て、ライフを1000払い、相手フィールドの表側表示モンスター1体の攻撃力・守備力を0にする!」LP:3800→2800 捨てたカード→「SS-ヘイト」

ブラム「なにぃっ!」

アン「選ぶのは、「ガトリング・ドラゴン」! 「アヴェンジャー」、ソウルスティール!」

「アヴェンジャー」の右腕に光が宿る。その腕を、「ガトリング・ドラゴン」へと向ける。
その腕、指先から光が伸びた。光は「ガトリング・ドラゴン」に当たり、2体のモンスターを線で結ぶ。
途端に、「ガトリング・ドラゴン」の挙動が鈍った。その巨体を動かすエネルギーを、線を通して余す事無く「アヴェンジャー」が奪っているのだ。


「ガトリング・ドラゴン」無力化!


ブラム「ガ、「ガトリング・ドラゴン」の攻撃力が……!」

アン「その後、攻撃力・守備力をフィールドのカードの数×300ポイントアップする!」


先攻:スカー / 手札:0 / LP:2800
恨…SS-グラッジ ATK/1200 DEF/1100 攻撃
復讐…SS-アヴェンジャー ATK/1900 DEF/1900 攻撃
□|□| □ | .□. |□
□|□|恨|復讐|□

□|□|ガ|ブ|□
□|□| □ | □|□
ガ…ガトリング・ドラゴン ATK/0(2600) DEF/0(1200) 攻撃
ブ…ブローバック・ドラゴン ATK/2300 DEF/1200 攻撃
後攻:ブラム / 手札:0 / LP:600


スカー「フィールドのカードの数はモンスターのみの4枚、よって1200アップし、3100!」

力を得た「アヴェンジャー」の眼が、炎のように真っ赤に染まる。

アン「バトルフェイズ! 「アヴェンジャー」で「ガトリング・ドラゴン」を攻撃!」

攻撃対象を定め、その両腕に炎を纏い、「アヴェンジャー」は駆ける。
炎は地面を、空中を先に走り、瞬く間に「ガトリング・ドラゴン」を包み込んだ。

熱に体が溶け、動きが鈍る機械龍。
それを見上げながら、ブラムはスカーたちに聞こえない声で零した。

ブラム「これが、お前の執念か……」

そして清々しく笑い。

ブラム「迎え撃て「ガトリング・ドラゴン」! 全弾、撃ち尽くせエエエェッ!!」

その末路など構わず、死力を尽くす事を選んで、迎撃を命じた。

所詮は機械のモンスターで、更に言うならソリッドヴィジョンのプログラムだ。「ガトリング・ドラゴン」は従うしかない。
でも、アンの気の所為かもしれないが、「ガトリング・ドラゴン」は炎に包まれながらも、今までよりも一番激しく、銃身を回す。
左の首が溶けて消え落ち、右の首が動作不良を起こして爆発しても、最期の時まで、ブラムの心意気に応えるように。

もはやまともに動く部分など無いだろうに、それは意地なのか、残った真ん中の首が一発だけ、弾丸を放った。

「アヴェンジャー」はそれを真正面から拳で受け、殴り弾き返し。

その勢いのままに残った頭部を粉砕する事で、機械仕掛けの矜持に引導を渡した。


「ガトリング・ドラゴン」破壊!


ブラム「良い、デュエルだった――――」LP:600→0

燃え盛る「ガトリング・ドラゴン」の破片が降り注ぐ中で、ブラムは満足気に呟いた。



デュエルディスクに勝利の表示が現れ、アンは漸く気を抜いた。
何もしていない分際でどれだけ気を張っていたのか、その瞬間にどっと疲れが出た気がした。

スカー「…………うっ、ぐううっ!」

同じようにスカーも緊張を解いたのだろうか、痛みがぶり返したのか、悶えるように呻いた。
スカーが蹲るのを見て気付いたが、足元が血塗れだった。それを見るだけで、血の気が引くような感じがした。

アン「スカー! しっかりして!」

スカー「傷口をきつく縛ってくれ、血を止める……!」

言われた通りにボロ布を傷口の上にあてがい、その上から布できつく縛り付ける。
そうする度にスカーの悲痛な声が、手加減をするべきとアンの手から力を奪っていくが、スカーの言葉を信じて力の限り縛る。
元々あるのかないのかも分からないようなアンの腕力でちゃんと縛れているのかどうかはさておきとして。

一応の処置を終えて、ちらりとブラムの方を見る。

ヴィジョンの破壊から逃げもしなかったのか、直撃はしていないようだが、かなりボロボロだ。
スティールライドに寄り掛かるように地面に座り込んでいるのと合わせて、悲壮感が漂っている。

アン「逃げないね」

それを見て、スカーは立ち上がり、右脚を引き摺るようにしながらブラムへ近付く。アンも、自分なりにスカーを支えながらついて行く。
ブラムの傍に立つと、ブラムはおもむろに言った。

ブラム「…………敗者は、即ち死者だ。好きにしろ」

それは『カオスクロス』の信条、なのだろう。アンはなんとなく恐くて善意の通じない輩としか捉えていないので分からないが、散々自分勝手に相手に押し付けてきた事だけに、それをやり返される覚悟はできている、という事なのだろうか。

アンはゴクリと唾を飲み、スカーを見上げた。
あれだけ『カオスクロス』に対する復讐を掲げているのだから、こうなってしまえば迷わず命を奪うか、それに準ずる報復を行うだろう。
事実、ハンターの何某はアンが見ていない内に殺してしまったようだし。

当のスカーは、忌々し気に眉間に皺を寄せる。

スカー「俺の腕はボロボロだ。満足にカードも扱えない」

スカー「アン、こいつをどうするかお前が決めろ。お前がこのデュエルの勝者だ。お前がどんな選択をしようとも、俺は何も言わない」

そして、予想だにしない事を言った。

あのスカーが、事実上『カオスクロス』を見逃すと言ったのだ。
何か悪いものでも食べたのか、血を流し過ぎたか痛みかでまともに思考できていないのか、或いは「ガトリング・ドラゴン」の銃撃に晒され続けた事で精神を病んだのか、避けまくった拍子に頭を打ったのか。
兎にも角にも、スカーらしくない提案だった。

突然に生殺与奪の権利を与えられても、どうすれば良いのかなど分かりはしない。
取り敢えず、足りない頭の無い知恵を絞って、時間をかけないようにブラムにさせたい事を探す。

一〇秒ほどの思案で辿り着いたものを、そのまま口にした。

アン「あの街でみんなから取ったカードを返して」

アン「あと、もう悪いことはしないで」

今度はブラムが呆気に取られて目を見開いた。
この男にだけはその反応をされたくないが、不安になってもう一度スカーを見上げれば、苦笑いに似た顔をしていた。

ブラムは堪らず、と言った具合に吹き出して笑う。

ブラム「敵わないな。本当のデュエリストには……」

それから、何故だか嬉しそうにそう言った。
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