EP12　最強との遭遇　作：ター坊

遊季都達はキョロキョロしていた女の子を保護して、大会の会場に向かっていた。
「やまとちゃん、そのカバンかわいいね」
「うん！ととさまのおともだちにつくってもらったの」
こういう時、小さい子供同士は初対面でも物怖じせず仲を深められる。ほとんど竹子のおかげでこの女の子―やまとについて色々聴けたと言っても過言ではない。竹子との会話を聴くと、やまと は両親３人(何でも母親が二人いるらしい)と妹一人と来ており、５歳になった記念にここで行われるデュエル大会に出るらしい。遊季都達は迷子センターに行くことも考えたが、やまとが嫌がったため会場まで連れていくことにした。
「わたくしの ういじん だからね！ととさまとかかさまにがんばっているところを みてもらうの！」
「わたしも まけないよ！」
チビッ子デュエリストが盛り上がる中、保護者である遊季都達は盛雄のことを気にしていた。
「…竹子ちゃんにお友達が出来たみたいでよろしかったですね」
「うん…」
やはり傷心から癒えないのか、盛雄は浮かない顔である。
「…黒田さん。僕達は諦めてませんからね」
「赤崎君…。でもオイラは…」
「その為にここに来たんですから」
「え？竹子の為じゃ、なかったのかぁ？」
「まぁそれもそうですけど…あっ！あったあった」
会話している内に会場に着いた。

キッズデュエリスト大会とカラフルかつ可愛く装飾された看板―
デュエルモンスターズ関連のグッズが立ち並ぶ露店―

まるでちょっとした縁日だ。
「わぁ~きれー！」
「うん！」
「黒田さん、これですよ」
「んん？」
遊季都が盛雄を連れ出したのはこれが本命だった。露店の何軒かにシングルでカードを扱っている店があるのだ。
「どれも安いですわ…」
梓が言うように普通のカードショップよりも値段が安く、二、三割引き、中には半額くらいのものもある。
「はい。こういう小さい子供限定の大会イベントとかだと安く売られてるんですよ。これなら少ない予算でも黒田さんのデッキの強化に役立つカードが手に入ると思うんです」
「赤崎さん、素晴らしいお考えです。私も一緒に探しますわ。ですから黒田さん。デュエル甲子園、頑張りましょう」
「赤崎君…、白朧院さん…」
遊季都も梓も盛雄をチームから外すという考えは全くなかった。昔からスポーツの団体競技でOne for All,All for One (一人は皆の為に、皆は一人の為に)という精神があるが、二人はまさに All for One を体現しているのだ。
「じゃあ早速…あれ？」
遊季都達が店を覗いた時、売り場がおかしかった。まるで虫食いのように所々売り切れていたのだ。しかも売り切れてるのはどれも高額で有用なカードばかりである。それに首を傾げる遊季都達を見て、店主が申し訳無さそうに声を掛ける。
「うーん、ごめんね。実はさっき大量に買っていった人がいてね…」
「そう…ですか…」
「買い占め、ですわね…」
「ひとりじめはダメだとおもう！」
本来の目的は親が子供にねだられても気楽に買える、資産の少ない子供でも手頃な価格で強いカードを入手できる、そんな家族向けの価格設定なのだろう。無論、今回の遊季都のように安さを利用する者もいるが、安く良い物に惹かれるのは人間の性(さが)、それを責めるのは酷である。とはいえ、他人が買えない程に独占するのは明らかにやり過ぎだ。
「そうですね…。とりあいず、あるカードからだけでも…」
遊季都が虫食いの売り場を眺めているとイベントの賑やかさとは異質な喧騒が耳に届く。
「あっちは確か、大会をやる会場…」
「何の騒ぎでしょうか…」
遊季都達はその騒ぎの方向へと足を向けた。





「お客様、他の方のご迷惑になるので…」
「うっせぇんだよ！！」
遊季都が駆けつけた時、そこには傍若無人な振る舞いの３人組がいた。
「俺達はデュエル甲子園の常連、輝筑波(きちくば)高校だぞ！」
「おうよ！その最強の三羽烏たぁ俺達のことよ！」
ギャギャー喚き立てる声に会場にいる子供もその保護者も怯えている。係のスタッフも止めさせようとするが、全く聞く耳を持つ様子もない。
「俺達は武者修行したくて来たのになんだ、このガキのイベントはよぉ！」
「デュエルはお遊戯じゃあねぇんだよぉ！」
会場に響く怒鳴り声にすすり泣き始める子も出始めた。
「あんな下品な人達がデュエル甲子園の代表チームなんて…許せませんわ」
デュエルにおいて礼節を重んじる梓にとっては許容範囲を大きく越えた蛮行なのであろう、怒りに任せて怒鳴りこもうとした時だった。
「まちなさい！」
人混みから幼く力強い声。
「や、やまとちゃん！？ち、ちょっと通して下さい」
いつの間にか遊季都達の目からすり抜けた やまとは、不良三羽烏の目の前で抗議し始めた。明らかにマズイと思った遊季都は人混みを掻き分けて進む。
「なんだぁこのガキ？」
「みんなで たのしく あそぶのが デュエルモンスターズよ！それなのに みんなが たのしくないこと しちゃダメよ！！」
やまとが言うことは至極簡単ながらも最も尊ぶべきデュエルの姿勢である。お互いに競い戦うも、怒りや罵りはなく、純粋に楽しみ、全力で戦った後に笑い合って気持ち良く終わる、それが理想のデュエルであろう。
「そ…、そうだ！」
「ひとりじめしたカードをかえして！」
やまとの言葉に勇気づけられたのか、すすり泣いてた子供の何人かも抗議に参加し始める。
「うっせぇんだよ！んなもんはお子ちゃまの発想なんだよ。デュエルは相手を叩きのめしてなんぼのゲームなんだよ！」
「買い占めだって強くなる為にやったんだよ！てめぇらガキはザコカード並べてガキ同士遊んでろってんだ！」
「おにいさんたちは そんなことして うれしいの！？」
全く聞かない三羽烏にやまとの声も強まっていく。
「こんの、クソガキ！」
「ま、待ってください」
そこに遊季都が割って入る。今までの遊季都であれば考えられない行動だが、ここ数週間の人との関わりあいのおかげで、こういう積極性も多少出てきたようだ。ただ…
「あぁん？なんだテメェ？このガキの兄貴か？」
「い、いえ、そういう訳じゃないですけど…」
ホントに多少で、前に出てきたもののすぐに言葉に詰まる。
【うわっ、遊季都くんダッサーイ】
【ま、主にしてはやった方でありますな】
【遊季都、変】
テレパシーで悪魔達から総ツッコミを食らってしまう。
「で、何の用だテメェ！？テメェがそのガキの代わりに殴られるってか！？」
三羽烏の一人が拳を大きく振り上げる。
【遊季都、わたしの能力使う】
チャーハンが能力の使用を促す。
【ええっと…どうやるの！？】
【何処を固くするか考えながら〔地獄の鉄鋼〕って念じる】
【えっと…〔地獄の鉄鋼〕！】
「この野郎！」
その拳は遊季都のこめかみやや上辺りに決まるが…

ｸﾞｷｬ

人間が全力でボーリングの球のような鉄の塊をぶん殴ったらどうなるか？
「あ゛っ、あぁ…！」
殴った三羽烏の一人が手を抑え声にならない呻き声を挙げながらのたうち回る。
「あれ？痛くない…」
【当然。人間のパンチ程度じゃびくともしない。むしろあっちの骨が砕ける】
【えー！？】
「テメェ！よくも！」
三羽烏の残った二人が遊季都にガンを飛ばす。
【ど、ど、どうしよう！怪我させるのもアレだし…】
【良いんじゃない？コイツらク ズみたいだし】
遊季都があたふたしていると人混みから誰か出てきた。
「あっ！ととさま~！」
「大和ここにいたのか！全く…まぁ、何もなさそうで良かった」
どうやら大和の父親のようで、自分の娘の頭を愛しそうに撫でる。マスクとサングラスで顔はよく分からないが、何処かで見たような気がすると遊季都は思った。
「あの…」
「ん？君は…」
「ゆきと おにいさんです！ここまでつれてきてくれたんですよ」
「そっか。…娘がどうもお世話になりました」
「い、いえ…。やまとちゃん、お利口さんでしたよ」
和やかに話していると
「テメェ！俺達をシカトすんじゃねぇよ！」
三羽烏が再び絡んでくる。
「ん？その連中は？」
「ととさま！あのひとたちはわるいひとなの！」
「悪い人？」
「みんなのデュエルたいかいをできないようにしたり、そとのおみせのカードをひとりじめしたりしたの！！」
「そっか。それは確かに悪い事だな」
「へっ！なーにが悪い事だ。強いカードを集めて何が悪いってんだよ！」
「ほう…。まぁ、強くなりたいというのは当然だな。だが、そんな横暴で手に入れた強さに何の意味がある？」
「あぁっ！？何言ってんだよ、コイツw」
「おい、だったらデュエルしろよ。俺様の強さを分からしてやるからよぉ」
「へぇ…」
「ととさまはせかいいちのデュエリストよ！ぜったい負けません！」
「あっはっはっはっ！パパさんは最強かー。いいぜ？かるーく捻ってやるからよぉ？」
「フム…。たまには娘に生でカッコイイところ見せてやるか。ただデュエルディスクが…店員さん！」
やまとの父親は店員を一人呼びつけヒソヒソと話し始める。
「はい」
「大人用のレンタルデュエルディスクってありませんか？」
「いえ、今日は子供用しか…あ、でもティーチング用のものなら」
「ならそれを貸してくれませんか？」
「ええっと…」
「申し遅れましたが俺、こういう者でして…」
そう言って大和の父親は店員に財布から取り出した免許証のようなものを見せる。それを見て店員の表情が鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていく。
「あ、貴方様は…！」ｶﾞﾀｶﾞﾀ
「このイベント盛り上げ直すの手伝いますから。それと何よりあそこまでやってデュエルディスク無くて出来ませんって娘の前でカッコ悪いですし…ね？」
「か、かしこまりました！少々お待ちを！！」
店員は声を裏返しながら全速力でデュエルディスクを取りに行き、ものの数十秒程で戻ってきた。
「どどど、どうぞ！」
「ありがとうございます」
「ととさま！がんばって！」
「ああ、大和。とと様のカッコイイところ、ちゃんと見てるんだぞ？かか様達とな」
やまとの父親が目線をあげると人混みから母親と思われる女性、背の低い女性と大和よりも小さい女の子、それに続いて梓と盛雄、竹子もやって来た。
「かか様！」
「大和、勝手に飛び出してはいけません！他人様にもご迷惑を掛けて！」
「へぅ…」
「まぁそう言うなって。…じゃあ、大和を頼む」
「はい」
大和の父親は妻であろう女性と言葉を交わし、いそいそとイベントのメインステージに向かう。
その間、残された遊季都達は大和の家族と話す。
「母の遊月(ゆづき)と申します。私の娘がとんだご迷惑を」
「いえ、気にしないで下さい」
遊季都達に深々と頭を下げる大和の母親―遊月はお尻辺りまで伸びた黒い絹のような美しい黒のストレートロング･服の上からでも分かるほどの抜群のプロポーション･女子高校生と言っても遜色が無い、子持ちとは思えぬほど若々しい顔･全体の雰囲気は大和撫子の姫君か令嬢といった魅力溢れる女性だった。
「それにしてもあの方、大丈夫でしょうか…。いくら無頼とはいえデュエル甲子園の出場者ならばかなりの腕のハズですわ…」
「それなら全然問題ないね」
「パパ…つよい」
梓の心配を否定するのは大和の母親よりもぐっと小柄な女性だった。ピンク髪をサイドテールで結い、幼さが残る顔をし、ゆったりした大和の母親に対して動きやすいイマドキな服装をしていた。その女性にくっつく女の子は
「やまと ちゃんのいもうと？」
「うん！いもうとの ひなり っていうの！」
「おねえちゃん…そのこだれ？」
「おともだちになった たけこちゃん！いっしょにたいかいにでるのよ！」
子供がワイワイ盛り上がる中、保護者組は
「もしかして二児の…」
「いえいえ。雛里は美羽(みう)様の子でして」
「ほぇ？ん？どうなってんだ？」
盛雄も遊季都も梓も首を傾げてしまう。最初、大和からの話では二人の母親と言っていたが、凄く仲の良いママ友という認識だった。しかし、遊月の話を聴くとどうやら前へ出て行った大和の父親は二人の夫のようで…、でも二人の女性と結婚は出来ないし…と整理がつかない。
「まぁ珍しいって言うか、一般じゃありえないよね」
「私達は特別に一夫多妻が認められてるんですよ」
「ええっ！？」
一夫多妻制ならば今も遠い外国の一部では認められてるところもあるし、昔の日本だって大名が複数の女性と関係を持つこともあった。だけど今時…
「あの…。遊月さんと美羽さんの旦那さんって一体…」
「みんなも聞いたことがある筈の名前だと思うよ？」
美羽はフフンと得意気な笑みを浮かべてそう答える。



一方ステージで大和の父親と輝筑波三羽烏の一人が今まさにデュエルしようとしていた。
「おいおいパパさんよぉ。恥かく前に降りたらどうよ？」
「あいにく娘と妻の前で逃げる姿は見せたくなんでね」
「けっ…。ほざいてろよ。デュエル甲子園出場常連校、輝筑波の斉藤様の実力を見せてやる！」
「輝筑波…。あー、あそこのか」
「おうよ！テメェは何処のどいつだぁ？」
「名乗るのが礼儀か…」
大和の父親はマスクとサングラスを外す。
「ん？テメェどっかで見たことが…」
斉藤をはじめ、三羽烏が眉を細める。





「風峰 遊路(かぜみね ゆうじ)。たぶん知ってるだろ？」