第３０話　顕現、頂のデッキ　作：提馬風

穢土川「……」

奈良「おい、黙ってんなよ」

穢土川「……ヘッ」

奈良「……チッ、なら力ずくで喋らせてやる！ あたしのターン！」ﾋﾞｼｲｯ

奈良（……時には、諦めも必要か）

奈良（……勝負は、諦めないけどね）

奈良「手札を1枚捨て――速攻魔法『超融合』！！」

穢土川「グヒィ！？」

奈良「あたしが融合するのは、月光舞猫姫とあんたのレッド・デーモン・アビス！
　　　月明かりに舞い踊る美しき野獣よ、深淵より解き放たれし魔王よ！
　　　月の引力により、地獄の底から新たな脅威を呼び起こせ！
　　　融合召喚！ 現れろ、飢えた牙持つ毒龍！ 『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』！！」

スターヴ・ヴェノム「グゴォォォ！！」☆8 ATK2800

奈良「スターヴ・ヴェノムが融合召喚に成功したことにより、効果発動！
　　　相手フィールドの特殊召喚されたモンスター、レッド・デーモン・ベリアルの攻撃力を自身に加える！」

スターヴ・ヴェノム「グゴォォォ！！」ATK6300

奈良「これで攻撃力差は2800……終わりだ！
　　　手札を1枚伏せ、バトルフェイズ！
　　　スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンで琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアルを」

BATTLE PHASE

穢土川「……ヒヒヒィィ！！」ﾋﾞｼｯ

発動:威嚇する咆哮

奈良「くっ……攻撃宣言を封じるトラップか！
　　　ならどうしようもない……私はこれで、ターンエンドだ」

スターヴ・ヴェノム ATK2800

EDGAWA LP2500 手札2
NALA LP500 手札1

穢土川「……ヘッ」

デッキトップに手をかざした穢土川が、不敵な笑みを浮かべる。
そして、そのデッキは妖しげな光をぼんやりと放ち始めた。

穢土川「……ククク。我を止めるのも、我の口を割るのも遅かった」

穢土川は、気味悪いほど理性的に話し始めた。

穢土川「これもまた、束の間の理性だ。貴様の絶望することだけを話そう。
　　　我らはここで闘った。それは、ミィ……我の真実である我を復活させるための儀式。
　　　知っていてきたのだろう……？ ここには『頂のデッキ』があると……！」

奈良「っ！？」

吠えるように穢土川が言い放ち、奈良はそれに気圧される。

穢土川「そう……我は選ばれたのだ。そして、貴様の仲間を見たまえ」

奈良「仲間……？」

奈良は疑うように左右を見た。
その目に映ったのは……今の穢土川のように豹変した舩城とエルヴィラだった。

奈良「なに、こ、れ」ｿﾞｸ

穢土川「望み通りだろう。彼らは『頂のデッキ』を手にしたのだから……！
　　　気の毒に、貴様は選ばれなかったがな……」

奈良「……テメェ！ 『頂のデッキ』ってのは何なんだ！？ エルストローム対抗するための最終兵器じゃねぇのかよ！？」

穢土川「哀れだ、実に哀れだ。選ばれなかった者の嫉妬よ。
　　　『頂のデッキ』の何たるかは貴様の眼で確かめよ。
　　　だが……特別に、1つ種明かしをしてやろう」

奈良「何の種だ……言え！！」

穢土川「ククク……これらは全て、岩代傷一によるエルストローム復活の布石に過ぎないということよ！！」

奈良「傷一……やっぱりスカーの奴と繋がってるたか……」

穢土川「貴様らが目にしたであろう、シンバ・プライドの極秘情報は、他でもない……前社長・岩代傷一が仕掛けた罠だ。
　　　あたかも希望の光のように見せかけて、それは絶望へと整備された道に過ぎなかった……」

穢土川「この戦いが終われば、我らミィの下僕はこの世界に解き放たれる。
　　　そして我らがミィが目覚め……貴様らの世界へと赴き……」

奈良「全て……灰になる……」

穢土川「その通り……！ さあ我らの力を前にして消し飛ぶがいい！！
　　　我らであれ！ 我らとなれ！」

穢土川の叫びとともに、穢土川のディスクが、穢土川の腕が、穢土川の顔が、変質していく。
いずれ区別なく、全ては1つになる。
見覚えのある格子構造。それは、彼らが1つの存在として、化物の下僕となる証。

穢土川「我のターン……ドロー！！」ｽﾞﾘｭｳ

穢土川「スタンバイフェイズ、メインフェイズ。
　我はダーク・リゾネーターをリリースし、レッド・デーモン・ベリアルの効果発動！」

奈良「なら、それにチェーンして『禁じられた聖杯』発動！
　　　対象は……月光黒羊！」

奈良「そして、ムーンライトが効果の対象になった時、墓地から月光紅狐を除外！
　　　禁じられた聖杯は無効となり、お互いにライフを1000回復する！！」LP1500

穢土川「我はレッド・デーモン・アビスを特殊召喚！」LP3500

レッド・デーモン・アビス「グルアァーッ！！」☆9 ATK3200

穢土川「バトルフェイズ！ レッド・デーモン・アビスで月光黒羊を攻撃！
　　　『アビス・レイジ・バスター』！！」

奈良「その攻撃は通す……！」

穢土川「手札を1枚伏せ、ターンエンド！」

奈良「スターヴ・ヴェノムの効果が恐ろしくて攻撃できないか……」

奈良「あたしのターン！！」ﾋﾞｼｯ

奈良「そっちから来ないってんなら自爆特攻するまで！！
　　　スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンでレッド・デーモン・アビスを攻撃！」ﾋﾞｼｯ

スターヴ・ヴェノム「グコオオォォ！！」

『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』は、『琰魔竜 レッド・デーモン・アビス』に向かって尻尾を振り下ろす。


――次の瞬間、その攻撃を遮るように、穢土川の伏せカードが妖しく輝き出した。

穢土川「……トラップ発動。エルストロームの顕現！！」

奈良「エルストロームの顕現……だと！？」

穢土川「レッド・デーモン・ベリアルを対象として発動。レベル10のエルストローム1体をデッキから除外する。
　　　我が除外するのは、『エルストローミィ・ケルベロス』！！」

エルストローミィ・ケルベロス
獣族／プロセス／効果
破壊された闇属性モンスター
このカード名はルール上「エルストローム」カードとしても扱う。①：このカードがプロセス召喚に成功した場合に発動できる。レベルの合計が１３になるように、自分フィールドの他のモンスターを選んで破壊する。相手が次に受けるダメージは、この効果で破壊したモンスターの数×３００アップする。②：このカードが破壊された場合、自分の墓地のモンスター１体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、そのモンスターのレベル×１００ダメージを相手に与える。
攻撃力 2700　守備力1200

穢土川「エルストロームの顕現の対象となったモンスターは破壊される。よって、琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアルを破壊！」

穢土川「そして、破壊された闇属性モンスター、レッド・デーモン・ベリアルの魂が昇華する！」

奈良「魂が、昇華……プロセス召喚！！」

穢土川「闇の底より響き渡るは、我らが真相の代弁、あるいは重なり合う咆哮。
　　　プロセス召喚、レベル10。エルストローミィ・ケルベロス！！」

ケルベロス「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛！！！」☆10 ATK2700

『琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル』は醜く歪み、やがて格子構造に冒された三頭一体の番犬へと変貌した。

穢土川「プロセス召喚成功時、エルストローミィ・ケルベロスの効果発動。
　　　自分フィールドのモンスターを、レベル合計が13になるように破壊する。
　　　我はレベル9のレッド・デーモン・アビス、レベル3のダーク・リゾネーター、レベル1のシンクローン・リゾネーターを破壊する」

穢土川「それにチェーンしてレッド・デーモン・アビスの効果を発動し、このターンの間、スターヴ・ヴェノムの効果を無効にする」

ケルベロス「ヴヴヴッ！！」

『エルストローミィ・ケルベロス』が唸った途端、穢土川の他のモンスターは全て灰と化した。

奈良「何のつもりだ……？」

穢土川「破壊されたシンクローン・リゾネーターの効果発動。ダーク・リゾネーターを墓地から手札に加える」

奈良「攻撃力は2700……なら、攻撃続行！ エルストローミィ・ケルベロスに攻撃！！」

『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』は翼を展開し、毒々しい色のビームを放った。
それを受けた『エルストローミィ・ケルベロス』は、灰となって四散する。

穢土川「……」LP3400

奈良「どういうつもりだ……？
　　　こっちがスターヴ・ヴェノムの失わなかったどころかテメェのフィールドは更地になった……」

穢土川「……そうだ、更地だ。
　　　全ての地は灰と化し、鼓動が止まる。つまり……終わりだ」

奈良「……終わりだと？」

穢土川「破壊されたエルストローミィ・ケルベロスの効果発動！
　　　墓地よりレッド・ライジング・ドラゴンを除外し、そのレベル×100ダメージを相手に与える！」

奈良「何が終わりだ。悪あがきか？ たった600ダメージを受けたところで、まだ……」

穢土川「エルストローミィ・ケルベロスのプロセス召喚成功時の効果には続きがある。
　　　『相手が次に受けるダメージは、この効果で破壊したモンスターの数×300アップする』、という効果が！」

奈良「破壊されたモンスターは……3体。900のダメージアップ！！」

穢土川「そうだ。よって、1500のダメージを与える！
　　　その愚かな攻撃宣言が自らの破滅を招いたこと、永遠に後悔せよ……！！」

奈良「っ……アアアァァッ！！」LP0

WINNER EDGAWA