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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第一話 デュエルアカデミアと、伯浪遊李

第一話 デュエルアカデミアと、伯浪遊李 作:でんでん

 「なんだ……ここは」
 そこは、淡い緑を帯びる深い霧の中であった。何のあてもなく歩くにはあまりにも視界が不明瞭で、しかしどこへも行かず立ち止まるにも剣呑な場所であった。
「俺は確か……なんかしてたような気がするんだが」
 彼はどんどんと前へ向かう。右へ、左へ、後ろへ、そんな思考は彼に生まれなかった。その理由は不明であるが、とにかく前へ行く以外の考えが浮かばなかったのである。
 どこからともなく、声が聞こえる。彼はその声をぼんやりと聞いた。

「七人の……英雄……彼らは……来る。しかし一人……原罪……散らばった……なるまい……集めねば、なるまい……」

 声は次第に遠ざかっていく。遠ざかっていく。意識とともに、遠ざかっていく――


*
 
 デュエルアカデミア特区校高等部、始業式を終えて約一週間、中等部からの進級と新規の入学者たちがようやく馴染みはじめた頃。それはつまり、入学生と中等進学によるデュエルが次第に行われるようになったということでもある。
 十六歳のデュエリスト、伯浪 遊李(おさなみゆうり)は中等部からの進学だった。赤く刺々しい奇抜な髪型に、緑の線が走り、前髪には黄色いメッシュをかけている。人は彼の髪型を、親しみと温かみを持ってこう呼ぶ。信号。
 食卓である大きな机で朝食を取る彼の隣には、背中の半ばまで伸びる豊かな茶色のロングヘアーに、アンテナの如く空を突き刺すアホ毛と、三日月の形で目に掛かる緑色の前髪を生やした女性が座っていた。この世界では、いかなる髪型でさえも可能とする極めて腕の良いスタイリストが存在しているのである。通りで見かければ目を引きそうな少女だが、それはこの大胆不敵な髪型のせいばかりではない。細身でありながら若干筋肉質な体つき、猫のように大きく丸い、人懐こそうな瞳。可愛らしく閉じられた蕾のような唇。この気怠そうな信号少年には似合わない、絶世の美少女であった。
 彼女の名は、如月 葵。彼の中等部時代の友人である。

「こら、遊李! もうこんな時間よ? 遅刻、遅刻! 早く行かないと先生に怒られちゃう」
「また来たのか、お前。わあったよ、遅刻なんだろ、遅刻」
「慌てなさいよ少しは!」
「でも、俺待ってるとお前も遅刻しちゃうから先に行ってていいよ!」
 
 遊李はそう言うとベーコンエッグを載せたパンを神経質にも端からハムスターのように齧っていった。当初は遊李を待つ腹づもりであった葵も、彼の落ち着きに痺れを切らし、信号頭を思い切りパシンと叩いてから、カバンを抱えて家を出ていった。

「あーあ、行っちゃった。さて行くか」

 ゆっくり立ち上がると遊李はカバンに教科書、筆記用具、弁当、ディスクなどを詰め込んで肩に掛けた。青を貴重とする特区校の制服を着込んだ彼に、食器を片付けるため居間へ立ち寄った少女――伯浪家の長女、中等部三年の伯浪聖子が、まるで刺々しい口調で話しかけた。

「お兄ちゃん! 何時だと思ってるの。お兄ちゃんが遅刻したら私が恥ずかしいじゃない!」
「誰がお前の羞恥心のために学校へ行くんだ」
「っ! さ、最低! 馬鹿! はやくいけっ!」
 
 妹の色々入ったカバン投擲を華麗に避けて家を出る。閑静な住宅街の端に建てられた一軒家で、多少年季が入っているものの高校生一人と中学生一人、そして70の祖父が住むには十分な広さがあった。
 彼が家を出た途端、斜め前に建てられた電柱の影に隠れて、如月が奇妙な姿勢で伯浪家の玄関を見つめていた。彼女の右足が学校へ向いていることから、登校したい衝動となんとか戦っているのだろう。葵は遊李を見るなり「遅い!」と怒鳴って学校へダッシュした。
「はぁ……世話焼きなやつめ」
 溜息をつきつつ、少し嬉しそうな表情を浮かべながら遊李はその後に続いた。


「いそげいそげ、後五分!」
「そう急ぐなって。転んでスカートがめくれんぞ」
「ばっ! ちょっ!」
「おい、転ぶぞ」

 遊李の無遠慮なのか遠慮してるのかよく分からない発言に葵がつまづきかける。実際、彼女のスカートはあまり長いとは言えなかった。

「なんでそんな短いんだ?」
「毎朝遅刻するあなたと一緒に走るためよ!」

 息を荒げながら遊李と並走する葵。しかし、その発言の意味に気づいた途端、薬缶の沸騰音がなりそうなほど顔を真っ赤にして手で覆った。

「世話焼き……ん、どうした」
「うるさいうるさい! もっと早く走れ! 全力!」
「いや、全力なんだが!お 前が早すぎるんだよっ」
 如月葵の筋肉質な体は、陸上部に所属しているためであった。陸上部のメニュー「36時間ランニングデュエル」を一週間もこなせば、彼女のように見事なスピードでアスファルトを蹴りながら風のように走ることなど、詰めデュエルより容易であろう。



「はぁ……はぁ……とうちゃーく、ギリギリセーフ。タイムいくらかしら」
「てめ……あの後ほんきだしやがって……おえ……」
 間に合うか間に合わないかの瀬戸際で陸上部のいらない本能を出した葵に引きずられ、嘔吐寸前の遊李は、ふらふらとよろめきながら自分の席についた。と、そこへ恰度よく、彼らの担任である阿久根 彦由が教室へ入ってきた。
「はい、ホームルームやるので席に……皆ついてるな。よしじゃあ今日は三時間目、四時間目を三クラス合同でやるぞ。デュエル実習だ」
 それを聞いた途端、生徒の半数は心のなかで喜びの声を上げた。デュエルに関する授業、特に実戦は喜ばれる傾向にある。傾向にある、というのは、つまり、皆が皆一様に喜ぶわけではない、ということだ。伯浪遊李もまた、デュエル実習を快く思わぬ生徒の一人であった。




「バトル! 俺は《動く石像》で《きのこマン》に攻撃! これで終わりだ!」
「うわあ!」

 遊李のライフポイントが0になり、デュエルディスクのディスプレイに YOU LOSEの文字が表示される。遊李の相手が半ば呆れたように言った。

「おい遊李、おまえどんだけ弱いんだよ。大丈夫か? デッキカウンセラでもしてもらったらどう?」
「いやいいよ……はは、ごめんな。手応え無くて」

 諦めた顔をする遊李を蔑むような目で見てから、カードをデッキにしまうと他の対戦相手を探しにその場を離れた。一人残された遊李は、周囲で繰り広げられるデュエルをぼんやり眺めながら、カードをしまっていた。
 デュエルアカデミアの施設、デュエルスタジアムである。普通の学校で言うところの体育館で、実習のような大人数でのデュエルやアカデミアの大会などのイベントで使用される。そのため、コロッセオのようにスタジアムの周囲を丸い椅子がいくだんも重なって取り囲んでいた。
 フィールドを離れようとした遊李に葵が近づき、どん、とその肩を小突いた。 
「いて。なんだ」
「なんだ、じゃないわよ。デッキ見せてみなさい」
「あ、ちょ」
「……何このデッキ。半分以上が通常モンスター、しかも皆攻撃力2000以下。魔法も罠も関係のないカードばっかり。こんなんじゃ百回やったって勝てないわよ」
「通常モンスターデッキだよ。ほら、最近流行りだし」
「へえ。通常モンスターデッキに、《回数剣》が入っているのは何故かしら?」


《回数剣》
装備魔法
(1):このカードは攻撃力1000以下のモンスターにしか装備できない。
(2):このカードを装備したモンスターは、1ターンに2度まで自身の効果を使用できる。


「適当に入れたでしょ」
「う、うるさいな。ほら、お前もあっちいってデュエルしてこい」
「ちょ、なによそれ!」

 むくれる葵を放置し、遊李はさっさと別のデュエリストを探しに行ってしまう。実習では最低でも五人、デュエルしなければならなかった。彼の弱気な後ろ姿を眺めながら、葵は溜息を付いてかつての遊李を思い出す。以前の彼は、適当に組んだ寄せ集めのデッキで、だらしなく戦うような体たらくではなかった。どんなカードでも最大限有効に活用する、真のデュエリストであった――


 学校が終わり、先に帰ると言った葵の、珍しく元気のない姿がどうにも気になりつつ、「あいつが世話焼きだからと言って、自分まで世話焼きになる必要もない」と考え少し机の中を整理してから、遊李は学校を出た。運の悪いことにデュエルの様子を阿久根先生に見られ、その適当さを咎められたためにデッキを再構築し、職員室まで持っていかなければならず、彼はデッキを机に丁寧にならべ、デュエルアカデミア生が授業でのみ使用可能であるレンタルカードを一枚ずつ確認しながらデッキを組み替えていた。レンタルカードを使用したデッキは自宅へ持ち帰ることはできないが、カードの購入すら厳しい貧困層には便利な代物である。
「あーあ。どんなデッキだったら納得するんだろ。とりあえず、昔本気で作ったデッキを半分入れ替えて持っていくか」
 彼は半ば面倒くさそうにデッキを作ると、ズボンのケースに入れて職員室まで走った。しかし職員室に先生はおらず、少々イライラしながら学校を回ることとなった。この学校、デュエルアカデミア特区校は広大な敷地を有している。メインのデュエルスタジアムの他、生徒向けに自由に開放してあるデュエルゾーンが二つ、旧デュエルスタジアムが一つ、カードデザイン科向けの別棟、システム科向けの別棟など、デュエルを学ぶに最適化された環境が整っている。その分広さも相応になってしまうため、すべての教室を回るには二十分以上も有するのである。
 厳重なセキュリティ下にあるカード保管庫、データベースなどの一部の部屋を除いて徹底的に探索したが、先生は居なかった。

「どこいっちまったのかなあ」

 そうぼやきながら、彼は旧デュエルスタジアムへ向かった。現在使用されているデュエルスタジアムの半分ほどの広さで、数年前まだ本校の生徒数が少なかった時分に使用されていたものである。いくら旧式とはいえ、かつて観戦や試験などに使われたデュエルスタジアム、音響もソリットビジョン画質もスタジアムよりずっと良い。スタジアムと異なって使用に許可は必要であるが、多くの生徒達はこのデュエルスタジアムでのデュエルを希望する。
 遊李が旧スタジアムの前にやってくると、ドアの上部に設置されたランプが点灯している。使用中の印である。

「誰だ? 新年度一週間でここ使ってるような奴は」
 
 防音のために分厚く作られたドアを開く。妙に薄暗い室内から、デュエルはすでに終わっているか、始まっていないかの何れかであると思って、ドアの側にある観戦用のライトをつけるボタンに手を伸ばした。
 ぱっ、ぱっ、と手前から順に明るさが連なっていく。そして中央のひときわ大きいフィールドには、180cm近くの巨体を揺らす男と、膝から崩れ落ちようとしている少年だった。その雰囲気から見て年齢差がありそうなものだが、制服から互いに一年であると言うことが察せられた。

「ぐ……あ……」
「お、おい! どうした!」

 驚いた彼が駆け寄るも、すでにこの少年は意識をなくしているようである。彼の足元にはカードが幾枚も散らばっていた。

「なんだ……おい、そこのアンタ! 保険医を呼んでくれないか? 凄い傷……だ……」
 彼は少年の傷を見ながら、顔をさっ、と青くした。奇妙なことに、遊李はその独特の傷に見覚えがあった。意識を失った少年から、仁王立ちでデュエルディスクを展開している男へ、ゆっくりと視線を移した。

「サイコ……デュエリスト……」

 男はニヤリと笑う。「おいおい、突然やってきたかと思ったら、なんだよ。変なやつだな。サイコデュエリスト? そんなのいやしねえよ。それから、そこをどけ

「な、なんでどく必要がある。早く手当を」
「駄目だね。そいつとはデッキを賭けたデュエルをしている。そんで、勝者は俺。わかるか?」
「アンティデュエルだ? 校則違反だぞ!」

 彼はせせら笑うと、そんなルール知るか、と言って気味の悪い笑みを浮かべた。
 彼はデュエルディスクを畳むと、遊李達に向かって近づいた。明かりを遮るほどの体格は、近づくたびいっそう威圧的に感じられた。

「どけ。そいつのカードをいただく」
「……」

 遊李は黙って少年の近くに片膝をついたまま俯く。彼の意思が折れたか、或いは恐怖で沈黙を保っていると感じた男は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、少年に近づくとカードを拾い集めようとする。
 しかし、遊李がその手を力強く握った。

「おい、やめろ」
「……」
「やめろ、って言ってんだ」

 飴色の瞳で遊李は男を鋭く睨む。彼はさらにニンマリを笑みを浮かべて――遊李の腹を思い切り蹴った。

「ぐはぁッ!」

 みぞおちに本気の足蹴りを食らった遊李は、数センチ地面から浮いたかと思うと、そのまま地面に倒伏する。視界が淀んでいく。頭が潰れるような感覚がする。腹部に寒気と熱が交互に押し寄せ、絶えず喉を登る吐き気に体が融けてしまうような気がした。意識が、落ちていく。
 


 こいつ、まじ気持ちわりいなあ。絶対デュエルするもんか。

 でた、化物デュエリスト。カード破っちまえ。
 
 お前、まじでうざいんだよ。おいこいつのこと蹴っちまおうぜ。

 マジョの仲間は火あぶりだ……アハハハ……







 男はカードを拾うと、ベルトに装着されたデッキケースに収納する。
 そして電気を消し、その場を後にしようとした、その瞬間。

「おい」

 無機質な声が彼を呼び止めた。あん?と返答して後ろを振り向く。
 そこには、先程気絶させたはずの男が立っていた。

「……俺と、デュエルしろ」
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