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虹彩竜と歩むもの/第58話:提案 作:光芒






「勝った?……わたしの、勝ち?」

 沸き起こる大歓声に戸惑いの様子を隠せない鈴音。そんな鈴音の下に真っ先に駆け寄ったのは鈴音に敗れた留奈であった。

「鈴音、やったな! おまえの勝ちだ、おめでとう!」
「留奈さん……」

 未だに勝利の実感が湧かない鈴音に飛びつくように抱き着いた留奈。いくら小柄と言えども人間の体重を支えられるほどの力が鈴音にあるはずもなく、留奈に押し倒される形でその場に大の字で倒れ込んだ。

「ちょっと留奈、いきなり飛びついて頭でも打ったらどうするのよ」
「……うーん、それもそうだな。おい、だいじょうぶか鈴音」

 礼に諭されて鈴音から降りた留奈はそっと彼女に手を伸ばす。勝ったと思ったらいきなり突き倒されるなどこの時点でも何が何だかわかっていない様子の鈴音であったが、ようやく状況を理解したようだった。
 幸い頭などを強く打っていなかったために怪我等はなく、差し伸べられた手を掴み、それを頼りにゆっくりと立ち上がった。そして時間が経ち、気持ちが落ち着いてくることで改めて自分が留奈にデュエルで勝利したという実感を得る。

「わたし、わたし……勝てた。留奈さんに、勝てた?」
「うん。浜部さんは舞原さんにデュエルで勝った。俺たちも含めてここにいる全員が証人だよ」

 もちろんこれは夢ではない。遊大も陸も仁も、礼も林檎も美鈴も。この場にいる誰もが鈴音と留奈のデュエルをしっかりとその眼で見届けた。そして鈴音の勝利も。
 遊大からそれを聞いた鈴音は身体の奥からじわりじわりと熱い感情がこみあげてくることに気付いた。勝利とは本来喜ばしいものであるはずなのに、彼女の瞳からは溢れ出てくるものが止まらなかった。

「勝った……勝てた……嬉しい。わたし、嬉しいはずなのに……」
「鈴音……」
「それなのに、涙が止まらないんです。どうして……?」
「それはおまえがこころからほんとうにうれしいとおもっているからだ。だからなみだをがまんするひつようはない。なきたいときはおもいきりなけ。わたしが、うけとめてやるから」

 身体は小さいが、心は大きい。鈴音は留奈にもたれかかるように抱き着くと、声を殺して涙を流し続けた。留奈は小さくうんうん、と頷きながら鈴音の背をさすり続けていた。











 明くる日、鈴音がセントラル校を離れる時がやってきた。あの時雨に濡れたイースト校の制服はクリーニングにかけられていたこともあって、まるで新品同様のように綺麗になっていた。
 鈴音はセントラル校に在籍している間はセントラル校の生徒と扱われていたため、セントラル校の制服を身につけていたのだが、鈴音からしてみればやはり着慣れたイースト校の制服の方が幾分着心地が良いようだった。

「やっぱりそっちの制服の方が似合ってるかもね」
「はい、そうかもしれませんね。あまりこの制服にいい思い出はないですが……」

 この制服を着ていた時、鈴音は敗北の泥に塗れていた。入学してから2か月ほど、彼女にとって決して良いものではなかったイースト校でのデュエリストとしての生活。それでもセントラル校で過ごした日々を経験した彼女は昔の彼女とは違う。初日と今とでは目の輝きからして違っていた。

「いい思い出がないなら作ればいいんだよ。これからね」
「そうそう! 俺たちとタメならまだ入学して2か月だろ? 残りの高校生活はあと2年10か月もあるんだし!」
「お前にしては細かいところに気が回るんだな……まあ陸の言う通りだ。悪い過去はそうそう消えるものではないが、上書きすることはできる」

 遊大、陸、仁の三人とも鈴音は複数回デュエルをした。仁の巧みなデュエルに翻弄され、陸の攻防一体のデュエルに弾き返され、自分の知らないモンスターを切り札として繰り出してくる遊大の前に幾度となく膝を屈した。
 彼ら三人とのデュエルの結果は決して芳しいものではなかったが、そのデュエルがあったからこそ今の鈴音がある。そしてそれは彼らよりも濃い時間を過ごした留奈をはじめとした四人にも言えることであった。

「まあ、今の鈴音だったらイースト校でも十分に勝ち上がれるはずよ」
「自分たちで言うのもなんだけど、私たちセントラルの一年生でもそれなりにできる方だからね」
「イースト校の皆さんがどれほどのデュエリストかどうかはまだわからないのですが……」

 林檎の言葉はやや誇張があると言えばあるかもしれない。それでも礼と美鈴は負けはしたが、様々な関門をクリアして現役プロデュエリストである高海 遊万ともデュエルができるほどの実力者である。今年度開校のためにまだ一年生しかいないイースト校を始めとした地方校に彼女たちと並び立つだけのデュエリストがどれほどいるだろうか。
 少なくとも彼女たちと実際に刃を交えた鈴音は林檎の言葉に嘘偽りがないとわかっていた。そしてそんな彼女たちとデュエルを繰り返した自分がイースト校で勝利を重ねることが同時に自分を強くしてくれた彼女たちへの恩返しとなるのである。

「皆さんのデュエルタクティクスはイースト校においても随一だとわたしは思います。だからこそ、そんな皆さんのためにもわたしはイースト校で頑張らなきゃいけないですね」
「……もしかしてプレッシャー感じちゃってる? それだったらなんかごめんね」
「林檎、しょうがないわ。デュエルはいつだってプレッシャーとの闘いでもあるんだから。でも今の鈴音ならそのプレッシャーを跳ねのけられるの力はあると私は思うわ」
「礼さん……」
「鈴音、わたしはじぶんがつよいデュエリストとしんじてうたがったことはない。それでもまけるときはまける。でもしょうぶのせかいでいきるものとしてそれをうけいれることにしている。だからまけをおそれるな。わたしたちのためにかとうとおもうな。じぶんがおもいえがくデュエルをしろ!」
「留奈さん……はい! わたし、自分が納得できるようなデュエルをできるようになります!」

 そうは言ってみるが自分が本当に納得できるデュエルなど、今の鈴音にはまだわからない。まるで深い霧の中を手探りで進むかのように漠然としたものである。しかし、今の彼女にはある目標があった。
 それはかつてろくなデュエルができず、自分が一方的にコンプレックスを抱いていた妹・花鈴のことである。花鈴は鈴音とは性格もデュエルスタイルも真逆であり、デュエルの腕は鈴音よりも圧倒的に上であろう。しかし、勝ち負けではない。一人のデュエリストとして、一人の姉として、妹と互いに納得のできるデュエルがしたい。鈴音の心中にはそんな想いがまるで綺羅星のように輝いていた。

「留奈さん、もしまた機会があったらわたしとデュエルしてくれますか?」
「……もちろんだ! かちにげはゆるさないからな? つぎこそはわたしがかつ!」
「いえ、次もわたしが勝ちます。今度はもっと納得できるような形で」

 そう言って固い握手を交わす留奈と鈴音。鈴音の瞳には初めて出会った時の弱弱しさはない。そこにあるのは紛れもなく覚悟を決めた一人のデュエリストの強さであった。

「浜部さん、もう大丈夫かな?」

 そんな中、学校の専用車が鈴音たちのいる昇降口の前に止まる。降りてきたのは竜司とミハエルであった。鈴音が本来在籍しているイースト校は愛知県にあり、彼女はセントラル校まで新幹線と電車を乗り継いでやってきたのである。行きの時は迎えをよこすことができなかった竜司たちであるが、せめて帰りの時だけは、ということで鈴音を東京駅まで送ることになっていた。

「はい。わざわざありがとうございます」
「そっか、新幹線の時間があるんだよね。まあ、なんかあったら連絡ちょうだい。愚痴くらいは聞けるからさ」
「デッキやデュエルについても私たちで良ければいつでも相談に乗りますからね」
「鈴音……げんきでな!」
「はい!」

 鈴音はにっこりと微笑むと、小さく手を振った。この別れは永久の別れではない。またいつか、再会することを誓った上での別れであった。












「見てよ、これ!」

 鈴音がセントラル校を去ってから2週間ほど経ったある日。留奈たち宛てに一通の手紙が届いた。メールや通話アプリが発展したこのご時世に書面での連絡というのは如何にも彼女らしいことである。
 イースト校では鈴音が戻ってから、生徒たちのレベルアップを兼ねて週一で学年ナンバーワンを決めるデュエル大会が行われるようになった。自由参加ではあるため、参加するしないは生徒自身で決めるようになっているのだが、戻った鈴音は積極的に参加するようにしていた。

「あらあら……こんな笑っちゃって」
「自撮り下手ねー、なんかそんな感じはするけど」
「ですが、とても嬉しそうです」

 高校生らしからぬ格式ばった文章には鈴音の丁寧な性格が現れていたが、その所々に嬉しそうに手紙を書く鈴音の姿が想像できた。

「……よかったな、鈴音」

 同封されていた写真には「優勝」と書かれた賞状を不慣れかつ可愛らしい笑顔で掲げる鈴音の姿が映っていた。そんな彼女が後々イースト校の精鋭の一人として留奈たちのセントラル校と対峙することになるのだが……それはまだまだ後の話。
 そしてこの鈴音の活躍は瞬く間にイースト、ウエスト、ノース、サウスの地方分校四校に広まった。自分の殻を破れずにいたデュエリストがセントラル校への短期転校をきっかけに優秀なデュエリストとして開花する―――それは後発で生徒数の少ない四校にとっては寝耳に水であったと言っていいだろう。四校の校長は互いに連絡を取り合い、そして竜司へと提案した。










――――四校から選抜された優秀なデュエリストたちと、セントラル校の一年生による交流チーム戦の開催を。













〇後書き
 次回よりようやく応募されたキャラたちが本格登場する「交流戦編」へと突入します。応募されてからだいぶ時間が経ってしまいましたが、なんとか応募して頂いたキャラの魅力を打ち出せるように書いていければ、と思います。


・登場する応募キャラ一覧

【ノース校所属】
〇一文字 琥太郎(いちもんじ こたろう)
ター坊さんご応募
使用デッキ:【妖仙獣】(【帝】魔法罠搭載型)※レシピ有

〇深山 若葉(みやま わかば)
Lv3さんご応募
使用デッキ:【スパイダー】※レシピ有


【イースト校所属】
〇瀬戸 彩奈(せと あやな)
から揚げさんご応募
使用デッキ:【クリフォート】

〇天海 刃弥(あまみ じんや)
ヘロさんご応募
使用デッキ:【サイバー・ダーク】※レシピ有


【ウエスト校所属】
〇如月 青葉(きさらぎ あおば)
名無しのゴーレムさんご応募
使用デッキ:【トゥーン】

〇羽々斬 涼夏(はばきり りょうか)
粉玉采さんご応募
使用デッキ:【X-セイバー】


【サウス校所属】
〇風見 遊誉(かざみ ゆうほ)
カズさんご応募
使用デッキ:【ガスタ】※レシピ有り

※おことわり
各キャラクターには応募時に設定およびデッキレシピがありますが、話の展開上キャラの性格や設定、デッキレシピに変更が入っているケースがあります。その倍でも暖かい眼で見ていただければ幸いです。




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ター坊
今後は思い描くデュエルが出来るようになるのが課題か…ってもう優勝とかしちゃってるからだいたい出来てるか。そして四校にとっては希望の良い例になった鈴音ちゃんでしたな。
さて交流戦、楽しみです。貧乏でグレてる琥太郎はどうなるのやら? (2017-08-17 15:32)
から揚げ
お久しぶりです!しばらく感想を書けなくて申し訳ありませんでした!それでは3話の内容をまとめて感想の方を書かせて頂きます!

前のターンの鈴音ちゃんの猛攻でライフを半分近く削られたものの、そこから舞猫姫と紅狐のコンボで鈴音ちゃんのモンスターを全滅させながら同じくライフを半分近くまで削り返した留奈ちゃんのプレイングが、とてもカッコ良かったです!留奈ちゃんの逆境をパワフルなパワーで乗り越えていくデュエルスタイルには本当に痺れます!

鈴音ちゃんも自分のモンスターが全滅しても動揺する事無く落ち着いて、留奈ちゃんが勧めてくれたジュラゲドとローズマリーの効果を組み合わせて戦況を切り返していたタクティクスや、月光舞獅子姫の耐性の隙をついてクリボールの効果で守備表示にしてライフを守りきったプレイングに脱帽しました!

同じ手札誘発でもジュラゲドが鈴音ちゃんと留奈ちゃんの絆のカードになっているのに対して、クリボールが留奈ちゃんのモンスターへの対策の為に鈴音ちゃんが自分一人の意思で投入した成長の証になっている所が、鈴音ちゃんのデュエリストとして精神的に成長していく過程を垣間見る事が出来まして、とても素晴らしかったです!

最強の壁として召喚された月光舞獅子姫に対して気圧される事なく、2度に渡って月光舞獅子姫を撃破していた鈴音ちゃんは本当に凄いと思います!OCGでも月光舞獅子姫を倒す事は容易ではないので、これ程の戦果を上げる事が出来たのはひとえに、鈴音ちゃんの弛まぬ努力と留奈ちゃんの薫陶の賜物だと思います!

デュエルの終盤にお互いが死者蘇生を引き当てていたのが正にディスティニー・ドローだなぁと思いました!勝利の女神も2人のデュエルの内容の熱さと華々しい美しさに魅了されて粋な計らいをしてくれたのだと思います!

留奈ちゃんの勝負にかける熱い想いや誇り高い吟持に心打たれました!潔く敗北を認めて鈴音ちゃんに心からの祝福の言葉を述べていた留奈ちゃんは正におっ ぱいのついたイケメンですね!

今回のデュエルは互いに高打点でぶつかり合っていた内容が正に師弟対決という様相を呈しておりまして、とても見応えがありました!

鈴音ちゃんはセントラル校で掛け替えの無い仲間や留奈ちゃんという最高の師匠に巡り会えて本当にたくましくなれましたね!そこでの経験があったからこそ、大会で優勝という輝かしい実績を残す事が出来、名実共に一流と呼ぶにふさわしいデュエリストとして花開けていた所が本当に胸が熱くなりました!これから鈴音ちゃんがどの様に才能という名の花を更に咲かせていくのか、とても楽しみです!

いつもキャラクターの魅力や熱いデュエルの内容が丁寧に描写された素晴らしい作品をお書きになって下さって本当にありがとうございます!ご無理の無い様にご執筆頑張って下さい!応援させて頂きます!

次回の交流戦編も、鈴音ちゃんから話を聞いたであろう登山家(意味深)の彩奈ちゃんがどの様に留奈ちゃん達と関わっていくのか、とても楽しみです!


(2017-08-20 13:07)
光芒
ター坊さん
鈴音の思い描くデュエル、というのが彼女にとってはまだ漠然としているという感じでしょうか。今現在のものとしてはまずはデュエルで勝利を重ねて最終目標は妹に勝つというものですね。
そしてこの鈴音の活躍が他の四校にきっかけを与えました。ある意味彼女がいないと交流戦は実現しなかったですからね。

から揚げさん
確かにお久しぶりですが、だからと言ってそこまでぎっしり感想を書かなくても結構ですよ?(よく読んでくれることは嬉しいですが)

留奈と鈴音のデュエルはまさに互いにモンスターの効果を利用した丁々発止の応酬といった感じになりましたね。パワー対パワーの真っ向勝負と思わせつつその実他のカードと組み合わせて相手の盤面を荒らしにかかっています。
師弟対決、と表すのが正しいかどうかはともかく、このデュエルが鈴音の眠っていた才能をまさに開花させるというのはその通りでしょうね。

交流戦編ですが、個々のキャラをクローズアップしたいとは思っていますが、何分時間が取れなくて……でも各キャラがすぐに理解できるような仕様にはしたいですね。
(2017-08-22 08:53)

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2 第127話:神話 80 2 2018-11-10 -
6 第128話:仮説 106 3 2018-11-12 -
4 第129話:伝心 93 3 2018-11-14 -
5 第130話:対立 98 2 2018-11-16 -
4 第131話:残酷 26 1 2018-11-18 -