HOME > 遊戯王SS一覧 > 虹彩竜と歩むもの > 第51話:一歩

虹彩竜と歩むもの/第51話:一歩 作:光芒






「……さがしたぞ」

 走り去った鈴音を留奈が見つけたのはそれからしばらく経ってからのことであった。鈴音は校舎内の自動販売機の影にしゃがみ込んでいた。

「なんで、追いかけてきたんですか」
「おまえがつらそうなかおをしていたからだ。あとであんなこといった遊大はわたしがしばきたおしてやる!」

 そう言って息巻く留奈であるが、そんな彼女を鈴音自身が止める。彼女からしてみれば遊大の物言いは確かに辛いところがあったが、その指摘は決して誤ったものではないからだ。

「わたしは……AIが相手だと気兼ねなくデュエルができるんです。でも……人が相手だと、気圧されてしまうんです」
「きおされる? どういうことだ?」
「……簡単に言うと、相手の迫力や威圧感に負けてしまうんです。わたしは昔から気が弱くて……でもいつまでもそのままじゃいけないって思ったんです。妹からもそう言われました」
「いもうとだと?」

 鈴音には花鈴(かりん)という中学生の妹がいる。しかし、同じ血が流れる姉妹でもその性格は真逆であった。
 気弱で人見知りな姉・鈴音と比べて妹・花鈴は攻撃的かつとげとげしい性格であり、デュエルにおいても鈴音とは違って【影霊衣】デッキを自分の手足の如く使いこなしては誰が相手であろうと物怖じしないデュエルを繰り広げる。
 鈴音はそんな妹のようになりたい、と思いアカデミアに進学を決めた。最も最初はウエスト校への入学を希望していたのだが、中学校の手違いによりイースト校への入学が決まってしまったのだが。

「こんなことを言うのも変ですけど、わたしは妹のようになりたいんです。妹は誰が相手でも決して逃げ腰にならないから」
「……でもおまえはいもうとにはなれないぞ」
「えっ……」
「おまえのいもうとはたしかにつよいかもしれない。デュエルしたことないからわからないけどな。でも鈴音がいもうとになれないように、おまえのいもうとだって鈴音にはなれない。おまえにいもうとのデュエルはできないけど、いもうとにだっておまえのデュエルはできない。そうだろう?」

 鈴音は何も言い返すことができなかった。留奈はその言動からとても同年代とは思えなくなるところがあるのだが、今の彼女が言い放った言葉は決して的外れなものではなかった。
 留奈の言う通り、鈴音は決して花鈴にはなることはできないし、花鈴のデュエルを目指したところで妹を超えることはおろか妹同様のデュエルをすることはできないだろう。
 しかし、逆を返せばそれは花鈴にも言えることであり、いくらデュエルの実力が上回っていたとしても花鈴は鈴音にはなることはできず、鈴音のデュエルを彼女がすることもできないのだ。

「鈴音、おまえののつよくなりたいというきもちはよくわかる! わたしもおなじことをまいにちおもっているからな! でもおまえといもうとのめざすつよさ、りそうのデュエルはちがう! いもうとのようになるんじゃない、おまえがしたいデュエルをできるようになるんだ!」
「わたしの……したいデュエル……」
「そうだ! ひとあいてのデュエルではかてないかもしれないが、AIにかてるならおまえにはきっとデュエルのさいのうがある! だからもっとじぶんのカードをしんじろ! もっとじぶんにじしんをもて!」

 鈴音はデュエルディスクにセットされている自分のデッキを見る。今思えばAI相手に無敗のデュエルも対人戦において勝ったことのないデュエルも全てこのデッキと共に戦ってきた。このデッキがあったからこそ、辛い思いもしてきたし幸せに感じたこともあった。
 デュエリストにとってデッキとは何か。という質問をデュエリストにすると大半のデュエリストがこう答える。デッキは自分にとって自分の分身であり、自分の魂である、と。そんな彼らと同じデュエリストである鈴音にとってもこのデッキは自分の分身であり、自分の魂なのだ。
 その魂たるデッキと向き合うことは自分と向き合うこと。デュエリストとして成長したい鈴音が今ここですべきことは、目の前にそびえ立つ壁を見て膝を屈するのではなく、その壁を乗り越えるために尽力することなのだ。

「舞原さん……いや、留奈さん」
「なんだ!」
「……わたしを、強くしてください! このアカデミアで!」

 誰のためでもない、自分の心からの言葉。この言葉を聞いた留奈の目にはまるで昔の漫画のように炎が燃え上がっていた。

「まっていたぞ、そのことばを!」

 そう言って留奈は鈴音の手をぎゅっと握りしめる。この小さな身体のどこにそんな力があるのだろうかと鈴音が面食らうレベルの力であったが、それだけ留奈が本気であることの表れでもあった。











「あの、ご迷惑をおかけしました」

 留奈に連れられてデュエルスペースまで戻った鈴音は、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。そんな鈴音を詩織が暖かく出迎えた。

「大丈夫ですよ。むしろこちらこそ気を使えず申し訳ありませんでした」
「まったくだ、おいおまえのことだぞ遊大!」
「えっ」
「鈴音がとめるからなにもしないが、こととしさいによってはおまえをぶっとばしていたからな! 鈴音にかんしゃするんだぞ!」

 十代女子七人が居並ぶ中、黒一点の遊大はどこまでも損な役回りを引き受けさせられる運命にあった。最も遊希や詩織、美鈴が慰めてくれたため彼の周りが敵だらけというわけではないのだが。

「さて、浜部さん。あなたがここに来た理由はわかっているわね」
「……はい。AI相手ならともかく、人相手のデュエルでは一度も勝てたことがない。それを治すため、一時的にセントラル校に籍を置くことになりました」
「そうね、正解よ。でもタクティクスならともかく、メンタルは一朝一夕で治るものじゃない。それこそ途方もない時間がかかることだってある。それでも勘違いしないで欲しいことがあるわ」
「勘違い……ですか?」
「ええ、それはイースト校の人たちのことよ。イースト校の人たちはあなたに自分の殻を破って貰いたいがためにセントラル校へと編入させた。本当にデュエリストとしての才能に欠ける人に、そんなことを働きかけるかしら? 直接聞いたわけではないから断言はできないけど……浜部さん、あなたは今後イースト校が発展していくにあたって必要なデュエリストなの」

 竜司はセントラル校を中心に、地方の分校であるノース校、イースト校、ウエスト校、サウス校の計五校が時に協力し、時に競いあうことで世界へと羽ばたくデュエリストを一人でも多く育て上げることを願っている。
 しかし、セントラル校以外の四校は今年の四月に開校したばかりであるため、当然生徒は一年生しか存在しない。そのため四校においては第一期生である一年生こそが学校の顔であるといえる。
 学校の顔と言われれば聞こえはいいが、逆を返せば彼らが結果を残さなければその分校に未来はない。四校の一年生デュエリストたちには、セントラル校の一年生がまず抱えないであろう重圧を背負って日々を過ごしているのだ。

「わ、わたしが……イースト校の未来を?」

 遊希から聞かされたあまりにスケールの大きな言葉に身体の震えが止まらない鈴音。いくら決意を固めたとはいえ、元は気の弱い少女である。実感など当然湧かないし、自分に掛けられている周囲からの期待に圧し潰されそうになってしまっていた。
 そんな彼女の内心を察したのか、震える鈴音の手を留奈が何も言わず握りしめた。まっすぐと鈴音を見つめる留奈の目はさっきまでやる気に満ち溢れたものとは違い、まるで全てを優しく包み込む水のように透き通っていた。そして鈴音の手を握る留奈の手は温かく、そして優しかった。

「……正直言うと、わたしがイースト校の未来を担うと言われても実感が湧きません。でも、イースト校のこと云々よりも、わたしは成し遂げたいことがあります。わたしは……わたしのデュエルができるようになりたいです。妹のようになるんじゃなくて、わたししかできないデュエルができるようになりたいです」
「……わかったわ。それがあなたの決意なのね? そうね、じゃあ舞原さん。あなたが浜部さんを手助けしてあげて」
「わたしがか!? よしまかせろ、おーぶねにのったつもりでいてくれていいぞ!」

 出会った因果かどうかはわからないが、鈴音はセントラル校滞在期間中は留奈たちの部屋で過ごすことになった。部屋に戻った鈴音は挨拶も早々にデュエルディスクから自分のデッキを取り出すと、そのデッキの中を皆に見て欲しいと頼んできた。
 礼たちは自分の武器でもあるデッキを他人に見せてしまうことは、後々デュエルにおいて不利になるので断ろうとしたが、あくまで自分のデッキを客観的に見て欲しいと鈴音の頼みに折れる形でその申し出を受け入れた。留奈とのデュエルで見た通り、鈴音のデッキは【アロマ】であり、ライフ回復およびアロマージモンスターの効果を上手く見極めて使う必要のある上級者向けのデッキであった。

「……そうね【アロマ】は使ったことが無いから門外漢ではあるけれど、デッキの出来自体はそう悪くないと思うわ」
「うん。私もそう思う。でもなんか引っかかるんだよね……」
「あの、宜しいでしょうか?」
「どうしたの美鈴。何かあるなら言っちゃっていいと思うわよ」
「【アロマ】はフィールド魔法であるアロマガーデンの有無で大きく変わるデッキだと思うんです。ですが、このデッキにはそのアロマガーデンをサーチできるカードが入っていないんです」

 フィールド魔法をサーチするカードの代名詞とも言えるカードがテラ・フォーミングである。しかし、そのテラ・フォーミングは強力なフィールド魔法が多数出現する昨今のデュエル環境において強力なカードという認識がまかり通り、デッキに2枚までしか入れられない準制限カードとなってしまった。
 発動条件があるが、速攻魔法である“終焉の地”や一つのデッキに二種類以上のフィールド魔法を入れる必要のある“盆回し”などのカードは存在するが、一切の発動条件やデメリットを持たないテラ・フォーミングというカードに勝るフィールド魔法サーチのカードはないと言ってしまっていいだろう。

「わ、わたしはアロマガーデンよりも潤いの風に重きを置いていたので……」
「そうか、アロマガーデンのライフ回復効果はフィールドのアロマモンスターがいないと発動できないわね。そう考えるとアロマモンスターをサーチできる潤いの風の方が優先度は高いかもしれないわね」
「それでもテラフォくらいは入れておいた方がいいじゃない? あって困るカードでもないし」
「あとあのカードはいってないな! えっと、ライフをかいふくできるモンスターとか!」
「そんなモンスター山ほどいるじゃない。いい加減具体名を挙げなさい具体名を。また赤点取るわよ?」
「あかてんはかんけいないだろ!」

 掴み掛ろうとする留奈を長い手で抑えこむ礼。まるで関西のお笑いの舞台のような一幕に美鈴と林檎が呆れながらも笑う中、鈴音は一人呆然としていた。
 デッキを見て欲しい、と頼んだのは鈴音自身であるが、まさかしばらく共に寝食を共にする間柄とはいえ、出会って一日も経っていない他人のデッキのためにここまで意見を出してくれるとは思っていなかったのである。

「どうしたんですか、鈴音さん」
「いや、なんで皆さんここまで親身になってくれるのかな、って……」
「……もしかして馴れ馴れしかった?」
「い、いえそんなことは。あの、とっても嬉しいです」
「ごめんなさい、あなたのデッキの話なのにこっちだけで盛り上がっちゃって。でも基本的にみんなデュエルが好きなのよ。だから大目に見てちょうだいね」
「そうだぞ! それにだいじななかまのデッキだからな! しんけんにかんがえるのもあたりまえというものだ!」
「仲間……わたしがですか?」
「ああ! いちどデュエルをすればみんななかま! みんなともだち! きのうのともはあすもともだち! えいえんにだ!」

 ただ直球一本槍なだけではなく、何処までも純粋な留奈。そしてそんな彼女と共に在る礼・美鈴・林檎。彼女たちはまさに全てを開け広げて自分を受け入れてくれている。その事実に鈴音の目から一筋の涙が零れ落ちた。

「お、おい! どうした!」
「あっ、いえ……その……」
「留奈あんたなんか変なこと言ったんじゃないでしょうね?」
「違うんです……その、これは、うれし涙です。皆さんがここまでわたしのために考えてくれて……」

 鈴音はこの時心に刻み込んだ。自分のためにここまでしてくれる留奈たちのため、そしてこんな自分に期待してセントラル校へと派遣してくれたイースト校の皆のため。絶対に前に進んでみせる、一歩を踏み出してみせると。










〇後書き
 応募されたキャラなのにも関わらず、早くも鈴音のキャラがぶれつつあるという悲しさ。でも書いているうちに応募されたキャラでも書いているうちに変わって行ってしまうのが創作物あるあるだと思うのですがどうでしょうか。

訂正
×花凛
〇花鈴

言われるまで気づかなかった自分を許してくれ……(白き盾風に




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ター坊
誰かを目指すのではなく自分のしたいデュエルをやる。脳筋もといデュエルに真っ直ぐな留奈だからの理論ですね。
未来を担われたりデッキアドバイスを受けたり、鈴音ちゃんはどんどん馴染んでいきます。
キャラが変わっていくのは設定ブレではなくそのキャラの心境変化の現れってことだと思います。鈴音ちゃんも初登場時と比べてちょっと強くなったってことで。 (2017-07-12 07:53)
Ales(from SP)
妹の名前、どこで誤植してしまったのやら……私の方が応募段階で間違えたみたいですので、今回は脳内変換ですね(苦笑)
そして冒頭から自販機の隅といういかにもなポジションにしゃがみこむ鈴音を強引に引き剥がす留菜ちゃん……いい友人を持ったものですなぁ(遠い目)。
そして何だかとんでもない重圧をかけられたら感のある鈴音ですが、まあ、これはこれでいいんじゃないでしょうか。まともなテーマでありながら普通に組んでも苦戦必至の【アロマ】共々、成長できればいいんですけど。

それと、留菜ちゃんの「あとあのカードはいってないな! えっと、ライフをかいふくできるモンスターとか!」という台詞についての私なりの解答ですが、相手ターン開始時に《潤いの風》でアンゼリカをサーチすれば、フィールドの「アロマ」モンスターの効果でプレッシャーをかけられるのではないか、と思っております。もっとも、墓地にアロマモンスターがいないとアンゼリカの効果を適用できないので、そこが難しいところですが。 (2017-07-13 01:39)
光芒
ター坊さん
>キャラが変わっていくのは設定ブレではなくそのキャラの心境変化の現れってことだと思います。鈴音ちゃんも初登場時と比べてちょっと強くなったってことで。

そう受け取って頂くと本当に助かります。ただ問題はキャラクター設定や性格、口調、デッキレシピなどに関してもリクエスト通りに回せないということにあるんですけどね。話やデュエルを考えている受け取ったデッキレシピだとどうしても回らなくなってしまうことがあるので……

Alesさん
正直「りん」の字が違うところで違和感は感じていたんですけどね。Alesさんの作品をもっと自分が読んでいれば、という話になってしまうんですがorz
【アロマ】はテクニカルなプレイングが求められる分、上手く使いこなせば……というデッキでもあるのでデュエルを作っていてなかなか書き甲斐のあるデッキだとは思います。鈴音の成長と合わせてデッキの進化も体験して頂ければ、とは思っていますがそんなに話が割けない事情。

アンゼリカは確かにライフ回復できる効果+墓地からSSは強力ですが、やはり墓地にアロマがいる必要があるのがちょっときついところはありますね。ちなみに留奈の言っているカードは【アロマ】のカードではありませんので悪しからず。

(2017-07-13 19:03)
から揚げ
こちらこそ、遅くなってしまった私を許してくれ(白き盾感)

留奈ちゃんが鈴音ちゃんに対して真っ直ぐな言葉で励まして心からの優しさを見せていた所やずっとともだちと言っていた所が本当に最高でした!デュエルや相手とのコミュニケーションで純粋かつ真っ直ぐに相手に接してくれる所も留奈ちゃんの魅力の一つですね!

留奈ちゃんが鈴音ちゃんに言っていた「いもうとにはなれない」という言葉は本当に深い言葉ですね。決闘者それぞれに己の信じるデュエルスタイルやプレイングがあるので完全にその人になる事は不可能ですし、寧ろその人になりたいという気持ちが強過ぎる余り、自分が本来持っているデュエルスタイルの持ち味が損なわれてしまうのは本末転倒だと思います。そこら辺は30話で遊希ちゃんが遊大に言葉を投げかけていた状況と似てますね!

鈴音ちゃんのキャラクターについてですが、留奈ちゃん・美鈴ちゃん・礼ちゃん・林檎ちゃんといった優しくて魅力的な女の子と出会い、その子達と掛け替えの無い仲間になって成長していく展開は王道を行っていて、とても素晴らしかったです!なので、そこまでお気になさらなくても大丈夫だと思います!

そして、以前は小説執筆に関するアドバイスをして頂いて、ありがとうございます!とても勉強になりました!少しずつでも書ける様に努力させて頂きたいと思います! (2017-07-17 08:07)
光芒
から揚げさん
留奈はぶっちゃけアホの子ですけど、ただのアホというよりも自分の感情を率直に表現する子でもあるんですよね。そんな彼女しか気づけないところもまたあるわけで。そのため鈴音に対して花鈴にはなれないが、花鈴も鈴音にはなれないというところに着目するのも留奈でなければできないのではないでしょうかね。

>そこら辺は30話で遊希ちゃんが遊大に言葉を投げかけていた状況と似てますね!
図らずも遊希と留奈が被ってしまっていますね。もしかして遊希ってアホのk……
遊希「おい」

(2017-07-19 08:33)

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