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【短編】私が遊戯王を始めた理由 作:白金 将

※「遊戯王 Hedgehog Flowers」でのフラワリングカップ開催はまだ時間がかかります。頑張ってそこまで書き続けるので許してください。と言う訳でそれまでに代わりと言っちゃなんですけどこちらのSSを用意しました。ゆるして。あと察して。









 その人との出会いは唐突な物だった。

 私、伴坂(ともさか)遊美(ゆみ)は高校生になってから遊戯王を始めた。
 昔に何となく弟が見ていたアニメである程度の知識はあったけれど、実戦経験も無ければ持っているカードも雑誌に付いていた数枚しかない。そんな私が突然カードゲームに手を付けた理由は二つで、一つ目はせっかく高校生になったのだから何か新しいことをしたい、と思ったこと。そしてもう一つは、女性の新規プレイヤーを対象とした遊戯王のイベントが近所でやっていたことだった。

 電車を何本か乗った所にあるそのカードショップは決して大きくはなかった。高層ビルと高層ビルの隙間に細く生えているさほど高くないビルの最上階、という立地としては最悪に部類する店だったが、あいにく近所にあるカードショップを探すとなるとそこしか見つからない。他の電車に乗り継ぐ暇や運賃を考えると自然とここが最寄りの店だ。
 女性向けイベントの話は、夜中に中学の友達とTwitter上で会話していた時にふとタイムラインに流れてきたツイートで知った。私のフォローしていた女の人が遊戯王をやっていたから時折それ関連の情報が流れてくることはあったが、ここまで私の地域に即した内容は初めてだった。

 新しい事をやってみたい、という気持ちの後押しもあって、四月のまだ少しだけ寒い日、私はその店を訪れた。服装は面倒くさいから高校のセーラー服。髪形はいつも通りのツインテールだ。朝の九時ともあって日は出てきているがそれでも身体の震えは収まらない。開場時間を過ぎたことを確認し、私はそのビルに入った。
 寂れたエレベーターに乗って最上階へと上っていく。階層を表す数字が大きくなるに従って私の心に芽生えた不安も徐々に成長していった。初めての私でも大丈夫だろうか。難し過ぎはしないだろうか。そして、女性でも、カードゲームは出来るだろうか。
 Twitterのフォローしている遊戯王プレイヤーの話だと、カードゲームをしているだけでも女性は浮いて見えると言う。最近になって女性プレイヤーもさして珍しくなくなったそうだが、男性に比べるとその人口はまだまだ少ない。大会だと悪い話も時折聞くため、エレベーターの籠の中にいた私の心はこの先への不安で押し潰されそうだった。

 心の準備をする時間など与えてくれる訳もなく、無慈悲にポーンと電子音が鳴った後に扉がゆっくりと開く。意を決して一歩目を踏み出した。

「いらっしゃい」

 暖かい空気が顔を滑った。かじかんでいた指先に色が戻る。少し洒落た果実の匂いが鼻を突いた。どこか陰湿だと勝手に思い込んでいたイメージとは裏腹に部屋は明るく清潔で、隅には観葉植物や花が備えてあり、受ける印象は華やかな物だ。壁一面に並ぶガラスのショーケースには様々な種類・光り方のカードが外枠の色に沿って並んでいた。コの字型に並ぶショーケースに囲まれるようにデュエルスペースも整えられている。
 何より意外だったのが、私の事を出迎えてくれた店員らしき人物が、私より少し年齢が上であろう女性だったことだ。すらっと伸びた背に端正な顔立ち、長い茶髪を一本で結んでいる彼女は入り口近くのレジ台の向こうからにっこりとこちらへ笑いかけている。落ち着いた緑色のエプロンを身に着けた彼女は緊張でカチカチに凍り付いてしまっていた私をそっと包み込んで溶かしてくれる程に優しい空気を纏っていた。

「あ……こんにちは」
「ゆっくりしていってね」

 どうやら客は私一人だけのようだ。静まり返った中で女性向けイベントの事を切り出す勇気がなかった私はそのまま店に入ってショーケースの中に並んでいる美麗なカードたちに目を滑らせる。案の定、どれが強いか全くわからなかった。値段を見たら何となく人気のある物は判断付くが、効果欄を見てもどうしてこれが強いのかわからない物もいっぱいある。
 今更カードゲームだなんて、子供じゃないんだし。高校一年生ながらも自分はそろそろ大人だという自覚から来る嫌な言葉が頭を掠めていく。その声を無視して私はショーケースを覗き続けた。

 橙色の枠。これなら分かる、効果モンスターカードだ。その中にあるカードをぼんやり眺めていくうち、なんとなく気になった一枚があった。効果欄には全く興味が無い為完全に名前と絵のみでそう判断してしまったわけだが。

「ファーニマル・ドッグ?」
「こちらのカードが気になりますか?」

 柑橘系の匂いがする。ふと隣を見るとさっきの店員さんが立っていた。

「え、ええと」
「ずっとこちらを見られておりましたので」
「その……ごめんなさい、実はよく分からないんです」

 正直に、自分が素人であることを告げる。それを聞いた彼女はくすっと笑った後、腰から鍵束を取り出してそのうちの一本でショーケースを開ける。そして、そこからカードを何枚か程出してくれた。それらにはすべて「ファーニマル」と名付けられている。

「少しお時間はありますか?」
「は、はい。大丈夫です」
「それじゃあ、こちらの席で」

 付近の席に向かい合うように座る。ふわりと心地よい香りが舞った。
 彼女はまだ緊張が抜けきっていない私をじっと見つめると、まるで品定めでもするかのように私の服装を視線で舐めまわし始めた。セーラー服で来たのがおかしかったのかな?

「学生さんよね?」
「え……あ、はい」

 先程までの店員としての丁寧な言葉からは一変。彼女は優しいお姉さんへ変わっていた。そのせいか分からないけれど、私の応答も幾分か砕けた物になっていたと思う。

「懐かしいわね。私は去年大学を出たばっかりだけど、やっぱり若いって素敵」
「そんな、お姉さんも綺麗で」
「お姉さん、ね。ふふっ」
「あっ」

 つい、彼女の事を店員さんではなくお姉さんと呼んでしまった。自分で口に出して自分で顔が赤くなったのが分かる。慌てて取り繕うとしたが、何か言い出せばかえってボロがどんどん出てしまいそうだった。

「……ごめんなさい」
「別に大丈夫よ。他にお客さんはいないんだし、もっと砕けてもいい位」
「でも、私たち初対面で」
「初対面の人同士でも仲良くなれるのが、カードゲームなの」

 お姉さんはそう言うと、先程ショーケースから取り出したカードの内の一枚を指さした。

「このカード――『ファーニマル』って名のついているモンスターは見た目が可愛いから女性に人気があるの。それに、そこそこ強い子たちだからいろんなデッキとも渡り合える」
「へぇ……かわいいだけじゃないんだ」
「もしかして、遊戯王は初めて?」
「ちょっとだけしか知らない程度です……」

 彼女は私の返答を聞くと、少し考えた後にこくりと頷いた。

「デッキ貸してあげるから、一緒にルールを覚えていきましょう?」
「えっ、でも買うかもわからないのに……」
「ここに来たらいつでも貸してあげる。それじゃ、必要なカードを一緒に探すわよ」

 テーブルにカードを置いたままお姉さんは立ち上がる。その後ろに付くと、彼女は私にこう言ってきた。

「アニメは見ていたかしら?」
「え、ええと、初代の次、辺りまでは」
「それなら大丈夫ね。鍵貸してあげるから、『融合』3枚と『トイポット』3枚、ついでに『ハーピィの羽根箒』と『ブラック・ホール』を1枚ずつ探して」
「わかりましたっ」



 言われた物が見つかるのにそう時間はかからなかった。融合、羽根箒、ブラック・ホールはアニメでも見たことがあったためすぐに見つかり、トイポットも魔法カードのショーケースを舐めるように探しているうちに見つけることが出来た。カードの値札を見てちょっと値が張ることに驚く。

「見つかりました。結構高いんですね、トイポット」
「このデッキの起点だから、組む人はみんな買うの」
「ところで、この、効果欄に書いてある『エッジインプ・シザー』ってなんですか?」


― ― ― ― ― ― ―
トイポット

永続魔法
(1):1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。自分はデッキから1枚ドローし、お互いに確認する。確認したカードが「ファーニマル」モンスターだった場合、手札からモンスター1体を特殊召喚できる。違った場合、そのドローしたカードを捨てる。
(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「エッジインプ・シザー」1体または「ファーニマル」モンスター1体を手札に加える。
― ― ― ― ― ― ―


 私がそう質問すると、お姉さんは意地悪に口角を上げる。さっきまで優しかった彼女が突然牙を剥いたようだった。

「気付いちゃったのね」
「えっ」
「この子たちはね」

 私がカードを探している間にお姉さんは必要な物をすべて揃えたのか、また先程の席に座って私に手招きをした。再びその向かい側に座ると、彼女は探し出してきた何十枚ものカードの内から一枚を私に見せる。
 裁ち鋏が幾重にも重なった物に禍々しい何かが乗り写っているように見えるそのイラストは、先程まで見ていたファーニマルの可愛さとは全く正反対の印象を私に与えてきた。

「ふわふわしてるファーニマルで油断している人たちを襲っちゃう悪い子なの」
「悪い子?」
「そう。そして、このカードとファーニマルが融合すると……」

 彼女が差し出したカードには「デストーイ」と名が記されていた。


― ― ― ― ― ― ―
デストーイ・シザー・ウルフ

融合・効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル」モンスター1体以上
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
(1):このカードは、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。
― ― ― ― ― ― ―


 壊れかけた青い狼の人形のパーツを乱暴に繋ぐ何本もの鋏。狂気、と呼ぶにふさわしいカードイラストだった。それに、攻撃回数を増やす効果も非常に攻撃的だ。

「こんな感じに、近づいてきた相手をぱくっと食べちゃうの」
「ひっ……」
「怖いわねぇ」

 お姉さんが貸してくれたカードの合計は40枚。そして融合デッキ……違う違う、エクストラデッキは最大の15枚。でも、そのエクストラデッキがさっきの「デストーイ」って呼ばれてる見た目の怖いモンスター達ばっかり……
 私が驚きで声も出ない様子を見たのか、彼女は優しく声をかけてくれた。

「大丈夫よ。使っていくうちにこの子たちもかわいく見えてくるから」
「ううっ、不安です……」
「それじゃあ実戦で回して見ましょう。こっちは何のデッキを使おうかしら……」

 そう言ってお姉さんが立ち上がった時、ふと思い立った質問をこちらからぶつけてみた。

「あの、お互いの自己紹介は……」
「あら」
「まだですよね?」

 彼女は驚いたような表情をする。そう言えば私も自分の名前を言っていなかった……

「ええと、その、伴坂遊美です」
「私は三倉(さくら)琴音(ことね)。よろしくね」

 三倉さん、って言うんだ。
 彼女が自分のデッキを取りに行っている間、私は彼女の名前を想いながらそわそわとしていた。





 ――かてない。

「それじゃあ私は『捕食植物ドラゴスタペリア』でダイレクトアタック」
「あうっ、ありがとうございました……」

 何度も何度も三倉さんに敗北を喫していた。その度にお姉さんからアドバイスをもらって、徐々にこのデッキの使い方を体にしみこませていく。それでも、惜しい所まで行くことはあっても勝たせてもらえない。年季の違いやデッキに慣れていない事が理由になるかも知れなかったが、何よりゲームの流れを作る力で圧倒的に負けていた。
 例えば、私が苦労して出した強いモンスターを簡単に破壊されてしまうと、こちらは気が滅入ってしまう。一度そのように精神的に上手く立ち回られると、いい手札が来ても頭の中でうまくまとまらないのだ。それも私がまだ初心者だからかもしれないけれど。

「うーん、どこがいけなかったのかなぁ」
「基本的な動きは出来てきてるから、後は一気に決める流れを理解することね。遊美ちゃんの使ってるデッキはワンターンキルに特化してるデッキだから、いけるって思った時はそのまま相手を押し切っちゃうの」
「なるほど……」
「私の使ってるデッキは徐々に相手を弱らせていくデッキだから、中途半端にモンスターを出してもたもたしてるとうまく決められずに逆にやられちゃうわね」

 三倉さんの言っていることが身に染みる。本当に、遊戯王のことについて詳しい人だと思った。お互いのデッキの長所と短所を理解していて、それに見合ったプレイングをしている。
 私もこんな人になりたい、と言えば違うかもしれないけれど、何かに秀でているその姿は確かに憧れになり得た。新しい世界の先輩は優しくて、強くて、とても綺麗で……

「遊美さん?」
「ひゃっ、はい」
「ちょっと疲れちゃった?」
「あ、そっ、そんなことないです」

 そう言われた私はとりあえず時計を見てみる。そして驚いた。
 午後五時。ここに来てから軽く8時間が経過している。ご飯を食べることすら頭から抜け落ちてしまっていた。それ程までに私はカードゲームに、お姉さんに夢中になってしまったのだ。

「お客さんは貴女一人だけみたいだから、ゆっくりしても大丈夫よ」
「あ、あのっ、すいません。いろいろ迷惑かけてしまって」
「いいの」

 今更ながらにお腹が鳴る。だが、このちょっと広めの店内を見渡した時、どこか物寂しさも覚えてしまう。

「私以外に、来ませんね」
「そうね。でも、こうなるって予想はしてたから」
「普段は私以外には……?」
「平日の夕方だったら人も来るわよ。でも、実は休日はうち営業してないの」
「えっ?」

 カードショップなら休日はお客さんが一杯来るはずだから店を開けるのが定石だ。それをしない三倉さんの話を聞いて私は呆然としてしまっていた。だったら、どうして今日はこのようなことをやっているのか? わざわざ女性向けのイベントを開くなんて……
 彼女は私の事をじっと見つめると、ちろりと舌を舐めまわした後にねっとりした声でそっと囁いてきた。

「あなたが来てくれるって、分かってたから開いたの」
「どうして」
「そうね、この後、暇? ご飯奢るわよ」

 私が頷くと、三倉さんはそっと微笑んだのちにここを出るように促す。

 居酒屋に行くのは初めてではなかったけれど、やはり雰囲気には慣れなかった。そんな私に配慮してなのか分からないけれど二人用の個室を取ってくれたため、靴を脱いで座敷の上で落ち着くことが出来た。
 フライドポテトをつまみながら私は三倉さんの方を覗く。カクテルでほろ酔いになったお姉さんはどこか恍惚の表情を浮かべていて、見ているこちらまで吞まれてしまいそうだった。そんな彼女が私の事を見つめてくる。

「ねえ」
「っ、はい」
「どうして急に遊戯王始めようって思ったの?」

 その答えはもう来る前にさんざん考えている事だった。

「高校生になってから新しいことを始めようと思ってて、その時にTwitterで私の近所でイベントやってるって聞いたから初めてみようかと」
「ふぅん、フォローしてる人で遊戯王プレイヤーがいるんだ」
「はい。その人の他のツイートも好きですけど、遊戯王について話している時は楽しそうにしているんです」

 実際、私の一方的な憧れだったのかもしれない。
 男性のイメージが強いカードゲームの世界でそれなりの実績も残していて、自分の軸があるあの女性プレイヤーのアカウントを見る度、自分もいつかは彼女のようにしっかりした人になれるのだと思っていた。でも、そんなことはなくて、高校に入った後の私は薄くなったジュースのように味気ない生活を送っている。
 同じことを始めれば輝けるかと、勝手に思い込んでいた。

「今日やってみたけれどやっぱり奥が深いですね……」
「この手のゲームは慣れよ。全てにおいて同じことだけど」
「ううっ、精進します」
「来週の土曜日、暇? あなたが来るならお店を開けておくけれど」

 三倉さんのその一言で、私はカードゲームを何となく続けることになった。



 それから私はその店に通い続けた。
 一週間に一度、私はお店で借りた【ファーニマル】で三倉さんとデュエルをする。回数を重ねるごとに大体のパターンも頭に入って来た為か、最初のようにボロボロに場を崩されることは無くなった。それでも、あと一歩追いつかない。

 そんな生活が続いていたある日。丁度学校の制服が夏服に変わっていた頃だった。いつものように土曜日に制服でその店に向かうと、店内で三倉さんは半袖姿で待っていた。私の事を待ってくれる彼女が店のエプロンをしなくなったのはいつからだっただろうか。

「店は暑いから、私のアパートに来ない? そこならエアコンもあるし、私の自前のカードもたくさんあるから」

 彼女の一言で私はアパートに上がらせてもらうことになった。勿論、彼女のお店から借りたファーニマルデッキと共に。1LDKの部屋はお世辞にも広いとは言えなかったが、エアコンで室温が管理されている事、そして、三倉さんの部屋だという事から私は不満を抱いてはいなかった。
 部屋の隅には大きめのベッド、そして空いた場所に置いてあるテーブル。その前に座ると、三倉さんは飲み物を出すと言ってくれた。すぐそこにあるシンクに逆さに置いてあったガラスのコップを水ですすぐその姿は未来の良妻を連想させる。彼女のような人だったら男の人からも引っ張りだこだろう。
 冷蔵庫から麦茶を出した彼女はそれをコップに注いで手渡ししてくれた。

「んくっ……はぁ、おいしい」
「最近暑いわよね」
「そうですね。あっ、頂いてしまってすいません」
「大丈夫。それじゃあ、今日もデュエルしましょ?」

 そうして、今日もまた彼女とのゲームが始まる。沢山デッキを持っているはずの彼女だったが、私とデュエルする時に使うのは決まって【捕食植物】というデッキだった。
 他のデッキを使わないのか、と前に尋ねたこともある。ただ、彼女は「貴女がファーニマルに慣れた頃には別のデッキを使うから」と言って詳しい理由までは教えてくれなかった。おそらく私がまだカードのことをあまりよく知らないからだろうけれど。

 四回程デュエルした。そのうち二回はこちらが完封負け。一回は惜しい所まで行ったけどダメで、最後の一回はデッキトップの勝負で負けた。

「もう私が負ける日も近いわね」
「えっ?」
「さっきのデュエル、私が良いカードを引いてなかったら負けてたもの。貴女もそのデッキの使い方を完全に覚えたみたいね」

 一週間に一度だけだったが、大体三か月程このデッキを使い続けていた気がする。その間に三倉さんからもいろんなことを教えてもらったし、自分でインターネットを使って調べたこともあった。それが実を結んだことを彼女の口から知った時、とても温かい気持ちが込み上げてくるのが分かった。

「……時間も時間ね。昼ご飯にしましょ?」
「すいません、お願いします」
「いいのよ。貴女と一緒にデュエル出来て、私はとても楽しいから」

 彼女は立ち上がってガスコンロの前まで歩くと、近くにある棚からほうろう鍋と袋ラーメンを取り出す。昼食が出来るまでの間、私はスマートフォンを取り出してTwitterを開いた。

 あの女性プレイヤーのアカウントの最近のタイムラインを見ると、オフ会を開いて他の仲間とデュエルをした一連のツイートがあった。同じ趣味を持つ仲間がいることへの喜びが見て取れるそれらは、今の私ならば共感できる内容だ。
 三倉さんと出会ってから、淡泊だった私の高校生活もちょっとだけ変わり始めた気がする。何か拠り所になる物が出来たおかげか、自分に自信を持って人と接することが出来るようになっていた。例えうまくいかないことがあったとしても、私にはカードゲームがあって、同じ時を共にしてくれる人がいる。少しくすぐったくて、幸せな気持ちだった。

「出来たわ」
「あっ」

 目の前には熱々のラーメン。渡された箸を受け取った私は、一口分を持ち上げた後に息を吹きかけて冷ました後にそれを食べる。おいしい。頭を使っていたせいだろうか。それとも、三倉さんが私の為に作ってくれたから?
 向かいで同じようにラーメンをすすっているお姉さんを見ていると、ふと彼女が視線をちらりと上げて私のとぶつかった。にこりと笑うその姿に胸がきゅんと切なくなってしまう。

 ――にしても、暑い。
 エアコンが効いている中でも、ラーメンを食べるとさすがに汗をかいてしまう。いつしか夏服にも汗がジワリと染み、肩の辺りが蒸れて気持ち悪くなってしまった。襟元をつまんでぱたぱたと風を入れてみたが、それでも再びぺたりと張り付いてしまう。

「暑いなら脱いでも平気よ」
「えっ、でも、それは……」

 三倉さんの声色が変わった。そっと上から撫でるように抑えつけてくる。

「無理しないで。私の前だからって遠慮は要らないから」
「ぁ……」

 器に残ったスープがきらりと反射する。ほんの少しだけど私の緊張した顔が映った。
 この夏服の下はキャミソール。三倉さんにそれを晒すことへの恥ずかしさはない、はずだった。それなのに、想像するだけで動悸が収まらない。
 身体に自信がないから、見られるのが恥ずかしい? それとも、私の中では所詮三倉さんは同じ趣味を持っているだけの関係だった? 違う、そうじゃない。私は――

「それじゃ、私が脱がせちゃおうかしら」
「えっ」
「確かその制服……そう、この辺りね」

 いつの間にか隣まで這い寄っていた彼女は、私のセーラー服の右脇の下辺りにあるファスナーをそっと下ろした。そのまま何も抵抗できずに脱がされてしまい、薄い白のキャミソールを晒してしまう。上から本当に少しだけ水色のブラが透けてしまっていた。これでは、私の身体のラインが丸見えだ。胸が小さいかもしれないって悩んでるのに、全部見えてしまう。

「あ、あんまり見ないでください」
「そう? なかなか可愛い身体してるわよ?」
「そんな」

 奇妙な感覚。身体中を舐められているような気分だ。でも、不思議と嫌ではない。それが何故か心地よくて、癖になってしまいそうな程に蠱惑的で。

「貴女だけが脱ぐのも恥ずかしいから、私も脱ぐわね」
「三倉さん……」

 私の目の前で彼女は着ていた半袖をするりと抜いた。ぽろん、と紫色のブラに包まれた彼女の大きな胸が露わになり、恥ずかしくて私はつい視線を逸らしてしまった。
 ……気まずい。やっぱり着直そうかと床で崩れたセーラー服に手を掛けた時、三倉さんがその手首を掴んで迫って来た。

「あっ」
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ、遊美さん」
「で、でも……」
「ねえ」

 両肩を掴まれる。顔が、近い。

「私の目を、見て?」

 目の前に三倉さんがいる。視線を逸らそうにも、彼女がそうしてはいけないと無言の圧力を掛けてくる。もうそんなに熱くないはずなのに汗が浮き出る。喉がどうしようもなく乾く。まともに頭が動かなくなっていく。

「三倉さん」

 逃げられなかった。
 私はずっと、見ない振りをしていたんだ。

「なあに?」
「三倉さん……」


 ――いつの間にか、私は、いけない事を考えてしまっていたんだ。


「好き、です」
「……ふふっ」

 地面に押し倒される。上に乗った三倉さんが優しく唇を寄せた。
 人生初めてのキスを、私は彼女に捧げていた。甘くて、暖かくて、蕩けてしまいそうなキスに溺れて、もう戻れない所まで進んで行く。時間が立つ度に、頭の中がどんどん気持ちよくなっていった。

「最初はカードゲームしたくて……でも、途中から、三倉さんに会いたくなって……」
「嬉しい。私の事をそう思ってくれていたんだ」
「好きです! 三倉さんの事を考えると、どうしようもなくなって……!」

 心の中に眠っていた狂気が花開く。彼女の事が欲しくて仕方がない。こちらからも背中に腕を回し、そっと引き寄せる。お互い床に転がった形となった。
 少し驚いたような顔をした三倉さんの胸に触れる。私よりも一回り大きなそれは触れた所からもっちりと形を変えていった。頂上部分の突起を指で弾いた時、少し上の方から息が漏れる音が聞こえてくる。

「ぁっ……悪い子ね、遊美さんは」
「三倉さんが、わたしをこんなにしちゃったんです……」
「それじゃ、私の方からもお返ししなきゃね」

 彼女の手が私のスカートをめくって、その中にするりと入っていく。ももをそっと触れた指先はだんだん身体の真ん中の方へ近づいて行って、そして、薄布一枚に遮られた入口をその上からそっと撫で始める。

「ひゃぁっ……」
「可愛い声で鳴くのね」
「だ、だめっ、おかしくなっちゃう!」
「まだ始まったばかりだから。そーれ」
「やあぁぁっ! ああっ、んああっ、あっ、あっ、あぁぁああぁあああ!」

 好き放題に彼女に鳴かされてしまう。でもそれが気持ち良くて、止められない。
 腰が跳ねる。身体中を、どうしようもない快感が駆け抜けていく。

「ひっ、やぁ、あんっ、ゆるして、ゆるしてぇ……!」

 駄目だ、このままだと、達してしまう。
 ここで達してしまえばもう、私は、三倉さんのことしか……

「だーめ」
「えっ……」
「貴女は私の獲物。捕まっちゃったらもう、食べられるだけなんだから」

 指が薄布をずらし、中までぬっぷりと入ってしまう。
 喉に引っかかるような声で喘ぎ続けた。それでも快感は殺しきれず、身体中がびくびくと震えてはそれを三倉さんに制される。

「ひゃあぁぁぁあぁあぁあああぁああーーーっ!!!」

 そして、私は、三倉さんの手によって、絶頂を迎えた。








 ――最初は私しか来なかった女性プレイヤー向けのイベントも、数年と言う時間で回数を重ねるごとに認知度が高まり、徐々に人が集まるようになっていた。私と三倉さんは運営側に回っていたが、時折人数調整の代わりに参加者とデュエルすることもあり、その度に私はデュエルの上手さを褒められる。それが、三倉さんとのデュエルによって培われたものであることは私と彼女だけの秘密だ。

 いつしか、私の使っている【ファーニマル】と三倉さんの使っている【捕食植物】はこの店の名物のような物にさえなっていた。ここに来たら強いデュエリストと戦える、という噂もあるらしく、まだ小さい小学生が勝とうと何度も挑戦を挑んでくる有様だった。その度に私がワンターンキルを決めると、泣いてしまった子供たちを慰める係の三倉さんが「ほどほどにしないとダメ」と仕方なさそうな顔で忠告してくる。
 仕方ないのだ。かわいい見た目で油断している相手を食らい尽くすのが、私のデッキであり、私自身でもあった。そんなこと言う三倉さんも同じだと思う。


 店の閉店時間になり、店内にいるのは私と三倉さんだけになる。
 私がデュエルスペースの机を付近で拭いていると、彼女は後ろからそっと抱き付いてきた。こうなった後どうなるか、身体が覚えてしまっている。

「ねえ……しない?」

 恍惚とした表情で頷く。
 まだ、私はこの人に勝てそうになかった。
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tres(トレス)
前半部分からこれがきっかけでプロデュエリストとして活躍するのかな、と思ってたら後半ですごいことになってました。確かに言われてみると数年前と比べて男女の比率がそこまで極端なものではなくなったような気がしますね。 (2017-05-31 18:03)
カズ
見た目もあってか、実際にファーニマルを操る女性デュエリストって少なくないですよね。某サイトでもよくそのデッキが優勝しているのを見たことがあります。
遊美がここから一人前のデュエリストとして成長するのか...と思いきやまさかのオチ。遊美さん、そっちの道は踏み入ってはいけない...!
(2017-05-31 22:10)
光芒
実際のデュエリストミーティングでもファーニマルが常に上位にいるんですよね。優勝者の方がリアル孔雀舞とかブルーエンジェルみたいな手練れなのかどうかはわかりませんが、見た目のかわいらしさが女性に人気のようですね。
この話でも、デュエリストミーティングに参加した女子高生が友達を増やしていくのかな……なんて思っていたら「なぁにこれぇ」な展開に。

いや私的には得しかない展開なんですけどね。まさか三倉さんが捕食植物(意味深)だったとは。でもって捕食植物に染められたファーニマルな遊美がデストーイとなって純粋無垢な少女デュエリストをエクシーズ次元を破壊するが如く自分色に染めていくということですねわかります続編待っています(殴
(2017-05-31 22:11)
白金 将
まず最初に。本当に申し訳ない(世界一誠意のない謝罪)

<<<tres(トレス) さん
正直なこと言うと「優しく誘ってくるお姉さんに狩られる純粋な女の子」シチュが書きたかっただけなので遊戯王である必要は無かった(え
女性が社会である程度地位を得るようになったせいでしょうか、カードゲームの世界でも時折見ることがありますね。そういう人って結構強かったりラジバンダリ。


<<<カズ さん
少し前に某サイトで女性限定大会の結果見た時の記憶が頭に引っかかっていたからファーニマルをセレクトしました。やっぱりかわいいって人気の理由になり得るんですね。
実は遊美さんが三倉さんに惚れている描写は冒頭部分でもちりばめられています。つまり彼女は最初から手遅れだったということですね……残念ながら(心こもってない


<<<光芒 さん
ファーニマルは安定性がありますからな。見た目と強さを兼ね備えた事から見るとあれが目指すべきコンセプトデッキの姿かもしれません。
女子高生が遊戯王に嵌る話だと思ったか!? 残念、嵌ったのは遊戯王ではなく百r(ry

使ってるデッキは何気にお互いの立場や内面を表したものにしています。女の子を誘惑して食べてしまう三倉さんは述べられている通り【捕食植物】、純情な振りして実は自分も同じ狂気を秘めている遊美ちゃんは【ファーニマル】です。続編? コレタンペンデカイタオハナシダケドナー (2017-06-01 05:00)
まーらいおん
書き方がすごい好きなSSでした。
ほんわかとしているけれど、しっかり書くべき場所はうまく書かれていて、すっきり読めてはっきりわかる、読んでいて楽しいSSでした。
ただ…ああ、こうなっちゃうんだあって、途中で見えちゃいますね、やっぱこういう題材だと。

嫌いですかって?そんなこと言いました?
大好物ですよ、寧ろ。いいぞもっとやれ
というかこのぐらいなら許されるのか…つか、絶頂っていう言葉がOKワードだったのか…!!(歓喜) (2017-11-26 23:05)
白金 将
<<<まーらいおん さん
コメントありがとうございます(^^♪ もうこれも半年ほど前の作品になりますね……当時の事こそ思い出せませんがこうして前に書いた作品を読んで楽しんでいただけていると嬉しいものです。
お姉さんがリードしてくるタイプの百合がテーマでした。まぁ途中の方で風向きが変わってきて「ん?」となるのは致し方ないか。そもそもアレだし。

たまにはこんな感じの奴を投下しようかな……でも更新しなくちゃいけない作品があるのでまずそちらに力を入れないと(´・ω・`)
いろいろとここは使用できる単語に制限がありますが「絶頂」はOKらしいですね。これくらいで許されるかどうか……ほどほどに?(え) (2017-11-29 07:23)

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