第９話　死霊銀龍、召喚　作：提馬風

――プライドタワー、モニタールーム――

大橋「デュエルディスクシステムに侵入者、ソリッドビジョンに異常！
　　　プロセスモンスター及びエルストロームと類似したエネルギー波形……」

大橋「試合中継にはCMを挟むしかなさそうですねぇ……。
　　　選手の退避もしたいところですが、強制デュエルを解除することはできない……」

ウィィィン

奈良「神馬、今のは……」

大橋「あえ……奈良様、体調の方は大丈夫なのですか？」

奈良「なんか試合直後の記憶があやふやだけど、なんともないよ？
　　　あたし、医務室に運ばれたみたいだけど、何があったの？」

大橋「はぁ……、何ともないならいいですが。
　　　とにかくさっさと出て行ってください、今はトップシークレットのファイルで作業をしているんですから」

奈良「ふぅん……なんかとんでもないことをしてるらしいね。ちょっと見せろっ！」ﾊﾞｯ

大橋「それはなりません！ これは初代様の残した大事なデータ、神馬様でさえ開くことは許されないのです！！
　　　いいから仕事をさせてください！ 屋上にいる選手が危険にさらされているのです！」

奈良「だったら、あたしが屋上に行って……」

大橋「それは不可能です。ディスクさえ異常をきたしているのですから！
　　　今、奈良様がなさるべきことはただ一つ。神馬様をここへお呼びください……！」

奈良「……わかった。信じたからね、大橋」ﾀﾞｯ


大橋「……」

大橋「初代様……、一体何が起こっているのでしょうか……」

―――

化け物「スタンバイフェイズ、メインフェイズ。手札から『封印の黄金櫃』を発動し、
　　　デッキの『エルストローム・アースラ』を一時的に除外する」

化け物「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、
　　　我は獣戦車 ティーガーを除外し、手札から『ウエルストローム』を特殊召喚！」

ウエルストローム「グゥゥ……」☆5 ATK1900

デュエルしている化け物が一回り小さくなったようなモンスター。腕がディスクではなく、そして下半身は触手状になっている。

『ウエルストローム』は場に現れると、『獣戦車 ティーガー』をいともたやすく喰らい、その破片は灰になった。

ウエルストローム　レベル5　闇
悪魔族／特殊召喚／効果
このカードは通常召喚できない。このカードはルール上属性を持たないモンスターとして扱う。①：相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは相手フィールドのモンスター１体を除外し、手札から特殊召喚できる。②：このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに、その相手モンスター１体を対象として発動する。その相手モンスターとフィールドのこのカードを次のスタンバイフェイズまで除外する。③：自分・相手のエンドフェイズに発動する。自分は２０００ダメージを受ける。
攻撃力 1900　守備力 700

エルヴィラ「ティーガーを……貴様……！」

エルヴィラは怒りに震えていたが、化け物はそれに耳を傾けなどしない。

化け物「エルストロームモンスターが特殊召喚されたことにより、
　　　我は手札から速攻魔法『激流昇』を発動。
　　　フィールドのモンスターを全て破壊する」

激流昇　速攻魔法
①：「エルストローム」モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。フィールドのモンスターを全て破壊する。

フィールドには『ウエルストローム』しか存在しないため、それだけが破壊される。

化け物「処理終了後、破壊されたレベル5のウエルストロームの魂が昇華する。
　　　プロセス召喚。レベル5、『エルストローム・アースラ』」

口すらない代わりに、鬼のような角が生えた顔の骨。
肘から先が二股に分かれた腕。
『ウエルストローム』と同じく、触手状の下半身。
しかし大きさは倍近いという化け物が、フィールドに君臨する。

アースラ「ジュルル……」☆5 ATK2800

エルストローム・アースラ　レベル5
悪魔族／プロセス／効果
破壊されたモンスター
①：このカードがプロセス召喚に成功した場合、除外されている相手のカード１枚を相手の墓地に戻して発動できる。自分フィールドに「エルストローム・キッドトークン」（悪魔族・星４・攻１０００／守０）２体を特殊召喚する。②：１ターンに１度、このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、フィールドにレベル５以上のモンスターが特殊召喚された場合に発動する。そのモンスターを破壊し、ターン終了時まで、このカードはそのモンスターと同じ効果を得る。この効果で属性を持つモンスターを破壊した場合、そのモンスターは除外される。
攻撃力 2800　守備力 2000

化け物「エルストローム・アースラの効果発動。獣戦車 ティーガーを墓地へ戻し、
　　　『エルストローム・キッドトークン』2体を特殊召喚」

キッドトークン「ズズ……」☆4 ATK1000
キッドトークン「ズズ……」☆4 ATK1000

化け物「我はエルストローム・キッドトークン2体をリリースし、手札から『ホエルストローム』を召喚」

ホエルストローム「グオォォォ！！」☆8 ATK2000

今度は狼の頭の骨。やはり口だけが残っていて、今度のは腕が分かれていない。

ホエルストローム　レベル8　闇
悪魔族／効果
このカードはルール上属性を持たないモンスターとして扱う。①：このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。②：このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、その相手モンスターを除外する。③：このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。デッキから「ホエルストローム」１体を攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃しなければならない。
攻撃力 2000　守備力 0

化け物「メインフェイズを終了し、バトルフェイズ。
　　　　エルストローム・アースラで『YUHI』にダイレクトアタック」

遊陽「この瞬間、リバースカード・オープン！ 杜の化身-リグロース・ローズ！
　　　手札の大いなる記憶の樹を捨て、アイヴィ・ガードナーを再度セットする！」

リグロース・ローズ ☆2 DEF200

化け物「戦闘を巻き戻し、エルストローム・アースラで『ELVIRA』にダイレクトアタック」

遊陽「避けて！！」

『エルストローム・アースラ』の太い触手が、エルヴィラに向かって振り下ろされる。
エルヴィラは咄嗟に直撃を回避したが、その衝撃で屋上の端まで吹き飛ばされた。

エルヴィラ「ぐうっ……！」ﾄﾞｻｯ

遊陽「ごめん、ティーガー。今のを止めるわけにはいかなかったんだ」

エルヴィラ「フン……わかってるさ。試合は中断されていないからな」ﾖﾛ

化け物「ホエルストロームで『ELVIRA』にダイレクトアタック」

エルヴィラ「くっ……、終わりか……」


遊陽「永続トラップ発動、デッキのダンディライオンを墓地へ送り、杜の化身-アイヴィ・ガードナー。
　　　ホエルストロームを攻撃不能にし、アイヴィ・ガードナーと綿毛トークンを特殊召喚する！」

綿毛トークン ☆1 DEF0
綿毛トークン ☆1 DEF0
アイヴィ・ガードナー ☆2 DEF2000

エルヴィラ「遊陽……」

遊陽「ホエルストロームは戦闘ダメージを与えると、次のホエルストロームを呼び出すの。
　　　もしエルストローム・アースラの攻撃を止めたとしても、ホエルストロームが2回攻撃してきたら終わりだからね」

エルヴィラ「そうか……、ありがとう遊陽。
　　　だが、ここからこいつをどうする？」

遊陽「見た目だけじゃなくて、効果も化け物ぞろい……。私でも、こんなのは相手にしたことないよ……」

化け物「メインフェイズ2。我はカードを２枚セットして、エンドフェイズに移行、ターンエンド」

遊陽「今の手札なら、大いなる記憶の樹を呼び出すことはできない。何か、逆転の方法を考えないと……。
　　　でも、どうしたら……」


Joining……
SIL LP2000

「ボクのターン！！」ﾋﾞｼｯ!

突如、タワーの屋上に人の影が飛び出した。
龍の骨を被ったそのデュエリスト。その銀の髪が風に煽られるのを見て、遊陽はそれが誰なのかを思い出す。

遊陽「シル……！！」

シル「下がってなよ……、ボクがエルストロームの狩り方ってものを見せてやる！
　　　ボクは2体のエルストロームをリリースし、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を特殊召喚！」

ラヴァ・ゴーレム「オォォ……」☆8 ATK3000

シル「そしてフィールドに炎属性モンスターが――」

化け物「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムの特殊召喚成功時、それを対象にトラップカード『エルストロームの顕現』を発動。
　　　溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムと同じレベル8のエルストローム・プロセスモンスター１体をデッキから除外。
　　　我はデッキから『エルストローム・フィドラー』を除外し、対象となった溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを破壊する」

エルストロームの顕現　通常罠
①：自分フィールドのレベルまたはランクを持つ表側表示モンスター１体を対象として発動できる。そのモンスターのレベル・ランクと同じ数値のレベルを持つ「エルストローム」プロセスモンスター１体をデッキから除外する。その後、対象のモンスターを破壊する。

エルストローム・フィドラー　レベル8
悪魔族／プロセス／効果
破壊されたモンスター
①：このカードがプロセス召喚に成功した場合、除外されている相手のカード５枚を相手の墓地へ戻し、相手フィールドのモンスター２体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、その攻撃力の合計分のダメージを相手に与える。②：１ターンに１度、ダメージを与える効果が発動した時に発動する。その効果で発生するダメージを３倍にし、そのダメージを受けたプレイヤーは手札を２枚除外する。③：このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算前に発動できる。その戦闘を無効にし、このカードの攻撃力分のダメージを相手に与える。
攻撃力 3200 守備力 2000

化け物「処理終了後、除外されているエルストローム・アースラを対象として、
　　　永続トラップ『エルストロームの呼び声』を発動。
　　　エルストローム・アースラを攻撃表示で特殊召喚」

アースラ「ジュルル……」☆5 ATK2800

エルストロームの呼び声　永続罠
①：除外されている自分の『エルストローム』モンスター１体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは自分フィールドにセットされる。

シル「ボクは手札から『エレメント錬成陣』を発動。手札からグローアップ・バルブを捨て、
　　　地属性の『El-マッドスライダー』を手札に加える！」

エレメント錬成陣　通常魔法
①：手札から属性を持つモンスター１体を捨てて発動できる。そのモンスターと同じ属性の「El」モンスター１体をデッキから手札に加える。

El-マッドスライダー　レベル8　地
①：フィールドに地属性モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。②：このカードが効果の対象になった時に発動する。このカードの守備力は1000アップする。③：このカードの攻撃力がこのカードの守備力より高い場合、このカードは破壊される。
攻撃力 3000　守備力 3000

化け物「エルストローム・アースラの効果発動。特殊召喚されたEl-マッドスライダーを除外し、その効果を得る」

崖のようにそびえ立つ『El-マッドスライダー』でも、『エルストローム・アースラ』には敵わない。
その触手によって岩盤は灰と化してしまう。
しかし、『El-マッドスライダー』の力を得た『エルストローム・アースラ』も、土砂崩れのごとく崩れ去ってしまった。

化け物「エルストローム・アースラの効果が適用され、エルストローム・アースラは破壊される。
　　　エルストロームの呼び声を再びセット」

シル「虚無に対して、いかなる感情を抱く必要もない。
　　　だが……、ボクはエルストリームが憎い！」

シル「ボクの相棒も虚無の力に変わりはない。
　　　貴様らが虚無を虚無で洗い流すのなら、それを討つのもまた虚無の力！
　　　今ここに拓かれる無彩色の聖域！ フィールド魔法『無彩色の聖域(ｱｸﾛﾏﾃｨｯｸ･ｻﾝｸﾁｭｱﾘ)』、発動！」

シルがフィールドゾーンにそのカードを差し込むと、周囲の景色から色彩が消え去った。
シルは龍の骨を高く掲げ――、そしてその骨の眼が銀に輝きだした。

無彩色の聖域　フィールド魔法
①：このカードの発動時の効果処理として、自分の墓地のモンスターをレベルの合計が８以上になるように除外し、そのレベルの合計と同じレベルの「銀龍アクロマ」モンスター１体を手札から召喚条件を無視して特殊召喚する。②：フィールドの属性を持たないモンスターの攻撃力・守備力は３００アップする。③：自分ドローフェイズのドロー前に発動できる。このターン通常のドローを行う代わりに、自分の墓地の属性を持たないモンスター１体を手札に加えるか除外する。

シル「アクロマティック・サンクチュアリの効果！ ラヴァ・ゴーレムとグローアップ・バルブを除外する！」

シルのデュエルディスクの墓地から、銀に輝く火の玉が9つ、龍の骨の元に集まる。
骨はシルの手を離れ、空中に舞い上がった。

シル「その身朽ち果てども、叡智は虚無の境地にあり。今ここに君臨せよ、精霊龍の魂！
　　　レベル9、El-死霊銀龍アクロマ・スピリット！！」

龍の骨の下から、銀の炎が勢いよく吹き出した。
やがてそれは胴体、脚、腕、尾、翼を形成し、龍の亡霊のような姿となった。

アクロマ・スピリット「キュウウウゥゥ！！」☆9 ATK4000

El-死霊銀龍アクロマ・スピリット　レベル9
ドラゴン族／プロセス／効果
相手によって墓地へ送られたモンスター
①：１ターンに１度、デッキから属性を持つ「El」モンスター１体を墓地へ送って発動できる。このターン、そのモンスターと同じ属性を持つモンスターと同じ属性のモンスターは属性を持たないモンスターとして扱う。この効果は相手ターンでも発動できる。②：属性を持たないモンスターの効果が発動した時、墓地の「El」モンスター１体を除外して発動できる。その発動を無効にし除外する。③：このカードが特殊召喚に成功したターンのエンドフェイズに、自分フィールドのカード１枚を対象として発動する。そのカードを手札に戻し、このカードを除外する。
攻撃力 4000　守備力 0

シル「アクロマティック・サンクチュアリの効果により、属性を持たないアクロマ・スピリットの攻守が上昇する！」

アクロマ・スピリット ATK4300 DEF300

シル「デッキから『El-フシャドウ』を墓地へ送り、アクロマ・スピリットの効果発動！
　　　このターン、闇属性を消し去る！」

El-フシャドウ　レベル6　闇
悪魔族／効果
このカード名の②の効果は１ターンに１度しか発動できない。①：フィールドに闇属性モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。②：このカードが効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのモンスター１体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にし、このカードを墓地から特殊召喚する。
攻撃力 1800　守備力 400

化け物「相手の除外されている溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムとグローアップ・バルブを墓地へ戻し、
　　　手札から『ツイエルストローム』の効果発動。相手の効果の発動を無効にし破壊、そしてツイエルストロームを特殊召喚」

ツイエルストローム　レベル7　闇
悪魔族／効果
このカードはルール上属性を持たないモンスターとして扱う。①：相手の魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、除外されている相手のカード２枚を相手の墓地へ戻して発動できる。その発動を無効にし破壊する。その後、このカードを手札から特殊召喚する。②：このカードは相手の効果の対象にならない。
攻撃力 2000　守備力 1000

シル「アクロマ・スピリットの効果発動！墓地のマッドルを除外し、
　　　属性を持たないモンスターの効果の発動を無効にして除外する！
　　　『イレイズ・インフェルノ』！」

『El-死霊銀龍アクロマ・スピリット』の吐いた銀の炎が、化け物の手札を消し去った。

シル「バトルだ。アクロマ・スピリットでダイレクトアタック！
　　　『滅却のヴァニティ・スクリーム』！！」

アクロマ・スピリット「キュウウゥゥ！！」

『El-死霊銀龍アクロマ・スピリット』が、銀の炎を化け物めがけて吐き出した。
それは化け物を包み、そして、やがてその化け物は灰となった。

UNKNOWN LP0
WINNER SIL

シル「お疲れ、相棒」

デュエルの終了とともに、『El-死霊銀龍アクロマ・スピリット』は元の骨だけとなり、シルの頭の上に舞い戻った。

シルが化け物の残骸にデュエルディスクを向けると、残骸は収縮してゆき、やがて1枚のカードとなった。

『ウエルストローム』

シルはそのカードを拾い上げ、辺りを見回す。
狒々木はどこかへ消え、エルヴィラはショックで気を失い、遊陽は唖然として固まっていた。
そして化け物の現れた黒い渦が、未だゆっくりと回っている。

シル「……不憫だな」

シルが倒れているエルヴィラを見て呟く。

遊陽「……えっと、シル。これからどうするの？」

シル「ボクは元の次元に戻って、エルストローム狩りのギルドで報告を行う。できれば君にも来て欲しいんだけど……」

遊陽「えっ？」

シル「もちろん無理にとは言わないが、どちらにせよ君はエルストロームと戦い続ける運命にある。
　　　仲間は多い方がいいでしょ？」

遊陽「……そうだね。わかった、私も行くよ」

シル「よし……、そうと決まれば！」ブンッ

シルは虚空に向かって、思いきり殴るようにデュエルディスクを振る。
すると空間にばきりと割れて、黒いトンネルが開通した。

シル「さあ、行くよ！」ｸﾞｯ

シルは遊陽の腕を引いて、その穴に飛び込んだ。

遊陽「うっ……うわああぁぁぁ！！」