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2話・《ホープなきワールド》 作:Holic
ピリカ「おじさん、ここほんとうにしんりょうじょなの?」
ピリカが疑問に思うのも無理はない。
なぜならピリカの目の前には明かりも無く、人気(ひとけ)も無く、何年も人が出入りしていないようなあばら屋にしか見えないからだ。
サムソン「いやぁ~、ここは本当に診療所のはず何だがなぁ。おじさんが診療所の後ろを見てくるから、ピリカちゃんはここで待ってて!」
ピリカ「うん!気をつけてね!」
屈託のない笑みでサムソンを見送る。
しかし・・・
サムソン「ボス!今日こそは上玉の女の子をつれてきましたぜ!」
ボス「バッカお前、小さい声でしゃべれよ!」ヒソヒソ
大声で話すサムソンを叱りつける「ボス」と呼ばれた男。この2人は一体・・・
サムソン「いやぁ、あの娘どうやらガスタらしいんスよ。」
ボス「何ぃガスタだと?おお、コイツは高くつくぜぇ!上手い具合に高く売りつけられれば、今後10年は遊んで暮らせるぞ!」
この2人、会話から見て分かるだろうが「人身売買」で生計を立てているのである。
人身売買とは、字のとおりに「人を拉致し、値段をつけて売買する事」である。用途は人によって様々で、無休で死ぬまで働かされたり、アブノーマルな行為のための玩具とされたり、危険な人体実験の実験台にされたりと、基本は売春婦未満の地獄のような生活が待っている。
しかし当然ながらこの世界でも人身売買は厳しく禁じられており、見つかってしまった場合には無期懲役か死刑である。
ボス「ガスタなら一人2人減ったってバレねぇはずだ。どうせ警察部隊の「No.」のヤツらにさえバレねぇ!絶対だ!」
サムソン「さっすがボス!頭いいぜ!」
ボス「しかし顔を見ない限りには何とも言えないな。よし、オレがこっそり見てくるから、お前は待機してろ!」
そう言うとボスは診療所(?)の裏から玄関側に歩いていった。しばらくすると、ピリカのうめき声が聞こえてきた。恐らく同時にラムも気絶させられてしまったのだろう。
事が収まったと思い、玄関側に走ってきたサムソンだが、ボスがいきなり「このガキ気に入った!コイツはオレのアジトで飼う事にする!」
なんて言い出したので、正直驚きを隠せなかった。しかし、サムソンはボスがいなければ今頃路頭に迷って飢え死にしているので、反論は出来なかった。
ピリカ「こ、ここはどこ?」
ピリカが目を覚ますと、そこには1人の男が目の前の椅子に座っていた。
ピリカ「ねぇ、ラムは?ラムは!
どこなの?」
ボス「ラムぅ?もしかしてそいつは、それか?」
ボスが指を指した方向にいたのは、瀕死のラムを抱えたサムソンだった。
サムソン「ピ、ピリカちゃん・・・。」
ピリカ「そんな、おじさん・・・。こんなの、ないよぉ・・・」グスッ
ピリカはとてもショックだった。今まで他人に裏切られた事が無いこの少女には、とても辛いことだった。
打ちのめされたような感覚を覚えたピリカは、膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。
ボス「おい、感動の再開は終わりか?」バシッ
ボスは泣き崩れているピリカの胸ぐらをつかむと、思い切り平手打ちをかました。かなり力を入れてやった所為か、ピリカの頬は赤く腫れ上がった。
ピリカ「い、痛いよぉ!何するの!」
ボス「ほう、威勢がいいなぁ。オレお前の事好きになっちまったわ!」
そう言うとボスは、ピリカの頭を無理矢理つかみ、その小さな口の中に無理矢理舌を入れた。口の中を貪られる感覚に、ピリカは激しい嫌悪感を覚えた。
ピリカ「ッ!?んん!ぷはぁっ、はあ、はあ、はあ・・・。」
ボス「ふ、フハハハははは!!
いいぞガキ!いい感触だ!
さあて、遊びはここまでだ。次は、オレので相手するぜ。」
もうピリカは限界だった。
1日にいろんな事がありすぎた。早朝からずっと走り続けているし、短時間だけとはいえ信じていた人には裏切られ、相棒は瀕死だし、しかも今から酷い事をされる。
疲れた。
もう休んでいいよね・・・。
ラム・・・。
ピリカの目は虚ろで、もう何も考えられなくなった。
おおいガキ!コイツ死んじまうけどいいのか?
ピリカは我に返った。
目の前には、首から血を流して倒れているサムソンがいた。ボスの手には1枚の血の付いたデュエルモンスターズのカードが握られていた。
ピリカ「あ、ああ・・・!」
サムソン「ピ、ピリカちゃん・・・。助けて・・・。」
ピリカは何も言えなくなってしまった。衝撃だった。仲間同士で殺し合うなんて、信じられなかった。
ボス「なあ聞いてくれよ。コイツさ、オレが折角いいところだったのにさあ、いきなり「こんなよくないです!今まで黙ってたけど、こんな仕事もう嫌だ!」なんて抜かしやがるからさ、思わずカードで首切っちゃった。お前はコイツの事どうしたい?」
今のピリカに答えられるはずがない。
ボス「何も言えないか。
じゃあ逝け」スパッ
ボスは手にしたカードで首を切った。切り口から血が噴き出し、目の前のピリカを濡らした。
サムソンは口をパクパクさせながら死んだ。
ピリカ「お、おじさん。
うわあああぁぁぉん!!」
ピリカは後悔した。自分が「ころさない」と言えばもしかして助けてくれたのかもしれない。なんだかんだでラムには危害を加えていないし、本当はいい人だったのかもしれない。
ラム「キ、キュゥゥ。(ピリカ。おまえは何も悪くねぇ。やつはこうなる運命だったのさ。) 」
ピリカ「、、、」
ボス「さあて、お楽しみはこれからだな!そらよっ、
って、痛ぇ!何しやがる!?」
ピリカはボスの手に思い切り噛みついた。
ピリカ「よくも、おじさんをころしたな!わたしはさいごまでたたかう!」
ピリカの眼には光が戻っていた。最後まで諦めずに抵抗するつもりだ。
ラム「キュウ!キュウゥ!!(おい、無理するなよ!!) 」
ピリカの孤独な戦いが始まった。
ピリカ達が誘拐された頃、シャロック一行はヤコブ村に到着した。
シャロック「んん~ッ、おいしい空気!ウィンダとふたりきりで来れてよかった!」
ウィンダ「お言葉ですが、ホロウも忘れないでください。それに、ふたりきりなんてやめてください。
(いろんな意味でドキドキします、、、) 」
シャロック一行がのんびりしている中、「おやおやそこの少年よ。随分とお綺麗なお嬢ちゃんと一緒だねぇ。」と、初老の男が話し掛けてきた。しかしシャロックは「僕のツレが綺麗だって?おじさんいい目をしてますね。でも、この娘には綺麗よりはカワイイの方がふさわしいですよ!」と返した。
初老の男「なかなか仲むつまじいようだな。
しかし少年よ、さっきから殺気を隠し切れておらんよ?」
シャロック「!?」
初老の男「それにお嬢ちゃん。逆にあんたからは何も感じない。まるで空っぽのコップのようだな。私が思うに、少年の殺気に応じて空っぽのお嬢ちゃんが殺しに動く。そんな関係のようにも思えるな。
率直に聞こう。貴様、精霊か?
そして少年。貴様、精霊使いか?」
初老の男は全てを見抜いていた。この瞬間、ウィンダは身構えた。
しかしシャロックは「へぇ。おじさん、なかなか鋭いですね。」とさも余裕な感じに返した。
これに対し男も「フッ、重ったより冷静沈着よ。最近の若者にない良さがあるな。」と、さも褒めているかのように返した。
初老の男「そうだな。まずは自己紹介から行こう。私の名はハリー。こう見えても今年で52だ。」
シャロック「こう見えてもって・・・。十分初老の男性だと思ってたけど。
僕の名前はシャロック。
そしてこの子はウィンダ。」
シャロックとウィンダはていねいにお辞儀をした。
ハリー「言っておくが私はこう見えても(戦闘狂)の部類に入るほどデュエルモンスターズが好きだ。最も、そうでもなければこんな年まで生きていないと思うがね。」
シャロック「そうか。じゃあ楽しめるね。なんてったって躊躇を知らなさそうなんだもん。」
ハリー「ふん。小僧こそ見る目があるな。精霊使いが相手なら例え女子供でも容赦はせんよ。」
2人を覆う殺気が濃くなる。決闘はすぐにでも始まりそうだ。
ジャキッ!先に決闘盤を構えたのはハリーだ。遅れてシャロックも決闘盤を出現させた。
ハリー「ほう、随分と暗い色の決闘盤だな。若者なら、もっとこう派手なカラーの決闘盤にしたらどうかね?」
シャロック「だって、この色の方が僕のデッキに相応しいからね。前の街の人は格好いいって言ってくれたけど。」
ハリー「前は前、今は今だ。
さあ、決闘を始めようか!」
シャロック「さあさあ、楽しい愉しい決闘の始まりだ!
ウィンダ、今回もよろしくね。」
ウィンダ「了解です、マスター。
ですがあまり無理をしないように。」
ハリー・シャロック
「決闘!!!」
決闘の火蓋は今、この瞬間に落とされた。
勝利か敗北か、二極化された運命。
シャロックの戦いが始まった。
次回予告
「さあ出番だ!」
「少年、このデッキの秘密が分からないのなら貴様はあと一撃で負けるぞ。」
「ちっ!ガキの癖に生意気な!」
「わたしは、まけない!」
次回 風民と異徒の物語
第3話・《それぞれの戦い》
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