交流(共通)

一言掲示板 管理人連絡掲示板 遊戯王雑談掲示板 雑談掲示板

メインメニュー

クリエイトメニュー

その他

遊戯王ランキング

注目カードランクング


カード種類 最強カードランキング


種族 最強モンスターランキング


属性 最強モンスターランキング


レベル別最強モンスターランキング


デッキランキング

HOME > 遊戯王SS一覧 > 『夢』から覚めて

『夢』から覚めて 作:はにわ改

 
「ーー透矢?ちょっと、透矢?」

「お兄ちゃん?大丈夫?」

透矢の意識を現実へと呼び戻す声。
開いても落ちてしまう重い瞼を、ゆっくりと持ち上げていく。
すると徐々に眩しい光が目を刺激し、こちらを覗き込む複数人の顔が見え始めた。
すぐにそれは鮮明な景色へと変わり、心配するような幼馴染みの顔を認識する。

「まき・・・ちづる・・・」

「透矢!」

「お兄ちゃん!」

ーー重石を額に乗せているかのように働かない頭。
それでも何とか口を動かし、幼馴染みの名前を呼ぶと、その二人が顔を近付けながら自分を呼び返してくる。
何故、二人の表情が険しいそれを見せているのか、透矢には全く分からなかった。

「俺・・・?
ここは、どこだ?」

「保健室よ」

「・・・保健室?」

「うん、あんたが倒れて・・・」

「倒れた・・・?」

「覚えてないの?」

なかなか覚醒しない脳で少しずつが己が置かれている状況を把握していく透矢。
固いベッドの上、白いシーツが身体の上に掛けられている。
どうやら寝かされていた、というのはすぐに分かったが、何故そんな事に至ったのかが全く分からない。

「身体が・・・重い。
全然、動かねぇ」

「無理しないで、透矢。
今、先生呼んでくるから」

とりあえず身体を起こそう、と思ってもそれが出来ない。
真希はそんな透矢の肩を押さえて制し、丸椅子を立つ。
そして千鶴に視線で物を伝え、それに頷いて応えたのを見て、四方を覆うカーテンを潜り、先生を呼びに立ち去った。

ーー千鶴と二人きりになった空間。
千鶴は泣き出しそうな表情で、透矢を真っ直ぐ見つめている。

「・・・どうしたんだよ、そんな顔して・・・」

「だって・・・だって、お兄ちゃんが倒れて・・・」

「倒れたのか、俺・・・。
何か、頭が働かなくて、思い出せないや・・・」

「神楽坂会長さんとのデュエルの後、すぐ・・・」

「刹那とのデュエル・・・。
ーーそうか、そういえば俺、勝ったんだよな」

千鶴に言われて思い出す透矢。
刹那との決戦。
それに勝ち、大喜びしていた事など、今の今まで露ほどにも覚えてはいなかった。
千鶴が言うには、その後何の前触れもなく突然自分が倒れた、ということである。

「そうだったか・・・心配かけちまったな」

「お兄ちゃん・・・」

「もう大丈夫だから・・・だからそんな顔すんなよ・・・な?」

「うん・・・」

くしゃくしゃな顔の千鶴を慰めるように透矢は声を掛けた。
気持ちの弱いところがある千鶴はまだ不安そうだが、透矢が目を覚ましてくれて、少し落ち着いたようである。

「お兄ちゃん、何か、悪い夢でも見てたの?」

「え?」

「何か起きる時に・・・うなされてたみたいだけど・・・」

「・・・(夢、か)」

千鶴に聞かれて考える透矢。
『夢』についてははっきり記憶がある。
『お姉さん』の『夢』だ。

『お姉さん』と話していて、不意に意識が途切れーーそして目を覚ませば『現実』の世界。

やはりあれは『夢』だったのだろうかーー?
深層意識にある『お姉さん』に対する思いや記憶が、あの『夢』を見させたということか。

いや、だとしたら前回『お姉さん』の『夢』を見た時は、何故夢の世界で手渡された『女帝』や『ラグナシア』が手元に存在したのか。

ただの『夢』、と考えるには納得のいかない部分がいくつかある。
だがいくら考えても透矢には分からなかった。

「ーー先生が来たよ、透矢!
あとみんなも!」

ーーと、そこへ真希が戻ってくる。
カーテンが大きく開かれて、一斉に何人かの人が集まってきた。

「ーー透矢くん、大丈夫?」

「透矢!心配したよ・・・」

「遊戦名くん・・・」

「とうや・・・」

刹那、炎魅子、地影、そして水花が立て続けに口を開く。
会長、そして真希を含めて生徒会四天王が首を揃え、透矢が目を覚ますのを待ってくれていたようである。

「ああ、みんな・・・なんか悪いっすね。
心配かけたみたいでーー」

ベッドの左右に歩み寄る真希たちに、声を掛けながら身体を起こそうとするも、やはり思うようにならない。
そんな透矢を気遣い、無理しないようにとそれぞれが口を重ねる。
揃いも揃った女性群に気遣われ、情けないような気持ちになる透矢であった。

「ーー昨日、徹夜でもした?
身体が酷く疲労しているみたいだけど・・・」

更にそこへ、白衣を着た長身の女性が加わる。
保健の先生である『暗木 舞(くらき まい)』だ。
年は生徒たちと十歳程しか変わらず、顔立ちもそこまで年の差を感じさせない。
美形の顔立ちのはずだが、機嫌が悪いのか、眉を吊り上げて口元を尖らせているため、近寄り難い雰囲気だ。

普段元気が取り柄である透矢は滅多に保健室に行く事はないから、あまり面識はない。
せいぜい全校集会の時にその姿を見る程度のものだ。

「そういえば、お兄ちゃん、今日は朝早くからデッキいじってたって・・・」

「昨日も遅かったしね・・・寝不足なんじゃないの?
ーーったく、もう馬鹿ね!
みんなに心配かけて!」

「おいおい、仮にも俺は病人・・・痛てっ!」

暗木の声に千鶴、そして真希が透矢の頭を小突きながら答える。
すると暗木は狭い場所に集まった真希たちの傍らを通りながら、透矢の枕元に立つ。

「どれどれ、ちょっと脈診せてみな」

縦縞のシャツに、ズボン。
あまり容姿にこだわりがないのか、髪も整えてはおらず、化粧臭さも全くない。
しかも脈を診る、と言った彼女はポケットに手を突っ込んだままで、気のせいか面倒くさそうでもある。

「うん・・・やっぱり、脈がちょっと細いね。
身体の具合はどう?」

「少し重いですけど、大丈夫、です」

「・・・んなだらしない顔して、何が大丈夫だよ。
ったく、若いのは分かるけど、無理してあたしの世話焼かすんじゃないよ」

「す、すいません・・・」

病人相手に素っ気ない態度の暗木。
額を叩かれて、透矢は思わず謝るのだった。

「きっと、刹那さんとのデュエルで、いつも以上に緊張したんだと思います。
遊戦名くんにとっては、負けられない勝負・・・だったんですし」

そこへ地影がフォローを入れた。
その内容を聞けば、本人も知らず知らずの内に気持ちが張り詰めており、勝ったことでそれがぷっつりと切れたのだ、と納得できてしまうような理由付けになる。
千鶴や真希が口にしたように睡眠時間が短かったのも事実だ。

「にしても、大した奴だよ、透矢!
本当に刹那を負かしちまうんだからさ!」

「とうや・・・大丈夫?」

炎魅子が明るく笑いながら場の雰囲気をほぐし、水花は透矢の枕元で声を掛けている。
そんな水花の頭を、何とか動く手で撫でながら、透矢は笑顔を見せた。

「さて・・・。
取り敢えず、親御さんに連絡するかね。
もう結構な時間だし、動けないんじゃ迎えに来てもらう事も考えないとさ」

前髪を掻き上げながら、暗木がそう口にする。
そういえば自分は気絶していたということだが、どのくらいの時間が経過しているのだろうか。
カーテンに仕切られて外の様子を知る事が出来ない透矢は、ふとそれが気になった。

「えっと・・・今、何時ですか?」

「7時半だよ」

「うえっ?!ま、マジですか?!」

「マジだよ。
ったく、こちとら時間外労働させられて、いい迷惑だよ」

「す、すいません。
みんなも付き合わせちゃってーー」

「もう、先生!
病人にそれはないでしょう!」

刹那とのデュエルが始まったのが2時くらいだから、終わったのが3時にしても、4時間以上寝ていた事になる。
その間、真希たちはずっと付き添い、残ってくれていたわけで、透矢は余計に申し訳ない気持ちになる。
本音を言ってしまう暗木に地影が非難し、炎魅子は気にするな、と透矢に笑顔を見せている。

「いいえ、車は私の方で手配してあります。
先生はご両親に連絡報告だけお願いします」

「そう。
んじゃ、そうするよ。
色男はもう少し寝てな。
むりしてまた倒れられたら、あたしの手間が増えるだけさ」

「は、はい。
世話かけてすいません」

「ま、仕事だし仕方ないさね。
あー、早く煙草吸いて」

刹那のその言葉を聞いて、音を立てて頭を掻きながら立ち去ってしまう暗木。
保健の先生、とはお世辞にもいい難い態度に地影はもう・・・と声を漏らす。

「くすくす・・・透矢くん。
舞先生はあれでも、生徒の事はしっかり診てくれる女性(ひと)よ。
ちょっと無頼派なところはあるけど」

「そ、そうか・・・」

「暗木先生、あたしも良くメンタルな面でも相談に乗ってもらっててさ。
結構話せる人だよ」

「あら、炎魅子がメンタル面で相談?
あなたには縁の無さそうな話だけど」

「どういう意味だよ、刹那!
あたしだって年頃の乙女なんだからね!」

透矢の反応を窺ってか、フォローとも言えるような紹介をする刹那と炎魅子。
確かに無頼派は無頼派であるが、ああいうフランクさがあった方が、生徒たちも話しやすいのかもしれない。

「そういえば刹那、車用意してくれたって・・・」

「うん、もう外で待機してるから、いつでも出られるわよ」

「いや、そこまで迷惑かけらんないよ」

「気にしないの。
こういう時はお互い様。
前に透矢くん、倒れた水花の事診てくれてたでしょ?」

「あ、ああ。あれは当然の事しただけでさ・・・」

「それとおんなじ。
私も倒れた友達を無事にお家に帰してあげたい、ていう当然の気持ちよ。
あと、生徒のために出来る限りの事をするのは、生徒会長の務めよ?」

「悪いな・・・刹那」

刹那の計らいに透矢が、そして千鶴や真希も感謝する。
この計らいも知らぬ仲だからこそ、かもしれないが、
今は素直に好意に甘える事にしたようだ。

「それじゃ、私もちょっとその事で席を外すわね?
地影や炎魅子も送ってあげるから、帰りは心配しないで」

「悪いね、刹那」

「ありがとうございます、刹那さん」

刹那もそう言ってその場から立ち去る。
起き上がれない透矢はせめて頭を動かして、礼を告げるのだった。


ーー保健室を出た廊下先。
そこには二人の人物が肩を並べて何かを待っているようであり、出てきた刹那を見るとその内の一人が刹那と向き合った。

「ーーお姉さま、彼は?」

「心配いらないわ。
今、目を覚ましたから。
舞先生も休めば大丈夫だろう、って」

「そう・・・」

向き合う『同じ顔』。
姉、刹那と妹、久遠。
サングラスを外した久遠が刹那と向き合うと、まさにそれは鏡に映したかのようである。

「ーーあなたたちは先に帰りなさい。
こちらはもう少し様子を見てから、車で送る事にしたから」

特に他に言葉を交わすことなく、刹那は再び歩き始める。
一年振りに会った姉妹だというのに、透矢の件があったからまだ何も話せていない二人。
それを考えれば刹那の態度も冷ややかなものである。

「ーー刹那」

すると刹那を背後から呼び止める者がもう一人。

「・・・久しぶりね、フレッド」

そう、久遠と共に日本まで付いてきたアルフレッド。
彼とも一年の時を経た再会となる。

「悪いけど・・・今、ゆっくりと話していられないの。
先に久遠と一緒に家に帰っていてくれる?」

「・・・分かった」

振り向くことなく、それだけ告げて歩き出す刹那。
アルフレッドの声は、静かな廊下に寂しげに響いた。

「もう・・・お姉さまったら」

そんな姉の態度に少し不満をあらわにする久遠。
その視線はアルフレッドの様子を窺ってもいた。
アルフレッドはただ刹那の背中を追いかけるように、ずっとその方角に視線を遣っている。

「ーーさ、帰りましょ、フレッド。
姉さまもああ言ってることだし」

アルフレッドの手を引きながら促す久遠。
だがアルフレッドは動かない。
アルフレッドの揺るがない心中を察して、久遠はふん、と息を漏らす。
そうしてから不意に保健室に目を向ける久遠。

「(ま、折角だから・・・日本にいる間は私も楽しもうかしら・・・)」

人知れずほくそ笑む久遠。
アルフレッドはとっくに見えなくなった刹那を、未だに目で追っていた。
現在のイイネ数 79
作品イイネ
↑ 作品をイイネと思ったらクリックしよう(1話につき1日1回イイネできます)


名前
コメント

同シリーズ作品

イイネ タイトル 閲覧数 コメ数 投稿日 操作
86 訪問者 789 0 2017-03-05 -
79 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑦ 793 1 2017-03-05 -
84 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑧ 960 2 2017-03-06 -
86 四天王と久遠との再会 773 0 2017-03-07 -
82 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑨ 699 0 2017-03-08 -
73 神楽坂姉妹とアルフレッド 826 0 2017-03-09 -
104 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑩ 1034 1 2017-03-10 -
85 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑪ 831 1 2017-03-11 -
114 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑫ 899 1 2017-03-12 -
83 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑬ 928 1 2017-03-12 -
104 光と闇 会長・刹那の混沌を操る力!⑭ 899 1 2017-03-13 -
111 まき・ちづるの次回予告⑥ 1107 0 2017-03-14 -
97 四大天使降臨 851 1 2017-03-15 -
88 四大天使降臨② 811 2 2017-03-16 -
101 耐える透矢!混沌の侵食を阻止せよ! 890 1 2017-03-17 -
97 耐える透矢!混沌の侵食を阻止せよ!② 766 1 2017-03-18 -
92 逆転の切り札!女帝の力を解放せよ! 982 1 2017-03-18 -
96 逆転の切り札! 女帝の力を解放せよ!② 844 1 2017-03-20 -
110 逆転の切り札! 女帝の力を解放せよ!③ 833 1 2017-03-22 -
91 逆転の切り札! 女帝の力を解放せよ!④ 990 1 2017-03-23 -
107 逆転の切り札! 女帝の力を解放せよ!⑤ 937 0 2017-03-24 -
98 逆転の切り札! 女帝の力を解放せよ!⑥ 1009 0 2017-03-25 -
132 其の名はラグナシス・アレクシア 2626 1 2017-03-26 -
67 決着 912 0 2017-03-27 -
79 『お姉さん』 753 0 2017-03-28 -
79 『夢』から覚めて 840 0 2017-03-29 -
125 語る『ラグナシア』 902 0 2017-03-30 -
101 理事長現る! 703 0 2017-03-31 -
96 理事長、そして留学生 759 0 2017-04-01 -
94 そして世界大会へーー 768 0 2017-04-02 -
121 そして第二部へ続く 778 0 2017-04-03 -
136 『えみこ』と『ちかげ』の次回予告 1309 0 2017-04-04 -

更新情報 - NEW -


Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
Amazonバナー 駿河屋バナー 楽天バナー Yahoo!ショッピングバナー