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第18話 忍び寄る魔の手 作:氷色
遊緋達のクランーーー【赤のクラン―オシリス・レッド】結成の余韻も束の間、紅羽は更なる“金色の王”への道を話し始めた。
「さっきも言ったけれど、“金色の王”への要件はもう一つあるの」
そうだ、“金色の王”になるための条件はSランクになることだけではなかった。
「ーーーそれは、『DNo.(デモンナンバーズ)』と呼ばれるカードを全て手中にすること」
「デモンナンバーズっ!?」
遊緋達の声が揃った。
それもそのはずだ。ここにいる誰もが先のデュエルでその名のついたモンスターを見ていたのだから。
「それってさっき遊緋が使ったカードじゃねーか」
城之内が三人を代表するように呟く。
遊緋も我知らず頷いていた。
「ええ。正直言って私も遊緋くんがそのカードを持っていることには驚いているわ。本来ならそのカードはイベントでのみ配布されているらしいの。それが何故ほとんど初期デッキのままの遊緋くんが持っているのか……。遊緋くんは何か心当たりはないかしら?」
心当たりを問われれば、遊緋に思い至るのは一つしかない。
「声が聞こえるんです」
「声?」
「デュエル中に、本当に前触れもなく突然辺りが真っ暗になって、それでその闇の中から声が聞こえるんです。力を貸してやるぞって」
ずっと疑問に思っていた。あの現象が何なのか。その答えがようやく聞けるかもしれない。
「それで?」
それを聞く紅羽の顔は真剣だ。
「それで、昨日のデュエルの時、ボクはその声に導かれるまま響先輩の姿を思い浮かべて……。そしたらいつの間にかボクのデッキにあのカードーーー《DNo.37―C・HERO フェネクス》が……」
遊緋はあったことをそのまま伝えたつもりなのだが、紅羽は眉根を寄せる。
「要領を得ないわね。少なくとも私はいま遊緋くんの言ったような現象に心当たりはない。そんなことが起こるなんて、聞いたこともないわ」
紅羽が城之内達に視線を向けるが、そちらも困惑以上のリアクションはない。
紅羽が場をまとめるように息をつく。
「分からないことを悩んでいても仕方がないわ。このことは今は保留にしましょう。とにかく私達がまずやるべきことは、『DNo.』を1枚でも多く集めること。そして遊緋くん、それは他のクランも同じことよ。これからはキミの持つ『DNo.』が狙われる可能性もある。注意してね」
紅羽の警告に遊緋が頷く。
『DNo.』を狙っているのは他のデュエリストも同じ。逆に言えばこの『DNo.』を守り抜きさえすれば、他のデュエリストに先に上がられることはないということだ。なんとしてもこのカードだけは死守しなければならない。
遊緋の決意を見て取ったのか、紅羽の口元がかすかに綻ぶ。
しかしおしゃべりの時間はもう終わりだ。
「そろそろお昼休みも終わるし、今日のところはここまでかしらね」
時計を見ると、確かにそろそろ教室に戻らなければならない時間だった。
紅羽の意向を受けて、城之内が展開していたデュエルフィールドを消す。
遊緋達は互いの健闘を誓い合い、それぞれの教室へと帰っていった。
☆
「話し合いは終わったか……」
遊緋達の校舎の一角。一般の生徒は滅多に近寄らないその部屋は、今や不良達のたまり場となっていた。
しかし今はその部屋に人影は一つしかない。
窓際の棚に腰掛けていた大柄な男が見つめる先には、屋上の一角を覆うように展開されたドーム状の力場。男が呟くと同時にそれは霧散して消えた。
「デュエルフィールド内の会話は外に漏れることはない。密談には持ってこいーーーか」
男はそう呟くとクツクツと笑った。
「それは間違いじゃないよ、響紅羽。ただし、通常ならーーーという注釈付きだかな。何にでも例外というやつはある」
男は制服のポケットから携帯を取り出すと、ある人物へと電話をかけた。
数回のコールの後、相手が電話に出る。
『騒象寺か……。蛭谷さんに何か用か?』
出たのは取り次ぎの男だ。
『騒象寺(ソウゾウジ)』と呼ばれたこの大柄な男が用があるのはその『蛭谷(ヒルタニ)』なのだが、彼はとても用心深く一発で彼に繋がることはほとんどない。大抵この取り次ぎを介して用件を伝えるのだが、今回はそうもいかない。
「『DNo.』に関する情報だ。蛭谷さんを頼む」
騒象寺がそう電話口に告げると、相手の男は少しだけ黙り、そして『少し待て』とだけ言った。
言われた通りしばし待つ。騒象寺にとっては昼休みの終わりを告げるチャイムなど関係ない。
数分待つと、電話口に先程とは違う男が出た。
『なんだ、騒象寺。面白い情報じゃなきゃ殺すぞ』
何度聞いても嫌な声だ。
まるで大量の虫がうぞうぞと蠢いているような不快さ。間違いなく蛭谷のものだ。
しかし騒象寺はそんな辟易とした気持ちを微塵も出さずに用件を告げる。
「『DNo.』の所有者を見つけました。ウチの学校のヤツです」
騒象寺の言葉に、蛭谷は『ほお……』と若干機嫌を良くする。
『よく見つけたな、お前のデュエリストスキルに引っ掛かったか?』
騒象寺は内心舌を打つ。
『騒象寺……確かお前のデュエリストスキルは『地獄耳』とか言ったよな?』
蛭谷は配下のデュエリストスキルを全て把握している。
それは騒象寺のデュエリストスキル『地獄耳(ビッグイヤー)』も例外ではない。
『地獄耳』の能力は“対象となる人物を指定することで、その人物の周囲の会話を離れた場所からも盗み聞きできる”というものだ。正直言って地味な能力で普通のデュエルでは活かすことはできないデュエリストスキルではあるが、こと情報収集に関しては中々有用な能力だった。それは、先程の城之内達のデュエルフィールド内での会話も問題なく盗聴することができた程だ。
デュエルに直接影響を与えることはできずとも、日常生活上でアドバンテージを得ることができる。こういうデュエリストスキルもあるのだ。
「はい。実は先程までウチの城之内がそいつ相手にデュエルしてまして、その時の会話を」
騒象寺は『地獄耳』の対象に城之内を指定しておいたのだ。城之内はデュエリストになってからずっと精力的にデュエルを行い腕を磨いている。そいつをマークしておけばその内有益な情報を得られると踏んでのことだが、それがドンピシャ的中したわけだ。
城之内の名を聞いて蛭谷は『ハッ』と嬉しそうに笑う。
電話からも蛭谷の下卑た笑みが見えるようだ。
『城之内かぁ、懐かしい名前じゃねぇか。奴はどうしてる?』
「ウチに入ってからはすっかり日和っちまってますね」
中学時代の城之内の噂は騒象寺も聞いていた。
どれだけ骨のあるヤツか期待していたが、いざ入学してきてみれば何のことはないただのガキだった。その当時はずいぶんと拍子抜けしたものだ。
しかし蛭谷は最高のジョークでも思い付いたようにクツクツと笑う。
『だがアイツは使えるヤツだ。中学時代は喧嘩の腕も相当立ったが、ヤツの強みは何と言ってもここぞというところでの勝負勘の良さだ。喧嘩じゃなくデュエルでもそれが発揮できるのなら、捨て置くには惜しいな』
どうやら蛭谷はずいぶんと城之内を買っているようだ。中学時代、彼らには繋がりがあったと聞いてはいたが、それは本当だったらしい。
『で、その『DNo.』所有者はどんなヤツだ?』
「城之内と同じウチの一年です。さっきのデュエルでは城之内に勝っています。下の名前は分かっているので調べればすぐに身元は分かりますよ」
『仮にも『DNo.』所有者だ、それなりには腕が立つか。よし、そっちには近々こっちから兵隊を差し向ける。お前は城之内に近付け。どんな手を使ってもいい、ヤツを俺の所へ連れてこい』
『DNo.』所有者のユウヒとかいうガキはこれで終わりだ。蛭谷は馬鹿ではない、腕の立つ相手には複数のデュエリストを差し向けてくるだろう。いくら『DNo.』所有者とは言え、一度に囲まれては勝ち目はない。
だが懸念がないわけでもない。
「城之内の件は解りました。ただその『DNo.』所有者ですが、実はあの響紅羽とクランを作ったようです」
『なに?』
蛭谷もこの童実野区を本拠地に活動するデュエリストだ。響紅羽の名を知らないわけがない。
『響紅羽ーーーこの辺りじゃ唯一のAランクデュエリスト。ソロだと思って捨て置いていたが、こいつが絡んでくるなら少々厄介だな』
言葉とは裏腹に蛭谷の声には弾みがある。
『まぁいい、ならそのガキ一人のところを狙うまでだ。ククク、久々に楽しい狩りができそうだな』
蛭谷は心底楽しげに喉を鳴らした。
彼がこういう笑い方をするときは、大抵恐ろしい結果になる。誰かが必ず生け贄になって苦しまなければならないのだ。今回はそれが城之内とユウヒとかいうガキだった。
騒象寺はそう思うことで、自らの中に湧き上がる不気味な震えを抑え込んだ。
☆
「さっきも言ったけれど、“金色の王”への要件はもう一つあるの」
そうだ、“金色の王”になるための条件はSランクになることだけではなかった。
「ーーーそれは、『DNo.(デモンナンバーズ)』と呼ばれるカードを全て手中にすること」
「デモンナンバーズっ!?」
遊緋達の声が揃った。
それもそのはずだ。ここにいる誰もが先のデュエルでその名のついたモンスターを見ていたのだから。
「それってさっき遊緋が使ったカードじゃねーか」
城之内が三人を代表するように呟く。
遊緋も我知らず頷いていた。
「ええ。正直言って私も遊緋くんがそのカードを持っていることには驚いているわ。本来ならそのカードはイベントでのみ配布されているらしいの。それが何故ほとんど初期デッキのままの遊緋くんが持っているのか……。遊緋くんは何か心当たりはないかしら?」
心当たりを問われれば、遊緋に思い至るのは一つしかない。
「声が聞こえるんです」
「声?」
「デュエル中に、本当に前触れもなく突然辺りが真っ暗になって、それでその闇の中から声が聞こえるんです。力を貸してやるぞって」
ずっと疑問に思っていた。あの現象が何なのか。その答えがようやく聞けるかもしれない。
「それで?」
それを聞く紅羽の顔は真剣だ。
「それで、昨日のデュエルの時、ボクはその声に導かれるまま響先輩の姿を思い浮かべて……。そしたらいつの間にかボクのデッキにあのカードーーー《DNo.37―C・HERO フェネクス》が……」
遊緋はあったことをそのまま伝えたつもりなのだが、紅羽は眉根を寄せる。
「要領を得ないわね。少なくとも私はいま遊緋くんの言ったような現象に心当たりはない。そんなことが起こるなんて、聞いたこともないわ」
紅羽が城之内達に視線を向けるが、そちらも困惑以上のリアクションはない。
紅羽が場をまとめるように息をつく。
「分からないことを悩んでいても仕方がないわ。このことは今は保留にしましょう。とにかく私達がまずやるべきことは、『DNo.』を1枚でも多く集めること。そして遊緋くん、それは他のクランも同じことよ。これからはキミの持つ『DNo.』が狙われる可能性もある。注意してね」
紅羽の警告に遊緋が頷く。
『DNo.』を狙っているのは他のデュエリストも同じ。逆に言えばこの『DNo.』を守り抜きさえすれば、他のデュエリストに先に上がられることはないということだ。なんとしてもこのカードだけは死守しなければならない。
遊緋の決意を見て取ったのか、紅羽の口元がかすかに綻ぶ。
しかしおしゃべりの時間はもう終わりだ。
「そろそろお昼休みも終わるし、今日のところはここまでかしらね」
時計を見ると、確かにそろそろ教室に戻らなければならない時間だった。
紅羽の意向を受けて、城之内が展開していたデュエルフィールドを消す。
遊緋達は互いの健闘を誓い合い、それぞれの教室へと帰っていった。
☆
「話し合いは終わったか……」
遊緋達の校舎の一角。一般の生徒は滅多に近寄らないその部屋は、今や不良達のたまり場となっていた。
しかし今はその部屋に人影は一つしかない。
窓際の棚に腰掛けていた大柄な男が見つめる先には、屋上の一角を覆うように展開されたドーム状の力場。男が呟くと同時にそれは霧散して消えた。
「デュエルフィールド内の会話は外に漏れることはない。密談には持ってこいーーーか」
男はそう呟くとクツクツと笑った。
「それは間違いじゃないよ、響紅羽。ただし、通常ならーーーという注釈付きだかな。何にでも例外というやつはある」
男は制服のポケットから携帯を取り出すと、ある人物へと電話をかけた。
数回のコールの後、相手が電話に出る。
『騒象寺か……。蛭谷さんに何か用か?』
出たのは取り次ぎの男だ。
『騒象寺(ソウゾウジ)』と呼ばれたこの大柄な男が用があるのはその『蛭谷(ヒルタニ)』なのだが、彼はとても用心深く一発で彼に繋がることはほとんどない。大抵この取り次ぎを介して用件を伝えるのだが、今回はそうもいかない。
「『DNo.』に関する情報だ。蛭谷さんを頼む」
騒象寺がそう電話口に告げると、相手の男は少しだけ黙り、そして『少し待て』とだけ言った。
言われた通りしばし待つ。騒象寺にとっては昼休みの終わりを告げるチャイムなど関係ない。
数分待つと、電話口に先程とは違う男が出た。
『なんだ、騒象寺。面白い情報じゃなきゃ殺すぞ』
何度聞いても嫌な声だ。
まるで大量の虫がうぞうぞと蠢いているような不快さ。間違いなく蛭谷のものだ。
しかし騒象寺はそんな辟易とした気持ちを微塵も出さずに用件を告げる。
「『DNo.』の所有者を見つけました。ウチの学校のヤツです」
騒象寺の言葉に、蛭谷は『ほお……』と若干機嫌を良くする。
『よく見つけたな、お前のデュエリストスキルに引っ掛かったか?』
騒象寺は内心舌を打つ。
『騒象寺……確かお前のデュエリストスキルは『地獄耳』とか言ったよな?』
蛭谷は配下のデュエリストスキルを全て把握している。
それは騒象寺のデュエリストスキル『地獄耳(ビッグイヤー)』も例外ではない。
『地獄耳』の能力は“対象となる人物を指定することで、その人物の周囲の会話を離れた場所からも盗み聞きできる”というものだ。正直言って地味な能力で普通のデュエルでは活かすことはできないデュエリストスキルではあるが、こと情報収集に関しては中々有用な能力だった。それは、先程の城之内達のデュエルフィールド内での会話も問題なく盗聴することができた程だ。
デュエルに直接影響を与えることはできずとも、日常生活上でアドバンテージを得ることができる。こういうデュエリストスキルもあるのだ。
「はい。実は先程までウチの城之内がそいつ相手にデュエルしてまして、その時の会話を」
騒象寺は『地獄耳』の対象に城之内を指定しておいたのだ。城之内はデュエリストになってからずっと精力的にデュエルを行い腕を磨いている。そいつをマークしておけばその内有益な情報を得られると踏んでのことだが、それがドンピシャ的中したわけだ。
城之内の名を聞いて蛭谷は『ハッ』と嬉しそうに笑う。
電話からも蛭谷の下卑た笑みが見えるようだ。
『城之内かぁ、懐かしい名前じゃねぇか。奴はどうしてる?』
「ウチに入ってからはすっかり日和っちまってますね」
中学時代の城之内の噂は騒象寺も聞いていた。
どれだけ骨のあるヤツか期待していたが、いざ入学してきてみれば何のことはないただのガキだった。その当時はずいぶんと拍子抜けしたものだ。
しかし蛭谷は最高のジョークでも思い付いたようにクツクツと笑う。
『だがアイツは使えるヤツだ。中学時代は喧嘩の腕も相当立ったが、ヤツの強みは何と言ってもここぞというところでの勝負勘の良さだ。喧嘩じゃなくデュエルでもそれが発揮できるのなら、捨て置くには惜しいな』
どうやら蛭谷はずいぶんと城之内を買っているようだ。中学時代、彼らには繋がりがあったと聞いてはいたが、それは本当だったらしい。
『で、その『DNo.』所有者はどんなヤツだ?』
「城之内と同じウチの一年です。さっきのデュエルでは城之内に勝っています。下の名前は分かっているので調べればすぐに身元は分かりますよ」
『仮にも『DNo.』所有者だ、それなりには腕が立つか。よし、そっちには近々こっちから兵隊を差し向ける。お前は城之内に近付け。どんな手を使ってもいい、ヤツを俺の所へ連れてこい』
『DNo.』所有者のユウヒとかいうガキはこれで終わりだ。蛭谷は馬鹿ではない、腕の立つ相手には複数のデュエリストを差し向けてくるだろう。いくら『DNo.』所有者とは言え、一度に囲まれては勝ち目はない。
だが懸念がないわけでもない。
「城之内の件は解りました。ただその『DNo.』所有者ですが、実はあの響紅羽とクランを作ったようです」
『なに?』
蛭谷もこの童実野区を本拠地に活動するデュエリストだ。響紅羽の名を知らないわけがない。
『響紅羽ーーーこの辺りじゃ唯一のAランクデュエリスト。ソロだと思って捨て置いていたが、こいつが絡んでくるなら少々厄介だな』
言葉とは裏腹に蛭谷の声には弾みがある。
『まぁいい、ならそのガキ一人のところを狙うまでだ。ククク、久々に楽しい狩りができそうだな』
蛭谷は心底楽しげに喉を鳴らした。
彼がこういう笑い方をするときは、大抵恐ろしい結果になる。誰かが必ず生け贄になって苦しまなければならないのだ。今回はそれが城之内とユウヒとかいうガキだった。
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