DRAW:２６ 戒めの斬波⑤恐怖　作：人喰い

牧場「……『光の護封壁』を発動…！ ライフを2000払い、俺はデュエルに敗北する…！」【LP 2000→0】ピーッ！

優香「…！ どうして…！？」

牧場「キヒヒ……あんたらが今引いたカードは『死者蘇生』。俺にはもう生き残る道は残されていない。あんたらにトドメさされて逮捕されるくれぇなら、喜んでこの身を投げ打ってやんよ、って事だ」

戒「なんだと…！」

優香「……！！」

牧場「キヒヒ…最後にあんたらの名前くらいは聞いといてやるよ」

優香「……白河、優香よ」

戒「……斬波…戒だ」

牧場「…斬波……！！？ キヒヒ…！！面白ぇ……じゃあな」



優香「ーーーまって！ 貴方が死ぬ必要なんてないわ！ 犯してしまった罪は、償えばいいじゃない！」



牧場「……そういう次元じゃないんだよなぁ…。闇のゲームは」


優香「…どういう…事よ」


牧場「…おっと、時間が来たみたいだーーーあばよ」



牧場は白河の言うことをまるっきり無視し、そう言い残すと、この世のものとは思えない奇声を上げ膝を付き、喉を抑え、悶え、這いずり回り、やがて、音を立てて川に落ちた。

ドボン、と。

そしてその澄んだ水の流れていた川が、赤き鮮血に染まってゆく様子を、俺たちはしばらく呆然として見ていた。


ーーー牧場総司は死んだ。


敗者には苦悩と絶望を。
それがーーー『闇のゲーム』なのか。











遊戯王Ph.X DRAW:２６
《戒めの斬波》⑤恐怖











優香「ーーー答えなさい！ 牧場総司は一体何が目的だったの！？」


牧場が死に、事件の手がかりを失った俺たちは、黒ずくめ達に事情聴取をしていた。


黒ずくめs「お、俺たちは本当に何も知らないんだ！ 金をもらって、それで……」

優香「そんな言い訳、この優香様に通じると思って？」

戒「…俺にはまだお前のキャラが掴めないぞ……白河巡査部長」


黒ずくめ達は手足を縛られ、身体の自由がきかない状態だ。それをいいことに、白河は黒ずくめ達の全身タイツを下腹部から下に向けて破いていき、川で乱獲してきたザリガニに紐をくくりつけ、まずは１匹、投入する。


黒ずくめs「えっ…/// ちょ…待っ………いだだだ！ 千切れる！ 千切れるぅ！」

優香「生憎ですが、私にはパンツの中にザリガニを入れられる苦しみがわからないんですよねーっ」キャハ♪

この女、極上の笑みである。

戒「………えげつない」

優香「ほらほら２匹目いくよーっ！ それーっ！」

黒ずくめs「あ……っ♡ ひ…んっ♡
い、言います言います！ だからこの気持ちい……じゃなかった！ 痛々しいザリガニを取ってくれぇ！」

優香「どぉしよっかなーっ♪」

戒「…白河巡査部長。その辺にしておけ」

俺は半分呆れた風に白河を制止する。

優香「はい！ 了解しました！ ボス！」

白河は俺の方に振り向き、気をつけして、右手が使えないので左手をこめかみに当てて敬礼をする。

優香「(￣^￣)ゞ」

戒「…なんだかな」

俺はため息混じりに肩をすくめた。



＊


黒ずくめ「ーーー牧場さんが居なくなってしまった以上、仕方がない。話してやる」


優香「………っ。……下半身を露出させながら言っても緊迫感がないわね…///」


戒＆黒ずくめs「「「あんたが露出させたんだろーがっっ！！」」」


つい俺も黒ずくめと一緒につっこんでしまった。

優香「あははごめんごめんっ。…それで？」

自分で逸らしておいて急に話を戻そうとしやがった。まったく、自分勝手な女だ……。


黒ずくめ「…まあいい。牧場さんはある男からの依頼で、決闘者狩りをしていたのさ。闇のゲームを操る力もその時に渡されたらしい…」

戒「…決闘者狩り…か。それによってなんのメリットがあるんだ？」

黒ずくめ「詳しい話は聞いてないからわからないが、何でもその依頼人が、決闘者の魂とーーー“カードの精霊”ってやつを欲してるんだとさ」

戒「……！」

カードの精霊……だと？

優香「…じゃあ、闇のゲームを操る力を渡された、っていうのは？」

黒ずくめ「それがどういう事なのかは全くわからない。その事の後に雇われた俺たちはその現場を見てないからな」


優香「ふむ。なるほどねぇ…。あっ」

白河は少し考えこみ、すぐに何かを思い出したようで、

優香「そういえばあなたたち。この辺で窓ガラスが割れる音聞かなかった？」

と、当初のもう１つの疑問を黒ずくめ達に投げかけた。

黒ずくめ「…あぁ、そういえば聞いたな。牧場さんは特に気にも止めてなかったが、な。丁度、あそこの御屋敷じゃねぇか？ ここら辺に建物なんて他にないからな」

黒ずくめのうちの１人がそう言い、屋敷のあるらしき場所を指差す。
その方向に目を向けると、かすかにだが、確かに、木々の間から屋敷のような建物が顔をのぞかせている。

優香「なるほどね。ありがとう粗チ………黒ずくめさん達。んじゃあ戒きゅん！ 帰り道を探す前にあの怪しき御屋敷を調査よ！」

黒ずくめs「…今何かトンデモナイ事を言いかけなかったか…？」


早足で屋敷の方へ歩いて行く白河を追おうとして、一瞬思いとどまる。
そうだ。
黒ずくめ達にはまだ聞いておかなくてはならない事があったじゃないか。確かめなくてはならない事があったじゃないか。
俺は黒ずくめ達の方に振り返り、問う。

戒「………肝心な事を聞き忘れていた」

俺の声を聞いて白河も早足だった足を止め、耳を傾ける。

戒「牧場総司に決闘者狩りを依頼した『ある男』とは誰なんだ」

黒ずくめは一瞬もごついたあと、ゆっくりと口を開き、男の名を口にした。



黒ずくめ「ーーー斬波…無双（ざんば むそう）」



優香「……っ！！」


戒「……やはり、な」


死に際の牧場の反応から、大方の予想はついていたが、やはり、“俺の知らない身内の男の名”だ。

おそらくは、俺の父親なのだろう。


優香「…戒きゅん……」


戒「…聞きたかったのはそれだけだ。…白河巡査部長。行くぞ」


優香「…えっ……？ ええ…行きましょう」








黒ずくめs「………俺たちこのまま放置かよ……」




＊



戒「白河、身体の方はどうだ？」

優香「腕は無理に動かさなきゃ平気よ。問題はあばらね〜。呼吸するのもしんどい…」

戒「無理をするな…」

優香「流石の私もあの攻撃は死ぬかと思ったわ」

戒「…相当なタフさなんだな。白河巡査部長は、どんなことがあっても死にはしないだろうな」

俺は半分冗談混じりのつもりだったが、そんな風に思ってしまった。

優香「…ねぇそれって『あなたは死なないわ。私が守るもの』的な？ 的な？」

白河はニヤニヤしながら俺が戸惑う様子を見て楽しんでいる。

戒「……っ…」

優香「……でもね。戒きゅん」

そこで白河はいつになく真剣な表情で、口調で、言った。



優香「…人は死ぬ時は死ぬんだよ。
どれだけ『僕は死なない』、『あの人は死なない』なんて理想を掲げても、『死』って瞬間は必ず訪れるの。
想っても、信じても、愛しても、死ぬ時は死ぬ。
それ程に人は脆くて弱い。
だからこそ、美しいものなんだよ」


戒「……白河……っ？」


優香「…なんてね！ アニメのセリフよ♪ 特に深い意味はないわぁ〜♪ ーーーそれにしても、大っきい御屋敷ですねぇ」


話している間に、俺たちは屋敷の門前まで到着していた。

門の奥には、直径１メートル位の池があり、その更に奥には古めかしい屋敷がそびえ立っている。



戒「………」


優香「戒きゅん…？」


人の…気配がする。
だんだんと、近づいてくる…！


戒「……来るぞ」



カッッ！



優香「…えっ…？」








ピシャァァアァアッッ！！








辺りが光に包まれて間も無く、雷が落ちる音が響いた。
かと思うと雨が降り出し、俺たちの目の前には1人の見覚えのない人影が。



戒「……っ…！」


優香「きゃ〜急に雷とか雨とかやめてよね〜………っ…！？」


白河もすぐにその人影に気づいたようで、眉をひそめる。





？？「ーーー再びお会いすることになるとは驚きです。戒様」



目の前のフォーマルスーツ姿の女性はそう言った。
無表情で、空虚なトーンで。

『戒様』だと……？ 一体どういうことだ…！？
いや、本当はわかってはいるが、きっと俺はそれを認めたくないのだろう。


？？「……やはり正常に、記憶は失っているようですね」


戒「…何……！？」

優香「…ちょっと待って…！ あなた戒きゅんの何なのよ…！」


？？「それは私の台詞ですよ。婦警さん」


優香「…えっ、えっと……それは…そのぉ……///」

戒「こいつは俺の１日上司だ」

優香「…そ、そうよ！」


？？「…成る程、それで戒様はその制服を着用しているわけですか」

戒「…では次はこちらの質問に答えてもらおうか」

？？「…そうですね。私は、一言で言うなら、秘書です。誰よりも秘書的で、秘書であるべき存在です」

もっとも、斬波無双様直属の、ですが。
と、相も変わらず、無表情で、責務を果たすかのように、事務的に答えた。

戒「………」

ここにも出てきたか。
『斬波無双』という名の男の名前が。それに、『戒様』……か。
ということは、この屋敷は間違いなくーーー



戒「俺の家なのかーーーここは」



秘書「…その通りでございます。戒様」


優香「えっ嘘！？ 本当！？ てか戒きゅん記憶は！？」

白河、空気を読んでくれ…。

戒「記憶は戻ってはいない、あくまでも推測だった。会話の中にでてきた『覚えていないこと』を掛け合わせていった結果に過ぎない」

秘書「…推測……ですか。貴方には斬波の名を捨て、何者でも無いただの一人として生きてもらいたくて、このカードを使用したというのに、残念です」

秘書は懐から１枚のカードを取り出す。
『記憶抹消』のカードだ。

戒「なに…？ 記憶抹消だと…！？」

あいつが、あのカードで俺の記憶を奪ったのか…！？
だが、カードの効果で現実世界に影響を与えるなどとは……白河の言っていた『モンスターを実体化させることのできる決闘者』と共通する部分があるように思えるが……。


秘書「戒様、貴方がどのような経緯でここまで来たのかは知りませんが、貴方にここまで来られてしまっては、もうこのカードは必要ありませんね」

秘書はそう言うと、おもむろに記憶抹消のカードを破きだした。
何回も。何回も。


戒「……！！」


カードが破かれるたびに、俺の頭に激しい痛みが走る。

戒「……くっ…ぁああ！！」

俺は頭を抱えてその場にうずくまる。

優香「戒きゅん！？ どうしたの！？ ねぇあんた！ 戒きゅんに何したのよ！」

秘書「……部外者の貴女は少し黙っていてください」

優香「…なんですって…！」

戒「あああぁあああぁああッッ！！」

秘書「……さあ、絶望を、思い出して貰いましょうか…！」

秘書は最後に、雨でぐちょぐちょに濡れ、バラバラになった『記憶抹消』のカードを手から滑り落とした。やがてカードだったものは、湿った土と同化していく。




戒「………ぁ…」




そして俺は全てを、思い出してしまった。


『戒め』と『絶望』を。


戒「………」


秘書「………ウフフ…」


秘書は笑っている。笑いながら近づいてくる。
ゆっくりと、音も立てずに。
来るな。
来るな！
来るな！！
来ないでくれ！！！








戒「………っ来るなバケモノぉおおぉおおぉぉおおおッッッ！！！」








俺は叫んだ。
どうしようもなく、怖くて恐くて仕方がなかった。


優香「……！！！」


戒「……はぁ……はぁ…！」



俺は、１度記憶を失う前に、秘書とデュエルをした。
だが、あの秘書の使用していたカードーーーあれは、この時代のものではなかった。


未来から来たカードだったんだ。
そしてあの秘書自身もーーー



秘書「……さぁ、デュエルをしましょう。今度こそ貴方を闇に葬ってア・ゲ・ル」



やめろ。
俺はもう戦いたくない。
あんなもの、勝てるわけない。
俺は知らないぞ。






枠の白い、モンスターカードなんて。






戒「…ぁぁあ……！ うぁぁああぁあぁぁぁあぁああ！！」



気づけば俺は、森林の中を激走していた。

白河を置いて、一人で。

俺は最低なヤツだ。

男としても、人間としても。


あいつならーーー『市瀬 火群』なら、きっと勝てないと分かり切っている相手にも、果敢に挑んだのだろうか。
そうだ。市瀬火群。
俺はあいつの事さえも忘れていたんだ。
不死鳥の力を手にしたーーー決闘者。

俺を敗北させた、唯一の決闘者。


大粒の雨が、宙を舞う涙と共に弾けた。


戒「……っ…！ ッ！？」


途端、俺はぬかるんだ地面に足を取られ、派手に地に転がり伏した。


戒「…くっ……がぁ…は…！ ………！？」


倒れた俺の目の前に現れた黒く大きい影に、俺は驚く。


？？「………」


戒「……はぁ…はぁ……」


誰か…居るのか？

なら、助けをーーー

戒「……ぁ…す……け……」


ダメだ。意識が、朦朧とーーー



俺は静かに、目を閉じた。






ーーー-ーーー-ーーー-ーーー-ーーーTo Be Continued…




《次回予告》



「俺は引き抜く！ 戦う為の勇気を！ 力を！！ 剣を！！！」




次回、『遊戯王 Ph.X』
DRAW:２７ 戒めの斬波⑥心に剣




奇跡ーーー切り札は自分だけ。




【９／８(日)更新予定！】