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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第14話 ヤンキー君達とユーヒちゃん

第14話 ヤンキー君達とユーヒちゃん 作:氷色

翌日の昼休み。
昼食を終えると遊緋は、今日何度目になるか分からないため息をついた。
昨日は紅羽が帰った後、信じられない勢いで杏里に質問攻めされた。どうにか当たり障りのない返答で煙に巻いたが、正直どこまで誤魔化せたか自信はない。
現に今日もまた学校が終わったら家に来ると言っていた。正直憂鬱だ。杏里は数少ない遊緋の大切な友人。できれば嘘をつきたくはないし、心配もさせたくない。さてどうしたものか、と遊緋は頭を抱えていた。

そんな時だーーー。

「あの……斯波くん……」と小さな声で名前を呼ばれて顔を上げると、そこには女生徒が一人立っていた。

『野坂 真保(ノサカ マホ)』

遊緋と同じクラスの女子生徒だ。長い髪の毛をシュシュでポニーテールにしているのがチャームポイント。確かクラスの図書委員だったか。控えめで大人しい性格で、清純派として男子に人気がある。

「ーーー?」

しかし同じクラスとは言え、彼女と遊緋には接点が全くない。また消極的な性格の彼女が自ら男子に話しかけることすら珍しいことだ。

「どうしたの、野坂さん?」

もじもじしている真保に遊緋が訊く。
正直、今はあまり些末事にかかずらっている気分ではないのだが。

そう訊かれて真保は意を決したように、しかし尚も小さな声で言う。

「あの……6組の……城之内くんと本田くんが……斯波くんのこと……探してて……」

「城之内くんと本田くん……?」

言われて見ると、教室の入り口から二人の男子がこちらを見ている。
一人は金髪の目立つ容姿。もう一人は黒髪の角刈りだ。

盛大にため息をついて、遊緋はまたも頭を抱えた。
城之内という男子生徒は、紅羽とは違う意味での校内の有名人だ。その彼に名指しで呼び出されては、面倒事になるのは目に見えている。
しかしこの状況で無視することもできない。

遊緋は真保に礼を言い、城之内に近付く。
クラスメート達が一見普段通りに振る舞いながらもこちらに注意を払っているのを感じる。

「よう、斯波遊緋」

開口一番、金髪の男ーーー『城之内 達也(ジョウノウチ タツヤ)』はそう言った。

城之内の顔に不穏な色はない。しかしその隣の角刈りの男ーーー『本田 広寿(ホンダ ヒロトシ)』はまるでこちらを値踏みするように睨めつけている。

名前こそ有名だが、二人は遊緋の友人というわけではない。
実際には、むしろ関わりたくない人種と言える。

「ちょっとツラ貸してくれよ」

今度は本田が言う。
こちらに有無を言わさぬ口調。

城之内と本田。
遊緋の学年でこの二人の名前を知らない者は少ないだろう。

彼らは中学時代、この辺りでは有名な不良だった。
遊緋とは別の中学だったのだが、日々喧嘩に明け暮れ他校の生徒を何人も病院送りにしたと、その悪い噂は轟いていたほど。高校に入りその二人が同じ学年にいると知った時は、他人にあまり興味のない遊緋も結構驚いたものだ。

そんなどんな用件で遊緋を呼び出したというのだろう。
同じクラスの真保とすら接点のない遊緋に、彼らとの接点など有ろうはずもない。彼らの不評を買うようなことも全く身に覚えがなーーー




ーーーいや、一つだけあった。




城之内達が鞄を持って来るよう言うので、遊緋は言う通りにした。
金銭を脅し取るつもりなのかもしれないが、断ればどんな仕打ちに遭うか分からない以上、従わざるを得ない。

そして連れて行かれたのは、校舎の屋上。
遊緋の学校の屋上はかなり広く、出入りは自由。余程フェンスぎりぎりでなければ周りの校舎からは死角になる。しかし昼休みという時間もあり、ここで昼食を取る生徒もいて人目もある程度ある。
もし城之内達がここで暴挙に及ぼうというのなら、あまり適しているとは言えないが。

「おお、なんだよ、意外と人いるじゃねーか」

案の定、城之内が周りを見ながらぼやく。
只でさえ彼の金髪はライオンばりに目立つのに、更に今回は今まさに補食されんとする小動物(つまり遊緋)も一緒となれば、その食事風景についつい目が行ってしまうのは心情というものだ。

「別に構いやしねーだろ。どうせこいつらには見えやしねぇし、見たことを覚えてられねーんだからな」

本田が言うと、「それもそうか」と城之内が納得する。
遊緋は「この二人何を言ってるんだろう?」と怪訝な顔。

「さてと、んじゃ始めるか」

城之内が遊緋の前に出る。
しかし問答無用で手を出してくるという感じではない。城之内は遊緋から十数メートルほど距離を取っている。

「あの……もしかしてボクが響先輩に近付いたことで怒ってるわけじゃないの?」

遊緋がおずおずと言うと、二人は揃ってキョトンとした顔をした。

てっきり昨日紅羽と一緒にいたところを見られていてそれに腹を立てているのかと思ったのだが、どうやらそういうわけではないらしい。

本田はくつくつと笑う。

「それで俺達がお前をシメようとしてるって思ってたのか?」

「つか響先輩て誰だ?」

「3年にドえれー美人の先輩いるじゃねーか。知らねーのかよ!?」

いまいちピンと来てない城之内に呆れる本田。

なんだか二人の発する雰囲気は想像していたのとは違う気がする。
もっとこうナイフのように尖っている人物を想像していたのだが、実際の二人は何処にでもいる普通の高校生だ。

「それが違うなら、一体なんでこんなとこに?」

「ほら見ろ、お前が説明もなしにいきなり始めようとすっから斯波も混乱してんじゃねーか」

遊緋の質問にも答えようとする姿勢がある。
本田が城之内に説明を促す。

「説明も何も、こいつを見りゃ分かんだろ?」

城之内が懐からある物を取り出した。
それは見覚えのあるタブレット型の端末。デッキもすでに装着済み。

「デュエルディスク!?」

それは確かに遊緋に届いたのと同じデュエルディスクだった。
それを持っているということはーーー

「まさか、キミ達もーーー?」

「ああ、俺達もお前と同じD・ゲームのプレイヤーってわけだ」

言いながら城之内は腕にデュエルディスクを付ける。

「実は昨日バイト帰りに見ちまったんだ、お前とルーキー狩りのデュエルをよ!自慢じゃねーが、俺も前にアイツに負けててな、だからアイツに勝ったお前とデュエルしてあの頃よりどれだけ強くなれたか試したくなったってわけよ!」

龍は以前から初心者ばかりを狙ってデュエルを持ちかけていたらしいし、確かにこの辺りのデュエリストならば当たっていても不思議ではない。

「つーわけで、この場でこのデュエル、受けてくれ!」

そういう正々堂々としたデュエルならば遊緋にとっても断る理由はない。むしろ楽しいデュエルができそうでワクワクする。

遊緋は返事の代わりに鞄からデュエルディスクを取り出し、左腕に装着して見せた。
その堂々とした返答に、本田は口笛を吹き、城之内はニッと笑う。

「ヘヘッ、目付きが変わったな。どうやら見た目ほどヤワじゃないらしい。本気でいくぜ?」

「うん、そうして。じゃなきゃ一瞬で終わっちゃうからさ」

遊緋の闘志に火が着いていた。
心のスイッチがデュエルモードに移行する。

「言うじゃねーか。ゲームになると人格が変わるって噂は本当らしいな」

目の前にいる小柄な少年の雰囲気がさっきまでとまるで変わった。彼のそれはもはや補食されるだけの小動物のそれではない。気を抜けばこちらが噛み殺される猛獣のようだ。

「相手に取って不足はねーってとこか。んじゃ、遠慮なしにやらせてもらうぜ!デュエルフィールド展開!」

城之内がデュエルディスクを操作すると、二人と本田を内側に含めた半透明のドームが出現した。

「心配すんな。コイツが展開した瞬間、周りの奴らに俺達の存在は感知できなくなる。邪魔する奴はいねぇ」

正直遊緋は周りの生徒のことなど全く意に介してはいなかったが、ここは一応頷いておく。

すると例によって二人の前に光が集まり、中から人影が現れた。

『パンパカパーン♪呼ばれて飛び出てア・モーレ♪みんなのデュエル・ジャッジメント・インターフェース♪勝利の導き手フレイヤちゃん、参上~♪』

フレイヤのテンションは2度目だろうが関係なく下がることを知らないらしい。
何度聞いてもやっぱり苦手だ。

『あらららら?ユーヒちゃんじゃないですかぁ♪昨日に引き続き連戦とは感心ですねぇ♪D・ゲームを盛り上げてくれるモチベーションの高いデュエリストはフレイヤちゃんだ~い好きですよぉ♪ちょぉっとえこひいきしちゃおっかなぁ~♪なぁんちゃってフレイヤちゃんただのインターフェースだから無理でしたぁ~♪てへぺろぉ♪』

フレイヤは空中でヒラリと舞い、頭に拳を当てて舌を出す。

ユーヒちゃん。初めて呼ばれた呼び名だ。
こういうところが苦手なのだ。

「いいからさっさとアンティ決めようぜ」

どうやら苦手仲間がいたようだ。
城之内もイライラした様子でフレイヤをたしなめる。

『うわ、ノリ悪っ!タツヤは相変わらずすっとこどっこいね♪』

遊緋とは対称的に城之内への態度は悪い。

「誰がすっとこどっこいだッ!つか、すっとこどっこいて昨今聞かねーぞ!お前ホントに贔屓とかすんじゃねーだろーな!?」

だが律儀にツッコミを入れる辺り、本当に仲が悪いというわけでもないのかもしれない。
どちらにせよ遊緋には関係ないことだが。

「アンティだ、フレイヤ!俺はスターチップ1枚賭けを提案するぜ!」

城之内の提案に、フレイヤは冷たい目を向けため息をついた。

『はぁ、スターチップ1枚とかセコくなぁい?ユーヒくんは昨日いきなり3枚賭けだよぉ?今さら1枚じゃやる気出ないってのぉ』

フレイヤの発言に城之内も本田もギョッとする。

「初戦でいきなり3枚全部賭けるなんて、正気か!?」

幾多の喧嘩で鳴らしたはずの本田が唸る。

どうやら昨日遊緋がやったデュエルは常識外のD・ゲームに於てもセオリーを完全に逸脱したものだったらしい。確かに自分の命を賭けたデュエルなど、やりたがるような奴はそういないだろうが。
それにしてもこのジャッジメント・インターフェースには個人情報とかプライバシーとかいう概念は組み込まれていないらしい。

とにかく条件などなんでもいいので、早くデュエルに入りたい。

「ボクは別にスターチップ1枚で構わないよ」

遊緋が言うが、しかしそれを城之内が止めた。

「いや、ちょっと待て!そこまで言われちゃ勝負師・城之内の名が廃るぜ!」

少し考えてーーー

「よし、じゃあこうしよう。お互いにデッキからいま1枚カードを抜く。それを伏せておいて、勝った方がそいつを手に入れるんだ!もちろんそのカードはこのデュエルでは使用できない!どうだ?」

城之内の提案に、フレイヤは興味深そうに頷く。

『つまりデッキ内のカードをランダムに1枚アンティするってことね♪』

中々面白い提案だ。
デッキに入れているカードは、みな必要だから入れているカード。それを譲り渡さなければならないのはデュエルの緊張感を煽るにはもってこいだ。
しかもそのカードはこのデュエルでは使用できずその内容も知れないため、このアンティがデュエルの戦術にも影響を与えかねない。ましてそれがデッキのキーカードだったりしたら目も当てられないことになる。
運も実力の内、とよく言うが、これはそれが試されるルールだ。

「もちろん互いのアンティのレアリティの差は文句言いっこなしだ」

遊緋は頷く。

「分かったよ、それでいい」

遊緋の了承が得られたことで、このデュエルに設定されるアンティが確定した。

『では、アンティを確認しますぅ♪お互いにスターチップ1枚とランダムにデッキ内から選ばれたカード1枚を賭ける、でよろしいですかぁ?』

二人が似たような顔で頷く。

『それではアンティに差し出すカードを1枚ドロー♪』

遊緋と城之内は間違いなくデッキの一番上のカードをドローし、それをそのまま本田に差し出した。このカードが何かによっては、すでにこの時点でこのデュエルの有利不利が決まっていることになる。

『お互いのアンティが出揃いましたね?では、デュエルスタートして下さいぃ♪』

デュエルディスク内でデッキが自動でシャッフルされる。
アンティに出されたカードが何なのか知る術はもうない。何が抜けたとしても、もう現存勢力で闘うしかないのだ。

遊緋はもうワクワクが止まらない。

「さぁやろうか、城之内くん!」

「おう、来やがれ!」

二人の声が揃う。





「 デュエル!! 」
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カズ
初代で活躍した城之内と本田の名前が出てきて一瞬驚きましたが、別人でしたね。アニメではギャンブルデッキを使っていましたが、こっちの城之内くんはどんなデッキを使うんでしょうか。 (2017-03-02 14:07)
氷色
ええ、名前がたまたま似ているだけの別人です笑
これからも知っているキャラクターに名前のよく似た別人が度々出てくるかもしれませんので繰り返し言っておきます。たまたま名前がよく似ているだけの別人です笑 (2017-03-02 14:44)
氷色
今話にて閲覧数が1000に到達しました。この物語に目を通して下さった全ての方に感謝します。特にいつもコメントを下さる皆様には毎回励まされています。本当に心から感謝しております。ありがとうございます。 (2017-03-05 15:59)

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