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第10話 ゲームの怪物 作:氷色
何が起こったのか分からないまま、呆然とする遊緋の前に《マスターモンク》が立ちはだかる。
間近で見る《マスターモンク》は思っていた以上の巨躯だった。身長は2メートル近くあるだろうか、厳しい目付きでこちらを見下ろすその姿からは激しい敵意を感じる。
圧倒的な体格の違いに、思わず遊緋の口から小さな悲鳴が漏れた。
「連続攻撃もお前の専売特許じゃないんだよ」
龍が嗤っている。
その笑みは、今朝遊緋を痛め付けた三人組が浮かべていたのと同種のものだ。他者を痛め付けて得られる愉悦。吐き気を催す類いの悪意だった。
「《マスターモンク》は1度のバトルフェイズに2度攻撃を行うことができる。お前のフィールドにはもうモンスターはいない。次はお前が直接攻撃を受ける番だぜ。D・ゲームの恐ろしさを味わうがいい」
龍がデュエルディスクを操作する。
「不味いーーー!逃げなさい、遊緋くーーー」
「ーーーやれ」
紅羽が後ろから何か叫んでいたが、その言葉が遊緋の脳に届く前に《マスターモンク》がゆらりと動く。
そして次の瞬間、その拳が遊緋のみぞおちに叩き込まれた。
肋骨が砕かれ、内蔵が拳に押し潰される。
痛みというよりも、激しい衝撃に身体がバラバラになったかと思った。
「ぐ……えぇ……」
膝から崩れ落ちた遊緋はそのまま前のめりに倒れる。
胃から何かが競り上がってきて口から溢れた。さっき飲んだばかりのオレンジジュースかと思ったが、どうやら内蔵がどこか潰れたか激しい損傷を受けたらしい、それは大量の血液だった。ビシャビシャとこぼれた血が遊緋の服や道路を濡らす。
ーーーマジかよ。
我慢しようとしてもそれは後から後から溢れてきて、止めようがない。
このままでは本当に失血死しかねない。
「遊緋くん!」
後ろから紅羽の声がした。
「気をしっかり持ちなさい!本当に身体が傷つけられたわけではないわ!」
ーーー何を言ってるんだ響先輩。実際こうして血が……
と、見ると、あんなにこぼれ出していたはずの血がすっかり消えていた。
血だけではない。呼吸困難になるほどだった息苦しさも腹の痛みももう感じなかった。あの衝撃も痛みもまるで幻だったかのようだ。
「え、なんでーーー」
『D・ゲームでは直接攻撃を受けると本物の痛みを体感できるんですよぅ♪臨場感たっぷりで最高しょう?でもデュエル中にショック死されちゃ困っちゃうので一瞬で回復するんですぅ♪』
フレイヤがなぜか得意げに解説してくれる。
そういうことか、と納得した。
先程《ダーク・ロウ》の直接攻撃を受けた龍も一瞬これに近い痛みを感じていたわけだ。それは青い顔にもなるだろう。
「どうだ、やめたくなったか?直接攻撃を受ける度にこんな死ぬほど痛ぇ思いをしなくちゃならないんだ。これ以上苦しみたくはないだろう?」
龍はほくそ笑む。
実体化したモンスターの直接攻撃は尋常ではない痛みと恐怖だ。普通のヤツならばそれこそ泣いて逃げる。遊緋のゲームに対する集中力は確かに並ではない。だが口車ならば無視もできただろうが、実体験ともなればそうはいくまい。さしもの遊緋でもこれは確実に精神的な枷となるはずだ。
四つん這いで俯く遊緋の肩がふるふると震えている。
ーーーそうだ、もっと怖がれ!
龍はそれを悠然と見下ろし、心中で笑う。
恐怖が一度心に刻まれればデュエルに対する思考も変わる。直接攻撃を恐れるあまり守りに重点を置きたくなるはずだ。そうすれば攻撃への意識は薄まり、またモンスターを排除する罠への警戒度も必要以上に高まる。要するにプレイが縮こまるのだ。そうなればペースはこちらのものにできる。
いや、それ以前にこれ以上デュエルを続けることすら無理かもしれないが。
「俺は良いんだぜ、ここでデュエルを終わりにしても」
できるだけ優しい声でそう告げてやる。
「デュエルを……やめる?」
俯いたままの遊緋がぽつりと返す。
龍は漏れそうになる笑いを堪えながら、必死で遊緋を慰めるような声を出す。
「世間じゃ恐怖に立ち向かえだの逃げるのが恥だのと簡単に言うが、そりゃ本当の恐怖を知らない奴の言葉さ。俺は逃げる奴を臆病者だとは思わない。それはそいつが賢明なだけのことだ。なぁに簡単だ、デッキに手を置きサレンダーすりゃ、これ以上無理に闘うことはねぇ」
「サレンダー……」
遊緋の肩の震えが更に大きくなる。
泣いているのかもしれない。
龍は遊緋に近付く。
その肩にそっと触れてやった。
「心配すんな。サレンダーすりゃ、なんもかんも終わりにーーー」
「サレンダーなんかしないよ?」
ビキッと固まったのは龍の方だった。
「……なんだと?」
パッと上げた遊緋の顔は、これ以上ないほど面白いおもちゃを与えられた子供のように輝いていた。
「サレンダーなんかしないさ!こんなに興奮するゲームなんかどこにもないもんな!」
「何を……言ってやがる?」
龍の目が見開かれた。
ーーーコイツ、マジでイカレてやがるのか?
「お前、怖くはねぇのかよ!? モンスターが、痛みが、悪意が!!」
一転、怒鳴るような口調になる。
しかし遊緋はキョトンとした表情。
「怖いよそりゃ。だけどその恐怖も込めてこのゲームの醍醐味でしょ?それを味わい切らずにゲームを途中でやめることなんかできるわけないじゃないですか」
愕然とした。そしてはっきりと分かった。
この少年は、自分とは根本的に違う生き物なのだ。
例えば魚は海の中で生きやすいように『泳ぐ』ことに特化した進化をしてきた生き物。故に進化の過程で手足を持つという可能性を切り捨てた。
それと同じように、この少年は『ゲーム』に特化した進化を遂げた、人とは異なる生き物なのだ。手足が千切れようが『ゲーム』という一点のためならば、それ以外の全てを切り捨てることができる。
龍はここで初めてキラキラと輝く遊緋の瞳に恐怖を覚えた。
人は自分とあまりにかけ離れた存在に対して畏怖を抱くようにできている。これがまさにそれだ。
龍は、純粋にただゲームを楽しむという遊緋の心に、絶対に理解できない狂気を見たのだ。
龍はよろよろとふらつきながら遊緋から距離を取る。
遊緋もあっけらかんとした様子で起き上がった。
「ダメージステップからの再開だよね?」
まるで何もなかったかのように再開しようとする遊緋。
龍はドンと自分の胸を叩いた。
ーーークソ、奴に飲み込まれるな!これ以上好きにはさせられん!
龍はなんとか平静を取り戻し、遊緋に頷く。
遊緋/LP4000→1600
遊緋は自分のライフが大幅に削られていることを確認して、デュエルディスクを操作する。
「ボクはこのタイミングでリバースカードを発動するよ!罠カード《ダメージ・コンデンサー》!!」
遊緋のフィールドに1枚残されていた伏せカードが発動した。
†
《ダメージ・コンデンサー》
通常罠
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。
†
《ダメージ・コンデンサー》は手札1枚をコストに受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから特殊召喚できる罠カードだ。《マスターモンク》に受けた戦闘ダメージは2400。つまり攻撃力2400以下のモンスターをデッキから特殊召喚できることになる。
遊緋は手札を1枚選んで墓地ゾーンに送り、デッキからモンスターカードを1枚選んだ。
「ボクが特殊召喚するのは、《M・HERO ガスト》!」
遊緋のフィールドに怪しげな機械が現れ、その機械が放電を放つ。
それが集まると、その中から新たなM・HEROが現れた。
†
《M・HERO ガスト》
星4/風属性/戦士族/攻1500/守1600
「M・HERO ガスト」の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。
(2):このカードがフィールドから離れた場合、自分のフィールドの風属性の「HERO」融合モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターは以下の効果を得る。
○このカードは1ターンに1度、戦闘・効果では破壊されない。
†
《M・HERO ガスト》は風のM・HEROだ。
緑のマスクとスーツを身に纏い、長いマフラーのようなものを巻いているのが外見的な特徴。
《ダメージ・コンデンサー》の効果で特徴召喚されたため表示形式は攻撃表示だ。
「《M・HERO ガスト》の効果発動!《ガスト》は召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから《融合》を手札に加えることができる!」
「チッ、またサーチ効果か!ならこっちも《怒りのドラゴンパンチ》の効果を発動させてもらうぜ!《怒りのドラゴンパンチ》を装備しているモンスターが相手にダメージを与えた時、墓地からレベル5以下のモンスターを1体回収することができる!俺はこの効果で墓地から《コンボマスター》を手札に加える!」
遊緋がデッキから《融合》を、龍が墓地から《コンボマスター》をそれぞれ手札に加えた。
龍のフィールドには《マスターモンク》1体しかモンスターは存在していない。その《マスターモンク》も攻撃権を使い終わっているため、これで龍のバトルフェイズは終了。
「何もすることがないならエンド宣言してもらっていいですか?」
遊緋が涼しげな顔でそう促す。
その顔を見ていると龍の憤りは募るばかりだ。
「いいぜ、認めてやるよ。確かにお前はただのルーキーじゃねぇな。お前は『怪物』だ。ゲームだかデュエルだか知らねぇが、そういうものに取り憑かれて人じゃねぇものになっちまった怪物だ。だがな、お前が怪物だからって勝てねぇわけじゃねぇんだよ。そいつを見せてやる」
言って、龍は手札から魔法カードを選んで発動させる。
そのカードはたった今、遊緋が手札に加えたのと同じカードだった。
「手札から《融合》を発動!このカードで、フィールドの《マスターモンク》と手札の《コンボマスター》を融合する!!」
†
《融合》
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
†
フィールドに《コンボマスター》も姿を現し、《マスターモンク》と共に溶け合うようにして空中に渦を描く。
「ここに来て融合召喚だって!?」
驚きはあるものの、遊緋の中を占めているのは新たに生まれるモンスターへの期待感だ。
龍がエクストラデッキからカードを抜き取り、デュエルディスクに挿入する。
そして高らかに叫んだ。
「融合召喚!!来い、レベル8《マスター・オブ・アーツ ドラゴン・リー》!!」
渦の中から《マスターモンク》と《コンボマスター》が融合したモンスターが出現した。
その姿は意外にもそれほど大きなモンスターではない。筋肉質で逞しい印象だった融合素材の2体に対して、こちらは昔の香港映画に出てくるアクションスターによく似た痩身の武道家。しかしそれが放つ威圧感は、まるで抜き身の刀のように鋭い。
†
《マスター・オブ・アーツ ドラゴン・リー》
融合・効果モンスター
星8/風属性/戦士族/攻3000/守1800
「マスターモンク」+「コンボマスター」
(1):このカードは1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
(2):このカードが行う戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
†
「ハハハ、すげー」
《マスター・オブ・アーツ ドラゴン・リー》の攻撃力は驚異の3000。しかも融合素材となったモンスター同様、2回攻撃能力まで持っている。
しかも先程《ダーク・ロウ》を倒された時の謎の現象についてもまだ解決していない。
乗り越えるべきこと、考えるべきことはまだまだ多い。
しかし遊緋の笑顔は、まるでまた新しいおもちゃを得たかのように輝いていた。
間近で見る《マスターモンク》は思っていた以上の巨躯だった。身長は2メートル近くあるだろうか、厳しい目付きでこちらを見下ろすその姿からは激しい敵意を感じる。
圧倒的な体格の違いに、思わず遊緋の口から小さな悲鳴が漏れた。
「連続攻撃もお前の専売特許じゃないんだよ」
龍が嗤っている。
その笑みは、今朝遊緋を痛め付けた三人組が浮かべていたのと同種のものだ。他者を痛め付けて得られる愉悦。吐き気を催す類いの悪意だった。
「《マスターモンク》は1度のバトルフェイズに2度攻撃を行うことができる。お前のフィールドにはもうモンスターはいない。次はお前が直接攻撃を受ける番だぜ。D・ゲームの恐ろしさを味わうがいい」
龍がデュエルディスクを操作する。
「不味いーーー!逃げなさい、遊緋くーーー」
「ーーーやれ」
紅羽が後ろから何か叫んでいたが、その言葉が遊緋の脳に届く前に《マスターモンク》がゆらりと動く。
そして次の瞬間、その拳が遊緋のみぞおちに叩き込まれた。
肋骨が砕かれ、内蔵が拳に押し潰される。
痛みというよりも、激しい衝撃に身体がバラバラになったかと思った。
「ぐ……えぇ……」
膝から崩れ落ちた遊緋はそのまま前のめりに倒れる。
胃から何かが競り上がってきて口から溢れた。さっき飲んだばかりのオレンジジュースかと思ったが、どうやら内蔵がどこか潰れたか激しい損傷を受けたらしい、それは大量の血液だった。ビシャビシャとこぼれた血が遊緋の服や道路を濡らす。
ーーーマジかよ。
我慢しようとしてもそれは後から後から溢れてきて、止めようがない。
このままでは本当に失血死しかねない。
「遊緋くん!」
後ろから紅羽の声がした。
「気をしっかり持ちなさい!本当に身体が傷つけられたわけではないわ!」
ーーー何を言ってるんだ響先輩。実際こうして血が……
と、見ると、あんなにこぼれ出していたはずの血がすっかり消えていた。
血だけではない。呼吸困難になるほどだった息苦しさも腹の痛みももう感じなかった。あの衝撃も痛みもまるで幻だったかのようだ。
「え、なんでーーー」
『D・ゲームでは直接攻撃を受けると本物の痛みを体感できるんですよぅ♪臨場感たっぷりで最高しょう?でもデュエル中にショック死されちゃ困っちゃうので一瞬で回復するんですぅ♪』
フレイヤがなぜか得意げに解説してくれる。
そういうことか、と納得した。
先程《ダーク・ロウ》の直接攻撃を受けた龍も一瞬これに近い痛みを感じていたわけだ。それは青い顔にもなるだろう。
「どうだ、やめたくなったか?直接攻撃を受ける度にこんな死ぬほど痛ぇ思いをしなくちゃならないんだ。これ以上苦しみたくはないだろう?」
龍はほくそ笑む。
実体化したモンスターの直接攻撃は尋常ではない痛みと恐怖だ。普通のヤツならばそれこそ泣いて逃げる。遊緋のゲームに対する集中力は確かに並ではない。だが口車ならば無視もできただろうが、実体験ともなればそうはいくまい。さしもの遊緋でもこれは確実に精神的な枷となるはずだ。
四つん這いで俯く遊緋の肩がふるふると震えている。
ーーーそうだ、もっと怖がれ!
龍はそれを悠然と見下ろし、心中で笑う。
恐怖が一度心に刻まれればデュエルに対する思考も変わる。直接攻撃を恐れるあまり守りに重点を置きたくなるはずだ。そうすれば攻撃への意識は薄まり、またモンスターを排除する罠への警戒度も必要以上に高まる。要するにプレイが縮こまるのだ。そうなればペースはこちらのものにできる。
いや、それ以前にこれ以上デュエルを続けることすら無理かもしれないが。
「俺は良いんだぜ、ここでデュエルを終わりにしても」
できるだけ優しい声でそう告げてやる。
「デュエルを……やめる?」
俯いたままの遊緋がぽつりと返す。
龍は漏れそうになる笑いを堪えながら、必死で遊緋を慰めるような声を出す。
「世間じゃ恐怖に立ち向かえだの逃げるのが恥だのと簡単に言うが、そりゃ本当の恐怖を知らない奴の言葉さ。俺は逃げる奴を臆病者だとは思わない。それはそいつが賢明なだけのことだ。なぁに簡単だ、デッキに手を置きサレンダーすりゃ、これ以上無理に闘うことはねぇ」
「サレンダー……」
遊緋の肩の震えが更に大きくなる。
泣いているのかもしれない。
龍は遊緋に近付く。
その肩にそっと触れてやった。
「心配すんな。サレンダーすりゃ、なんもかんも終わりにーーー」
「サレンダーなんかしないよ?」
ビキッと固まったのは龍の方だった。
「……なんだと?」
パッと上げた遊緋の顔は、これ以上ないほど面白いおもちゃを与えられた子供のように輝いていた。
「サレンダーなんかしないさ!こんなに興奮するゲームなんかどこにもないもんな!」
「何を……言ってやがる?」
龍の目が見開かれた。
ーーーコイツ、マジでイカレてやがるのか?
「お前、怖くはねぇのかよ!? モンスターが、痛みが、悪意が!!」
一転、怒鳴るような口調になる。
しかし遊緋はキョトンとした表情。
「怖いよそりゃ。だけどその恐怖も込めてこのゲームの醍醐味でしょ?それを味わい切らずにゲームを途中でやめることなんかできるわけないじゃないですか」
愕然とした。そしてはっきりと分かった。
この少年は、自分とは根本的に違う生き物なのだ。
例えば魚は海の中で生きやすいように『泳ぐ』ことに特化した進化をしてきた生き物。故に進化の過程で手足を持つという可能性を切り捨てた。
それと同じように、この少年は『ゲーム』に特化した進化を遂げた、人とは異なる生き物なのだ。手足が千切れようが『ゲーム』という一点のためならば、それ以外の全てを切り捨てることができる。
龍はここで初めてキラキラと輝く遊緋の瞳に恐怖を覚えた。
人は自分とあまりにかけ離れた存在に対して畏怖を抱くようにできている。これがまさにそれだ。
龍は、純粋にただゲームを楽しむという遊緋の心に、絶対に理解できない狂気を見たのだ。
龍はよろよろとふらつきながら遊緋から距離を取る。
遊緋もあっけらかんとした様子で起き上がった。
「ダメージステップからの再開だよね?」
まるで何もなかったかのように再開しようとする遊緋。
龍はドンと自分の胸を叩いた。
ーーークソ、奴に飲み込まれるな!これ以上好きにはさせられん!
龍はなんとか平静を取り戻し、遊緋に頷く。
遊緋/LP4000→1600
遊緋は自分のライフが大幅に削られていることを確認して、デュエルディスクを操作する。
「ボクはこのタイミングでリバースカードを発動するよ!罠カード《ダメージ・コンデンサー》!!」
遊緋のフィールドに1枚残されていた伏せカードが発動した。
†
《ダメージ・コンデンサー》
通常罠
自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。
†
《ダメージ・コンデンサー》は手札1枚をコストに受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから特殊召喚できる罠カードだ。《マスターモンク》に受けた戦闘ダメージは2400。つまり攻撃力2400以下のモンスターをデッキから特殊召喚できることになる。
遊緋は手札を1枚選んで墓地ゾーンに送り、デッキからモンスターカードを1枚選んだ。
「ボクが特殊召喚するのは、《M・HERO ガスト》!」
遊緋のフィールドに怪しげな機械が現れ、その機械が放電を放つ。
それが集まると、その中から新たなM・HEROが現れた。
†
《M・HERO ガスト》
星4/風属性/戦士族/攻1500/守1600
「M・HERO ガスト」の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。
(2):このカードがフィールドから離れた場合、自分のフィールドの風属性の「HERO」融合モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターは以下の効果を得る。
○このカードは1ターンに1度、戦闘・効果では破壊されない。
†
《M・HERO ガスト》は風のM・HEROだ。
緑のマスクとスーツを身に纏い、長いマフラーのようなものを巻いているのが外見的な特徴。
《ダメージ・コンデンサー》の効果で特徴召喚されたため表示形式は攻撃表示だ。
「《M・HERO ガスト》の効果発動!《ガスト》は召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから《融合》を手札に加えることができる!」
「チッ、またサーチ効果か!ならこっちも《怒りのドラゴンパンチ》の効果を発動させてもらうぜ!《怒りのドラゴンパンチ》を装備しているモンスターが相手にダメージを与えた時、墓地からレベル5以下のモンスターを1体回収することができる!俺はこの効果で墓地から《コンボマスター》を手札に加える!」
遊緋がデッキから《融合》を、龍が墓地から《コンボマスター》をそれぞれ手札に加えた。
龍のフィールドには《マスターモンク》1体しかモンスターは存在していない。その《マスターモンク》も攻撃権を使い終わっているため、これで龍のバトルフェイズは終了。
「何もすることがないならエンド宣言してもらっていいですか?」
遊緋が涼しげな顔でそう促す。
その顔を見ていると龍の憤りは募るばかりだ。
「いいぜ、認めてやるよ。確かにお前はただのルーキーじゃねぇな。お前は『怪物』だ。ゲームだかデュエルだか知らねぇが、そういうものに取り憑かれて人じゃねぇものになっちまった怪物だ。だがな、お前が怪物だからって勝てねぇわけじゃねぇんだよ。そいつを見せてやる」
言って、龍は手札から魔法カードを選んで発動させる。
そのカードはたった今、遊緋が手札に加えたのと同じカードだった。
「手札から《融合》を発動!このカードで、フィールドの《マスターモンク》と手札の《コンボマスター》を融合する!!」
†
《融合》
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
†
フィールドに《コンボマスター》も姿を現し、《マスターモンク》と共に溶け合うようにして空中に渦を描く。
「ここに来て融合召喚だって!?」
驚きはあるものの、遊緋の中を占めているのは新たに生まれるモンスターへの期待感だ。
龍がエクストラデッキからカードを抜き取り、デュエルディスクに挿入する。
そして高らかに叫んだ。
「融合召喚!!来い、レベル8《マスター・オブ・アーツ ドラゴン・リー》!!」
渦の中から《マスターモンク》と《コンボマスター》が融合したモンスターが出現した。
その姿は意外にもそれほど大きなモンスターではない。筋肉質で逞しい印象だった融合素材の2体に対して、こちらは昔の香港映画に出てくるアクションスターによく似た痩身の武道家。しかしそれが放つ威圧感は、まるで抜き身の刀のように鋭い。
†
《マスター・オブ・アーツ ドラゴン・リー》
融合・効果モンスター
星8/風属性/戦士族/攻3000/守1800
「マスターモンク」+「コンボマスター」
(1):このカードは1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。
(2):このカードが行う戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。
†
「ハハハ、すげー」
《マスター・オブ・アーツ ドラゴン・リー》の攻撃力は驚異の3000。しかも融合素材となったモンスター同様、2回攻撃能力まで持っている。
しかも先程《ダーク・ロウ》を倒された時の謎の現象についてもまだ解決していない。
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しかし遊緋の笑顔は、まるでまた新しいおもちゃを得たかのように輝いていた。
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更新情報 - NEW -
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だんだんデュエルの流れが分からなくなってきましたが、彼は無事に勝利できるのか。楽しみです。 (2017-02-18 19:34)
遊緋はゲームの天才ですが、同時にゲームに取り憑かれた怪物でもある。要するに社会不適合者であり、ゲームというものに関するその一点に於いてはサイコパスや人格破綻者であると言えます。
そんな欠陥だらけの遊緋くんの活躍や成長を描いていくのが本作品のテーマの一つなのかもしれません。 (2017-02-18 22:12)