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第7話 初陣 作:氷色
「なんだッ!?」
突如として現れた光の渦に遊緋が戸惑いを表すが、他の二人にはその様子はない。
とすれば、これは『仕様』ということか。
光はすぐに収縮を始め、人の形になっていく。
そして現れたのはーーー
『“じゃっじめんと”ですのぉ~♪』
ーーーどうみてもチアリーダーだった。
髪は銀色。ミニスカートに両手にはポンポン。やはりどうみてもチアリーダーだ。
『お初の方もいつもの方もみ~んなまとめてこんにちは♪このデュエルのジャッジを務めます♪わたくしフレイヤと申します♪』
『フレイヤ』と名乗った彼女はどうやら人間ではないらしい。少なくとも遊緋は半透明で宙に浮くことのできる人間など知らない。
ぽけーっとしている遊緋に気付き、フレイヤがそちらに顔を寄せる。
『あらら?こちらの少年くんはルーキーくんかな?わたくし達ジャッジを見るのは初めて?』
まるで売れないアイドルのような媚びた猫なで声。
遊緋としては苦手なタイプだ。
しかし無視していては情報が得られそうにない。遊緋は素直に頷く。
『よろしい♪じゃあわたくしが説明しますねー♪わたくし達はーーー』
「ーーー仮想審判装置(ヴァーチャル・ジャッジメント・インターフェース)。要はD・ゲームの審判よ」
意気込んで口を開けたフレイヤを無視する形で紅羽がしれっとその正体を明かしてしまう。
『あーっ、もう、なんで言っちゃうんですかぁ!?ここがわたくしの最大の見せ場なのにぃ!!』
「あなたは審判なのだから、最大の見せ場は審判で見せてちょうだい」
『ぶー』
尚も口を尖らせるフレイヤに、今度は龍が口を開く。
「悪いがとっとと今回の『アンティ』を決めたい。いいか?」
「アンティ?」
『はいはーい、了解です♪アンティとは要するにこのデュエルに何を賭けるか、ということですよ♪賭けられるものに制限はありませんが、最低限当人が実行可能なものにしてもらいます♪またアンティは両者等価でなければいけませんよ♪さぁ提案はありますか?』
今度は無事に説明が行うことができた、と満足げなフレイヤ。
しかしこのデュエルに勝敗以外のものが掛かってきてしまうとは、この点はデュエルモンスターズとD・ゲームの違いということか。
紅羽も「ルールは“ほとんど”デュエルモンスターズと同じ」と言っていた。となるとこれ以外にも細かなルールの違いがあるのかもしれない。注意しなければならないだろう。
「確かさっきの話じゃスターチップは全賭けだったよな?当然そっちは初期所持のスターチップ3つ全て賭けるんだよな?」
龍が話し掛けているのはどうやら遊緋のようだ。その口調はやけに威圧的。
「ええ、それで構いません」
「へぇ、見かけに寄らず度胸があるな。スターチップを全て失えば、その時点でゲームオーバーなんだぜ?それともゲームオーバーになったらどうなるか知らないとか?」
「どうなるんです?」
遊緋が真顔で聞き返すと、龍はオーバーリアクションで顔を覆う。
「マジかよぉ、それも知らずにスターチップを全てこの一戦に賭けちまうなんて、お前ツイてねぇな!」
こちらを心配しているような口振りだが、その口元には笑みが広がっている。
「可哀想にな。可哀想だから教えといてやるよ。それはな、“死ぬよりも苦しい罰ゲーム”を受けることになるんだよ!ああ、嫌だな、こぇぇよな!俺の残りスターチップも同じく3だから同じ立場よぉ!だが一旦了承したアンティは覆せないんだぜ。だよな、フレイヤ?」
『ザッツライト♪その通りです♪すでにスターチップ3つをお互いにアンティすることは決定してますよ♪他のアンティはありますか?』
死ぬよりも苦しい罰ゲームとはどんなものなのだろうか。全く想像がつかない。
だが、龍がなぜ突然威圧的になったかは想像がついた。紅羽は彼をルーキー狩りと呼んだ。たぶん彼はこうして初心者に重いアンティを了承させ、そのプレッシャーや恐怖感で相手の冷静な思考を乱すのが常套手段なのだ。
だがその手は遊緋には通じない。
「そうだな、それは例えばデュエル後の行動を縛るようなことでもいいの?」
『OKですよ♪その辺りはアバウトなんで♪』
「じゃあ丸刈りで」
「はぁ?」
遊緋の思わぬ提案に龍は顔を歪めた。
「いやだから丸刈り。負けた方が」
しかし尚も遊緋は無表情に提案を押す。
流石にフレイヤも戸惑いの表情を浮かべた。
『それ何か意味があるんですか?』
「いや、別に。なんとなく?」
「お前、俺をおちょくってんのか!?」
龍は怒り心頭といった様子。
遊緋は「まいったな、そんなつもりじゃなかったのに」と頭を掻く。
紅羽はそんな二人を見てクスクス笑っている。
遊緋にとって龍の心理攻撃などどこ吹く風だ。全国の猛者を相手に緻密なプレイが求められるデュエルモンスターズで7位という地位を得るには並大抵の集中力では無理だろう。一度集中した遊緋にはあの程度の揺さぶりなど屁でもない。逆に突拍子もないアンティ提案で龍のペースを乱した。流石だ。
遊緋はフレイヤに訊く。
「でもそういうのはどうやって守らせるの?正直、デュエルに勝ってもあの人が突っぱねたらボクには守らせる力はないよ?」
『その点はご安心下さい♪わたくしがジャッジとして責任を以て強制執行させていただきます♪』
ふむ、と遊緋は俯く。
つまりヴァーチャルと言いながらも、彼女には現実の自分達に干渉する力があるということか。まさに何でもありだな。
そもそも何もない中空に彼女が突然出現したこと、こうしてほとんどタイムラグなしで会話が可能だということもすでに現代の科学技術を超えてしまっている。
このD・ゲーム、どうやら遊緋達の理解を遥かに超越した次元の闘いであることは間違いなさそうだ。
「チッ、もう何でもいいぜ。勝てばいいんだからな!とっとと始めるぞ!」
龍がイライラを隠そうともせずに唾を飛ばす。
フレイヤがこちらを見たので、遊緋も頷いた。
『ではアンティを確認します。お互いのスターチップは3つ賭け、また負けた方は丸刈りとなる。これでよろしいですか?』
「うん」
「ああ、いいぜ!」
『では、デュエルスタート!!』
二人がほぼ同時に頷き、フレイヤは楽しそうにぴょんと跳ねた。
場の緊張感がぐっと増す。
ついに闘いが始まろうとしていた。
紅羽は「さて……」と腕を組む。
遊緋と龍の呼吸が合ったその時ーーーついに火蓋は切って落とされた。
「 デュエル!! 」
☆
「先攻はもらうぞ!俺のターン!」
龍が早速そう叫び、手札から1枚選んでデュエルディスクに挿入した。
「モンスターを守備表示でセットし、ターンエンドだ!」
同時に、龍の前に裏側横向きのカードが現れる。
手札からモンスターを守備表示で召喚する時は裏側でセットされるのはデュエルモンスターズと同じだ。
しかしーーー
「この機械でどうやってデュエルするのかと思ってたけど、まさかカードが実体化するとはね……」
本当に何でもありだな、と遊緋が苦笑する。
今まではカードを集めて対戦相手とデュエルする単純なカードゲームだったが、このD・ゲームはどうやらそう単純ではなさそうだ。
龍/LP4000/手札4
モンスター
セットモンスター×1
「さぁ、お前のターンだぜ。カードをドローしな!」
「分かってる。ボクのターン、ドロー!」
遊緋がデッキからカードをドローする。
先攻のプレイヤーは1ターン目はドローとバトルを行えないが、後攻のプレイヤーはそれが可能だ。この辺りのルールもデュエルモンスターズと変わらないらしい。
遊緋は手札からモンスターを1枚選ぶとデュエルディスクに表向きで挿入する。
「ボクは《M・HERO 烈火》を召喚する!」
遊緋のフィールドに縦向きのカードが現れ、そこから更に赤いスーツに身を包んだ戦士が出現した。
「すげぇ……!」
思わず口から感嘆が漏れる。
現れたのは、子供の頃よく見ていた特撮から抜け出てきたような正にヒーローそのものだった。ホログラフィー等とは違う、本物のヒーローだ。
ハハ、と遊緋から笑いがこぼれた。
本当にもうゲームとは思えない。本物の魔法使いにでもなった気分だ。
尚一層目が輝き始めた遊緋に、後ろに控えている紅羽から言葉がかかる。
「上がるかい?」
答えるまでもない質問だ。こんなに高揚したのはいつぶりだろう。
紅羽には感謝しなければならない。こんな世界を見せてくれるなんて思わなかった。
だからこそ、答えるまでもなかったがあえて遊緋は答えた。
「メチャクチャ上がってます!!」
突如として現れた光の渦に遊緋が戸惑いを表すが、他の二人にはその様子はない。
とすれば、これは『仕様』ということか。
光はすぐに収縮を始め、人の形になっていく。
そして現れたのはーーー
『“じゃっじめんと”ですのぉ~♪』
ーーーどうみてもチアリーダーだった。
髪は銀色。ミニスカートに両手にはポンポン。やはりどうみてもチアリーダーだ。
『お初の方もいつもの方もみ~んなまとめてこんにちは♪このデュエルのジャッジを務めます♪わたくしフレイヤと申します♪』
『フレイヤ』と名乗った彼女はどうやら人間ではないらしい。少なくとも遊緋は半透明で宙に浮くことのできる人間など知らない。
ぽけーっとしている遊緋に気付き、フレイヤがそちらに顔を寄せる。
『あらら?こちらの少年くんはルーキーくんかな?わたくし達ジャッジを見るのは初めて?』
まるで売れないアイドルのような媚びた猫なで声。
遊緋としては苦手なタイプだ。
しかし無視していては情報が得られそうにない。遊緋は素直に頷く。
『よろしい♪じゃあわたくしが説明しますねー♪わたくし達はーーー』
「ーーー仮想審判装置(ヴァーチャル・ジャッジメント・インターフェース)。要はD・ゲームの審判よ」
意気込んで口を開けたフレイヤを無視する形で紅羽がしれっとその正体を明かしてしまう。
『あーっ、もう、なんで言っちゃうんですかぁ!?ここがわたくしの最大の見せ場なのにぃ!!』
「あなたは審判なのだから、最大の見せ場は審判で見せてちょうだい」
『ぶー』
尚も口を尖らせるフレイヤに、今度は龍が口を開く。
「悪いがとっとと今回の『アンティ』を決めたい。いいか?」
「アンティ?」
『はいはーい、了解です♪アンティとは要するにこのデュエルに何を賭けるか、ということですよ♪賭けられるものに制限はありませんが、最低限当人が実行可能なものにしてもらいます♪またアンティは両者等価でなければいけませんよ♪さぁ提案はありますか?』
今度は無事に説明が行うことができた、と満足げなフレイヤ。
しかしこのデュエルに勝敗以外のものが掛かってきてしまうとは、この点はデュエルモンスターズとD・ゲームの違いということか。
紅羽も「ルールは“ほとんど”デュエルモンスターズと同じ」と言っていた。となるとこれ以外にも細かなルールの違いがあるのかもしれない。注意しなければならないだろう。
「確かさっきの話じゃスターチップは全賭けだったよな?当然そっちは初期所持のスターチップ3つ全て賭けるんだよな?」
龍が話し掛けているのはどうやら遊緋のようだ。その口調はやけに威圧的。
「ええ、それで構いません」
「へぇ、見かけに寄らず度胸があるな。スターチップを全て失えば、その時点でゲームオーバーなんだぜ?それともゲームオーバーになったらどうなるか知らないとか?」
「どうなるんです?」
遊緋が真顔で聞き返すと、龍はオーバーリアクションで顔を覆う。
「マジかよぉ、それも知らずにスターチップを全てこの一戦に賭けちまうなんて、お前ツイてねぇな!」
こちらを心配しているような口振りだが、その口元には笑みが広がっている。
「可哀想にな。可哀想だから教えといてやるよ。それはな、“死ぬよりも苦しい罰ゲーム”を受けることになるんだよ!ああ、嫌だな、こぇぇよな!俺の残りスターチップも同じく3だから同じ立場よぉ!だが一旦了承したアンティは覆せないんだぜ。だよな、フレイヤ?」
『ザッツライト♪その通りです♪すでにスターチップ3つをお互いにアンティすることは決定してますよ♪他のアンティはありますか?』
死ぬよりも苦しい罰ゲームとはどんなものなのだろうか。全く想像がつかない。
だが、龍がなぜ突然威圧的になったかは想像がついた。紅羽は彼をルーキー狩りと呼んだ。たぶん彼はこうして初心者に重いアンティを了承させ、そのプレッシャーや恐怖感で相手の冷静な思考を乱すのが常套手段なのだ。
だがその手は遊緋には通じない。
「そうだな、それは例えばデュエル後の行動を縛るようなことでもいいの?」
『OKですよ♪その辺りはアバウトなんで♪』
「じゃあ丸刈りで」
「はぁ?」
遊緋の思わぬ提案に龍は顔を歪めた。
「いやだから丸刈り。負けた方が」
しかし尚も遊緋は無表情に提案を押す。
流石にフレイヤも戸惑いの表情を浮かべた。
『それ何か意味があるんですか?』
「いや、別に。なんとなく?」
「お前、俺をおちょくってんのか!?」
龍は怒り心頭といった様子。
遊緋は「まいったな、そんなつもりじゃなかったのに」と頭を掻く。
紅羽はそんな二人を見てクスクス笑っている。
遊緋にとって龍の心理攻撃などどこ吹く風だ。全国の猛者を相手に緻密なプレイが求められるデュエルモンスターズで7位という地位を得るには並大抵の集中力では無理だろう。一度集中した遊緋にはあの程度の揺さぶりなど屁でもない。逆に突拍子もないアンティ提案で龍のペースを乱した。流石だ。
遊緋はフレイヤに訊く。
「でもそういうのはどうやって守らせるの?正直、デュエルに勝ってもあの人が突っぱねたらボクには守らせる力はないよ?」
『その点はご安心下さい♪わたくしがジャッジとして責任を以て強制執行させていただきます♪』
ふむ、と遊緋は俯く。
つまりヴァーチャルと言いながらも、彼女には現実の自分達に干渉する力があるということか。まさに何でもありだな。
そもそも何もない中空に彼女が突然出現したこと、こうしてほとんどタイムラグなしで会話が可能だということもすでに現代の科学技術を超えてしまっている。
このD・ゲーム、どうやら遊緋達の理解を遥かに超越した次元の闘いであることは間違いなさそうだ。
「チッ、もう何でもいいぜ。勝てばいいんだからな!とっとと始めるぞ!」
龍がイライラを隠そうともせずに唾を飛ばす。
フレイヤがこちらを見たので、遊緋も頷いた。
『ではアンティを確認します。お互いのスターチップは3つ賭け、また負けた方は丸刈りとなる。これでよろしいですか?』
「うん」
「ああ、いいぜ!」
『では、デュエルスタート!!』
二人がほぼ同時に頷き、フレイヤは楽しそうにぴょんと跳ねた。
場の緊張感がぐっと増す。
ついに闘いが始まろうとしていた。
紅羽は「さて……」と腕を組む。
遊緋と龍の呼吸が合ったその時ーーーついに火蓋は切って落とされた。
「 デュエル!! 」
☆
「先攻はもらうぞ!俺のターン!」
龍が早速そう叫び、手札から1枚選んでデュエルディスクに挿入した。
「モンスターを守備表示でセットし、ターンエンドだ!」
同時に、龍の前に裏側横向きのカードが現れる。
手札からモンスターを守備表示で召喚する時は裏側でセットされるのはデュエルモンスターズと同じだ。
しかしーーー
「この機械でどうやってデュエルするのかと思ってたけど、まさかカードが実体化するとはね……」
本当に何でもありだな、と遊緋が苦笑する。
今まではカードを集めて対戦相手とデュエルする単純なカードゲームだったが、このD・ゲームはどうやらそう単純ではなさそうだ。
龍/LP4000/手札4
モンスター
セットモンスター×1
「さぁ、お前のターンだぜ。カードをドローしな!」
「分かってる。ボクのターン、ドロー!」
遊緋がデッキからカードをドローする。
先攻のプレイヤーは1ターン目はドローとバトルを行えないが、後攻のプレイヤーはそれが可能だ。この辺りのルールもデュエルモンスターズと変わらないらしい。
遊緋は手札からモンスターを1枚選ぶとデュエルディスクに表向きで挿入する。
「ボクは《M・HERO 烈火》を召喚する!」
遊緋のフィールドに縦向きのカードが現れ、そこから更に赤いスーツに身を包んだ戦士が出現した。
「すげぇ……!」
思わず口から感嘆が漏れる。
現れたのは、子供の頃よく見ていた特撮から抜け出てきたような正にヒーローそのものだった。ホログラフィー等とは違う、本物のヒーローだ。
ハハ、と遊緋から笑いがこぼれた。
本当にもうゲームとは思えない。本物の魔法使いにでもなった気分だ。
尚一層目が輝き始めた遊緋に、後ろに控えている紅羽から言葉がかかる。
「上がるかい?」
答えるまでもない質問だ。こんなに高揚したのはいつぶりだろう。
紅羽には感謝しなければならない。こんな世界を見せてくれるなんて思わなかった。
だからこそ、答えるまでもなかったがあえて遊緋は答えた。
「メチャクチャ上がってます!!」
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