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虹彩竜と歩むもの/第7話:入学 作:光芒





 4月1日。世の人々は「エイプリルフール」と言うことで平然と嘘をつく、という風潮がいつの間にかに出来上がっているのだが、遊大が今ここにいることはエイプリルフールによる嘘などではない。
 晴れてデュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの新入生としてアカデミアの門を叩いたのだが、彼には複雑な事情があった。それはアカデミアに通う学生として絶対に欠かしてはいけないもの―――そう学費という切なるものであった。











「アカデミアに合格しただと……?」
「良かったですね、遊大」
「さすが俺たちの弟だぜ!」

 アカデミアの試験に合格したということを家族に報告した時、遊大の兄でありプロとして活躍する長兄、高海 遊章(たかみ ゆうしょう)と三番目の兄で大学リーグのトップデュエリストの一人である高海 遊心(たかみ ゆうし)はまるで自分のことのように喜んでいた。
 同じくプロとしてアメリカに渡航中の次兄・高海 遊万(たかみ ゆうま)もまた遊大から合格の報告を受けて祝いの言葉を現地から送ってきた。

「まさかお前がな。しかし、お前はアカデミアに入るだけの覚悟はあるのか? それがないのであれば、進学は認めない」

 しかし、父である高海 遊厳(たかみ ゆうげん)は遊大の合格を心から喜んではいなかった。
 高海家は父である遊厳と母である優香(ゆうか)、そして遊章・遊万・遊心・遊大の4人兄弟からなる6人家族であり、遊大以外の3人はいずれもデュエルにおいてその世代のトップをひた走ってきた人間だ。
 また父親である遊厳もかつてはプロデュエリストとして精力的に活動し、現在は国際機関『The World Order』という組織の日本支部長として紛争や飢餓に苦しむ世界中の子供たちにデュエルやスポーツを通じて、支援を行っては国から勲章を授与されるほどの名士となっていた。彼にとってはデュエルは平和を実現する手段であり、また軽々しい気持ちでできるものではない。
 遊大の兄である3人の息子たちはいずれも、デュエリストとして求められる技術と心得を持っている。そのために彼らは皆その世代のトップデュエリストにまで成長した。
 しかし、その3人に比べて遊大は技術的にもメンタル面でも見劣りしてしまっていたのである。それは遊大が優しい心の持ち主、ということでもあるのだが、遊厳の眼にはそう映らなかったのである。

「父さん、私からもお願いします。遊大をアカデミアに進学させてあげてください」
「遊大は確かに俺らに比べると気弱なところあるけどよ……デュエルの腕前とそれは必ずしとも一致しないと思うぜ?」
「む……」

 ただそんな遊厳に対し、遊章と遊心は兄として年の離れた弟のために説得に動いていた。可能性の芽が芽生える前に摘み取ってしまうのはいかがなものか、と判断していたのだ。
 そんな中、遊厳に会食の申し出が入った。黒塗りの高級車に乗って出掛けた遊厳を待っていたのはプロデュエリスト時代の後輩であり、また現在デュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの校長職を務める星乃 竜司(ほしの りゅうじ)だった。
 竜司はデュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの校長職を務めており、一線からは身を引いているが、海馬コーポレーションから【青眼の白龍】を使うことを許可されている世界有数のデュエリストだ。アカデミアの発展も彼が校長を務めている、ということもあるだろう。

「本日はお忙しい中ありがとうございました」
「いや、職務を忘れて色々と話せる相手が欲しかったと思っていたところだよ。もしまた機会があれば、いつでも呼んでくれ」
「では……そうさせて頂きます」

 この国の首都にある高級料亭での会食が終わり、宴もたけなわとなったころ。それまで柔和な顔をしながら食事をしていた竜司の顔が引き締まる。それはプロデュエリスト時代の彼を彷彿とさせるものであり、遊厳にとってはだいぶ懐かしいものであった。

「……ところで星乃君。君が今日私を呼んだのはただ単に食事を行う、だけではないだろう?」
「さすがにお見通しですか……はい。本日お越し頂いた理由は、お宅の息子さんのことです」

 遊厳には4人の息子がいる。だが、竜司が誰を指しているのかは遊厳にはすぐにわかった。

「息子さん……遊大君の当校入学に反対されているとか」
「遊章か、それとも遊心か? どっちが君に泣きついたんだ?」
「御二方……いや御三方。遊万君からも遊大君のことで相談を受けています」
「ふっ、歳が離れているからとはいえ弟想いも過ぎるな。あいつらは」

 父親として、息子たちの行動に思わず苦笑いを浮かべる遊厳。心の強さというものは優しくなければ持つことはできない。ただ、それを言えば遊大にもその素質があるということになる。

「それに今回この場を設けたことにはある人物の要請もありました」
「ある人物?」
「……待たせて済まなかったね。入ってきていいよ」

 竜司がそう言うと、竜司の後ろの襖がゆっくりと開く。そこには長い髪を後ろで束ねた黒いスーツ姿の女性が座っていた。遊厳とその女性には直接の面識はなかったのだが、一度見たら忘れないその容姿に彼は驚きを隠せずにいた。

「君は……まさか……」
「お初にお目にかかります、高海 遊厳さん。天都 遊希と申します」

 恭しく頭を下げながら部屋に入ってきた遊希は竜司の隣に座る。よもや遊希がこの会食に一枚噛んでいたというのはさすがに予想外であった。
 未成年である遊希は法律上の観念ではまだ子供であると言っていい。それこそ遊厳の息子たちのうち3人より年下なのだから、彼にとっても娘と言っても差し支えないほどの年齢である。それにも関わらず、漆黒のスーツに袖を通した彼女の姿は竜司にも引けを取らないほどの気品を醸し出していた。

「遊厳さん、息子さんが……遊大さんがあるカードを持っているということはご存知ですか?」
「あるカード?」
「覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン。I2社のデータベースにもないカードです」
「なんだと?」

 遊厳は遊大が突然レアカードであるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを中核に据えたデッキを使い始めたことは知っていた。どこで手に入れたのだろうか、ということは気にはなっていたが年頃の子供とあって深く詮索することはなかった。
 しかし、覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴンというカードの存在については初耳であった。母を除く家族が皆デュエリストであるため、今後いつかデュエルをすることを見越して自分の武器であるデッキについて家族にはあまり相談し合わない、ということを暗黙の了解としていた高海家であったが、その家族間のルールが裏目に出た形となった。

「あいつ……そんなカードの存在を親に黙っていたのか」
「それを言ってしまうとますますアカデミアの入学を反対される、と思っていたのでしょう。彼の気持ちは同世代のデュエリストとしてはわかります。ただそれを差し引いてもあのカードは得体の知れないカードであり、危険を孕んでいると言わざるを得ません」
「では猶の事……」
「しかし、その手のカードが何故遊大君の元へと渡ったのか。少なからず理由がある、と私は考えています。なので彼をアカデミアに入学させ、そのカードと彼を見守りたいんです。かつて、同じようなカードと対峙したデュエリストとして」
「……」

 結局、遊厳は竜司と遊希の要請に押し切られる形で遊大のアカデミアへの入学を受け入れた。ただ、遊大に関しては父親として今後アカデミアの学生として相応しいかを見極めるテストを行う、ということを言い残して彼は帰路についた。料亭の外まで遊厳を見送りに出た竜司と遊希は彼の車が見えなくなるまで頭を下げていた。

「はぁ、疲れた」

 車が見えなくなったころを見計らって遊希はネクタイを緩めた。見た目以上にくたびれた様子の彼女は窮屈そうに肩を回す。

「悪いね、だいぶ時間がかかってしまって」
「本当ですよ。しかし、なんで大人の男性というものはこうも接しにくいのか」
「おや、私も大人の男性なんだが?」
「竜司さんは別です。そのおかげで高級料亭の料理にご相伴できましたし」
「……随分と現金だね君は」
「それだけ遠慮しないで済む仲だということです。あ、なんだったら今度肩でもお揉みしましょうか?」
「はは、気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「あー、私が肩揉むと約一名うるさいのがいますからね。パパの肩は私が揉むんだからー! って。でも……今日はこの場を設けて頂いたこと、感謝します」
「構わないさ。未来あるデュエリストの道を作るのがアカデミア校長の本分だからね」












「……遊希さん、ありがとうございます。俺、頑張ってこのアカデミアで一人前のデュエリストになってみせます」

 遊厳からアカデミア入学への許しを貰った際、遊大は自分がアカデミアに入学できることになったのには遊希が一役買っているということを聞いていた。
 思えば二次試験の時から入学まで遊希の世話になりっぱなしであった。何故一介のデュエリストである自分に遊希がここまでしてくれるのかはわからなかったが、厚意に甘えっぱなしというのは遊大の性分が許さない。必ずこのアカデミアで一流のデュエリストになってみせる、という決意をもって臨むことを誓った。

「そうだな。デュエリストとしても男としてもより一層成長しなければな」
「ああ。俺は……ってあなたは!!」
「おう、久しいな少年よ」

 決意を新たにする遊大の横には遊大にデッキを渡してきた謎の男が立っていた。

「いつの間に……いや、色々と聞きたいことがあったんですよ?」
「ほう、我に質問か。いいだろう、答えてやるぞ」
「このデッキ……なんで俺にくれたんですか!? あとI2社のデータベースに載っていないカードも入っていたんですよ!? あなたは一体どこからこのカードを……」
「それは答えられん質問だな。何故なら私は……」

 そう言って男は右手を開く。何もない右手を遊大に見せつけてきた後、その手を閉じてまた開くとそこには数枚のカードがあった。

「……えっ?」
「我はいわば魔術師……マジシャンなのだよ。カードを創造するくらいなんてことはない」
「そんなことが……って、いや答えになっていませんよ! なんでこのデッキを俺に」
「我の知ったことではない。デッキがお前のものになることを望んだのだ。これはトリックでもなんでもない。タネのない事実だ。全く、そんな小さなことばかり気にするからお前は未だに恋人の一人もできないんだぞ?」
「そ、それは関係ないでしょうが!!」
「確かに関係ないな。じゃあこれを」

 そう言ってマジシャンを名乗る男は右手の中に出したカードを遊大へと手渡してくる。それらのカードもまた、遊大が見たことのないカードであった。

「これはお前のアカデミア入学祝いの選別だ。とっておけ」
「えっ……」
「このカードたちはお前にプレゼントだ。このカードを以て己が未来を切り拓くのだぞ? ではさらばだ!」
「あっ、ちょっと!!」

 男は物凄い速さで走り去っていった。足に自信がないわけではないが、男はその不健康そうな見た目からは想像できない、例えるならまるで陸上選手のような速さで走っていったため、とても追いつくことなどできなかった。
 遊大の手には男から手渡された数枚のカード。効果を見る限りこのデッキとの相性は最高のように思えるが、このカードも得体が知れないもの。このデッキと共に強くなりたいのであれば、このカードたちを使いこなせということなのだろうか。運命の類を信じる気にはなれないが、遊大はそう思えて仕方なかったのだ。

「……しょうがない。行くか」

 色々と腑に落ちない遊大であったが、済んだことを悔やんでもしょうがない。彼は決意を以て歩み出した。栄えあるデュエルアカデミア・ジャパン・セントラルの学生として。







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ター坊
遊大のパパは厳しいようです(泣)
それにしても高海家は今時としては大家族ですね。ファミリーのデュエル回もあるかも?
会食後の竜司と遊希の会話も何処と無く伯父と姪みたいな感じが。まだパパ呼びの綾香の登場も待ち遠しい。 (2017-01-31 18:22)
いちごT
エリート一家の末弟だったとは…プレッシャーも大きいでしょうね。く…まだ前作を1話だけしか目を通してない故前作からのキャラクターの関係性が分からない未熟な私を許してください。
もうすぐ今拝見中のSSが現行に追いつくのでそうしたら読む予定になってるので! (2017-01-31 19:11)
カズ
遊大にカードを渡した怪しい男、(自称)マジシャンがまたも新しいカードを託しましたね。
ここまで来るともうストーカーなのか疑うレベル。彼がどういった目的でカードを渡したのかはいまだに掴めませんが、根幹に大きく関わるはずですので今後も楽しみです。 (2017-01-31 21:03)
光芒
ター坊さん
よく考えてみたら前作に出てきた父親キャラ(竜司、雄一郎、遊希の父)はみんな娘に甘い父親ばかりだったので、今回は厳格な父親キャラを出してみました。と言っても遊厳が遊大に厳しいのにはまた理由があるのですが、それは追々……(意味深)

>会食後の竜司と遊希の会話も何処と無く伯父と姪みたいな感じが。まだパパ呼びの綾香の登場も待ち遠しい。
家族を全員失った遊希にとって星乃一家は家族のような存在ですからね。遊希からしてみれば、竜司はある意味育ての親という感じでもあります。綾香も次話から少しずつ顔を出しますよ。ちなみに綾香は大して変わっていません;

いちごTさん
実は遊大もいいところのお坊ちゃんなんです。ただ上の兄が全員一流のデュエリストであり、父親も叙勲者とあったりと遊大はプレッシャーの中に育ってきています。

そういやこの作品続き話なのですが、キャラ紹介とかをほとんど挟んでいませんでしたね。その点に関しては新規の方に分かりづらい造りになってしまい申し訳ありません。
この作品も一区切り付いたら主要キャラと脇役キャラのキャラ紹介を投稿しようと思います。

カズさん
このストーカー……もといマジシャンさん(自称)は今後も遊大と絡んできます。そしてカズさんが仰る通り、この人は今後も定期的に出てきては遊大の前に現れます。この人の動向にも興味を持って頂けると幸いですね。

(2017-02-01 11:19)

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