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第38話 Dランド:翌檜√その2 作:白金 将
観覧車に乗った翌檜とシオンの間にはしばらく沈黙が流れていた。会うのが二回目、というのもあるが、なんせ長い間話すらしていなかったため、どのようなことを話せばいいのか二人ともわかっていないのである。シオンはずっと外の景色を見ているし、翌檜は観覧車の籠の底をずっと見つめている。
籠が頂上に達したあたりでシオンがやっと口を開いた。
「そういえば、翌檜さん」
「……?」
「あんたの町でデュエルの大会があるそうだな」
それが、以前議会で可決されたフラワリングカップのことを指していることは彼女にも分かった。少々の期待を込めて翌檜が聞き返す。
「来るの……?」
「いいや、俺は行けない。ただ、俺の双子の弟が行くつもりだ」
「……」
釈然としない答えに翌檜はやや落ち込んだ表情になった。それを見かねたシオンはその大きな手で翌檜の頭をぽんぽんと叩く。
「そいつは素行が悪くてな、町の自警団体にもしょっちゅう世話になってる困った奴だ。だから、大会で俺みたいな人を見かけたとしても、俺じゃないって思ってほしい」
「……」
「悲しい顔をするんじゃねぇよ。折角会えたのにそんな顔されるとな……ん」
シオンが気が付いた時には、彼のもう一方の手は翌檜の両手に取られてしまっていた。翌檜はシオンをやや見上げ、彼の手を絶対に離さないと言いたげに強く握っている。
「バカ」
「お前……」
「……今日、とても楽しみに、してた」
翌檜の声がやや上ずった。
「だから……今日は、楽しませて」
それを聞いたシオンは、しばらくの静寂の後に、そっと笑顔になった。
観覧車から降りた後に二人が向かったのはお化け屋敷。固まっている翌檜をシオンが引っ張っていく形で二人は中に入っていく。お化け屋敷の中でゴーストリックのモンスターを模した物が二人を驚かせにかかり、その度に翌檜は息を止めてさらに身体を固くする有様であった。
お化け屋敷の道中、道の横に意味ありげな鏡台が置いてあった。ガタガタな動きで首を横に振る翌檜をよそにシオンは彼女を引っ張って鏡台の前まで連れて行ってしまう。すると、二人の姿のみを映していた鏡に一人の女性の顔が映った。
「わたし、マリーよ……?」
「おわっ」
「っ……!」
息が止まった翌檜はぴたりと動かなくなってしまい、シオンが慌てて彼女を引っ張り始める。彼の問いかけに彼女が答えるようになったのは、お化け屋敷を出て少し経った頃であった。
「おい、翌檜さん」
「……あ」
はっとした翌檜はびくりと震えた後、周囲を確認するかのようにきょろきょろと首を回す。そして、自分がシオンの腕に固くひっついていることに気が付くと、顔を真っ赤にして腕をぶんと離してしまった。
「すまん、そんなに嫌がると思わなくて」
「……大丈夫」
少しうつむいたシオンを元気づけようと翌檜が慌ててフォローを入れる。その様子がおかしかったのか、すぐさまシオンは笑顔を取り戻して翌檜の頭を撫でる。
「……!?」
「こういう場所が駄目だってちょっと意外でな」
二人がそのような事を話していると、遠くから翌檜にとって聞き覚えのある声が飛んできた。伽藍の声だ。すぐさま物陰に隠れた翌檜を見て、シオンも何かを察したらしく、その辺で他人のふりをし始める。
「やーん、シロちゃん機嫌直して~!」
「らん姉がまたいじめてくるのが悪いんだよー!」
辺りの人をモーゼの如く割りながら追いかけっこをしている二人を翌檜が白い目で見つめていると、ぼそっとシオンが何やらこぼす。
「知り合いか?」
「……うん」
そんなこんなで様子をうかがっていると、二人がなんだかこちらへ来るような気配を見せた。シロがシオンの方角へ徐々に進んできているのが見える。人込みでまだこちらは気づかれていないが、これでは来るのも時間の問題だ。
そして、翌檜は隠れていると言っても一人の大人の女性であるため、流石にこのままではシロに気づかれてしまう。シオンを前に動揺しきっているこの状況を身内に見られたくないのが翌檜の本心であった。
「ぁっ……」
「翌檜さん?」
「見られたくない……」
恥ずかしさで首をぶんぶん横に振っている翌檜を前に、シオンが何やら思いついて耳打ちをする。それで翌檜の動きがぴたりと止まったが、今度はそのまま動かなくなってしまった。そうこうしている間にシロと伽藍がこちらのほうへ近づいてくる。まずい。
「らん姉、こっちこっち!」
「シロちゃん、待って~」
「――翌檜さん、すまん」
そう言って、シロが二人の近くの人込みをかき分けるその寸前、シオンはフリーズした状態の翌檜を自分の胸元へとかなり強引に引き寄せた。彼女の顔全体が隠れるように腕で覆い、周囲の人から彼女が翌檜だと断定できないような状況を作り上げる。そこにシロと伽藍が到着したが、シオンの計画が功を奏したのか二人は翌檜に気が付かないまま走り去っていった。だが。
「ぁぁ……」
こんなことをしていたら身体がくっつくのは当たり前のことである。何も食べてなかったら腹が減るのと同じくらい当たり前のことである。
図らずもシオンに抱きしめられる状況になった翌檜の頭はとうに思考停止していた。二人が過ぎ去った後にシオンが何度かぽんぽん叩いたが全く反応を返さない。
「翌檜さん、大丈夫か?」
「……」
翌檜の目が閉じ、そのままシオンに身体が預けられるのはその直後である。
「翌檜さん、翌檜さん!」
どれくらい経ったのだろうか。翌檜は遊乃の声によって目を覚ました。いつの間にか翌檜は休憩スペースの机の上に突っ伏したように横になっており、周囲に遊乃と葵、さらには伽藍とシロが立っていた。
「……?」
「ずっとここで眠ってたぞ」
葵の言葉を聞きながら翌檜は周囲を見回す。
既にDランドは夕方になっており、シオンの姿は忽然と消えてしまっていた。どうして気を失ってしまったのか、と思い返したとき、先程の記憶が蘇って翌檜が両手で顔を覆ってしまう。
「~~!」
「あら、翌檜がそんな表情するなんて珍しいわね~」
「もしかして彼氏さんとデートしてたんですか? 気になる!」
遊乃の純粋無垢な追撃によってさらにダメージが入る。しばらくして翌檜が収まった後、そろそろ時間だということで五人はDランドを出ることになった。
四人の後ろを歩きながら、翌檜は端末をポケットから取り出す。すると、そこにはシオンからの伝言が残ってあった。
〈今日はいろいろすまなかった。もし、良かったらだけど、また一緒に来ないか。一応いつでも連絡つけられるようにはしといておく。あと、大会頑張れよ〉
それを見て嬉しくなっている自分に気づき、翌檜はしばらく息の仕方を忘れてしまった。
籠が頂上に達したあたりでシオンがやっと口を開いた。
「そういえば、翌檜さん」
「……?」
「あんたの町でデュエルの大会があるそうだな」
それが、以前議会で可決されたフラワリングカップのことを指していることは彼女にも分かった。少々の期待を込めて翌檜が聞き返す。
「来るの……?」
「いいや、俺は行けない。ただ、俺の双子の弟が行くつもりだ」
「……」
釈然としない答えに翌檜はやや落ち込んだ表情になった。それを見かねたシオンはその大きな手で翌檜の頭をぽんぽんと叩く。
「そいつは素行が悪くてな、町の自警団体にもしょっちゅう世話になってる困った奴だ。だから、大会で俺みたいな人を見かけたとしても、俺じゃないって思ってほしい」
「……」
「悲しい顔をするんじゃねぇよ。折角会えたのにそんな顔されるとな……ん」
シオンが気が付いた時には、彼のもう一方の手は翌檜の両手に取られてしまっていた。翌檜はシオンをやや見上げ、彼の手を絶対に離さないと言いたげに強く握っている。
「バカ」
「お前……」
「……今日、とても楽しみに、してた」
翌檜の声がやや上ずった。
「だから……今日は、楽しませて」
それを聞いたシオンは、しばらくの静寂の後に、そっと笑顔になった。
観覧車から降りた後に二人が向かったのはお化け屋敷。固まっている翌檜をシオンが引っ張っていく形で二人は中に入っていく。お化け屋敷の中でゴーストリックのモンスターを模した物が二人を驚かせにかかり、その度に翌檜は息を止めてさらに身体を固くする有様であった。
お化け屋敷の道中、道の横に意味ありげな鏡台が置いてあった。ガタガタな動きで首を横に振る翌檜をよそにシオンは彼女を引っ張って鏡台の前まで連れて行ってしまう。すると、二人の姿のみを映していた鏡に一人の女性の顔が映った。
「わたし、マリーよ……?」
「おわっ」
「っ……!」
息が止まった翌檜はぴたりと動かなくなってしまい、シオンが慌てて彼女を引っ張り始める。彼の問いかけに彼女が答えるようになったのは、お化け屋敷を出て少し経った頃であった。
「おい、翌檜さん」
「……あ」
はっとした翌檜はびくりと震えた後、周囲を確認するかのようにきょろきょろと首を回す。そして、自分がシオンの腕に固くひっついていることに気が付くと、顔を真っ赤にして腕をぶんと離してしまった。
「すまん、そんなに嫌がると思わなくて」
「……大丈夫」
少しうつむいたシオンを元気づけようと翌檜が慌ててフォローを入れる。その様子がおかしかったのか、すぐさまシオンは笑顔を取り戻して翌檜の頭を撫でる。
「……!?」
「こういう場所が駄目だってちょっと意外でな」
二人がそのような事を話していると、遠くから翌檜にとって聞き覚えのある声が飛んできた。伽藍の声だ。すぐさま物陰に隠れた翌檜を見て、シオンも何かを察したらしく、その辺で他人のふりをし始める。
「やーん、シロちゃん機嫌直して~!」
「らん姉がまたいじめてくるのが悪いんだよー!」
辺りの人をモーゼの如く割りながら追いかけっこをしている二人を翌檜が白い目で見つめていると、ぼそっとシオンが何やらこぼす。
「知り合いか?」
「……うん」
そんなこんなで様子をうかがっていると、二人がなんだかこちらへ来るような気配を見せた。シロがシオンの方角へ徐々に進んできているのが見える。人込みでまだこちらは気づかれていないが、これでは来るのも時間の問題だ。
そして、翌檜は隠れていると言っても一人の大人の女性であるため、流石にこのままではシロに気づかれてしまう。シオンを前に動揺しきっているこの状況を身内に見られたくないのが翌檜の本心であった。
「ぁっ……」
「翌檜さん?」
「見られたくない……」
恥ずかしさで首をぶんぶん横に振っている翌檜を前に、シオンが何やら思いついて耳打ちをする。それで翌檜の動きがぴたりと止まったが、今度はそのまま動かなくなってしまった。そうこうしている間にシロと伽藍がこちらのほうへ近づいてくる。まずい。
「らん姉、こっちこっち!」
「シロちゃん、待って~」
「――翌檜さん、すまん」
そう言って、シロが二人の近くの人込みをかき分けるその寸前、シオンはフリーズした状態の翌檜を自分の胸元へとかなり強引に引き寄せた。彼女の顔全体が隠れるように腕で覆い、周囲の人から彼女が翌檜だと断定できないような状況を作り上げる。そこにシロと伽藍が到着したが、シオンの計画が功を奏したのか二人は翌檜に気が付かないまま走り去っていった。だが。
「ぁぁ……」
こんなことをしていたら身体がくっつくのは当たり前のことである。何も食べてなかったら腹が減るのと同じくらい当たり前のことである。
図らずもシオンに抱きしめられる状況になった翌檜の頭はとうに思考停止していた。二人が過ぎ去った後にシオンが何度かぽんぽん叩いたが全く反応を返さない。
「翌檜さん、大丈夫か?」
「……」
翌檜の目が閉じ、そのままシオンに身体が預けられるのはその直後である。
「翌檜さん、翌檜さん!」
どれくらい経ったのだろうか。翌檜は遊乃の声によって目を覚ました。いつの間にか翌檜は休憩スペースの机の上に突っ伏したように横になっており、周囲に遊乃と葵、さらには伽藍とシロが立っていた。
「……?」
「ずっとここで眠ってたぞ」
葵の言葉を聞きながら翌檜は周囲を見回す。
既にDランドは夕方になっており、シオンの姿は忽然と消えてしまっていた。どうして気を失ってしまったのか、と思い返したとき、先程の記憶が蘇って翌檜が両手で顔を覆ってしまう。
「~~!」
「あら、翌檜がそんな表情するなんて珍しいわね~」
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甘すぎる。マドルチェが束になってもあっさり弾き飛ばされるそんな感じ。毒男になんてものを見せてくれるんですかこの2人は。
初めはよくある初心なカップルかと思いきやお約束の観覧車が頂点になる瞬間から急接近。お化け屋敷でのやり取りやシロ君に見つかりたくないがために、強く抱きしめるとか男なら一度は恋人にやってみたいことをあっさりやってのける。そこに痺れる憧れる(殴
ただいくら翌檜が気を失ったからと言って放置して帰るのはどうなんでしょうかね。まあ遊乃たちに見つかるとそれはそれで問題になってしまいそうですし、翌檜自身がそれを問題と捉えていないようなので大丈夫なんだと思いますが。 (2017-01-13 00:33)
確かに男なら1度はやってみたいですよね……ましてや翌檜さんのような綺麗な人となると(
シオンが翌檜さんを置いていったのには彼なりの事情も絡んでます。彼女は問題視はしてないので仲が悪くなったとかはありませんぞ。
翌檜さんのキャラが最初のクール美女からだんだんぶれてるような(´・ω・`) (2017-01-13 09:39)