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2-10:弱者の盾ー「結束の力」 作:氷色
肌が波打つようにビリビリと震える。
まるで突風を真正面から受けているかのようだ。
それは、黒く巨大な《冥帝エレボス》の存在感が放つプレッシャー。
まさに帝王と呼ばれるに相応しいその威風堂々たる様は、畏れすら感じさせるほどに圧倒的だった。
《冥帝エレボス》のレベルは8。それは最上級モンスターの証。
その巨体から放たれる力の奔流も、仄暗い水の底を覗き込んだような恐怖感も、レベル6のエビル・デーモンを凌駕している。もしあの一戦を経験していなかったら、今頃腰を抜かしていたかもしれない。
「どうした?我が精霊の瘴気にでも当てられたか?」
ケンゴからそう声をかけられて、呆けたように固まっていたユウゴの体はようやく自由を取り戻した。
「くっ……」
ユウゴは努めてデュエルへ頭を集中させる。
《冥帝エレボス》のプレッシャーは先の《魔帝アングマール》とは比べ物にならない。《黒魔術の呪文書》で強化されているマナでもたぶん敵わないだろう。ならば彼女の攻撃はキャンセルして、次ターンに逆襲をかけるしかない。
ユウゴがそう考えを切り替えた時、今まさに攻撃に入ろうとしていたマナが声を上げた。
『ちょっとぉ王様さん!ズルはダメですよぉ!あなた最上級モンスターなんだから、出てくるのにモンスター2体のリリースがいるんですよぅ?1体しかリリースしてないのに出てきちゃダメじゃないですかぁ!』
彼女の訴えの矛先はどうやら《冥帝エレボス》のようだ。
その訴えに、ユウゴも「あっ」と気付かされる。
モンスターはそのレベルに応じて三種に大別される。
レベル4以下は下級モンスター、レベル5・6は上級モンスター、そしてレベル7以上は最上級モンスターである。
下級モンスターの召喚には何の制約もないが、上級・最上級のモンスターの召喚にはリリースと呼ばれるコストが必要となる。その数は上級なら1体、最上級なら2体。それらのモンスターをフィールドから墓地に送って上級以上のモンスターを召喚することをアドバンス召喚と呼ぶのだ。
レベル6の《ブラック・マジシャン・ガール》や《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は上級モンスターでありモンスター1体のリリースでアドバンス召喚できるが、レベル8の《冥帝エレボス》は最上級モンスターでありアドバンス召喚にはモンスター2体のリリースが必要なはずなのだ。
だがケンゴが《冥帝エレボス》のリリースにしたのは《魔帝アングマール》1体のみ。マナが不正を指摘するのも無理はない。
しかしーー
『クックック……』
まるで地の底が震えるような重く低い笑い声が響いた。
笑っているのは《冥帝エレボス》だ。
『この儂に正面から不正を突き付けるか。肝の座った娘だ』
老齢の男声。しかしそこに弱々しさは微塵もない。彼が老いと共に積み上げてきたのは、衰えではなく経験や威厳という確かな力なのだと感じさせる。
「すなまい、エレボス。無礼を許した」
驚いたのはケンゴの言葉だ。
自身の精霊であるエレボスに謝意を伝える彼の態度には、先程までのこちらを嘲るものとはまるで違う真摯な雰囲気を感じる。
ユウゴとマナ・クリボーとも、アスナと剣姫とも、また違う二人の関係性。まるで精霊の方が上位であるかのようなケンゴの接し方は、ユウゴにとっては衝撃だった。
「《冥帝エレボス》は、アドバンス召喚されたモンスターをリリースに使用する場合、1体のリリースでアドバンス召喚することができる。不正ではない」
《冥帝エレボス》
効果モンスター
星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守1000
このカードはアドバンス召喚したモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。
(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキから「帝王」魔法・罠カード2種類を墓地へ送り、相手の手札・フィールド・墓地の中からカード1枚を選んでデッキに戻す。
(2):このカードが墓地にある場合、1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに手札から「帝王」魔法・罠カード1枚を捨て、自分の墓地の攻撃力2400以上で守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
《冥帝エレボス》の攻撃力は2800。やはりマナでは及ばない。残念ながらこのターンの攻撃は諦めるしかない。
ユウゴがそんなことを考えている中、マナはエレボスに頭を下げていた。
『そんな効果があったなんて知らなくて、疑っちゃってごめんなさい』
マナの真っ直ぐで邪気のない謝罪に、エレボスは『なるほど、面白い娘よ』とくつくつ笑う。
『でもデュエルは勝負ですから、マナが王様さんも倒しちゃいますよぅ!』
物怖じという言葉とは縁遠いマナに、しかしエレボスは『むぅ』と唸った。
『悪いがそれは無理だ、若き魔術師の娘よ。のぅ、主よ?』
マナの威勢を全否定し、エレボスがケンゴに匙を向ける。
ケンゴもそれに頷き、手を振るう。
「《冥帝エレボス》がアドバンス召喚に成功したことでそのモンスター効果が発動する。《冥帝エレボス》はアドバンス召喚に成功した場合、手札またはデッキから帝王と名の付く魔法・罠カードを2枚墓地に送ることで相手の手札・フィールド・墓地からカードを1枚デッキに戻すことができる」
「な……ッ!」
『ええ~ッ!てことは、もしかして……』
エレボスがゆっくりと掌をマナに向ける。
「俺はデッキから《帝王の凍気》・《帝王の溶撃》の2枚を墓地に送り《冥帝エレボス》の効果を発動。デッキに戻すのは、当然《ブラック・マジシャン・ガール》だッ!!」
『ですよね~!!キャーッ!!』
ケンゴは言いながらデッキから2枚のカードを選び出し墓地へと送る。
そしてその宣言が終わるのが早いか、エレボスの掌から凄まじい勢いの黒く色の付いた突風が発せられた。闇の瘴気の嵐だ。
それに耐えることができるはずもなく、マナは悲鳴と共に吹っ飛ばされた。
「マナッ!!」
ユウゴも煽りを受けて体勢を崩しており、どうすることもできない。
マナが遂には実体化していることもできなくなりカードに姿を戻されてしまい、荒れる風の勢いそのままにユウゴのデッキへと消えていった。
「くっ……ッ!」
ユウゴは歯噛みする。
クリボーにまで協力してもらってせっかく召喚したばかりのエースをいとも簡単に除去されてしまった。これは想定外だ。
しかしケンゴの戦略はこれで終わりではなかった。
「更に《冥帝エレボス》のアドバンス召喚に成功したことで《帝王の開岩》の効果も発動し、俺はデッキから《邪帝ガイウス》をサーチする」
再び背後の岩戸が開き、カードを1枚手にするケンゴ。
《帝王の開岩》は永続魔法。1度効果を発動しても、また発動条件が充たされれば同じ効果を何度も使用できる魔法カードなのだ。
《連撃の帝王》でアドバンス召喚の回数を増やすことで、この《帝王の開岩》のサーチ効果を更にフル活用できる。それもまたケンゴの狙いだった。
流れるような見事なコンボの繋がり方だと言える。
膝を付くユウゴをケンゴは見下ろす。
その眼は恐ろしくクールだ。
「お前は先程こう言ったな。“あんたと俺は同じ戦い方を選んだ”とーー」
確かに言った。
デッキから《魔帝家臣ナスグル》を特殊召喚し《魔帝アングマール》をアドバンス召喚したケンゴと、同じくデッキから《クリボー》を特殊召喚し《ブラック・マジシャン・ガール》をアドバンス召喚したユウゴ。
どちらも同じ流れから上級モンスターのアドバンス召喚を成功させたという意味では同じ戦術だったと言えるだろう。
「だが結果はどうだ?サーチを駆使し手札の消費を抑えながら最上級モンスターのアドバンス召喚に繋げた俺に対し、お前はいたずらに手札を消耗させあまつさえモンスターを失う有り様ーー」
ユウゴを見下ろすケンゴの眼が遠退いていくような錯覚に陥る。
まるで遥か高みから見下されているかのようだ。
確かにケンゴの言う通りだ。
ターン開始時の手札枚数はケンゴの方が少なかったにも関わらず、手札・フィールド合わせてまだ5枚のカードを有するケンゴに対してユウゴの手札はすでに3枚。あっという間にアドバンテージに差をつけられた。
この公園まで来る際、アスナと走った時と同じだ。
あの時もあっという間に引き離された。
そしてユウゴはそれをこう結論付けた。“基本的なスペックが違う”とーー。
「俺とお前が同じ戦い方だとーー?」
ケンゴは自嘲ぎみに笑う。
だがすぐにその眼に怒りが灯った。
「ーーお前程度の浅い戦術と一緒にするなッ!!片腹痛いわッ!!」
まるで鉄のハンマーで殴られたような衝撃。
ケンゴとの間にある圧倒的なプレイ技術の差。それを全く分かっていなかったことを、今まさに突きつけられたのだ。
ユウゴは殊更に傲っていたわけでもケンゴを見下していたわけでもない。
ただ絶対に負けられないと、そう思って挑んでいただけなのだ。
しかしそれでも何処かで勝てると思っていたのかもしれない。
エビル・デーモンの時のように何とかなると、これまでの人生のように成るようになると、そう安易に考えていたのではないか。
あくまでもユウゴはただ一度勝ったことのあるだけの初心者。これまで多くの戦いを経験し死線を越えてきたケンゴとでは力量に遥かな差があって当たり前なのだ。
であるにも関わらず、それを同列に考えていたその甘さをケンゴに見透かされた。そんな気がした。
「くッ……そ……!」
ユウゴは頭を振る。
駄目だ、気圧されるなーー。
アスナもヒビキも言っていた。
デュエルとは魔力の戦い。魔力の戦いとは精神の戦いだ。気圧されればそれは敗北に直結する。
このデュエルには、ブロック・スパイダーの命が懸かっている。仮に歴然たる力の差があったとしても、絶対に負けるわけにはいかないのだ。
ユウゴはただ今出来得る最善の手を探るしかない。
「《黒魔術の呪文書》が墓地に送られたことで、その効果が発動する!《黒魔術の呪文書》は、フィールドに表側表示で存在しているこのカードが墓地に送られた場合、デッキからマジシャンズと名の付く魔法・罠カード1枚をサーチできる!俺はデッキから《マジシャンズ・コール》を手札に加える!」
空元気だとしても、気落ちしていることは悟られぬようユウゴは声を張る。
ユウゴがデッキから目当てのカードを抜き出すと、ケンゴは鼻を鳴らした。
「どうやら少しはリカバリーする方法を用意していたらしいな」
言葉にはまだ嘲りの色が感じられるが、それでもアドバンテージの差を少しでも埋められたのは悪くないはずだ。
ユウゴは手札からカードを2枚選んでデュエルディスクに挿入する。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」
《黒魔術の呪文書》でカードをサーチできたことで、ユウゴの手札にはまだ逆転の手は残された。
ここは耐えるしかない。
◇ユウゴ(手札2・LP4000)
⚫モンスター
なし
⚫魔法・罠
伏せカード×2
◇ケンゴ(手札2・LP4000)
⚫モンスター
冥帝エレボス/攻2800
⚫魔法・罠
帝王の開岩/永続
連撃の帝王/永続
伏せカード×1
「俺のターン!ドロー!」
ケンゴの2ターン目。
ケンゴにとっては如何にしてユウゴのLPを削るか、ユウゴにとってはそれをどう防ぐか、その攻防がこのターンの醍醐味と言える。
ケンゴがデッキからカードをドローする。
ケンゴにしてみれば、ユウゴのフィールドにモンスターがいないこのターンは一気にゲームエンドに持っていくチャンス。
《冥帝エレボス》の攻撃力は2800。つまりこのターン、攻撃力1200以上のモンスターを用意し2体の直接攻撃を通すことが出来れば、ケンゴの勝ちだ。
それを実現するための最大の障害は、言うまでもなくユウゴの2枚の伏せカードということになる。
「まずはその伏せカードを取り除かせてもらおうか」
ドローしたカードを一旦手札に納め、ケンゴが腕を振るう。
「墓地から《帝王の凍気》の効果を発動する!このカードは、このカード自身を含む帝王と名の付く魔法・罠カードを2枚墓地から除外することで、相手フィールドの伏せカード1枚を破壊することができる!俺は墓地から《帝王の凍気》・《帝王の溶撃》の2枚を除外し、お前の右側の伏せを破壊する!」
《帝王の凍気》
通常魔法
(1):自分フィールドに攻撃力2400以上で守備力1000のモンスターが存在する場合、フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
(2):自分の墓地からこのカードと「帝王」魔法・罠カード1枚を除外し、フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
「なッ!?墓地から魔法カードを!?」
ユウゴのデュエルに関する知識はそのほぼ全てを父の遺したノートの内容に依存している。ということは当然30年前のカードゲームだった頃のデュエルに存在しなかった種類のカードに関わる知識はない。
墓地から発動する魔法カードなど、当時の記録にはなかった。
ケンゴが発動を宣言した途端、場の空気がぐっと冷え込んだ気がした。
何処からともなく凍えるような冷気が流れ込み、その場の人間の息を白くする。
途端、《冥帝エレボス》から剃刀のように鋭い寒風が吹き付ける。
「ぐ、ぐ……」
魔力の冷気が肌を切り裂いていくようだ。
見ると対象にされた伏せカードがピキピキと凍り付き始めている。
このままにしておけば完全に凍り付いて使い物にならなくなってしまう。
「くッ……対象カードをチェーン発動ッ!!」
吹き付ける凍気を振り払うようにユウゴが腕を振るう。
破壊対象にされたカードの効果を使うには今の内にチェーンして発動させてしまうしかない。
幸いにも対象とされたカードは発動タイミングに制約のないフリーチェーンの罠カードだ。
縁にへばり付く氷を砕いて翻ったのは、先程《黒魔術の呪文書》の効果で手札に加えたカード。
「罠カード《マジシャンズ・コール》!!」
カードには魔法使いがその使い魔らしきモンスターを呼び出しているようなイラスト。
「このカードが発動した時、俺はデッキからカードを1枚ドローできる!そしてそのカードが魔法使い族モンスターだった場合、そのモンスターより全てのステータスが低いモンスター1体を墓地から特殊召喚できる!」
《マジシャンズ・コール》(オリカ)
通常罠
(1):デッキからカードを1枚ドローする。そのカードが魔法使い族モンスターだった場合、お互いにそのカードを確認し、自分の墓地からそのモンスターよりレベル・攻撃力・守備力の全てが低いモンスター1体を特殊召喚できる。
《マジシャンズ・コール》はドロー効果を持った罠カードだった。だが、それだけでは1:1の手札交換でしかない。このカードの本領はこのドローで魔法使い族モンスターを引き当て、墓地のモンスターを特殊召喚する能力にある。魔法使いの力によってその使い魔であるモンスターを特殊召喚してアドバンテージを得ることができるのだ。
今、ユウゴの手札にモンスターはいない。
ここで魔法使い族モンスターを引き当てなければ、本当にこのままゲームエンドになりかねない。
そうなればユウゴは敗北するだけではなく、守りたいものも守ることができない。それだけは絶対に嫌だ。
ユウゴはデッキに手を置き、祈るように目を閉じる。
「頼む、俺のデッキよ。どうか俺の想いに応えてくれ!!」
叫びと共にカードを引き抜いた。
祈る気持ちでゆっくりとそのカードを翻す。
「俺がドローしたカードはーー《ブラック・マジシャン・ガール》!!」
「なんだとッ!?」
ユウゴが引いたのは、先程《冥帝エレボス》の効果でデッキに戻したばかりの《ブラック・マジシャン・ガール》だった。
サーチやバウンス等、ドロー以外でデッキからカードを選んで手札に加えたり、逆にカードを戻したりした場合には、その都度デッキはシャッフルされる。
たった今デッキに戻したカードを次のドローで引くなど、一体どれだけの確率なのか。
それだけ精霊との絆が強いということか、あるいはーー。
ケンゴは内心で感心する。
強い魔力の持ち主は運さえも引き込む。このドローは単純な運などではない。
潜在的な魔力の強さで言えばヤツの方が上だということかーー。
だが魔力は向こうが上でも、現段階のプレイングはこちらが上。
このデュエル、負ける気は微塵もない。
「《ブラック・マジシャン・ガール》は魔法使い族モンスター!よって、《マジシャンズ・コール》の効果でそれよりもステータスが低い墓地のモンスターを特殊召喚できる!」
《ブラック・マジシャン・ガール》は魔法使い族・レベル6・攻撃力2000・守備力1700のモンスター。《マジシャンズ・コール》のテキストによれば、その全てに於いてそれに劣るモンスターならば他に制限なく蘇生できる。
しかしユウゴの墓地にその対象となるモンスターは1体しか存在しない。
「甦れ!《クリボー》!!」
地面から湧き上がるようにしてユウゴのフィールドにクリボーが守備表示で復活した。
クリボー/守200
『クリ~( ^^ )』
《クリボー》の守備力は僅か200。しかしそれでもモンスター1体の攻撃ならばユウゴにダメージを及ぼさないようにできる。この特殊召喚に成功したことで、並の攻撃ならばこのターンでの敗北はなくなったと言える。
しかしーー
「それでこのターンを凌げると思っているのかーー笑止ッ!!」
そう、ケンゴのターンはまだ始まったばかりなのだ。
ケンゴは闘志を剥き出しに手札を切る。
「《冥帝従騎エイドス》を召喚!」
ケンゴの召喚した《冥帝従騎エイドス》は、流石に冥帝に従う騎士だけあり《冥帝エレボス》を小型化したような姿だった。
《冥帝従騎エイドス》
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1000 「冥帝従騎エイドス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。 このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにアドバンス召喚できる。
(2):墓地のこのカードを除外し、「冥帝従騎エイドス」以外の 自分の墓地の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
その攻撃力は800。
どうやら心配せずともこのターンの決着はなさそうだ、とユウゴは胸を撫で下ろす。
「何を安心している?《冥帝従騎エイドス》が召喚に成功したターン、俺はもう一度アドバンス召喚を行うことができる!」
「えッ!?」
先述の通り、アドバンス召喚は通常召喚の一種であり、普通1ターンに1度しかできない。それは《連撃の帝王》が発動されている今も変わることのないルールである。
しかし《冥帝従騎エイドス》が召喚されたターンだけは別で、例え《冥帝従騎エイドス》を通常召喚していたとしてももう一度アドバンス召喚することができる。無論、《冥帝従騎エイドス》自身をリリースして上級モンスターをアドバンス召喚することも可能だ。
「《冥帝従騎エイドス》をリリースし、手札から《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!!」
《冥帝従騎エイドス》が闇の渦となって消え、《邪帝ガイウス》がアドバンス召喚された。
帝モンスターは全員それぞれの属性に因んだ色の甲冑姿で統一されているらしく、《邪帝ガイウス》もまた例に漏れず黒い鎧姿。
最上級モンスターである《冥帝エレボス》に比べれば幾らかマシではあるが、上級モンスターらしくかなりの威圧感を感じる。
《邪帝ガイウス》
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動する。そのカードを除外し、除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、相手に1000ダメージを与える。
「《邪帝ガイウス》のモンスター効果!このカードがアドバンス召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を除外する!」
やはり上級モンスターの帝。アドバンス召喚に成功した場合に効果が発動するのは《冥帝エレボス》・《魔帝アングマール》と同じらしい。
《邪帝ガイウス》が両手を構えると、その間に巨大な魔力の黒球が現れる。
「除外対象は、無論《クリボー》だ!」
『ク、クリ~( 。゚Д゚。)!』
対象が自分だと知り、クリボーは体を爆発させる勢いであわてふためく。
《邪帝ガイウス》の黒球はそうこうしている間にもその魔力を注がれ膨張を続けていく。
こんなものをまともに喰らえばクリボーは次元の彼方まで吹き飛ばされてしまうに違いない。
そうなれば2体の帝の直接攻撃でユウゴのLPはあっという間に0にされてしまう。
「やれッ!《邪帝ガイウス》!その弱小モンスターを吹き飛ばせッ!」
ケンゴの命令に《邪帝ガイウス》は黒球をクリボー目掛けて放った。
「くっ……速攻魔法発動ッ!」
ユウゴがそうはさせないと、もう1枚の伏せカードを翻す。
そのカードとはーー
「速攻魔法《増殖》!!」
《増殖》
速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「クリボー」1体をリリースして発動できる。 自分フィールド上に「クリボートークン」(悪魔族・闇・星1・攻300/守200)を可能な限り守備表示で特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない。
ユウゴのカードが発動するやいなや、フィールドのクリボーはポンポンと軽快な音と共にあっという間に5体へと数を増やしてしまった。
「これは……」
《邪帝ガイウス》の放った魔力弾が狙いを逸れて何もない地面を抉り取った。
まともに喰らっていればそれはクリボーが受ける未来だったのかと思いゾッとする。
しかしユウゴの発動した速攻魔法《増殖》によって、それより早くリリースされた《クリボー》は無事除外されることなく墓地に送られた。ユウゴのフィールドにいる5体のクリボーは本体ではなく分身の《クリボートークン》だ。
「弱小モンスターを増殖させ、壁の数を増やしたか……」
思惑を阻まれたケンゴだが、その冷静さは少しも揺らいでいない。
「例えステータスは低くても、こうしてより集まれば無敵の壁となる!これが結束の力だ!」
5体の《クリボートークン》は全て守備表示。
一匹一匹ならモンスターで撃破するのも容易だが、それが5体ともなれば全部撃破し直接攻撃を届かすには数ターンはかかるだろう。中々の煩わしさだ。
これで今度こそケンゴの攻めを防ぎきったと言える。
1体1体は帝のような強力なモンスターには敵わないだろうが、こうした搦め手はむしろこうした低レベルモンスターの得手である。
弱い者はこうして力を束ねることで、強大な敵と戦うもの。
小さな《クリボートークン》が5体集まってユウゴを守ろうとしているその様は、まさにーー
「“弱者の盾”か……」
ケンゴの呟きによってそう命名された。
エビル・デーモン戦でもそうだったように、ユウゴは弱いモンスターの力を結集させ大きな力とする戦術を得意とする。
それは確かに“弱者”の戦い方であった。
まるで突風を真正面から受けているかのようだ。
それは、黒く巨大な《冥帝エレボス》の存在感が放つプレッシャー。
まさに帝王と呼ばれるに相応しいその威風堂々たる様は、畏れすら感じさせるほどに圧倒的だった。
《冥帝エレボス》のレベルは8。それは最上級モンスターの証。
その巨体から放たれる力の奔流も、仄暗い水の底を覗き込んだような恐怖感も、レベル6のエビル・デーモンを凌駕している。もしあの一戦を経験していなかったら、今頃腰を抜かしていたかもしれない。
「どうした?我が精霊の瘴気にでも当てられたか?」
ケンゴからそう声をかけられて、呆けたように固まっていたユウゴの体はようやく自由を取り戻した。
「くっ……」
ユウゴは努めてデュエルへ頭を集中させる。
《冥帝エレボス》のプレッシャーは先の《魔帝アングマール》とは比べ物にならない。《黒魔術の呪文書》で強化されているマナでもたぶん敵わないだろう。ならば彼女の攻撃はキャンセルして、次ターンに逆襲をかけるしかない。
ユウゴがそう考えを切り替えた時、今まさに攻撃に入ろうとしていたマナが声を上げた。
『ちょっとぉ王様さん!ズルはダメですよぉ!あなた最上級モンスターなんだから、出てくるのにモンスター2体のリリースがいるんですよぅ?1体しかリリースしてないのに出てきちゃダメじゃないですかぁ!』
彼女の訴えの矛先はどうやら《冥帝エレボス》のようだ。
その訴えに、ユウゴも「あっ」と気付かされる。
モンスターはそのレベルに応じて三種に大別される。
レベル4以下は下級モンスター、レベル5・6は上級モンスター、そしてレベル7以上は最上級モンスターである。
下級モンスターの召喚には何の制約もないが、上級・最上級のモンスターの召喚にはリリースと呼ばれるコストが必要となる。その数は上級なら1体、最上級なら2体。それらのモンスターをフィールドから墓地に送って上級以上のモンスターを召喚することをアドバンス召喚と呼ぶのだ。
レベル6の《ブラック・マジシャン・ガール》や《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は上級モンスターでありモンスター1体のリリースでアドバンス召喚できるが、レベル8の《冥帝エレボス》は最上級モンスターでありアドバンス召喚にはモンスター2体のリリースが必要なはずなのだ。
だがケンゴが《冥帝エレボス》のリリースにしたのは《魔帝アングマール》1体のみ。マナが不正を指摘するのも無理はない。
しかしーー
『クックック……』
まるで地の底が震えるような重く低い笑い声が響いた。
笑っているのは《冥帝エレボス》だ。
『この儂に正面から不正を突き付けるか。肝の座った娘だ』
老齢の男声。しかしそこに弱々しさは微塵もない。彼が老いと共に積み上げてきたのは、衰えではなく経験や威厳という確かな力なのだと感じさせる。
「すなまい、エレボス。無礼を許した」
驚いたのはケンゴの言葉だ。
自身の精霊であるエレボスに謝意を伝える彼の態度には、先程までのこちらを嘲るものとはまるで違う真摯な雰囲気を感じる。
ユウゴとマナ・クリボーとも、アスナと剣姫とも、また違う二人の関係性。まるで精霊の方が上位であるかのようなケンゴの接し方は、ユウゴにとっては衝撃だった。
「《冥帝エレボス》は、アドバンス召喚されたモンスターをリリースに使用する場合、1体のリリースでアドバンス召喚することができる。不正ではない」
《冥帝エレボス》
効果モンスター
星8/闇属性/アンデット族/攻2800/守1000
このカードはアドバンス召喚したモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。
(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキから「帝王」魔法・罠カード2種類を墓地へ送り、相手の手札・フィールド・墓地の中からカード1枚を選んでデッキに戻す。
(2):このカードが墓地にある場合、1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに手札から「帝王」魔法・罠カード1枚を捨て、自分の墓地の攻撃力2400以上で守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
《冥帝エレボス》の攻撃力は2800。やはりマナでは及ばない。残念ながらこのターンの攻撃は諦めるしかない。
ユウゴがそんなことを考えている中、マナはエレボスに頭を下げていた。
『そんな効果があったなんて知らなくて、疑っちゃってごめんなさい』
マナの真っ直ぐで邪気のない謝罪に、エレボスは『なるほど、面白い娘よ』とくつくつ笑う。
『でもデュエルは勝負ですから、マナが王様さんも倒しちゃいますよぅ!』
物怖じという言葉とは縁遠いマナに、しかしエレボスは『むぅ』と唸った。
『悪いがそれは無理だ、若き魔術師の娘よ。のぅ、主よ?』
マナの威勢を全否定し、エレボスがケンゴに匙を向ける。
ケンゴもそれに頷き、手を振るう。
「《冥帝エレボス》がアドバンス召喚に成功したことでそのモンスター効果が発動する。《冥帝エレボス》はアドバンス召喚に成功した場合、手札またはデッキから帝王と名の付く魔法・罠カードを2枚墓地に送ることで相手の手札・フィールド・墓地からカードを1枚デッキに戻すことができる」
「な……ッ!」
『ええ~ッ!てことは、もしかして……』
エレボスがゆっくりと掌をマナに向ける。
「俺はデッキから《帝王の凍気》・《帝王の溶撃》の2枚を墓地に送り《冥帝エレボス》の効果を発動。デッキに戻すのは、当然《ブラック・マジシャン・ガール》だッ!!」
『ですよね~!!キャーッ!!』
ケンゴは言いながらデッキから2枚のカードを選び出し墓地へと送る。
そしてその宣言が終わるのが早いか、エレボスの掌から凄まじい勢いの黒く色の付いた突風が発せられた。闇の瘴気の嵐だ。
それに耐えることができるはずもなく、マナは悲鳴と共に吹っ飛ばされた。
「マナッ!!」
ユウゴも煽りを受けて体勢を崩しており、どうすることもできない。
マナが遂には実体化していることもできなくなりカードに姿を戻されてしまい、荒れる風の勢いそのままにユウゴのデッキへと消えていった。
「くっ……ッ!」
ユウゴは歯噛みする。
クリボーにまで協力してもらってせっかく召喚したばかりのエースをいとも簡単に除去されてしまった。これは想定外だ。
しかしケンゴの戦略はこれで終わりではなかった。
「更に《冥帝エレボス》のアドバンス召喚に成功したことで《帝王の開岩》の効果も発動し、俺はデッキから《邪帝ガイウス》をサーチする」
再び背後の岩戸が開き、カードを1枚手にするケンゴ。
《帝王の開岩》は永続魔法。1度効果を発動しても、また発動条件が充たされれば同じ効果を何度も使用できる魔法カードなのだ。
《連撃の帝王》でアドバンス召喚の回数を増やすことで、この《帝王の開岩》のサーチ効果を更にフル活用できる。それもまたケンゴの狙いだった。
流れるような見事なコンボの繋がり方だと言える。
膝を付くユウゴをケンゴは見下ろす。
その眼は恐ろしくクールだ。
「お前は先程こう言ったな。“あんたと俺は同じ戦い方を選んだ”とーー」
確かに言った。
デッキから《魔帝家臣ナスグル》を特殊召喚し《魔帝アングマール》をアドバンス召喚したケンゴと、同じくデッキから《クリボー》を特殊召喚し《ブラック・マジシャン・ガール》をアドバンス召喚したユウゴ。
どちらも同じ流れから上級モンスターのアドバンス召喚を成功させたという意味では同じ戦術だったと言えるだろう。
「だが結果はどうだ?サーチを駆使し手札の消費を抑えながら最上級モンスターのアドバンス召喚に繋げた俺に対し、お前はいたずらに手札を消耗させあまつさえモンスターを失う有り様ーー」
ユウゴを見下ろすケンゴの眼が遠退いていくような錯覚に陥る。
まるで遥か高みから見下されているかのようだ。
確かにケンゴの言う通りだ。
ターン開始時の手札枚数はケンゴの方が少なかったにも関わらず、手札・フィールド合わせてまだ5枚のカードを有するケンゴに対してユウゴの手札はすでに3枚。あっという間にアドバンテージに差をつけられた。
この公園まで来る際、アスナと走った時と同じだ。
あの時もあっという間に引き離された。
そしてユウゴはそれをこう結論付けた。“基本的なスペックが違う”とーー。
「俺とお前が同じ戦い方だとーー?」
ケンゴは自嘲ぎみに笑う。
だがすぐにその眼に怒りが灯った。
「ーーお前程度の浅い戦術と一緒にするなッ!!片腹痛いわッ!!」
まるで鉄のハンマーで殴られたような衝撃。
ケンゴとの間にある圧倒的なプレイ技術の差。それを全く分かっていなかったことを、今まさに突きつけられたのだ。
ユウゴは殊更に傲っていたわけでもケンゴを見下していたわけでもない。
ただ絶対に負けられないと、そう思って挑んでいただけなのだ。
しかしそれでも何処かで勝てると思っていたのかもしれない。
エビル・デーモンの時のように何とかなると、これまでの人生のように成るようになると、そう安易に考えていたのではないか。
あくまでもユウゴはただ一度勝ったことのあるだけの初心者。これまで多くの戦いを経験し死線を越えてきたケンゴとでは力量に遥かな差があって当たり前なのだ。
であるにも関わらず、それを同列に考えていたその甘さをケンゴに見透かされた。そんな気がした。
「くッ……そ……!」
ユウゴは頭を振る。
駄目だ、気圧されるなーー。
アスナもヒビキも言っていた。
デュエルとは魔力の戦い。魔力の戦いとは精神の戦いだ。気圧されればそれは敗北に直結する。
このデュエルには、ブロック・スパイダーの命が懸かっている。仮に歴然たる力の差があったとしても、絶対に負けるわけにはいかないのだ。
ユウゴはただ今出来得る最善の手を探るしかない。
「《黒魔術の呪文書》が墓地に送られたことで、その効果が発動する!《黒魔術の呪文書》は、フィールドに表側表示で存在しているこのカードが墓地に送られた場合、デッキからマジシャンズと名の付く魔法・罠カード1枚をサーチできる!俺はデッキから《マジシャンズ・コール》を手札に加える!」
空元気だとしても、気落ちしていることは悟られぬようユウゴは声を張る。
ユウゴがデッキから目当てのカードを抜き出すと、ケンゴは鼻を鳴らした。
「どうやら少しはリカバリーする方法を用意していたらしいな」
言葉にはまだ嘲りの色が感じられるが、それでもアドバンテージの差を少しでも埋められたのは悪くないはずだ。
ユウゴは手札からカードを2枚選んでデュエルディスクに挿入する。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」
《黒魔術の呪文書》でカードをサーチできたことで、ユウゴの手札にはまだ逆転の手は残された。
ここは耐えるしかない。
◇ユウゴ(手札2・LP4000)
⚫モンスター
なし
⚫魔法・罠
伏せカード×2
◇ケンゴ(手札2・LP4000)
⚫モンスター
冥帝エレボス/攻2800
⚫魔法・罠
帝王の開岩/永続
連撃の帝王/永続
伏せカード×1
「俺のターン!ドロー!」
ケンゴの2ターン目。
ケンゴにとっては如何にしてユウゴのLPを削るか、ユウゴにとってはそれをどう防ぐか、その攻防がこのターンの醍醐味と言える。
ケンゴがデッキからカードをドローする。
ケンゴにしてみれば、ユウゴのフィールドにモンスターがいないこのターンは一気にゲームエンドに持っていくチャンス。
《冥帝エレボス》の攻撃力は2800。つまりこのターン、攻撃力1200以上のモンスターを用意し2体の直接攻撃を通すことが出来れば、ケンゴの勝ちだ。
それを実現するための最大の障害は、言うまでもなくユウゴの2枚の伏せカードということになる。
「まずはその伏せカードを取り除かせてもらおうか」
ドローしたカードを一旦手札に納め、ケンゴが腕を振るう。
「墓地から《帝王の凍気》の効果を発動する!このカードは、このカード自身を含む帝王と名の付く魔法・罠カードを2枚墓地から除外することで、相手フィールドの伏せカード1枚を破壊することができる!俺は墓地から《帝王の凍気》・《帝王の溶撃》の2枚を除外し、お前の右側の伏せを破壊する!」
《帝王の凍気》
通常魔法
(1):自分フィールドに攻撃力2400以上で守備力1000のモンスターが存在する場合、フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
(2):自分の墓地からこのカードと「帝王」魔法・罠カード1枚を除外し、フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
「なッ!?墓地から魔法カードを!?」
ユウゴのデュエルに関する知識はそのほぼ全てを父の遺したノートの内容に依存している。ということは当然30年前のカードゲームだった頃のデュエルに存在しなかった種類のカードに関わる知識はない。
墓地から発動する魔法カードなど、当時の記録にはなかった。
ケンゴが発動を宣言した途端、場の空気がぐっと冷え込んだ気がした。
何処からともなく凍えるような冷気が流れ込み、その場の人間の息を白くする。
途端、《冥帝エレボス》から剃刀のように鋭い寒風が吹き付ける。
「ぐ、ぐ……」
魔力の冷気が肌を切り裂いていくようだ。
見ると対象にされた伏せカードがピキピキと凍り付き始めている。
このままにしておけば完全に凍り付いて使い物にならなくなってしまう。
「くッ……対象カードをチェーン発動ッ!!」
吹き付ける凍気を振り払うようにユウゴが腕を振るう。
破壊対象にされたカードの効果を使うには今の内にチェーンして発動させてしまうしかない。
幸いにも対象とされたカードは発動タイミングに制約のないフリーチェーンの罠カードだ。
縁にへばり付く氷を砕いて翻ったのは、先程《黒魔術の呪文書》の効果で手札に加えたカード。
「罠カード《マジシャンズ・コール》!!」
カードには魔法使いがその使い魔らしきモンスターを呼び出しているようなイラスト。
「このカードが発動した時、俺はデッキからカードを1枚ドローできる!そしてそのカードが魔法使い族モンスターだった場合、そのモンスターより全てのステータスが低いモンスター1体を墓地から特殊召喚できる!」
《マジシャンズ・コール》(オリカ)
通常罠
(1):デッキからカードを1枚ドローする。そのカードが魔法使い族モンスターだった場合、お互いにそのカードを確認し、自分の墓地からそのモンスターよりレベル・攻撃力・守備力の全てが低いモンスター1体を特殊召喚できる。
《マジシャンズ・コール》はドロー効果を持った罠カードだった。だが、それだけでは1:1の手札交換でしかない。このカードの本領はこのドローで魔法使い族モンスターを引き当て、墓地のモンスターを特殊召喚する能力にある。魔法使いの力によってその使い魔であるモンスターを特殊召喚してアドバンテージを得ることができるのだ。
今、ユウゴの手札にモンスターはいない。
ここで魔法使い族モンスターを引き当てなければ、本当にこのままゲームエンドになりかねない。
そうなればユウゴは敗北するだけではなく、守りたいものも守ることができない。それだけは絶対に嫌だ。
ユウゴはデッキに手を置き、祈るように目を閉じる。
「頼む、俺のデッキよ。どうか俺の想いに応えてくれ!!」
叫びと共にカードを引き抜いた。
祈る気持ちでゆっくりとそのカードを翻す。
「俺がドローしたカードはーー《ブラック・マジシャン・ガール》!!」
「なんだとッ!?」
ユウゴが引いたのは、先程《冥帝エレボス》の効果でデッキに戻したばかりの《ブラック・マジシャン・ガール》だった。
サーチやバウンス等、ドロー以外でデッキからカードを選んで手札に加えたり、逆にカードを戻したりした場合には、その都度デッキはシャッフルされる。
たった今デッキに戻したカードを次のドローで引くなど、一体どれだけの確率なのか。
それだけ精霊との絆が強いということか、あるいはーー。
ケンゴは内心で感心する。
強い魔力の持ち主は運さえも引き込む。このドローは単純な運などではない。
潜在的な魔力の強さで言えばヤツの方が上だということかーー。
だが魔力は向こうが上でも、現段階のプレイングはこちらが上。
このデュエル、負ける気は微塵もない。
「《ブラック・マジシャン・ガール》は魔法使い族モンスター!よって、《マジシャンズ・コール》の効果でそれよりもステータスが低い墓地のモンスターを特殊召喚できる!」
《ブラック・マジシャン・ガール》は魔法使い族・レベル6・攻撃力2000・守備力1700のモンスター。《マジシャンズ・コール》のテキストによれば、その全てに於いてそれに劣るモンスターならば他に制限なく蘇生できる。
しかしユウゴの墓地にその対象となるモンスターは1体しか存在しない。
「甦れ!《クリボー》!!」
地面から湧き上がるようにしてユウゴのフィールドにクリボーが守備表示で復活した。
クリボー/守200
『クリ~( ^^ )』
《クリボー》の守備力は僅か200。しかしそれでもモンスター1体の攻撃ならばユウゴにダメージを及ぼさないようにできる。この特殊召喚に成功したことで、並の攻撃ならばこのターンでの敗北はなくなったと言える。
しかしーー
「それでこのターンを凌げると思っているのかーー笑止ッ!!」
そう、ケンゴのターンはまだ始まったばかりなのだ。
ケンゴは闘志を剥き出しに手札を切る。
「《冥帝従騎エイドス》を召喚!」
ケンゴの召喚した《冥帝従騎エイドス》は、流石に冥帝に従う騎士だけあり《冥帝エレボス》を小型化したような姿だった。
《冥帝従騎エイドス》
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻 800/守1000 「冥帝従騎エイドス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。 このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにアドバンス召喚できる。
(2):墓地のこのカードを除外し、「冥帝従騎エイドス」以外の 自分の墓地の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
その攻撃力は800。
どうやら心配せずともこのターンの決着はなさそうだ、とユウゴは胸を撫で下ろす。
「何を安心している?《冥帝従騎エイドス》が召喚に成功したターン、俺はもう一度アドバンス召喚を行うことができる!」
「えッ!?」
先述の通り、アドバンス召喚は通常召喚の一種であり、普通1ターンに1度しかできない。それは《連撃の帝王》が発動されている今も変わることのないルールである。
しかし《冥帝従騎エイドス》が召喚されたターンだけは別で、例え《冥帝従騎エイドス》を通常召喚していたとしてももう一度アドバンス召喚することができる。無論、《冥帝従騎エイドス》自身をリリースして上級モンスターをアドバンス召喚することも可能だ。
「《冥帝従騎エイドス》をリリースし、手札から《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!!」
《冥帝従騎エイドス》が闇の渦となって消え、《邪帝ガイウス》がアドバンス召喚された。
帝モンスターは全員それぞれの属性に因んだ色の甲冑姿で統一されているらしく、《邪帝ガイウス》もまた例に漏れず黒い鎧姿。
最上級モンスターである《冥帝エレボス》に比べれば幾らかマシではあるが、上級モンスターらしくかなりの威圧感を感じる。
《邪帝ガイウス》
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
(1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動する。そのカードを除外し、除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、相手に1000ダメージを与える。
「《邪帝ガイウス》のモンスター効果!このカードがアドバンス召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を除外する!」
やはり上級モンスターの帝。アドバンス召喚に成功した場合に効果が発動するのは《冥帝エレボス》・《魔帝アングマール》と同じらしい。
《邪帝ガイウス》が両手を構えると、その間に巨大な魔力の黒球が現れる。
「除外対象は、無論《クリボー》だ!」
『ク、クリ~( 。゚Д゚。)!』
対象が自分だと知り、クリボーは体を爆発させる勢いであわてふためく。
《邪帝ガイウス》の黒球はそうこうしている間にもその魔力を注がれ膨張を続けていく。
こんなものをまともに喰らえばクリボーは次元の彼方まで吹き飛ばされてしまうに違いない。
そうなれば2体の帝の直接攻撃でユウゴのLPはあっという間に0にされてしまう。
「やれッ!《邪帝ガイウス》!その弱小モンスターを吹き飛ばせッ!」
ケンゴの命令に《邪帝ガイウス》は黒球をクリボー目掛けて放った。
「くっ……速攻魔法発動ッ!」
ユウゴがそうはさせないと、もう1枚の伏せカードを翻す。
そのカードとはーー
「速攻魔法《増殖》!!」
《増殖》
速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する「クリボー」1体をリリースして発動できる。 自分フィールド上に「クリボートークン」(悪魔族・闇・星1・攻300/守200)を可能な限り守備表示で特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない。
ユウゴのカードが発動するやいなや、フィールドのクリボーはポンポンと軽快な音と共にあっという間に5体へと数を増やしてしまった。
「これは……」
《邪帝ガイウス》の放った魔力弾が狙いを逸れて何もない地面を抉り取った。
まともに喰らっていればそれはクリボーが受ける未来だったのかと思いゾッとする。
しかしユウゴの発動した速攻魔法《増殖》によって、それより早くリリースされた《クリボー》は無事除外されることなく墓地に送られた。ユウゴのフィールドにいる5体のクリボーは本体ではなく分身の《クリボートークン》だ。
「弱小モンスターを増殖させ、壁の数を増やしたか……」
思惑を阻まれたケンゴだが、その冷静さは少しも揺らいでいない。
「例えステータスは低くても、こうしてより集まれば無敵の壁となる!これが結束の力だ!」
5体の《クリボートークン》は全て守備表示。
一匹一匹ならモンスターで撃破するのも容易だが、それが5体ともなれば全部撃破し直接攻撃を届かすには数ターンはかかるだろう。中々の煩わしさだ。
これで今度こそケンゴの攻めを防ぎきったと言える。
1体1体は帝のような強力なモンスターには敵わないだろうが、こうした搦め手はむしろこうした低レベルモンスターの得手である。
弱い者はこうして力を束ねることで、強大な敵と戦うもの。
小さな《クリボートークン》が5体集まってユウゴを守ろうとしているその様は、まさにーー
「“弱者の盾”か……」
ケンゴの呟きによってそう命名された。
エビル・デーモン戦でもそうだったように、ユウゴは弱いモンスターの力を結集させ大きな力とする戦術を得意とする。
それは確かに“弱者”の戦い方であった。
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153 | 第4話更新のお知らせ | 1411 | 1 | 2016-12-12 | - |
更新情報 - NEW -
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