番外編：11月11日　作：光芒

☆注意☆

・カオス
・キマシタワー
・本編がシリアスなので、番外編でははっちゃけるのがこの小説のスタイル
・不快に感じられたのであれば、ブラウザバックを推奨します
・この話において江崎グ○コ株式会社は一切関係しておりません













「……これは？」
「見ればわかるでしょ？ ポッキーよ」

　綾香から少し遅れる形で部屋に戻った遊希が購買で買ってきたのはチョコがついたスティック状のお菓子だった。そのお菓子は老舗お菓子メーカーが今から50年前に販売を開始した商品であり、世界中で販売されている人気商品であった。

「いや、ポッキーはわかるんだけどさ」
「綾香知らないの？」
「何がよ」
「今日は11月11日。ポッキーの日よ」

　11月11日。1という数字が4本並ぶことから、ポッキーに限らずスティック状のお菓子がよく売れる日だ。日本ではこういう洒落がよく好まれている。
　それはわかるのだが、綾香が不可解に思うのは遊希がこういう日に何故そのポッキーを買ってきたか、ということだ。半年以上共同生活を送ってきて、遊希はこういう洒落を好まないと思っていたのだが。

「ポッキーゲーム、しましょ？」
「……遊希。あんたがしようとしてることの意味わかってるの？」
「……？」

　綾香の問いかけに遊希はきょとん、とした様子で首を傾げた。クールな佇まいからふと見せる子どものような一面が彼女の愛らしいところ。綾香は2つの意味で溜息をついた。

「どこで聞いてきたの？ どこで覚えたのそんな言葉」
「人を幼児みたいに言わないで貰える？ エヴァに聞かれたのよ。遊希サンはポッキーゲームとかしないんデスカ？ って」
（あのリア充め……まあ可愛いから許すけど）





ポッキーゲーム (Pocky Game) はポッキーなどのスティック状のスナック菓子を用いたパーティゲームの1つ。2人がポッキーの両端をくわえて同時に食べ進むゲームであり、合コンや酒宴で行われることが多い。またポテト等の細長い食べ物や棒状ではないお菓子等でも代用される場合もある。
ポッキーゲームに明確なルールは存在しないが、一般に遊ばれているルールを総合すると、次のようなものになる。

○2人で行う場合
・2人が向かい合って1本のポッキーの端を互いに食べ進んでいき、先に口を離したほうが負けとなる。お互いが口を離さずに食べきった場合、その2人はキスをすることになる。

○複数人で行う場合
複数人で行う方法は複数通り存在する。
・まず、2人で食べ進み、ポッキーが適当なある一定の長さに達した場合、2人のうちどちらかが別の人に交代する。そうしてポッキ－が食べきられたときに残った2人はキス(接吻)をすることになる。
・2人組のチームに分かれ、目をつぶって上記のルールで行う。終了時のポッキーの長さが、最も短いチームが勝ちとなる。途中で折れた場合や、唇が触れた場合は負けとなる。


出典：Wikipedia（「ポッキーゲーム」）





「……つまり？」
「すっとぼけない。キスすることもあるってことよ」
「……」

　キス、という言葉を聞いた瞬間遊希の顔から耳までが林檎のように真っ赤に染まる。何故そこで真っ赤になるのかについては綾香は触れないようにした。

「後でエヴァちゃんにはお説教ね。しかし、日本に来た純粋な外国人が日本に染まってしまう様は見たくないわね。ほら変なことしないで千夏と詩織が帰ってきたら4人で分けて食べ……」

　そんな綾香が見たのは憮然とした表情でポッキーの袋を開ける遊希の姿だった。

「……何してんの」
「するわよ。ポッキーゲーム」
「話聞いてなかったの？ それとも3歩歩いて忘れたの？ あんた記憶力ニワトリレベル？」
「人をチキン扱いしないで。ここまで小馬鹿にされて引き下がるわけないでしょう？」

　4人の中で最も背が高く、最も女性的なスタイルをしている遊希であるが、誕生日は4人の中で最も遅い。学年こそ一緒であるが、一番誕生日の早い千夏とは約1年近く離れていることから遊希は精神面では意外にも子どもっぽいところがある。
　そのため普段はクールであるが、一度熱くなると最も歯止めが利かなくなるのも遊希という人間であった。そんな彼女の性格を一瞬でも失念した綾香は自分の不明さを悔いた。

「しょうがないわね。1回だけよ」
「真剣勝負よ」

　そう言ってポッキーのチョコ側を咥える遊希。こんな時でも美味しい方を咥えるのはちゃっかりしている。

「はいはい。じゃあ行くわよ」

　ポッキーのチョコをついてない側を綾香が咥えると、遊希はポッキーを咥えたまま「よーい、どん」とスタートの合図をした。するとゲームが始まると同時に綾香はポッキーの端だけを小さく噛み砕いてしまった。
　このゲームのルールでは、先に口を離した方の負けとなるのだが、それはポッキーを噛み砕いてしまった場合も同様だ。綾香からしてみれば、無理にこのゲームに付き合う必要もないため、わざと負けてとっととゲームを終わらせてしまおうと思っていたのだ。

「あっ、噛み砕いちゃったー、私の負けねー」
「……？……っ！！」

　事態を理解できていなかった遊希であるが、綾香の感情のこもっていない棒読みに我に返った遊希はふくれっ面を見せると両手を丸めて綾香のことをぽかぽかと叩いてきた。

「ばかばかばか」
「いたた、痛いってば。あんた意外と力強いんだから……わかった、わかったからもう」
「ばかばか綾香。可愛く言ってあんぽんたん」

　可愛く言う意味はあったかどうかはわからないが、拗ねた遊希がどうにも愛らしかったため綾香はもう一度だけ付き合うことにした。
　前回は遊希がチョコ側だったため、今回は綾香がチョコ側を咥える。口の中にはチョコの甘い味がじわりと広がっていく。チョコのついてない反対側を咥えた遊希とは顔が向かい合い、遊希と綾香の顔はポッキーを挟んでかなり近い距離で相対することとなった。

（うわっ……改めて向かい合うとすごいなぁ……）
「綾香、今度は本当の意味で勝つから」
「あら？ こっちもそのつもりよ」

　スタートと同時に綾香は思い切りチョコ側のポッキーを噛み進めた。この手のゲームは駆け引きが大事になるものであり、両者ともに慎重になりがちなのだが、綾香は敢えて大きく攻めることで遊希の動揺を誘う作戦に出た。
　この作戦は功を奏したようで、いきなり大胆に動いた綾香を見て遊希は頬を染めながら目を泳がせる。しかし、驚いた様子を見せながらも遊希は口を離せば負けだ、と改めて自分に言い聞かせると少しずつではあるが噛み進めていく。

（……まだ離さないかー……負けず嫌いなんだから）

　口と口が触れる形、つまりキスをすることになれば引き分けとなる。しかし、デュエリストとしての性かどうかはわからないが、勝負事となれば負けたくないと思った2人はそのまま動かなかった。
　数分ほど、睨み合うかたちで対峙する2人。遊希と綾香、4つの瞳で互いの顔を見つめ合う。鼓動と息が早くなり、頬を仄かに赤く染めた2人は小刻みに震えていた。

（それにしても……本当に綺麗だなぁ、遊希って。髪は綺麗な黒で肌は白くてもちもちで目はきりっとしてて大きくて鼻は小さくて高くて唇はぷるぷるで輪郭はしゅっとしてて……）

　同じ女性ながら本当に溜息しか出なくなるような遊希の顔を見ていて思わず感傷に浸る綾香。ずっと舐めていたせいか、ポッキーのチョコは唾液と共に流れ落ちてしまっていた。
　チョコが解けてしまうほど時間が経っても遊希が引く様子が見られないため、綾香は勝負に出ることにしたチョコの部分を超えてチョコの無い部分にまで一気に進んでいったのである。ぎょっとした様子の遊希は危うく口を離しそうになるが、負けてたまるかとばかりに応戦して噛み進めた。
　そして、あとひと噛みすれば鼻と鼻がぶつかり合うところまで2人の顔は迫っていた。このままでは本当に一線を超えてしまうかもしれない。仲良しの2人とはいえ、さすがにその壁を超えるつもりはなかった。

「ねえ遊希……いい加減降参しなさいよ……さっき勝たせてあげたでしょう？」
「あんなの勝ちじゃないし……やるならちゃんと勝負した上で勝ちたい……」
「負けず嫌い」
「意地っ張り」
「子ども」
「平坦」
「……何が平坦なのよ」
「説明しなきゃわかんない？」
「くっ」

　絶え間なく繰り広げられる悪口合戦。だが、別の意味で熱い勝負は意外な形で終止符を打たれる形となった。

「あれ？ 鍵開いてますね」
「もう2人帰って来てるのかしら？」
（千夏……詩織……！？ やばっ……これじゃ―――っ）
「ただいまー……」
「戻りまし……」

　部屋のドアを開けた千夏と詩織は硬直した。部屋の中ではルームメイト2人が熱い接吻を交わしていたのだから。
　千夏と詩織が戻ってきたことに気付いた綾香が動揺した隙を突いて遊希はポッキーを噛み進めたのだが、2人に気を取られていた綾香は遊希が近づいたことに気付かず、そのまま唇と唇と触れ合わせてしまう結果となったのだ。

「あっ……」

　綾香は思わず口を離した。先に口を離したことにより、遊希の勝利となる。遊希は「やった」と小さく言うと、にっこりと微笑んだ。しかし、綾香にとってはそれどころではない。

「そ、その……お取込み中だったようね！」
「そ、そ、そ、そ、そうですね……あの、今日はエヴァさんのお部屋で3人で夕食を食べましょうか……」
「違うの。話を聞いて！！」
「まあまあまあ、後は若いお二人で過ごしなさいね！」
「仲人みたいなこと言わないでよ！ あのね、今日はね……ポッキーの……」
「あの……東京には同性でも婚姻届けを出せる区があるみたいですので……卒業後はそちらの方に……」
「詩織待って！ 後ずさりしないで！！ ああ、もう！ 遊希も誤解解くの手伝ってったらぁー！！」

　慌てふためく綾香をわき目を振らず、遊希は折れたポッキーを最後まで食べては勝利の余韻に浸るのであった。

「……ごちそうさまでしたっ」









番外編　　　11月11日　　　終