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1-17:最後の足掻き(*未修正) 作:氷色
確かに、とアスナは心の中で一人ごちる。
デッキのカードパワーもタクティクスも、エビル・デーモンの方が数枚上手なのは間違いない。
実力の劣るユウゴが、相手の攻撃を耐え凌ぎ一発逆転に懸ける持久戦を選んだ選択は間違ってはいないが、それが《マジシャンズ・クロス》ではパワー不足だ。そこまで全てを懸けるのならば、一撃でエビル・デーモンに勝ちきる戦術が必要だった。一撃で仕留められなければ、相手に反撃の機会を与えることになり、そしてその機会をみすみす棒に振るエビル・デーモンではないからだ。
“ブラック・クロス・バーニング”はLPを僅かに削っただけで、またエビル・デーモンは自分のターンを迎える。
残り僅かなLPと魔力、体力でそのエビル・デーモンのターンの攻撃に耐えられるか。またそれを耐えたとしても次のユウゴのターンに反撃できる力が果たして彼にあるのか。その二つのハードルを乗り越えぬ限り、ユウゴに勝利はない。
アスナは拳を強く握った。
何もできないことが悔しい。
自分ではない誰かを暴走した精霊の被害に遭わないように護るために、血の滲むような訓練を経て守護官となったのに。結局はこうして見ていることしかできないのか。
しかしアスナは掌に突き刺さる爪の痛みとともに自分に言い聞かす。
ユウゴを信じると決めたではないか。
ユウゴの中に勝利の可能性を見た。ユウゴの決意を見た。ユウゴの覚悟を見た。そしてそれを受け入れた。
これはユウゴの〔戦い〕だ。
絶対に自分は手を出してはならない。
手を出せば、もしかしたらユウゴの命を救うことはできるかもしれない。しかし決してユウゴはそれを喜びはしないだろう。これはユウゴが初めて自ら戦うと決めた戦いなのだから。
アスナはなお一層強く拳を握り絞め、ただ呟いた。
それは先程もユウゴに言った言葉。
それは懇願にも近い、アスナの包み隠さぬ心の叫びであった。
「死ぬな……ユウゴ……」
◇
これは死ぬかもしれないな、とユウゴは内心で冷や汗をかいた。
起死回生とは思っていたが《マジシャンズ・クロス》でエビル・デーモンを倒せるなんて思ってはいなかった。
それでもこの眼前の光景は堪える。
やっとの思いで倒した敵が更に力を増して復活する。デュエルをし続ければ、こんな場面に何度も遭遇するのだろうか。それは全く気が滅入る空想だ。
それほどまでに《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の復活はユウゴの覚悟に暗い闇を落としていた。
『……まだ終わってません』
ユウゴを地上に降ろしたマナがその肩を強く掴む。
その眼は出会った時から何ら変わらない。まっすぐにユウゴの勝利を信じている。
『デュエルは最後の最後まで何があるか分からないんです!心を強く持ってマスター!自分の勝利を信じていられない者には決して勝利は訪れません!』
全く呆れるほど純粋な信頼だ。
本当に何をそれほど信じているというのだろう。
ユウゴは何とか自分で立ち上がろうとするがその途中でよろける。
すぐにマナが助け船を出そうとするが、ユウゴがそれを押し留めた。
『マスター……』
拒絶されたと感じたのかマナは哀しそうな顔。
しかしユウゴは笑んでみせる。
「自分で立つよ。立って戦う」
そう言うと、マナは一瞬きょとんとするが、すぐに破顔する。
『マスターぁ!』
「マナが似合わないマジな励ましなんかするから、勇気が出ちゃったじゃないか」
ユウゴの戦う意思は消えたりなどしていなかった。
不意に昨夜の母の言葉が甦る。
ーー自分一人護れない内は子供。
その通りだと思った。
「マナやみんなに支えられなきゃ前に進めない。俺はやっぱりまだ子供だ」
マナと《アップル・マジシャン・ガール》がユウゴを守るように前に出る。
エビル・デーモンはそのやり取りを悠然と見下ろしていた。
「俺は弱くて、情けなくて、ガキだ。だけど、ここで逃げたら男ですらいられなくなる。俺は……デュエリストだッ!!」
折れそうになる膝にグッと力を入れる。
そして強い意思とともにエビル・デーモンを睨む。
戦うのは怖い。
もしかしたら本当に死ぬかもしれない。
だけど逃げたくない。
いまデュエルから逃げれば、もうきっと自分は何者にもなれない気がした。
手札からカードを1枚選ぶ。
「バトルフェイズは終了!続いてメインフェイズ2!俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」
もはやできることは限られている。
だができることが残されているなら全てやってやる。足掻いて足掻いて足掻ききってやる。
負けてもいいなんて思わない。勝つことを諦めない。
マナ達ユウゴの仲間が自分を信じて戦ってくれる限り、ユウゴはデュエリストなのだ。
ユウゴ(手札2・LP1200)
モンスター
ブラック・マジシャン・ガール/攻2000
アップル・マジシャン・ガール/攻1200
魔法・罠
セットカード×1
ターンが移り、エビル・デーモンのターン。
このターンの攻めをなんとかして防がねば、ユウゴにとっては人生のラストターンとなる。
『ドロー!』
エビル・デーモンがデッキからカードをドローする。
引いたカードは罠カード。
このターンには使えないが、エビル・デーモンの勝利を更に磐石にするには都合のいいカードだった。
『貴様の心意気や良し。しかしやはり儂の勝利は揺るがぬ』
最後まで勝負を諦めない姿勢は同じ戦士として好感が持てる。
しかしそれで結果が変わるほど、戦いとは甘いものではない。
『《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は墓地から蘇ったモンスター!しかし、だからと言って《闇の二重魔法陣》の効果を受けぬわけではない!依然《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は再度召喚状態だ!』
《闇の二重魔法陣》の効果範囲は単に闇属性のデュアルモンスターとしか指定されていない。手札から召喚されようが、墓地から特殊召喚されようが、再度召喚状態として扱うことに違いはない。
つまりこの《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の相手モンスターを破壊する効果も有効だということだ。
『ゆくぞッ!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の効果発動ッ!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力以下の守備力を持つ相手モンスターを全て破壊する!!』
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力は2800。
対するユウゴのモンスターの守備力は、《ブラック・マジシャン・ガール》が1700、《アップル・マジシャン・ガール》に至っては僅かに800。この効果に耐えられるモンスターはいない。
『フハハハハッ!吹き飛べ!“怒髪天昇撃”ィ!!』
《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》の時と同じく、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が雷のオーラを放射し、ユウゴのフィールドが雷柱に襲われる。
「ぐ……くッ……」
『キャアアアアッ!』
マナや《アップル・マジシャン・ガール》が悲鳴を上げて逃げ惑うが、ユウゴにはそれを助けてやれる術はなく、彼女達自身もそれを避けきることはできなかった。
「マナっ!《アップル・マジシャン・ガール》ッ!」
ユウゴが叫ぶが、地面より立ち上る雷撃に為す術なく二人は消し去られてしまった。
『小娘どもを消し去っただけではないぞッ!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が貴様のモンスターを破壊したことにより、《デーモンの暴虐》の効果が発動!貴様に800ポイントのダメージを与える!』
永続罠《デーモンの暴虐》には、〔デーモン〕モンスターが相手モンスターを破壊した場合、その数×400ポイントのダメージを与える効果もある。
2体のモンスターを破壊されたユウゴには800ポイントのダメージが課される。
フィールドを走る雷がユウゴにも襲いかかる。
「ぐあっ……あッ!」
残りの魔力を集めて再び魔力障壁を形成することには成功したものの、身体を走る電撃は容赦なく肌を焼く。
ユウゴ/LP1200→400
「く……そ……ッ」
ユウゴは拳を強く握り絞める。
身体を焼かれる痛みよりも、マナ達が雷に消し飛ばされたことによってまるで身を切り裂かれたように胸が痛む。
だが悲しんでばかりもいられない。
ユウゴにはユウゴのやるべきことがある。
「《ブラック・マジシャン・ガール》と《アップル・マジシャン・ガール》が破壊されたこの瞬間、フィールドの罠カードが発動する!」
ユウゴが痛みを我慢しながらも手を振ると、フィールドに伏せられていたカードが翻った。
「罠カード《マジシャンズ・ヘリテイジ》ッ!」
ヘリテイジ(heritage)とは遺産という意味だ。
《マジシャンズ・ヘリテイジ》とは魔術師の遺産。その名の通りカードのイラストには、死した魔術師から若き弟子が彼の地位を受け継ぐ様子が描かれている。
「《マジシャンズ・ヘリテイジ》は魔法使い族モンスターが破壊されたターンにのみ発動できる!このターンに破壊され墓地に送られた魔法使い族モンスターの数だけデッキからカードをドローできる!」
《マジシャンズ・ヘリテイジ》(*オリカ)
通常罠
「マジシャンズ・ヘリテイジ」は1ターンに1度しか発動できない。
(1):フィールドの魔法使い族モンスターが破壊されたターンに発動できる。このターンに相手によって破壊され墓地に送られた自分の魔法使い族モンスターの数だけカードをドローする。
このターン、《ブラック・マジシャン・ガール》と《アップル・マジシャン・ガール》が破壊されたことにより、《マジシャンズ・ヘリテイジ》は発動条件を充たし、ユウゴは2枚のカードをドローできることになる。
『それがどうしたッ!?今更何枚カードをドローしようが、貴様のフィールドはがら空き!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の直接攻撃で儂の勝ちは変わらんッ!!』
「まだだッ!《マジシャンズ・ヘリテイジ》にチェーンして墓地の《アップル・マジシャン・ガール》の効果発動ッ!《アップル・マジシャン・ガール》が破壊された場合、墓地から《アップル・マジシャン・ガール》以外の〔マジシャン・ガール〕を手札に戻すことができる!」
チェーンとは、発動したカードに対して更に別のカードを発動した際に発生する効果処理方法である。
今回の場合は《マジシャンズ・ヘリテイジ》の発動に対し《アップル・マジシャン・ガール》が発動しているため、《マジシャンズ・ヘリテイジ》(チェーン1)・《アップル・マジシャン・ガール》(チェーン2)としてチェーンが組まれる。
そしてチェーンが発生した場合、原則的に後で発動したカードから効果が処理される。
今回の場合ではチェーン2である《アップル・マジシャン・ガール》が先に処理され、その後に《マジシャンズ・ヘリテイジ》が処理されるというわけだ。
「まずは《アップル・マジシャン・ガール》の効果!墓地から《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に戻す!」
フィールドに大きなリンゴが現れる。
それがポンと割れると中から出てきたのはマナだった。
『マナ、ふっか~つ!』
そのまま精霊としての定位置であるユウゴの肩らへんに戻っていく。
どうやらこれが《アップル・マジシャン・ガール》の効果による演出らしい。
「続いて《マジシャンズ・ヘリテイジ》の効果で2ドロー!」
デッキからカードを2枚ドローした。
だがそれらの効果は、エビル・デーモンの攻撃を止める要因にはならなかった。
『だからそれが何だと言うのだッ!《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に戻そうが、手札を引こうが、儂の攻撃が止められなければ意味などあるまいッ!バトルフェイズ!!我が分身ーー《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》よ!小僧に引導を渡してやれ!』
エビル・デーモンが手を振るい、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》に攻撃を命じる。
それに応えて《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の手に雷のエネルギーが握られた。
『終わりだ、小僧ッ!“魔降雷”ィィィ!!』
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》によって、その最強攻撃技である雷の矢が放たれた。
放たれた雷がユウゴの視界を埋め尽くすようにして襲い迫る。
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力は2800。対してユウゴのLPは残り1200。
この攻撃が決まればユウゴのLPは間違いなく0となり、敗北はもちろんのこと、残りの体力を考えれば死に至ることも想像に難くない。
その光景を見つめるアスナが息を飲む。
今度は「逃げろ」とは声を上げなかった。代わりに拳を更に強く握る。それは祈りの代わりでもあった。
ユウゴのフィールドには1枚のカードも残されてはいない。
攻撃を防ぐモンスターも、魔法も、罠もない。完全なるノーガード。
普通に考えれば、この攻撃は十中八九ユウゴに直撃する。
エビル・デーモンも何の疑いもなくそう考えていた。いや、正確にはそう信じたかった。
しかし、その状況の中で唯一人ユウゴだけが口に笑みを浮かべていた。
エビル・デーモンがそれに気付いた時には、“魔降雷”は既にユウゴの眼前にまで迫っていた。
ユウゴは微動だにしない。しかしそれが逆にエビル・デーモンの心に一抹の不安を落とした。
ーー何かがおかしい。
その違和感にエビル・デーモンが気付いた時……
雷が、ユウゴを直撃するほんの寸前でバチンと何かに阻まれた。
デッキのカードパワーもタクティクスも、エビル・デーモンの方が数枚上手なのは間違いない。
実力の劣るユウゴが、相手の攻撃を耐え凌ぎ一発逆転に懸ける持久戦を選んだ選択は間違ってはいないが、それが《マジシャンズ・クロス》ではパワー不足だ。そこまで全てを懸けるのならば、一撃でエビル・デーモンに勝ちきる戦術が必要だった。一撃で仕留められなければ、相手に反撃の機会を与えることになり、そしてその機会をみすみす棒に振るエビル・デーモンではないからだ。
“ブラック・クロス・バーニング”はLPを僅かに削っただけで、またエビル・デーモンは自分のターンを迎える。
残り僅かなLPと魔力、体力でそのエビル・デーモンのターンの攻撃に耐えられるか。またそれを耐えたとしても次のユウゴのターンに反撃できる力が果たして彼にあるのか。その二つのハードルを乗り越えぬ限り、ユウゴに勝利はない。
アスナは拳を強く握った。
何もできないことが悔しい。
自分ではない誰かを暴走した精霊の被害に遭わないように護るために、血の滲むような訓練を経て守護官となったのに。結局はこうして見ていることしかできないのか。
しかしアスナは掌に突き刺さる爪の痛みとともに自分に言い聞かす。
ユウゴを信じると決めたではないか。
ユウゴの中に勝利の可能性を見た。ユウゴの決意を見た。ユウゴの覚悟を見た。そしてそれを受け入れた。
これはユウゴの〔戦い〕だ。
絶対に自分は手を出してはならない。
手を出せば、もしかしたらユウゴの命を救うことはできるかもしれない。しかし決してユウゴはそれを喜びはしないだろう。これはユウゴが初めて自ら戦うと決めた戦いなのだから。
アスナはなお一層強く拳を握り絞め、ただ呟いた。
それは先程もユウゴに言った言葉。
それは懇願にも近い、アスナの包み隠さぬ心の叫びであった。
「死ぬな……ユウゴ……」
◇
これは死ぬかもしれないな、とユウゴは内心で冷や汗をかいた。
起死回生とは思っていたが《マジシャンズ・クロス》でエビル・デーモンを倒せるなんて思ってはいなかった。
それでもこの眼前の光景は堪える。
やっとの思いで倒した敵が更に力を増して復活する。デュエルをし続ければ、こんな場面に何度も遭遇するのだろうか。それは全く気が滅入る空想だ。
それほどまでに《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の復活はユウゴの覚悟に暗い闇を落としていた。
『……まだ終わってません』
ユウゴを地上に降ろしたマナがその肩を強く掴む。
その眼は出会った時から何ら変わらない。まっすぐにユウゴの勝利を信じている。
『デュエルは最後の最後まで何があるか分からないんです!心を強く持ってマスター!自分の勝利を信じていられない者には決して勝利は訪れません!』
全く呆れるほど純粋な信頼だ。
本当に何をそれほど信じているというのだろう。
ユウゴは何とか自分で立ち上がろうとするがその途中でよろける。
すぐにマナが助け船を出そうとするが、ユウゴがそれを押し留めた。
『マスター……』
拒絶されたと感じたのかマナは哀しそうな顔。
しかしユウゴは笑んでみせる。
「自分で立つよ。立って戦う」
そう言うと、マナは一瞬きょとんとするが、すぐに破顔する。
『マスターぁ!』
「マナが似合わないマジな励ましなんかするから、勇気が出ちゃったじゃないか」
ユウゴの戦う意思は消えたりなどしていなかった。
不意に昨夜の母の言葉が甦る。
ーー自分一人護れない内は子供。
その通りだと思った。
「マナやみんなに支えられなきゃ前に進めない。俺はやっぱりまだ子供だ」
マナと《アップル・マジシャン・ガール》がユウゴを守るように前に出る。
エビル・デーモンはそのやり取りを悠然と見下ろしていた。
「俺は弱くて、情けなくて、ガキだ。だけど、ここで逃げたら男ですらいられなくなる。俺は……デュエリストだッ!!」
折れそうになる膝にグッと力を入れる。
そして強い意思とともにエビル・デーモンを睨む。
戦うのは怖い。
もしかしたら本当に死ぬかもしれない。
だけど逃げたくない。
いまデュエルから逃げれば、もうきっと自分は何者にもなれない気がした。
手札からカードを1枚選ぶ。
「バトルフェイズは終了!続いてメインフェイズ2!俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」
もはやできることは限られている。
だができることが残されているなら全てやってやる。足掻いて足掻いて足掻ききってやる。
負けてもいいなんて思わない。勝つことを諦めない。
マナ達ユウゴの仲間が自分を信じて戦ってくれる限り、ユウゴはデュエリストなのだ。
ユウゴ(手札2・LP1200)
モンスター
ブラック・マジシャン・ガール/攻2000
アップル・マジシャン・ガール/攻1200
魔法・罠
セットカード×1
ターンが移り、エビル・デーモンのターン。
このターンの攻めをなんとかして防がねば、ユウゴにとっては人生のラストターンとなる。
『ドロー!』
エビル・デーモンがデッキからカードをドローする。
引いたカードは罠カード。
このターンには使えないが、エビル・デーモンの勝利を更に磐石にするには都合のいいカードだった。
『貴様の心意気や良し。しかしやはり儂の勝利は揺るがぬ』
最後まで勝負を諦めない姿勢は同じ戦士として好感が持てる。
しかしそれで結果が変わるほど、戦いとは甘いものではない。
『《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は墓地から蘇ったモンスター!しかし、だからと言って《闇の二重魔法陣》の効果を受けぬわけではない!依然《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》は再度召喚状態だ!』
《闇の二重魔法陣》の効果範囲は単に闇属性のデュアルモンスターとしか指定されていない。手札から召喚されようが、墓地から特殊召喚されようが、再度召喚状態として扱うことに違いはない。
つまりこの《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の相手モンスターを破壊する効果も有効だということだ。
『ゆくぞッ!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の効果発動ッ!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力以下の守備力を持つ相手モンスターを全て破壊する!!』
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力は2800。
対するユウゴのモンスターの守備力は、《ブラック・マジシャン・ガール》が1700、《アップル・マジシャン・ガール》に至っては僅かに800。この効果に耐えられるモンスターはいない。
『フハハハハッ!吹き飛べ!“怒髪天昇撃”ィ!!』
《祈りの聖女 ホーリー・エルフ》の時と同じく、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が雷のオーラを放射し、ユウゴのフィールドが雷柱に襲われる。
「ぐ……くッ……」
『キャアアアアッ!』
マナや《アップル・マジシャン・ガール》が悲鳴を上げて逃げ惑うが、ユウゴにはそれを助けてやれる術はなく、彼女達自身もそれを避けきることはできなかった。
「マナっ!《アップル・マジシャン・ガール》ッ!」
ユウゴが叫ぶが、地面より立ち上る雷撃に為す術なく二人は消し去られてしまった。
『小娘どもを消し去っただけではないぞッ!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》が貴様のモンスターを破壊したことにより、《デーモンの暴虐》の効果が発動!貴様に800ポイントのダメージを与える!』
永続罠《デーモンの暴虐》には、〔デーモン〕モンスターが相手モンスターを破壊した場合、その数×400ポイントのダメージを与える効果もある。
2体のモンスターを破壊されたユウゴには800ポイントのダメージが課される。
フィールドを走る雷がユウゴにも襲いかかる。
「ぐあっ……あッ!」
残りの魔力を集めて再び魔力障壁を形成することには成功したものの、身体を走る電撃は容赦なく肌を焼く。
ユウゴ/LP1200→400
「く……そ……ッ」
ユウゴは拳を強く握り絞める。
身体を焼かれる痛みよりも、マナ達が雷に消し飛ばされたことによってまるで身を切り裂かれたように胸が痛む。
だが悲しんでばかりもいられない。
ユウゴにはユウゴのやるべきことがある。
「《ブラック・マジシャン・ガール》と《アップル・マジシャン・ガール》が破壊されたこの瞬間、フィールドの罠カードが発動する!」
ユウゴが痛みを我慢しながらも手を振ると、フィールドに伏せられていたカードが翻った。
「罠カード《マジシャンズ・ヘリテイジ》ッ!」
ヘリテイジ(heritage)とは遺産という意味だ。
《マジシャンズ・ヘリテイジ》とは魔術師の遺産。その名の通りカードのイラストには、死した魔術師から若き弟子が彼の地位を受け継ぐ様子が描かれている。
「《マジシャンズ・ヘリテイジ》は魔法使い族モンスターが破壊されたターンにのみ発動できる!このターンに破壊され墓地に送られた魔法使い族モンスターの数だけデッキからカードをドローできる!」
《マジシャンズ・ヘリテイジ》(*オリカ)
通常罠
「マジシャンズ・ヘリテイジ」は1ターンに1度しか発動できない。
(1):フィールドの魔法使い族モンスターが破壊されたターンに発動できる。このターンに相手によって破壊され墓地に送られた自分の魔法使い族モンスターの数だけカードをドローする。
このターン、《ブラック・マジシャン・ガール》と《アップル・マジシャン・ガール》が破壊されたことにより、《マジシャンズ・ヘリテイジ》は発動条件を充たし、ユウゴは2枚のカードをドローできることになる。
『それがどうしたッ!?今更何枚カードをドローしようが、貴様のフィールドはがら空き!《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の直接攻撃で儂の勝ちは変わらんッ!!』
「まだだッ!《マジシャンズ・ヘリテイジ》にチェーンして墓地の《アップル・マジシャン・ガール》の効果発動ッ!《アップル・マジシャン・ガール》が破壊された場合、墓地から《アップル・マジシャン・ガール》以外の〔マジシャン・ガール〕を手札に戻すことができる!」
チェーンとは、発動したカードに対して更に別のカードを発動した際に発生する効果処理方法である。
今回の場合は《マジシャンズ・ヘリテイジ》の発動に対し《アップル・マジシャン・ガール》が発動しているため、《マジシャンズ・ヘリテイジ》(チェーン1)・《アップル・マジシャン・ガール》(チェーン2)としてチェーンが組まれる。
そしてチェーンが発生した場合、原則的に後で発動したカードから効果が処理される。
今回の場合ではチェーン2である《アップル・マジシャン・ガール》が先に処理され、その後に《マジシャンズ・ヘリテイジ》が処理されるというわけだ。
「まずは《アップル・マジシャン・ガール》の効果!墓地から《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に戻す!」
フィールドに大きなリンゴが現れる。
それがポンと割れると中から出てきたのはマナだった。
『マナ、ふっか~つ!』
そのまま精霊としての定位置であるユウゴの肩らへんに戻っていく。
どうやらこれが《アップル・マジシャン・ガール》の効果による演出らしい。
「続いて《マジシャンズ・ヘリテイジ》の効果で2ドロー!」
デッキからカードを2枚ドローした。
だがそれらの効果は、エビル・デーモンの攻撃を止める要因にはならなかった。
『だからそれが何だと言うのだッ!《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に戻そうが、手札を引こうが、儂の攻撃が止められなければ意味などあるまいッ!バトルフェイズ!!我が分身ーー《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》よ!小僧に引導を渡してやれ!』
エビル・デーモンが手を振るい、《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》に攻撃を命じる。
それに応えて《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の手に雷のエネルギーが握られた。
『終わりだ、小僧ッ!“魔降雷”ィィィ!!』
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》によって、その最強攻撃技である雷の矢が放たれた。
放たれた雷がユウゴの視界を埋め尽くすようにして襲い迫る。
《真紅眼の凶雷皇ーエビル・デーモン》の攻撃力は2800。対してユウゴのLPは残り1200。
この攻撃が決まればユウゴのLPは間違いなく0となり、敗北はもちろんのこと、残りの体力を考えれば死に至ることも想像に難くない。
その光景を見つめるアスナが息を飲む。
今度は「逃げろ」とは声を上げなかった。代わりに拳を更に強く握る。それは祈りの代わりでもあった。
ユウゴのフィールドには1枚のカードも残されてはいない。
攻撃を防ぐモンスターも、魔法も、罠もない。完全なるノーガード。
普通に考えれば、この攻撃は十中八九ユウゴに直撃する。
エビル・デーモンも何の疑いもなくそう考えていた。いや、正確にはそう信じたかった。
しかし、その状況の中で唯一人ユウゴだけが口に笑みを浮かべていた。
エビル・デーモンがそれに気付いた時には、“魔降雷”は既にユウゴの眼前にまで迫っていた。
ユウゴは微動だにしない。しかしそれが逆にエビル・デーモンの心に一抹の不安を落とした。
ーー何かがおかしい。
その違和感にエビル・デーモンが気付いた時……
雷が、ユウゴを直撃するほんの寸前でバチンと何かに阻まれた。
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55 | 1-12:失責の雷(*未修正) | 799 | 0 | 2016-09-13 | - | |
99 | 1-13:死の中で得るもの(*未修正) | 731 | 2 | 2016-09-13 | - | |
97 | 1-14:反撃の一手(*未修正) | 894 | 4 | 2016-09-14 | - | |
77 | 1-15:渾身の合体魔法(*未修正) | 798 | 1 | 2016-09-15 | - | |
67 | 1-16:晴れぬ雷雲(*未修正) | 770 | 3 | 2016-09-16 | - | |
100 | 1-17:最後の足掻き(*未修正) | 751 | 0 | 2016-09-21 | - | |
61 | 1-18:ユウゴの賭け(*未修正) | 737 | 0 | 2016-09-22 | - | |
85 | 1-19:黒竜降臨(*未修正) | 729 | 1 | 2016-09-28 | - | |
76 | 1-20:“蝕”の黒竜(*未修正) | 757 | 0 | 2016-09-29 | - | |
59 | 1-21:決着(*未修正) | 908 | 2 | 2016-10-01 | - | |
68 | 1-22:監視者 その1(*未修正) | 980 | 6 | 2016-10-06 | - | |
68 | 1-23:監視者 その2(*未修正) | 797 | 3 | 2016-10-08 | - | |
100 | 1-EX:登場人物紹介 その1 | 908 | 0 | 2016-10-09 | - | |
56 | 1-EX:登場オリカ紹介 その1 | 730 | 2 | 2016-10-09 | - | |
71 | 2-1:終わらない悪夢と押し入れの居候 | 863 | 4 | 2016-10-10 | - | |
56 | 2-2:有馬第一高校カードゲーム部 | 1014 | 2 | 2016-10-17 | - | |
83 | 2-3:答えは決まっている | 714 | 4 | 2016-10-21 | - | |
105 | 2-4:転校生は美少女 | 1005 | 4 | 2016-10-26 | - | |
71 | 2-5:アスナの処世術 | 900 | 12 | 2016-10-28 | - | |
92 | 2-6:ランチタイムは美しき監視者と | 754 | 3 | 2016-10-30 | - | |
60 | 2-7:父の形見 | 890 | 8 | 2016-11-03 | - | |
130 | 2-8:真夜中の悲鳴 | 993 | 2 | 2016-11-08 | - | |
90 | 2-9:帝王の降臨 | 940 | 4 | 2016-11-10 | - | |
98 | 2-10:弱者の盾ー「結束の力」 | 898 | 8 | 2016-11-14 | - | |
80 | これまでの感謝と告知 | 731 | 1 | 2016-11-25 | - | |
154 | 第4話更新のお知らせ | 1414 | 1 | 2016-12-12 | - |
更新情報 - NEW -
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