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21:罠を越えた先に 作:ほーがん

第21話「罠を越えた先に」



「道に迷いまして・・・。出口知ってます?」

ハルと名乗ったその男の言動に、キジマは拍子抜けする。

「・・・は?」

その反応を見て、ハルは仰々しく言った。

「ああ、すいません。ちゃんと説明していませんでした。そうですね、実は僕、ここへ女の子二人組と来ていたんですが、途中ではぐれてしまって。彼女達、結構可愛いんですよ?特に僕はクリスって言う金髪の娘がお気に入りで・・・」

急に語り出したハルに、キジマは訊ねる。

「あー・・・じゃあ、あんたはここの住人とか、そういうんじゃないんだな?」

「・・・それで、いつも彼女は僕に冷たいんですけど、あれはきっと照れ隠しで・・・」

全く話を聞かないハルにキジマはしびれを切らし、大声で言う。

「おーい!ハルくんとやら、聞いてるのか!?」

「え!?ああ、すいません!つい喋り過ぎてしまいました。いや、失礼。で、なんでしたっけ?」

頭を抱えるキジマは、ゆっくりと同じ事を繰り返した。

「だから、あんたはここの住人とかじゃないんだな?」

「ええ、違います。僕はあくまで旅人。そして、か弱い姫達を守るナイトですから。」

帽子を取り、軽く頭を下げるハル。その態度にナナは思わず、目を細める。

「な、何なの、この人・・・。」

キジマは半ば呆れながらも口を開いた。

「はぁ、そうかい。俺はキジマ。後ろに居るのはナナさんで、横のちっちゃいのがマーナだ。」

「むっ、ちっちゃくないもん。」

顔をしかめるマーナをなだめるにように、ナナが頭を撫でる。キジマは肩を竦めながらハルに告げた。

「生憎だが、俺達も迷っててな。ここがどこだがさっぱりだ。周りに窓も無いし、ここまで上がったり下ったりして来た所為で、今、地上なのか地下なのかも分からん。」

「なるほど・・・どうやら僕達は同じ境遇のようですね。ところでキジマさん、どうしてこの建物に?」

そう訊ねられたキジマは、チラッと後ろに目をやる。その視線に気付いたナナはビクッとすると声を上げた。

「わ、私が、ここへ入ろうって言ったの。お風呂を借りるためにね。でも、なんだか前に来た時と構造が変わってるような・・・」

「そうなのか?」

キジマの問いに、ナナは頷く。

「ええ。いくら罠が多いって言っても、こんな迷宮のようにはなってなかったし、そもそも灯りだって付いてなかった。」

そう言って天井を見上げるナナ。そこには、弱々しいが、確かに電球が光を灯していた。

「・・・確かにおかしいな。電気なんてとっくに止まってる筈なのに。」

「誰か居るんですかね?僕らが来る前から。」

神妙な顔で電球を見つめるキジマとハル。ふと、ナナはハルに訊ねた。

「そういえば、あなた達はどうしてここへ?ここに水があることを知ってたの?」

その疑問にハルは、首を横に振る。

「いえ、お風呂があるなんて今始めて聞きました。僕らがここへ来たのは、仲間の一人のレイって娘が、『変な建物があるから調査するぞ!!』と言ってクリスの手を引き、先に入ってしまって・・・。」

「それで、あの入り口の罠に落ちて、はぐれたのね。」

ナナの言葉に、ハルは頷いた。

「中へ進んでも、暗く入り組んだ道が続いているだけで、どうしたことやら。」

困り果てた一行はその場に立ち尽くした。しばらくした後、ハルが突然、何かを思い出したように口を開く。

「そういえば、レイが何か大切な事を言っていたような・・・」

「どうした?」

キジマはハルに声を掛ける。ハルは唸るように考えた後、ハッとして言った。

「うーん、なんだっけ・・・はっ!そうだ!思い出しました!」

その瞬間、ハルは後ろへステップを踏み、距離を取った。そして、おもむろにディスクを構えキジマを見据える。驚いたキジマはハルに向かって言う。

「おい、なんのつもりだ!?」

「レイが言っていたんです。戦士として、未知の存在に出会った時は、まず相手の技量を計り戦略を立てろと!なので僕とデュエルしてください!」

それを聞いたナナは怪訝な顔をする。

「それってつまり、出会った人にはとりあえず喧嘩をふっかけろって事よね・・・。」

呆れたキジマは諭すように言う。

「あのなぁ、こんな状況でデュエルして何になるんだよ。今は突破口を見つけるのが先・・・」

その言葉を遮り、ハルは力強く言った。

「レイは僕らのリーダーなんです!戦士として、リーダーの命令に背く事はできません!」

無駄に純粋なその目を見たキジマは、溜め息を付くとディスクを構えた。

「・・・一回だけだぞ。」

「一回で十分です。あなたの力、見させて貰いますよ!」

その様子を見て、ナナは今更な後悔を口にする。

「・・・お風呂に行こうなんて、言わない方が良かったのかしら。」

「リンカお姉ちゃん、大丈夫かなぁ・・・」



そして、対峙する両者の声が暗い廊下に響き渡った。

『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』


ハルはキジマに向かって言う。

「先攻は貰います!僕のターン!僕は・・・」

ハルは手札のカードを確認すると、「よし」と頷き、高らかに宣言した。

「僕は、5枚のカード全てを伏せる!ターンエンドです!」


予想の斜め上を行く戦術に、キジマはぽかんと口を開けた。

「な、何!?手札を全てセットした!?どうなってんだ、あいつ・・・」

「まさか、彼も私と同じような特殊編成のデッキなのかしら・・・」

ナナも驚きを隠せないのか、ごくりと息を飲む。ハルは得意げに言った。

「さぁ、あなたのターンですよ、キジマさん。」

焦りつつも、キジマはデッキに手を伸ばした。


「お、俺のターン!ドロー!」

引いたカードを確認し、キジマは手札から別のカードを取り出した。

「俺は《D=Mー連斬のスレイヴ(☆4/地/昆虫/1700・1700)》を召喚!」

キジマの場に、鋭利な刃を備えたカマキリ型のモンスターが出現する。

「そして、俺は《D=Mー連斬のスレイヴ》をリリースし、このモンスターを特殊召喚する!来い、《D=Mー暴乱のキルパン(☆5/地/昆虫/2200・2200)》!!」

連斬の捕食者が消えたと同時に、大鎌の右腕を持つカマキリの魔物が姿を現した。

「こいつは自分の場の「D=M」1体をリリースする事で手札から特殊召喚できる!」

しかし、その瞬間にハルの場でカードが開いた。

「リバースカードオープン!罠カード《奈落の落とし穴》!!攻撃力1500以上のモンスターが召喚された時、そのモンスターを破壊し、除外する!!」

「なっ、なんだと!?」

突如、足元に大穴が開くと、魔物はその暗闇の中に吸い込まれ、消えた。

「さぁ、どうします?もう打つ手無しですか?」

挑発するハルに、キジマは言った。

「おいおい、この程度じゃ捕食者の渇きは抑えられねぇぜ!?俺は魔法カード《捕食者の再来》を発動!墓地の「D=M」1体を特殊召喚する!戻れ、《D=Mー連斬のスレイヴ》!」

再び、キジマの前に連斬の捕食者が姿を現す。そして、キジマはさらに手札のカードを取り出した。

「さらに!俺は手札を1枚捨てる事で、このモンスターを特殊召喚する!来い、チューナーモンスター!《D=Mー袈裟斬りのムラサメ(☆5/地/昆虫/チューナー/1600・1600)》!!」

刀のように輝く両腕を構え、新たなカマキリが羽音を立てる。関心するようにハルは呟いた。

「チューナーモンスター・・・なるほど。それがあなたの戦術ですか。」

「ああ、そうだ!・・・こいつは温存しておきたかったが、やむを得ねぇ!俺はレベル4の《D=Mー連斬のスレイヴ》にレベル5の《D=Mー袈裟斬りのムラサメ》をチューニング!!」

羽を広げ、2体の捕食者が飛び上がる。光の輪となった捕食者は仲間の身体を包み込んだ。


「捕食者の王たる者よ!怒りの刃を震わせ、憚る巨悪を打ち砕け!!シンクロ召喚!!」


そして、閃光の中からその剣は姿を見せる。


「蒼穹に舞え!レベル9!《D=Mージェネティクス・リジル(☆9/地/昆虫/シンクロ/3300・3300)》!!」


神々しく輝くその剣を手に、捕食者の王はフィールドに舞い降りた。だが、それと時を同じくして、ハルのカードが開く。

「この瞬間、永続罠カード発動!《奇怪のマジック・ドール》!!」

発動した罠カードの中から、無数の歯車で構成された人形が這い出た。

「このカードは相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚した時に発動できる!そのモンスターの効果を無効にし、《奇怪のマジック・ドール(☆7/闇/機械/?・0)》はモンスターとして特殊召喚される!!」

「罠カードが、モンスターに!?しかも、俺の《D=Mージェネティクス・リジル》の効果を無効にするだと!?」

力を吸い取られた捕食者の王が苦しみに唸る。人形は立ち上がると、捕食者の王と全く同じ姿となった。

「これは、どういう事だ!!」

「《奇怪のマジック・ドール》の攻撃力は、効果を無効化したモンスターと同じ数値になる!!よって、その攻撃力は3300!!」

キジマは苦しい顔で、自分のモンスターを写し取った人形を見つめた。

「(俺の《D=Mージェネティクス・リジル》には、墓地の「D=M」1体を除外して、モンスター1体の攻撃力・守備力を、除外したモンスターの攻撃力分さげる能力がある。だが、それを無効にされては・・・)」

追い討ちをかけるように、ハルは叫んだ。

「さらに僕は罠カードを発動!《破壊輪》!!《D=Mージェネティクス・リジル》を破壊し、その攻撃力分のダメージを自分は受ける!!その後、受けたダメージと同じ数値のダメージを相手に与える!!」

「う、嘘だろおい!!」

無数の爆弾が着けられたリングが、王の首に嵌まる。直後、凄まじい爆発が二人のプレイヤーを襲った。

「うわぁぁぁつ!!(LP4000→700)」

「ぐううっ!!(LP4000→700)」

「危ない!」

ナナは即座にマーナを抱き締め、爆風から守る。膝を付いたキジマの表情はこわばっていた。

「あんた、なかなかやるじゃねぇか・・・。だが、ダメージの量はあんたも同じ。お互い、一気に700まで下がっちまったなぁ。」

身体に付いた埃を払いながら、ハルは言う。

「・・・いや、これでいいんです。僕はさらにリバースカードを発動!永続罠《報復のアベンジ・ドール》!!」

ハルの場に、顔の無いマネキンのような人形が出現した。

「このカードは自分は戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる!そのダメージ分、自分はライフを回復し、このカードはモンスター(☆7/闇/機械/?・0)として特殊召喚される!そして、その攻撃力は回復した数値と同じになる!よって攻撃力は・・・」

「3300か・・・!!」

立ち上がったキジマは、またしても自分のモンスターの姿となった人形を睨んだ。

「その通り!(LP700→4000)どうです?あなたの手札はあと1枚。まだ手立ては残っていますか?」

「俺は・・・」

キジマは残された最後の手札を見つめる。そして、そのカードをディスクに置いた。

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ。」



笑いながらハルはデッキに手を伸ばした。

「クリスさん!僕は戦士として、この勝負勝ってみせます!ドロー!」

そして、守る者の居ないキジマのフィールドを指差し言った。

「バトルだ!二体のドールで、キジマさんにダイレクトアタック!!」

剣を構え、偽りの捕食者達は一気に飛び出した。だが、キジマは鋭い眼光で睨みつけると荒々しく叫んだ。

「罠カード発動!!《マストダイ・ドロー》!!」

その言葉に、モンスターの動きが止まる。

「このカードは自分のライフポイントよりも高い攻撃力を持つモンスターが直接攻撃を仕掛けて来た時に発動できる!!デッキから1枚ドローし、それが罠カードなら攻撃を無効にし、この場で発動できる!違った場合は・・・このデュエルの終わりだ!!」

それを聞いたナナが口を開いた。

「そんなカードを使うなんて、馬鹿げてるわ!デュエルは常に戦略と計算で・・・」

しかし、キジマは笑って言う。

「確かにナナさんの言う事も分かる。けど、デュエルの楽しみ方は誰もが同じじゃない!これも俺にとっちゃ、1つの戦略さ!さぁ、俺の命運をこのデッキの一番上に賭けてみようじゃねぇか!」

「くっ・・・。」

ハルの額を汗が伝う。キジマはデッキに手を添えると、思い切り腕を引いた。


「ドロー!!・・・俺が引いたのは、これだ!罠カード《調律師の遺志》!!」


「本当に引いたんですか、罠カードを!?」

驚愕するハル。キジマはそのカードをディスクにセットし、言った。

「《調律師の遺志》は相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが2体以上存在する場合に発動できる!墓地のチューナーとチューナー以外のモンスターを1体ずつ除外し、レベル7以下のシンクロ召喚を行う!!」


キジマの墓地が光り、モンスターが飛び出す。

「俺は墓地の《D=Mー連斬のスレイヴ》とチューナーモンスター《D=Mー辻斬のヤタガン(☆3/地/昆虫/チューナー/1200・1200)》を除外!」

「《D=Mー辻斬のヤタガン》!?そんなモンスター、いつの間に墓地に!?」

その言葉に、キジマは笑った。

「《D=Mー袈裟斬りのムラサメ》の召喚時、俺は手札を1枚墓地へ捨てた。それが、このチューナーだったのさ!行くぜ!」

光の輪が閃光を放つ。そのエネルギーが、新たなハンターを生み出して行く。


「誇り高き捕食者よ!崇高なる剣を掲げ、悪しき強者の身を穿て!!シンクロ召喚!!突き抜けろ、レベル7!《D=Mーファンデヴ・ロペラ(☆7/地/昆虫/シンクロ/2500・2500)》!!!」


カマキリの姫騎士は、目にも留まらぬ連撃を見せつけ、フィールドに舞い出た。

「運も戦略の内ね・・・」

関心したのか、ナナはその姫騎士を見つめ笑う。

「またシンクロモンスター・・・!」

目を細めるハルに、キジマはフィールドを指差し言った。

「《D=Mーファンデヴ・ロペラ》の効果発動だ!このカードのシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドのモンスターを全て守備表示に変更する!!」

姫騎士の威光に怯み、偽りの王は人形の姿に戻ると弱々しく膝を着いた。

「やりますね、キジマさん。・・・仕方ない、僕はターンエンド!」

緊張の汗を流しながらも、笑みを浮かべるハル。キジマはデッキに手を伸ばすと、カードを引いた。


「俺のターン、ドロー!このままバトルだ!《D=Mーファンデヴ・ロペラ》で《奇怪のマジック・ドール》を攻撃!!」

剣を構え、姫騎士は加速を始めた。身構えるハルにキジマは言う。

「《D=Mーファンデヴ・ロペラ》が相手モンスターとバトルする時、そのバトルが終わるまで相手はカード効果を発動できない!さらに、《D=Mーファンデヴ・ロペラ》は守備モンスターを攻撃する時、貫通ダメージを与える!!」

音速で飛び出したその切先が、人形の胸を貫く。


「『レリシューズ・バレストラ』!!」


その衝撃の余波がハルを襲った。

「くっ・・・!!(LP4000→1500)」

透かさず、キジマは言い放つ。

「俺は墓地の《D=Mー袈裟斬りのムラサメ》の効果発動!自分フィールドの昆虫族のシンクロモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時、このカードを除外する事で、そのモンスターはもう1度だけ攻撃できる!!」

「何っ!?」

姫騎士はもう一度剣を構えると、残された人形を捉えた。ハルは焦りながら叫ぶ。

「僕は攻撃前に罠カードを発動!《サクリファイス・ドロー》!このカードは、自分フィールドに存在するモンスターが戦闘で破壊されたターンに発動できる!自分フィールドのモンスター1体をリリースし、デッキから2枚ドロー!その後、バトルフェイズを終了する!」

人形は爆散し、フィールドから消滅した。カードを引きながらハルは言う。

「これでなんとか、あなたの攻撃は防いだ。さぁ、次はどうするんです?」

「さて、どうしようかな。・・・俺はカードを1枚セットして、ターンエンドって所か。」

その問いにキジマは、手札のカードを場に伏せた。笑いながらハルはキジマに告げる。


「今のドローで、僕の命運も大きく変わりそうです・・・!!僕のターン、ドロー!!」

ハルは手札のカードを取り出し、キジマに見せつけた。

「僕は儀式魔法カード《人形技師の創作》を発動!!」

それを聞いたキジマは思わず、声を上げる。

「ぎ、儀式魔法だと!?」

「そう!これが僕の本当の力!僕は手札の《怨念のキラードール(☆4/闇/悪魔/1600・1700)》と《疫病狼(☆3/闇/アンデット/1000・1000)》をリリース!」

ハルの場に無数の操り糸が垂れる。その糸を支配する先に、新たな力の脈動がうねる。


「無機質なるものに、慈悲の光を与える傀儡の神よ!満たされぬ器に、魂を授けたまえ!!儀式召喚!!出でよ、レベル7!!《人形儀神 ゼペット・マリオネッター(☆7/光/魔法使い/儀式/0・3000)》!!」


指先に魔法の糸を持つ老師は、その厳格なる眼光でフィールドを威圧した。

「攻撃力0を攻撃表示で・・・何かあるな。」

そのモンスターに懐疑の目を向けるキジマ。ハルは得意げに言った。

「僕は、《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》の効果を発動!このカードの儀式召喚に成功した時、墓地の「ドール」永続罠カードを、モンスターとして可能な限り特殊召喚する!!魂亡き木偶達よ、今一度蘇れ!!《奇怪のマジック・ドール》、《報復のアベンジ・ドール》!!」

二体の機械人形は、地面から這い上がるようにフィールドへ復活を遂げる。

「この効果で特殊召喚した「ドール」カードの攻撃力は、その時点でフィールドで一番高い攻撃力と同じになる!!よって、その攻撃力はどちらも2500!!」

人形達は変形を始めると、姫騎士の姿を象った。

「また俺のモンスターの姿をコピったか・・・!」

「さらに、《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》は自分フィールドの「ドール」カードの攻撃力の合計を自らの攻撃力とする!!2500×2で、攻撃力は5000だ!!」

老師は魔法の力を高めると、凄まじい妖気を放ち始めた。ハルはさらに言葉を続ける。

「自分フィールドに永続罠の「ドール」カードが表側表示で存在する限り、《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》は相手の効果対象にならず、効果では破壊されない!!」

「・・・面倒な効果だ。」

息を飲むキジマ。そして、ハルは姫騎士を指差し、叫んだ。

「バトルだ!《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》で《D=Mーファンデヴ・ロペラ》を攻撃!!」

その言葉と共に、老師は魔法の糸を放った。その糸は全てを切り裂く”斬糸”と化し、姫騎士に迫る。それを見つめるナナは思わず叫んだ。

「キジマくん!!」

その瞬間、キジマは笑って言う。

「おっ、ようやく名前で呼ばれたか。さて、まだ勝負は終わらないぜ!罠カード発動!《ハンターズ・タッグ・シフト》!!」

ギリギリの所で斬糸が止まる。

「くっ、なんだ!?」

「このカードは、自分フィールドの「D=M」シンクロモンスター1体をリリースして発動できる!!墓地から、リリースしたモンスター以外の「D=M」シンクロ1体を特殊召喚するぜ!!俺は《D=Mーファンデヴ・ロペラ》をリリース!!」

姫騎士は光となって消え、墓地に眠る仲間の魂を呼び覚ます。

「戻って来い、《D=Mージェネティクス・リジル》!!!」

黄金に輝く剣を手に、捕食者の王は現世に舞い戻った。

「はは・・・何をするかと思ったら・・・そのモンスターの攻撃力は3300!僕の《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》の攻撃力は5000!!どっちにしても、敵じゃない!!攻撃は続行だ!!」

再び加速を開始する斬糸。キジマはそれに怯む事無く叫んだ。

「俺は《D=Mージェネティクス・リジル》の効果を発動!1ターンに1度、墓地の「D=M」モンスター1体を除外する事で、モンスター1体の攻撃力・守備力を除外したモンスターの攻撃力分下げる!!俺は《D=Mーファンデヴ・ロペラ》を除外する!!」

「言った筈ですよ、《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》は効果の対象にならない!!」

不敵に笑うハル。しかし、キジマの狙いはそこではなかった。

「俺が対象にするのは、《奇怪のマジック・ドール》だ!!」

剣の先端から放たれた光が、偽りの姫騎士を貫いた。その姿は見る見る内に元の人形へと戻って行く。

「《奇怪のマジック・ドール》の攻撃力が・・・!!(ATK2500→0)と、いうことは・・・!!」

「そう、あんたの《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》の攻撃力も等しく下がる!!(ATK5000→2500)」

焦燥に駆られ、ハルは喚いた。

「ま、待て!攻撃するな!《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》!!」

だが、その斬糸はもう止まらない。

「もう、遅い!!貫け、《D=Mージェネティクス・リジル》!!」


捕食者の王は素早い動作で剣を構え、刹那の加速を見せた。全ての斬糸を避けきると、その懐に潜り込み、獲物を完全にロックする。


「『レヴォリュシオン・ドゥゼーム』!!!」


一瞬の連撃。蜂の巣の如く突き貫かれた老師の身体は、光と共に消滅した。

「うああああっ!!(LP1500→700)」

ダメージによろけるハル。だが、苦しみながらもハルは口を開いた。

「・・・まだだ!僕のライフはまだ残っている!なんとか、次ターンで・・・!」

しかし、そんな淡い期待を打ち砕くように、キジマは叫んだ。

「《D=Mージェネティクス・リジル》の効果発動!!このカードが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、そのモンスターのレベルまたはランクの数×200ダメージを相手に与える!!1400のダメージで終わりだ!!」

王は剣を振るい、斬撃を飛ばした。その衝撃に倒れ、ハルは呟く。

「・・・ああ、クリスさん。負けてしまいました。(LP700→0)」


『勝者:キジマ・ナオト』



ディスクを仕舞い、キジマは頭を掻いた。

「やれやれ、ちょっと熱くなりすぎたな。」

「結構かっこ良かったわよ、キジマくん。」

後ろから歩み寄るナナが言う。キジマは肩を竦めた。

「そりゃどーも。おーい、ハルくんよぉ。満足したかー?」

「はぁ・・・クリスさん。あなたは今どこに・・・。」

仰向けに倒れ込んだまま、ぶつぶつと喋るハル。キジマはハルに向かって、もう一度声を掛けた。

「おーい!!返事をしろー!!」

その瞬間、ハッとしてハルは飛び起きると、キジマに駆け寄った。

「すいません、聞こえてなくて。それにしても、強いんですね。驚きました。」

「ったく、こっちだって驚いたよ。いきなり手札5枚も伏せるもんだからさ。」

思わずハルは苦笑いした。

「あはは、デッキの罠の比率が高いもので。よくあるんですよ。」

「なるほどな。まぁ、魔法100パーセントの人も居るくらいだからな。」

その言葉にナナは咳払いする。その時、二人の会話にマーナが割り込んだ。

「ところで、出口の探すんじゃなかったの?」

キジマは頷きながら言う。

「ああ、そうだった。さて、どうしたものか。一旦引き返すか?」


その瞬間。



「な、何!?」

突如として、地響きが足元を揺らした。謎の轟音に四人はたじろぐ。

「一体何が起こってる!?地震か!?」

そして、その轟音は目に見える形でキジマ達を襲った。

「ゆ、床が!!」

床が切り離され、足元が分断され始める。

「これはなんだ!?」

「建物が変形してる・・・!?」

その時、ナナの立つ場所が下にずれ、落下し始めた。

「マーナ!!」

キジマは寸での所でマーナの腕を掴んだが、ナナは間に合わなかった。

「キジマくん!!」

伸ばしたが、虚しくも届かないナナの手。まるでエレベーターのように落下してゆく廊下。やがて轟音が止むとナナの立っていた場所は、まるで元からそうであったかのような、周りと同じデザインの壁になってしまった。

「な、なんなんだ、この建物は・・・!」

「まるでカラクリ屋敷ですね・・・。」

不安そうにマーナがキジマの袖を引っ張る。

「ねえ、ナオト兄ちゃん!ナナお姉ちゃんはどこいっちゃったの!」

言葉に詰まるキジマ。その横で、ハルは冷静に分析した。

「あの落ち方からして、ここは元々そういう構造になっていたんでしょう。問題は彼女の居た場所がどこに繋がったのか分からない事ですが・・・。」

キジマはマーナの手をギュッと握りしめると、元々進んでいた方向へ歩き出した。

「とにかく、ここから抜け出す方法を考えねぇと。ハル、手を貸してくれ。」

「もちろんです。僕もクリスとレイが心配ですから。」

そうして、薄暗い廊下を歩き出した三人。






そんなキジマ達を見つめる者が居た。廊下の天井に設置された、小さな監視カメラ。そこから送られて来る情報を映し出しているモニター。それを眺めているのは、一人の男。

「へへっ、まずは一人ゲットだ。後は・・・」

椅子を回転させ、男は別のモニターに目をやる。

「三人だな。ふへへっ。こんなに女が来るなんて、ここは最高だな。」

卑しい笑みを浮かべる男。その目に映っているのは、暗闇を進むリンカ達の姿だった。





次回第22話「渦巻くは、黒い欲望」
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ター坊
魔法オンリーもいれば、やはり罠メインの奴も出てくるか。奈落とかガチカードにもビックリです。
さて、なにやらカラクリがありそうなこの屋敷。三人の男の正体は一体?
(2016-06-02 07:46)
ほーがん
ター坊さんコメントありがとうございます。
ハルのデッキは罠モンスター+儀式という構成なのでした。彼のガチカード戦術は今後薬に立つのでしょうか。
えと、文章が分かりにくくてすみません、謎の男は一人だけなのです。次回は、そんな女性達を監視する男が暴れ始めます。太刀打ちするのは男性陣+αです。お楽しみに。 (2016-06-03 05:34)

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