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幕間〜現代世界と姫王〜後編 作:名無しのゴーレム
「姫様、大丈夫か〜〜!」
「はい、とても気持ちいいです!」
「……ふぅ、ひとまずこれで風呂は終わったか……」
風呂場に入る訳にはいかない以上、自分の記憶だけを頼りにアドバイスしたが……どうやらうまくいったらしい。
「じゃあご飯の用意をしてくるから〜〜!」
「ありがとうございます!」
––––といっても、米を炊くのが精一杯な俺に料理なんて出来るはずがない。幸い冷蔵庫には数日分の料理が置かれていたから、あとはそれを温めるだけなんだが……
(……さて、姫様に何を食べさせる? カレー? ラーメン? はたまた……)
「……あ。そういえば姫様、和食が食べたいって言ってたっけか。昼の回転寿司は和食といえば和食だけど、俺が話してたのとは違う。なら……」
……それにしても、女の子と2人きりって状況はなんか、こう……ドキドキする。しかもそれが姫様みたいな綺麗な子だと……
(……待てよ? 確か俺って、前にも旭とこんな状況になってなかったか?)
しかし、その時はまったく何にも思わなかった。まあ小学生の時の話だし、旭があんな奴だってことも関係しているのかもしれないが……
「……いや、まさかな」
……思い返せば、ゼロに姫様の肖像画を見せられた時からこんな思いがあった気もする。今まで一度も経験したことはなかったが、もしかしたら、これが……
「遊介〜! どの衣服を着ればいいのでしょうか〜!」
「!? ……ああ、そこら辺に棚があるだろ〜! そこの……」
「モグモグ……美味しいです!!」
「そりゃよかった。母さんが作ったやつだから、姫様の口に合うか不安だったんだけど……」
「え……これは、遊介のお母様が作られたものかのですか?」
「そうだよ。それがどうかした?」
「いえ……これが、母の料理というものなのですね……」
……そうか。姫様のお父さんは2年前から行方不明だと聞いていたけど、お母さんの方は何にも言っていない。でもまだ若い姫様が国政を担っていること、そして城内で一度も会うことがなかったこと……そこから察するに、姫様のお母さんは……
「…………」
「あの、姫様……」
「大丈夫です。何でも、ありませんから……」
「……そ、そうだ。あれからそっちの世界はどうなんだ? 確か、ゲヴァルフォスとの対抗試合があるんだろう?」
「え……そう、ですね。あの後、私がアルカ・グランベルゼとの決闘に勝ったという話を聞いて、ある国が友好関係を築きたいと言ってくれたんです。ですから今は対抗試合に備えて国軍全体で訓練を重ねつつ、その国との友好条約を結ぶために色々と協議をしている……といったところでしょうか」
「……じゃあ、姫様もかなり忙しいんじゃないのか? ここでの1日ってそっちの世界でどれくらいの時間になるのか分からないけど、そんな長時間国を空けたら……」
「ウフフ、それは大丈夫ですよ。シズクたちカーバンクル隊が訓練を主導していますし、政治に関しても私よりクイナの方がずっと精通していますから。……シズクたちが言ってくれたんです。国のことは心配いらないから、こちらの世界にいる間はゆっくりと羽を伸ばしてくるといい……と。……私は、本当に幸せ者です」
「……それじゃあ、もっとこの世界の生活を楽しまないとな。……そうだ、テレビでも見るか?」
「…………テレビ?」
『バトルだ! 覚醒の魔導剣士でヴェルズ・バハムートを攻撃!』
LP1300→0
『…………決まった〜〜!! さすがはチャンピオン、他を寄せ付けない圧倒的な強さで危なげなく勝利を収めました!』
「……やっぱ強いな、チャンピオン。そりゃまあ、強いからチャンピオンなんだが……」
「…………遊介。こ、これは一体……?」
「ああ、これはテレビって言ってな。えっと……テレビ局で収録した映像が電波を使って色んなところに送られるんだけど、それを受信して見るためのものだよ」
「…………??」
「……あ、分かりにくいよな。ごめん、俺も仕組みはよく知らないんだ……簡単に言えば、遠くの場所で起こっていることでもこれを通して見ることができるんだよ」
「……この世界の技術は、本当に凄まじいのですね」
「まあな。今流れてるのは、国内デュエルリーグ……まあ、国中の強いデュエリストが集まるデュエル大会みたいなものだな。デュエルに勝ったのが世界チャンピオン……一応、この世界で最強ってことになってるデュエリストだ」
「この世界の、最強……」
……世界最強と言われる彼なら、女帝にも勝てるのだろうか。ふと、そんな考えが俺の頭をよぎった。
「……ごめんな、姫様。あんなにヒーローっぽく出てきておいて、結局何の役にも立てなかった。それどころか、敵に囚われて姫様を危険に晒したんだもんな……」
本当に、自分の無力さが嫌になってくる。俺がもっと強ければ、姫様を……
「そんなことはないですよ。……遊介は、私に闘う勇気をくれました。だから、遊介が来てくれて良かったです。きっとシズクやクイナも同じ思いのはずですから……」
「……ありがとう、姫様……」
「……そうだ。遊介、1つお願いがあるのですが……」
「? ああ、何でも言ってくれ。俺に出来ることなら何だってするさ」
「ありがとうございます。では……私と、デュエルしてくれませんか?」
「……デュエル?」
「はい。もっとこの世界のデュエルを知りたいということもありますし……私自身、遊介と1度デュエルしたかったのです。よろしい……ですか?」
「…………もちろん。というか、俺も姫様とデュエルしたかったんだ」
「そうだったのですか?」
「ああ。……よし、じゃあ食器を片付けたらデュエルしようか。姫様、ちょっと待っててくれよ」
「はい!」
食器も片付け終わり、俺と姫様はダイニングテーブルを挟んで向かい合っていた。家の中でデュエルディスクを使う訳にもいかないので、姫様にとっては本日2度目の机の上でのデュエルだ。
「……じゃあ、始めようか」
「はい。では……」
「「デュエル!!」」
––––何回目かのデュエルが終わった後に、俺はキッチンの冷蔵庫へと足を運んでいた。と言っても、何か飲み物でも持ってこようと思っただけなのだが……
「……姫様、飲み物は何が……」
「…………」
「……? 姫様……」
……無反応なのが気になって、リビングに戻ってきた。すると、そこには……
「…………すぅ」
……姫様が、机にうつ伏せになって眠っていた。
(まあ、見知らぬ世界で1日過ごしたんだ。疲れてるのは当然か……だが)
そう。ここで1つ、大きな問題が発生した。この状態の姫様をどうするか、だ。このまま放っておく訳にはいかないだろう。しかし、他に寝かせる部屋と言われても……
(……俺の部屋、はないな。となれば母さんの部屋しかないんだが……)
しかし、うちの安物ベッドでお城暮らしだった姫様が寝られるのか? いくら技術力が違うと言っても、ベッドには天と地ほどの違いがあってもおかしくはない。……まあ、だからといって他にあてがある訳でもないが。
「……はぁ、仕方ないか。よいしょっ……意外と軽いな」
母さんの部屋に運ぶために抱き上げてみたが、全く目覚める様子はない。余程疲れていたのだろう……
「…ゅ………」
「?」
「……たのしいです、ゆうすけ……」
「…………なら良かったよ」
寝言でもそう言ってもらえたなら、こっちとしても嬉しい限りだ。夢の中でも俺が姫様を楽しませてやってるのならいいが……
「……っ、と……」
ベッドに寝かせて、その上に布団を被せてやる。後は俺がここを出ればいいだけだ、でも……
(……やっぱ、姫様って綺麗だよな)
……一番初め、ゼロが持って来た歴史書に描かれた姫様の肖像画を見たときから思っていた。実際に会ってからは、その思いはもっと増していた。今だって、彼女の寝顔から目を離せない。
「…………好きなのかもな。俺、姫様のことが…………」
……それでも、俺と姫様では文字通り住んでいる世界が違う。俺がどんな思いを抱いていようが、明日別れてしまえばもう2度と会うことはないんだ……
「……おやすみ、姫様……」
––––翌日の朝、姫様を連れてあの図書館へと向かった。
「よお、遊介。きちんと姫のエスコートは出来たか?」
「お前な……何勝手に話を進めてるんだよ! こっちがどれだけ苦労したと……」
「でも、お前も楽しかっただろう?」
「うっ……」
「……姫とデュエルしたのか?」
「……まあ。俺の全敗だったけど……」
「ハハハ、そりゃそうだろうな! ……それじゃあ姫、行きましょうか」
「は、はい……遊介、あの!」
「……? 姫様、どうかしたのか……」
「……これを。お礼と言っては何ですが……」
そう言って姫様が俺に手渡したもの、それは……
「これって……」
「……中に小さな魔法石が入ったお守りです。気に入っていただけたならいいのですが……」
「…………ああ、嬉しいよ。ありがとう姫様、ずっと大事にするから……」
「そうしていただけたなら、私も嬉しいです。……ゼロ、それでは……」
…………これで、本当にお別れか。まあ、最後にこうやって姫様と会えたことだけでも良かったとするか……
「…………あ、忘れるところだった。遊介、これを渡しておくぞ」
「……え? 何だよこれ……手紙か?」
「そうだ。送り主は……女帝こと、アルカ・グランベルゼだ」
「……はぁ!?」
「ゼロ、それは一体どういうことなのですか……!?」
おいおい、姫様も知らないのかよ。この手紙、中に何て書かれてるんだ……?
「それは近々行われるヘクシエールとゲヴァルフォスの対抗試合の招待状だよ。帝国側からお前も来るようにってこんなのを送りつけてきたんだ、もちろんお前も参加するよな?」
「…………いや、え、訳が分からないんだけど」
「まったく、理解力がない奴だな……だから、明日の朝にここに来いって言ってるんだよ。今度は国同士の戦争に首を突っ込めなんて言わない、ただのデュエル大会みたいなものだから気軽に来てくれれば構わない。……ほら、もうそろそろ時間だ。こっちもあんまりゆっくりしてられないんだよ」
ゼロが指を鳴らすと同時に、2人の姿が段々と薄れていく……
「…………ええと、その……また会いましょう……?」
「あ、ああ……またな、?」
……何だかよく分からない雰囲気のまま、姫様は元の世界へ戻っていった。
「…………って、マジで!?」
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