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第1話 波乱の決闘宣言② 作:黒壱(クロイツ)
プロットを立てた当時まだ先行ドローできたので、調整が非常に難しかったです……。
命削りはあれです、新しいけど古いカードなのでセーフセーフ。
† † †
(ふん。今年の受験生も出来が悪い)
厳しい顔で対戦相手の少女を眺めながら、悟堂は不満げに鼻を鳴らした。
教師陣の中でも屈指の実力者である彼が試験官を勤めるのは、ひとえに学科試験で成績の悪かった者を完全に振るい落とすためである。
昔からデュエルアカデミアでは、学科の成績が低い生徒に対しては風当たりが強い。元より創立者の思想からエリートデュエリストを尊ぶ風潮があり、教師たちの大部分もレッド寮の問題児たちよりブルー寮の優等生たちの方を好んでいる。
当然だろう。悟堂もその点には口を挟む気はない。デュエルタクティクスを向上させるにはルールに対する理解度を上げることが何よりも重要であり、それを怠るものに勝利の女神は微笑まない。運だけで勝ち続けることができるほど、甘い世界ではないのだ。
(それが嫌だと言うならば、強くあれば良いのだ。だのに、まったく……)
彼が試験官を任されているのは、学科で合格ぎりぎりの成績だった受験生たちである。皆、デュエルというものを甘く考えている。女子校とは言え、このデュエルアカデミアで求められるのはその能力だけだ。箔付けで記念受験をしようなどと考えているような連中に、神聖なる学び舎の一員となる資格はない。
「先手は譲ろう。存分に展開したまえ」
そう告げて、相手を見やる。今回の受験生も、学科の成績が芳しくない者のうちの一名だ。おどおどとして、随分と気弱である。
だがそれはデュエルディスクを構えるまでのことだ。決闘の態勢に移行した瞬間、その瞳に覚悟の輝きが灯った。
(ほう、いい目だ)
少々強めに揉んでやるとしよう。悟堂は自らの手札に視線を落とし、口元を小さく歪めた。
「先手は譲ろう。存分に展開したまえ」
試験官の言葉に、翼は少し苦い顔になった。
(存分に展開しろ、と言われてもなぁ)
「私のターン、ドロー……は、ありません」
危うく昔の癖で手を伸ばしかけて思い留まる。ちらりと教官を見れば、変わらずの仏頂面である。
(あ、危なかったぁ……。引いてたら即座にジャッジキルで落ちてたかも)
僅かの沈思黙考の後、翼は手札を切った。
「私はモンスターをセット。リバースカードを2枚伏せて、ターンエンドです」
翼 LP:4000 手札:2枚 場:裏守備モンスター×1、リバースカード×2
デュエルディスクにカードを置くと、目の前にカードの裏面を表すホログラフが浮かび上がった。ソリッドビジョン、海馬コーポレーションの技術の粋が結晶したシステムだ。
「ふん、落ち着いているな。良かろう。……私のターン、ドロー!」
試験官は薄く笑い、自分のデッキからカードを引く。
「私は手札から、チューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚する」
光と共に、彼の前に浮遊する機械のボールのようなものが現れた。シャキン、と鋭い音を立ててボールの装甲が展開し、カメラアイのようなものがのぞく。
「このカードは相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる。さらに、私はフィールド魔法《歯車街(ギア・タウン)》を発動」
周囲の景色が書き換えられ、暗鬱とした機械の街へと変貌する。
「このフィールドには〈アンティーク・ギア〉と名のつくモンスターのリリースが1体分少なくなる効果がある」
つまり最上級モンスターを、リリース1体で召喚できるということだ。
試験官の言葉に、翼は少し顔をしかめる。
「《古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)》が来る……?」
「ふん、古い知識だ。私は《イエロー・ガジェット》を召喚する」
現れたのは予想より遥かに小さなロボットだ。黄色い身体に不釣合なほど大きな歯車を背負い、ガードを固めるように両腕を交差させている。
「召喚時効果が発動するが、チェーンはあるかね? ……ふん、無いならば解決する。デッキから《グリーン・ガジェット》を1枚手札に加える」
シャキン、と試験官のデッキから1枚のカードが排出される。手にとってこちらに向けたそのカードは、宣言通り《グリーン・ガジェット》だ。
更に試験官は手札を2枚墓地に送り、宣言する。
「手札からレベル7の《マシンナーズ・フォートレス》とレベル4の《グリーン・ガジェット》を墓地に送り、《マシンナーズ・フォートレス》の効果を発動! 合計レベル8以上になるように手札から機械族モンスターを捨てることで、墓地から自身を特殊召喚する!」
轟音と共に大地を割って、巨大な戦車のようなものが登場する。三つのキャタピラ、マッシブな一対の巨腕、肩口に備えられた砲塔、そしてギュイン、とこちらをカメラアイで睨む小さな頭部。戦車ではない、ロボットだ!
「う、うわあ」
立体映像とわかっていても迫力に呑まれそうになる。
しかも、場に一気にモンスターが3体並んでしまった。翼の伏せはカウンター罠でも召喚反応型罠でもないため、それを止める手立てがない。
「私はフィールド上のレベル7《マシンナーズ・フォートレス》に、レベル1《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」
振り上げた手の先で、《アンノウン・シンクロン》が1つの光の輪へと変化し、《マシンナーズ・フォートレス》がその中へと突進する。さながらサーカスの火の輪くぐりを思わせる格好で輪に飛び込んだ巨大なロボットは、7つの輝く星へと変わる。
「ーー打ち捨てられし鉄屑に、残されし夢よ形を成せ。鋼の翼で天に抗え! シンクロ召喚、起動せよ(アクティヴェイト)、《スクラップ・ドラゴン》!」
閃光が弾け、その中から一体の巨大な竜が現れる。
咆哮を上げて真紅の双眸を輝かせる巨竜の身体は、余す所無く機械で出来ている。それもスクラップ置き場の廃品で竜の魂にふさわしい身体を無理やり作り直したような、禍々しくも威圧感のある姿だ。
「す、《スクラップ・ドラゴン》……!?」
「《スクラップ・ドラゴン》の効果発動! 自分と相手の場のカードを1枚ずつ選択し、それを破壊する。私は、私の場の《歯車街》と、君の場の伏せカード……そうだな、私から見て右側のリバースカードを破壊する。〈スクラップ・ダイブ〉!」
《スクラップ・ドラゴン》がひとつ、大きく羽をはためかせたかと思うと、その場のすべてを巻き上げるような勢いで天空へと飛び立つ。そして高度をとってフィールドを睥睨し、今度は大気の壁をまとめて貫くような速度で急降下する。
落着。轟音と共に衝撃波が走り、周囲の物体をなぎ払う。周囲にそびえていた街は瓦礫となって倒壊し、翼の場に存在したカードを1枚巻き添えにした。
「ッ! 私の《ミラーフォース》が!?」
「ふん、当たりを引いたようだな」
破壊された罠カードは、相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する、攻撃反応型の中でも最強のクラスに存在するカード《聖なるバリア-ミラーフォース-》である。翼のカードの中でも切り札のひとつであったのだが。
しかもこれで終わりというわけではない。瓦礫の山となった街の残骸の隙間に、ぎらりと一対の光が輝く。
「破壊された《歯車街》の効果、発動。このカードがフィールドから墓地に送られた時、デッキから〈アンティーク・ギア〉と名のつくモンスター1体を特殊召喚できる」
次の瞬間残骸が吹き飛び、その中からもう1体の竜が現れる。
「起動せよ(アクティヴェイト)、《古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)》!」
《スクラップ・ドラゴン》は鉄屑でその身を構成しているにもかかわらず生物的な印象を持っていたが、新たなる竜はまさしく機械そのものの姿をしていた。装甲は暗色の鋼鉄、脚に相当する位置には歯車のような形の車輪が一対。しかし長い首を振り立て、アギトを開いて咆哮するそれは、やはり竜と呼ぶにふさわしい威容だ。
2体の機竜が並び立つ。凄まじい威圧感が、翼の両脚を震わせる。
「うわぁ、出ちゃいマシタよ。教頭の必殺コンボ・ジツ、〈機龍乱舞〉! 受験生相手に容赦無いナァ」
悟堂のデッキは【マシンガジェ】というアーキタイプである。三色のガジェットによって手札アドバンテージを維持しつつ、強力な機械族モンスターで圧倒する戦術を得意とする。受験生が相手にするには、いささか以上に酷な相手だろう。
「……そうね」
短く答える楓に、同級生が不満そうに振り返る。
「何か反応がつまんないデスね」
「あの娘はこれしきの障害ではくじけないわ。見なさい、あの目を」
「いや、こっからじゃ表情なんて見えまセンよ。どんだけ視力良いんデスか。マサイ族デスか。忍者デスか」
「デュエリストよ。あの目にはまだデュエリストとしての闘志が燃えている。ならば彼女には逆転の道筋が見えているのだわ」
「はぁ……」
自信に満ちた表情で笑う楓に、同級生は不思議そうに首を傾げた。
「バトルフェイズ! 《スクラップ・ドラゴン》で伏せモンスターに攻撃。〈瀝青波〉!」
試験官の指揮に従い、巨竜の一が咆哮する。
攻撃対象となった裏守備モンスターが表になり、その正体を顕にした。
スクラップ・ドラゴン ATK:2800 VS ドラゴンフライ DEF:900
現れたのは貧弱もいいところのトンボ型モンスターだ。割と大きいが、同じドラゴンの名を冠していてもその力量差は雲泥である。《スクラップ・ドラゴン》の吐く酸のブレスの前に、瞬く間に断末魔を上げて溶け崩れる。
「ッ――、戦闘破壊された《ドラゴンフライ》の効果発動! デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスターを表側攻撃表示で特殊召喚します。……もう一度お願い、《ドラゴンフライ》!」
デッキから同じモンスターが、しかし今度は攻撃表示で現れる。
「ふん、良いマトだな。次は《巨竜》でアタック! 〈ギア・バイト〉!」
ドラゴンフライ ATK:1400 VS 古代の機械巨竜 ATK:3000
翼 LP:4000 → LP:2400
抵抗の余地なく、トンボの羽が鋼鉄の顎に食いちぎられた。今度は攻撃表示であるため、翼にも超過ダメージが届いてしまう。
「……つッ、《ドラゴンフライ》の効果が発動します。デッキから攻撃力1300の、《ハーピィ・レディ1》を特殊召喚! 《レディ1》の効果により、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップします!」
ハーピィ・レディ1 ATK:1300 → ATK:1600
続いて現れたのは、赤く長い髪を持つ女性型モンスターである。露出の高い衣装をまとう麗しい面立ちだが、その両腕は鋭い猛禽の爪と羽になっており、彼女が妖鳥ハーピィの一族であることを示している。
「何が来るかと思えば、随分と懐かしいモンスターだ。だが《イエロー・ガジェット》の攻撃力では勝てんな……私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
悟堂 LP:4000 手札:1枚 場:スクラップ・ドラゴン、古代の機械巨竜、イエロー・ガジェット、リバースカード×1
翼 LP:2400 手札:2枚 場:ハーピィ・レディ1、リバースカード×1枚
「私のターン、ドロー!」
細い指先がカードをつまみ、しゃきん、と刃を抜くような鋭い所作で引き抜かれる。ドローしたカードを確認し、よし、とひとつうなずく。
「私は手札の《ハーピィ・クィーン》を捨てて、効果発動! デッキからフィールド魔法《ハーピィの狩場》を1枚サーチします」
デッキから望むカードが選択され、排出される。それを手に取り、フィールド魔法ゾーンに配置する。
「《ハーピィの狩場》発動! これにより、以後私が《ハーピィ・レディ》または《ハーピィ・レディ三姉妹》を召喚・特殊召喚した時、フィールドに存在する魔法・罠カードを1枚破壊することが可能となりました。続いて、《ハーピィ・レディ3》を召喚!」
光の柱が立ち上り、翼の眼前に一人の女性モンスターが降り立つ。先程のハーピィと似た姿だが、髪は青く逆立っており、顔立ちには野性味がうかがえる。2体のハーピィは姉妹らしく、お互いに寄り添って油断なく敵をにらみつけた。
「ハーピィ・レディが召喚されたことにより、《狩場》の効果が誘発します。先生のリバースカード1枚を、破壊させて頂きます!」
「ふん。伏せは《次元幽閉》だ。破壊される」
試験官のリバースカードが粉砕される。だが彼はその損害に眉ひとつ動かさない。攻撃力の低い《イエロー・ガジェット》を立たせておくことで攻撃を誘っていたのだと思われるが、元より大して期待していたわけでもないのだろう。
「更に、私はここで魔法カード《命削りの宝札》を発動!」
突如として翼の目の前に現われる小型のギロチン。躊躇いも無くそこに腕を突っ込む。
ガコン。刃が解き放たれてその手に落ちかかる。危ういところで引き抜いたその指先に、3枚のカード。
「手札が3枚になるようにカードをドローします! 私の手札は0、よって3ドロー!」
「ふん、しかしその代償として君はこのターン特殊召喚できず、私にダメージを与えることも叶わない。しかも……」
「ーーエンドフェイズに手札は全て失われる。それはもちろん承知の助です!」
ズバッと腕を振り、翼は断じた。
「《狩場》の第二の効果、フィールド上の鳥獣族モンスターの攻撃力は200ポイントアップ。また、《レディ1》の効果で、《レディ3》の攻撃力も上昇します。
更に手札から装備魔法《守護神の矛》を《レディ1》に装備! これは墓地の同名モンスターの数×900ポイント攻撃力が上昇するカードです。
墓地の《ハーピィ・クイーン》は《ハーピィ・レディ》として扱われるため、同じく《ハーピィ・レディ》として扱われる《レディ1》の攻撃力は900ポイントアップ!」
ハーピィ・レディ3 ATK:1300 → ATK:1800
ハーピィ・レディ1 ATK:1800 → ATK:2700
(お願い、ハーピィ達。私に力を貸して!)
心で叫んだその想いが届いたのか、2体のハーピィが翼の方を振り向き、決意を込めた目で頷いてみせる。とてもソリッドビジョンとは思えないその行動に翼は驚いたが、これも最近のシステムなのだろうと考え、気持ちを切り替える。
「行きます、《レディ3》で、《巨竜》に攻撃!」
「攻撃力の低いモンスターで攻撃だと?」
『ハァッ!』
青い髪のハーピィが命令と共に、飛び立った。力の差は歴然であるにもかかわらず、果敢に鋼の竜に立ち向かう。上空を旋回して撹乱し、一瞬の隙を突き竜の死角から鋭い爪の一撃を加える。
しかしその暗色の装甲には傷ひとつつかない。逆に鎌首をもたげた竜のアギトが、妖鳥少女の細い肢体を捕らえた。
『グゥオ オ オオ オオンッ!』
『キャアアアッ!?』
悲痛な叫びを残し、光の粒子に還るハーピィ。その断末魔に思わず唇を噛む。
翼 LP:2400 → LP:1200
「ッ、ごめんケラエノ……。でも、ここで《レディ3》の効果が発動します!」
ただ無為に命を散らしたかと思えたハーピィだったが、彼女を食らった巨竜に異変が起こる。
動力部から火花が散り、がくりと長い首が力を失う。
「妖鳥の呪いにより、相手ターンで数えて2ターンの間《巨竜》は攻撃できません! さらに、墓地に新たなハーピィが送られたことで、《守護神》の矛もパワーアップ!」
「ほう……」
試験官は僅かに感心したように声を漏らす。
ハーピィ・レディ1 ATK:2700 → ATK:3600
妹の犠牲に、しかし妖鳥の長姉は闘志に燃えて矛を強く握り締める。その身に秘めた力は既に、機竜たちを遥かに超えるレベルに達していた。
「これがハーピィの力です。ハーピィ・レディは確かに単独では強くありません。でも姉妹との絆があれば、こんなにも強くなる! ――バトル! 《ハーピィ・レディ1》で、《スクラップ・ドラゴン》にアタック! 〈爪牙砕断(スクラッチ・クラッシュ)〉!」
ハーピィ・レディが矛を構えて殺到し、小柄な身に似合わぬ長大な矛を旋回させ竜巻を起こして機龍を翻弄する。機龍も回避しようとしたものの間に合わずに竜巻に両翼を打ち据えられ、機能を麻痺させて落下する。すかさず直下に飛び込んだレディが矛を振り上げ、落ちてくる《スクラップ・ドラゴン》の胸へとその切っ先を突き立てた。
ハーピィ・レディ1 ATK:3600 VS スクラップ・ドラゴン ATK:2800
悟堂 LP:4000 → ダメージなし
「《スクラップ・ドラゴン》撃破!」
「ふん……」
「バトル終了、第2メイン。私は永続魔法《強欲なカケラ》を発動」
からん、という間の抜けた音と共に、翼の前に壺のカケラが現われる。それは何をするでもなく、地面に落ちて沈黙した。
「さらに1枚セットを追加。私はこれで、ターンエンド!」
翼 LP:1200 手札:0枚 場:ハーピィ・レディ1、守護神の矛、ハーピィの狩場、強欲なカケラ、リバースカード×2
悟堂 LP:4000 手札:1枚 場:古代の機械巨竜、イエローガジェット
「やったわ! スクドラさえ潰してしまえば勝機はある」
「でも楓=サン? 逆転したわけじゃないんデスよ? まだ教頭の場には《巨竜》がいマスし、墓地には《フォートレス》だってイマス。《巨竜》を足止めするためにライフも随分消費したし、ジリ貧もといジリー・プアー(徐々に不利)デスよ」
珍しく少しはしゃぎ気味な楓に、冷静に同級生が突っ込む。
楓はデコピンをかました。
「痛い! 何するデスか!」
「ごめんなさい、何だか腹が立って」
「それで済んだら警察もYAKUZAもいりまセンよ!」
「けど、確かにまだ油断はできないわね。カード1枚で簡単に突破できる状況だわ……」
「アッ、ハイ。スルーされました」
「私のターン、ドロー」
試験官は落ち着いた表情で次のカードを引く。
「……なるほど、同名カードとして扱われるハーピィシリーズと《守護神の矛》の組み合わせは確かに強力だ。だが」
試験官はそのまま手札を切る。
「《サイクロン》発動。新たに伏せられたカードを破壊する!」
「っ!? 《神の宣告》が……」
旋風が翼のセットカードを弾き飛ばす。無力化されたそれは、正しく切り札とも言えるカウンター罠である。
「所詮は主流派から外れた弱小モンスター。圧倒的パワーの前に砕け散るがいい。ーー私は場の《イエロー・ガジェット》を手札に戻し、手札からチューナーモンスター《A・ジェネクス・バードマン》を特殊召喚する」
先ほどの攻防に置き去りにされていた小さなロボットが光となって消え、かわりに現れたのは奇妙な可愛らしさを持つ二頭身の鳥型機械だ。一声鳴いて、小さな羽で空に浮かぶ。
「そして再び《イエロー・ガジェット》を通常召喚。効果発動、デッキから《グリーン・ガジェット》を手札に加える」
またもや現れたガジェットが、新たなガジェットを手札へと補給する。そしてその上にちょこんと《バードマン》が乗った。
「そして私はレベル4の《イエロー・ガジェット》に、レベル3《A・ジェネクス・バードマン》をチューニング!」
《バードマン》がその身体を3つの光輪へと変え、その中を小さなガジェットがくぐり抜ける。飛び出す星は4つ、両者を合わせてレベルは7。
「勇気の鼓動よ、鉄血に宿れ! 武具を纏い破壊する者、金色なる竜よ来たれ! シンクロ召喚、起動せよ(アクティヴェイト)、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
光を破って現れたシルエットは、またしても竜の姿だ。しかし3体目の竜はそれまでの者とは違い、見るも鮮やかな山吹色の装甲を纏っていた。両腕は工具のような形をしており、その紅い瞳は純真な子どものようでもある。だが無邪気と呼ぶにはあまりにもその身体は大きく、暴力的なまでのパワフルさを感じさせる。
「《パワー・ツール・ドラゴン》……!」
戦慄する翼に対し、試験官は淡々とデュエルを進行していく。
「《A・ジェネクス・バードマン》は自身の効果で特殊召喚した場合、フィールドを離れた際にゲームから除外される。そして私は《パワー・ツール》の効果を発動。デッキから装備魔法を3枚選択し、その中からランダムに1枚手札に加える。私は《団結の力》3枚を選択する。……さあ、選ぶがいい」
デッキから排出された3枚のカードを公開した後で、それをシャッフルして裏向きで示す。翼は汗を流しながら呻く。
「どれ選んでも同じじゃないですか……。真ん中で」
中央のカードが手札に加わり、残りはデッキに戻る。
「《団結の力》を発動。《パワー・ツール》に装備。攻撃力が自分フィールド上のモンスター×800ポイント、つまり1600ポイント上昇し、攻撃力は3900になる」
「しょ、正面からハーピィの攻撃力を超えた……!?」
パワー・ツール・ドラゴン ATK:2300 → ATK:3900
「バトル、《パワー・ツール》で《ハーピィ》に攻撃! 〈クラフティ・ブレイク〉!」
《パワー・ツール・ドラゴン》の左腕、ドライバーのような形状になっているそれが勢い良く回転を始める。咆哮と共にそれをハーピィの身体に突き立てる機竜。
ハーピィ・レディは断末魔の悲鳴を上げて消え去った。
「くっ、アエロまで……」
パワー・ツール・ドラゴン ATK:3900 VS ハーピィ・レディ1 ATK:3600
翼 LP:1200 → 900
「《巨竜》は《ハーピィ・レディ3》の効果で攻撃できない。……ふん、先ほどの布石が功を奏したか。だが、いつまで耐えられるかな?」
「ううっ……」
2体のハーピィを立て続けに失ったことが、翼の闘志を鈍らせる。母から受け継いだカードたちの悲鳴が、心を蝕む。
少女の目から次第に闘志の光が失われていくのを、試験官は冷たい眼差しで見据えていた。
命削りはあれです、新しいけど古いカードなのでセーフセーフ。
† † †
(ふん。今年の受験生も出来が悪い)
厳しい顔で対戦相手の少女を眺めながら、悟堂は不満げに鼻を鳴らした。
教師陣の中でも屈指の実力者である彼が試験官を勤めるのは、ひとえに学科試験で成績の悪かった者を完全に振るい落とすためである。
昔からデュエルアカデミアでは、学科の成績が低い生徒に対しては風当たりが強い。元より創立者の思想からエリートデュエリストを尊ぶ風潮があり、教師たちの大部分もレッド寮の問題児たちよりブルー寮の優等生たちの方を好んでいる。
当然だろう。悟堂もその点には口を挟む気はない。デュエルタクティクスを向上させるにはルールに対する理解度を上げることが何よりも重要であり、それを怠るものに勝利の女神は微笑まない。運だけで勝ち続けることができるほど、甘い世界ではないのだ。
(それが嫌だと言うならば、強くあれば良いのだ。だのに、まったく……)
彼が試験官を任されているのは、学科で合格ぎりぎりの成績だった受験生たちである。皆、デュエルというものを甘く考えている。女子校とは言え、このデュエルアカデミアで求められるのはその能力だけだ。箔付けで記念受験をしようなどと考えているような連中に、神聖なる学び舎の一員となる資格はない。
「先手は譲ろう。存分に展開したまえ」
そう告げて、相手を見やる。今回の受験生も、学科の成績が芳しくない者のうちの一名だ。おどおどとして、随分と気弱である。
だがそれはデュエルディスクを構えるまでのことだ。決闘の態勢に移行した瞬間、その瞳に覚悟の輝きが灯った。
(ほう、いい目だ)
少々強めに揉んでやるとしよう。悟堂は自らの手札に視線を落とし、口元を小さく歪めた。
「先手は譲ろう。存分に展開したまえ」
試験官の言葉に、翼は少し苦い顔になった。
(存分に展開しろ、と言われてもなぁ)
「私のターン、ドロー……は、ありません」
危うく昔の癖で手を伸ばしかけて思い留まる。ちらりと教官を見れば、変わらずの仏頂面である。
(あ、危なかったぁ……。引いてたら即座にジャッジキルで落ちてたかも)
僅かの沈思黙考の後、翼は手札を切った。
「私はモンスターをセット。リバースカードを2枚伏せて、ターンエンドです」
翼 LP:4000 手札:2枚 場:裏守備モンスター×1、リバースカード×2
デュエルディスクにカードを置くと、目の前にカードの裏面を表すホログラフが浮かび上がった。ソリッドビジョン、海馬コーポレーションの技術の粋が結晶したシステムだ。
「ふん、落ち着いているな。良かろう。……私のターン、ドロー!」
試験官は薄く笑い、自分のデッキからカードを引く。
「私は手札から、チューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚する」
光と共に、彼の前に浮遊する機械のボールのようなものが現れた。シャキン、と鋭い音を立ててボールの装甲が展開し、カメラアイのようなものがのぞく。
「このカードは相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる。さらに、私はフィールド魔法《歯車街(ギア・タウン)》を発動」
周囲の景色が書き換えられ、暗鬱とした機械の街へと変貌する。
「このフィールドには〈アンティーク・ギア〉と名のつくモンスターのリリースが1体分少なくなる効果がある」
つまり最上級モンスターを、リリース1体で召喚できるということだ。
試験官の言葉に、翼は少し顔をしかめる。
「《古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)》が来る……?」
「ふん、古い知識だ。私は《イエロー・ガジェット》を召喚する」
現れたのは予想より遥かに小さなロボットだ。黄色い身体に不釣合なほど大きな歯車を背負い、ガードを固めるように両腕を交差させている。
「召喚時効果が発動するが、チェーンはあるかね? ……ふん、無いならば解決する。デッキから《グリーン・ガジェット》を1枚手札に加える」
シャキン、と試験官のデッキから1枚のカードが排出される。手にとってこちらに向けたそのカードは、宣言通り《グリーン・ガジェット》だ。
更に試験官は手札を2枚墓地に送り、宣言する。
「手札からレベル7の《マシンナーズ・フォートレス》とレベル4の《グリーン・ガジェット》を墓地に送り、《マシンナーズ・フォートレス》の効果を発動! 合計レベル8以上になるように手札から機械族モンスターを捨てることで、墓地から自身を特殊召喚する!」
轟音と共に大地を割って、巨大な戦車のようなものが登場する。三つのキャタピラ、マッシブな一対の巨腕、肩口に備えられた砲塔、そしてギュイン、とこちらをカメラアイで睨む小さな頭部。戦車ではない、ロボットだ!
「う、うわあ」
立体映像とわかっていても迫力に呑まれそうになる。
しかも、場に一気にモンスターが3体並んでしまった。翼の伏せはカウンター罠でも召喚反応型罠でもないため、それを止める手立てがない。
「私はフィールド上のレベル7《マシンナーズ・フォートレス》に、レベル1《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」
振り上げた手の先で、《アンノウン・シンクロン》が1つの光の輪へと変化し、《マシンナーズ・フォートレス》がその中へと突進する。さながらサーカスの火の輪くぐりを思わせる格好で輪に飛び込んだ巨大なロボットは、7つの輝く星へと変わる。
「ーー打ち捨てられし鉄屑に、残されし夢よ形を成せ。鋼の翼で天に抗え! シンクロ召喚、起動せよ(アクティヴェイト)、《スクラップ・ドラゴン》!」
閃光が弾け、その中から一体の巨大な竜が現れる。
咆哮を上げて真紅の双眸を輝かせる巨竜の身体は、余す所無く機械で出来ている。それもスクラップ置き場の廃品で竜の魂にふさわしい身体を無理やり作り直したような、禍々しくも威圧感のある姿だ。
「す、《スクラップ・ドラゴン》……!?」
「《スクラップ・ドラゴン》の効果発動! 自分と相手の場のカードを1枚ずつ選択し、それを破壊する。私は、私の場の《歯車街》と、君の場の伏せカード……そうだな、私から見て右側のリバースカードを破壊する。〈スクラップ・ダイブ〉!」
《スクラップ・ドラゴン》がひとつ、大きく羽をはためかせたかと思うと、その場のすべてを巻き上げるような勢いで天空へと飛び立つ。そして高度をとってフィールドを睥睨し、今度は大気の壁をまとめて貫くような速度で急降下する。
落着。轟音と共に衝撃波が走り、周囲の物体をなぎ払う。周囲にそびえていた街は瓦礫となって倒壊し、翼の場に存在したカードを1枚巻き添えにした。
「ッ! 私の《ミラーフォース》が!?」
「ふん、当たりを引いたようだな」
破壊された罠カードは、相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する、攻撃反応型の中でも最強のクラスに存在するカード《聖なるバリア-ミラーフォース-》である。翼のカードの中でも切り札のひとつであったのだが。
しかもこれで終わりというわけではない。瓦礫の山となった街の残骸の隙間に、ぎらりと一対の光が輝く。
「破壊された《歯車街》の効果、発動。このカードがフィールドから墓地に送られた時、デッキから〈アンティーク・ギア〉と名のつくモンスター1体を特殊召喚できる」
次の瞬間残骸が吹き飛び、その中からもう1体の竜が現れる。
「起動せよ(アクティヴェイト)、《古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)》!」
《スクラップ・ドラゴン》は鉄屑でその身を構成しているにもかかわらず生物的な印象を持っていたが、新たなる竜はまさしく機械そのものの姿をしていた。装甲は暗色の鋼鉄、脚に相当する位置には歯車のような形の車輪が一対。しかし長い首を振り立て、アギトを開いて咆哮するそれは、やはり竜と呼ぶにふさわしい威容だ。
2体の機竜が並び立つ。凄まじい威圧感が、翼の両脚を震わせる。
「うわぁ、出ちゃいマシタよ。教頭の必殺コンボ・ジツ、〈機龍乱舞〉! 受験生相手に容赦無いナァ」
悟堂のデッキは【マシンガジェ】というアーキタイプである。三色のガジェットによって手札アドバンテージを維持しつつ、強力な機械族モンスターで圧倒する戦術を得意とする。受験生が相手にするには、いささか以上に酷な相手だろう。
「……そうね」
短く答える楓に、同級生が不満そうに振り返る。
「何か反応がつまんないデスね」
「あの娘はこれしきの障害ではくじけないわ。見なさい、あの目を」
「いや、こっからじゃ表情なんて見えまセンよ。どんだけ視力良いんデスか。マサイ族デスか。忍者デスか」
「デュエリストよ。あの目にはまだデュエリストとしての闘志が燃えている。ならば彼女には逆転の道筋が見えているのだわ」
「はぁ……」
自信に満ちた表情で笑う楓に、同級生は不思議そうに首を傾げた。
「バトルフェイズ! 《スクラップ・ドラゴン》で伏せモンスターに攻撃。〈瀝青波〉!」
試験官の指揮に従い、巨竜の一が咆哮する。
攻撃対象となった裏守備モンスターが表になり、その正体を顕にした。
スクラップ・ドラゴン ATK:2800 VS ドラゴンフライ DEF:900
現れたのは貧弱もいいところのトンボ型モンスターだ。割と大きいが、同じドラゴンの名を冠していてもその力量差は雲泥である。《スクラップ・ドラゴン》の吐く酸のブレスの前に、瞬く間に断末魔を上げて溶け崩れる。
「ッ――、戦闘破壊された《ドラゴンフライ》の効果発動! デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスターを表側攻撃表示で特殊召喚します。……もう一度お願い、《ドラゴンフライ》!」
デッキから同じモンスターが、しかし今度は攻撃表示で現れる。
「ふん、良いマトだな。次は《巨竜》でアタック! 〈ギア・バイト〉!」
ドラゴンフライ ATK:1400 VS 古代の機械巨竜 ATK:3000
翼 LP:4000 → LP:2400
抵抗の余地なく、トンボの羽が鋼鉄の顎に食いちぎられた。今度は攻撃表示であるため、翼にも超過ダメージが届いてしまう。
「……つッ、《ドラゴンフライ》の効果が発動します。デッキから攻撃力1300の、《ハーピィ・レディ1》を特殊召喚! 《レディ1》の効果により、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップします!」
ハーピィ・レディ1 ATK:1300 → ATK:1600
続いて現れたのは、赤く長い髪を持つ女性型モンスターである。露出の高い衣装をまとう麗しい面立ちだが、その両腕は鋭い猛禽の爪と羽になっており、彼女が妖鳥ハーピィの一族であることを示している。
「何が来るかと思えば、随分と懐かしいモンスターだ。だが《イエロー・ガジェット》の攻撃力では勝てんな……私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
悟堂 LP:4000 手札:1枚 場:スクラップ・ドラゴン、古代の機械巨竜、イエロー・ガジェット、リバースカード×1
翼 LP:2400 手札:2枚 場:ハーピィ・レディ1、リバースカード×1枚
「私のターン、ドロー!」
細い指先がカードをつまみ、しゃきん、と刃を抜くような鋭い所作で引き抜かれる。ドローしたカードを確認し、よし、とひとつうなずく。
「私は手札の《ハーピィ・クィーン》を捨てて、効果発動! デッキからフィールド魔法《ハーピィの狩場》を1枚サーチします」
デッキから望むカードが選択され、排出される。それを手に取り、フィールド魔法ゾーンに配置する。
「《ハーピィの狩場》発動! これにより、以後私が《ハーピィ・レディ》または《ハーピィ・レディ三姉妹》を召喚・特殊召喚した時、フィールドに存在する魔法・罠カードを1枚破壊することが可能となりました。続いて、《ハーピィ・レディ3》を召喚!」
光の柱が立ち上り、翼の眼前に一人の女性モンスターが降り立つ。先程のハーピィと似た姿だが、髪は青く逆立っており、顔立ちには野性味がうかがえる。2体のハーピィは姉妹らしく、お互いに寄り添って油断なく敵をにらみつけた。
「ハーピィ・レディが召喚されたことにより、《狩場》の効果が誘発します。先生のリバースカード1枚を、破壊させて頂きます!」
「ふん。伏せは《次元幽閉》だ。破壊される」
試験官のリバースカードが粉砕される。だが彼はその損害に眉ひとつ動かさない。攻撃力の低い《イエロー・ガジェット》を立たせておくことで攻撃を誘っていたのだと思われるが、元より大して期待していたわけでもないのだろう。
「更に、私はここで魔法カード《命削りの宝札》を発動!」
突如として翼の目の前に現われる小型のギロチン。躊躇いも無くそこに腕を突っ込む。
ガコン。刃が解き放たれてその手に落ちかかる。危ういところで引き抜いたその指先に、3枚のカード。
「手札が3枚になるようにカードをドローします! 私の手札は0、よって3ドロー!」
「ふん、しかしその代償として君はこのターン特殊召喚できず、私にダメージを与えることも叶わない。しかも……」
「ーーエンドフェイズに手札は全て失われる。それはもちろん承知の助です!」
ズバッと腕を振り、翼は断じた。
「《狩場》の第二の効果、フィールド上の鳥獣族モンスターの攻撃力は200ポイントアップ。また、《レディ1》の効果で、《レディ3》の攻撃力も上昇します。
更に手札から装備魔法《守護神の矛》を《レディ1》に装備! これは墓地の同名モンスターの数×900ポイント攻撃力が上昇するカードです。
墓地の《ハーピィ・クイーン》は《ハーピィ・レディ》として扱われるため、同じく《ハーピィ・レディ》として扱われる《レディ1》の攻撃力は900ポイントアップ!」
ハーピィ・レディ3 ATK:1300 → ATK:1800
ハーピィ・レディ1 ATK:1800 → ATK:2700
(お願い、ハーピィ達。私に力を貸して!)
心で叫んだその想いが届いたのか、2体のハーピィが翼の方を振り向き、決意を込めた目で頷いてみせる。とてもソリッドビジョンとは思えないその行動に翼は驚いたが、これも最近のシステムなのだろうと考え、気持ちを切り替える。
「行きます、《レディ3》で、《巨竜》に攻撃!」
「攻撃力の低いモンスターで攻撃だと?」
『ハァッ!』
青い髪のハーピィが命令と共に、飛び立った。力の差は歴然であるにもかかわらず、果敢に鋼の竜に立ち向かう。上空を旋回して撹乱し、一瞬の隙を突き竜の死角から鋭い爪の一撃を加える。
しかしその暗色の装甲には傷ひとつつかない。逆に鎌首をもたげた竜のアギトが、妖鳥少女の細い肢体を捕らえた。
『グゥオ オ オオ オオンッ!』
『キャアアアッ!?』
悲痛な叫びを残し、光の粒子に還るハーピィ。その断末魔に思わず唇を噛む。
翼 LP:2400 → LP:1200
「ッ、ごめんケラエノ……。でも、ここで《レディ3》の効果が発動します!」
ただ無為に命を散らしたかと思えたハーピィだったが、彼女を食らった巨竜に異変が起こる。
動力部から火花が散り、がくりと長い首が力を失う。
「妖鳥の呪いにより、相手ターンで数えて2ターンの間《巨竜》は攻撃できません! さらに、墓地に新たなハーピィが送られたことで、《守護神》の矛もパワーアップ!」
「ほう……」
試験官は僅かに感心したように声を漏らす。
ハーピィ・レディ1 ATK:2700 → ATK:3600
妹の犠牲に、しかし妖鳥の長姉は闘志に燃えて矛を強く握り締める。その身に秘めた力は既に、機竜たちを遥かに超えるレベルに達していた。
「これがハーピィの力です。ハーピィ・レディは確かに単独では強くありません。でも姉妹との絆があれば、こんなにも強くなる! ――バトル! 《ハーピィ・レディ1》で、《スクラップ・ドラゴン》にアタック! 〈爪牙砕断(スクラッチ・クラッシュ)〉!」
ハーピィ・レディが矛を構えて殺到し、小柄な身に似合わぬ長大な矛を旋回させ竜巻を起こして機龍を翻弄する。機龍も回避しようとしたものの間に合わずに竜巻に両翼を打ち据えられ、機能を麻痺させて落下する。すかさず直下に飛び込んだレディが矛を振り上げ、落ちてくる《スクラップ・ドラゴン》の胸へとその切っ先を突き立てた。
ハーピィ・レディ1 ATK:3600 VS スクラップ・ドラゴン ATK:2800
悟堂 LP:4000 → ダメージなし
「《スクラップ・ドラゴン》撃破!」
「ふん……」
「バトル終了、第2メイン。私は永続魔法《強欲なカケラ》を発動」
からん、という間の抜けた音と共に、翼の前に壺のカケラが現われる。それは何をするでもなく、地面に落ちて沈黙した。
「さらに1枚セットを追加。私はこれで、ターンエンド!」
翼 LP:1200 手札:0枚 場:ハーピィ・レディ1、守護神の矛、ハーピィの狩場、強欲なカケラ、リバースカード×2
悟堂 LP:4000 手札:1枚 場:古代の機械巨竜、イエローガジェット
「やったわ! スクドラさえ潰してしまえば勝機はある」
「でも楓=サン? 逆転したわけじゃないんデスよ? まだ教頭の場には《巨竜》がいマスし、墓地には《フォートレス》だってイマス。《巨竜》を足止めするためにライフも随分消費したし、ジリ貧もといジリー・プアー(徐々に不利)デスよ」
珍しく少しはしゃぎ気味な楓に、冷静に同級生が突っ込む。
楓はデコピンをかました。
「痛い! 何するデスか!」
「ごめんなさい、何だか腹が立って」
「それで済んだら警察もYAKUZAもいりまセンよ!」
「けど、確かにまだ油断はできないわね。カード1枚で簡単に突破できる状況だわ……」
「アッ、ハイ。スルーされました」
「私のターン、ドロー」
試験官は落ち着いた表情で次のカードを引く。
「……なるほど、同名カードとして扱われるハーピィシリーズと《守護神の矛》の組み合わせは確かに強力だ。だが」
試験官はそのまま手札を切る。
「《サイクロン》発動。新たに伏せられたカードを破壊する!」
「っ!? 《神の宣告》が……」
旋風が翼のセットカードを弾き飛ばす。無力化されたそれは、正しく切り札とも言えるカウンター罠である。
「所詮は主流派から外れた弱小モンスター。圧倒的パワーの前に砕け散るがいい。ーー私は場の《イエロー・ガジェット》を手札に戻し、手札からチューナーモンスター《A・ジェネクス・バードマン》を特殊召喚する」
先ほどの攻防に置き去りにされていた小さなロボットが光となって消え、かわりに現れたのは奇妙な可愛らしさを持つ二頭身の鳥型機械だ。一声鳴いて、小さな羽で空に浮かぶ。
「そして再び《イエロー・ガジェット》を通常召喚。効果発動、デッキから《グリーン・ガジェット》を手札に加える」
またもや現れたガジェットが、新たなガジェットを手札へと補給する。そしてその上にちょこんと《バードマン》が乗った。
「そして私はレベル4の《イエロー・ガジェット》に、レベル3《A・ジェネクス・バードマン》をチューニング!」
《バードマン》がその身体を3つの光輪へと変え、その中を小さなガジェットがくぐり抜ける。飛び出す星は4つ、両者を合わせてレベルは7。
「勇気の鼓動よ、鉄血に宿れ! 武具を纏い破壊する者、金色なる竜よ来たれ! シンクロ召喚、起動せよ(アクティヴェイト)、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
光を破って現れたシルエットは、またしても竜の姿だ。しかし3体目の竜はそれまでの者とは違い、見るも鮮やかな山吹色の装甲を纏っていた。両腕は工具のような形をしており、その紅い瞳は純真な子どものようでもある。だが無邪気と呼ぶにはあまりにもその身体は大きく、暴力的なまでのパワフルさを感じさせる。
「《パワー・ツール・ドラゴン》……!」
戦慄する翼に対し、試験官は淡々とデュエルを進行していく。
「《A・ジェネクス・バードマン》は自身の効果で特殊召喚した場合、フィールドを離れた際にゲームから除外される。そして私は《パワー・ツール》の効果を発動。デッキから装備魔法を3枚選択し、その中からランダムに1枚手札に加える。私は《団結の力》3枚を選択する。……さあ、選ぶがいい」
デッキから排出された3枚のカードを公開した後で、それをシャッフルして裏向きで示す。翼は汗を流しながら呻く。
「どれ選んでも同じじゃないですか……。真ん中で」
中央のカードが手札に加わり、残りはデッキに戻る。
「《団結の力》を発動。《パワー・ツール》に装備。攻撃力が自分フィールド上のモンスター×800ポイント、つまり1600ポイント上昇し、攻撃力は3900になる」
「しょ、正面からハーピィの攻撃力を超えた……!?」
パワー・ツール・ドラゴン ATK:2300 → ATK:3900
「バトル、《パワー・ツール》で《ハーピィ》に攻撃! 〈クラフティ・ブレイク〉!」
《パワー・ツール・ドラゴン》の左腕、ドライバーのような形状になっているそれが勢い良く回転を始める。咆哮と共にそれをハーピィの身体に突き立てる機竜。
ハーピィ・レディは断末魔の悲鳴を上げて消え去った。
「くっ、アエロまで……」
パワー・ツール・ドラゴン ATK:3900 VS ハーピィ・レディ1 ATK:3600
翼 LP:1200 → 900
「《巨竜》は《ハーピィ・レディ3》の効果で攻撃できない。……ふん、先ほどの布石が功を奏したか。だが、いつまで耐えられるかな?」
「ううっ……」
2体のハーピィを立て続けに失ったことが、翼の闘志を鈍らせる。母から受け継いだカードたちの悲鳴が、心を蝕む。
少女の目から次第に闘志の光が失われていくのを、試験官は冷たい眼差しで見据えていた。
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