第０６話　愛せし者と狙う者　作：ｸﾄｩﾙﾌ大好きな人

「一 心！！ わたくしは貴方にデュエルを申し込みますわ！！ 」


　突然一年のクラスに執事を引き連れ乗り込んできた香蓮。お昼休みが始まった直後、まだクラスの半数以上が居る中での宣言だった。


「（アイエェェ…）あの九条先輩、僕達これからお弁当を…」

「わたくしとお弁当のどっちが大切なのですか！？ 」


　心の机をバシバシ叩きながら怒ってくる香蓮。無論、彰と一馬も自分の机を持ってきており、すでに配置している時だった。


「えっと……。」


　助けを求める為に２人に目配せする。それに気付いた彰はよし任せろといった感じで頷く。良かった、ここは何とかしてくれ……


「九条先輩、俺らの事は気にしないでいいので心をよろしくお願いします」

「心、先輩にあまり迷惑を掛けるものではないぞ」



　まさかの裏切りだとぉぉぉおお！！


「では心はお借りして行きますわ」


心に拒否権はなかったようだ。香蓮に引きずられる心を見て彰と一馬は……


「しかし心ってモテるんだなぁ。今度誰か紹介でもして貰うかｗｗ」

「彼女持ちである心が浮気をする事はない。ここは任せておくのが得策だろう」


　２人は心の無事を祈りながら先にお昼にする事にした。





　※一階デュエルフィールド


「すでに先生方の許可は頂いております。ですのでこの時間は私達だけ、ここでならじっくり話し合いが出来ますわね」


　そういいながらデュエルデスクを展開する香蓮。逃げる訳にもいかず、執事から渡されたデュエルディスクにデッキを装着し持ち場へと移動する。


「戦う前に、一つ質問がありますわ」



　オートシャッフルが終わり、初手の５枚を引いた香蓮は心を見つめる。





「一 心、貴方はわたくしとの事をどう思っていますの」


「初対面の相手にいきなり告白する変わった先輩……ですかね？」



……ﾋﾟｼﾘｯ



　空気が凍る音がした。怒りでプルプルと震える香蓮を見て心は何かやらかしてしまったのかと考える。相手は仮にも社長令嬢、もう少しオブラートに包むべきだったなと反省する。



「一 心！ 貴方に彼女がいる事は分かっています！ このデュエルでわたくしが勝った場合、その女と別れてわたくしと付き合って頂きます！ 」


「無理です」



　あまりにもキッパリと断るもので。後ろでこの様子を見ていた執事は「私は無理でしょうとお話したのですが…」とため息を漏らす。香蓮は真っ白になり砂のように崩れ去っていく。……ように心には見えた。
　こんな自分に好意を抱いてくれる。それはとても嬉しい事であるが、それと同時に今付き合っている凛ちゃんと別れるなど心からすれば天変地異が起きようとも『絶対』に有り得ない事だ。

「分かりましたわ……、ならば力づくでも！！」



　やけっぱち状態の香蓮は当初の目的所では無くなっていた。


　心は不意に執事の方へ視線をやると、執事はそれに気付き申し訳なさそうな顔で頭を下げる。やるしかないのか……



「「デュエル」」


香蓮 LP 8000　VS　心 LP 8000


《１ターン目》


「わたくしの先行ですわ。わたくしは１枚カードをセットし『カードカー・D』を召喚。このカードをリリースし２枚ドロー。ターンエンドですわ」



香蓮 LP 8000
手札：6枚　フィールド：なし　魔法・罠：１

心 LP 8000
手札：5枚　フィールド：なし　魔法・罠：なし



《２ターン目》


「僕のターン、ドロー。手札より『ワーム・ゼクス』を召喚！ 効果発動！ デッキから『ワーム・クイーン』を墓地へ。そして手札より魔法カード『ヴァイパー・リボーン』発動！ 墓地から『ワーム・クイーン』を特殊召喚します。『クイーン』の効果発動！ 自身をリリースしデッキから２体目の『ワーム・クイーン』を特殊召喚、さらにもう一度リリースし３体目の『ワーム・クイーン』を特殊召喚！まだまだ行きます！ 手札より魔法カード『ソウル・チャージ』発動！ これにより墓地から『ワーム・クイーン』を２体特殊召喚！ 」


　心 LP 8000 → 6000


　香蓮が動かないのを見た心は一気に展開と墓地肥やしを行う。香蓮には一切の動揺は見られない。むしろこちらが不安になってくるレベルだ。だがここで迷っていては話にならない



「僕はレベル８の『ワーム・クイーン』３体でオーバーレイ！ 燃えよ闘魂、滾るは熱血！ 悪しき者には正義の鉄槌を！ エクシーズ召喚！ ランク８『熱血指導王ジャイアントレーナー』！『ジャイアントレーナー』 の効果発動！ エクシーズ素材を一つ取り除き、１枚ドロー、僕が引いたカードは『エーリアン・ソルジャー』九条先輩に800の…」


？「ｸﾗｴ! 800ﾉﾀﾞﾒｰｼﾞｦ! 」


心＆香蓮「「誰だ今の！？」」


　香蓮 LP 8000 → 7200


「と、とりあえず。さらに残り二回発動！ ドロー、引いたカードは『エーリアンモナイト』。800のダメージ！さらにドロー！ 引いたカードは『W星雲隕石』ダメージはありません。」


　香蓮 LP 7200 → 6400


　ジャイアントレーナーの打ち込んだORUによって巻き起こる風によって仁王立ちの香蓮のスカートが揺れる。チラッと薄い紫色が見えたが気のせいにしておこう。



「カードを２枚セットしターンエンド…」


「ではエンドフェイズ時にリバースカードオープン。永続罠『王宮のお触れ』！ これで貴方は『W星雲隕石』も『蛇神降臨』も発動出来ませんわ」



　心は苦虫を噛んだが如く、思わず表情を歪めてしまう。香蓮のデッキがどのようなものが分からない以上下手に動かない方がいい。だが動かなければ『毒蛇神 ヴェノミナーガ』を召喚する準備を整える事が出来ない。
　展開の補助となる『W星雲隕石』。『ヤガン』がセットしてあれば妨害も兼ねて有利に進めれるのだが今回は居ないのだ。そして罠の効果を無効化する『王宮のお触れ』、正直不味い。『蛇神降臨』もセットしていた事もあり、状況としてはかなり好ましくない。



香蓮 LP 8000
手札：6枚　フィールド：なし　魔法・罠：『王宮のお触れ』

心 LP 6000
手札：４枚　フィールド：『ワーム・ゼクス』『熱血指導王ジャイアントレーナー』　魔法・罠：セット２


《３ターン目》


「ではわたくしのターン、ドロー。一 心、貴方に見せてあげましょう。圧倒的な力というものを」


　そう言って彼女が発動したカード……『召集の聖刻印』。


「これによりわたくしはデッキから『聖刻龍－トフェニドラゴン』を手札に。そのまま『トフェニ』を特殊召喚しますわ」


　彼女のフィールドに金色の鎧を纏う龍が降臨する。


「手札より魔法カード『竜の霊廟』を発動！ デッキより『ガード・オブ・フレムベル』を墓地へ。さらに『真紅眼の黒竜』を墓地へ送るわ」



　彼女が墓地へ送ったカードの１枚、『真紅眼の黒竜』。希少価値も高く、中々入手困難なカードの１枚である。



「そして『聖刻龍－トフェニドラゴン』をリリースし、手札から『聖刻龍－シユウドラゴン』を特殊召喚！ そしてリリースした『トフェニ』の効果でデッキより『メテオ・ドラゴン』の攻守を０にし、守備表示で特殊召喚しますわ！ 」


「レベル６が２体……」


「まだ焦る時間ではありませんよ。わたくしは『シユウ』の効果発動！ 手札の『聖刻龍－ネフテドラゴン』をリリースしわたくしから見て右側のセットカードを破壊しますわ」


　シユウのブレスでセットカードが打ち抜かれる。破壊されたのは『W星雲隕石』だ。



「リリースされた『ネフテ』の効果によりデッキより『神龍の聖刻印』を守備表示で特殊召喚！ そしてフィールドの『シユウ』をリリースし２体目の『シユウ』を特殊召喚！ リリースした『シユウ』の効果で２体目の『神龍の聖刻印』を守備表示で特殊召喚しますわ！」


　香蓮のフィールドにはレベル６の『シユウ』と『メテオ』、レベル８の『神龍の聖刻印』が２体。来るぞ遊ｍ（ｒｙ


「わたくしはレベル６の『聖刻龍－シユウドラゴン』と『メテオ・ドラゴン』でオーバーレイ！エジプトの九柱神の一人である創造神よ！ その力を持って勝利へ導け！ エクシーズ召喚！ ランク６『聖刻龍王－アトゥムス』！ さらにレベル８の『神龍の聖刻印』２体でオーバーレイ！エジプト神話の九柱の神と女神を示し者よ！ 今こそ封印と解き放ち顕現せよ！エクシーズ召喚！ランク８『聖刻神龍－エネアード』！」



　特殊召喚に継ぐ特殊召喚、彼女のデッキは止まる事を知らないとばかりに展開する。



「『アトゥムス』の効果発動！ エクシーズ素材を一つ取り除きデッキから『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』の攻守を０にし特殊召喚！ 効果発動！ 墓地より『ガード・オブ・フレムベル』を特殊召喚！さぁ行きますわ！レベル１０『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』にレベル１『ガード・オブ・フレムベル』をチューニング！星を喰らいし雄々しき龍よ！ 圧倒的な力を持って敵をねじ伏せなさい！シンクロ召喚！レベル１１『星態龍』！」



　香蓮のフィールドにはシンクロ、エクシーズの大型モンスターが３体。１体は攻撃出来なくとも、残りの２体の攻撃力は心のフィールドのモンスターを遥かに上回る。


「まだですわ！わたくしは『聖刻龍王－アトゥムス』１体でオーバーレイネットワークを再構築！ ランクアップエクシーズチェンジ！ 現れよ！ランク７『迅雷の騎士 ガイアドラグーン』！そしてこれで最後ですわ。手札より魔法カード『龍の鏡』を発動！ 墓地の『真紅眼の黒竜』と『メテオ・ドラゴン』を除外し、『メテオ・ブラック・ドラゴン』を特殊召喚しますわ！」



　手札を全て消化した香蓮のフィールドにはシンクロ、エクシーズ、融合の大型ドラゴン族モンスターが４体。心のフィールドにはモンスターが２体のみ、まさに絶対絶命である。


「さぁ、バトルですわ！『聖刻神龍－エネアード』で『熱血指導王ジャイアントレーナー』を攻撃！ 」


　聖刻神龍－エネアード ATK 3000 VS 熱血指導王ジャイアントレーナー ATK 2800


　心 LP 6000 → 5800


「続いて『『迅雷の騎士 外アドラグーン』』で『ワーム・ゼクス』に攻撃！ 」


　迅雷の騎士 外アドラグーン ATK 2600 VS ワーム・ゼクス ATK 1800


　心 LP 5800 → 5000


「さらに『星態龍』でダイレクトアタック！ 」


　心 LP 5000 → 1800

「っ！？」

　心は星態龍のダイレクトアタックの衝撃で後ろの壁へと叩きつけられ、倒れる。モンスターからの攻撃による身体へのダメージはない、だがその衝撃は別だ。一瞬意識を失い掛けたが、震える足に鞭を打ち、気合で立ち上がる。



「これでお終いです、さぁ、わたくしの者となりなさい！心！！『メテオ・ブラック・ドラゴン』でダイレクトアタック！ 」



　ふらつく心に迫るメテオ・ブラック・ドラゴンのブレス、だが心の目をまだ諦めてはいない。


「ここで負けたら…僕は凛ちゃんを守れない。僕は負けたらダメなんだ、何がなんでも勝たないとダメなんだ！『メテオ・ブラック・ドラゴン』の攻撃宣言時に手札より『ジェントルーパー』を守備表示で特殊召喚する！」


「小ざかしい真似を！ なぜ諦めないのですか！ 『メテオ・ブラック・ドラゴン』、そのモンスターを破壊しなさい！」


　メテオ・ブラック・ドラゴン ATK 3500 VS ジェントルーパー DEF 1000


　ジェントルーパーを破壊した香蓮は下を向き震えている。「……なぜですか、どうして心は…」と1人呟いている。



　「なぜですか！ 心！なぜ心は私の事を覚えていないのですか！約束したじゃないですか！わたくしと結婚して下さると！！ それなのになぜ他の女なんかと！！」


　突然ヒステリックに叫ぶ香蓮。その後ろで執事は黙って見ている事しか出来ない。



「約……束……？」



　だが心はそんな約束をした記憶など無かった………。自分の初恋の相手は「早川 凛」であり、「九条 香蓮」との面識は無いはず、そう思った時だった。突如頭が割れるような激しい頭痛に襲われ、その場に崩れる心。消え行く意識の中で浮かんだ光景……




「暗い場所」

「自分を見下ろす2人の大人」

「その奥で眠る一人の少女」

そして

｢ワーム・ゼロ｣

　その光景がなんだったのか、今の心には分からないまま意識を手放した……。





　香蓮は倒れた心に気付き、急いで駆け寄る。いくら呼びかけても反応しない心に、香蓮は泣きながら執事を呼び医務室へと運ばせた。






※一階デュエルフィールド　観覧席


　心と加蓮のデュエルを闇に紛れ覗く者がいた。


「ﾌﾌｯ、香蓮嬢のお気に入りの子ってあの子なんだ～♪折角なら～」


　1人で呟かれるネットりとした声は誰の耳にも届く事はなく、静かに闇へと吸い込まれていった……。