第０１話　出会いはいつも突然に　作：ｸﾄｩﾙﾌ大好きな人

　それは一 心が地元のアカデミア高校へ入学して一ヶ月も経たない内の出来事だった。


「わたくしとお付き合いして頂けません事？貴方ならわたくしの彼氏として認めて差し上げてもよろしくてよ」


　まさに唐突だった。まだ話した事もない一つ上の先輩に呼び出された放課後、２人きりの教室、窓際で夕日に照らされながら放った彼女の発言はまさに驚きの一言だった。



なぜ一度も話した事の無い初対面の相手に告白出来るのだろうか……

なぜ自分なのだろうか……

これをOKしてしまうと二股になってしまうのではないだろうか……



　突然の出来事に思考回路が追いつかず黙り込んでしまう心。



　そんな心にお構いなく余裕綽々といった感じの彼女からは緊張や焦りなどは一切感じられない。答えは聞かずとも決まっている、そんな表情だった。


　だがそんな彼女のポーカーフェイスは彼のたった一言で崩れさった。





「お気持ちは嬉しいのですが、お断りさせて頂きます」





　まさかの回答だった。

　まさに開いた口が塞がらないといった状況だろう。ポーカーフェイスはあっさりと崩れ去った。



彼女の名前は　九条 香蓮(くじょう かれん)

　大手デュエルデスク製造会社の社長令嬢であり絶対的な美貌、スタイルを持ち成績優秀。まさに非の打ち所が無いような存在だ。……一つの事を除いては


　彼女は昔から自身が望む物は何でも手に入れてきた。それがどんな小さな物から大きな物、はたまた人であっても。
　ただ一言欲を言えばなんでも叶う、そんな環境で育った彼女は周りを完全に下に捕らえ、周りの者が言う事を聞くのが当たり前だと考えていた。


　そんな彼女にとって自分よりも下の者に拒絶されるというのはまさに屈辱でしかなかったのだ。


　困惑している彼女を目の前に

「僕には好きな人がいまして遠距離恋愛をしています。……ので貴女とお付き合いすると二股になってしまうので。申し訳ありません」

　そういって心は教室を後にする。



　無論、そんな心の発言など一切耳に届いていない香蓮はただただ納得出来なかった。



　頭の中が上手く纏らない彼女はデュエルデスクの液晶パネルを操作しとある人物の電話を掛ける。

　数コールしたのち「はいお嬢様」と声が返ってくる。彼女の専属の執事だろう。


「爺や、今すぐに調べて欲しい事があります。わたくしと同じ学校に通う一つ下の者ですわ」


「畏まりました。その人物の名前は…」


「『一　心』。このわたくしを侮辱したあるまじき男ですわ」


　彼女が電話を切ると同時にデュエルデスクの液晶パネルがﾐｼﾘｯと音を立てた。香蓮のその目には怒りと憎しみの炎が燃え上がっていた。










※心、帰宅



「ただいま～」


　玄関を抜け、リビングへと足を運ぶ。


「あれ？お母さん居ないのかな」


　ソファーにカバンを置き辺りを見回す。しばしうろうろしているとテーブルに置手紙がある事に気付き、ふと手に取る。そこには「会社から急な呼び出しがあったので一旦会社に戻ります。晩御飯は自分で作ってね（はぁと）　母より」と書かれていた。



　心は自分の母がどのような仕事をしているのか全く知らない。前に１度聞いた事があるが「あらあら、うふふ…。それより晩御飯は何がいい？」とあっさり流されてしまった事がある。


一 愛（にのまえ あい）年齢30後半（本人曰く内緒との事。でも心は知ってる）
おっとりした性格でありながら心の事となると何かしらせっかちな性格になったりもするちょっと天然な人。見た目が若く、服装をちょっとおしゃれな物にすると２０代で通用するﾚﾍﾞﾙ（ある意味、美魔女）２人で歩いていると姉と勘違いされたり、すれ違い様に「あの人艦○れの陸○に似てね？」なんて会話が聞こえてくる。○奥って誰だろう・・・。




　晩御飯の準備の前に心は荷物を持って自分の部屋へと上がる。二階に上がってすぐ右に曲がった所が心の部屋。左は母の部屋となっている。


　自分の部屋へ入ると荷物を置き、着替えを済ませて部屋を出る。そのまま自分の部屋のすぐ隣の部屋、ネームプレートには「大五郎と貞義の部屋」と書かれている部屋へと入る。


「大五郎、貞義お待たせ。ご飯の時間だよ」


心がそう話かけた相手は人ではなく、心が飼育している爬虫類の二匹。


ヨロイオオトカゲの大五郎、そしてエボシカメレオンの貞義（二匹とも命名は母）


　心は二匹の飼育用の水槽をテキパキと掃除し、湿度や温度を測り調整、及び餌やりを行う。爬虫類は飼育環境のみならずストレスなどにも弱かったりするので十分注意して行う。（気になる方は検索してみてね by 心）




　かれこれお世話しつつ眺めたりしている事一時間弱、流石にお腹が鳴き始めた心は自分の晩御飯と母用の作り置きを用意する。


　食後は食器を片付け入浴…。


　洗濯も済ませ、明日の準備をしようと部屋に入った心は何か違和感を感じる。


　辺りを見回すが、部屋のどこを見ても母お手製のワーム人形だらけ。ベッドにはワーム・ゼクスとワーム・ヤガンの等身大抱き枕。そして天井にはワーム・ゼロの人形が二つぶら下がっている……。？二つ？


「………。っ！？」


　心がもう一度天井を見上げるとそこには間違いなくワーム・ゼロが二つ。しかもよく見ると一つは表面が波打つように動いており、ゆっくり回転しているのだ。





　あまり良く知らない先輩からの急な告白に動くワーム・ゼロと一日にとんでもない体験をしてしまった心は頭が働かず、そのまま寝る事にした。



　余談ではあるが、朝起きてワーム・ゼロがまだ二つあって困惑したのは言うまでも無い…