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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第11話 事件前日

第11話 事件前日 作:イベリコ豚丼

「よし、じゃあこれで帰りのHRは終わりだ。日直、号令を頼む」
「起立!礼!」
「「「ありがとうございました」」」
久しぶりの学校も終わり、急いで荷物をまとめる。
「あ!綾崎さん、放課後俺とデュエルしませんか!?」
「いやいや、ここは俺と!」
「こんな奴らはほっといて僕とデュエルしましょう!」
「ちょっと男子!何馴れ馴れしく綾崎さんに話掛けてんのよ!」
「そうよそうよ!綾崎さんは私達とデュエルするのよ!」
「黙れブス共!引っ込んでろ!」
「なんですって!!」
一瞬で皆に囲まれてしまった。
「え、えーとごめんなさい…。今日はちょっと外せない用事があって…」
こんな事をしていては彼が帰ってしまう。
「あ、そうなんですか。私達に何かお手伝いできることありますか?」
「いやそれは…」
「じゃあ俺が!」
「私が!」
「僕が!」
「だ、大丈夫!一人で出来る事だから!それじゃあ皆また明日!!」
これでは埒が明かない。 何とか包囲網をくぐり抜け、廊下に駆け出す。
しかし、多田野はもう人混みの向こうに消えてしまっていた。
「あ……!はぁ……」
大きくため息をつく。
(間に合わなかったか…。せっかくお礼も兼ねて家でデュエルしようと思ったのに……)
急所は逸れていたらしく、お父様(と氷上先生)は大事には至らなかった。 今はまだ入院中だが、数週間で退院できるそうだ。多田野にはまだその報告とお礼をしていない。
(あいつ、私にあんな事言っておいて何でいつも通りでいられるのかしら…?ずっと傍にいるとか、だ、だだだ、大好きとか……)

ボッ!

思い出すだけで顔が熱くなった。
あの時の事はまだ現実味が湧かないが、記憶は鮮明に残っている。
(大体、仲良くなって数日の女の子に何告白とかしてるのよ!そりゃあいつには色々感謝してるけど、それは好きとかそういうのじゃ無くて…)
だんだん訳が解らなくなってきた。
(でもあそこまで言われちゃったらちゃんと返事しないといけないわよね…。な、何て言ったらいいのかしら…。告白されたのなんて初めてだから全然分かんないわよ…。うぅぅぅ………)
この悩みに比べたら今日の宿題の詰めデュエルの方が100倍簡単だ。
「だ、だい、だいす…」
「楓ちゃん何してるの?」
「うひゃあ!!!」
背後から誰かに声を掛けられた。
(ま、まさか…!今の全部聞かれてた!?)
「い、いや、そのこれは、だいす、だいす、ダイス………。そ、そう!ダイスよ!ダイス!デュエルで使うだろうから新しく買い替えようかと思って…!」
うわぁ、我ながら無理あり過ぎるごまかし方だなぁ……。だが、
「そうだね~。確かC組の吉田君がサイコロ使ったギャンブルデッキ使ってたっけ~?あれ楽しそうだよね~!何か毎回おみくじ引いてるみたいでさ~」
間の抜けた答えが返って来た。
「……って、何だ由美子じやない」
「うん?そうだよ?」
由美子、内海由美子は私の家の隣に住んでいる幼なじみで、家の重圧に疲れて荒んでいた頃の私に唯一普通に接してくれた親友だ。
「聞かれたのが由美子でよかった…。他の人に聞かれてたら死んでるところだったわ…」
「えへへ~♪どういたしまして~」
「いや別に褒めてるんじゃないわよ?」
そして、ド天然でもある。私としてはいつか達の悪いシャークトレードに引っ掛かるんじゃないかと気が気じゃ無い。
「それで楓ちゃん、そんなところで何見てたの?床?」
「そんな訳ないでしょ…。……由美子、多田野がどこ行ったか知らない?」
「多田野君?多田野君なら多分武道場だと思うよ?」
「武道場?」
「うん。最近柔道部の剛田君と何かしてるみたい」
「あぁ剛田と…」
「あの二人、今女の子の間で噂になってるんだよ~。え~と何だったかな?多田野君の健気受けがどうとか、剛田君の鬼畜攻めがどうとか…」
「やめて由美子、知り合いのそんな話聞きたくない」
うちの女子の趣味にドン引きである。





「お疲れ武雄君。はいこれ」
「おうサンキュ」
武雄君が、渡したスポーツドリンクを飲み下す。
「……ぷはっ!やっぱ練習終わりのスポドリは美味ぇぜ!悪いな宗介、買ってきてもらっちまって」
「気にしないで。前に奢ってもらってるし、そのお返しだよ」
「そうか、じゃあ遠慮無く頂くとするか」
残りを一気に飲み干し、空になったペットボトルを持って立ち上がった。
「うし、じゃあ着替えて来るわ」
「うん、いってらっしゃい」
部室へと向かう武雄君の背中を見送る。
(柔道やり直してから、頼もしくなった感じがするなぁ…。何かが吹っ切れたというか…。それに体もまた大きくなったから、それにしたがって多分ソレも特大に…。これじゃ夜の柔道で僕の体が持つか分からないよ…」
「人の心の声に勝手に入って来ないで下さい草津先輩」
いつの間にか後ろに立っていた悪質な先輩を戒める。
「あらぁ、引っ掛からないのねぇ。二人がなかなか素直にならないから、私がアシストしてあげようと思ったのにぃ」
「今の僕が素直になったら先輩の顔面を思いっきり殴ってますよ」
「いや~ん怖~い!剛田くんとヤレないからって女の私を辱めようっていうのぉ?そんなことしたら裏ルートで人気沸騰中のあなたたちの薄い本を学校中にばらまいちゃうわよぉ」
「そんな物は今すぐ発行停止にして下さい」
僕と武雄君の間に変な噂が立つようになったのは主にこの人のせいだ。
「っていうか、先輩の本職はそんなことじゃないでしょう。新聞部の部長が仕事もしないで毎日こんなところで油売ってていいんですか?」
「これも立派な仕事よぉ?学校中の色んなところを回ってスキャンダルを探してるのぉ」
「学校新聞にスキャンダルは必要ありません。もっと真面目に各部活の活躍とか書いて下さいよ」
「だってそんなのつまらないじゃなぁい!読者が求めてるのは青春の汗よりもドロドロの愛憎劇なのよぉ!」
「それが原因で今まで被害を受けた人が何人いると思ってるんですか…」
「そんなことは私の管轄外だわぁ。すっぱ抜かれる方が悪いのよぉ」
「だからって……」
「なぁに多田野くん。私の報道精神を非難する気ぃ?」
「いやそれは……」
正直この先輩は苦手だ。絡め手が基本戦術で、正攻法がまったく通じない。まともに対応していてはいつの間にか丸め込まれてしまっている。
「その辺にしとくがや栄。あんまり後輩を虐めちゃるんじゃないき」
草津先輩への対応に困っていると、柔道部の中でも一際大きな人物が助け船を出してくれた。
「根黒先輩……!」
「ちょっと根黒くぅん?気安く名前で呼ばないでくれるぅ?あなたとそこまで仲良くなったつもりは無いんだけどぉ」
「儂は知っちょる相手は全員名前で呼んどる。別におんしだけが特別な訳じゃなか」
その言葉に、草津先輩の機嫌があからさまに悪くなった。
「ふん、何でもいいけど取材の邪魔だけはしないでよねぇ」
「どこが取材じゃ。ただ宗介をいびっちゅうだけやないか。おんしの力は認めちょるが、あの下卑た内容だけは解せんのぉ。力を持ったもんは、その力を人の為に使う義務があるんじゃ」
「知ったような口利かないでくれるかしらぁ?あ~あ、根黒くんのせいで萎えちゃたわぁ。じゃあね多田野くん、また今度ぉ」
そう言って草津先輩は南校舎の方へと消えていった。
「ありがとうございました根黒先輩。お陰で助かりました」
「がっはっは!えぇんじゃえぇんじゃ!おんしは武雄を柔道部に連れ戻してくれた恩人じゃき!これぐらいはお安い御用じゃ!」
見た目に違わず豪快に笑う人だ。
「しっかし栄には困ったもんじゃのぉ。ウチが悪い話聞かんち、どうにかして粗を探そうと無茶苦茶しよる」
「さすが先輩率いる柔道部、しっかり教育が行き届いているんですね」
「ま、ここんとこで言やぁ武雄が暴れたんが一番の問題じゃな」
「あはは……」
その件に関しては僕も一枚噛んでいるので、何とも言えない。
「待たせたな宗介………ってあれ?どうして雅也さんと一緒に?」
「草津先輩に絡まれてたところを助けてもらったんだよ」
「あの人今日も来たのか…。毎日毎日よくやるぜ。すいません雅也さん、手間取らせてしまって」
「そうじゃな。ほしたら代わりに明日の練習倍で許したるき、頑張れよ」
「ちょ…!マジっすか!それはさすがに死にますって!」
「がっはっはっは!冗談じゃ!おんしらこれからまた特訓に行くんじゃろ?強ぅなれよ。もうすぐグレードカップじゃ。仲間が出てくれる方が見とる方としても楽しいけんのぉ」
「根黒先輩はグレードカップ出ないんですか?」
「儂は生徒会じゃけん、元々出場権が無いんじゃ。当日は大会の運営に回っとる」
「あぁ成る程…」
「そういうことじゃからおんしら、絶対決勝リーグまで勝ち上がって来いよ。期待しとるぞ」
「「はい!!」」





「そっか、ほんとに後ちょっとだね、グレードカップのクラス予選」
武雄君の家までの道を歩きながら呟いた。
「あぁ。ま、女子は綾崎で決まりだろうが、問題は男子だ」
「やっぱり夏とは違うのかな?」
「そりゃ皆成長してるだろ。夏はたまたま代表になれたが、次もなれるとは限らねぇ」
「神田君に野崎君、後は脇屋君とか可能性のある人はいっぱいいるもんね」
「それに、お前もな」
「え?」
「お前は十分強ぇよ。代表になってもおかしく無いぐらいに」
「武雄君……」
「けど俺は勝つ。お前も他の奴らも、全員倒して俺が決勝リーグに行く」
「僕だって。鶴岐さんと作って、武雄君と直して、綾崎さんと鍛えたデッキなんだ。3人の為にも、絶対勝ってみせる」
「じゃあ俺らはライバルだな」
「うん。負けないよ?」
「こっちこそ」

グレードカップクラス予選まで、後3週間。
多分この日が最後のチャンスだったんだと思う。
この日、何か一つでも変わっていれば、あんな悲しい事件は起こらなかっただろう―――。















「くくく、じゃあま、手始めに4人程殺すか♪」
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ギガプラント
こ、殺す…!?
最後の最後で不穏すぎっぞ!!
楓ちゃんはすっかりヒロインポジションに…うむ。ええぞもっとやれ。
グレードカップ…やっぱり大会はワクワクですね。 (2016-03-23 18:30)
イベリコ豚丼
》ギガプラントさん
コメントありがとうございます!
えぇそうです。今までなんとか騙し騙しやってきましたが、白状しますよ!
このssは、死人がでるssです!
(2016-03-25 13:40)

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