第94話：一計案じる決闘者　作：光芒

第94話（番外編第13話）：一計案じる決闘者




　消灯まであと1時間といった時、結衣は1人バルコニーでデッキ調整に明け暮れていた。明確な実力差があったとはいえ、遊希にデュエルで10戦10敗というのはデュエリストとしてさすがに受け入れがたいことであった。
　遊希から貸して貰ったカードケースからカードを取り出してはデッキに入れて1人で回し、抜くことの繰り返し。一見意味のない行動のように思えるが、それでも今日1日で結衣のデッキおよび彼女のタクティクスは見違えるほど上達していた。

（こんな感じかしら……いや、ここで妥協しちゃダメ。遊希さんみたいに、私は……）
「おつかれ」

　考え込む結衣の首筋に冷たいものが当てられる。ひゃっ、と変な声を上げて振り返ると、そこには湯上り姿の遊希がスポーツドリンクの缶を2つ持って立っていた。

「これ……飲む？」
「あ、ありがとうございます……」
「頑張っているようだけど、無理をしちゃダメよ」
「ですが……」
「ローマは1日にしてならず。強いデッキもそう、長い時間をかけてやっとひとつのデッキが出来上がるのよ。少なくとも私はそうやってきた」

　デュエルの時は元プロらしく、とても凛々しい遊希であるが、今結衣を見ている彼女の眼はまるで妹を見る姉のように優しい顔をしていた。この瞬間の遊希も、デュエルの時の遊希も、美味しいものを食べて顔を綻ばせている遊希も、綾香たちにからかわれている時の遊希も。全てが天都 遊希という1人の人間から醸し出されるものなのだ。

（遊希さんは……こんなにも色んな表情をする人なんだ……）
「ねえ、結衣。ちょっと歩かない？ 気分転換も必要よ」

　遊希は結衣をロッジの外へと連れ出した。ロッジから少し歩くと、湖の湖畔に出る。湖畔から望む湖の湖面には都会ではまず見れない月と満面の星空がまるで鏡のように映し出されていた。

「綺麗……」
「校長先生がこのイベントの場所をここにした理由がわかるわ。普段便利なものに囲まれた生活を送っているとどうしてもこういうものに触れる機会は減ってしまうもの」
「まるでベアトリスさんみたいなこと言いますね」
「イメージにそぐわないかしら？」
「いーえ」

　悪戯っぽく舌を出して笑う結衣。彼女もこの1日でだいぶ表情が豊かになっており、これも成長の1つであった。

「ねえ」
「何ですか？」
「あの……心のことなんだけど」

　遊希の口から心の名前出た瞬間、それまで朗らかだった結衣の顔が曇る。彼女もまた心のことを快く思っていない人物の1人だった。

「事情はわかっているんです。でも、それだったら自己紹介の時に言ってくれればいい話じゃないですか」
「まあ、そうよね……」
「自分から言えないなら詩織さんや凛さんに言って話を切り出してもらうなりやりようはあったはずです！ それなのに嘘をついて問題を大きくして……それに、私は生まれたままの姿まで見られたんですよ……」

　結衣の正論に次ぐ正論に遊希は言葉に詰まる。結衣の言うことは最もであると危うく流されかけてしまうところだったが、ここで自分を見失ってはいけないと首をぶんぶんと横に振る。

「結衣、確かにあなたの言うことは正しいわ。嘘をつくのはいけないことよ」
「ですよね！」
「でもそれだったら……私もあなたに嫌われちゃうわ」
「えっ」
「ねえ、結衣。私のこと、どう思う？」

　遊希の意図が読めない質問に困惑しながらも、結衣は今日1日で感じた遊希のことを1つ1つ言葉にして出す。そのほとんどが「強くて凛々しい」だの「クールでカッコいい」だの「スタイルがよくて美人」だの歯の浮くような褒め言葉であった。

「そう、あなたはそう思ってるんだ……でもね、それは間違いよ。私ずっと嘘をついていた。あなたの言うように強くて凛々しいだなんて真っ赤な嘘よ」
「……どういうことですか」
「よく言われることだけど、私は強くも無ければクールでもなんでもない。今年エヴァが留学生として来てすぐに私は彼女とデュエルをして負けてしまったの。その時は校長先生にも負けたばかりで色々と荒んでいたんでしょうね。デュエルが終わったその夜に私、綾香に泣きついたの。負けることが怖い、ってね……それだけじゃない。ちょっと前にも色々と悲しい出来事が続いたわ。私はそのたびにエヴァや千夏たちに泣きついた。入学してからこの4か月近くでもう3年分くらいの涙を流したかもね。ねえ、強くて凛々しい人がそんなに泣く？ 私はね……結衣に褒められるほどできた人間じゃないのよ」
「そんな、そんなことはありません！ わ、私が今日1日感じた遊希さんは……遊希さんはぁ……」

　ちょっと意地悪な質問をしてしまっただろうか、と思いながら結衣の頭を撫でる遊希。撫でられた瞬間はまるで飼い主に懐いている子犬のようにうっとりとした表情を浮かべた結衣であったが、我に返った彼女には「撫でたら喜ぶと思わないで下さいっ」とその手を払われてしまった。

「ねえ結衣。確かにあなたは間違っていない……でもね、だからこそ心のことも考えてあげてほしいの。彼女、いや彼もずっと悩み苦しんできた。だからこそ私たちが彼の気持ちを汲んであげなければいけないわ」
「……裸を見られたことは忘れません。ですが……いつまでも今のままでいるというのは非生産的です」

　言葉尻は強いが、彼女も今のままでいることを望まない。それを確認できた遊希はほっと一安心する。

「ありがとう、結衣。それでちょっとあなたに聞きたい事があるの。凛についてなんだけど……あなた一緒にご飯食べたわよね？ 何か心について話していなかった？」
「凛さんは……私以上に怒っていました」



　結衣と凛は別の部屋で夕食を食べた時、ほとんど無言だった。やがて沈黙が苦になりつつあった結衣が心について切り出す。

「心さんについて、どう思います？ 正直私は許せないです」
「……ボクは、心ちゃんのことを友達だと思ってた」
「凛さん……」
「心ちゃんには心ちゃんなりの事情があったんだと思うよ。でも、それだけに悩みがあるならボクに相談してほしかった……せっかく友達になれたと思ったのに。ボクの思い違いだったの？ 心ちゃんはボクのことを信頼してくれていなかったの？」

　すすり泣く凛に結衣は暖かい言葉をかけることができなかった。今もし自分が気の利いた言葉をかけてあげられれば凛と心は仲直りできていたのではないか、と後悔の念が渦巻いていた。



「そう……辛い役目を任せてしまって申し訳なかったわね」
「いえ、私こそ……」
「それでさ、さっきお風呂に入っていた時に綾香と千夏からこんな作戦を持ちかけられたんだけど……結衣、協力してくれないかしら？」

　その計画を打ち明けられた結衣は思わず「ええーっ」と素っ頓狂な声を上げてしまった。最初はそんな作戦上手くいくわけない、と思った彼女だったが、遊希に説得される形でその計画に加担することになった。




＊





　時計の針は22時30分を指していた。中学生ならともかく小学生の歩美はとっくに眠る時間であった。歩美と同室、ということも考えて同じ部屋で寝る5人は少し早めの消灯時間を設ける。

「ほら、もう時間だから早く寝なさい！ 明日は今日学んだことを活かすためにみんなでデュエルをしてもらうから、しっかり身体を休めとくこと！」
「なんか千夏さん先生みたいですね！」
「まあ私は一番お姉さんだからね！ みんなを統括する立場にある、いわばリーダーよ！」
「背は一番低いけどねー……」
「美夏？ 寝れないんだったら私が寝かせてあげようか？ 永遠に……」
「あたしもう寝ます！」

　美夏が布団に飛び込んだのを見て結衣、凛、ベアトリスの3人も布団に入る。歩美は既に眠っているのか深々と布団を被っており、心は自分から1階の別の部屋で睡眠を取ることを希望した。3人が布団に入ったことを確認した千夏は「おやすみ！」と言って部屋の明かりを消した。
　千夏が階段を下りていき、1階にある遊希たちが寝泊まりする部屋に入ったのを確認すると、暗闇の中、結衣・美夏・ベアトリスの3人による作戦が始動した。

「ふっふっふ……さあ、あたしたちの夜はこれからよ」
「で、何をするつもりなんですか？」
「もしかして恋バナ？ ボクみんながどんな恋してるのか興味あるかな」
「甘いよ凛。今は夏、夏の夜といえば……怪談に限るでしょ」

　布団の中にあらかじめ仕込んでおいた懐中電灯のスイッチを入れて顔を照らし出す美夏。その姿を見て凛が少し慌てだす。綾香と千夏が考えた作戦―――それは凛に対して怖い話をすることだった。
　詩織が昼間の時に聞いていたのだが、凛は何分ホラー系統のものが大の苦手であり、ホラー映画など見ようものなら錯乱して大泣きしてしまうほどなのだとか。
　結衣は遊希を通じて綾香たちが考えたその作戦を聞き、美夏・ベアトリスと事前に打ち合わせをして怖い話をする。その話に怯えてしまった凛を心が励ますことで、仲直りのきっかけにするというのが作戦の概要であった。

「ボ、ボク怖い話はちょっと……」
「おっ、いいリアクションしそうなのがいるね。だったら凛を一番怖がらせた人が勝ち、ってのはどう？」
「ええっ！？」
「面白そうですね。勝負事なら負けるわけにはいきません」
「フランスの怖い話……今日は皆さんにそれを披露する時ですね」
「結衣やベアトリスまで……怖すぎるのは無しだからね……」

　じゃんけんをして怪談を披露する順番は結衣→ベアトリス→美夏の順番になった。凛は無理やり審査員にされてしまい、布団から顔だけを出しながらも既にとても怯えているようだった。

「じゃあ私からですね。これは私の小学校時代の友人が体験した話です」



　皆さんは“金縛り”って聞いたことありますか？ 寝ている時とかに身体の自由が利かなくなる現象なんですが、あれは本当は心霊現象でもなんでもないそうなんです。テレビで偉い専門家の方がそう仰っていました。私もそれを聞いて「なんだ、怖いものじゃないんだ」……と思っていました。この話を聞くまでは。
　これは私の小学生時代の友達が体験したことです。その友達は水泳を習っているんですが、水泳って全身の筋肉を使うから身体の疲労感がもの凄いんです。だから学校の授業とスイミングスクールで1日に2回も泳いだ日、とかはそれはもう疲れてしまったそうでお風呂に入って夕ご飯を食べたその友達はすぐ寝てしまったそうです。
　早く寝すぎてしまったのか、その友達は夜中の3時ごろでしょうか。目が覚めてしまって、まだ起きるには早すぎると思って二度寝しようとして目を閉じたんですが……なんと身体の自由が利かないんですよ。脳が手を動かそう、と判断しても手はピクリとも動かない。足を動かそう、と指示を出しても足はまるで強い磁石に引かれているように動かない。それでいて目もまるで接着剤でくっつけられたようにして開かないんです。
　これはおかしい！と思ったその友達は必死に身体を動かそうとするんですがまるで効果がない。全身からは汗が滝のように出てくる。混乱してお父さんやお母さんを呼ぶための声も出せない。助けて、助けて、と強く心の中で念じていたら、なんと息まで苦しくなってきたんです。首を絞められている……このままだと死んでしまう！と思った友達はもう全身全霊、全力の力をもって身体を動かし、金縛りから脱出したんです。
　助かった……と思ってその友達は目を開ける。すると、その友達が眠っている布団の上には真っ黒で2本の鋭く伸びた牙が特徴的な鬼のような生き物が跨っていて、「うがあああっ！！」とうなり声を上げながら鋭い爪で友達の顔をズパッ、と切り裂いて、血が噴水のように飛び出たんです。
　友達はそのまま気を失ってしました。ですが、次の日の朝、その友達は普通に目を覚ましました。目を覚まして友達は「なんだ夢か」と思ったそうなんです。悪い夢を見たな、と思って起き上がろうとした友達は布団の中が濡れているのに気づきました。汗をいっぱいかいたから？ それとも怖い夢を見ておねしょをしていまったのかな？ どちらにしても濡れたままでいるのは気持ち悪いので、起き上がって何が濡れているのが確認したんです。


　友達は悲鳴を上げました―――濡れたものの正体は汗でもおしっこでもありませんでした。それは―――真っ赤な血だったんです―――



「うわっ！うわあああん！！」

　最後まで話を聞いてしまった凛は赤ん坊の如く喚き泣いていた。

「……中々やるね、結衣も」
「こういうのはあまり得意じゃないんですが……自信がつきました」
「日本のホラーは欧米のものとは違って霊的現象があるからまた別の怖さがあるんですね。次は私の番ですね。怖い話、というのにはあまり明るくないので、フランスの歴史上の人物にまつわるお話を」



　皆さんは“ジャンヌ・ダルク”をご存知でしょうか？ ジャンヌ・ダルクはフランスとイングランド、今のイギリスとの間で勃発していた百年戦争において「フランス領を奪還せよ」という神の言葉を受けてフランスの軍に従軍し、イングランドに奪われていたオルレアンという地を奪還させることに成功したフランス史に残る英雄です。
　最終的に彼女はイングランド軍によって火あぶりの刑にされてしまうのですが、そんな彼女がオルレアンを奪還するにあたって協力した貴族や騎士のことも忘れてはいけません。
　その中の1人に“ジル・ド・レ”という人物がいました。ジル・ド・レは貴族の身でありながら、軍人としても才覚を発揮し、ジャンヌ・ダルクと共にイングランドからオルレアンを奪還し、人々からは「救国の英雄」と讃えられたそうです。
　しかし、ジャンヌ・ダルクがイングランドによって処刑されると彼は精神を病んでしまい、戦争終結後に自分の領地に戻ったジル・ド・レは凶行に及びます。財産目当ての詐欺師に唆された彼は私財を投じて錬金術に傾倒し、その錬金術を成功させるために黒魔術を執り行うようになりました。
　そして……ジル・ド・レは錬金術成功のための生贄ならびに自分の性的欲求を満たすために、手下に命じて少年たちを拉致・虐殺しました。「救国の英雄」として讃えられた彼は少年に対する凌辱と虐殺に性的興奮を得るようになってしまい、結果ジル・ド・レの手によって150人から1500人の犠牲者が出たと言われています。最終的にジル・ド・レは逮捕され、絞首刑ならびに火あぶりの刑に処されました。
　ジル・ド・レが何故そうなってしまったのか……真相はわかりません。そういえば皆さんは彼が崇拝したジャンヌ・ダルクにはどのようなイメージを抱いていますか？ 一般的には華奢な乙女のイメージがあるようですが、研究によると女性にしては大柄で男性のような外見をしていたという説もあります。更に女性であることを隠して男装をしてということもあって、ジル・ド・レは自分たちが凌辱・虐殺した少年たちにジャンヌ・ダルクの姿を重ねていたのではないでしょうか。
　ジル・ド・レが処刑される際に民衆たちは彼の魂が救われるように祈りを捧げたといいます。しかし、そのような許されざる凶行に走ったジル・ド・レを神は許すのでしょうか？ 恐らく神による救済も得られぬまま、彼の霊は彷徨っているかもしれません。
　例えば―――凛さんのようなジャンヌ・ダルクに似た勇ましくて明るい少年のような女の子を求めて―――地を越え、海を越えてきているかもしれません。そして彼は愛する者の名を叫ぶのです。


ジャャアアンヌゥゥゥ！！！―――とね。



「嫌、嫌、嫌ぁあああ！！ 来ないで、ボクのところに来ないでえええっ！！」
「ジル・ド・レに関してはあたしも聞いたことあるよ。そんな人が実在した中世ヨーロッパってマジでヤバいと思うもん」
「凄くリアルなお話でした。怪談とはまた少し異なりますが、真に迫るものがありました」
（……どうしましょう。これフランスで放映されていた日本のアニメのネタなんですけど……）

　そんなベアトリスのみが知る真実を知る由もない3人の怪談はいよいよ最後の話となる。

「よし、じゃあ大トリはあたしね。2人の話が面白かったからね、負けてらんないわ！」



　夕飯の時も言ったけどさ、あたし京都出身なんだよ。で京都ってさあ、日本の中でもかなり歴史のあるところじゃん。ほら、ナントカ京とかナントカ京みたいな都があったりとかしたし。
でもそれだけ歴史があるってことは怪談とか妖怪物語の舞台になることも多くてね、心霊スポットもかなりあるんだよ。それで京都府民なら結構な割合で知ってる心霊スポットについて伝わる話を言うね。
　まず1つ目は貴船神社って神社のすぐ近くにある「深泥池（みどろがいけ）」っていう池があるんだけど、そこは京都のタクシー運転手さんなら誰でも知ってるスポットでね。京都市内で女の人を乗せたタクシーが行き先を尋ねて深泥池って言うとね……その人は幽霊でね。深泥池に着くと後ろに乗っていたはずの女の人はいなくなって、タクシーの座席はびっちょりになってるの。ちなみにその池では近くにある精神病院の入院患者が何人も身投げしてるんだって……
……あれ、そんなに怖くなかった？ まあこれは比較的最近の話だからね。じゃあリクエストに答えて2個目行っちゃおっか。今となってはカップルのデートスポットになってる鴨川の「三条河原」ってところなんだけど……昔は戦争に負けた人とか罪人が処刑されて晒し首にされたのがその場所なんだって。あたし日本史だけは苦手で個別名とかは覚えていないんだけど、平なんとかが首を斬られたりしたとか、石川……五右衛門？ とかいう泥棒が釜茹でにされた場所だとかね。
　で、これはあたしの親友のお姉さんから聞いた話なんだけど、ここで特に惨たらしく殺されたのがあの豊臣秀吉の甥っ子だった人でね。元々は子どものいない秀吉の後継者だったらしいんだけど、秀吉に子どもが生まれてから次第に疎まれるようになってね、なんでも秀吉に罪をでっち上げられて死罪にされちゃったんだ。でもね、その人たちの悲劇はそこで終わらなかったんだよ。
　秀吉はね……その甥っ子の一族郎党、男はもとより老人から子供までみんな皆殺しにしたんだって。処刑は正午ごろから始まって最初に殺されたのは幼い子どもたちだった。50人近くの髭面の男たちが愛らしい子どもたちを犬をぶら下げるように扱って刺殺した。抱きしめる母親から子供を奪い取ると胸を二突きにして殺した。子どもたちが全て殺されるとやがて大人たちの処刑に及ぶ、泣きわめく人たちを処刑人たちは次から次へと殺していき、処刑が終わるころには鴨川の水は処刑された人の血で真っ赤に染まった。そして処刑した人の身体は一つ掘った大穴に次から次へと投げ込んで埋めると、秀吉はそこに「畜生塚」と書かれた石碑を建てたんだって。
　当時その処刑には京都の人たちが見物に来てたんだけど「ここまで惨たらしい処刑と知っていれば見になど来なかった」とみんながそう言ったらしいよ。そして当時の京都の街にはこんな言葉も広まった「秀吉、本当の畜生は貴様だ！」とね。まあ後にその人たちは後世の人たちによって供養されたんだけどね、今でもその恨みは残っていて京都の人たちはそのことを忘れないようにしてるってさ。
　まあ、今の話でもあるように京都って世界でも有数の観光地なんだけど色々とまあヤバい場所でもあるんだよ。光あるところに影がある？みたいな。でも本当に気を付けなきゃいけないのはここからだよね。怖い話をしていると幽霊が寄ってくる、というのはよくある話だよね。もしかしたら……今この部屋にもいるかもね……例えば、畜生として惨たらしく殺された人が凛の後ろから血で真っ赤に染まった手を振りかざして――――首を――――！！



「……」
「なーんてね、なんかベアトリスのと被っちゃった」
「日本も日本でとっても怖いことしてるじゃないですか……」
「中世というのは色々と陰惨な時代でしたからね。あれ、凛さんどうしたんですか？」
「うわああああん！！ もうやだよおおお！！！」

　錯乱した凛は暗い部屋の中を悲鳴を上げながら駆け回った。部屋から出たい、と思っているようだが混乱して何処かドアなのかすらもわかっていないようだった。さすがに騒ぎ過ぎたのか、階段をドスドスと駆け上がる足音が近づいてくる。美夏たちが「やばっ！」と思った瞬間、ドアが開くとそこは青筋を立てている千夏の姿があった。