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HOME > 遊戯王SS一覧 > 14:忘却都市と生存兵

14:忘却都市と生存兵 作:ほーがん

第14話「忘却都市と生存兵」



目的地までの道のり。その途中に位置する街、オブリビオン・シティの入り口に差し掛かったカケル達。

街へと踏み入れた一行は、その建物の姿を見て驚愕した。

「すげぇ・・・まだこんなに形の残る建物があったなんてな・・・」

寂れているとはいえ、今なお、文明の残り香を漂わすビル群がカケル達を見下ろす。人の気配はなくとも、そこは”街”に間違いなかった。

「くっ・・・あまり見ていて気持ちの良いものじゃないな。生きていた街など思い出したくはない。」

苦い顔でリンカが呟く。キジマは地図を片手に言う。

「流石に街の詳しい様子は書かれてないな。もっと詳細な地図があればいいんだが・・・」

その時、キジマはふと近くの建物に目を留めた。

「ん、あれは・・・」

その建物には、大きく「BOOK STORE」と書かれた看板が、錆び付きながらも掲げられていた。

「本屋か・・・ちょうどいい。カケル、あそこに地図があるかもしれねぇ。」

「確かに。行ってみようか。」

キジマに続き、カケル達はその本屋へ向かった。

その広い店の中は時が止まったかのように、多くの書物がそのまま残されていた。

「食料や水も無い事が明確な本屋は、そう大きくは荒らされなかったって事か・・・」

カケルは棚に残された本を手に取り、呟く。

「”勇者の大冒険・ドラゴンをやっつけろ!”か・・・」

もはやそれが子どもに読まれ、楽しまれる事の無いであろう児童書。しかし、カケルはその本を見て怪訝に思った。

「(しかし、これ、やたら綺麗だな。何年も置き去りにされてる筈なのに。)」

静寂の中、キジマは一枚の地図を掲げた。

「っと、あったぜ!この街の地図だ!!」




その時。



「動かないで。」

キジマの後頭部に冷たい感触が走る。キジマは手に地図を握ったまま硬直した。

「・・・さて、どちら様かな?」

キジマは冷静に言葉を紡ぐ。突然姿を表した女は、キジマの頭に銃口を突きつけ言った。

「ここからすぐに出て行って。そうすれば、命は取らないわ。」

怯えたマーナはリンカに抱きつく。背後に立つその二人を庇うように、カケルは身構えた。

「(な、なんだ・・・!?)」

手に持つ地図を小さく揺らしながら、キジマは言った。

「声からしてお嬢さんかな?俺達はちょっと地図が欲しくてさ。ほら。」

それを聞き、眼鏡を掛けたその女は声を荒げた。

「ここにある物は一つとして渡さない!!それを置いて出て行って!!さも無ければ、このまま引き金を引くわ!!」

感情の高ぶった女の手が震える。カケルはその隙を見逃さなかった。

「(今だ!!)」

刹那。ホルスターから、銃型ディスクを引き抜いたカケルは、女の持つ拳銃目掛けてワイヤーを放った。

「きゃっ!?」

ワイヤーの爪が拳銃を捕らえ、カケルの元へと引き戻る。手を放してしまった女は動揺して叫んだ。

「か、返して!!」

カケルはその銃のマガジンを引き抜くと、本来ある筈の物が見当たらず、困惑した。

「これ、弾が入ってないぞ・・・?」

女は焦り、デュエルディスクを構える。

「くっ!!ここは私の砦なの!!一つだって渡さない!!」

透かさず振り向いたキジマは、その女に問うた。

「ここはあんたの住処なのか?」

「そうよ!!私は、この砦で、この”世界”で生きているの!!私の世界で、邪魔はさせないわ!!」

キジマは困ったように頭を掻いた。

「いや、ちょっと困った事があってさ、この地図、貰うのがダメなら借りるって事でどうかな?」

「信用するとでも・・・!!突然来た人間なんて・・・!!私が信用するのは、この”世界”の仲間達だけよ!!」

頭を抱えるキジマ。カケルは女の言葉に、先刻見た児童書を思い出した。

「(”私の世界”・・・そういう事か。)」

そして、ゆっくりと歩み始め、カケルはキジマの前に出た。

「お、おい、カケル!」

カケルはキジマに向かって言った。

「キジマ、二人を頼む。少し、この人と話をさせてくれ。」

「そ、そうか、なんかよく分かんねぇけど、分かった。」

一旦、地図を元の場所へ置き、キジマがリンカ達の方へ向かったのを確認したカケルは、その女へ向き直った。

「あんた、本を大切にしてるんだな。」

「な、何よ、急に!!早く出て行って!!」

カケルは児童書の置いてある本棚に目をやる。

「さっき見たんだ。棚に残ってた本をさ。ずっとここに置き去りな筈なのに、新品みたいに綺麗だった。あんたが管理してるんだろ?」

「そうよ!!私が守るの!!この砦の、この世界の仲間を!!」

カケルは真剣な表情で言う。

「・・・俺にも仲間が居るんだ。でも今、その仲間は悪い奴らに捕らえられていて、俺は助けに行かなくちゃならない。その為に、その地図がどうしても必要なんだ。」

「・・・あなたの仲間が・・・それでも!!私の仲間を渡す訳にはいかない!!一つも欠けちゃいけないの!!ここに・・・ここに留めておかなきゃダメなの!!」

女はカケルを睨む。その目を見たカケルは一つの提案をした。

「じゃあ、俺とデュエルしよう。」

「な、なんでよ!!私が負けたら、その地図を寄越せって言うの!?」

カケルは首を横に振る。

「そうじゃない。あんたをもっと知りたくさ。だから、デュエルしようぜ。」

「何よ、それ・・・意味が分からないわ!」

銃型ディスクをくるくると回したカケルは、それを左腕に装着し展開する。

「ほら、構えてさ。」

「・・・終わったら、とっとと出て行って!!」

カケルは笑った。

「ああ。」

キジマは困惑する。

「(カケルの奴、何考えてんだ・・・?)」

女は渋々、カケルの誘いを承諾した。



『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』


先に動いた女が叫ぶ。

「私のターン!!私は手札から永続魔法《冥書庫ーS・E・Kの記憶》を発動!!」

女の背後に巨大な本棚が出現した。

「このカードは1ターンに1度、デッキから「冥書物」と名の付く魔法カードを1枚、手札に加える事ができる!」

女のデッキからカードが迫り出す。

「私は通常魔法《冥書物ードラゴンの眼》を手札に加え、発動!!このカードは、相手の手札の枚数×200のダメージを相手に与える!!」

それを聞いたカケルは驚きの声を上げる。

「な、いきなりダメージ魔法かよ!」

フィールドに禍々しい本が出現し、眩い光線をカケルに浴びせた。

「うおっ!!(LP4000→3000)」

「まだよ!私はさらに魔法カード《冥書物ーファイアスターター》を発動!!このカードは、カードの種類を宣言し自分のデッキの一番上を確認する!確認したカードが宣言した種類のカードだった時、そのカードを手札に加え、相手に500のダメージを与える!!外れた場合は、そのカードをデッキに戻し、私は1000のダメージを受ける!!私は魔法を宣言!!」

女の言葉にカケルは笑う。

「今度は博打か!面白いな、あんたの戦術!」

「博打?いいえ、私は絶対に外さないわ!なぜならこのデッキには・・・」

言葉と共に女はデッキの上をめくった。

「この種類のカードしか入ってないもの!引いたのは魔法カード《冥書物ーランゴリアーズ》!!」

キジマは驚愕する。

「ってことは、あのデッキには魔法カードしか入って無いのか!?」

女はカケルを指差した。

「500のダメージを受けてもらうわ!!」

新たな本から放たれた炎がカケルを襲う。

「って、ま、またダメージか!(LP3000→2500)」

眼鏡をくいっと上げ、女は手札のカードをディスクにセットした。

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド!!」


ターンが回る。カケルはデッキに手を伸ばした。

「魔法しか無いデッキか・・・こりゃちょっとした冒険になりそうだな・・・俺のターン!ドロー!」

カケルは手札を確認すると、1枚のカードを取り出した。

「やっぱり、お前が居ないと俺のデュエルは始まらねぇよな!手札から《I・Bマイデン(☆4/光/機械/1900・1500)》を召喚!!」

紅のヒーローは鋼鉄のボディを輝かせ、フィールドに降り立つ。

「そして、手札のモンスター《B・Aグラン・ドリル(☆3/地/機械/ユニオン/900・300)》の効果!このカードは自分フィールドに「I・B」モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる!!」

地面を突き破るように出現し、ドリルを備えた土竜型マシンが轟音を響かせた。

「行くぜ、武装合体!!」

掛け声と共に飛び上がった勇者は、パーツごとに分解された仲間を纏い、その力を発揮する。

「《I・Bマイデン》グランドモード!!」

巨大なドリルを右腕に装着し、勇者は場に足を着けた。

「《B・Aグラン・ドリル》は自分フィールドの「I・B」に自身を装備できるユニオンモンスターだ!そして、装備モンスターの攻撃力を400アップするぜ!(ATK1900→2300)」

モンスターの居ない女の場を指差し、カケルは叫ぶ。

「行くぜ!さっきのお返しだ!!《I・Bマイデン》グランドモードでダイレクトアタック!!そして、この瞬間《B・Aグラン・ドリル》の効果発動!!装備モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊する!!俺が破壊するのは《冥書庫ーS・E・Kの記憶》だ!!」

唸るドリルが迫る。女は声を荒げた。

「私の砦を壊すなんて許さない!リバースカード発動!速攻魔法《冥書物ー図書館警察》!!このターン、自分の魔法カードの発動は無効化されず、相手の効果対象にならない!!」

「でも、そのカードじゃ攻撃自体は防げないぜ!!」

しかし、女は意も介さずに言った。

「私は墓地の《冥書物ードラゴンの眼》の効果を発動!1ターンに1度、自分の場に「冥書庫」永続魔法が存在する場合に、相手が攻撃してきた時、墓地のこのカードを種族・属性・レベルを持たない攻守0の通常モンスターとして特殊召喚できる!!」

勇者の前へ女を守る盾のように、本が立ちはだかる。動揺したカケルは声を上げた。

「なっ、魔法を特殊召喚だって!?けど、守備力は0!そのまま突破だ!!『ギガント・スパイラル』!!」

ドリルの高速回転が表紙を貫き、紙吹雪のように散り散りに吹き飛んだ。

「うっ・・・!これであなたの攻撃は防いだ!」

息を荒くする女に、カケルはニヤリと笑う。

「それはどうかな?俺のバトルフェイズはまだ終わりじゃない!!手札から速攻魔法《加速融合(ブーステッド・フュージョン)》発動!!」

「なっ、何をする気!?」

カケルは手札のモンスターを取り出しながら言う。

「このカードは、バトルフェイズ中に自分の手札とフィールドの「B(ブレイバー)」カードを融合し、対応する融合モンスターを融合召喚できる!!俺は手札の《B・Aフレイム・ファルコン(☆3/炎/機械/ユニオン/1200・1200)》と、フィールドの《I・Bマイデン》《B・Aグラン・ドリル》を融合!!」

3機のマシンは飛び上がり、合体のフォーメーションを取る。


「紅蓮の勇者よ!烈火の翼と大地の剛力を宿し、爆熱の戦士となれ!!武装融合!!来い、レベル8!!《I・B ヴォルケーノ・マイデン(☆8/炎/機械/融合/2600・2500)》!!」


大地と烈火、二つのパワーを得た勇者は溶岩の力を操る、爆熱の勇者へと変形を遂げた。


「融合モンスター・・・!!攻撃力2600・・・!!」

女はたじろぎ、歯を食いしばる。カケルは得意げに叫んだ。

「《I・B ヴォルケーノ・マイデン》の効果発動だ!!このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!!」

「な、何ですって!!」

爆熱の勇者は手を掲げ、マグマの塊を生成し始めた。

「行けぇぇ!『マグマティック・ボンバー』!!!」

振りかぶり、勇者は溶岩の球を投げつけた。その計り知れない熱は、炎となり女の書庫を焼き尽くした。

「そ、そんな!!ああ・・・!!わ、私の砦が!!」

灰となり崩れて行く本棚。女はその場にへたり込んだ。

「あ・・・ちょっとやり過ぎたかな。」

カケルは心配そうに女の顔を覗き込む。女は小さく口を開いた。

「・・・忘れられて行くの・・・本は・・・」

「・・・え?」

女は段々と涙声になって行く。

「・・・読む人が居なくちゃ・・・みんな忘れられて・・・消えていく・・・。そこに記された、書いた人の魂は・・・守る人が居なくちゃ・・・」

「・・・”文章”という人が生きていた証を・・・私は・・・守らなきゃいけないの・・・。私が覚えている限り、書いた人たちは本の中で生き続けるから・・・!」

女はゆっくりと立ち上がり、眼鏡を外した。

「私は・・・失いたくない!!人々の生きていた証拠を!!この街が、世界が、確かに”生きていた”証を失いたくないの!!もう、私は何も失いたくない!!!」

「それが、あんたの本心か・・・。」

カケルは呟く。女は眼鏡の無い裸眼でカケルを睨んだ。

「私は伏せていた魔法カード《冥書物ーランゴリアーズ》の効果発動!!セットされたこのカードが相手ターン中に破壊された場合、そのターンを強制的に終了させる!!そして、破壊された《冥書庫ーS・E・Kの記憶》の効果も発動する!!このカードが相手の効果で破壊された場合、自分のデッキの上から5枚をめくり、それが全て魔法カードだった場合、めくったカードを墓地に送る!!」

女のデッキトップから5枚のカードがフィールドに表示される。

「めくられたカードは《冥書物ーシャイニング》《冥書物ー死のロングウォーク》《冥書物ーザ・スタンド》《冥書物ートミーノッカーズ》《冥書物ーキャリー》!!全て魔法カード!!」

表示されたカードは消え、全てが女の墓地へと吸い込まれて行く。

「そして、あなたのターンは強制終了する!!私のターン!!」

鋭い女の眼光に、カケルは思わず身震いする。

「い、一体何をする気なんだ・・・?」


デッキに手を伸ばした女は、凄まじい形相で叫んだ。

「ドロー!!私の砦を壊した罪、悔いると良いわ!!私は手札の魔法カードの効果を発動!!」

ドローしたカードを女は掲げた。

「このカードは、自分の墓地から「冥書物」及び「冥書庫」カードを10枚以上除外し、種族・属性・レベルを持たないモンスターとして特殊召喚する!!」

「また魔法を特殊召喚するのか!?」

女の墓地から次々とカードが迫り出す。

「私は墓地の該当する魔法カードを全て除外!!さぁ、私の元に降り立て!!」

除外された無数の書物はフィールドに浮かび上がると、その身を一つとし別の姿へと変貌してゆく。


「現世に取り残されし、悲しき記憶の束よ!!共に寄り添い、砦を守護る竜となれ!!魔法召喚!!《冥書戒竜ースティーヴン・ドラゴン(☆無/無/無/?・?)》!!!」




次回 第15話「悲しみの追憶」
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ター坊
本に込められた人の想いを守る人を無闇に倒すのも気が引ける。別の意味で難しい戦いですな。 (2016-03-07 07:09)
ほーがん
ター坊さんコメントありがとうございます。
本という文明を象徴する物に執着する、つまり崩壊した世界の中で、前文明を捨てきれない人が居てもおかしくないんじゃないか、という思いつきから彼女を登場させました。カケルはこの人の想いをどう受け止めるのか、次回は決着です。 (2016-03-08 18:55)
クロノスギア
魔法だけのデッキ・・・緑一色ですか・・・このデッキに『大逆転クイズ』入れたくなるなりますね。
バーンデッキかと思いましたがまさかの魔法を特殊召喚!すごく面白いデッキですね!今後の活躍に期待! (2016-03-08 19:17)
ほーがん
クロノスギアさんコメントありがとうございます。
緑一色、現実では一種のロマンデッキですが、魔法だけで組めるカテゴリなんて有っても面白いかもしれませんね。魔法を特殊召喚するカードはアニメでは多々登場していますが、なかなかカード化できない事情があるようです。彼女は今後も出番のあるキャラ(ゲストキャラではないです)なので、また読んで頂けたら嬉しく思います。 (2016-03-09 06:12)

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