59話 突然の再会　作：名無しのゴーレム

朝になり、凉花が目を覚ました。俺たちは恭治が作ったカレーを朝食としていた。


「……美味しいです！」
「そうだな。恭治が起きてきたら礼を言わないと……ん？」


突然、凉花のデュエルディスクから音が鳴り響いた。


「連絡か？ でも、誰から……」
「ええと……シルビアからみたいです。今繋ぎますね」


ピッ。


『……お嬢様、おはようございます』
「おはようございます。それでシルビア、どうして私に連絡を？」
『それが……そこに強志様はいらっしゃいますか？』


……え？ なんで俺？


「はい。代わりますか？」
『そうですね……お願いします』
「……だそうです。はい、強志」


凉花からディスクを受け取った。画面の向こうにいるシルビアさんと正面から向き合う。


「えっと、俺に何か用でも？」
『強志様、実は……矢次 杏様を見かけたという話を仲間から聞きまして』
「……何だって！？」


姉さんが……この次元に！？


「ま、待ってください！ 杏はアカデミアに乗り込んで、恐らくは囚われているはずです。その彼女がどうやってハートランドに戻って来ると言うのですか？」
「そ、それは……」
『……私も、初めは信じられませんでした。でも証言を聞くうちに、次第に真実味が増してきて……それで、そちらに連絡を入れたという次第です』
「…………」
「強志……杏を探しに行きますか？」


……もちろん、出来ることならそうしたい。だが……


「……いや、駄目だ」
「え……？」
「俺たちはあの研究所を守らなきゃいけない。人数を分ける余裕もないだろ？」
「で、でも！ 強志のお姉さんでしょう！？ 心配じゃないんですか！？」


ッ……。そんなの……


「……心配に決まってる。それでも、俺たちは俺たちのやるべきことをやるべきだ、そうだろう？」
「……分かりました。強志が、そう言うなら……」
「うんうん、私も立派な決断だと思うぜ？ 普通、『俺一人でも行ってやる！』とか言う場面だもんな」
「そ、そうか……？」
「そうだって。いやー、やっぱり漫画みたいにはいかないもんだねー」



…………？ おい待て、今俺が話しているのは、一体誰だ？



「なあ、あんたは……、…………」
「……？ おいおい、なんで固まってんだよ。実の姉との久しぶりの再会だろ？ ほら、私の胸の中に飛び込んで来いよ」



…………アー、ソッカー。オレ、ツカレテルノカー。ネエサンノマボロシヲミチャウナンテナァ……



「……現実逃避してんじゃねぇ、よっ！！」
「グフぅッ！？」
「つ、強志！？」



突如、腹部に強烈な痛みが走った。い、一体何が……



「…………あれ、姉、さん？」
「ようやく戻ってきたみたいだな。さあ、感動の再会劇の続きといこうぜ！」
「いや……いや、ふざけんな！！ なんで姉さんがここにいるんだよ！！」
「えー、話さなきゃ駄目か？ 私、思い出話とか3分以上話せないんだけど。面倒くさいしなー」
「何言ってやがる！ こっちは、どれだけ心配したと……ッ！！」
「……おう、そっちに居るのはシルビアか？ 悪いな、細かい話は後でするから。じゃあな」
『ちょっ、どういう……』



姉さんはそのまま通話を切ってしまった。



「……分かったよ。弟に泣きつかれちゃあ、私も姉として答えざるを得ないよなぁ」
「だ、誰が泣きついたって言うんだ！」
「はいはい。……お、美味そうなカレーだな。ちょうど腹減ってたんだ、いただくぜ」
「あ、それは……」
「ん？ 涼花、どうかしたか？」
「……いえ、何も……どうしよう、恭治の分だったのに……」
「……っと。ご馳走さま！ いやー、本当に美味いなこれ！ 強志、お前料理の腕上げたんだな！」
「いや、それは俺が作ったのじゃなくてだな……」





「ふぁぁ、おはよー。……？ おい、そいつ誰だよ」




……あ、恭治が起きてきた。これは説明が面倒なことになりそうだ……






「……それで、俺の朝飯を勝手に食ったこいつが強志の姉さんだと？」
「ああ、そうなるな……」
「なんだよその言い方はさー。知らなかったんだから仕方ねぇだろ。ほら、代わりに強志が何か作るって言ってるから、それでチャラにしてくれよ」
「言ってねぇよ！！ ……でもまぁ、代わりの朝飯は俺が用意するよ。姉さんの不始末だからな」
「ハハハ、悪りぃ悪りぃ」
「……なんつうか、すごい人だな。強志の姉さんって……」
「……おかげで振り回っされぱなしだがな」







「……よし、じゃあ気を取り直して。今から説明に入るぞ。っても……どこから話せばいいんだ？」
「……ゆっくり話している時間もありませんし、杏がどうやってアカデミアを脱出してここに来たのか、まずはそれを話してくれませんか？」
「オッケー。アカデミアの奴が私を利用しようとして連れ出してきた、これでいいか？」
「……いや、まとめすぎだろ！ もっと詳細に話せよ！」
「まったく、文句多いなぁ……でもさ、あんまり詳しく話すと長くなるしな……」
「杏。私たちは、杏が『守護者』であることを知っています。それに、杏がシンクロ次元の守護者に神のカードを託したことも。……そのカードは今、強志が持っています」
「……へぇ〜、そりゃあすごい偶然だなぁ……いや、ここまで来れば運命、宿命とまで言っちまってもいいかもな。なら話は早い。私は融合次元の守護者、霧生 那緒と一緒にこの次元に来た。その目的は……神のカードがある1人の手に集まるのを防ぐためだ」
「……それ、神谷 敦人のことだよな」
「……ハハハ。なんだ、そこまで知ってるんならもう話すことなんてなかったんじゃないか？ ……まあ、実際のところは霧生の奴も怪しさ満載で誰を信じるか悩みどころではあったんだけどな」



さて、と姉さんが一度間を置いた。



「私の方はひとまず置いとくが、お前たちの方はどうなんだよ？ どうしてこうなったのか説明してほしいな」
「……そうですね。では……」






「……と、いうことです」
「……そっか。じゃあ、あいつは……」
「姉さん？ 何考え込んでんだよ」
「……よし、お話タイムは終わりだ。すぐに移動するぞ！」
「え！？ 待ってくれよ！ 俺、まだ朝飯食べてないんだけど！？」
「そんなこと言ってる場合じゃねえかもしれねえんだよ！ 今すぐクレアの研究所に向かう、さっさと準備しろ！」
「ね、姉さん……？ なんでそんなに急かすんだよ？」
「だから、いちいち説明している暇は……」





バアァァァン！！






「！？」
「な、なんだよ今の音……」
「チッ、出遅れたか……！マズイぞ、あっちは難民キャンプの方じゃねえのか！？」
「え！？ ……そんな、それじゃあシルビアたちが！？」
「アカデミアの奴らがあそこを襲撃してるんじゃねえのか！？ 早く助けに行かないと、コンたちが……」
「……二手に分かれるぞ！ 私と強志でクレアのところに、涼花とお前で難民キャンプに行くんだ！」
「何言ってんだよ姉さん！？ ここは全員でアカデミアを撃退すべきだろ！」
「あの派手な爆発音からして、あれは囮だ！ 霧生はそれに紛れて何かをやらかすつもりだ、だからそれをどうにかするんだよ！」
「でも！！」
「分かりました。……恭治、D・ホイールを出してください」
「なっ……涼花！？」
「杏がそう言うのなら、きっとそうするだけの価値があるんだと思います。……それに、全員が恭治のD・ホイールに乗って向かうわけにもいきませんから……」
「涼花……」
「……オーケー、すぐに用意する。強志、さっさと終わらせてそっちに行ってやるから心配すんな。……ここの人たちは、俺が守ってやるよ」
「っ…………」



……信じるしか、ないのか。涼花たちを、姉さんを……



「強志、もういいか？」
「……どうせ駄目だって言っても、関係なく連れて行くつもりのくせに。何年姉さんの弟やってると思ってんだ……」
「……いいか、2人とも。無茶はするな。あっちにはシャレにならない数のアカデミアがいるだろう。お前たちだけじゃあ全部は捌ききれない、だから突破口だけ作ってとっとと逃げるんだ。……いいな？」
「おお！」
「はい、分かりました」
「よし。……行くぞ！！」



涼花と恭治が出発したと同時に、俺たちも研究所に向けて歩き始めた。



「……なあ、姉さん」
「なんだよ」
「なんで研究所に行くんだ？ 例え姉さんの考えが全部当たってたとしても、そこにそいつがいるって言う根拠は？」
「根拠？ 勘にきまってんだろ」
「……はぁ？」
「冗談だよ……半分くらいな。涼花の話からして、あいつに狙われたらマズイ場所なのは明白だ。それだけでも、真っ先に行くべきだと判断した……それだけだよ」
「……そうかよ」



……納得できるはずがない。だが、そんなことを言ってる場合じゃない、か……




「……やっぱり、アカデミアの奴らはいないな。強志、走るぞ！」
「え、えぇ！？ ちょっ、待てよ姉さん！」