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第6話 転職清掃員 作:イベリコ豚丼
11月某日、俺はまた北校舎にいた。
その手にはもう、箒は握っていない―――が、だからといってデュエルディスクを嵌めている訳でもない。ただ単に月を跨いで担当が窓拭きに変わっただけである。窓拭きは良い、自転車置場の掃除と違って室内作業な上に、上限が決まってるからな。永遠と働かされるってことが無い。必然的にシフトがすぐに終わ―――
「る訳ねぇだろぉがこんちくしょぉぉぉ!!!」
濡れた雑巾を床にたたき付ける。
「窓多過ぎんだろこの学園!!何で一階ごとに1時間掛かるんだよ!!」
作業が何であろうと、相変わらずブラックバイトだった。
「何やってんだあんたは…」
「あぁん?…あぁ何だ、宗介に剛田か」
「さっきの声、校舎中に響いてましたよ…」
「別に構わねぇよ。むしろあの糞バイトリーダーに聞かせてやりたいくらいだね」
「アホか、バイトクビになんぞ」
「それは困るな、ここ時給は良いんだよ」
「ちなみにいくらなんです?」
「週42時間出勤で時給910円だ」
「思いっきり労働基準法引っ掛かってるじゃないですか!」
「さらに今日からもう一つ掛け持ちしている」
「あんた死ぬぞ!」
「生きる為なら死んだっていいね!!」
「言ってる事破綻してますよ…」
と、そこである事に気付く。
「そういや剛田、いつもの取り巻きはどうした?」
「……あいつらなら俺にビビって舎弟辞めたよ」
「ははは、そうかそうか。要はお前ボッチになったんだな!」
「ぐっ……!」
「何かボッチをイジメてた奴がボッチになるってのは感慨深いものがあるな。まるで人生の厳しさを教えられているような…」
「てんめぇいい加減に…!」
「まぁまぁ。鶴岐さんもその辺で。それに僕も武雄君ももうボッチじゃありませんよ。だって僕等、親友ですから」
「宗介……」
「…危なかったな、お前女だったら今剛田に惚れられてたぞ」
「え」
「おい鶴岐、そろそろぶっ飛ばすぞ?」
キ-ンコーンカーンコーン
「…っと、もう4時か。宗介、俺もう行くわ」
「柔道部だっけ?いってらっしゃい。僕ももうすぐ行くよ」
「…ほんとに一人で大丈夫か?何だったら一緒に着いて行ってやっても…」
「大丈夫だって。ただプリント届けるだけだしね」
「そうか。じゃあまた明日な」
そう言って剛田は走り去って行った。
「…何の話だ?」
「いえ、僕等のクラスに一人体調不良でずっと学校に来てない人がいるんですが、先生からちょっと様子見てきてくれって頼まれまして」
「何でまたお前が」
「……あの一件でまともに動けるのが僕ぐらいしかいないんですよ」
「成る程な」
あれだけの事件だ。
未だに被害者が寝込んでいてもおかしくはない。
「でもいまいち家の場所がよく分からないんですよね……」
宗介がメモを見ながら呟く。
「ん…?この住所…。これ綾崎って人の家じゃねぇか?」
「鶴岐さん知っているんですか?」
「さっき言ってた今日からのバイトってのがあったろ。そのバイト先がその家なんだよ」
「そうなんですか!じゃあ…」
「あぁ一緒に行ってやる。そのかわり…」
俺は満面の笑みで予備の雑巾を手渡す。
「掃除手伝え」
―――
「改めて実感しましたけど、うちの学園無茶苦茶大きいですね…」
「あれを4人で全部掃除してるんだぜ…。そんなもん法に触れねぇと終わんねぇだろ…」
結局学園を出たのはそれから1時間後だった。
「それで、綾崎さん家のバイトってどんなの何ですか?」
「ハウスキーパー」
「また掃除ですか…。何だか鶴岐さん見る度に掃除してますね…」
「まぁそれぐらいしか出来ねぇからな。戦略を考えるのは得意だが、別に勉強が出来る訳でもねぇし」
「鶴岐さんデュエル強いんですからプロとは言わなくても塾講師ぐらいなら…」
「基本デュエルはしない。そこは変わってねぇよ」
あれ以来、宗介や剛田にアドバイスをする事はあっても、デュエルは一度もしていない。
「それに、ついこないだまでデュエル辞めてた奴を雇ってくれるとこなんざねぇしな」
「そうですか…。でも僕を守る為にデュエルしてくれた時の鶴岐さんは凄く格好よかったですよ。まるでヒーローみたいでした」
「……お前、もし女に生まれてたら相当のやり手になってただろうな」
「?」
「いやいい、忘れてくれ。それより、聞いてる通りならもうこの辺にあるはずなんだけどな」
「でも見たところ壁しかありませんよ?」
宗介の言う通りその道は車道と白い壁に挟まれているだけで、家らしきものは見当たらない。
「どっかに脇道でもあるのか…?」
「鶴岐さん、バイトの面接は家でやったんじゃないんですか?」
「いや、求人広告に書いてる場所に行ったらでかいビルの一室だったんだよ…。てっきりどっかの会社の面接と間違えたのかと思ったぜ」
「あぁ、綾崎さん超が付く程のお金持ちですからね…。それにデュエルも強いんですよ」
「そうなのか」
「えぇ、夏のグレードカップのうちのクラス代表でした」
「グレードカップ?」
「学園で毎年夏と冬に2回行われてる学年大会のことですよ。各クラスから男女の代表1名ずつ出して8人でトーナメントを行うんです」
「へぇ、さすがアカデミアだな。本部じゃなくてもそんな企画やってるとは」
「ちなみに男子の代表は武雄君でした」
「あいつクラスじゃそんな強いのか……って、男子のってことはその綾崎って奴女かよ!女子の家に思春期の男子を行かせるとか何考えてんだ…」
「だから人手が足りないんですってば」
白い壁が途絶え、その先に交番が見えてくる。
「う~ん、よく分かんねぇし、あそこで聞いてみるか」
「そうですね」
交番の扉を開けると、妙齢の恰幅の良い婦警さんが座っていた。
「すいません、綾崎さんのお宅を探してるんですが」
「その制服…、あぁ!楓ちゃんと同じ学校の子かい!」
(楓?)
(綾崎さんの下の名前ですよ)
「お見舞いかい?あの子最近全然見なかったからねぇ。体調でも崩したんじゃないかと思って心配してたんだけど、やっぱりそうだったかい。あそこお父さんが凄い厳しいから毎日毎日家に家庭教師が来てデュエルの勉強させられててね。そのせいで体壊しがちなのよ。昔はよく笑う子だったんだけどねぇ、いつからかずっと厳しい顔してるようになっちゃったわ。そんなんだから昔はいっぱいいた友達も隣の家の子だけに……」
このおばちゃん一人で凄ぇ喋るな!しかもギリギリ話してもいいラインを的確に見極めてている。さては相当の猛者に違いない。
「…ってわけなのよ~。で、何の話だっけ?」
待つこと15分、やっとおばちゃんのトーク地獄から解放された。
「いや、だからあの、綾崎さんの家をですね……」
「あーはいはい!それならここの隣だよ!」
「え…?でもこの隣ってずっと白い壁が続いてるだけじゃ…」
「だからそれよそれ!その壁全部綾崎さんとこの塀なのよ!」
「「は……?」」
「………なぁ宗介」
「………何ですか」
「…ちょっと頬っぺた抓ってくれ」
「…じゃあ僕もお願いします」
互いに頬を抓り合う。
「………痛いな」
「………痛いですね」
ふぅ。
「「でっかっっっ!!!」」
いったい何坪あるんだよ!!家の向こう側霞んでんじゃねぇか!!ちょっとした集合住宅なら入っちまうだろこれ!!門なんか俺の身長の倍はあるぞ!!そんでその門の横に立ってる2人、あれ門番か!!
門番て!!
城か!!
「正直金持ちの家っていっても普通よりちょっと大きいぐらいだと思ってたんですが……。まさかここまでとは……」
「え、何これ、綾崎家って王族なの?」
「いえ、さすがにそこまでではありませんが…。まぁ似たようなものですよ。アヤサキカンパニーって聞いた事ありませんか?」
聞いた事あるも何も、その名前を耳にしない日の方が珍しい。
『アヤサキカンパニー』。
デュエルディスクの製造を主体に、様々な周辺機器の開発を手掛ける大企業である。
その規模は国内シェア80%にまで昇り、『決戦から決着まで、決闘を支えるアヤサキカンパニー』のキャッチコピー通り現在のデュエル社会に欠かせない存在となっている。
「綾崎さんはそこの社長令嬢なんですよ」
「そりゃこんな大豪邸にも住んでる訳だ…」
もう一度屋敷を見上げた。
「インターホンも見当たりませんが…、あの人達に話し掛ければいいんでしょうか?」
「そうだろうな」
俺達は体格の良い門番の下へと歩を進める。
「すいません、この家に用があるんですが…」
「お名前をどうぞ」
「え、あ、鶴岐勇です。で、こっちが…」
「た、多田野宗介です」
「鶴岐様と多田野様だ」
男が耳に付けた無線で連絡を取る。
『よし、お通ししろ』
「了解。ではお客様、ご案内いたします」
その台詞と共に、門が大きな音を立てて開いていく。その先には、メイド服とおぼしき服装に身を包んだ女性が佇んでいた。
「ようこそお越し下さいました、鶴岐様、多田野様。当綾崎家で給仕長を務めております、東雲と申します。あちらに車を控えさせておりますので、ご案内させて頂きます」
「あ、はい、お願いします」
「お、お願いします」
慣れないVIP待遇に戸惑ってしまう。
(俺現実でメイドなんて初めて見たぞ…)
(見たことある方がおかしいですよ…)
東雲さんに連れられ、用意されていた車に乗り込む。てっきり彼女が運転するのかと思ったが、運転席には寡黙そうな男が座っていた。
「当家は敷地面積の都合上徒歩での移動が困難となっております。このような形でのお出迎えとなったこと、お許し下さい」
「い、いえ、そんな」
「ぜ、全然気にしないで下さい」
「ありがとうごさいます」
深々と頭を下げられてしまった。
(…っていうかこれ多分リムジンだよな…)
(はい…。いったい僕等はどこへ連れて行かれるんですかね…)
「して、本日の御用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
さすがに伝わっていないということは無いと思うので、恐らく確認の為だろう。
「えーと、俺は今日からここでバイトすることになってるので普通に出勤を…」
「僕は休学中の綾崎……楓さんの様子を見てくるように担任の先生から指示されまして…」
「承っております」
やはり確認だったようだ。
その後いくらか話している内に、車が黒い荘厳な扉の前で止まる。
「到着致しました、綾崎家本館でございます」
降りようとしたが、東雲さんが先んじてドアを開けてくれる。
流れる様な動作でそのまま黒い扉も開く。
中もやっぱりとんでもなく広かった。
「ここからは個別でご案内させて頂きます。鶴岐さんはあちらの清掃班班長と共に使用人室へ。多田野様は私がお嬢様のお部屋までお連れ致します」
脇にいた若い男が頭を下げる。
恐らくあれが清掃班班長だろう。
…っていうかちゃっかり鶴岐さんにランクダウンしてるな。
バイトということが確定した以上、様付けは無しということか。
「それではこちらへ」
班長に呼ばれ、その後を追う。
宗介は女子の部屋へ直行か。
羨ま……いや、可哀相な奴め。
「鶴岐さんには本館3階の清掃をお願いします。何かあった時は私に無線で連絡して下さい」
班長から改めて仕事内容の説明を受けた。
耳の無線を確認する。
うむ、問題ないようだ。
「それと、3階にはお嬢様の勉強部屋がありますが、絶対に近付かない様に」
自室と勉強部屋で別々なのか…。
とんでもないなアヤサキカンパニー。
しかしいいことを聞いた。
「了解です」
俺は班長に学校で宗介に向けたのと同じ顔で微笑んだ。
その手にはもう、箒は握っていない―――が、だからといってデュエルディスクを嵌めている訳でもない。ただ単に月を跨いで担当が窓拭きに変わっただけである。窓拭きは良い、自転車置場の掃除と違って室内作業な上に、上限が決まってるからな。永遠と働かされるってことが無い。必然的にシフトがすぐに終わ―――
「る訳ねぇだろぉがこんちくしょぉぉぉ!!!」
濡れた雑巾を床にたたき付ける。
「窓多過ぎんだろこの学園!!何で一階ごとに1時間掛かるんだよ!!」
作業が何であろうと、相変わらずブラックバイトだった。
「何やってんだあんたは…」
「あぁん?…あぁ何だ、宗介に剛田か」
「さっきの声、校舎中に響いてましたよ…」
「別に構わねぇよ。むしろあの糞バイトリーダーに聞かせてやりたいくらいだね」
「アホか、バイトクビになんぞ」
「それは困るな、ここ時給は良いんだよ」
「ちなみにいくらなんです?」
「週42時間出勤で時給910円だ」
「思いっきり労働基準法引っ掛かってるじゃないですか!」
「さらに今日からもう一つ掛け持ちしている」
「あんた死ぬぞ!」
「生きる為なら死んだっていいね!!」
「言ってる事破綻してますよ…」
と、そこである事に気付く。
「そういや剛田、いつもの取り巻きはどうした?」
「……あいつらなら俺にビビって舎弟辞めたよ」
「ははは、そうかそうか。要はお前ボッチになったんだな!」
「ぐっ……!」
「何かボッチをイジメてた奴がボッチになるってのは感慨深いものがあるな。まるで人生の厳しさを教えられているような…」
「てんめぇいい加減に…!」
「まぁまぁ。鶴岐さんもその辺で。それに僕も武雄君ももうボッチじゃありませんよ。だって僕等、親友ですから」
「宗介……」
「…危なかったな、お前女だったら今剛田に惚れられてたぞ」
「え」
「おい鶴岐、そろそろぶっ飛ばすぞ?」
キ-ンコーンカーンコーン
「…っと、もう4時か。宗介、俺もう行くわ」
「柔道部だっけ?いってらっしゃい。僕ももうすぐ行くよ」
「…ほんとに一人で大丈夫か?何だったら一緒に着いて行ってやっても…」
「大丈夫だって。ただプリント届けるだけだしね」
「そうか。じゃあまた明日な」
そう言って剛田は走り去って行った。
「…何の話だ?」
「いえ、僕等のクラスに一人体調不良でずっと学校に来てない人がいるんですが、先生からちょっと様子見てきてくれって頼まれまして」
「何でまたお前が」
「……あの一件でまともに動けるのが僕ぐらいしかいないんですよ」
「成る程な」
あれだけの事件だ。
未だに被害者が寝込んでいてもおかしくはない。
「でもいまいち家の場所がよく分からないんですよね……」
宗介がメモを見ながら呟く。
「ん…?この住所…。これ綾崎って人の家じゃねぇか?」
「鶴岐さん知っているんですか?」
「さっき言ってた今日からのバイトってのがあったろ。そのバイト先がその家なんだよ」
「そうなんですか!じゃあ…」
「あぁ一緒に行ってやる。そのかわり…」
俺は満面の笑みで予備の雑巾を手渡す。
「掃除手伝え」
―――
「改めて実感しましたけど、うちの学園無茶苦茶大きいですね…」
「あれを4人で全部掃除してるんだぜ…。そんなもん法に触れねぇと終わんねぇだろ…」
結局学園を出たのはそれから1時間後だった。
「それで、綾崎さん家のバイトってどんなの何ですか?」
「ハウスキーパー」
「また掃除ですか…。何だか鶴岐さん見る度に掃除してますね…」
「まぁそれぐらいしか出来ねぇからな。戦略を考えるのは得意だが、別に勉強が出来る訳でもねぇし」
「鶴岐さんデュエル強いんですからプロとは言わなくても塾講師ぐらいなら…」
「基本デュエルはしない。そこは変わってねぇよ」
あれ以来、宗介や剛田にアドバイスをする事はあっても、デュエルは一度もしていない。
「それに、ついこないだまでデュエル辞めてた奴を雇ってくれるとこなんざねぇしな」
「そうですか…。でも僕を守る為にデュエルしてくれた時の鶴岐さんは凄く格好よかったですよ。まるでヒーローみたいでした」
「……お前、もし女に生まれてたら相当のやり手になってただろうな」
「?」
「いやいい、忘れてくれ。それより、聞いてる通りならもうこの辺にあるはずなんだけどな」
「でも見たところ壁しかありませんよ?」
宗介の言う通りその道は車道と白い壁に挟まれているだけで、家らしきものは見当たらない。
「どっかに脇道でもあるのか…?」
「鶴岐さん、バイトの面接は家でやったんじゃないんですか?」
「いや、求人広告に書いてる場所に行ったらでかいビルの一室だったんだよ…。てっきりどっかの会社の面接と間違えたのかと思ったぜ」
「あぁ、綾崎さん超が付く程のお金持ちですからね…。それにデュエルも強いんですよ」
「そうなのか」
「えぇ、夏のグレードカップのうちのクラス代表でした」
「グレードカップ?」
「学園で毎年夏と冬に2回行われてる学年大会のことですよ。各クラスから男女の代表1名ずつ出して8人でトーナメントを行うんです」
「へぇ、さすがアカデミアだな。本部じゃなくてもそんな企画やってるとは」
「ちなみに男子の代表は武雄君でした」
「あいつクラスじゃそんな強いのか……って、男子のってことはその綾崎って奴女かよ!女子の家に思春期の男子を行かせるとか何考えてんだ…」
「だから人手が足りないんですってば」
白い壁が途絶え、その先に交番が見えてくる。
「う~ん、よく分かんねぇし、あそこで聞いてみるか」
「そうですね」
交番の扉を開けると、妙齢の恰幅の良い婦警さんが座っていた。
「すいません、綾崎さんのお宅を探してるんですが」
「その制服…、あぁ!楓ちゃんと同じ学校の子かい!」
(楓?)
(綾崎さんの下の名前ですよ)
「お見舞いかい?あの子最近全然見なかったからねぇ。体調でも崩したんじゃないかと思って心配してたんだけど、やっぱりそうだったかい。あそこお父さんが凄い厳しいから毎日毎日家に家庭教師が来てデュエルの勉強させられててね。そのせいで体壊しがちなのよ。昔はよく笑う子だったんだけどねぇ、いつからかずっと厳しい顔してるようになっちゃったわ。そんなんだから昔はいっぱいいた友達も隣の家の子だけに……」
このおばちゃん一人で凄ぇ喋るな!しかもギリギリ話してもいいラインを的確に見極めてている。さては相当の猛者に違いない。
「…ってわけなのよ~。で、何の話だっけ?」
待つこと15分、やっとおばちゃんのトーク地獄から解放された。
「いや、だからあの、綾崎さんの家をですね……」
「あーはいはい!それならここの隣だよ!」
「え…?でもこの隣ってずっと白い壁が続いてるだけじゃ…」
「だからそれよそれ!その壁全部綾崎さんとこの塀なのよ!」
「「は……?」」
「………なぁ宗介」
「………何ですか」
「…ちょっと頬っぺた抓ってくれ」
「…じゃあ僕もお願いします」
互いに頬を抓り合う。
「………痛いな」
「………痛いですね」
ふぅ。
「「でっかっっっ!!!」」
いったい何坪あるんだよ!!家の向こう側霞んでんじゃねぇか!!ちょっとした集合住宅なら入っちまうだろこれ!!門なんか俺の身長の倍はあるぞ!!そんでその門の横に立ってる2人、あれ門番か!!
門番て!!
城か!!
「正直金持ちの家っていっても普通よりちょっと大きいぐらいだと思ってたんですが……。まさかここまでとは……」
「え、何これ、綾崎家って王族なの?」
「いえ、さすがにそこまでではありませんが…。まぁ似たようなものですよ。アヤサキカンパニーって聞いた事ありませんか?」
聞いた事あるも何も、その名前を耳にしない日の方が珍しい。
『アヤサキカンパニー』。
デュエルディスクの製造を主体に、様々な周辺機器の開発を手掛ける大企業である。
その規模は国内シェア80%にまで昇り、『決戦から決着まで、決闘を支えるアヤサキカンパニー』のキャッチコピー通り現在のデュエル社会に欠かせない存在となっている。
「綾崎さんはそこの社長令嬢なんですよ」
「そりゃこんな大豪邸にも住んでる訳だ…」
もう一度屋敷を見上げた。
「インターホンも見当たりませんが…、あの人達に話し掛ければいいんでしょうか?」
「そうだろうな」
俺達は体格の良い門番の下へと歩を進める。
「すいません、この家に用があるんですが…」
「お名前をどうぞ」
「え、あ、鶴岐勇です。で、こっちが…」
「た、多田野宗介です」
「鶴岐様と多田野様だ」
男が耳に付けた無線で連絡を取る。
『よし、お通ししろ』
「了解。ではお客様、ご案内いたします」
その台詞と共に、門が大きな音を立てて開いていく。その先には、メイド服とおぼしき服装に身を包んだ女性が佇んでいた。
「ようこそお越し下さいました、鶴岐様、多田野様。当綾崎家で給仕長を務めております、東雲と申します。あちらに車を控えさせておりますので、ご案内させて頂きます」
「あ、はい、お願いします」
「お、お願いします」
慣れないVIP待遇に戸惑ってしまう。
(俺現実でメイドなんて初めて見たぞ…)
(見たことある方がおかしいですよ…)
東雲さんに連れられ、用意されていた車に乗り込む。てっきり彼女が運転するのかと思ったが、運転席には寡黙そうな男が座っていた。
「当家は敷地面積の都合上徒歩での移動が困難となっております。このような形でのお出迎えとなったこと、お許し下さい」
「い、いえ、そんな」
「ぜ、全然気にしないで下さい」
「ありがとうごさいます」
深々と頭を下げられてしまった。
(…っていうかこれ多分リムジンだよな…)
(はい…。いったい僕等はどこへ連れて行かれるんですかね…)
「して、本日の御用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
さすがに伝わっていないということは無いと思うので、恐らく確認の為だろう。
「えーと、俺は今日からここでバイトすることになってるので普通に出勤を…」
「僕は休学中の綾崎……楓さんの様子を見てくるように担任の先生から指示されまして…」
「承っております」
やはり確認だったようだ。
その後いくらか話している内に、車が黒い荘厳な扉の前で止まる。
「到着致しました、綾崎家本館でございます」
降りようとしたが、東雲さんが先んじてドアを開けてくれる。
流れる様な動作でそのまま黒い扉も開く。
中もやっぱりとんでもなく広かった。
「ここからは個別でご案内させて頂きます。鶴岐さんはあちらの清掃班班長と共に使用人室へ。多田野様は私がお嬢様のお部屋までお連れ致します」
脇にいた若い男が頭を下げる。
恐らくあれが清掃班班長だろう。
…っていうかちゃっかり鶴岐さんにランクダウンしてるな。
バイトということが確定した以上、様付けは無しということか。
「それではこちらへ」
班長に呼ばれ、その後を追う。
宗介は女子の部屋へ直行か。
羨ま……いや、可哀相な奴め。
「鶴岐さんには本館3階の清掃をお願いします。何かあった時は私に無線で連絡して下さい」
班長から改めて仕事内容の説明を受けた。
耳の無線を確認する。
うむ、問題ないようだ。
「それと、3階にはお嬢様の勉強部屋がありますが、絶対に近付かない様に」
自室と勉強部屋で別々なのか…。
とんでもないなアヤサキカンパニー。
しかしいいことを聞いた。
「了解です」
俺は班長に学校で宗介に向けたのと同じ顔で微笑んだ。
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一体次はどんな騒動が起きるのやら? (2016-02-27 23:46)
コメントありがとうございます!
設定的には遊星と同い年ぐらいなのになんだこの人としての器の差は…。 (2016-02-28 10:14)
剛田と宗介もなんだかんだで仲良くなってて良い感じですね。(変な意味ではない) (2016-02-28 12:02)
コメントありがとうございます!
只今このサイトの中から新キャラの使うカテゴリを探しているところなので、次回のデュエル回の投稿はもう少し時間がかかりそうです。 (2016-02-28 12:25)