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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第11話 たまにはみんなで温泉旅行!

第11話 たまにはみんなで温泉旅行! 作:白金 将

 動物保護協会に強襲をかけた日の夜の事である。遊乃と葵、伽藍、翌檜、シロの五人は談話室でのんびりと過ごしていた。一仕事が終わったため、五人でこうして休んでいるのである。遊乃のお手製サンドイッチも他の三人から好評をいただいていた。

「協会のトップには逃げられちゃったみたいね~」
「……迂闊」
「捕まえた奴はどうした?」
「今頃は地下の拘留所にいるはずよ~。ちゃんとご飯は出てるから安心しなさ~い」
「情報を聞き出すのにはまだ時間がかかるか」

 遊乃は何も話さなかった。その様子を見かねたシロが声をかける。

「遊乃さん、どうかしました?」
「……あ、シロ君、何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」

 遊乃の頭に浮かんでいたのは、巨大な〈デビルドーザー〉に葵が襲われたあの光景である。結果的に葵は今ここにいるが、遊乃はあの時は不安で不安で仕方なかった。自分は腰を抜かしてしまい、葵の力になれなかったことが何よりも悔しかったのだ。
 落ち込んでいる遊乃と、少しぼうっとしている葵の様子を見かねたのか、伽藍が談話室の本棚を見つめながらぼそっとつぶやいた。

「……みんな疲れてるみたいだから、少し遠出してみない?」
「遠出? どこかいい所があるのか?」
「疲れてるならやっぱり温泉がいいわよね~」

 アルストロメリアに入ってからと言うものの、遊乃と葵は激務が続いてしまっていた。慣れないうちに重いデュエルを何度も経験したため、2人の消耗は特に大きかった。
 伽藍は一冊の雑誌を取り出す。旅行関係の情報雑誌であった。内容は、フラワリングタウンから少し行った先にある「モクモク温泉地帯」である。温泉、という言葉を聞いて遊乃の顔が明るくなった。葵も乗り気になっていたようだが、シロはうつむいてしまう。

「どうした? シロは温泉が嫌か?」
「嫌、じゃないけど……」

 シロは顔を赤くしてソファのクッションに顔をうずめてしまった。それを見かねた伽藍がいじるようにシロの頭を撫でる。

「お姉さんたちに囲まれて入るから照れくさいんだ~」
「ち、違うよ! 僕だって一人で男湯に……」
「それはだめよ~。シロちゃんと一緒に入りたいんだから~」

 シロは伽藍に捕まり、彼女のされるがままになってしまう。伽藍の胸の中でシロはがくがくと震えてしまっている。遊乃と葵は驚いたような表情で見ていたが、翌檜はいつも通りに冷めた表情であった。



 仕事の事は一旦忘れ、遊乃ら五人はフラワリングタウンの駅に荷物を持って立っていた。花の香りを含む風が遠くからふわりと流れてくる。葵は何やら弁当箱が入った袋を持っていた。遊乃はなかなか見ることのない線路に心躍らせている。

「落ち着け、遊乃。まだ汽車が来るまで時間はあるぞ」
「葵ちゃんこそ駅のお弁当いっぱい買ってるー」
「そ、それはだな、みんなで食べようと……」

 遊乃と葵がにぎやかにお話をしている横で、伽藍はシロを後ろからそっと抱いていた。この姿勢がデフォルトであるらしいが、シロは慣れていないのか少し照れくさそうである。翌檜はその横で一人立ちながら手のひらサイズの本を読んでいた。重そうな旅行用バッグには大量の本が入っているらしい。

「翌檜さんは向こうで何するの?」
「これ」
「バッグ一つ丸々本だなんて、本当に翌檜は読書が好きね~」
「うるさい」

 そんな感じで待っていると、遠くから汽車の走る音が聞こえてきた。フラワリングタウンのレンガ造りの町並みにうまく溶け込んでいて雰囲気も大変良い。汽車は駅で止まり、ドアが開いた。遊乃は真っ先に汽車の中に入っていく。葵がその後に続いた。



「貸し切りだねぇ」
「ここ一両はアルストロメリアが使えることになっているそうだな」
「頑張ったのよ~」

 車両の中は、備え付けのトイレの他に広々とした席があり、ホテルの部屋をまるまる持って来たかのような豪華な作りになっていた。遊乃たち五人もこれでくつろげそうである。席の前の机に弁当箱の入った袋を置いた葵は、早速袋の中から一つを取り出した。

「葵さん、何を買ったんですか?」
「ん、これか? これは……『花いっぱい弁当』だな。ここ辺りだと人気の物らしい」

 シロが弁当箱を覗く。その時、彼のお腹がきゅるると小さな音を立てた。少し恥ずかしそうにするシロを見て葵は笑い、何本か入っている替えの箸をシロに渡す。

「からあげ、一個いいですか?」
「ああ。好きに食べていいぞ」
「あら~、シロちゃんは本当に食いしん坊なのね~」
「ら、らん姉、うるさいって」

 弁当を巡って葵とシロ、伽藍の三人が盛り上がっていた頃、遊乃は電車の外の景色を見つめていた。フラワリングタウンの外を知らない遊乃にとって、これは貴重な体験となる。別の座席に座っている翌檜の方を向くと、彼女は一人で本を読んでいた。先ほどホームにいた時とは違う本を持っているため、さっきの本は読み終わったのだろう。
 旅行と銘打って遊乃たち五人は外に出ている訳であるが、遊乃はやはり昨日の事件が気がかりであった。旅行を楽しもうと思っても頭にどうしても浮かんでしまう。遊乃の表情が暗くなっていたのか、翌檜が声をかけてくれた。

「辛い事、今は忘れて」
「翌檜さん……」
「今は今」

 言葉の数は少ないが、口調から翌檜の優しさが伝わって来た。遊乃はうなずくと、持ってきた旅行用バッグから音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを耳に付けて音楽を聞き始めた。

「玉子焼き? 私は別にいいが……」
「らん姉、どうしたの?」
「あーん」
「あーん?」
「シロちゃんから食べさせてほしいの~」

 葵たちの方からはのん気な会話が聞こえてくる。翌檜の言う通り、遊乃は事件についてとやかく考えることを止めた。せっかく伽藍が企画してくれたのだから、この旅行は楽しまなければいけない。そんな事を考えていると、また向こう側が盛り上がる。

「は、はい、らん姉」
「あむっ……ん~っ、シロちゃんの玉子焼きおいしいわ~」
「元々は私の弁当の物だったんだが……私はまだ別にあるからいいか」

 伽藍とシロが二人で絡み始めるのをよそに、葵はまた別の弁当を取り出して食べ始める。音楽を聞いていた遊乃はうとうととしていると、いつの間にか深い眠りについてしまった。



 遊乃は何かを肩に感じて目を覚ます。周りを見ると、隣に葵が座っていた。先ほどとは席を少し変えたのだろう。葵がさっきまでいた場所を見ると、そこでは伽藍がシロに膝枕をしている。激務で疲れがたまっていたのか、どちらも眠ってしまっていた。

「んんーっ」

 音楽プレーヤーも流しっぱなしだったため、電源を落とした。前の方に腕を伸ばし、その後、遊乃は隣で眠っている葵の顔を覗き込む。葵の口元にごまが一粒くっついていた。

(葵ちゃんもかわいいところあるんだねぇ)

 こっそりと人差し指でごま粒を取り、それをあむっと口に入れる。少し甘い味がした。もう一度座り直すと、汽車がカタンと揺れ、葵が遊乃の方に寄りかかってきた。支えきれないほどではないため、遊乃は葵を受け止めてあげることにした。

(あったかいなぁ……)

 のんびりしていると、今度は汽車がガタンと揺れて葵が目を覚ました。遊乃に身を任せていることに気が付いたのか、葵は少し距離を取ってうつむいてしまった。遊乃がくすっと笑うと、葵は頬を赤くしながら視線を逸らす。
 少し経った頃、汽車の中でアナウンスが鳴った。お目当ての場所に着くようである。



 モクモク火山地帯。あちこちから火山ガスが噴出していて、温泉地も大変多い。遊乃たち五人が訪れていたのは、火山地帯でも有数の知名度を誇る「江呂温泉」であった。昔からの伝統ある温泉と今風のホテル建築がいい感じに融合した、遊乃たちもゆっくりと休むことが出来る場所だ。
 受付を済ませた五人は、伽藍が事前に予約を入れておいた大部屋に荷物を降ろし、畳の上で大の字になった。い草のいい感じの匂いが部屋中に漂っている。

「このまま眠っちゃっていいかなぁ……」
「まだ来たばかりだぞ」
「でも動きたくないわね~」
「同意」
「なんだか、僕、眠くなってきちゃいました……」

 汽車の中で眠っていたはずのシロが、畳の上でもう一度眠ってしまった。先ほどは汽車の揺れもあってうまく眠れなかったのだろう。伽藍はシロの隣までころころと転がると、シロの隣で一緒に横になった。そのまま2人は眠ってしまう。

「温泉に入れるのはもう少し後になりそうだな」
「好都合」
「もうちょっとのんびりしようかぁ」

 翌檜は横になったまま本を読み始める。葵は立ち上がると、温泉内を軽く探検してくると言って部屋の外に出て行った。遊乃は気持ちの良い畳の上をころころと転がる。

「んん、気持ちいい……」

 畳で転がっている遊乃に窓からぽかぽかと暖かい光が照らされる。ここまでゆっくりとしたこともしばらくなかったため、遊乃は目をつむってぼうっとしてしまった。



 気が付いた頃には遊乃の隣には葵が座っていて、部屋に他の人たちの姿は見えない。遊乃の頬には冷たい缶ジュースが当てられていた。冷たさを感じた遊乃は跳ねるように飛び起きる。葵は遊乃が起きたことを確認すると、ジュースを開けてそれを一気に飲む。

「伽藍たちは先に行ったみたいだな」
「あれ、みんな行っちゃったんだ」
「ああ。遊乃も行くぞ」
「うんっ」

 遊乃は自分の分の着替えとタオルを持ち、葵と部屋を出た。脱衣所には翌檜が一人残っていた。どうやら伽藍とシロは先に中に行ったようである。中からは伽藍の上機嫌な声が聞こえてくるような気もする。

「う」
「どうした、遊乃?」

 服を脱ぎながら葵が尋ねる。遊乃は服の裾をつまんだまま固まってしまった。タオル一枚になった翌檜は不思議そうな顔で遊乃を見つめる。

「翌檜さんも葵ちゃんもみんな大きい……」
「あ」

 葵が気の毒そうな顔をした。泣きそうになってしまった遊乃を翌檜が頭を撫でて慰める。遊乃は渋々と服を脱ぎ始めた。そうして遊乃と葵はタオル一枚の姿になる。やはり、葵や翌檜に比べると遊乃はなだらかであった。

「気にするな。遊乃は遊乃だ」
「葵ちゃんは大きいからいいでしょー!」
「こ、こらっ、遊乃……っ!」

 遊乃はやけになって葵の胸をいじり始める。慌てる葵の隣で翌檜は死んだ魚のような目をしていた。そしていつの間にかいなくなってしまう。伽藍とシロは既に入っているため、あまり時間を食う訳にも行かないと二人も温泉へのドアを開ける。
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光芒
最近色々と慌ただしかったアルストロメリアの気分転換、そして読者お待ちかねの温泉回!(殴
女性キャラが多数登場する小説を書く身としてはいつか温泉回だったりプール回を書きたいと思っているので、脱衣所だったり入浴中の描写は参考にさせて頂きたいと思います。胸囲の格差とかどう描くのがわかりやすいかはまだまだ勉強中なので……

遊乃や葵は一連の騒動で疲れが溜まっていると思われるのでこの旅行でリラックスしてほしいですね。ただせっかく来た温泉の名前がなんか酷いのでまたしてもハプニングに巻き込まれるにおいしかしないというのが; (2016-02-23 23:42)
白金 将
<<光芒 さん
いろいろあって激務が続いていたアルストロメリアにお休みの旅行回がやってきました(`・ω・´)
温泉回は女性の描写についていろいろ考えさせられますね……
男性を含む場合と女性のみの場合でまた違って来るので書く側も大変ですなぁ

ある意味二人の休養が目的でもありますからね。
温泉の読み方は「こうろおんせん」です。読み間違いやすい名前で申し訳(すっとぼけ
温泉回は本当にリラックス回なので重い展開とかはないですよ~ (2016-02-23 23:51)
ハカラメ
温泉回キタ! これで勝つる!
ずっと事件続きのドタバタ続きだった彼女たちに訪れるささやかな休息の時・・・和みますねぇ。こんなお姉さんたちに囲まれて温泉・・・僕はシロ君になりたい(←殴

温泉回だから次回、湯けむり温泉事件! みたいな展開になると思ってましたが、心配いらなかったようですねw (2016-02-24 07:37)
白金 将
<<ハカラメ さん
最初の方からアルストロメリアは仕事が多かったので貴重なお休みの時間になりますね。
シロ君のメンタルは果たして耐えられるのか……? 僕もシロ君になりたい(´・ω・`)

最近はいろいろと臭い展開が続いていたので今回位はのんびりできる回にしたいですね~ (2016-02-24 11:19)

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