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計略〜残された希望、刻まれた恐怖〜 作:名無しのゴーレム
シズクについて行くこと数分、俺たちは城内の会議場に到着した。……にしても広いな、ここ。
「……クイナ、来たぞ」
「ああ。……遊介殿、改めて自己紹介しよう。私はこの国の軍師を務めるクイナ・ウィンディと申す。……さて、さっそく作戦の説明といこう」
クイナさんが地図を広げる。この辺りのものなのだろうか……
「我々が集めた情報を整理した結果、次に帝国が侵攻してくるのならば……この山を抜けてくるだろう。こちらの奇襲を防ぐために見晴らしを確保しているようだな」
「その代わりに自らも奇襲を放棄する、か……自分たちの実力によほど自信があるらしい」
「あの圧倒的な力ならば妥当な戦略だ。……続けよう。向こうの数は比較的少ないが、女帝とその側近たちがいることから高い戦力を有していると言える。……私は、ここが狙い目だと考えている」
「狙い目……?」
「……数が少ないのであれば、こちらの費やせる全戦力を向ければある程度の戦力差も埋められる。女帝を倒すことができれば盤面はこちらに大きく傾く。問題は……女帝本人をどう倒すか、だ」
……女帝ってのはそこまで強いのか。
「私の推測だが、女帝だけはいくら数を揃えたところで勝ち目はないだろう。シズク殿の見解はどうだ?」
「……悔しいが、私も同意見だ。我々カーバンクルが総員でかかっても確実に勝てるとは言えない」
「そ、そんなに強いのかよ……化け物じゃねえか」
「まさしく。女帝は我々で対処出来る範疇を超えている。だがやるしかない、故に……シズク殿、遊介殿。お二人に女帝の相手をしていただきたい」
「……俺と、シズクで?」
「無茶を申しているのは承知の上だが、側近の対処を他の隊員に任せることを考えればこうするしかない。……シズク殿、構わないか?」
「やるしかないと言ったのはお前だろうが。……遊介。女帝は次元を超えた力の持ち主だ。苦しい戦いになるのは免れないが……」
……ここまで強いと言われる女帝と、戦えるのか……
「……遊介殿?」
「……え? なんかありましたか?」
「いや……今、笑っているように見えたので」
「俺が、笑って……ハハ。俺、その女帝ってのと戦えるのが楽しみみたいです」
「貴様……! これは国家の存亡がかかった戦いなのだぞ! それを……」
「まあまあ、シズク殿。……そう言ってもらえるならこちらも気が楽になりそうだ。感謝する、遊介殿」
「い、いやぁ……」
「……クイナ、これで話は終わりか?」
「……そうだな。決行までさほど時間もない。シズク殿たちは作戦に向けた準備を始めてほしい」
「分かった。……お前たち、行くぞ」
「……遊介殿」
「ん?」
会議場を出ようとしたそのとき、クイナさんに呼び止められた。
「どうかしましたか?」
「……姫がお呼びしている故、今から私と共に来てほしい。シズク殿、遊介殿をお借りするぞ」
「……好きにしろ」
「…………」
「…………」
……気まずい。着くまでまだかかりそうだし、何か話した方がいいのか……?
「……あ、あの……」
「? 遊介殿、何かあったか?」
「あ、ええと……」
あまり考えずに話しかけてしまった。何を話そうか……
「その……そうだ。この国で1番強い人って誰なんですか?」
「ふむ? ……どうしてそのようなことを?」
「いや……ちょっと気になって」
さきほどのエルドの台詞からして、シズクが国内で二番目に強いということは分かっている。……なら、一番は?
「……姫だ」
「へぇ、あのお姫様が……ぁ!? それ、本当なんですか!?」
「ああ。私の見立てでは遊介殿よりもずっと強い」
……あれ? それじゃあ……
「……どうして姫様が戦わないんだ? そんなに強いんならその女帝とだって……」
「……戦わないのではなく、戦えないのだ」
「え? それ、どういう意味で……」
「到着した。……続きは姫に聞くといい。……答えてくれるとは限らないが」
クイナさんが扉を開く。……入れと、いうことだろうか……
「……姫が二人きりになりたいと仰ったのだ」
「……分かりました」
「……遊介! 来てくれたのですね!」
「あ、はい……」
俺が部屋に入ったあと、すぐに扉が閉められた。どうやら本当に二人きりみたいだな……
「すみません、忙しいところを呼び止めてしまって……」
「い、いえいえ。お気になさらず……」
……くっ、お姫様と話すのなんて生まれて初めてだっての。こんな感じでいいのか……?
「……ウフフ、そんな無理に言葉を正さなくても構いませんよ。あなたはこの国の民でもありませんし、気楽に話してくださいな」
「……それじゃあ、そうさせてもらうよ」
「ありがとうございます。……いくつか聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ああ、もちろん。俺に答えられるものならなんでも聞いてくれ」
「それでは……その衣服、私たちのものとは大きく異なるようですが、あなたの世界では皆そのような服を着ているのですか?」
「そうだよ。……まあ、俺のは結構安物なんだけど」
「そうなんですか!? 見たところ装飾も多くて機能性も優れているようでしたから、大変高価なものなのかと……すごい技術力なのですね」
ただのパーカーとジーンズなんだけどな……まあ、技術は俺たちの世界の方が優れてるのかもな。
「……えっと、なら次は……遊介は、普段どのようなものを食べているのですか?」
「食べ物? んー……いろいろ食べるけど、基本は和食かな。白飯に味噌汁、焼き魚……はさすがに古典的すぎるかな」
「……シロメシに、ミソシル? それはどんな料理なのですか?」
あ、これも伝わらないのか。困ったな、料理とかしないから表現しづらい……
グゥー……
「あ……」
「……お腹が減っているのですね。そろそろいい時間ですし、夕食としましょうか」
夕食か……そう言えば、俺が図書館に行ったのが昼食を食べた後すぐだったか。もうそんなに時間が……って、おい。
「…………」
「……遊介? 固まってしまってますが……」
「い、いやぁ……ずっとこの世界にいたら親が心配するかなって。連絡がとれたらいいんだけど……」
「それなら問題ありませんよ。ゼロに聞きましたが、こちらの世界と遊介の世界の時の流れは異なるみたいで、その辺りの心配は必要ないそうです」
「あ、そうなんだ……」
よかった〜……
「……さて、と。それでは改めて夕食にしましょうか。……すみません、夕食をお願いできますか? ……はい、二人分です。……ありがとうございます」
ピッ
……ん? なんだ今の。
「では、準備が出来るまでもう少しお話を……」
「あの、姫様。さっきのそれ、なんですか? まるで携帯みたいだったけど……」
「え? ……ああ、これのことですか。これは通信用の魔法石で、これくらい小さいものでも近距離の通話なら可能なんです。大きなものならかなりの距離でも通話できますが……あの、どうかしましたか?」
「……魔法とかあるの?」
「? ……ひょっとして、遊介の世界にはないのですか?」
「……無い。本の中でしか見ない、おとぎ話みたいなものだけど……」
魔法があるんだ……急にここが異世界なんだなって感じるな。
「……魔法って、そんなに普及してるの?」
「いえ。この国以外ではあまり魔法の知識は広まっていませんし、このようなもの以外は魔力を持ったごく一部の人間にしか扱えませんから」
「あ、そんな感じなんだ。へぇ〜……」
「他に質問はありませんか? いろいろ答えていただきましたから、次は私が答えましょう」
「それじゃあ……」
『続きは姫に聞くといい。……答えてくれるとは限らないが』……だったか。
「……姫様は、デュエルするのか?」
「っ!! …………」
……あ、聞いちゃいけないことだったのか?
「……それは……」
トントン
「姫様、お食事の準備が整いました」
「分かりました。……では、行きましょうか」
俺がその質問をして以降、姫様の口数は減り、食事もたいへん静かなものとなった。そのまま俺は用意された部屋に入り、睡眠をとることになった、が……
(……一体、姫様に何があったんだ?)
「おうおう、さっそくホームシックか?」
「……ゼロか。ノックぐらいしろよ」
「細かいことは気にするなよ。……姫様がデュエルしない理由が知りたいのか?」
……こいつ、なんでそれを知って……
「……お前は知ってるのかよ。」
「ああ。……遊介も知っているように、前国王、つまり姫の父親は二年ほど前に行方不明になってな。それ以来国政は姫を中心に動かされていたが……ある時、近くに拠点を置いていた蛮族が攻め込んできたんだ。そいつら自身は大したこともなかったからすぐに制圧出来たんだが……」
「……だが?」
「……姫にとって、それは初めての戦争だった。……衝撃的だったんだろうな。今まで周囲の人間と楽しんでいたデュエルが、争いの道具にされていることが……それからだよ、姫がデュエルできなくなったのは」
「…………」
……それは人間として、ごく当然の感性だろう。特に、それが姫様みたいな優しい女の子なら……
「……帝国に勝つためには姫の力が必須だ。でもそれが叶わないのは誰もが知っている。……だから、ここまで苦戦しているんだ」
「……それをなんとかするために俺を連れてきたってのか」
「そうだ。……もうこんな時間か。今日はゆっくり眠りな。作戦の決行はいつか分からないんだからな……」
そう言い残してゼロは部屋を立ち去った。
(……姫様が戦えないから代わりに俺を連れてきた? でもクイナさんの口ぶりからするに、俺一人では女帝には太刀打ちできないというように聞こえた。なら、ゼロの目的はなんなんだ……?)
ベッドに寝転んでそんなことを考えている間に、俺の意識は闇に沈んでいった……
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