DRAW:１４ 二人を繋ぐ炎王神獣　作：人喰い

火群「………ごめん。和泉」


俺はそう呟き、その場に倒れ込んだ。
はずだった。
それなのに、痛くない。
俺の身体は、１５°ほど傾いたところで止まっている。
勿論、支えるもの無しに自分の身体を空中固定できるほどの超能力は俺には無いので、何かが俺を支えているのだろう。
これはなんだ……？。
あったかくて、いい匂いで、大きくて、柔らかくて………？


ニクス「………火群」


気がつくと俺は、ニクスの胸に顔をうずめていた。
普段なら驚いてすぐ離れて謝るべき場面なんだろうけど、今はそんな気力すらなかった。
少しでも気を抜けば、また意識を失ってしまいそうなぐらい、俺の心身はダメージを負っていた。


火群「…に……くす…」

ニクス「…火群。お前は、お前自身の大切なものの為によく戦った。少し寝ていろ」

火群「……だけど…！」

このまま引き下がれるかよ…！
まだ俺は戦える。戦える。戦える。

ニクス「…馬鹿者め。指一本満足に動かせない貴様に何ができる…！？」

火群「……俺は……まだ…」


パァンっ！！


途端、ニクスに胸ぐらを掴まれ、頬を激しくビンタされた。


ニクス「貴様がこれ以上傷ついて何になる！ その先で和泉を救ったとして、どれだけ和泉に心配をかけると思う！？ 貴様が傷つけば、その分だけ悲しむ者がいるという事を忘れるな！」


火群「………！」

Dチア「…リン♫ まるで……親子ね」


ニクス「……安心しろ火群。私はすでに死んでいる。どんなに傷ついても私は平気だ。だから火群ーーー」


チュッ。


その時、先ほどニクスに叩かれた左頬に、ニクスの、柔らかくしっとりとした唇が当てられた。


ニクス「この場は、私に任せておけ。私がこのデュエルを引き継ぐ！」


ニクスがそう言い放つと、俺はどこか安心したように、眠りについた。






遊戯王 Ph.X DRAW:１４
《二人を繋ぐ炎王神獣》






ここからは“私”ーーーガルドニクスの戦いだ。火群の為にも、私自身の為にも、負けるわけにはいかない。


ニクス「このデュエル私が引き継ぐ！ 問題ないな……ダーク・フェアリー・チア・ガールーーーいや、『闇口 千愛(やみぐち ちあ)』と呼んだほうがいいか？」

千愛『……リン♫ 勿論デュエル引き継ぎは大歓迎よ。でもね、今の私はダーク・フェアリー・チア・ガールよ。私の事を「千愛」と呼んでいいのは和泉だけ…』

ニクス「……そうか」

千愛『……と、言いたいところだけど、特別に許してあげるわ。にくす』

ひゅんっ。

千愛がそう言うと、和泉の身体から千愛が分離した。
闇の魔法使い風なファー付きで短いスカート丈のドレスを着た千愛が闇の中から姿を現す。
妖精ーーーというよりは悪魔に近い羽を煌めかせながら。
そして、残された和泉の身体を千愛は両手で支え、デュエルディスクを自身の腕に付け替え、和泉を踊り場の隅に寝かせる。

ニクス「どういうつもりだ……？」

千愛「市瀬火群が倒れた以上、私が和泉の中に居る意味がないもの」

ニクス「貴様……！ やはり最初から、和泉の姿で火群の精神を揺さぶりデュエルを申し込ませ、私をあぶり出す事が目的だったのか…！」


千愛「………その通りよっ！！」


千愛は声を荒げて、叫ぶ。

千愛「昔から、昔から！ 貴方はいつも私の上をいく！ 私のつねに一歩先を歩く！ 運動も、勉強も、デュエルでさえも、私は貴方に勝った事が１度もなかった！ それがたまらなく悔しかった！」


ニクス「……なるほどな。その想いが、その悔しさが、お前をエクシーズモンスターへと変えたのだな」

千愛「デュエルモンスターズの精霊となった今でも、私が貴方に勝ってるのは守備力くらいで、攻撃力も！ 効果も！ 出しやすさも！ レアリティも！ 全部貴方の方が上回ってて！」

言葉の一つ一つが胸に刺さる。


千愛「だから私はどんな手を使ってでも貴方に勝って、私の強さを証明するのよっっ！！」


千愛はデュエルディスクを構え、言う。

千愛「さあ、貴方も早くデュエルディスクを装着しなさい！ そして絶望しなさいっ！」

ニクス「………！」

促されるままにデュエルディスクを火群の腕から取り外し、自分の左腕に装着する。
装着した瞬間、火群の鼓動が、意志が、デュエルディスクを通じて全身に伝わってくる。
それを感じるだけで、私は戦える。

もう誰も、絶望する必要なんてないから。

私は、止めなくてはならない。
何百年も前の過去に生み出してしまった、狂った凶器を。



◉TURN:３◉

ガルドニクス【LP 600】
場:『綿毛トークン』[守 0]x1
伏せ:１枚/手札:５枚

闇口 千愛【LP 4000】
場:『フェアリー・ダンサー』[攻 1800]
『フェアリー・アーチャー』[攻 1400]
『リトル・フェアリー』[攻 800]
伏せ:なし/手札:２枚


千愛の場には、モンスターが３体もいるが、どれも下級モンスター程度の攻撃力だ。それに、伏せカードも無く、手札も少ない……。
千愛は大幅なライフ差で優位に立ったと思っているようだが、このデュエル、私にも等しく勝機はある！

ニクス「私のメインフェイズ！ 私は手札から、永続魔法『炎舞-天璣』を発動する！」

千愛「天璣……獣戦士族のサーチカードね」

ニクス「この効果で『暗炎星-ユウシ』を手札に加える！」

ニクス【手札:５枚】
・暗炎星-ユウシ
・大嵐
・炎王炎環
・炎王の宝札
・炎王獣 バロン


ここまでは順当だ。だが問題は、ここからだ。
私の残りライフは６００。私が負けない為には、このターン中になんとかしてフェアリー・アーチャーとフェアリー・ダンサーを倒さなければならない。
今サーチしたユウシを召喚し、1700の打点でフェアリー・アーチャーを攻撃し千愛に戦闘ダメージを与え、ユウシの効果で『炎舞-天枢』をセットしてメインフェイズ２へ移行。天枢を発動してバロンを召喚、ユウシのもう一つの効果で天璣を墓地に送りフェアリー・ダンサーを破壊。といった動きができれば理想なのだが、その為には警戒しなくてはならないものがある。
ーーーオネストやヴェーラー、朱光の宣告者などの手札誘発効果だ。

ニクス「………っ」

もし相手がオネストを握っていた場合、攻撃力600以上のモンスターを攻撃したら、反射ダメージで私は負けてしまう。
効果無効のカードを握っていた場合、このターンは、フェアリー・アーチャーとフェアリー・ダンサーの２体を倒すことができなくなる。
あの２枚の手札に、両方とも握っているなんて事は考えにくいが………そのうちのどちらかを握っている可能性は十分にある。


千愛「…どうしたのかしら？」

ニクス「………」

考えていても始まらないか。
『どうすればいいか』じゃない。『どうしたいか』だな。
私は、残されたわずかな可能性ーーー『ドロー』に全てをかける！


ニクス「…私は、炎王獣 バロンを召喚！」

『炎王獣 バロン』[攻 1800]

千愛（…ユウシじゃない！？ ここで…バロン……？）

ニクス「場の天璣の効果で、バロンの攻撃力は１００ポイントアップ！」

『炎王獣 バロン』[攻 1900]

千愛「この１００は痛いわね……フェアリー・ダンサーの攻撃力を上回れた…」

ニクス「そして魔法発動！『炎王の宝札』！ この効果で、場のバロンを破壊し、２枚ドロー！！」


ゴォオオォオオッ！！


《ドローカード》
・炎王獣 ヤクシャ
・炎王の急襲


ニクス「その後、手札の炎王獣 ヤクシャを破壊し、破壊されたヤクシャの効果で、私の場の綿毛トークンを破壊する！」

千愛「な、なにをするつもりなの……！？ 貴方の場はガラ空きになって、私の場にはモンスターが……？ はっ！ まさか……！？」



ニクス「…いくぞ………千愛…っ！！ 魔法発動！ ーーー『炎王の急襲』！！」


千愛「………くっ…来なさい…！！」


ニクス「ーーー終わりなき破壊と再生の連鎖……その先に待つ景色が絶望の色を持っていたとしても、私は絶対に怯えない！！ 全て私色に染めてやるッ！！ 現れろ！『炎王神獣 ガルドニクス』！！！」


『炎王神獣 ガルドニクス』[攻 2700]



ーー火群。お前の『バーニングドロー』、たしかに受け取ったぞ。



ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ーTo Be Continuedー〜ー〜ー〜ー



《次回予告》
ニクス「もう絶対迷わない。
もう絶対怯えない。
もう絶対逃げない。


次回『遊戯王 Ph.X』DRAW:１５
二人を繋ぐ二人の精霊(仮)


戦い終えたその先に、何が待っていようともーーー」




＊今週のおまけはお休みです。