第55話：真剣勝負　作：光芒

　急遽する事になったこのデュエルの目的はエヴァがスカーライトと交信できるようにするというものである。しかし、遊希にとっては以前の借りを返す、という目的もあった。過去の自分を超える、と共に自分がこれまでどの程度成長したかということも彼女は自分で理解したかったのだ。そしてデュエルの直前に遊希はエヴァに一つだけ申し出る。
　それは「全力で倒しに来てほしい」というものであった。スカーライトを倒すだけなら手抜きのデュエルでも出来る。しかし、そんなデュエルで心を開いてくれるほど精霊は生易しいものではない。互い全力でデュエルを行い、精霊同士が牙を交える。そんなデュエルこそ精霊が望むものであると言えるのだ。

「だからエヴァ、すぐにスカーライトを出そうだなんて思っちゃダメよ？」
「ハイ、その時々に応じてモンスターを出すのですネ」
「そう。だからスカーライトを出さずに終わってしまう可能性もある。本末転倒かもしれないけど、それが真剣勝負」
「真剣勝負……それならスカーライトを出すまで終わらないようにしマス！」

　デュエルディスクのコンピューターによって先攻後攻の決定権を得たのはエヴァだった。前回のデュエルでは遊希がその権利を得たため、今回はその時と真逆になる。エヴァは先攻を宣言した。銀河悪魔のような後攻有利のモンスターを有している遊希にとってはその方がやや有難かった。

「遊希サン、行きます！」
「こちらこそ、胸を借りるつもりで行かせてもらうわ」
「「デュエル！！」」


エヴァ　LP8000　手札5枚
デッキ：41　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ：40　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01

「私の先攻デス、ドロー！ 私はモンスターをセットし、カードを2枚セットしてターンエンドデス！」

　エヴァの1ターン目はすぐにシンクロ召喚をするのではなく、あくまで様子見、と言わんばかりの動きだった。以前のように手札事故を起こしているのか、それとも何か別の思惑があるのか。いずれにせよ迂闊に動いては返り討ちに遭うということは明白であった。


エヴァ　LP8000　手札2枚
デッキ：41　モンスター：1　魔法・罠：2　墓地：0　除外：0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ：40　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02

「私のターン、ドローよ」

　一方、後攻の遊希としてはエヴァが反撃の手を揃える前に畳みかけてしまいたいところだった。そうすれば彼女は切り札でもあるスカーライトを出さざるを得なくなる。あのモンスターを倒して初めて遊希はエヴァに勝利したことになるのだ。

「相手フィールドにのみモンスターが存在する時、このカードは手札から特殊召喚できるわ。現れなさい、サイバー・ドラゴン！」

　遊希のフィールドにはサイバー・ドラゴンが現れる。エヴァはギャラクシーモンスターではないサイバー・ドラゴンが出たことに眉を顰める。

（サイバー・ドラゴン……確かに汎用性の高いモンスターですが、遊希さんのデッキに入れるメリットはあるのでしょうカ？）
「さらに私は手札の銀河戦士の効果を発動！ 手札の光属性モンスター、銀河眼の光子竜を墓地に送り、このカードを手札から表側守備表示で特殊召喚するわ！」
「召喚権を使わずにレベル5のモンスターを2体も……流石デス、遊希サン！」
「まだよ、特殊召喚に成功した銀河戦士の効果でデッキからギャラクシーモンスター1体を手札に加えるわ。私が手札に加えるのはレベル8の銀河騎士よ。そして自分フィールドにギャラクシーモンスターが存在する時、銀河騎士はリリースなしで召喚することが出来るわ」

　自身の効果で妥協召喚された銀河騎士はデメリット効果で攻撃力が1000ダウンする。しかし、その召喚方法にはメリットも存在する。

「銀河騎士が自身の効果で召喚に成功した時、墓地の銀河眼の光子竜1体を表側守備表示で特殊召喚できるわ！ 蘇りなさい、銀河眼の光子竜！！」

　銀河騎士の効果で遊希のフィールドには光子竜が蘇生される。これで遊希のフィールドにはレベル8とレベル5のモンスターがそれぞれ2体ずつ存在することになる。

「一気に行くわよ、私はレベル5のサイバー・ドラゴンと銀河戦士でオーバーレイ！ 2体の機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！ 起動せよ、サイバー・ドラゴン・ノヴァ！！」
「サイバー・ドラゴン・ノヴァ！？ ということは……」

　サイバー・ドラゴン・ノヴァが特殊召喚されることは予想外だったエヴァはセットカードをちらちら見ながら悩んだ様子を見せる。彼女はこの後遊希が何をしようとしているか即座に見抜いた。

「サイバー・ドラゴン・インフィニティは出させまセン！ リバースカードオープン！ 罠カード、奈落の落とし穴を発動しマス！」
「……あら、初手に来てたのね。チェーンするカードはないわ」
「ではサイバー・ドラゴン・ノヴァを破壊してゲームから除外しマス」

　遊希としてはサイバー・ドラゴン・インフィニティと強力なランク8のエクシーズモンスターでビートダウンをする計画だったが、奈落の落とし穴によってサイバー・ドラゴン・ノヴァがゲームから除外されてしまったため、その計画は早くも頓挫してしまう形となった。

「でもまだ攻め手が尽きたわけじゃないわ。私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ！　2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 吹き荒べ、守護の風！ 銀河眼の大気竜！！」

　光り輝きながらフィールドに舞い降りる大気竜のその姿にエヴァは目をキラキラとさせる。

「銀河眼の大気竜……なるほど、これが噂に聞く風の銀河眼ですカ……あっ、この召喚に発動する効果はないデス」
「そう、ならメインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行するわ。銀河眼の大気竜でセットモンスターを攻撃するわ。“旋風のアトモスフィア・ストリーム”！！」

　大気竜の攻撃がエヴァのセットモンスターに炸裂する。セットモンスターは他の闇氷竜同様黒い身体に氷の鱗を持っているモンスターであるが、今まで遊希が目にした闇氷竜とはまた違う東洋風の蛇を模したモンスターだった。

銀河眼の大気竜 ATK2500 VS 闇氷竜 ミヅチ DEF1500

「破壊されて墓地に送られた“闇氷竜 ミヅチ”の効果が発動しマス！」


※闇氷竜 ミヅチ（オリジナルカード）
効果モンスター
星4/闇属性/ドラゴン族/攻1500/守1500
(1)：このカードが破壊され、墓地に送られた時、自分のデッキから「闇氷竜」と名のついたチューナーモンスター1体を特殊召喚する。
(2)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は「水」としても扱う。


「リクルーターか……」
「ミヅチが破壊されて墓地に送られた時、デッキから闇氷竜のチューナーモンスター1体を特殊召喚するデス！ 私が特殊召喚するのは“闇氷竜 ワーム”デス！」


※闇氷竜 ワーム（オリジナルカード）
チューナー・効果モンスター
星4/闇属性/ドラゴン族/攻1000/守1500
(1)：1ターンに1度、自分フィールドに表側表示で存在するチューナー以外の「闇氷」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。このターンの終了時まで選択したモンスターのレベルを1から7までの任意の数値にする。この効果を発動したターン、自分はS召喚以外でエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
(2)：自分フィールド上にドラゴン族のSモンスターが存在する場合に発動できる。このカードのレベルを2に変更する。
(3)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は「水」としても扱う。


「レベル変更効果……なるほど、そのモンスターがチューナーならレベル8以外のシンクロモンスターを特殊召喚できる、ということね。私はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に大気竜の効果を発動、このカードを守備表示に変更するわ」
「守備力3000ですカ。攻防一体の強いモンスターですネ」
「そのくらいのモンスターを出さなければあなたには勝てない。私はカードを2枚セットしてターンエンドよ」


エヴァ　LP8000　手札2枚
デッキ：40　モンスター：1（闇氷竜 ワーム）魔法・罠：1　墓地：2　除外：0
遊希　LP8000　手札0枚
デッキ：39　モンスター：1（銀河眼の大気竜 ORU：2）魔法・罠：2　墓地：2　除外：1


☆TURN03

「私のターンデス、ドロー！ 私は手札から闇氷竜 ファフニールを召喚しマス！ そしてファフニールの召喚に成功した時、自分のデッキからチューナーモンスター、闇氷竜 バジリスクを手札に加えマス！ そしてワームの効果を発動、ファフニールのレベルを1に変更しマス！」

闇氷竜 ファフニール レベル4→1

「チューナーとチューナー以外のモンスターのレベルの合計は5……」
「行きマス！ 私はレベル1となった闇氷竜 ファフニールにレベル4のチューナーモンスター、闇氷竜 ワームをチューニング！“科学の力を得た書庫の番人よ、その叡智をもって新たなる世界を切り拓け！”シンクロ召喚！“TG ハイパー・ライブラリアン”！！」

　シンクロ召喚されて現れたのは、片手に本のようなものを携えた魔術師風のモンスター。一見すると普通のモンスターではあるが、遊希はそのモンスターのこの世界における価値を知っていた。何故ならそのモンスターは一般には流通していない希少なモンスターだからだ。


※TG ハイパー・ライブラリアン
シンクロ・効果モンスター（制限カード）
星5/闇属性/魔法使い族/攻2400/守1800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1)：このカードがフィールドに存在し、自分または相手が、このカード以外のSモンスターのS召喚に成功した場合に発動する。このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。


「TG ハイパー・ライブラリアン……大会優勝者にのみ与えられる超レアカードよね？」
「ハイ、このモンスターはシンクロ召喚を行う私のデッキとは相性抜群。手に入れられて良かったデス！」
「でもそのカードを出しただけでは本来の力を発揮できないわ。そのモンスターがいる状態でシンクロ召喚をする必要がある」
「その通りデス。私は既に召喚権を使ってしまいました。でも召喚権を使わずにシンクロ召喚をする方法もありマス！ 私は手札から通常魔法、闇氷の煌めきを発動しマス！ 私は墓地の闇氷竜 ミヅチとチューナーモンスター、闇氷竜 ワームをゲームから除外し、この2体でシンクロ召喚をしマス！」
「墓地からシンクロ召喚！？」

　墓地に眠るミヅチとワームの身体が結晶となって消えていく。それは氷の竜が見せる最後の輝きであり、8つの星が新たな命となって輝く。

「“深淵の世界において最後の輝きを見せる竜よ、深海に眠りし魔竜を呼び覚ませ！”シンクロ召喚、闇氷魔竜 ヨルムンガンド！！」
「っ……」
「そしてシンクロ召喚に成功した時、ハイパー・ライブラリアンの効果が発動！ デッキからカードを1枚ドローしマス！」

　ハイパー・ライブラリアンの効果により、デッキからカードをドローするエヴァ。シンクロ召喚は手札の消費が激しいため、こういった効果で大量ドロー出来るのはその弱点を埋める手段になる。しかし、このドローカードを見たエヴァの表情は聊か残念そうだった。

「もっと早く来てほしかったですネ……私はテラ・フォーミングを発動し、デッキから闇氷の霊域をサーチ。そして今手札に加えた闇氷の霊域を発動しマス！」

　闇氷の霊域が発動されたことにより、エヴァのフィールドは暗夜に包まれた氷の世界へと変わる。このカードを先に引いていればさらにもう1枚ドローできていたため、確かにこればかりはエヴァにツキが無かったと言わざるを得なかった。

「でもこれで闇氷モンスターの攻撃力は300ポイントアップしマス！」

闇氷魔竜 ヨルムンガンド ATK2700→3000

「それでも大気竜の守備力は3000。戦闘による破壊は不可能よ？」
「なら効果で破壊するまでデス！ 闇氷魔竜 ヨルムンガンドの効果を発動！ 墓地の闇氷竜 ファフニールをゲームから除外することで相手フィールドに存在するカード1枚を選択して破壊しマス！」
「迂闊よ、エヴァ。その効果にチェーンして大気竜の効果を発動！ このターン、ギャラクシーカードはあらゆる破壊から守られるわ！！」
「そんな……貴重な墓地リソースを失ってまで展開したのにモンスター1体突破できないとは……仕方ないですネ、切り替えマス！ 私はカードを1枚セットしてターンエンドデス！」


エヴァ　LP8000　手札2枚
デッキ：36　モンスター：2（闇氷魔竜 ヨルムンガンド、TG ハイパー・ライブラリアン）魔法・罠：3（闇氷の霊域）墓地：3　除外：3
遊希　LP8000　手札0枚
デッキ：39　モンスター：1（銀河眼の大気竜 ORU：1）魔法・罠：2　墓地：3　除外：1