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HOME > 遊戯王SS一覧 > Scar / 2:したいこと、その意味

Scar / 2:したいこと、その意味 作:げっぱ

何かが焦げる臭いと、パチパチと弾ける音で、アンは目を覚ました。

ゆっくりと目を開け、静かに、音がする方へと首を向ける。
そこにいたのは、いくつもの傷が目立つ男。最近できた物だろう赤い筋があった。
その男は、小さく燃える火に枯れ木をくべていた。臭いと音の正体は、それだった。
空は赤く暗い。夜の帳が落ちるくらいだろうか。

視界と体の感覚から、アンは自分が横たえられているのだと気付く。
特に何も考えぬまま、のっそりと起き上がった。

衣擦れの音で、男がアンの方に視線をやる。
アンもまた、自分が布団代わりの布を被せられていたのだと気付いた。
男はすぐに視線を焚き木に戻し、誰となくと思えるように呟く。

男「……起きたか」

アン「……誰?」

男「自分が気を失う前の状況は憶えているか?」

質問を無視し、見もしないまま逆に問い返してきた。ちょっとムッとなる。
しかしそれは、アン本人も気になる所だった。

アンは、あの廃墟近くのシェルターに、今は亡き育ての父と共に隠れ住んでいた。
あの廃墟には放棄された食糧があり、父の死後もアンはそれを少しずつ食べて生き延びていた。
あの時、アンはいつものように廃墟に向かった。崩れかけた建物が崩れない動き方を知っていた。
食糧が置いてある建物に差し掛かった時、建物が崩れた。『カオスクロス』の構成員と遭遇したのだ。
何故そこにあれがいたのか、その理由は分からない。ただ、見つかってはいけない者に見つかってしまった事は分かった。
下卑た笑みを浮かべる構成員から、一目散に逃げた。
構成員は嗤いながら、装置を使ってモンスターを召喚し、アンの逃げ道を塞いだ。
アンは常に、父の遺物であるデュエルディスクとデッキを持っていた。
だから、せめてもの抵抗に、デュエルを挑んだ。そして、手も足も出ないままに負けた。

最後の記憶は、ゲル状のモンスターの攻撃と、厭らしい構成員の笑い顔……。

順繰りに思い出したアンは、静かに頷いた。

アン「あなたは、誰?」

その上で、同じ事を尋ねた。

男「ただの復讐者だ」

要領を得ない答えが返ってきた。

アン「私はどうなっていたの?」

男「倒れていた。デュエルに負けたんだろう。傍には『カオスクロス』の構成員がいた」

アン「そいつは、どうしたの」

男「倒した」

アン「誰が?」

男「俺が倒した」

アンは目を見開いた。あの、『カオスクロス』の構成員を撃破する。
その意味は、この世界での死。『カオスクロス』に逆らえば、この世界で生きていけない。
反逆者として探し出され、見せしめの為に、何もかもを奪われる。
名誉も、希望も、命も。

それをこの男は、自分の意志を以って行ったと?

アン「あなたは……なにもの?」

アンは最初と同じ問いを、異なる意味を持たせて言った。

男「ただの復讐者だ」

同じ答えが返ってきた。その意味を、ようやくしてアンは知る。
この男は嘗て、『カオスクロス』に奪われたのだ。だから、復讐の為に構成員を倒した。
要領を得ないなどとんでもない。この男を語るには、その肩書だけで十分だったのだ。

パキンと、焚火にくべた枯れ木の一本が、燃え堕ちた。

ビクンと、アンの体が震える。

アンは理解した。そして瞬間的に、理性と本能に襲われた。
男に助けてもらった。恐らくは命を落としかねない窮地を、救ってもらった。
言い切れない感謝。それを感じる理性。

その上で、男は『カオスクロス』に抗っている。『カオスクロス』に、常に命を狙われている。
側にいれば自分も巻き込まれる。助かった命が、今度こそは確実に消えてしまう。
植え付けられた恐怖。それを生み出す本能。

男はやっと、ちらりとアンを見て、手持ちの荷物を漁る。
その中から缶詰とスプーンを取り出し、そっと、アンの前に置いた。

男「食べろ。腹が減っていてもおかしくない」

言われ、男を見上げ、缶詰に目移りし、示し合わせたかのようにアンの腹の虫が鳴った。
意識した途端に、空腹を感じ始めた。ここまで来て、この男が自分を騙す理由は無い。
アンは躊躇わずに缶詰に手を伸ばし、慣れた手つきでプルを持ち上げ、開ける。
缶詰の縁に口を付け、スプーンで掻っ込み、口一杯に頬張った。

缶詰はあっと言う間に空になった。口に入れ過ぎた所為で上手く噛めず、ちょっとずつ嚥下する。
頬を膨らませながらもごもごと口を動かすアンを、男はじっと見ていた。

時間を掛けて何度も噛み締め、殆ど液状になってから飲み込み、全部が無くなるまで、アンは幸せだった。

そして沈黙が訪れた。

腹を満たして幸福に浸っても、状況は変わらないのだ。
アンは再び、混乱に投げ込まれた。

先に口を開いたのは、男だった。

男「デッキを、見せてくれるか?」

デッキ。アンも、デッキを持っている。育ての父が遺した物。命を繋ぐ大切な物。
アンは少し悩んだ後、デュエルディスクからデッキを外し、男に手渡した。

男は何も言わずにデッキを見る。一枚一枚、丁寧な手付きで、カードを確認する。

男「……このデッキで、よく生き残れたな」

アンは、喉を詰まらせたような声を出した。
大切なデッキだが、それが話にならないくらいに弱いデッキだと、アン自身、そして使用していた父自身が分かっていた。
だが、この世界で生きるために必要だった。小さな牙でも、持たなければならなかった。

アンの手が震えた。アンには分からなかったが、それは屈辱と呼ばれるものだった。

それを知ってか知らずか、男はアンにデッキを返す。アンは黙ってそれを受け取り、デュエルディスクに収める。
それとは別に、もう一つのデッキが差し出された。一番上のカードは、アンにとって因縁の、ゲル状のモンスターのカード。
「怪人ゲルリアン」のカードだった。

アン「これ……」

男「使え。俺には不要だ」

アンは恐る恐る手を伸ばし、デッキを見る。そのカード、統一されたカテゴリー。
紛れも無いあの構成員が使用していたデッキだ。この男は本当に、あの構成員を倒したのだ。

男「少なくとも、それよりは生き残れるだろう」

アン「これを……私が……」

アンは興奮を覚えた。あの、手も足も出なかった力が手に入った。
これは即ち『カオスクロス』の力の一端だ。それを揮えば、何ができるだろう。
あの構成員のような傍若無人な振る舞いも、男のような正義染みた行いも。

だが、アンは躊躇った。今しがたデュエルディスクに戻したデッキに視線をやる。

男「別に、それを捨てろとは言わない。デュエルする時は、このデッキを使えばいい」

男「大切な物であればな」

強く、「怪人」のデッキを握った。そんな贅沢。許されるのか。
許されているのだ。

アン「でも、私……使い方が分からない」

男「試せばいい。付き合ってやる」

アンは驚きの声をあげた。

付き合ってくれるのは、嬉しい。だが、デュエルをすれば、ヴィジョンの暴力が発生する。
それの所為で、お互いが傷付いてしまう。

アン「付き合うって……デュエルディスクを使えば、ヴィジョンが」

男「別にデュエルディスクが無くてもデュエルはできる」

男「これは、カードゲームだからな」

アンは、天啓のようなシナプスの痺れを感じた。
この世界の人間にとって、デュエルディスクは片腕の一部と言って良い。
四六時中外す事は無く、常に装着したままで過ごす。そして、デュエルを行う。

それを使わずにデュエルするなど、幼いアンには思い付きもしなかった事だ。
だが、考えてみれば簡単な事だった。デュエルディスクは媒介に過ぎない。
デュエルディスクが無くても、デュエルはできる。全く以て、その通りだった。

男は自分のデュエルディスクからデッキを取り出し、それをアンに見せる。

男「悪いが、俺はこのデッキしか持たない。そしてこのデッキでそれに勝った」

男「まあ、プレイング次第でどうとでも転がるだろうがな」

アン「……やる」

アンの返答に、男は頷いた。そして、アンに被せていた布を手に取り、目の前に広げた。

男「これがデュエルディスクの代わりのデュエルフィールドだ。デッキはここ。墓地はここ。エクストラはここで、フィールドはここだ」

男「そしてそれらの間の、上がモンスターゾーン、下が魔法・罠ゾーン。デュエルディスクと同じだな?」

男「除外は……墓地の下に、横向きに置いておけばいいだろう」

男が指し示す度、アンは記憶して頷く。
デュエルディスクと似たような配置なので、憶えるのに苦労はしない。

男「次は、デッキのカードの把握だ。そのデッキの、全部のカードを憶えろ」

その言葉に従い、アンはデッキの全てのカードのテキストを確認する。
見た事ないカード、どう使えばいいのか分からないカード、それらは男に説明してもらう。
どれをどうすればどのようなコンボに繋がるのか、実際に戦った男の解説を聞きながら考える。

どれくらいの時間が経っただろう。完全に無防備になった事にすら、アンは気付かない。
それくらいに熱中し、そして、全てのカードを把握した。

男「分かったか?」

アン「うん。でも、待って」

アンは「怪人」のデッキをもう一度見て、何枚かのカードを抜き出す。
そして、デュエルディスクから自分のデッキを取り出し、そこからも何枚かのカードを抜き出し、「怪人」のデッキのカードと入れ替える。

アン「これでいい」

アンの行動を、男は黙って見ていた。

男「ああ。まずデッキをシャッフルする。イカサマできないように、カードを混ぜるんだ」

男は慣れた手付きでデッキをシャッフルする。アンも見習って、不慣れな動作でデッキを混ぜる。

男「先攻と後攻は、お互いにカードを1枚ドローして決める。モンスターは魔法に勝ち、魔法は罠に勝ち、罠はモンスターに勝つ」

男「お互いのカードが同じ種類の場合は、引き直し。分かるか?」

アンは頷き、先んじてドローする。魔法カード。
男も続いてドローし、アンに見せる。モンスターカード。男の先攻が決定した。

引いたカードをデッキに戻して、再びシャッフル。同時にカットと言う行為も習い、ようやくデッキスペースにデッキを置く。

男「やるぞ」

アン「うん」

お互いにタイミングの確認。


男&アン「デュエル」


静かに、デュエルが開始した。


先攻:男 / 手札:5 / LP:8000
□|□|□|□|□
□|□|□|□|□

□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:アン / 手札:5 / LP:8000


男「俺の先攻。先攻はドローができない。メインフェイズに、「SS-グラッジ」を召喚」

「SS-グラッジ」 炎 ☆4 ATK/1200 DEF/1100
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。墓地からレベル4「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。このターン、自分はX召喚を行えない。
 ●1000LPを払う。デッキから1枚ドローし、手札を1枚捨てる。

男「召喚成功時に二つ目を選び効果を発動。ライフを1000払い、デッキから1枚ドロー」8000→7000

男「そして手札を1枚捨てる」捨てたカード→「SS-アヴェンジャー」

男「カードを2枚セットしてターンを終了だ」

先攻:男 / 手札:2 / LP:7000
■…リバースカード
恨…SS-グラッジ ATK/1200 DEF/1100 攻撃
□|■| □ |■|□
□|□|恨|□|□

□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:アン / 手札:5 / LP:8000

アン「わ、私のターン……ドロー」

至って慣れた所作の男に対し、アンはドローの段階からおぼつかない。
引いたカードと手札を照らし合わせ、唸る。

アン「「怪人サターナーズ」を、攻撃表示」


「怪人サターナーズ」 地 ☆4 ATK/1700 DEF/2000
戦士族/効果
①:このカードが「怪人」カードの効果によって特殊召喚に成功した時、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動する。そのカードを破壊する。


アン「えっと……バトルフェイズ。「怪人サターナーズ」で、「SS-グラッジ」を攻撃」

男「なら、攻撃宣言時にカードを発動する。永続罠「SSS-逆襲の傷跡」」

「SSS-逆襲の傷跡」 永続罠
①:自分フィールドの「SS」モンスターが行う戦闘で自分が受ける戦闘ダメージは0になる。
②:自分の「SS」モンスターが戦闘を行ったダメージ計算終了時に発動する。次の自分のターン終了時までそのモンスターの攻撃力は1000アップする。

男「この効果で、俺の「SS」モンスターが行う戦闘で俺が受ける戦闘ダメージは0になる。何かカードの発動はあるか?」

アン「何かできるの?」

男「例外はあるが、基本的に速攻魔法、罠カード、条件の合ったモンスター効果が発動できる」

男「例えばそのデッキには……速攻魔法の「サイクロン」があったはずだ。それがあるなら、発動してこのカードを破壊できる」

アン「ない」

男「カードの効果の発動に対し、カードの効果を発動できる。これはお互いのプレイヤーが、いつでも所有する権利だ」

男「だが、カウンター罠に対しては、カウンター罠しか発動できない。気を付けろ」

アン「うん」

男「お互いに発動するカードが無い事を確認したなら、効果の処理をする」

男「永続罠である「SSS-逆襲の傷跡」の効果が適用され、戦闘を行う」

男「「SS-グラッジ」は破壊されるが、「逆襲の傷跡」の効果で俺は戦闘ダメージを受けない。いいか?」

アン「だいじょうぶ」

男「よし。続けろ」

アン「うん……攻撃したから、バトルフェイズを終わる。カードを2枚伏せて、ターン終了」


先攻:男 / 手札:2 / LP:7000
■…リバースカード
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|逆|□|■|□
□| □ |□|□|□

□|□|サ|□|□
□|□| ■ |■|□
サ…怪人サターナーズ ATK/1700 DEF/2000 攻撃
■…リバースカード
後攻:アン / 手札:3 / LP:8000


男「俺のターン。スタンバイフェイズに入り、メインフェイズ。何かカードの発動はあるか?」

アン「ない」

男「フェイズの移行とカード発動の確認は大事だ。相手フィールドにカードが無くても、忘れるな」

アン「わかった」

男「手札から「SS-グリーフ」を召喚」

「SS-グリーフ」 炎 ☆4 ATK/800 DEF/1500
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。自分フィールドの「SS」モンスターの数×1000ライフを回復する。
 ●ライフを1000払う。デッキから「SS」モンスター1体を選んで手札に加える。

男「召喚成功時に効果を発動、ライフを払う効果を選ぶが、何かあるか?」

言われ、アンは伏せたカードを確認する。
その内の一枚をひっくり返し、表にして男に見せた。

アン「通常罠、「地獄からの手」。あってる?」

「地獄からの手」 通常罠
①:自分または相手の攻撃力1500以下のモンスターが召喚に成功した時に発動できる。そのモンスターを破壊する。

男「ああ。さっきも説明したが、召喚と特殊召喚は違うものだ。特殊召喚に対して「地獄からの手」は発動できない」

男「そしてこの時、カードに対してカードを発動した場合の効果の処理は、後に発動したカードから順に行う」

男「「地獄からの手」で「SS-グリーフ」を破壊した後、「SS-グリーフ」の効果で俺はライフを払い、サーチする」

アン「破壊されたのに、効果は発動するの?」

男「召喚を無効にされたわけでも、効果を無効にされたわけでもないからな」

男「効果を無効にするには、カードのテキストにその言葉が書いてあるカードを使う必要がある」

男「まあ、これにも例外はあるが……後で教えよう」

アン「「地獄からの手」、使わない方がいい?」

男「それを判断するのがデュエリストだ。普通なら、相手が使うカードは知らないからな」

男「お互いの手札と自分のデッキの中身、フィールドの状況、墓地、あらゆる事を踏まえて、選ぶんだ」

アン「……使う」

男「分かった。なら「グリーフ」は破壊され、次に「グリーフ」の効果で俺はライフを1000払う」7000→6000

男「デッキから「SS」モンスター、「SS-グラッジ」を手札に加える」

男「この、相手がカードを手札に加えたタイミングでも、カードを発動できる」

男「発動条件にタイミングが書かれていないカードの効果だ。そのデッキだと……「超怪人再生」と「怪人軍団の強襲」があったな」

男「この状況では特に発動する意味も無いが、それができると憶えておくだけで行動が違ってくる」

男「だから、カードをサーチした時にも、相手に効果の発動の有無を確認をしなければならない」

アン「多い……」

男「ここまで詳しく確認する必要も無い。行動の後、少し待って、何もなければ続ければいい」

アン「うん。じゃあ、何もない」

男「よし。俺はこれで、ターンを終了する」


先攻:男 / 手札:3 / LP:6000
■…リバースカード
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|逆|□|■|□
□| □|□|□|□

□|□|サ|□|□
□|□| □ |■|□
サ…怪人サターナーズ ATK/1700 DEF/2000 攻撃
■…リバースカード
後攻:アン / 手札:3 / LP:8000


アン「私のターン、ドロー。……メインフェイズ、「怪人ゲルリアン」を召喚」

「怪人ゲルリアン」 水 ☆4 ATK/1100 DEF/1600 
戦士族/効果
①:このカードが召喚に成功した時に発動する。デッキから「怪人ゲルリアン」を1体特殊召喚する。
②:1ターンに1度、自分の墓地の「怪人」モンスター2体をデッキに戻して発動できる。デッキからカードを1枚ドローする。

アン「えっと、「怪人ゲルリアン」の召喚に成功した時、効果を発動」

アン「デッキからもう1体の「怪人ゲルリアン」を特殊召喚する」

言いながら、アンは男の様子を窺う。

男「効果の発動は無い。続けていい」

アン「じゃあ、「怪人ゲルリアン」を特殊召喚」

アン「ん……えっと、1000で、2000で……」

アン「……エクシーズ召喚は、同じレベルのモンスター2体以上をカードの下に置いて、出す」

男「そうだ」

アン「こう?」

2枚の「ゲルリアン」のカードを重ねながら、言葉足らずに尋ねる。
男が頷くのを見て、次はエクストラデッキから「超怪人メタルビースト」のカードを取り出し、2枚のゲルリアンの上に更に重ねた。

アン「こう」

男「それがエクシーズ召喚のやり方だ。下に重ねたカードはテキストにある「X素材」として扱われる」

男「エクシーズモンスターの効果を発動するのに必要だが、エクシーズ素材は不思議な空間でな……」

男「フィールドに存在している扱いにならない。素材になる時、フィールドを離れる扱いにならない」

男「どこにもいない扱いになるから、基本的に効果を受けない……と、挙げ連ねればきりがない」

アン「憶えた方がいい?」

男「可能な限りな。知っているのと知らないとでは、有利不利が大きく変わる」

男「これからエクシーズモンスターを使うなら、憶えろ」

アン「がんばる」

男「ああ」

アン「じゃあ、「超怪人メタルビースト」をエクシーズ召喚」

「超怪人メタルビースト」 闇 ランク4 ATK/2200 DEF/1000
獣戦士族/エクシーズ/効果
レベル4「怪人」モンスター×2
①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドにセットされているカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

アン「エクシーズ素材を一つ取り除いて、そのリバースカードを対象に効果発動」

そこまで言って、アンは取り除いたエクシーズ素材である「ゲルリアン」のカード1枚を手に持ったままふらふらさせる。
暫くそうした後、そろそろと墓地の上に置いた。

アン「……こっち?」

男「そうだ。取り除かれたエクシーズ素材は墓地へ送られる。手札を捨てる、デッキを墓地へ送るなどの処理と同じだ」

男「で、リバースカードを破壊だな。カードの発動は無い。対象のカードは破壊される」

リバースカード「SSS‐悪を殲滅する力」破壊!

男「良く判断した。今のは他のデュエリストでも悩む盤面だ」

男「総攻撃力は変わらないが、エクシーズに合わせて召喚自体を無効にしてくる可能性がある」

男「「SSS-逆襲の傷跡」のように攻撃宣言に反応するタイプかもしれない」

男「時の運と言ってしまえばそれまでだが……今の直感は大事だ」

唐突に褒められ、アンはくすぐったいものを感じた。
どことなく父の面影を感じるのは、気のせいに違いないが。

アン「バトルフェイズ。「サターナーズ」と「メタルビースト」でダイレクトアタック」

男「受けよう。ところで、このダメージで俺のライフがいくつになるか憶えているか?」

アン「……わかんない」

男「まあ、普段はデュエルディスクがやってくれるからな」

男「「グラッジ」と「グリーフ」の効果で1000ずつ払い、6000。今のダメージで3900減り、残り2100だ」LP:6000→2100

アン「計算はやい」

男「慣れだ」

さらっと答える男がかっこよく見えた。
いつか、自分もこのように成れるのだろうかと思いつつ、その姿が夢想できない。
もやもやとした気持ちのまま、今のデュエルには関係のない事だと、とりあえず捨てた。

アン「じゃあ、メインフェイズ2。私はターン終了」


先攻:男 / 手札:3 / LP:2100
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|逆|□|■|□
□| □ |□|□|□

□|機獣|サ|□|□
□| . □ .| □ |■|□
サ…怪人サターナーズ ATK/1700 DEF/2000 攻撃
機獣…超怪人メタルビースト ATK/2200 DEF/1000 攻撃●
■…リバースカード
後攻:アン / 手札:3 / LP:8000


男「俺のターン、ドロー。スタンバイ、メインフェイズ」

男「手札から「SS-グラッジ」を召喚。召喚成功時に手札を捨て、墓地の「SS」を特殊召喚する効果を選んで発動する」

アン「うん」

男「手札を1枚捨て、墓地の「SS-グリーフ」を特殊召喚する」捨てたカード→SSS-カウンター・ストライク

男「この時、「SS」モンスターの効果で手札から墓地へ送られた「SSS-カウンター・ストライク」の効果が発動する」

「SSS-カウンター・ストライク」 速攻魔法
①:自分フィールドの「SS」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
②:このカードが「SS」モンスターの効果で手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから1枚ドローし、自分のLPを1000回復する。
③:相手モンスターの攻撃宣言時に墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、自分フィールドの「SS」モンスターは戦闘では破壊されない。

男「デッキからカードを1枚ドローし、ライフを1000回復する」LP:2100→3100

男「「SS-グリーフ」が特殊召喚に成功した時に、ライフを払いサーチする効果を発動」LP:3100→2100

男「デッキから「SS」モンスター、「SS-ヴィンディクト」を手札に加える」

男「そして自分フィールドに「SS」モンスターが2体以上存在する場合、「SS-ヴィンディクト」は手札から特殊召喚できる」

「SS‐ヴィンディクト」 炎 ☆7 ATK/1500 DEF/1700
戦士族/特殊召喚/効果
このカードは通常召喚できない。このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。「SS-ヴィンディクト」の①の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①:自分フィールドに「SS」モンスターが2体以上存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:このカードが特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。自分フィールドの「SS」モンスター1体と相手フィールドのカード1枚を選んで手札に戻す。
 ●ライフを1000払う。このカードを破壊し、自分の墓地から「SS‐ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
③:フィールドから墓地へ送られたこのカードが墓地に存在する自分のスタンバイフェイズ開始時に1度だけ発動できる。手札を1枚捨て、ライフを1000払う。このカードを墓地から特殊召喚する。

男「そして特殊召喚に成功した「SS-ヴィンディクト」の効果を発動。ライフを払う効果を選ぶ」

男「大丈夫か? ついてこれているか?」

アン「そのカードのかくにんだけさせて」

男「ああ」

男は「SS-ヴィンディクト」のカードを手に取り、アンに渡す。
効果の多さに、正直言って目が痛くなるようだったが、アンは全てに目を通した。
そして自分なりにながら、その効果を理解しようとした。

何度も確認して、アンは慎重に、男にカードを返す。

アン「……大丈夫」

男「なら「ヴィンディクト」の効果で自身を破壊し、墓地の「SS-ヴィンディクト」以外の「SS」モンスター1体を特殊召喚する」LP:2100→1100

男「「SS-アヴェンジャー」を特殊召喚する」

「SS-アヴェンジャー」 炎 ☆8 ATK/1900 DEF/1900
戦士族/効果
このカードは「SS」カードの効果でのみ特殊召喚できる。
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。相手フィールドのカード1枚を選んで破壊し、自分のライフを1000回復する。
 ●ライフを1000払う。デッキから1枚ドローする。そのカードが「SS」モンスターだった場合、そのカードを特殊召喚できる。
 ●手札を1枚捨て、ライフを1000払う。相手フィールドの表側表示モンスターの効果を無効にし、攻撃力・守備力を0にする。その後、このカードの攻撃力・守備力はフィールドのカードの数×300アップする。

アン「なんかでてきた……」

男「「アヴェンジャー」の特殊召喚成功時に、手札を捨てて相手フィールドのカードを1枚破壊する効果を選んで発動する」

男「手札を1枚捨て、リバースカードを破壊する」捨てたカード→「戦士の生還」

アン「あう……「ミラーフォース」が」

リバースカード「聖なるバリア‐ミラーフォース」破壊!

男「お前もさっきやったように、罠カードを防ぐ為に、相手はこのように前もって破壊してくる」

男「その心理を逆手に取り、同時に不要な魔法・罠カードを伏せるテクニックもある」

男「今の状況は、その「ミラーフォース」は最初から伏せてあった。今のターンに、更にリバースカードをセットしたとする」

男「相手からすれば、そのカードだけでは防御に不安が残るから、更に追加でカードを伏せたように見える」

男「つまりは防御札として、後に伏せた方が優秀に見えるわけだ」

男「そう考えた相手は、後に伏せたカードの方を破壊する……まあ、そう上手くも行かないが」

男「逆に、最初から不要なカードのみを伏せ、相手の除去を消費させる事も可能だ」

男「だが、そればかりを意識して状況を不利にしたら元も子もない。飽くまでテクニックの一つに止めて憶えておけ」

アン「わかった」

男「よし。次にフィールド魔法「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」を発動」

「SSS-ウィーカーズ・ハビタット」 フィールド魔法
①:自分フィールドの「SS」モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールドの「SS」モンスターの数×200アップする。
②:自分フィールドの「SS」モンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。
 デッキから「SS」モンスター1体を選んで手札に加える。この効果は1ターンに1度しか発動できない。
③:このカードが効果で破壊される場合、代わりに自分フィールドの「SS」モンスター1体をリリースできる。

男「これにより、俺の「SS」モンスターの攻撃力・守備力は、フィールドの「SS」モンスターの数×200アップする」

アン「3体だから、600アップ……」

男「バトルフェイズだ。攻撃力2500になった「アヴェンジャー」で「メタルビースト」を攻撃する」

アン「「メタルビースト」は破壊される。私のライフは……ダメージを受けてないから、7700?」

男「正解だ。続いて攻撃力1800になった「グラッジ」で「サターナーズ」を攻撃」

アン「「サターナーズ」も破壊される……」LP:8000→7700→7600

男「最後に「グリーフ」でダイレクトアタック」

アン「……なんだか、ダメージを受けているのに、痛くないって、変」LP:7600→6200

ぽつりと呟く。

デュエルとは、命のやり取りに他ならない。しかしこのデュエルには、何も懸かっていない。
これではまるで、ただの遊びのようだ……と。

男「そうだな」

返ってきたのは、淡白な同意。
冷たいようだが、そうありながら男なりに思うところがあるのだろうと、勝手ながらアンは推測した。

男「バトルフェイズを終了し、そのままターンを終了する」


先攻:男 / 手札:1 / LP:1100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
不幸…SS-グリーフ ATK/1400(800) DEF/2100(1500) 攻撃
復讐…SS-アヴェンジャー ATK/2500(1900) DEF/2500(1900) 攻撃
恨…SS-グラッジ ATK/1800(1200) DEF/1700(1100) 攻撃
□| .逆 .| .□ .| □ |□
□|不幸|復讐|恨|□

□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:アン / 手札:3 / LP:6200


アン「私のターン。ドロー」

アン「スタンバイフェイズ、メインフェイズ……通常魔法「怪人再生」」

「怪人再生」 通常魔法
①:自分の墓地の「怪人」モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする。

アン「対象は「怪人サターナーズ」。何か、ある?」

これは、男に教わったコンボだ。実際に男自身が、『カオスクロス』の構成員から受けたコンボでもあると言う。
こうすれば除去をしつつ、エクシーズ召喚の素材が調達できる。基本的なカードの使い方だと。
それを再現できたのがどこか嬉しくて、アンの言葉も、どこか催促するようだった。

男「いや。続けていい」

アン「「怪人サターナーズ」を特殊召喚。「怪人」カードの効果で特殊召喚に成功した「サターナーズ」の効果発動」

アン「「SS-アヴェンジャー」を破壊する」

男「ああ。「アヴェンジャー」は破壊され、「ウィーカーズ・ハビタット」の上昇値は下がる」

アン「手札から「赤き剣のライムンドス」を通常召喚」

「赤き剣のライムンドス」 地 ☆4 ATK/1200 DEF/1300
戦士族
赤き炎の剣を持った戦士。炎の束縛で動きを封じる。

それは、効果を持たない通常モンスター。アンが自分のデッキから抜き取ったカードだ。
養父が大事にしていたカードで、弱いと理解しながらも信用していたモンスター。
このデッキでは足を引っ張るだけだと分かっていながらも、アンが使いたかったモンスター。

召喚した時、父の事を思い出した。一緒に戦っているようで、奮起できた。

アン「それと、手札から装備魔法「融合武器ムラサメブレード」を「赤き剣のライムンドス」に装備」

「融合武器ムラサメブレード」 装備魔法
戦士族モンスターにのみ装備可能。
①:装備モンスターの攻撃力は800アップする。
②:モンスターに装備されているこのカードは効果では破壊されない。

男「これで「赤き剣のライムンドス」の攻撃力は2000。俺のモンスターの攻撃力を上回ったな」

アン「バトルフェイズ。「ムラサメブレード」を装備した「ライムンドス」で「SS-グラッジ」を攻撃」

男「「グラッジ」は戦闘破壊される。だが、「SSS-逆襲の傷跡」の効果で、俺が受ける戦闘ダメージは0になる」

男「そして同時に、俺の「SS」モンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に、「ウィーカーズ・ハビタット」の効果を発動」

男「デッキから「SS」モンスター1体を手札に加える」

アン「そんな効果が……」

男「「ヴィンディクト」の効果を確認したところは良かった。だが、せっかくフィールドの表側表示のカードは公開情報なんだ」

男「怠らずに確認し、警戒すべきカードを把握しろ」

アン「わかった」

男「処理を続行するぞ。俺は「SS-ヘイト」を手札に加える」

アン「うん。……その効果は1ターンに1度だけ?」

男「そうだ」

アン「じゃあ、「怪人サターナーズ」で「SS-グリーフ」を攻撃」

男「攻撃力が負けている「グリーフ」は破壊される」

アン「バトルフェイズを終了して、ターン終了」


先攻:男 / 手札:2 / LP:1100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
□|逆|□|□|□
□| □ |□|□|□

□|サ|赤|□|□
□| □ |ム|□|□
サ…怪人サターナーズ ATK/1200(1700) DEF/1500(2000) 攻撃
赤…赤き剣のライムンドス ATK/2000(1200) DEF/1300 攻撃
ム…融合武器ムラサメブレード 対象:赤き剣のライムンドス
後攻:アン / 手札:1 / LP:6200


男「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、メインフェイズ」

すんなりとフェイズ移行を済ます男に、アンは妙な違和感を覚えた。
首を捻り、考え、なんとなくフィールドに目をやり、墓地に目をやり、思い出した。

アン「「ヴィンディクト」の効果は使わないの?」

男「驚いたな。「ヴィンディクト」の効果をもう憶えたのか。テキストが長い分、ちょっと見たくらいじゃあ憶え辛いカードなんだがな」

男「いや、その感覚は大事にした方がいい。違和感には根拠があり、相手の裏がある」

男「相手が考えている事、相手が仕掛けた策や思惑が分かる事もある。リバースカードを伏せていれば、対処するべき場所も変わる」

男「逆に、相手にとっては使ってしまうとその場は凌げるが窮地に陥る、と言う状況もある。そこを見極められれば、攻め時も分かる」

男「とりあえず、俺は「ヴィンディクト」の効果を使わない。何か、あるか?」

アン「わかった。ない」

男「なら「SS-ヘイト」を通常召喚」

「SS-ヘイト」 炎 ☆4 ATK/1000 DEF/1200
戦士族/効果
①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に、以下の効果から1つを選んで発動する。この効果を発動するターンに、自分は「SS」カードの効果しか発動できない。
 ●手札を1枚捨て、相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。
 ●ライフを1000払う。自分の墓地から「SS」モンスターを2体選んで手札に加える。
②:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから1枚ドローする。

男「「ウィーカーズ・ハビタット」の効果で「ヘイト」の攻撃力は200アップし、1200」

男「更に召喚成功時に、二つの内一つを選んで発動する。俺は手札を1枚捨てて相手モンスター1体を破壊する効果を選ぶ」

男「破壊するのは「赤き剣のライムンドス」だ」捨てたカード→「SSS-ウェイク・アップ」

アン「あう……うん」

破壊された「ライムンドス」及び、装備対象がいなくなった事で同時に破壊される「融合武器ムラサメブレード」を、惜しみながら墓地へ送る。

思い返してみれば、『カオスクロス』の構成員とデュエルした時も、このように効果で破壊された。
あの時は「ゲルリアン」を上回る攻撃力のモンスターを引いたと思えば、先の「地獄からの手」によって破壊されたのだ。
それに比べれば、相手モンスターを戦闘で破壊した今はよほど活躍したと言えるが……アンの胸中としては、もう少し、留まっていてほしかった。

男「バトルフェイズだ。攻撃力が上がった「SS-ヘイト」で「サターナーズ」を攻撃」

アン「攻撃力が同じ攻撃表示モンスターが戦闘をしたら、両方が破壊される」

男「そうだ。戦闘破壊耐性を持つなど、例外はあるがな。この場合はどちらもそれを持たないので、破壊される」

男「そして「SS」モンスターが戦闘で破壊された事により、「ウィーカーズ・ハビタット」の効果を発動。同じ条件で「SSーヘイト」の効果をチェーンして発動」

男「チェーンを処理し、まず「SS-ヘイト」の効果で1枚ドロー」

男「そして「ウィーカーズ・ハビタット」の効果でデッキから同じ「SS-ヘイト」を手札に加える」

男「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2にリバースカードを1枚セットして、ターン終了だ」


先攻:男 / 手札:2 / LP:1100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
□|逆|■|□|□
□| □ |□|□|□

□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:アン / 手札:1 / LP:6200


アンは、思考を切り替えた。「ライムンドス」は突破されたものの、結果的に男の場からモンスターは居なくなった。
ここでモンスターを引ければ、それこそ残る「ゲルリアン」程度の攻撃力のモンスターであっても、ダイレクトアタックで決着がつく。
気になるのはあのリバースカードだが、先ほどに男が語った『はったり』や『囮』のカードかもしれない。

勝てるかもしれない。アンは気合を入れて、カードをドローした。

アン「私のターン、ドロー」

そして、カードを見て、眉根を潜めた。
それもまた、アンが入れたカード。通常モンスターの「バニーラ」だ。

「バニーラ」 地 ☆1 ATK/150 DEF/2050 
獣族
甘いものがとっても大好きな甘党うさぎ。世界一甘いと言われる甘糖人参を探し求め、今日も明日もニンジンをかじりたい。

守備力はが高いが、代わりに攻撃力は無いに等しい。
このモンスターを攻撃表示で出しても決着はつかないどころか、返しのターンでこちらがダメージを受けてしまう。

しかし、引いたカードは変えられない。少なくとも、場に出せるモンスターを引けただけ良しとする。

アン「スタンバイフェイズ、メインフェイズ。モンスターをセットして、ターンを終了……」


先攻:男 / 手札:2 / LP:1100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
□|逆|■|□|□
□| □ |□|□|□

□|□|兎|□|□
□|□| □|□|□
兎…バニーラ ATK/150 DEF/2050 守備
後攻:アン / 手札:1 / LP:6200


男「俺のターン、ドロー。メインフェイズに、「SS-ヘイト」を通常召喚」

男「召喚成功時に、ライフを1000払い墓地の「SS」モンスターを2体選んで手札に加える効果を選んで発動する」

男「手札に加えるのは「SS-グラッジ」と「SS-ヴィンディクト」だ」LP:1100→100

アン「あ」

その時、アンは気付いて、ショックのあまり声を上げた。

「SS-ヘイト」の効果を使った事により、男の残りライフは100。
セットした「バニーラ」で攻撃しておけば、その時点でのライフは950。
つまり、「SS」の共通の効果の内、二つ目のライフを払って発動する効果を封じる事ができた。
その場合は代わりに手札を捨てて「バニーラ」が破壊されていた事だろうが……。
その場合にしても、男の手札が無くなり、状況が有利になった事には変わりない。

「バニーラ」は防御に使うモンスターと言う観念が先行して、他の事に全く気が回らなかった。

男「どうした?」

アン「……何でもない」

基礎。臨機応変、状況への応用。
経験が圧倒的に不足しているのは当然だが、デッキの強弱に関わらず、これでは勝てないわけだと、アンは納得した。

男「そうか。何もなければバトルフェイズに入り、「ヘイト」で裏守備モンスターを攻撃する」

アン「モンスターは「バニーラ」。守備力が「ヘイト」の攻撃力より高いから、破壊されない」

男「普通なら俺が反射の戦闘ダメージを受けるところだが、「逆襲の傷跡」の効果で俺は戦闘ダメージを受けない」

男「そして「SS」モンスターが戦闘を行ったダメージ計算終了時に、「逆襲の傷跡」の二つ目の効果を発動する」

男「戦闘を行った「SS」モンスターの攻撃力は、次の自分のターン終了時まで1000アップする」

アン「フィールド魔法の効果も合わせて、攻撃力……えっと……2200」

男「そうだ。バトルフェイズを終了し、そのままターンを終了する」


先攻:男 / 手札:4 / LP:100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
憎…SS-ヘイト ATK/2200(1000) DEF/1400(1200) 攻撃
□|逆|■ |□|□
□| □|憎|□|□

□|□|兎|□|□
□|□| □ |□|□
兎…バニーラ ATK/150 DEF/2050 守備
後攻:アン / 手札:1 / LP:6200


アン「……ドロー」

覇気なく、カードを引く。
男のライフは、残りたったの100。それに必要な一打ができないもどかしさ。
そして、じりじりと追い詰められる感覚。どんどんと勝利から遠のく気分。

まるで、『カオスクロス』の構成員とのデュエルのように。

男「これが」

男の声に、アンは顔を上げる。
男は無表情だった。いや、少し、不機嫌そうだった。
今のアンには、アンを不甲斐なく思い、疎ましく思っているように見えた。

余りにもバツが悪く、アンは顔を伏せる。

男「これが実戦だとして、そうやって諦めるのか?」

アンは、答えられなかった。

諦めなかった結果、それでも構成員とのデュエルには無残に負けた。

男「まあ、良いだろう。確かにこれは実戦じゃない。命は落とさないし、傷付きもしない」

男「ただ……大事なカードは、泣くんだ」

大事なカード。

アンの目に、「バニーラ」のカードが映る。
自然と、その手が自分の墓地に伸びた。二枚のカードをめくれば、「赤き剣のライムンドス」のカード。
デッキには、父が大事にしたカード。受け継いだ、小さな牙たち。

否定されて悔しい程、誇りがあるものでもない。
歴史も無い。過去も無い。男が操る「SS」のような強さもないし、覚悟も無い。

だけど、自分はどうしてこのカードたちをわざわざ「怪人」のデッキに組み込んだのだろう?
その時の自分は、どう考えていた?

興奮の中の想いが甦る。

男「戦っているのは、自分だけじゃ……」

一つだけ、前言撤回だ。

アンには、父と一緒に戦う、確かな「覚悟」があった。
アンには、父がいた。


アン「私だけじゃない」


男「……どうするんだ?」

アン「続ける」

アン「メインフェイズに、「バニーラ」をリリース。「怪人オク・トープス」をアドバンス召喚」

怪人オク・トープス 水 ☆6 ATK/2300 DEF/1500
海竜族/効果
①:このカードが自分の手札・墓地に存在する時、自分フィールドの表側表示の「怪人」モンスター2体をリリースして発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。
②:このカードをX素材とするXモンスターの攻撃力・守備力は500アップする。

アン「バトルフェイズに入って、「オク・トープス」で「ヘイト」に攻撃」

男「「ヘイト」は破壊されるが、俺はダメージを受けない。また、「ウィーカーズ・ハビタット」の効果で「SS」モンスターをサーチし、「ヘイト」の効果で1枚ドロー」

男「俺が手札に加えるのは「SS-ヴェンジェンス」だ」

アン「バトルフェイズを終了して、私はこれでターン終了」


先攻:男 / 手札:6 / LP:100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
□|逆|■|□|□
□| □ |□|□|□

□|□|オ|□|□
□|□| □ |□|□
オ…怪人オク・トープス ATK/2300 DEF/1500 攻撃
後攻:アン / 手札:1 / LP:6200


男「俺のターン、ドロー。メインフェイズ。「SS-グラッジ」を召喚」

男「「グラッジ」の召喚成功時に、手札を1枚捨てて墓地の「SS」を特殊召喚する効果を発動」

男「墓地の「SS-グリーフ」を特殊召喚する」捨てたカード→「SS-ヴィンディクト」

男「「グリーフ」が特殊召喚に成功した時、手札を1枚捨てて自分フィールドの「SS」モンスターの数×1000ポイント、自分のライフを回復する効果を発動する」

男「それにチェーンし、自分が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合に、手札の「SS-ヴェンジェンス」の効果を発動」

男「「SS-ヴェンジェンス」を特殊召喚する」

「SS-ヴェンジェンス」 炎 ☆6 ATK/1800 DEF/1300
戦士族/効果
(1):自分が「SS」モンスターの効果で手札を捨てた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選んで発動する。
 ●手札を1枚捨てる。相手フィールドの魔法・罠カードを2枚まで選んで破壊する。
 ●ライフを1000払う。デッキから2枚ドローし、手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる。

男「そして「グリーフ」の効果で、俺は3000のライフを回復する」LP:100→3100 捨てたカード→「SSS-逆襲の傷跡」

男「特殊召喚に成功した「SS-ヴェンジェンス」の、ライフを1000払い、デッキからカードを2枚ドローする効果を発動する」

男「デッキからカードを2枚ドロー。その後、手札から「SS」モンスター1体を捨てるか、手札を2枚捨てる」

男「……俺は「SS」モンスター、「SS-ネメシス」を捨てる」捨てたカード→「SS-ネメシス」


先攻:男 / 手札:3/ LP:2100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
恨…SS-グラッジ ATK/1800(1200) DEF/1700(1100) 攻撃
不幸…SS-グリーフ ATK/1400(800) DEF/2100(1500) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/2400(1800) DEF/1900(1300) 攻撃
□|逆| . ■ .|. □ . |□
□|恨|不幸|執念|□

□|□|オ|□|□
□|□| □ |□|□
オ…怪人オク・トープス ATK/2300 DEF/1500 攻撃
後攻:アン / 手札:1 / LP:6200


アン「また、攻撃力が」

男「バトルフェイズだ。「ヴェンジェンス」で「オク・トープス」を攻撃」

アン「うう……」LP:6200→6100

男「残る「グラッジ」と「グリーフ」でダイレクトアタック」

アン「あうう……」LP:6100→4300→2900

男「そしてそれぞれのダメージ計算終了時に、「逆襲の傷跡」の効果で攻撃力1000アップ」

男「バトルフェイズを終了し、そのままターン終了」


先攻:男 / 手札:3 / LP:2100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
恨…SS-グラッジ ATK/2800(1200) DEF/1700(1100) 攻撃
不幸…SS-グリーフ ATK/2400(800) DEF/2100(1500) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/3400(1800) DEF/1900(1300) 攻撃
□|逆| . ■ .| . □ . |□
□|恨|不幸|執念|□

□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:アン / 手札:1 / LP:2900


アン「わ、私の……」

ドローする手に力が入る。

相手の布陣は強力。モンスターがいる限り戦闘ダメージは無く、その数は3体、内1体の攻撃力は3000越え。その上で、ライフは2100。
ドローしたカードでこちらの手札は2枚。フィールドにカードは無い。勝ち目はない。

ならばせめて、父に恥じない敗北をする。

最後まで。

アン「ドロー……!」

引いたカードを見て、アンは目を見開いた。
正しく、直前のターンでこそ欲しかったカード。一枚順番が違っていれば、アンが勝利していたかもしれないカード。
今となっては手遅れなその引きに、アンは……しかし、考えるのを止めなかった。
状況を鑑み、勝利に繋がる可能性を模索する。

そして一つ、アンは閃く。

アン「スタンバイフェイズ、メインフェイズ。通常魔法「怪人再生」を発動。対象は……」


アン「「怪人ゲルリアン」」

因縁のカードとも言うべきそれに、アンは命運を託した。


男「……カードの発動は無い」

アン「「ゲルリアン」を蘇生。そして、「ゲルリアン」の二つ目の効果を発動」

アン「自分の墓地の「怪人」モンスターを2体デッキに戻して、カードを1枚ドローする」

アン「私は「怪人ゲルリアン」と「超怪人メタルビースト」をデッキに戻す」

男「ああ。エクシーズモンスターである「メタルビースト」は、代わりにエクストラデッキに戻るぞ」

選んだ2枚のカードを、それぞれの行き場に戻し、そしてカードが加わったメインデッキを、震える手でシャッフルする。
祈りながら、どうか勝利を願いながら、カードを混ぜる。

アン「そして、ドロー」

アン「……通常魔法「増援」」

「増援」 通常魔法
①:デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。

アン「デッキから戦士族モンスター、デッキに戻した「怪人ゲルリアン」を手札に加える」

アン「手札に加えた「ゲルリアン」をそのまま召喚し、効果を発動」

アン「デッキから最後の「ゲルリアン」を特殊召喚する」

アン「……「ゲルリアン」1号と2号で、エクシーズ召喚」

アン「ランク4、「超怪人ヴィラス・E」」

超怪人ヴィラス・E 闇 ランク4 ATK/2000 DEF/0
悪魔族/エクシーズ/効果
レベル4「怪人」モンスター×2
①:このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードと相手フィールドの表側表示モンスターの攻撃力は1000ダウンする。

男から学んだ通りであれば、この使い方で合っているはず。
それを信じ、アンの反撃は止まらない。

アン「「ヴィラス・E」のエクシーズ素材を1つ取り除いて効果発動。自身と、相手フィールドの表側表示モンスターの攻撃力を1000下げる」

男「そして「ヴィラス・E」の効果に回数制限は無い……」

アン「もう一度、エクシーズ素材を取り除いて効果発動」


先攻:男 / 手札:3 / LP:2100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
恨…SS-グラッジ ATK/800(1200) DEF/1700(1100) 攻撃
不幸…SS-グリーフ ATK/400(800) DEF/2100(1500) 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/1400(1800) DEF/1900(1300) 攻撃
□|逆| . ■ .| . □ .|□
□|恨|不幸|執念|□

□|□|E|ゲ|□
□|□| □| □ |□
E…超怪人ヴィラス・E ATK/0(2000) DEF/0 攻撃
ゲ…怪人ゲルリアン ATK/1100 DEF/1600
後攻:アン / 手札:1 / LP:2900


男「あの状況で、「逆襲の傷跡」で上がった攻撃力までも下げてくるとはな……」

男が感嘆の声を上げる。だが、アンはそれどころではなかった。
とりあえず、相手モンスターの攻撃力は戦闘破壊可能なまでに下げた。
この後だ。この後、どうすればいいのか、どうすれば勝てるのか。

アンの、頭の回転は止まらない。

アン「残った「ゲルリアン」3号の効果発動。墓地の「ゲルリアン」と「サターナーズ」をデッキに戻す」

アン「1枚、ドロー……!」

アン「……自分フィールドの「怪人」モンスター2体、「ゲルリアン」3号と「ヴィラス・E」をリリースして、墓地の「オク・トープス」の効果を発動」

アン「「オク・トープス」自身を特殊召喚する」

アン「そして今、墓地へ送った「ゲルリアン」と「ヴィラス・E」を除外して手札の「怪人デル・ガルダ」の効果を発動」

アン「手札から自身を特殊召喚する」

怪人デル・ガルダ 風 ☆6 ATK/2100 DEF/1000
鳥獣族/効果
①:このカードが手札に存在する時、自分の墓地の「怪人」モンスター2体を除外して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
②:X素材のこのカードが墓地へ送られた場合、除外されている「怪人」モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

男「これでレベル6のモンスターが2体か」

アン「……エクシーズ召喚はしない。バトルフェイズ」

男「……ああ」

アン「「オク・トープス」で「グラッジ」を攻撃」

男「戦闘ダメージは受けず、「SS」が戦闘で破壊された事で「ウィーカーズ・ハビタット」の効果を発動」

男「デッキから最後の「SS-ヘイト」を手札に加える」

アン「「デル・ガルダ」で「グリーフ」に攻撃」

男「だが、戦闘ダメージは受けない」

アン「バトルフェイズを終了して、メインフェイズ2。レベル6の「オク・トープス」と「デル・ガルダ」でエクシーズ召喚」

アン「ランク6、「超怪人ヴラド」」

超怪人ヴラド 闇 ランク6 ATK/2500 DEF/1000
悪魔族/エクシーズ/効果
レベル6「怪人」モンスター×2
①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。そのカードのコントロールを得る。この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力は1000ダウンする。

アン「「超怪人ヴラド」のX素材を1つ取り除いて、「SS-ヴェンジェンス」を対象に効果発動」取り除いたX素材→「怪人デル・ガルダ」

アン「そのコントロールを得る」

男「そしてそのモンスターの攻撃力は1000ダウンし、効果は無効になる」

男のフィールドからモンスターがいなくなり、しかしアンは歯噛みする。
やはりあと一手が足りない。また、こうなるのであれば、「ヴィラス・E」の効果を限界まで使うのではなかった。
そうすれば「ヴェンジェンス」を攻撃表示で維持できた。

だが、それは言っても仕方のない事だ。あの状況では最良の選択をしたと思う。

アン「エクシーズ素材として取り除かれた「デル・ガルダ」の効果を発動。除外されている「怪人」モンスター1体を手札に加える」

アン「「怪人ゲルリアン」を手札に加える」

アン「「SS-ヴェンジェンス」を守備表示に変更して、私はこれでターン終了」


先攻:男 / 手札:4 / LP:2100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
□|逆|■|□|□
□| □ |□|□|□

□|□|ヴ|執念|□
□|□| □ |. □ .|□
ヴ…超怪人ヴラド ATK/2500 DEF/1000 攻撃
執念…SS-ヴェンジェンス ATK/400(1800) DEF/1300 守備
後攻:アン / 手札:2 / LP:2900


男「俺のターン、ドロー。……メインフェイズだ。「SS-グラッジ」を召喚」

男「召喚に成功した「グラッジ」の、手札を1枚捨てて墓地の「SS」を特殊召喚する効果を選んで発動」

男「「SS-ヘイト」を捨て、同じく「SS-ヘイト」を特殊召喚する」

男「また、特殊召喚に成功した「ヘイト」の、手札を1枚捨てて相手のモンスター1体を破壊する効果を発動」

男「破壊するのは「超怪人ヴラド」だ」捨てたカード→「SS-ヴィンディクト」

推測できた、男の容赦ない排除。効果による除去の前では攻撃力は意味がない。
どれだけ苦心して逆転を閃こうとも、容易く打ち崩される現実に、自然とアンの喉から呻き声が漏れた。

倒せない。

男はこのデッキに、しかもアンが余計に加えた手の無い完全なデッキに、それを使い慣れた所有者を相手に勝利している。
その前提は、このようにして現れる。なけなしの反骨を捻り潰してくる。

まるで、自分の命自体を否定する試練であるかのように。
この世界を生き抜く資格を持たないと、語らずして語られているようだった。

男「バトルフェイズ。「ヘイト」で「ヴェンジェンス」を攻撃」

男は気にせずに、デュエルを続行する。余りにも淡白にして無慈悲に。
「ヘイト」は「ウィーカーズ・ハビタット」の効果で攻撃力が400上がり、1400。
ギリギリで「ヴェンジェンス」の守備力を超えた。アンは何も言わず、ステータスで負けた「ヴェンジェンス」を墓地へ送る。

男「続いて、「グラッジ」でダイレクトアタック」

アン「……うん」LP:2900→1300

男「そして「ヘイト」と「グラッジ」のダメージ計算終了時に、「逆襲の傷跡」の効果で攻撃力1000アップ」

男「バトルフェイズを終了。俺はこれでターンを終了する」


先攻:男 / 手札:2 / LP:2100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
逆…SSS-逆襲の傷跡
■…リバースカード
恨…SS-グラッジ ATK/2600(1200) DEF/1500(1100)
憎…SS-ヘイト ATK/2400(1000) DEF/1600(1200)
□|逆| ■| □|□
□| □|恨|憎|□

□|□|□|□|□
□|□|□|□|□
後攻:アン / 手札:2 / LP:1300


摘み取られる希望。またもやフィールドを空にされてターンを渡され、アンの心は折れかけていた。
エクストラデッキのカードでは打点を超えられず、「ヴラド」を蘇生してもエクシーズモンスター故に効果の発動はできない。
そもそもとして尽くした死力をひっくり返された時点で、これ以上どうしろと言うのだろう。
さっきの話に戻せば、例えばこれが実戦だったら。

だとしても、諦めてしまう。

こんな戦いについていけるわけがない。奮起も、覚悟も、全てを奪われる。
何を浮かれていたのだろう。興奮していたのだろう。この世界はそんな世界なのだ。
強者が弱者から奪い取る。奪われた弱者に居場所は無い。

それがこの世界。そしてアンは、所詮は弱者に過ぎなかった。
決して上に立つ事ができない弱者。食われるだけの弱者。いないのと同義の……。

男「ドローしろ」

びくんと、体が震えた。

男「その一枚がお前の価値だ。引け」

男「引かなければ、結果なんて分かりもしない」

アン「……意味、ない」

アン「ドローしても、勝てない。私に、価値は無いよ……」


男「生きていてほしい人がいたとしても、そう言うのか?」

いいかい、アン。僕は君に生きていてほしい。だから、このデッキを……。


ハッと、アンは顔を上げた。目の前には、仏頂面で真っ直ぐアンを見つめる男。
その背後に、何故か、亡き育ての父の幻。決して強くなかった父が、絶やさなかった優しい微笑み。
似ても似つかないのに、遺言と少しだけ似ているその言葉で、アンは思い出す。

今まで欲張った事も無いし、諦めた事も無い。デュエルなんて今の今までした事ないから。
だけど、これは、アン自身だけの欲望ではない。父の、そしてアンを助けた男の想いも、重なってここにある。

生きたい。奪われるのは、いやだ。

活力が漲る。自分がそう思える生き物であり、そう思われる生き物であった事。そんなものは知りもしないし、学ぶ機会も無かった事実だ。
それを認識したうえで、改めて、例えば、これが実戦だったら。


黙って、奪われて良いわけがないんだ。


アン「私の、ターン……」

手が震える。恐怖が理由でもあり、アンは実感した事も無いが、それを武者震いとも言う。

アン「ドロー!」

荒げた声は、赤く暗い空に響く。それによって、ドローしたカードが変わる事は無い。
自分の実力が急に高まる事も無いし、フィールドが狂う事も無い。ただ、叫びたかった。

ドローしたカードを見るのが恐い。だけど、アンは。


アン「――――速攻魔法「サイクロン」! フィールドの魔法・罠カードを1枚破壊する!」

「サイクロン」 速攻魔法
①:フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

アン「破壊するのは「SSS-逆襲の傷跡」!」

男「「逆襲の傷跡」が破壊された事でその効力がなくなり、「グラッジ」と「ヘイト」の攻撃力は戻る」

男「……それだけか?」

アン「メインフェイズに、「怪人ゲルリアン」を召喚! 召喚に成功した時に、デッキからもう1体の「ゲルリアン」を特殊召喚!」

アン「召喚した方の「ゲルリアン」の効果、墓地の「デル・ガルダ」と「ヴラド」をデッキに戻して発動する!」

アン「デッキから1枚、ドロー!」

ドローしたカードを見て、アンは表情を歪ませる。欲しいカードではない。
これでは、勝つ事はできない。

アン「もう1体の「ゲルリアン」も効果発動! 墓地の「ゲルリアン」と「オク・トープス」を……デッキに戻す」

アンにとっては苦肉の策。フィールドの2体の「ゲルリアン」をリリースし、墓地の「オク・トープス」を特殊召喚すれば、少なくとも戦線は維持できる。
だが、維持するばかりでは勝利を掴めない。それは、男の容赦のない行動で身に染みている。
これはアンにとっての賭けだった。自分がこの世界で生きて良いのかどうか。

アンの選択は、価値あるものなのか。

アン「ドロー!」



アン「……揃った」


カードを見もせずに、アンは呟いた。アン自身にも理由は分からないし、証明のしようも無い事だが……何を引いたのかカード自身が「教えていた」。
男が言うような、「大事なカード」だからか。デュエルを始める前にアンが思って入れた、「切り札」だからか。

男「そうか」

変わらず、男は素っ気なかった。ただ、アンからすれば、もはやどうでも良い事だった。
アンの目には、頭には、見えた勝利への道筋しかない。それを辿るしかなかった。

アン「通常魔法「二重召喚」、発動」

「二重召喚(デュアルサモン)」 通常魔法
①:このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

アン「これでもう一度、通常召喚できる」

アン「「ゲルリアン」1体をリリースして、「隻眼の水龍」をアドバンス召喚」

「隻眼の水竜」 水 ☆6 ATK/1600 DEF/1400
海竜族
水辺に住まう片眼を失った竜。かつてその眼は、過去と未来を見通したと言われる。

これこそが、アンにとっての切り札。アンの、元々のデッキの中で、一番攻撃力が高かったモンスター。
男の「SS」には遠く及ばず、今のデッキであれば「超怪人ヴラド」の方が切り札に相応しい。このカードの攻撃力を上回る下級モンスターだって入っている。
大したレアカードでもないし、強力なカードでもない。それでも、このカードをデッキに入れたかった。
父が、それこそ一番大事にしていたカードだから。

その痕跡を、残す。

アン「そして、アドバンス召喚した「隻眼の水龍」を対象にして通常魔法「アドバンス・レガシー」を発動」

アドバンス・レガシー 通常魔法
①:自分フィールドのこのターンにアドバンス召喚した通常モンスター1体を対象として発動できる。自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力は、ターン終了時まで対象としたモンスターの攻撃力分アップする。

男「そのカードは……」

アン「自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力は、ターンの終わりまで対象のモンスターの攻撃力分アップする……!」

アン「これで「ゲルリアン」の攻撃力は2700、「隻眼の水龍」の攻撃力は3200!」

先攻:男 / 手札:2 / LP:2100
フィールド…SSS-ウィーカーズ・ハビタット
■…リバースカード
恨…SS-グラッジ ATK/1600(1200) DEF/1500(1100)
憎…SS-ヘイト ATK/1400(1000) DEF/1600(1200)
□|□| ■| □ |□
□|□|恨|憎|□

□|□|隻|ゲ|□
□|□| □| □ |□
隻…隻眼の水龍 ATK/3200(1600) DEF/1400
ゲ…ゲルリアン ATK/2700(1100) DEF/1600
後攻:アン / 手札:0 / LP:1300


アン「バトルフェイズ! 「ゲルリアン」で「SS-グラッジ」を攻撃!」

男「「ウィーカーズ・ハビタット」の効果は……発動しない」LP:2100→1000

アン「「隻眼の水龍」で「SS-ヘイト」を……攻撃!」

男「…………俺の負けだな」LP:1000→0


肩で息をし、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す。状況が上手く整理できない。
男は敗北を認めた。自分とのデュエルに負けた事を認めた。自分は勝った。勝利したのだ。
アンの脳は順を追って、それを理解する。だが、それでも、開いた口は塞がらない。

アン「私の、勝ち……?」

呆けた様子で、何とかして口にする。

男「そうだ」

アン「本当に?」

男「ああ」

男の、素っ気ないようで優しい口調は、アンの心に染みて宥める。
途端に、いつの間にやら体に入っていた力が抜けていった。

アン「やった……」

アンの、人生で二度目のデュエルにして、初めての勝利だった。


広げたカードを回収しながら、男は自分のリバースカードを手に取る。
それは通常罠「SSS-傷だらけのララバイ」。『カオスクロス』の構成員とのデュエルで逆転を齎したカードだった。

「SSS-傷だらけのララバイ」 通常罠
①:自分の墓地の「SS」モンスターを任意の数だけ除外して発動できる。自分のLPを除外したモンスターの数×1000回復する。その後、除外したモンスター3体につきデッキから1枚ドローできる。

当然の事ながら、このカードを発動していれば男はデュエルに負ける事は無かった。
その他に、本来ならば強制効果で発動しなければならない「逆襲の傷跡」の二つ目の効果の見過ごし、墓地の「カウンター・ストライク」の効果、「ウィーカーズ・ハビタット」のサーチ対象、その他諸々……多くの効果を普段通りにしていれば、早々にデュエルの決着がついていた事だろう。
早い話が、男は手を抜いていたのだ。最初から最後まで。

だが、それは少女に華を持たせようなどと言う、御輿担ぎなどでは決してない。
この世界で生き抜くために、必要な技術と力が必要になる。このデュエルを通して、それを授けるのが目的だったのだ。
それができたのならば、勝敗など男にとってはどうでもよい事だった。

そして結果で言えば、男はひどく驚いた。驚愕した。
カードに対する理解力。男が発破をかけたと同時に少女が見せた、デュエルセンスの爆発。ドローと言う不確定要素の可能性に賭けた度胸。
それを引き寄せる運。どれを取っても、少女と同じくらいだった頃の男と比べて強者に位置する。
問題があるとすれば年齢からのメンタリティだが、それの解決も時間の問題だろう。

その事は、静かに、無邪気に喜ぶ少女には言わない事する。
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