第94話　自信を持って一歩進む　作：ター坊

~美羽サイド~

カキカキ…

―ん

カキカキ…

―さん

カキカキ




「…美羽さん？」
「へっ？」
私が振り向くと玲子さんとアキが立っていた。
「わっ！ごめんなさい、気付かなくて！」
「い、いえ」
「よっぽど集中してたけど、何をしてたの？」
「えっと…」
どうしよう…。二人を無視した上にこんなの描いてたなんて言ったら絶対嫌われる…。
「えっと…。これ…だけど……」
だけど黙ってたらもっと嫌われる。そう思って私はスケッチブックを差し出す。
「これは…」
私が描いてた物…。それは
「わぁ…」
「これって『ブラック･ローズ･ドラゴン』よね？」
「ごめんなさい…。絵描いてると集中して周りの声とか全然聞こえなくなっちゃって…」
あぁ…終わった。玲子さんとアキ…初めて友達と呼べそうな人が出来たのに…。
「凄い綺麗ですね…」
「ホント…。私のカードとそっくり…」
「…ホントにごめんなさい…」
「いえいえ。なんだか私達の方こそ、すみません」
「何か夢中になってるとそうなっちゃうものね」
「でも…」
「そこまで大した用事でもないし、気にしないで。それより私、美羽のこともっと知りたい」
「アキ…」
とっても優しいな…。私のクラスにもこんな人がいれば学校とかもっと楽しかったのかな…。
「でもホントに綺麗ですよね。翼の部分の描き込み具合が…」
「そ、そうかな…/ / /」
「えぇ。お手本も無しでここまで描けちゃうなんて、すごい才能だと思う」
「……/ / /」
「あれ？美羽？」
「…ここまで誉められたことないから……/ / /」
「そうなんだ。他にもあるの？」
「うん…一応」
私はスケッチブックを捲るようアキに促す。
「あ！これユイさんのギア･デスティニー･ドラゴン。機械の部分の質感が細かい…」
「こっちはメビウス･ライフ･フェニックス…。色鉛筆でこんな色出せるのね」
私が使ったのはDuelyにあった黒の鉛筆と色鉛筆セットだ。二人は私の描いた絵に目を輝かせて見ていた。
「どれも綺麗なイラストね」
「うん…。私、将来カードデザイナーになりたくて…」
「そうなんですか？」
「きっと良いデザイナーになれるわ…ん？」
アキはあるページに目を止めた。
「これは…見たことのないモンスターね。黒い羽の天使？」
「あ。それは…私が考えたモンスターで…」
「そう…。繊細に描かれてるわ…」
「うん…。とっても気に入ってるの。こっちで描いた中では一番の自信作…かな？」
「そうなんですか？ちなみにこのカードの名前は？」
「あ…。まだ考えてなかった…」
「フフ。そうなの？でもこのイラスト、私は好きよ」
「私も好きですよ。と言うより美羽さんの絵が素敵です」
「えへへ…。そうかな？ありがとう / / /」
こうして認めてくれる人がいるって、こんなに嬉しいんだ。やだ、泣きそう。でも泣いたら変に心配かけちゃうよね。
「そうだ、美羽さん。似顔絵って描けますか？」
「えっと…描いたことないけど…。どうかな…」
「あの…良かったら私を描いてくれませんか？」
「え！？玲子さんを？」
「あの…ダメですか？」
「いや…ダメじゃないけど…」
「そうだ。ついでに私も描いてもらっていいかしら」
「アキも？」
「うーん。やっぱり難しいかしら…」
今まで似顔絵なんて描いたことない。美術の二人一組でやる人物画の実習も全部仮病で休んだ。けど…この二人のお願いは断りたくない。
「えっと…。あんまり上手に描けないかもしれないけど…。それでも良い…なら……」
「えぇ。じゃあお願いね」


カキカキ…

ケシケシ…

カキカキ…

案の定、想像で描くのと目の前の人物を描くのとでは大きなギャップを感じる。気を付けないとすぐにバランスが狂ってしまう。二人にはベッドに腰掛けた状態のポーズをとってもらっている。

カキカキ…

ケシケシ…

カキカキ…

カキカキ…　

「こんな感じかな…」
「どれどれ…」
完成した絵を二人に見せる。
「こういう風に描いてもらえるって嬉しいですね」
「ホント。私達にはできないことだから、凄いって思えるわ」
良かった…。気に入ってくれたみたいだ。
「でも、どうして急に似顔絵なんかを？」
「美羽がどんな風に絵を描くのか最初から見たかったからよ」
「とても集中して、普段とは違って凛々しい感じがしましたよ」
「そんな、凛々しいなんて…/ / /」
「そうだ。美羽さんの絵、他の人にも見せたらどうでしょう？」
「ふぇ！？でも…」
「大丈夫よ、美羽の絵は素敵だから。もっと自信を持って」
自信…。いつもスケッチブックは破かれたり、びしょ濡れにされたりで他人に見せる機会なんて無かった。いつもそうだから、無意識に私の絵は本当にダメなものだと思ってた。けど、玲子さんとアキに素敵と言われて思い違いなんだと気付かされる。こうして私の絵を好きと言ってくれる人がいると力強い。
「……二人がそこまで言うなら」



また私は新しい自分への一歩を進めた気がした。