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HOME > 遊戯王SS一覧 > TURN 33 雷電―孤島に掛かる橋―

TURN 33 雷電―孤島に掛かる橋― 作:Dann

 暗かった。
 そこにはとてつもない闇が広がり、蔓延っていた。
 闇の中には人影が数個あった。

 「迂闊だった……」
 「奴があの計画の結果だったとは……」
 「だが、あのシステムはまだ完全に起動していない。叩くなら今だろう」
 「ふむ……俺としては全員集まってからフェアに戦いたいがなぁ」
 「こちらの方が数は圧倒的だ。今更フェアも何も無かろうに」
 「ぐ、ぐぬ……」
 「そういえば“ζ”、貴様あまりにもあっさりと負けおって……!」
 「やかましい“ρ”。挨拶程度なんだから別にいいじゃねえか」
 「言い訳など聞きたくない。次は私が行く!」
 「控えなさい“ρ”。“ο”達にでも行かせればいいでしょ」
 「ちぃ……」
 「じゃあ、今日はこれで解散だ」

 人影達はそこから姿を消した。





 夜。
 ハイウェイで2台のD-ホイールが走っていた。
 1台は抜群の速度でもう1台との差をドンドン広げていった。
 乗り手はそのシルエットから女性であると直ぐ分かる。
 しかしもう1台は新たなフィールド魔法《スピード・ワールド2》を発動させ、強制的に決闘に持ち込み、相手のスピードを抑制した。

 「ふ~ん……セキュリティ程度の力じゃ決闘に持ち込まないと私を捉えられないのね~。いいわ、付き合ってあげる♪」
 「舐めるなよ、女……俺の先攻!」

 決闘を始めた二人。
 しかし、その2分後には決着が付いていた。

 「じゃあ、これで終わりにするわよ。《セイバー》ちゃんで直接攻撃♪」

 『はぁぁぁ!』

 青い服と鎧を身に纏った騎士がセキュリティに切りかかった。

 「ば、馬鹿な……!」
 【LP:0】

 セキュリティのD-ホイールの画面にDEFEATと表示され、煙を上げて停止した。

 「畜生!」
 「それじゃ~ね~♪」

 女性は飛びきりの笑顔を置いて走り去った。





 その日、雀夜達はサテライトとシティを繋ぐダイダロスブリッジの建設の手伝いに駆り出されていた。

 「朝っぱらから力仕事かよぉ……」
 「愚痴ってる暇があるなら働け、真。どうせ俺ら暇なんだから……さっさと荷物載せろ」

 真が物資を運び、雀夜がそれをF・ドライガーで運んで行った。
 と、そこに大きく、深い溜息が聞こえた。

 「……はぁ」
 「ん?」

 見ると、古びた電柱に手を着き、うな垂れている少女が一人。
 葵だ。

 「葵、救護部の手伝いはどうした?」
 「それが……私不器用だから上手くいかなくて……で、こっちに廻された……」
 「あー、それは……ドンマイ……」


 「…………」
 『まだこの間の事考えてるのか?』

 F・ドライガーで走る雀夜にフィニーが声をかける。
 先日、雀夜達はダークシグナーと戦い、葵を心配してシティに無断進入した。
 その日の夜に不動遊星達シグナーとダークシグナーとなった治安維持局局長が最終決戦を繰り広げ、冥界の王が現れた。
 それと共に現れた突撃してくるヘドロ鳥を避けきれず、直撃……

 「……する瞬間に、何かあったんだよな?」
 『ああ。俺と雀夜とで何かが起こったんだが……』

 全く覚えていない。
 気がつけば境界の詰め所前でF・ドライガーに跨っていた。

 「俺に何があったんだ……?」
 『雀夜! 前見ろ!』
 「え?」

 フィニーの声で前を見る。
 進行方向には作業員が歩いていた。

 「やべっ!?」
 「うわっ!?」

 すんででハンドルを切り、衝突を免れた。

 「ぶねぇだろぉが、このガキが!」
 「すんませぇん!」

 作業員に怒鳴られて謝り、雀夜は荷物の届け先へ急いだ。





 「なんだか面白い事やってるジャン?」

 黒いライディングスーツに身を包み、黒のヘルメットから長い金色の髪を出して、漆黒のD-ホイールに跨る女性がいた。
 どこか、高台からその女性はダイダロスブリッジ建設の作業風景を眺めていた。

 『それは良かったわね』

 どこからとも無く女性の声が聞こえる。

 「ねぇねぇ見て! あの子、精霊従えてるわよ!」
 『あなた程の数じゃないでしょうに……』

 龍の姿を模したD-ホイールに乗る青年を見てはしゃぐ女性に対し、姿の見えないもう一人の声は呆れ気味だった。

 「ふ~ん? ……お、可愛い娘発見♪」
 『またなの? いい加減にしておきなさいよ、悠美?』
 「いいじゃん、いいじゃん?♪ 可愛い事はいい事よ?♪」

 姿の見えないもう一人の制止を軽く流し、悠美と呼ばれた女性はD-ホイールを走らせ建設現場へ向かった。

 一段落した雀夜達は休憩を取っていた。

 「しかし、シグナーとダークシグナーの決戦が終わって早速集合かよ」

 雀夜が停めたF・ドライガーによっかかりペットボトルの水を飲みながら言った。

 「まあ、私は停学中だから……言い方はアレだけど、暇なんだよね」
 「あ~。“ζ”みたいな奴らの団体を倒すまでは学校行かないのか」

 真がボトルをトスしながら葵に言う。

 「うん。あのカード、取り戻さないと安心できないし」
 「そっか。そういえば、狩は?」

 背伸びしながら雀夜が狩を探す。

 「……あ、あそこに居る」

 葵が辺りを見回すと、海を見ながら棒立ちする狩を発見した。

 「……海もいいな」

 次の旅の予定でも立てているのだろうか?

 『……ん?』

 雀夜の肩に止まるフィニーが飛び、背後に向き直る。

 「? どうした?」
 『いや、何か来るな……』

 雀夜の問いにフィニーが答えるのと同時に漆黒のD-ホイールが止まり……

 「ヤッホ~、少年少女諸君元気~?」

 間の抜けた女性の声が聞こえた。

 「……え?」
 「は……?」

 雀夜達は呆気に取られてしまった。

 「あれ? なんか変だった?」
 『ええ、とっても。こういう反応が正しいわ』

 ヘルメットを外しながら話す女性に対し、もう一つの声が呆れたように言う。
 一言で簡潔に言えば妖艶な女性である。

 「……精霊か?」
 「君も精霊を従えてるのよね。でも、こっちはそれとはちょっと違うかな?」
 『ふむ……まあ確かに少し違うわね』

 姿無き声の主は女性の言葉を肯定した。

 「精霊持ってる君も興味あるけど……」

 と、女性の視線はボトルの水を飲む葵を捉えた。

 「?」
 「やっぱ美少女ね~♪」

 その言葉を残し女性は姿を消した。
 ……ように見える程の速度で移動した。

 「速い……!?」

 雀夜が驚愕している内に葵の背後に回りこむ。

 「ヘ?」

 そして葵が少し驚いてる内に両腋から手を伸ばしていた。
 そのまま胸を鷲掴みにする。

 「「「『!?』」」」

 葵は突然の出来事に呆気に取られ、真は予想外の出来事にボトルを落とし、雀夜は驚きで寄り掛かっていたF・ドライガーからずり落ち、フィニーはその衝撃で雀夜の肩から落ちた。

 「ふむ……手の平ジャストフィットね。この娘良いわ♪」
 「キ、キャァァ!!!」

 葵が今まで出した事のないような悲鳴を上げた。
 当然の反応だろう。

 『ああ……また始まった……』

 女性の精霊(?)は呆れ気味である。

 「な、何だ……?」

 真はまだ事態の把握ができていない。
 葵も抵抗はしているものの彼女にされるがままとなっている。

 「……ん、あれって?」

 我に返った雀夜が見つけたのは、葵の胸を揉みしだく女性の右手の甲にある見た事の無い記号だった。

 「あんた……“ID”か?」
 「あら、君も“ID”?」

 女性は喋るが、手は止めようとしない。

 「とりあえず手止めろ」
 「え~?」

 雀夜に咎められるが、女性は軽く流した。

 『ったく、この子は……ほら、放してあげなさいっ!』
 「痛っ!」

 女性と葵の間に何やら電流の様なものが走った。
 彼女の精霊(?)によるものだろう。

 「ひ、酷い目に遭ったぁ……」
 「だ、大丈夫か?」

 涙目の葵を雀夜がなだめ、真はそれを横からどこか冷たい目でそれを睨む。

 「あれ、でも“ID”ならコイツの事分かると思うけど?」
 『まあ確かに変ね。あ、姿見せれば分かるかしら?』

 見えない精霊(?)はようやくその姿を現した。

 「な……!」
 「これって確か……」
 「《降雷皇ハモン》……!?」

 目の前に現れたのは骸骨とも虫とも言えそうな金色の異形、降雷皇ハモンだった。

 『まあ、この外見でこういう声ってのもキャラ崩壊って感じだけどね』
 『た、確かに……』

 未だに落ちたままだったフィニーがやっと雀夜の肩に止まる。

 『さて。あなた達も持ってるでしょ、カードを?』

 ハモンの声を肯定するように各々がカードをデッキから取り出した。

 『えっと、《オシリス》、《ラー》、《ウリア》。で、あっちの彼が《オベリスク》、と』

 ハモンが雀夜達のカードを眺めながら言った。

 『まったく……何時まで寝てるつもり? さっさと起きなさい!』

 そう言うと共にハモンは雀夜達“ID”目掛けて小さな雷を落とした。

 「っ!?」
 「ぐっ!」
 「きゃっ!」
 「……?」

 その痛みで全員がその場に尻餅をついた。

 『……む。この雷、ハモンか?』

 やっと目を覚ましたように言ったのは頭に口が二つある赤い天空の神、オシリス。

 『くぅ。我を無理矢理起こすとは……ハモン、後で覚えていろ』

 少し苛立ちげに言うのは黄金に輝く不死鳥のような外見の太陽の神、ラー。

 『ハモン、痛い……』

 単語だけを1つ1つ繋げたように話すのは青くゴツイ見た目の大地の神、オベリスク。

 『相変わらずハモンちゃんは厳し~ね~』

 軽薄な雰囲気を漂わせる話し方をするのはオシリスと似た外見の炎の魔物、ウリア。

 「お前ら……喋るのかよ……」

 呆気に取られた雀夜がオシリスに話しかけた。

 『……悪いが、リアクションは後で各々取ってくれ』

 口を開いたラーは雀夜達の後ろを見た。

 「見つけたぞ、影天悠美(かげあま ゆうみ)ぃ! スピード違反及び公然猥褻の罪でお前を逮捕だぁ!」

 白いD-ホイールがそこには止まっていた。
 灰色の制服を着たセキュリティの青年がそこに居た。

 「アンタ何やったんだよ……」
 「だってぇ~。法廷速度なんて守ってたら満足できないし、女の子は可愛いし♪」

 呆れる雀夜に悠美はむしろ当然のように返した。

 「お前には逮捕状が出ている。しっかり罪は償ってもらうぞ!」
 『おい、セキュリティ! お前の後ろにもっと怪しい奴らが居るぞ!』
 「あぁ?」

 セキュリティにはフィニーの姿は見えていないが、その声でセキュリティは背後を振り返る。
 姿も見えない声の主に従うこのセキュリティは何なのだろうか……

 「なんだこりゃ!?」

 〔――――〕
 〔――――〕

 真っ黒な人型、しかし明らかに無機質の人間ではないものがそこに居た。

 「なんだよ、アレ?」
 「ロボットか何かか……?」

 〔〔――Duel〕〕

 二つの黒い機械は左腕に装着されたデュエルディスクと思しき物を展開させた。

 「ふぅん? あいつ等が作った決闘用のロボットって所かしら?」

 あいつ等、恐らく“ζ”が所属する組織の事だろう。

 「なんだか知らねぇが、この俺に決闘を申し込むとはいい度胸だ」
 「丁度いいわ。タッグデュエルと洒落込もうじゃない、セキュリティ君?」

 悠美がセキュリティの隣に立ち、デュエルディスクを自分のD-ホイールから外した。

 「なんで俺が犯罪者と」
 「つべこべ言わずにさっさと構えなさい。他の皆もね」

 そう言うと悠美は雀夜達を見る。
 辺りを見ると同型のロボットが数体、雀夜達を囲んでいた。
 周囲には他の作業員の姿はない。
 “ζ”のように人払いとやらをしたのだろうか……

 「別にいいぜ。相手してやる」

 雀夜達もデュエルディスクを展開し、各々が1体ずつを相手にした。

 「……タッグデュエルにする意味はあるのか?」
 「別に~? 面白いから良いジャン♪」

 笑顔で返されセキュリティが反応に困ってる間に決闘は開始された。

 ――影天悠美&セキュリティの青年ペア【LP:4000・4000】
 VS
 黒ロボット×2ペア【LP:4000・4000】――

 「「決闘!」」
 〔〔Duel〕〕


//本作のエロ担当「影天悠美」の登場でございます。ワーワー、キャーキャー!!(悲鳴)
//ちなみに、作者がID’sキャラの中で最も苦手とするキャラですww
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