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HOME > 遊戯王SS一覧 > 26:心に巣食う魔物

26:心に巣食う魔物 作:ほーがん

第26話「心に巣食う魔物」



「わ、わかった!俺の負けだ!サレンダーする!」

太った男はへたり込み、顔を青くして言った。
「まぁ、いいか。ほら、D・ポイントを置いて行きなよ。」
男は腕から外したD・ディスクを放り捨て、怯えるように逃げ出した。それを少年、ケンジは拾い上げ自分のD・ディスクのリーダーに当てる。
「これで、90ポイント・・・。」
ケンジは男の残したD・ディスクを投げ捨て歩き出した。
「あの日から僕は変わったんだ。誰も僕を見下す事は出来ない。」
ケンジは笑う。しかし、その目には光が宿っていない。
建物の影に立ち、汗を拭うケンジ。あの日、謎の存在にカードを与えられてから、体の動きが鈍くなっているのを感じていた。
「はぁ、少し疲れた・・・。」
その時。離れた場所から声が聞こえた。

「おい、お前!俺達とデュエルしな!」

声のした方向を横目で見るケンジ。そこには刺青を入れた柄の悪い男三人が立っていた。
ケンジは溜め息をつく。
「(なんだこいつら・・・。まぁ、いいか。こんな奴ら僕の敵じゃない。)」
ケンジは影から出ると小さく笑った。
「いいよ。相手になってあげる。ただ後悔しないようにね・・・。」
その言葉に男達は怪訝な顔をする。
「はぁ、何言ってんだこのガキ?」
男の内、一人、眼鏡の男がケンジの頭を叩き煽る。
「お前、状況わかってんのかぁ?今からお前は俺達にズタボロにされんだよ!この頭はお留守ですか〜?ぎゃははは!」
ケンジはその手を振り払い、D・ディスクを構えた。
「やるならさっさとすれば?」
男達は不機嫌な顔をする。その三人の内のリーダー格と思われる男が、残りの二人に言う。
「おい、誰からこいつを潰す?」
ケンジは清ました顔で言った。
「三人纏めて来なよ。」
男達は驚くと同時に笑う。
「はぁ?馬鹿かお前?そんなことしたら瞬殺だろうがよ!」
ケンジは笑う。
「そっちの方が手間がかからないで済むんじゃない?」
その言葉を受け、男達は同時にD・ディスクを構えた。
「舐めやがって!!その減らず口、叩き潰してやる!お前!ポイントは全賭けしろ!!」
ケンジは頷く。
「ああ、いいよ。ただしそっちは一人に付き30ポイント賭けてもらうから。」
男達は互いの顔を見て頷き合う。
「構わねぇ!その気に入らねぇ面をぶっ飛ばしてやる!!」
心の中でケンジは呟く。
「(馬鹿な奴らだ・・・。)」


『デュエル!!(LP4000 VS LP4000×3)』


男達の内、リーダー格の男が前に出る。

「お互い、1ターン目はドローとバトル無しだ!俺が先攻を貰う!手札から《アックス・ドラゴニュート(☆4/闇/ドラゴン/2000・1200)》を召喚!」

フィールドに戦斧を携えた竜人が現れる。

「俺はこれでターンエンド!次はてめぇのターンだ!」



指を差され、ケンジは手札を確認する。

「僕は魔法カード《古のルール》を発動。手札からレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する。《ストーン・ドラゴン(☆7/地/岩石/2000・2300)》を守備表示で特殊召喚。」

ケンジの前に、とぐろを巻き岩石の竜が出現した。

「はぁ?なんだそのモンスターは?」

リーダー格の男は拍子抜けした顔をする。

「今時あんな通常モンスターなんて、マジ受けんだけど!!ぎゃははは!!」

男達は大声で笑う。ケンジは表情を変えぬままデュエルを進めた。

「カードを2枚セットして、ターンエンド。」



三人の内、スキンヘッドの男が手札のカードを取り出す。

「俺のターンだぁ!俺は手札から魔法カード《大嵐》を発動!フィールドの魔法・罠カードを全て破壊するぜ!!」

フィールドに吹きすさぶ突風。その強い風はケンジの伏せカードを吹き飛ばす。

「それは大会レギュレーションで禁止されているカード・・・。クズ共め。」

ケンジは男を睨む。スキンヘッドの男は構わず続けた。

「俺は永続魔法《ミイラの呼び声》を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、1ターンに1度手札のアンデット族を特殊召喚できる!現れろ!《闇より出でし絶望(☆8/闇/アンデット/2800・3000)》!!」

黒い体を持つ巨大な影は、ケンジを威圧するように見下ろす。

「俺はターンエンドだぁ!」



スキンヘッドの男は最後の一人に目配せする。最後になった眼鏡の男はケンジに向かって言い放つ。

「おいガキ!お前のモンスター何ざ使い道のねぇクズカードだって教えてやるよ!俺のターン!」

眼鏡の男は手札を確認しニタリと笑った。

「俺は魔法カード《地割れ》を発動!攻撃力が一番低い相手モンスターを破壊する!俺はてめぇのモンスターを破壊するぜぇ!!」

岩石の竜の下の地面が割れ、飲み込まれた竜は消滅する。

「くっ・・・僕の《ストーン・ドラゴン》が・・・。」

ケンジは怒りの目を男達に向けた。

「さらにぃ!俺は《神の居城ヴァルハラ》を発動!このカードは1ターンに1度、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札の天使族を特殊召喚できる!さぁ来い!《マスター・ヒュペリオン(☆8/光/天使/2700・2100)》」

太陽を司る天使はフィールドに舞い降り、ケンジの前に立ちはだかる。

「俺はこれでターンエンド!!さぁ、ボス!!やっちゃってください!!」



リーダー格の男はデッキに手を伸ばしニタリと笑った。

「このターンからドローもバトルも解禁だ・・・!!ドロー!!」

男は手札のカードを取り出す。

「俺の強さを教えてやる!!俺は自分フィールドの《アックス・ドラゴニュート》を除外し、手札から《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン(☆10/闇/ドラゴン/2800・2400)》を特殊召喚する!!」

真紅の眼を持つ巨竜は翼を広げ咆哮を轟かせた。

「これは・・・めったに見ないレアカードか・・・。」

ケンジは目を細める。

「いや〜さっき倒したガキがこんな良いカード持ってたなんて、今日はツイてますねボス!」

スキンヘッドの男の言葉にリーダー格の男が笑う。

「ああ、全くだな!がははは!!」

ケンジは静かに言う。

「この大会にアンティなんてルールはない・・・。奪ったのか、負けた相手から・・・!」

男達は卑しい笑いを上げて言う。

「当然だろ!?負けた奴は、負け犬らしく勝った奴の言いなりになればいいんだ!!」

「そうだぜ!!それがいやだったら、勝てばいいんだからな!!ぎゃははは!!」

「まぁ、てめぇはロクなレアカードも持ってそうにねぇからな、デッキごと貰ってやるよ!!あははは!!」

ケンジは目を閉じ黙り込む。

「なんだ?負けんのが怖くなったのか?まぁ、いい。てめぇをひねり潰して、そのデッキを頂いてやる!!俺は《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の効果発動!!1ターンに1度、手札・墓地のドラゴン族1体を特殊召喚する!!俺は手札から《ストロング・ウィンド・ドラゴン(☆6/風/ドラゴン/2400・1000)》を特殊召喚!!」

屈強な四肢を持つドラゴンが風を纏い、フィールドに出現した。

「これで、勝ちっすねボス!」

リーダー格の男は、がら空きのケンジのフィールドを指差し言い放つ。

「終わりだガキ!!2体のドラゴンでダイレクトアタック!!!」

ケンジの前に迫り来るドラゴン。その刹那、ケンジは目を開いた。

「僕は手札から《凡骨の守り手(☆1/地/戦士/0・0)》の効果を発動!自分の墓地にレベル5以上の通常モンスターが存在する場合、このカードを手札から捨てることで相手の直接攻撃を無効にし、強制的にエンドフェイズにする!」

2体の竜の動きが止まり、男達にどよめきが走る。

「何っ!?このガキ、そんなカードを隠してやがったのか!!」

ケンジは静かに告げる。

「これでこのターンは強制終了だ。そして、次のターンは僕・・・だよね。」

眼鏡の男はケンジを指差し、声を荒げる。

「だが、てめぇの手札にもフィールドにもカードはねぇ!!負けんのはてめぇだ!!」

続けてスキンヘッドの男も口を開く。

「恨むんなら自分の弱さを恨むんだな!!」

そして、最後にリーダー格の男が言い放つ。

「お前に希望なんざ残されちゃいねぇ・・・!!弱い奴ってのは、常に強い奴にすがって生きて行くしかねぇんだよ!!がははは!!」




ケンジはデッキに手を伸ばす。

「弱者を食い物にして、ほくそ笑むような貴様らなど・・・僕がここで叩き潰す!!!僕のターン!!!」

そして、大きく振りかぶってカードを引く。その瞬間、突風が吹き荒れ、辺りは暗闇に包まれる。

「な、なんだ!!これ!!何が起きてんだ!!?」

戸惑う男達。ケンジは叫んだ。

「僕は墓地の罠カード《ナチュラル・バックアップ》の効果発動!!自分のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から除外することで、墓地の通常モンスター1体を特殊召喚できる!!」

その言葉と共にケンジの墓地からカードが迫り出す。

「蘇れ!!《ストーン・ドラゴン》!!」

地面が裂け、岩石の竜が復活する。

「そして、僕は《ストーン・ドラゴン》をリリース!!手札からこのモンスターを特殊召喚する!!」

ケンジは引いたカードをD・ディスクに叩き付けた。


「弱者の叫びよ、恨みよ!!積み重なった憎しみを糧に、嘲る強者を薙ぎ払え!!!これが、僕の怒り!!僕の嘆きだ!!!《輝岩鎧竜ストーン・ドラグネス(☆8/闇/岩石/2000・2300)》!!!」


踏みにじられた思いは、憎悪となって積み重なり、やがて全てを飲み込む魔物と化す。漆黒の岩石で出来たその竜は劈くような怒号を上げ、ケンジの前に姿を現した。

「な、なんだよこのモンスターは!!」

「ソリッドヴィジョンなのに、マジの風が吹いてる・・・!!」

慌てるスキンヘッドの男と眼鏡の男。リーダー格の男は焦りながらも言った。

「けっ!!何を出すかと思えば、攻撃力も守備力も元のまま!!怯えることはねぇ!!」

しかし、ケンジは強くはっきりと言い放つ。

「《輝岩鎧竜ストーン・ドラグネス》の効果発動!!このカードの特殊召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全ての効果を無効にし、攻撃力・守備力を0にする!!」

輝岩鎧竜の咆哮はフィールドを震撼させ、モンスターからその力を奪って行く。

「な・・・!!」

「俺達のモンスターが!!」

それでもリーダー格の男は震える声で言った。

「だ、だが、その程度の攻撃力じゃ俺達は一人も倒せねぇぞ!!」

それに答えるようにケンジは口を開く。

「僕は墓地の魔法カード《ロック・ガッツ!》の効果を発動!自分のフィールド・墓地に岩石族モンスターが存在する場合、墓地からこのカードと岩石族モンスターを除外することで、自分フィールドの岩石族モンスター1体の攻撃力は、ターン終了時まで除外したモンスターの攻撃力分アップする!!僕は墓地の《ストーン・ドラゴン》を除外し、その攻撃力2000を《輝岩鎧竜ストーン・ドラグネス》に与える!!(ATK2000→4000)」

輝岩鎧竜の体表、岩の鱗から光が放たれる。力を受けた輝岩鎧竜は叫びを上げた。

「こ、攻撃力4000・・・!!おい、お前が受けろ!!」

スキンヘッドの男は慌てて眼鏡の男を揺さぶる。

「嫌だ!!お前が受ければ良いだろ!!」

慌てふためく男達にケンジは冷たく言う。

「結局、自分の心配ばかりか・・・。けど、意味ないね。《輝岩鎧竜ストーン・ドラグネス》は特殊召喚に成功したターン、1度のバトルフェイズ中に3回攻撃できる・・・!!」

その言葉に男達の動きが止まる。リーダー格の男は怯え切った顔で叫んだ。

「ふ、ふざけんな!!こんなこと、俺は認めねぇ!!認めねぇ!!!」

その叫びを遮るように、ケンジは相手を指差し言い放った。

「さぁ《輝岩鎧竜ストーン・ドラグネス》よ!!!立ちはだかる全てを打ち砕け!!!」

輝岩鎧竜は体内にエネルギーを溜める。そしてそれをフィールド全体に解き放った。


「『デイサイト・ロックブレイズ』!!!」


凄まじい炎熱と衝撃波。それは場に居る全てのモンスターを焼き付くし、三人の男達も文字通り吹き飛ばした。

「ぐぁあああっ!!!(LP4000→0)」

「うあああっ!!!(LP4000→0)」

「ぐおぉぉっ!!!(LP4000→0)」

本物の衝撃に倒れ、男達は動かなくなった。


『勝者:来栖ケンジ』



ケンジは倒れ込んだ男達のD・ディスクを取り上げ、それぞれリーダーに読ませた後、男達のデッキを宙にバラまいた。

「・・・これでもうカード達は自由だ。」

歩き去ろうとしたケンジの胸に、突如痛みが走る。

「うっ・・・またか・・・。」

しばらくすると、痛みは嘘のように引いて行く。

「はぁ、はぁ。これが、このカードの代償なのか・・・。」

ケンジは荒い息を整えながら、《輝岩鎧竜ストーン・ドラグネス》のカードを見つめた。



『それでいい。怒りを糧とし、破壊の限りを尽くせ。』






・現在のD・ポイント

霧野遊牙:150ポイント

ルナ:70ポイント

来栖ケンジ:180ポイント



次回第27話「太古のデュエル!恐竜VSマンモス?」
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ター坊
まぁ…。相手はクズ野郎だし結果的には世直しっぽくなってるような…?
さて次回は凛香ちゃんのバトルでしょうかね?同じ太古でも相手の方が新しいようだが…? (2015-06-26 14:26)
ギガプラント
闇堕ちしてるのにそれを上回るクズ集団。
複数人で襲うあたりグールズ以下ですなw
そしてストーン・ドラゴン著しい進化おめでとう! (2015-06-26 19:07)
ほーがん
コメントありがとうございます。
>ター坊さん
今回はダークヒーロー的な活躍になりました。復興してきているとは言え、つい最近まで半スラムみたいな街だったので、こういう輩もいたりします。次回は凛香のデュエルです。お楽しみに!

>ギガプラントさん
そういえばグールズは一応1対1でデュエルしてましたね。こいつらは目的とか無く暴れ回っていたので、本当にただのクズ達でした(苦笑)
ストーン・ドラゴンの強化体なんて考えたのは私が初めて・・・なんでしょうか?(笑)

お二方コメントありがとうございました。 (2015-06-27 07:06)

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