１５.５：魂の誤作動　作：ほーがん

第１５.５話「魂の誤作動」



目の前には巨大なガラス管。無数の管に繋がれた一人の少女。それを取り囲むように白衣を着た人物達が、何かの書類やパネルを見ながら立っていた。
「被験体『００４２』、リフォーマット実験開始準備完了しました、ヘラルド様。」
一人の白衣の男が中心に立つ人物、ヘラルドに声を掛ける。
「ああ、ご苦労。これが成功すれば全て取り返しがつく・・・。では、実験開始。『ゲート』のエネルギーを注入しろ。」
その言葉を受け、白衣の男はパネルを操作した。
「『ゲート』エネルギー注入開始。覚醒率３％到達。」
ヘラルドはその様子を見つめる。握る手に汗がにじんだ。
「『００４２』の覚醒が成功すれば、『ゲート』の先へ行ける・・・。『神の鉄槌』を殲滅する事が可能になる・・・！」
パネルを見つめる白衣の男は、表示される数値を読み上げてゆく。
「覚醒率１０％。被験体の外的変化は見られません。」
ヘラルドは言った。
「もう少しだ。もう少し待てば外見の変化は必ず訪れる。」
その時。少女の手に変化が訪れた。
「被験体の右手に指の増加を確認！覚醒率２５％を突破します！」
それを見たヘラルドは笑った。
「６本目の指・・・！！宇宙の謎を解く６本目の指だ・・！いいぞ！！エネルギーの注入率を上げろ！！」
ヘラルドの言葉に合わせ、白衣の男は急いでゲージを操作する。
「覚醒率５０％！ヘラルド様、被験体の背中に・・・！！」
少女の背に小さな翼が出現する。
「ふはは・・・やったぞ。見たかジャックス・・！！これで私の勝ちだ・・・！！」

だが、その時だった。

「覚醒率急激に低下！！１５％に減少！！ヘラルド様これは・・・！！？」
少女の背から翼が消える。右手に生えた６本目の指は剥がれ落ち、ガラス管の底へと沈んで行った。ヘラルドはガラス管に張り付くように近づき、叫んだ。
「馬鹿な！！？や、止めろ！！『００４２』抵抗するな！！その身を持って『神』となれ！！なるんだ！！」
ヘラルドの叫びに反し、少女の変化は完全に止まった。
「覚醒率０％・・・。被験体、『ゲート』エネルギーを拒絶・・・。ヘラルド様・・・。」
白衣の男はそう呟く。ヘラルドはその場にへたり込んだ。
「・・・ば、馬鹿な・・・そんな・・・。」
その時。その場に居た全員にどこからか声が響いた。

『もうよいヘラルド。実験は失敗だ。』

その声にヘラルドは直ぐさま立ち上がる。
「ノ、ノーン様！！ですが、これでは、これでは『神の鉄槌』の殲滅が！！我々の、ノーン様の大願が！！ぜひ、私めにもう一度チャンスを！！『００４２』の改修許可を！！」
ヘラルドは叫んだ。だが、その声は冷淡に言う。

『もうよいと言った。２度は言わんぞヘラルド。これから先、どんなにDRを創造しようとも無意味だ。そして、その『００４２』には別の使い道がある。』

ヘラルドは問う。
「別の使い道・・・ですか？それは一体なんでしょうか！！」

『鍵だ。『００４２』にはゲートの鍵となってもらう。ゲートを開く為、その命を持って鍵とする。』

ヘラルドは呟く。
「鍵、ですか・・・。ゲートの向こう側に居る『神の鉄槌』と『００４２』の遺伝子を共鳴させ、ゲートの開放を促す。なるほど、確かにそれならば覚醒はせずとも、開く事だけはできるかもしれない・・・。しかし、『００４２』は覚醒していない以上『神の鉄槌』と戦う力はありません！」
その疑問に、声の主は淡々と答えた。

『神の鉄槌を殲滅する必要はない。奴らにはもはや戦う力は残されていない。』

ヘラルドはさらに問う。
「ど、どういう意味でしょうか！？『神の鉄槌』を倒し、ゲートの向こうも、この世界をも手中に収める。それが我々DWA、『永遠に世界を支配する者（ダイレクション・ワールド・アバイディング）』の大願であります！！なぜ、『神の鉄槌』の殲滅が不要なのですか！？」
声の主は変わらぬ口調で言った。

『ゲートの向こうからヨシトのエネルギーが消えた。ヨシトの無い神の鉄槌など敵ではない。よってDRも戦う必要は無くなった。『０００１』から『００４１』までのDRを処分したお前の判断も、結果的には間違っていなかったということだ、ヘラルド。』

ヘラルドは頭を下げる。
「あ、あの時は・・大変申し訳ありませんでした・・・。どうか、お許しを・・・。」

『物事は結果が全て。余は貴様を褒めている、ヘラルド。今、貴様への命令は２つある。１つは、『００４２』の監視。実験に失敗したとはいえ、後に覚醒する可能性もゼロとは言えん。コントロール下でない状況で覚醒することは、ヨシトの復活に等しい。そして、２つ目は『００４２』から鍵としての能力を引き出すためのカードの開発。できるな。』

ヘラルドは床に這いつくばり、頭をこすりつけた。
「承知いたしました。必ず、必ずやノーン様のご期待に添えてみせます！！！」



だが、この後。『DR：００４２』は一人の少女”ルナ”として、何者かの手によってヘラルドの元から逃げ出すことになる。




※ちょっとおまけというか、番外編です。でも、結構重要なこと言ってるかもしれません。