６：四賢人のヘラルド　作：ほーがん

第６話「四賢人のヘラルド」


「・・・ここは・・・。」
うっすらと開けた視界に見慣れた顔が映る。
「遊牙！起きたか！」
カケルが心配そうに遊牙を覗き込む。その周りにはガネリおばさんと凛香の姿もあった。
「俺は・・・。」
「よかった・・。やっと起きた。もう丸１日寝てたのよ。」
ホッとした顔で凛香が言った。
ベッドの上。遊牙は起き上がろうとしたが、痛みが体に走り上手く動く事ができない。
「すぐに動いちゃダメよ、身体中傷だらけなんだから。」
凛香が諭す。
「突然、傷だらけの遊牙を背負ってカケルが帰って来たときはビックリしたわよ。何してたの一体？」
凛香と同じ疑問をカケルは遊牙にぶつけた。
「そうだよ遊牙、何があったんだ？ルナはどこに行っちまったんだよ？」
その言葉に遊牙は上体を起こし、声を荒げた。
「あの後ルナが来たのか！！」
遊牙は叫んだ後、咳き込み胸を抑える。
「だから動かないの！」
凛香の言葉を振り切り、遊牙はカケルに掴み掛かった。
「ルナは！今どこに居る！！」
カケルはたじろぎながらも、答える。
「分からねぇよ。お前とデュエルしてた男の後に付いていっちまった・・・。俺の呼びかけも無視してな。」
遊牙は歯を食いしばり、ベッドから降りた。
「どこいくんだい！」
おばさんの声を余所に、遊牙は机の上の自分の上着に袖を通した。
「ルナを取り戻しに行く。」
凛香は言う。
「取り戻すって、どこに居るか知ってるの？」
遊牙は背を向けたまま答えた。
「これから探す。全ては俺の責任だ。」
そう言うと、遊牙は扉を開け出て行ってしまった。
「おい！遊牙！」
カケルと凛香はその後を追いかけた。


「当ても無いのに、飛び出してどうする気だ。遊牙。」
屋敷を出たそこには、あの時のロングコートの男が立っていた。
「お前は・・・。」
遊牙は足を止める。
「遊牙、誰？この人。」
カケルと一緒に付いて来た凛香が言った。
「昨日、闇市で会った。」
目線をその男に移し遊牙は口を開く。
「お前は一体何者だ。何故俺を知っている。」
男は笑って言った。
「俺はジェイミー・ホーガン。まぁ、古い知り合いって所だ。お前は覚えてないだろうが。」
男は言葉を続ける。
「ルナは『DWA』の本部へと連行された。少々厄介なことになったな。」
遊牙は叫ぶ。
「ルナの居場所を知っているなら、そこに俺を連れて行け！！」
男は真剣な顔つきで言う。
「今のお前じゃ『DWA』のデュエリストには勝てない。行っても無駄だ。」
男の言葉に遊牙は木嶋とのデュエルを思い出した。
敵の本拠地には、あのレベルのデュエリストが大勢居る事だろう。そしてそれ以上の者達も、おそらく。
「じゃあ・・・俺はどうしたらいい！」
男は遊牙のD・ディスクを指差した。
「お前は自分のデッキを、カードの事をどう思っている。」
その言葉に遊牙は自分のデッキを見つめた。
「これは・・・俺の力。俺が戦い、そして勝つための武器だ。」
男は遊牙の言葉に目を閉じて呟く。
「そうか・・・やはり、覚えていないのか。遊牙、お前はそのデッキの本当の強さをまだ引き出せていない。」
遊牙は言う。
「なんだと。どういうことだ。」
男は左腕のD・ディスクを構えた。
「”カードは武器”、その認識から改める事だ。まずは俺を倒してみろ！」
遊牙は自分のD・ディスクを展開し、男に向かって言った。
「俺は必ずルナを救い出す。お前が壁となるなら、俺はそれを乗り越える！」
男はフッと笑った。
「いい威勢だ。さぁ、来い！」


「デュエル！！（LP４０００　VS　LP４０００）」




一方、ここは『DWA』の本部。薄暗い部屋にルナは通された。
「ただ今戻りました、ヘラルド様。」
ルナは椅子に座る男の前で膝を付いた。
「ああ、良く戻って来てくれたね『００４２』。また会えて嬉しいよ。」
男は満足そうな声で言う。
「私も、またヘラルド様にお会いできて光栄でございます。」
男は椅子から立ち上がり、ルナに歩み寄った。
「さて、まず最初は記憶洗浄をしないとね。さぁ、こっちにおいで。」
ルナは立ち上がり言う。
「了解しました、ヘラルド様。」
部屋を出て行く男の後に、ルナは黙って付いて行った。

二人が部屋を出た様子を、廊下の曲がり角から一人の人間がのぞいていた。
「『００４２』が戻ってきてヘラルド様は上機嫌なご様子だが、『００４２』を使ってヘラルド様は一体何をしようとしてらっしゃるのか・・・。」
その人間、木嶋直都は男の様子に疑問を浮かべたが、すぐに浮かれた顔になって胸元のバッジを触った。
「まぁ、いいや。そんなことより今日から俺が１番隊の総括者か・・・。あはははっ！笑いが止まんねぇぜ！」
木嶋はスキップをし、鼻歌を歌いながら廊下を歩いた。
「今日から俺が総括者～。ンフフ、いや～さすが俺だぜ！」
浮かれ切った木嶋は、目の前の人物に気がつかなかった。
「ずいぶんご機嫌がいいなぁ、木嶋隊長？」
はっ、と我に帰った木嶋はその人物を見て、ムッとした顔した。
「お、お前は！へっ、２番隊の隊長ごときが俺にそんな口利いていいのかぁ？」
その人物は怪訝な顔で言う。
「は？３番隊、別名『ヘラルド様の迷子探し隊』リーダーの木嶋直都が何そんな態度とってんだよ。」
木嶋は得意げな顔で胸のバッジを見せつけた。
「これをよく見な、２番隊のリチャードくん。」
見せられたバッジに２番隊の隊長リチャードは、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
「な、お、お前が１番隊のリーダーだと・・・！！」
リチャードの反応に木嶋は鼻を鳴らした。
「これからは態度を改め、お互いの立場をよーく考えて発言するんだなリチャードくん。」
そう言うと木嶋は、またスキップで去って行った。
「くっ、なんであいつが・・・。ヘラルド様はあいつの何を気に入ったって言うんだ・・！」
リチャードは苛ついた表情で去り行く木嶋の背中を見つめた。


巨大なガラス管の前にヘラルドは立っていた。
その中には培養液のような液体が詰まっており、呼吸器と無数のケーブルを頭に接続されたルナが浸っている。
「さぁ、いらないものは頭から全部消しちゃおうね、『００４２』。」
ヘラルドは液体の中で目を閉じ、動かないルナを見てニンマリと笑った。
「おやまぁ、まだそんなおもちゃに固執してんのかい？ヘラルド。」
ヘラルドが振り向いたそこには、妖艶な雰囲気を醸し出す女性が立っていた。
「ミシェル・・・君には私の思想が分からないのだよ。」
不服な顔でヘラルドは言った。
「ふーん、ま、分かりたくもないね。造るにしてもわざわざこんな姿にしなくてもいいじゃない。」
女性は腕を組み、ヘラルドの横に立った。
「いいや、この姿こそ私の理想。この子は私の造ったDRの中でも最高傑作だからね。」
ヘラルドはガラス管の表面を指でなぞりながら言った。
「ふん、これに拘ってるよりも新しいDRを用意した方があんたの為にもなると思うけどね。」
横目で女性を睨みながらヘラルドは言う。
「私はこれ以上のものを造る気はない！いままでの４１体はゴミも同然だったんだからな。ああ、『００４２』はやはり理想の作品だ・・・。」
張り付くようにガラス管の向こうのルナを見つめるヘラルドに、女性はからかうような声で言った。
「ゴミ同然だったじゃなくて、”ゴミ同然にされた”だろう？全くジャックスみたいなのに任せるから・・・。」
突然、ヘラルドは激昂し女性に詰め寄った。

「ジャックスの名前を出すな！！！！奴は！！奴は、ゴミでクズでカスの虫けら以下の分際だ！！！もうあいつの事など二度と思い出したくはない！！！」

女性は頭を抱えて唸るヘラルドをあしらうように言った。
「そんな顔で四”賢人”だなんておかしい話だね、ヘラルド。私はもう行くよ。」
ヘラルドは顔を伏せ、床を引っ掻き回しながら叫んだ。
「出て行け！！！早く出て行け！！！うああぁぁっ！！！！」
女性はやれやれと言った顔でその部屋を後にした。
「全く、同じ四賢人だからってあんなのと一緒にされたら困るね。」
四賢人の一人――ミシェル――はため息を付き、廊下を歩いた。




その頃、遊牙は。


「俺が先攻を貰う！俺は手札から《コープスナイト・ウェイス（☆４／闇／アンデット／１７００・０）》を召喚！」

実体を持たない闇の騎士が、剣と盾を持ち出現する。

「さらに手札から《コープスナイト・アリエル（☆２／闇／アンデット／チューナー／９００・０）》を特殊召喚！」

幼い少女の騎士が、ウェイスに並ぶ。

「レベル４の《コープスナイト・ウェイス》にレベル２の《コープスナイト・アリエル》をチューニング！闇の甲冑よ！勝利の剣をその手に抱きて、憚る敵を打ち払え！」

２つ重なる光の輪にウェイスが飛び込んでゆく。

「シンクロ召喚！現れよ！《コープスナイト・デッドシェリー（☆６／闇／アンデット／シンクロ／２２００・１９００）》！」

腰に携えた鞘から剣を抜き、姫騎士はフィールドに降り立った。

「この瞬間、《コープスナイト・デッドシェリー》の効果発動！シンクロ召喚成功時に墓地の「コープスナイト」を１体手札に戻す。俺は《コープスナイト・アリエル》を手札に戻す！」

遊牙の墓地から《コープスナイト・アリエル》のカードが迫り出す。それを手に取った遊牙は自身の手札に戻した。

「そしてエンドフェイズ、《コープスナイト・ウェイス》の効果で俺はデッキから《コープスナイト・ヴェルナンド（☆６／闇／アンデット／２４００・０）》を手札に加えてターンエンド。」

遊牙は思う。

「（ここまでは、木嶋とのデュエルと全く同じ。こいつは一体どんなデュエルをしてくる・・・。）」


ロングコートの男、ホーガンはデッキに手を伸ばしカードを引いた。
「俺のターン、ドロー！」
引いたカードを確認し、ホーガンが言った。

「さぁ、俺を超えてみろ遊牙！手札から《ＢＦー流星のチャクラム（闇／鳥獣／☆４／チューナー／１１００・６００）》を召喚！」

黒い翼を広げ、二つの環状刃を持った鳥人が現れる。

「《ＢＦー流星のチャクラム》の効果発動！このカードの召喚に成功した時、手札からレベル４の「ＢＦ」を１体特殊召喚できる！俺は手札から《ＢＦー黄昏のバスタード（闇／鳥獣／☆４／２０００・０）》を特殊召喚！」

両刃の長剣を携えた鳥人が、両足を揃えフィールドに舞い降りた。

「お前にこいつが攻略できるか、遊牙！俺はレベル４の《ＢＦー黄昏のバスタード》に、同じくレベル４の《ＢＦー流星のチャクラム》をチューニング！」

環状刃を持った鳥人は４つの光の輪となり、もう一体の鳥人を包んだ。


「黒き烈風よ！威厳の剣を持ちて、天空を駆け巡れ！シンクロ召喚！舞い踊れ！《ＢＦ－威光のフランベルジェ（☆８／闇／鳥獣／シンクロ／３０００・１２００）》！！」


波打つ剣を持つ鳥人の騎士が、突風を巻き起こしながらフィールドに吹きすさんだ。

「攻撃力３０００のシンクロモンスター・・・！」

遊牙の額に汗が伝わる。

「（遊牙、お前の実力を試させてもらう・・・！！）」


次回第７話「激闘のデッドジャック」