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Alu。 作:ユニコーン

 














 貴方がいるところには『いつも』があって


 私はきっと、その変わらないあたりまえの『いつも』に憧れていた。











 初秋の湿り気をようやく感じなくなってきた季節の節目。今年の秋はもう半ばに入ろうというのに、蒼々と野山に茂る草花はまだ、その趣き起った様相に薄っすらと白露を残していた。

 暮れていく夕陽が温かい。身体を包み込んでいた悪寒はまるで時期尚早の山背を思わせていたようで、嘘みたいに静かだったそれは物寂しさ漂う辺りの空気も相まってからか、とうに秋冷の肌寒さを知ったはずの背中にも余計な冷たさを感じさせていた。

 そんな季節の足跡を遅々とした足取りでなぞる中、常に同じ景色しか見ていなかった瞳はふと雲一つない空へと向けられた。

 見上げられた視線が重力に従うようにゆっくりと沈み、目先の浮かんだ風景にまじまじと意識を留めさせられる。

 橙と群青とでくすみがかった、人の目を奪うのには十分すぎるほど綺麗な空合いがそこにはあった。どこまでも薄く、長く伸びていって、目の前に広がる町景色へ幾重にも重なりながら張りついていく。

 まるで地平線を描いたような淡い二つの境界線は、目に映る全ての光景を鮮やかに彩っていた。

 そんな荘厳とも言える物の意の中だからだろうか、頭上で秘かに光り出した小さなものに少なからず、希少な想いを抱けるのは。

 普段、特別意識もしなかった。この空模様はいつからこんな気持ちで眺めるようになったのだろう。それは私というただ一人の個人的な人の価値観が変わって、精神的な成長から、以前よりもずっと周囲を鮮明に見て取れるようになったからというのもあるのかもしれない。

 いつもの風景と。いつもの景色と。今でもこの木の下を通るたびに、子供の頃の記憶が蘇ってくる。

 青臭い木々の香りや、あの頃はまだ目先から程近かった地面の感触とがそのままに、今の私に追いついてきた。

 何でもない、子供の頃の記憶というのはとても曖昧なもので、はっきりとその情景を思い出せるのかと言われるとそうでもない。

 これを哀愁と呼ぶのなら、私はただ何となくのその場の雰囲気と、体験として身についてきたものを自分の過去に繋げて連想しているだけなのだから。

 道すがらに散らばる小さな木切れや朽ち葉。それら終わりの見えない感触を足で踏み締めながら、ただひたすらに前へと歩く。

 幾度となく通ってきたこの道は意識なんかしなくても間違えることはない。たとえ暗がりで辺りが見え難くても、私の足はためらうことなく前へと進んでくれる。

 それはきっと、感覚の慣れからくるどこまでも皮相的な人の習わしものでしかないんだろうけど。


 だけど。


 目的がなければこの足はそうは答えてくれない。止めたくて止められるものでも、たぶんない。

 それは道とも呼べるのかどうかも危うくなってしまったこの林道の、その行く末の先に私が私でいられるようになった理由が待っているから。










何の因果関係なのか。ここにたつ必要なんてなかったのに。本当に。


 そうぽつりと呟いて、桶に溜めた水を流しかける。薄暮のような明かりに照らされたそれは見覚えのある名前を浮かび上がらせながら、ただ坦々とした水音と共に私の足元へと流れついた。

 雁渡しの薫る夕闇の中、私にはただ輝いているだけのそれが滑稽に見えてしまって、そう思う自分も不芳な気がして。


 いつまでも懐かしいとは思えないけれど、どこか遠いとも思えなくて。だから、私はまたここに来てしまうのだろうか。


 浮かび上がった文字が霞んで見える。それは時間と共に薄れていってしまうものだったから、私はいつもその兆しが消えてしまわないように何度も、何度も水をかけながら考え続けていた。

 思慮なんて呼べるものじゃない。まして、そこから私のどうしようもない心情が満たされるようなものでも決してない。それでも、ここに来るたびに頭によぎるのは、いつも遠い思い出として私に促してくれる。そんなものだったから。










――――










 この学校に来たのは丁度仲秋も終わって、いよいよ冬が来ようかという頃。時期相応に少し肌寒い季節だったのをよく覚えている。私の実家は都心からほど遠い田舎町で、転校の理由は親の転勤というごくあり来たりな理由だったと思う。

 転校というものをただ単純に住む環境が変わり、ほんの少しの哀愁を漂わせるものだと思っていた私はいざその時を迎えて、自分のもといた場所が誰に期待をする事も出来ない無性な環境であったことを知った。


それでも、自分が驚くほどに冷静で。

だから私を見送る人がいなくても、それは当然の事なんだと納得することができた。


 都会の空気はすごく薄い。何と言えば良いのか、息を吸う度に酷く重苦しいもので喉を締め付けられるような感覚だった。

 ぼやけた空。けぶる風。もとからここに住んでいる人たちには何てことのない都会の具合が、初めてというものに慣れ親しみがない私にとってはただただ居心地が悪いばかりで常住するには心許ない。

 周りと一つ違っていたこの感性さえも、幼さという現実の前には変に自分というものを痛感させられる一つの要因にしかならなかった。

 どんなに背伸びをしても周りの環境が変わってしまえばそれは意味のないことになる。
そんな隠し切れない不安や焦りが、知らぬ間に今の自分の周りへも滲み出てしまっていたからだろうか。

 だから――というわけでもないのかもしれないけれど、私は今一つ新しい環境であるこの学校に馴染めないでいた。


 教室に戻ればそこには誰もが笑っている景色があって、そこから聴こえてくる何てことのない会話の波長がいつも私に不快な思いを与えてくる。

 これと言って興味も湧かず、私にとって何の意味も持ち合わせていなかった言葉の羅列は、たとえ耳に流れついたとしても疎ましさに次いだただの喧騒でしかなかった。

 重い身体を机にもたれさせ、被せた両腕で顔を覆うようにうずくまらせる。小さく身をかがめ、まるでその煩わしい音から逃れるように、私はいつも椅子の上に座り続けた。

 じっと、ただ時間が過ぎるのを待つように、誰とも友好的になんて関わろうともせず、教室の片隅にあるただの「モノ」であろうとした。

 私の周りには、いつも人がいなかった。





 初めから一人でいようと思っていたわけじゃない。

 前の学校では仲の良い友達もいたし、何でもない集まりに参加して積極的に遊んだりもしていた。テストでは満点以外を取ることはほとんどないのに、嫌味たらしくもなく、冷静で大人びていた性格にはむしろ惹かれて寄ってくる人の方が多かった。

 そんな自由奔放で何も障害がない、すべてが普通で成り立っていたこの環境に疑問を抱き始めたのは、とある夏の日の昼下がりのこと。

 いつもの集まりだったその場所で、何の気なしに彼らと遊んでいたときのことだった。

 降り注いだのは突き刺すほどに赤かった陽のひかり。粛然と照らし浮き出された私の記憶の中には今でもまだ、その人の声が釣鐘のように遠く、虚しく響きつづけていて。


「何がいけないの」


 まるで当たり前のことを言い切るように、その人の心は言葉を吐き捨てた。


――――。


 残虐に引き裂かれた蛙の死肉。これ見よがしとあざけた誰かが、笑って私に感情を共有しようとしてくる。

 ただその場に立っていただけで感じた違和感は、どんな感情より早く訪れた気持ちの――異様が示唆する言葉そのものに遮られ、私に他の情報を処理することを拒ませてしまった。

 耳に聴こえてきたのはいつも一緒に遊んでいたあの子たちの笑い声だったはず。それなのにどうしても不穏で、総じて不快な自然観は私の胸を締め付けるように強く犯す。なんど彼らの笑顔を見ても、私にはそれが楽しいことだとはどうしても思えなくて。


 彼らは明らかにその状況を楽しんでいた。生きた動物を殺すということをおもしろがって。それを周りと共有するということに喜びを感じていて。


 初めから難しく考える必要なんてなかったのだ。心の内ではどう思おうとも、その時の私はただおもしろがるフリをして周りに合わせていればそれで良かったのだから。
 今見えているその景色と雰囲気と様相を、私も彼らと同じように笑い、おかしく思っていればそれで良い。それで何も――。


 私は――...。





 そうして、一番口にしてはならないことを、最初に言葉として発していたのが自分だった。

 きっと淡い期待を寄せてしまっていたから、言えばわかってくれる――そんな甘い考えで、友というものの本質を見抜いた気でいたから。
 
 伝えることの正しさと、それを認めてくれる仲間の存在と。

 ただそれだけの、たったそれだけだった理想の価値観。

 そんなものが、粗末な私に今という大きな後悔を生んだ。


――――。


 何が良いことだったのだろうか。どんな要因が重なることで悪いことになってしまったというのか。まるで、それこそ当たり前だと思っていたことが音を立てて崩れさっていくようだった。

 見るに堪えないと思っていた事と、それを誇張するかのように惨然な瞳が向けられて。私は、向けられたその感情に跛行な気持ちを抱くしかなくて。見てはいけないものを見るような、そうして見るべきものではないものを排斥するかのような空気が私の周りのすべてを取り囲んでいた。


なぜ彼らは、そんな瞳を私に向けなければならないのだろう。

何で私はこんな目を、彼らに向けられずにはいられないのだろう。


 本当はわかってる。わかっていて、だからこそ、この場にいる誰もが合わせようとしているということにも共感が持ててしまうのだ。

 誰もが不安だから。こんな時に、こんな時だからこそ、自分以外の何かを腫物のようにしか扱うことのできない彼らが、人の普遍にしか沿えない心の弱さを持っていることを私は知っている。

 初めは何も必要性のないことだったはず。それでも彼らは打算的な考えで行動することをやめようとはしない。やめることができない。

 それは彼らにとってこの場の空気に合わせることが普通であり、自分の立場を最優先するということこそ常識であったから。

 強要された集団意識。覆ることのない不文律。どの環境にも否応にして当てはまっていた悪魔のような慣行が、慎ましやかに見えた子供の世界にも往々にして存在していた。ただ、それを知らなかった一つの感性が置いていかれているだけであって。


 自分に正直だと言う人が上辺だけを取り繕えば気持ち悪いと言われる。理性に負けた人が、理性を保って平常でいようとする人の中に意見を求めれば、帰ってくる答えは間違いなく ゛ノー ″ でしかない。だから私は責められる。

 私がこうしてまともな事を言わなければ少なからず、楽しいはずの時間を演じていたこの時が壊れることはなかったから。

 何に強いられているということも自覚していなかった彼らが、自分に嘘をついてまでこんな目をしなくても済んだのだから。

 だから、何にも需要を生み出さないかに見えた彼らの行為の必要性は、この偏向した周りを考えない身勝手な行動によって示され、今に正当化された。


 人並みなのは彼らであって、この場でおかしいのは私だけ。

 誰もが歩んでいるその道を許容することができなくて、私が自ら足を踏み外してしまったという、ただそれだけ。

 確かに、理解はできた。


 どこか俯瞰して、何となくとも言えずに納得ができてしまった心が諄々と訴えてくる。

 おそらく私はもう、二度と元には戻らないほど深く奥底にまで自分を沈み込めてしまいたかったのだろう。

 彼らが友達ではなくなり、これが友達を失くす事だということを知ってしまったから。

 そして、この時から私は人を観察するだけの「モノ」になった。

 楽しければそれで良い。おもしろければ馬鹿でも良い。


――そんなのは、おかしい


 ただその一言が言えなくなっただけで、私は一人になった。





 誰かと親しく関わり合うということは自らを騙し伏させるということ。自らを騙すということは本来持つべき自分の感情を隠し通すということ。そして、装いたくもない媚を売り、他者と緊切した関係を築き上げていくということ。


本当に、くだらない。


 はっきりとした嫌悪を言葉で示して、いつしか私は関わりというものからできるだけ自分を遠ざけるようになっていった。

 周りと価値観が合わない事実。そんなものを知ってしまったあの時から、懸命に『友達』であることを分かち合おうと努力している彼らがどうしようもなく子供に見えてしまう。

 自分と同じ環境にいるはずなのに、私は自ら省みることを忘れたその人たちを対等な存在だと認識することができなくなっていた。

 思えば、誰とも会話すらしなくなったのはそんな頃からだったと思う。無愛想に周りを冷たく押し退けて、常に一歩下がった距離を保ち続けてでも私は『関係』を拒絶した。

 それでも秀でるものが多かったからだろうか、皮肉にも精神的な差別や非難轟々と虐げられることもなく、平穏な学校生活は送られていった。


 だけど、そんな私を認めてくれる人はもうどこにもいない。



 孤立していたわけじゃない。ただ、そこに馴染もうとしない一つの価値観が放っておかれているだけだった。





 学年行事。クラス毎での集団活動とも呼べる。それはそれぞれ好きな者同士でグループを組み、自分の大切な物を課題に方眼用紙にまとめて発表をするというものだった。

 課題にするものに是非は問わない。場所だろうが人だろうが、それこそ本当に「物」を題材に制作しても良い。とにかく、これが自分にとっての一番大切だと思うものを中心として、思慕する気持ちと統合力を養うのがどうやらこの授業の目論みみたいだった。

 転校してきて早一ヶ月。普通ならば分け隔ての無い友人くらいはつくっているものだけど、私には言うまでもなくその友達と呼べる存在がいなかった。当然、グループを作る際みんなに仲間外れにする意識が無かったとしても、私は必然的に残りの部類になってしまう。

 だけど、それが別に嫌というわけでもなかった。小さい頃から両親があまり家にいなかった私は一人でいることの方が多かったし、むしろ私にはそっちの方が楽に思えた。周りに合わせてはばかる必要もない。誰にとやかく言われることもなく好きなように生活できた私にとって、自分の書きたいように書けるということはこの上なく都合の良いことだった。


 暫くするとそんなつくねんを挺したような私の態度を見かけてか、それまでまったく私を気にも留めていなかった先生の一人が私に他のグループへも混ぜてもらうようにと理解を促してくる。それでも私は口早に、はっきりとその提案を断った。

 こんな私でも悪くはない。誰も咎める人なんていないのだから、私は私でこれでいいのだろう。そう思うことを心に決め、甚もそうあることを望んだ私に他人の見解で勝手に身の在り方を使役されるのは我慢のならないことだった。

 何より、教師という立場上のその場凌ぎな処置に則りただ従ってしまうことが、私は嫌だった。


 製作時間が始まる。結局は一人で作品を考えることにした私は作業の分担などができるはずもなく、一から終わりまでをすべて自身の力のみで行わなければならない。

作業1:まずは創作資材を特別活動室まで取りに行く。担当者は私。

 妙な追認で戒めるように思考を行動へと移す。どうせ後から皆取りに行くものなのだから動くなら早い方が良い。混雑し出したらそれこそ私の心休まる時間が減ってしまうわけなのだからあまり良いことはない。

 そう思い颯爽と教室を滴り出たその時だった。渡り廊下の向こう側から一人の女の子が歩み寄ってくる。

 まさか環境との関係学が破綻していた私が誰かの目的意識を促すほどの動機を孕んでいるとは露とも思えず、この二人の関係はそのままただすれ違って終わるだけの他人に収まるはずだった。

 だが、他の標に向かうはずの彼女を避けようと私が控えめに足を運んだとき、あろうことかその彼女は他の誰でもない、私に声をかけてきたのだった。

 いや、声は聞こえない。彼女は私に一枚の紙切れを差し出して見せただけ。薄い黄土色の。私は向けられた手のひらサイズくらいのそれをどうして良いのかわからず、方眼用紙も取りに行かないといけないと思った意識は彼女の行為に対してなんのリアクションもすることなく、通り過ぎてしまった。

 無視したんだと思う。その時私は彼女の顔を一瞥もせず、気にも留めてはいなかったのだから。





 発表が一週間後に迫ったある日。私は内心かなり焦っていた。
 他の班の人たちはもう発表内容が決まり忙しなく練習まで始めているというのに、私はまだその方眼用紙に文字さえ書けてはいなく、頭の中も目の前の紙色もまさに真っ白な状態だった。

 書きたいもの。大切なもの。こんな私でも思い浮かぶ物がない訳ではない。が、どうしてもそれらを文字にして形表すことが気恥ずかしく思えてしまいペンが止まる。そうやって何度も書こうか書かまいかと渋っている内に、私はだいぶ周りと差をつけられてしまっていたのだった。


別に誰も聞かないものなのに。


 私がそうするから――と、そう思った。
 人の前で発表するという緊張感は、それだけで一般に言う平常心から自らを遠ざけようとする。さらには、終わってからの安堵感や安寧感が他をよそ事と蔑ろにし、本人以外のものを暗晦に見えなくしてしまう。

 いざ大人になれば何でもないような感覚の一つでさえも、プレゼンテーションの経験どころか人前にも真面に立ったことがないような一般学生がこれらの感情に苛まれてしまえば、普通自分以外の発表なんて意識はしなくなる。他人に余裕も暇も与えられた人が、その代わりに余人にも余裕と暇を与えるようになるのかというとそれは違うのと同じ。


 自分にとって今ある危機以上に重要なものなんてないし、目の前にある興味以外に惹かれ乞うことも、そうはない。


 これはあくまで私の主観で、言うなればただの偏見なのかもしれないけれど、やはり他人の自己顕示なんてものは誰にとってもどうでも良いことのはずだ。それは違わない。

 他人はあくまで他人であって自分ではないのだから。そしてそれは、誰かに何かを期待することをやめた私にとっても同じはずだった。


 誰かに何かを期待して、常に期待以上のものを求めて、裏切られてもまたいつか他人を頼ったりして。そうやって心の底で幾度となく自分を戒めてもまだ、諌めたはずの後悔を忘れて誰かに頼らずにはいられない人の性を私は「弱い存在」だと位置づけた。

 自分が求めているものは絶対に手に入らないことを自覚していながら、それでも誰かに媚びて自嘲をせずにはいられないというような気概でいることは、一人でいることの合理性や、それまで一人で築き上げてきた本来の自分の存在そのものを否定している事と同じだから。

 私は違う。他人に何かを期待したりはしないし、誰の力も借りはしない。どんなに危機的状況が訪れようと、苦悩に苛まれようと、私は自分を立たせることに決して逡巡したりはしない。

 一人の力の絶対的尊重。それが私の本質で、何者でもない自身の決意であり、他の干渉を許さない絶対の信念でもあった。


 そんな私を、周りの大人たちは「協調性がない」と評していった。





 また別の日。相変わらず発表の書く内容に悩んでいた私は気分転換に他の教室を見て回ることにしていた。

 自分の教室から少し離れた教室に入ったつもりだったけれど、予想通りというか、あまりに元いた場所と変わりない様子に少し苛立ちすら覚えるほど私の目は倦厭としていた。

 辺りには楽しそうに練習をするみんなの姿が見えていて、ここはこうした方が良いだとか、こうするべきだなどの意見を掛け合う声が聞こえてくる。

 それら渦中に散見される、まるで場違いのような嫉視を向け、沈黙を貫く人たち。


...わかりやすい。


 何かを言いたげで、それでも何も言わずただ文字を書いたりまとめたりする。それが彼らの役割だった。

 こんなものにでも文句一つ言わず熱心に取り組むことができるのだから、それは素晴らしい大義の下で彼らと接しているに違いない。

 幼少特有の幼心があるのだから、責付かれてでも自分以外に従事することをやりがいに感じる人がいるというのはそんなに珍しいことでもない。

 だけど、心のどこかでこの一律された比較形態に未だ消化しきれない疑念があったのだろう。似た光景を見る度に、私は心の底で幾度となく忌憚な想いに絡まれ続けていた。
 

 慣れ合って、他者を尊重して、自分の意見は押し殺す。集団という中には必ず彼らのように我慢する側が出てきて、常に決まった有力者が個々のイニシアティブを取り続けていた。

 そこに仲間意識という華やかなものはなく、ただただ自分の権力を振いたい者が自己主張の果てに周囲から賛辞を受けたいがための腰掛けとしてこの場を利用しているにすぎなかった。


 それなのに、どうしてそんな「良い奴」を演じてまで自分を隠しているのかが私には不思議で仕方がなかった。

 決して軋轢を生まず、調和を第一に考えたその愚かしくも輝かしい諦観思想がこの場の何かを培って育み、報われるとは到底思えない。

 彼らがそう頑張り続けることを課せられていて、利用する側からただの都合の良い存在としてしか認識されていないのなら、そうして諦めて周りに流されてしまうことはやはり間違いなのだろう。


 そんなことで楽しいと思えるのならそれでも良い。ただ、時折見せる彼らの笑顔にはどこかぎこちなさがあって、それらが言いようのない猜疑心となって私に不信感を募らせてくる。

 自分たちの本心は。結果出来上がったものに自身の本質が入りうる余地がなくて、それでも笑ったフリをしていられるのは誰かに良いように使われていても、相手にされないことよりはまだマシだと、そう思うからか。


そんな宥めすかした態度でいることが本物で、上辺だけを取り繕って笑い合うのが『関係』なのだとしたら、私はそんなものはいらない。


 見慣れたもの。時折に想うことはあれど、特に気にして追従することはなかったはずのいつもの光景。そんなものが、今日はやけにひどく目に映った。

 理由なんて考えるまでもなく、単に気に入らないからという言葉が今の心境上最も適切なのだろう。

 彼等の姿を見る度に心の隅でその光景を異様だと思い続けてきたから。言うなれば異常なんじゃないかと思っていたからこそ、これが平常であるなどという最もな理由――言い訳を曲がった理屈で丸め込もうとする。

 ただそれでも、いくら思考を廻らせていても自分一人では同じ見解をぐるぐると回るばかりで、決して納得のいく結論には辿り着けなかった。


 だからだろうか。
 こんなことを訊くのは絶対にお門違いであって、この場の空気にもまったくと言って良いほど似つかわしくない行為だとはわかっていても、私の口は言葉を呟かずにはいられなかった。


――――。


 投げかけたい疑問。言いたいことは山ほどにあって、どれも問いかける側を言い破るだけの力は十分に持ち合わせていたはず。

 それでも、私の意志がこの瞬間までそれを許すことはなく、今にも声が出てしまいそうな口元はそのままの形を保ち、固まってしまう。

 疎外感――そこに意識を向けて、行動に移そうとするまで気づけなかったこと。目の前に映る景色と私とはまるで違う。私にはその時、その世界があまりにも遠くて、決してたどり着くことのできない別世界のように思えてしまったから。


 否定することを忘れてしまったあの日。自分の意思を伝える術を無くし、言葉にすることを諦めてしまったあの時から、私はもう誰かに答えを求めることのできる立場ですらなくなっていた。





 書きたいものが決まらないままその日の一日が終わり、学校に残っていても仕方がないと思った私はすぐに帰路へと着いた。校門を出て、一つ目の角を曲がる。

 いつもならここで定時に流れてくる防災行政無線のけたたましい音声が耳に付き、電線を超えていく烏の数でも数えながら茫然と家の前まで歩き着いているはずだった。でも、今日に限ってはそれができそうにない。

 見慣れた下校時の人疎らな帰り道。その奥に佇んだ、代わり映えのない面影の中に彼女はいた。

 正確に言えば電信柱の前でしゃがみ込んでいて、それを見た私はなぜか咄嗟に曲がり終えた塀の角に隠れようとする。

 彼女はあの制作時間の初め、何を思ったのか自分とは関係がない間柄である私に近づいてきた子だった。

 別にそれだけで私が隠れなければならない理由にはならなかったはずなのだけれど、今彼女と真正面から向き合ってしまうのはどこかばつが悪い気がしてしまった。

 少し離れた場所から彼女の様子を窺う。俯いた顔は明るくはない。

 これでも人間観察をアイデンティティの主体性としてきたのだ。たとえすれ違うだけの些細な出来事だとしても、人の表面的な見かけを判断するのには十分な要素になる。だからこの時の私は彼女を見て、ほんの少しだけ不思議な気持ちになっていた。


私が見た彼女は少なくとも、こんな顔をして俯いているような人物ではない。


 何の根拠もない。それでも確かな確信があったこの心象に間違いはなく、彼女の本質を垣間見得るほどの記憶が私の中に残っていたからであった。

 こんな私に歩み寄ってきた彼女。差し出されたその手の平に反応こそしなかったものの、その時の彼女を見た私は何を思ってこんな記憶を残したのだろうか。屈託のない、それこそ無償であるかのような笑顔を向けられて、私の心はこの人にどんな感情を抱いていたのだろうか。



 ――そう、あの時の彼女は笑っていたんだ。そうすることに何の意味も持ち合わせていなかったあの場所で、彼女は私に笑顔を向けていて。

 それがなぜかと、自分が抱いている気持ちと矛盾した面持ちの理由との両方とが、彼女の手の平に優しく包まれていた亡骸の一つによって意図もたやすく解かれていった。

 ほんの一瞬の感覚に立ち尽くす。目の前に置かれたものに手を伸ばせばおそらく納得はできるというのに、まるで他人事のようで、自分の理解の形にもあっていないような中途半端な気持ちはうそぶくように、それを手に取ってしまうことを虚ごととしてためらわせていた。

 その間にも、この呆けた時間がまるで私と彼女との距離を明瞭にしていくようで。その不思議な感覚は私に瞬きをすることすら忘れさせるほど現実感を曖昧にさせていた。

 そんな私を置いていくかのように、しゃがみ伏せていた彼女がいきなり立ち上がると、近くの公園に足早に入って行くのが見えた。私は自分の中で感じた何かを識別することができず、ただ彼女を追うようにして動くことしかできなかった。



 なるべく人が通らない、それでも陽は当たっている場所を見つけた彼女は一心に手でそこの地面を掘り始める。

 何が気になったのか。彼女のやろうとしていること、それはある程度の正義感を持った人なら誰でもやることだし、傍から見ても別に何もおかしな所はなかった。

 人生経験が浅いから、そうやって感情だけで動く事ができるということに何の不自然さも感じさせない。周りから見ても、子供の純真な心というのは綺麗に見えるものだから。

だから全然おかしくはない。そういう人もいるのだろうと、ただそれだけの話だった。

 なのに。




 悲しみに暮れる人の姿にはどこにだってあげつらう余地はあったはずなのに。

 ただ、嗚咽も漏らさず無言に両手を合わせて涙を流している彼女の姿には、私が想像していたもののどれも当てはまりはしなかった。

 目に入ってきたのは普通と呼べるものではない。

 誰だって、同情の念に打たれたらそれに見合った行動を取るものだろう。だけど、その行動その物に打ちひしがれて泣いている人なんて今まで見たことがなかった。

 まだ幼かった私にはそんな彼女が新鮮で、閑麗に見えて、そしてどこか怪訝にも思えたようで。

 理由がない。ただそれだけの理由で、私は彼女から目が離せなくなっていた。






 彼女のいなくなった公園。私はそこに立っていた。

 目の前には慣れない手つきで掻いたであろう土が申し訳程度に重ねてある。


こんなんじゃすぐに風で飛ばされてしまうだろうに。


 私はそんな拙さの残る小さな墳墓を壊さないように、そっと手を触れた。そしてある違和感に気づく。掠れ添われたその砂のすぐ下に、見覚えのある紙切れが一枚敷かれてあったこと。

 それは私が始めて彼女と出逢った時と同じ、今度は緑色の紙だった。

 だけと何か違う。私が見たものとは違う何かを感じ、私の思考はその紙切れ一枚のみに支配されていた。

 あの時の私が見ていたもの、今の私が見ているもの。こんなものにはっきりとした確証なんてなかったけど、改めてそれを手に取って、同時にある一つのことを理解したから。



 魂の開放



 紙には、銀色の文字でそう書かれていた。


 その文字の意味するところ。


そうだ――。


 それは火を見るよりも明らかで。


彼女はきっと、そういう奴なんだ。


 漫ろな意識とこの場所とが、懸け離れていたお互いを補完し合うように手に持った紙を揺らしている。身体を覆うような辺りの静けさが、冷たさの残る風を煩いほどに耳の内に響かせてくる。


今日は、やけに寒い一日だな








 次の日の朝。意味の無い感情の高ぶりを感じながら私は学校に着いていた。

 陽の温もりを孕んだ机に持っていた鞄を無造作に放り出すと、私の身体は一目散に廊下へと足を向けていた。

 向かう場所は決まっている。あの日、帰ってからずっと考えていたことだ。私はそれを確認するために今日、そこへと足を伸ばすのだから。

 私のクラスから3つほど離れた教室の前に立った。私は期待と好奇心に浮かした心を抑えながら、ドアの取っ手に手を掛ける。


 それはまるで、新たな世界の扉でも切り開くような感覚。





――――。



 そして、ドアを開いて

 そんな私の期待は呆気なく、どんなものよりも粗雑に裏切られた。

 一つの机を囲うようにして人が集まっている。

 友達同士――という訳ではない。だって、その机の周りには男の人の姿しか見えなかったから。いや、男の友達だったらどんなに良かっただろうか。

 きっと男友達なのだろう。そう思いたい私の心情が目の前の光景をぼかす。彼女の顔も、その男の人たちの顔も、私が以前からとっくに知っているものだったというのに。

――瞬間。鈍い音が教室内に響き渡った。彼女を囲った内の一人の誰かが、彼女の机の足を蹴った音だった。

 私はその時はっきりとそれを自覚した。自覚してしまった。彼女の持つ性情と、それに伴う境遇との違い。隔たり。


どうして――


 分からない。本当に、解らなかった。

 死んでいるものを悼んで土を押し固める事さえためらった彼女。そんな彼女がどういう人物なのか、私にはもう確信に近いものがあった。あったはずだった。

 それなのに。


どうしてあなたが虐められている。


 目新しくもなく、決して覚えがないわけでもない。だけど、それは彼女が受けなければならないものとは対照的に位置しているもので、本当は、私みたいに周りのことを何とも思っていないような、どうしようもない奴が受けなければならないことで。

 私の中で理解というものがただの単語としてしか頭によぎらない。どうしたって、私の中の彼女は友達に囲まれて幸せそうに笑っていたから。

 あまりの衝撃に、私はドアの前に立ち尽くすことしか出来なかった。私の目に映るのは陽気そうに彼女を嘲笑う彼らと、陰気に俯いていた彼女の表情。とても幸せとは懸け離れた、塞ぎきった横顔。

 そんな光景を見ていて、私は自分の意識がどこか違うところへ向かっていることに気がついた。今度は無意識などではない。そんな呆けたものでは片づけられない、片づけてしまってはいけない。そんな感情がゆっくりと私を動かして、そして無感覚のまま、気がつけば私は彼女の周りに群がる人を押しのけ、彼女の手を引いて教室を飛び出していた。

 なぜこんなことをしてしまったのか。訝しむ教室中の目が私に向けられていたのが分かった。こんなことをしても私にはマイナスでしかないのに、なぜか放ってはおけなかった。

 焦燥か、怒りにも似た感情を抑えながら彼女の手をより強く引っ張る。彼女も私の突然の行動に何の抵抗をすることもなく、ただただ私の志向に流されながら平然とした面持ちで引っ張られているだけだった。


 そんな彼女の飄々とした態度も腹ただしくて、気に食わなかった。



 どうしてやり返さないんだ なぜやられっぱなしでいられる 悔しくないのか――

 別の階の階段まで行ってようやく落ち着いた私は彼女にこんなことばかり訊いていたんだと思う。今まで理解できない人がいなかった私に彼女という存在が現れて、どこか彼女を特別扱いしていたようだった。

 私の持てなかった人物像を彼女は持っていたから。純粋な彼女が持っている友人はきっと本当の友達に違いないと思ったから。だから私は多分、期待してしまったのだろう。周りの偽り偽られる友情なんかとは違ゔ本物″を見られるような気がして。

 だけど現実は違かった。周りはそんな彼女ですら受け入れてはくれていなかった。そんな理不尽があること、私にはただ、それだけが納得できなくて。

 どれだけ声をかけても彼女が私に応えてくれることはなかった。

 どこにも向かない彼女の沈黙。行方の知れないそれが関心となって私に向けられることは、おそらくどれだけの時間を待ってしてもあり得ないことなのだろう。

 彼女からしたら私はただの同学年の生徒というだけで、深く関わったことも話したことすらもない赤の他人でしかない。そんな人に自分のことを理解した気になどなってほしくはないし、わかってほしくもないはずだ。それは私が一番良くわかってる。

 この時間も早く終われば良い、きっと彼女はそんな風に楽観的に考えていて、だから何も見ようとしないのだ。

 それはあいつらにされていたことも、少し耐えれば終わることだったから。


 自分さえ我慢すれば、それが結果的には楽だったから。


 空気が重い。

 何もないはずの空間なのに、私と彼女の間にはまるで見えない壁でもあるかのようだった。

 だからこそやるせない。『どうして』という思いは余計に強くなっていく一方で、私はこの場の空気を断ち切りたくて仕方がなかった。

 そんなことを思っていたから、事の核心に近いものを私は彼女に投げ掛けようとしたのだろう。少なくとも言葉では、そのつもりでいたのだろう。


 自分が変わらなければ周りは変わらない――そんなことを。たぶん、そんなものを苦言だと思い、信じたりして。


 吸い込んだ一息が、空しさの漂う乾き切った空気を僅かに揺らす。

 それからは、私と彼女の間に音が現れることはなかった。

 私の言いたかったことは、伝えなければならないと思ったことは、あのときと同じように胸の奥底へと降り積もって、言葉としての行き場を失くしてしまった。

 何がやるせなかったのか、この瞬間まで分からなかった私はその言葉を投げ掛けようとして、思い留まってしまった。

 この言葉は彼女に言おうとしたものなんかじゃない。そう思ってしまったからこそ、私の体は無意識に防衛本能を働かせて、声として疾うに発することを拒んだのだ。

 こんな言葉一つが今の私たちにはどれだけ重く、そしてこの場において、どれだけ無粋なものであるかということを知っていたから。




自分が友達を作ろうとしていないのに、どうして彼女に友達を作れなんて言える。

自分が変わろうとしていないのに、どうして彼女へ一方的に変われだなんて言える。




 自分の呼吸が次第に浅くなっていくのが分かる。さっきまでの身体の高揚が、私の中で嘘のように冷めていくようだった。

 これが彼女にとって何気ないものであるとは思わない。でも、この言葉が指し示すところは私にとっても終着点とも呼べてしまうほどに重く、苦々しい言葉で。

 これを言ってしまえば今の私は終わってしまう。そう思えるほどの言葉を、私は自分との人格の差異を明確に示していたはずの彼女に叩きつけようとしていた。


なぜ――。


 彼女を見て理想を追いかけるのが怖くなった。

 自分もいずれこうなってしまうのだろうと――手にすること自体が不可能で、求めていても意味のないものだという事実を知ってしまうのが恐ろしかった。

 だから、自分が一番拒絶していた言葉で彼女の考え方を一蹴しようとした。

 初めから私に、人ひとりを変えられるほどの力があるわけもないのに。


ああ、なんで。


どうして、変わる何かを求めているのだろう。

いつから私はこんなにも、変わらない存在に対して否定的になったのだろうか。


 それは彼らの愚直すぎるほどの必死さを目の当たりにして、それでも、そんな触れれば壊れてしまうような関係でさえも憧れてしまった自分に気づいてしまったからか。

 放っておかれることが何よりも辛いことだと、それを知っていたから何もしない彼らを責めることができなかった。そんな弱い自分がいることを、今さら認めたくはなかったからだろうか。

 とうに自分の許容範囲は超えていて、助けを求めるべきなのは自分だと理解はしていても、周りに流されることは弱いことだからと強がって。口を開けば理屈を並べ、自分の立ち位置を正当化したりして。
 
 だけど、それは彼女も同じだった。本当の自分を伝えることができていたのなら、初めから理解されることを望んでいたに違いないんだ。


 彼女へ放った言葉が、強がった態度そのものが、反射鏡にあてられたように最後は私の中に戻ってくるというのに。

 なんで私はあんなことを言ってしまったのだろう。どうして私は、こんな態度でしか自分を保つことができないのだろう。



 やっと知ることができたのに。やっと見つけることができたのに。

 どうして私は、私だけは、変わらない彼女を見てあげられない。



 瞳の中に映る背徳な姿。そこに納まり、見え隠れしていた紛れもない自分の形。



 ああ、私は嫌いなんだ。

 たまらなく自分が嫌いで、今の彼女の姿にどこか自分と似通った部分を重ねてしまって、それがどうしようもなく癇に障って、無性に腹がたって。
 
 だから、私は八つ当たりをしていただけなんだ。何事にも無関心で、どうしようもなく嫌いな私に似た、彼女に。
 
 変わろうとしていなかったのは自分。それを認めたくなくて、逃げるように周りと距離を置いていた。変わらない周りを冷めた眼で見て、虚無主義を気取って、そうして拗ねていただけの自分がいた。

 周りと自分は違う世界にいるのだと、分かり合うことなんて絶対に出来ないのだということを勝手に決め付けて。私はまた、諦めようとした心にずっと嘘をつき続けていたんだ。

 彼女にこんなことを言うのも、本当は私が友達が欲しいからなんじゃないのか。

 自分の感情が達観したと思い込んで、そこで生まれた変わりようのない価値観を全て周りに押し付けて。そして、今まさに私は自分の勝手な自論で固められた価値観を彼女に押し付けようとしている。

 どうしようもなく身勝手で、どこまでも利己的な――私。

 視界の中の彼女が霞んで見える。

 私はそれ以上の言葉を紡ぐことが出来ず、訳もわからないまま涙を流していた。今までしてきた行動と言動の全てが私の胸を容赦なく突き刺した。


情けない。


 自分のしたこと、してきたことの全てが信じられなかった。

 彼女からしたらたまったものじゃないだろう。急に無理やり連れて来られたかと思えば、意もしないことをつらつらと述べ付けられて、そしていきなり目の前で泣かれるのだから。

傍から見たら私はただの変人だ。いや、本当に変なのかもしれない。自分の感情に鈍感なフリをしていたのに、こんな衝動的なことまでして。自分の弱さを露呈するまで気づかないなんて。


期待するなとあれだけ戒めたのに。それでもと、未だ人の価値に固執する私は、惨めで、醜くて。


――そうか。


「つまらないんだ、私は」


こんな自分が――。


 弱々しく毀れた声は階段を伝い、別の階の廊下の奥にまで響いていった。

 耐え難い苦しみとその途方もない羞恥から逃がれるようにやがて私の身体は踵を返していて、その音が耳に伝わるよりも先に彼女から目線を切ろうとした――その時。

 私の向う方向に反する。進みたい心を拒むかのような違和感が私の身体を呼びとめた。
 振り向いてすぐその違和感の正体に気づく。振り向き様に残した私の腕を、袖伝いに彼女の小さな手に掴まれていたからだった。
 驚いて、一瞬振りほどこうと力を加えようとしたが、彼女の袖を掴む手の強さが何かを訴えかけているかのようで、私はその行動のされるがままに再び彼女と向かい合う形になった。

そこには今まで声も出さなかった彼女が私を見つめる光景があった。
悲しみとも、喜びとも取れない。ただ向けられた眼差しは真っすぐに、濁すことのない感情を含ませた瞳で彼女は私を見つめ続けていた。

今さら、どうしてそんな目をするのだろうか。

困惑する私の傍で、彼女は掴んだ私の腕を持ち上げると、その手に一枚の紙を握り込ませてくる。

 既視感。見覚えどころではない。それが何なのかを認識して、今が私と彼女が初めて出逢ったあの時の光景そのものだということを思い出してしまった。

 あのときは深くも考えてはいなかった。でも今は彼女という人物がどういう人なのかを私は知っている。だから握られた彼女の体温と共に伝わってきたそれの感触は、もうただの紙切れとは思えなかった。

 少なからず私のその後を動かすものだと、そして大切にしなければならないものだということを、私はこの時直感した。


 彼女の瞳がどこまでも真っ直ぐで、輝いて見える。


 彼女がゆっくりと握っていた手を離す。私の手に残されたのは微かな温もりと、彼女から渡されたこのカード。余程大切にしていたのか、その表面はとても綺麗な黄土色を放っていた。だけど今の私にはそんなことは些細なことだと、そう思う余裕すら残されてはいなかった。

 自分の全ての感覚がある一つのところに向いている。それは目を見張りたくなるような痛みの一端と、慄きにも似た感情の震えを私にもたらした。そして、それはさっきまで憂悶と流れていた私の時間さえも止めて。


 彼女の手が私の頬に触れる。ぴくりと強張る私の顔を、そのか細い指先は流れ出る涙の一つ一つに掛けられていく。

 ぼやけていた視界が覚めて、今度ははっきりと私の瞳に正面で向き合う彼女の姿が映っていた。


 その瞳がほころんだ、その時に。







フレンドシップ







――――。


 そこに書かれていた文字を読んだ。途切れることのない涙の数が、私の胸を大きく焦がしたものの存在を強く物語っていた。

 長らく忘れていた感覚。この時から私はある意味、誓っていたのかもしれない。

 私も知らなかった想いを抱く今の自分が、゙本物の私″であるようにと。










――――










「あれからもう、十年も経つんだ」

 手に持っていた花ばさみを膝において、向かい合う墓石に切り整えた竜胆を飾った。

 ふとした恣意の心地からか、口にしたその言葉を反芻する頃には辺りはすっかり暗闇に覆われていて、焚いた線香の先端だけが小さな光源として袂に残されていた。

「いつかは忘れるものだと思ってた」


子供のときに受けた衝動も、覚えていた感動も、大人になれば忘れるものなんだと、子供の頃の私は思っていた。

彼女のことも、幸せだったあの時も。変わらない今なんてありはしなくて、変わりたくないと思っていても、いつしかそれはお互いの中で大きな違いになって、気づいたときにその時間は過去の記憶として、終わってしまうんだ。

だけど、忘れるにはあの頃の私は精神的に大きくなりすぎていたんだよね。

じゃなきゃ今、こんなにも私は――。


「私ね、あの後の発表会で友達を題材にしたんだ。『自分の友達が私にとっての一番の宝物です』って、昔の私だったら気恥ずかしくて絶対に考えられなかった」

 「今考えても少し恥ずかしいけどね」と、少し微笑を含ませながら照れ隠しのように悠々と空を仰いだ。

 見上げた先には光輝く星が一つ、ここで私たちがどれだけの時間を過ごしてきたのかを静かに教えてくれている。

 本当に、何もかもが散文的で、稚拙だったあの頃。





夜が降りてくる。


幾たびも過ぎ去った時間がまたはじまる。






「ねぇ」






「あの日あなたは、何を思って私に歩み寄ったのかな」

 何度問いかけたかわからないその言葉を、私は口にした。

 どれだけ待っても応えが帰ってくることはないけれど、それは私がここにいられるようになった大切な理由だから。私は何度でも問いかける。



 あの時の気持ちを忘れないようにするため

 
 これから先に私自身が歩み寄っていくため

 
 どれも自分の答えのようで、でもきっと違う。



「私は、あなたのことも、あの瞬間も」



大人になって、損得で物事を考えることも増えてきて、常識が身についてくると知らないうちに人を傷つけたり、傷つけられたりすることもあるんだけど。

これらを全部含めて、人との『関係』を築いていくということで。

それは、あなたが教えてくれた大切な ゙繋がり″の形だったから。



だから



「すごくうれしかった」





 しゃがみ伏せていた体を持ち上げて、ひらけた木々の先へと目をやった。

 その丘から見える町景色はいつの間にか見下ろした家々の明かりが彩るイルミネーションのようになっていて、空に浮かんだ星の数々もその光に応えるように輝きを増しているように思えた。
 
 とても綺麗な光景で、もし大切な人と一緒にこの景色を見ることができたのなら、ここはこの上なく最適で素敵な場所になっていたことだろう。

 だからここで私がこうして感傷に浸るのにも、もしかしたらこの場所は最高のシチュエーションを演じてくれるのかもしれない。

 だけど今、まさにこの時感じていることに、その場の気持ちを利用してしまいたくはなかった。


静かに閉じた目の淵に熱いものがはしる。

こんなものに吉相な名はなくて、趣なんてものもありはしないけれど。



山から吹き下ろした風が私の頬を撫でる。

それは私の涙のいくつかをさらっていって、火照った顔には少しだけ心地よかった。



どんなに周りが情緒的だと蔑んでいても、私はそれがいらない感情だなんて思わない。

だから私は、この涙を拭わない。


今抱いている気持ちが時間と共に消えていってしまうものだなんて、私は思わないから。



やまない光の粒が、私と彼女の時間をのせていくように風に吹かれ空へと昇っていく。



私はもう、あの日受け取ったカードを握ることはないけれど、あなたが好きだったこの場所を、もう少しだけここから見守らせてね。







そして、いつからか忘れてしまったほころびを、私は精一杯の想いと共に空へと向けた。







うん。


今日は星が、とても綺麗なんだ。『――――。』




















何でもない空の下に貴方がいる。ただそれだけで私たちは繋がっていられる。





ええ、そうね。
















































星がきれいだわ――。


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ユニコーン
デュエルをしない遊戯王の小説という命題。

遊戯王要素の少ない長文をすみません。 (2015-04-25 22:48)
カイト
とても面白かったです。このような型破りな小説もまたいいですね。 (2015-04-29 16:09)
茶々太
なんかすげぇ胸が苦しい・・・。 (2015-05-04 22:11)
のりしお
おおう…。 (2015-05-06 06:24)
しょぼん
途中少し情景描写がクドいかな?、と思ったけど読み終わってみると中々すっきりとした読後感で良。

ただ遊戯王要素ェ・・。 (2015-05-10 01:52)
性なるバリア
これは良いss (2015-05-14 02:33)
名無し
ああ「彼女」は言葉を話せないのか (2015-05-16 18:22)
キングきん
いい最終回だった(あれ、続かない・・・ (2015-05-22 15:53)
クリフォート
遊戯王なんて関係なかった(褒め言葉)
なんていうかこう、どうしてカードゲームやってる人って白い目で見られるんかね・・・。子供のころ不思議でしょうがなかったわ。 (2015-05-29 13:15)
んのぉーい
題名で「何だこれ」気分で開いてみたら予想とはまったく違ったものがでてきて驚いた。本格派というかガチというか、斬新な切り口を見れた気がします。ありがとうございます。
これって題名の意味は何なのでしょうか? (2015-06-09 20:59)
煉獄
寝る前に読んじまった。重い…。 (2015-06-18 00:32)
山茶花山
これはもっと評価されるべき。友達同士になった二人のこれからとか死んでしまった彼女の経緯とかすごい気になる。あと百合が個人的にほんとすこ。 (2015-09-11 21:25)
ひで
びびった (2015-12-11 19:21)
ベルトラ
この板でこんな作品に出会えるとは思わなかった。ただ素晴らしいの一言に尽きる。個人的には改行の間の空白を減らしてくれると読みやすくていいと思いました。 (2015-12-12 02:35)
まさはる
>>んのぉーい
ALU(Arithmetic Logic Unit)=算術論理演算装置

主人公が「モノ」であろうとしたのはつまり、そういうことだろ。 (2015-12-14 00:55)
インド人
完成されてるなぁ・・・。 (2016-01-10 21:40)
オーシャン
良い意味で場違いな『ss』ですね。
いや、ほんと。すごい文章力だと思います。自分もこのくらいあれば...。 (2016-02-05 20:31)
うつほ
作者様の遊戯王と世間に対する風刺的な想いがとても強く伝わってきました。自分の感じてきたことをこんなにもはっきりとした文に表せる才能にはただただ脱帽するばかりです。
ちなみにこれは、作者様の実体験ではないですよね…?まさか、ね…。 (2016-04-06 14:42)

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