第2話「姫と姫」　作：MTGからの刺客

大会の終わった後の夜、遊華は自宅にすぐ帰った。長居しては余計に帰れなくなる上、自宅以外は遊華は同じ場所にあまり留まりたがらない。



「遊華ぁ、私、今日ばかりはハラハラしてよ？」

「分かってる、正直危なかった。ハルがF･G･Dを倒してくれたから、勝てたんだ。」

高級高層マンションの最上階に居を構える遊華は一人でこのマンションに住んでいる。両親は既に居らず、遊華は自分の腕1つで生活しているのだ。しかし、遊華は一人ではなかった。
遊華の隣に寄り添うのは艶のある茶色の少しクセ毛の長い髪に宝石のように輝く瞳を持つ少女だった。しかし、彼女は明らかに普通ではない。

何故なら彼女は、その見た目の年齢にそぐわない豊満で妖艶な身体を更に引き立たせるような大胆なデザインの西洋鎧で包んでいるからだ。彼女の傍らには白銀に輝く大きな剣が置かれている。そして彼女の胸は金色の光の糸で1枚のカードと繋がっている。

《姫騎士ハルカディア》

それが彼女が繋がっているカードの名前だ。
そこには彼女と瓜二つの･･･それ所では無い『彼女自身』が描かれている。そう、彼女は紛れも無く『姫騎士ハルカディア』なのだ。勿論遊華はデュエルディスクを起動しておらず、ソリッドビジョンではないのは間違いない。

かつて最強を誇ったと言う『初代決闘王』が活躍したの頃から伝わる都市伝説がある。それは『カードの精霊』と言う存在であり、稀にカードに宿る魂が形を成して主人にコンタクトを取ると言うものだ。かの『初代決闘王』が率いていた『黒き魔術師』とその独り弟子、そして決闘王が束ね最強を誇った『三幻神』のカードがそれだったと噂されていた。
少女ハルカディアはこの都市伝説の通り『精霊のカード』の存在を裏付ける存在だった
しかし、遊華の不思議な体験はここでは終わらない。

「それで、ご褒美に私を遊華と二人っきりにしたのですの？嬉しいですわ。」

「むぅ･･･って言うかハル以外疲れて出てこなかったし。」

なんと彼女のデッキの『姫騎士』全てが『精霊のカード』と言う非常に珍妙な状態だった。彼女らは『気づいたらこうなっていた』と自分たちの出自を知らず（興味も無いようだ）デュエル以外ではハルカディアの様に気ままに実体化しては遊華と暮らしている。そもそも遊華がこのような高級で広いマンションに住んでいる理由が、遊華と暮らしたがる彼女らの為なのだ。
特にハルカディアは遊華をいたく気に入っているらしく、私生活のほとんどを遊華と過ごすことを望み（しかも実行している）、外出する時も普通の服に着替えて（精霊なのに着替えが出来るらしい）遊華と行動している。

だからこそ、遊華は独りでも寂しくも辛くもなかった。独りぼっちじゃなかったから。



―ピピピッ

不意に遊華の携帯が着信音を鳴らす。非通知だ。

「もしもし？どうしてあたしの番号、知ってるの？」

「『決闘姫』だな？俺は貴女に決闘を申し込む。場所は近くの埠頭だ。」

用件だけ言って、その電話の相手の男性は通話を切ってしまう。遊華の答えは聞かなかった。聞く必要が無いのだ。

「決闘の申し込み？」

「うん、行くよ･･･ごめんね、みんな。」

遊華がジャケットを羽織りながら後ろを振り向くと、そこには様々な姿の少女騎士たちが居た。
その中には先程の決闘で遊華を勝利に導いた炎の戦乙女『アライブ』、燃える翼を持つ姫『チルル』も居る。

「行こう我が主、私達は貴女と共に在る。」

姫たちの言葉を代弁して、アライブは言った。