EP6 焔獄竜VSアンデット　作：ター坊

「〔力の略奪者(タレント・バンデット)〕！！歩行、発声！」
アリスの手が白朧院の肩から離れると光る珠が２個取り出された。その後、ポップロックは白朧院を解放する。
「白朧院さん！大丈夫！？」
「… … ！？……！…！」
「ど、どうしたんだ…」
遊季都は白朧院に呼び掛けるも様子がおかしい。白朧院は何か叫びたそうに口を広げるが声は出ず、立ち上がろうにも生まれたての鹿のように足がガクガクと震えて一向に立てる気配がしない。
「どうしたんだろう…まさか！」
「あれがアイツの…ポップロックが与えた能力ね」
「そうよ！これがアリスの力、〔力の略奪者〕！！触った人間から好きな才能を奪える、最高の能力よ！」
「他人の才能を奪う…あっ！」
遊季都はあの時の不自然さを思い返した。
「テストのワースト７人が全員０点はおかしいと思ったけど…まさか！」
「その通り~☆他のクラスで勉強できる奴に近づいてぇ、知識を奪っちゃったってわけ。まぁ奪われた方はダメダメになって平仮名の読み書きも出来ないくらい落ちぶれたけど関係無いよね♪」
「お、おかしいよ…」
全く悪びれる様子もなく自分のしでかした事を嬉々として語るアリスに温厚な遊季都ですら憎悪という感情が芽生えそうである。
「ア、アリスちゃん。う、嘘だよね？」
そんな中でまだ純真なアリスはまだいると信じている人間がいた。黒田である。
「はぁ？」
「だってテレビや学校で見るアリスちゃんは可愛くて輝いていて、オイラ、凄く」
「…話さないでよ豚」
「…え？」
信じてやまないアイドルからの汚い言葉に黒田は自分の耳を疑う。
「今、なn」
「喋るなって言ってるだろキモ豚！」
「うぅっ！」
「アンタみたいなキモ豚に追っかけ回されるこっちの身にもなってよね？愛想振り撒いたら金ヅルになったり下僕になってくれたりして便利で面白かったから我慢してたけどもう限界！！なに勘違いしてるか知らないけど、あれ全部演技だから。アンタさぁ、アリスみたいな可愛いアイドルがキモ豚全員に本気で“みんなー愛してるよー“とか言ってたと思ってんの w w w 」
嘲笑し蔑むアリスの姿に黒田の心は痛みに耐えきれず涙となる。
「や゛めてく゛れぇ！」
「は？何泣いてんの？余計キモいだけなんだけど」
「ごんな゛ア゛リスち゛ゃん、見た゛くな゛い゛！！」
それは黒田の精一杯の叫びだった。自分の想いは確かに一方通行で気持ち悪いと思われても仕方ないかもしれない。それでも自分はテレビや学校で見た綺麗なアリスを信じ続けたい。目の前の汚い言葉を吐くアリスは偽者か悪夢の類いであって欲しいという精一杯の希望の叫びだった。しかし、その希望は踏みにじられ簡単に壊れる。
「アリスだってキモ豚に見られるのは嫌よ！〔力の略奪者〕！！歩行、発声、あと視力！！」
アリスは泣きじゃくる黒田の指先に触れて能力を発動させる。
ﾄﾞﾀｯ「… … …！…！…！」
ポップロックの拘束から黒田は放たれるが、黒田は目を抑えながらゴロゴロとのたうち回る。その様子を見て遊季都はアリスを、珍しく睨み付ける。
「アリスさん！あんまりじゃないですか！！黒田さんは貴方の歌や笑顔に支えられて頑張れたって言ってました！そんなファンに対する仕打ちがこんなのじゃ彼が可哀想じゃないですか！」
「別にぃ。こんな豚の一人や二人が嫌いになってファンを止めても全然困んないし」
遊季都の叫びもアリスは全く意に介さない。そんな様子を見てラズベリーも痺れを切らす。
「遊季都くん…。アタシさぁ」
「分かってるよ…。僕も自分でも信じられないくらい怒りっていう感情が溢れてるのを感じてるよ」
「アリスとやろうっていうの！良いわよ、全力で叩き潰してあげる！それでアンタの悪魔の力も奪ってやる！行くよ、ポップロック！」
「…主の命なればやむを得まい」
「頼むよラズベリー！」
「ＯＫ！」
ラズベリーとポップロックはカードに戻り、デュエルディスクにセットされる。



「「デュエル！！」」

「先攻はアリスよ！アリスのターン！『飢血侍(ヴァンブシーロード)ショウコ』を召喚！」
陣羽織を羽織る色白のヴァンパイアが刀を構える。
「ショウコの効果を発動！デッキトップからカードを３枚墓地に送ることで攻撃力５００アップ！さらに墓地に送ったカードの中に飢血侍がいるならその内１枚を手札に加える。アリスは墓地に落ちた『飢血侍ドウデンカン』を手札に戻すわ！そしてカードを２枚セットしてターンエンド」
「僕のターン、ドロー！」
【遊季都くん。新デッキの試運転がてらあの女懲らしめよ？】
【うん！】「僕の魔法･罠カードゾーンにカードが存在しない事で手札から『焔獄竜(えんごくりゅう)-マスカレード』を特殊召喚！」
現れたドラゴンは皮膚が赤黒く焼け焦げ『仮面竜』の面影がある。
「魔法カード『焔獄の鬼火』を発動！これでマスカレードを破壊して相手フィールドのカードも破壊します！僕が選ぶのは右のセットカードです」
無数の炎の玉が円となり、マスカレードとセットカードをそれぞれ囲み、焼き尽くす。
「さらにこの効果で破壊した焔獄モンスターの攻撃力の半分のダメージも与えます！マスカレードの攻撃力の半分、７００のダメージです！」

アリス:LP 8000→7300

「ちぃっ！」
「破壊されたマスカレードの効果発動！デッキからレベル４以下の焔獄モンスターを特殊召喚します！来い、ボンバー！」
鬼火が消えかかると、それがボォッと突然燃え上がり、大きな爆弾を抱えた赤黒い竜の姿へとなった。
「ボンバーの効果発動！手札の『焔獄竜-アーミー』とアリスさんのショウコを破壊！」
ボンバーは何処から取り出したのか、２個の爆弾をぶん投げて対象を破壊する。
「よくもアリスのモンスターを…！」
「破壊されたアーミーの効果で１枚ドロー。そして！ボンバーが自身の効果によってモンスターを破壊した事でドライヴ条件を達成！！」
ボンバーは地から昇る火柱に包まれる。
「ドライヴ召喚！『翔爆竜-ブレイズフレアウィング・ドラゴン』！！」
火柱が収まると、炎の翼を纏ったドラゴンが空を舞う。
「くっ！ドライヴ…」
「僕のフィールドに炎属性・ドラゴン族のモンスターが存在する事で手札から『焔獄竜-ハルベルト』を特殊召喚。バトルです！ハルベルトでダイレクトアタック！この瞬間、ブレイズフレアウィング・ドラゴンの効果で相手に３００ダメージです！」
ブレイズフレアウィングの羽ばたきによって発生した熱い追い風がアリスを襲う。

アリス:LP 7300→7000

「チョーシに乗らないでよね！アリスは罠カード『飢血侍の美学』を発動！これによって墓地から『飢血侍キチギョウ』を特殊召喚！キチギョウが墓地からの特殊召喚に成功した事でさらに墓地から守備表示でショウコを特殊召喚！効果で２枚ドロー！」
「モンスターが…だけど！ハルベルトで守備表示のショウコに攻撃！バルディッシュは貫通効果があります！」
槍のように尖ったハルベルトの嘴がショウコの体を貫く。

焔獄竜-ハルベルト ATK 1900 VS 飢血侍ショウコ DEF 500

アリス:LP 7000→5600

「痛っ！」
「さらにブレイズフレアウィング・ドラゴンでキチギョウを攻撃！もう一度３００ダメージ！」

アリス:LP 5600→5300

翔爆竜-ブレイズフレアウィング・ドラゴン ATK 2800 VS 飢血侍キチギョウ ATK 1700

アリス:LP 5300→4200

「さらにブレイズフレアウィング・ドラゴンが戦闘によって破壊したモンスターは墓地じゃなくてデッキの一番下に戻ります！」
色白のヴァンパイアは焼かれながら吹き飛ばされていく。
「ちっ！」
「飢血侍は墓地肥やしと墓地からの特殊召喚で真価を発揮するデッキのようですね」
この世界でカードは大量生産されたタイプの既製カードと有力者やプロ選手等が持つ一般には流通しないオーダーカードと呼ばれる物が存在する。アリスの飢血侍は後者のため、本来対策は大会やイベントのVTR等を見て立てるべきだが、遊季都はアリスの１ターン分の挙動で飢血侍の大まかな特徴を捉えていた。故に墓地に落ちて蘇生されると厄介なキチギョウをデッキに戻したのだ。
「よくもアリスのフィールドを…！」
「僕はカードを１枚セットしてターンエンドです！」
フィールドを更地にし、ライフも半分近くまで削った。戦況は遊季都に傾いている…筈だった。
「こんなのあり得ないし！アリスはいつでも一番なのよ！！人気も、歌も全部！！アリスはこれからも〔力の略奪者〕で一番になり続けるのよ！アリスのターン、ドロー！！」
アリスの常に１位になることへのこだわりというプロ意識は〔力の略奪者〕を得た時点で歪み始めたかもしれない。追い詰められたアリスの表情にアイドル故の可愛さは潜まり、他者を汚く蹴落としてでも頂点をつけ狙う貪欲な亡者といった目付きになっていた。
「アリスは魔法カード『融合』を発動！」
【融合？】
【モンスターを特殊な効果で合体させて全く別のモンスターを出す方法だよ】
「アリスは手札の『飢血侍ドウデンカン』、ケンテイ、コテツ、セイコウを融合！来なさい、ポップロック！」
「我の出番か」
【アイツ出るの！？】
「アリスと契約する悪魔の力の化身、４体の亡者を贄に顕現する。全てを略奪、蹂躙し、アリスに勝利をもたらせ！融合召喚！！『死霊皇(ネクロマスター)-ヘルホッフ！！』」
４体のヴァンパイアが重なった姿は元の形を留めない巨大な骸骨の化け物であった。呪詛的な衣装を纏い、両手で怪しく光る大きな紫の水晶玉を抱えるように持っている。
「これが…アリスさんの…」
「ヘルホッフの攻撃力・守備力はフィールドのコイツ以外のアンデットモンスターの攻守をそれぞれ合計した数値になるわ」
【な～んだ。なら全然怖くないじゃん】
【いや、何かあるよ！】
「アリスはライフを８００払ってあんたの墓地のボンバーとフィールドのブレイズフレアウィングを対象に効果発動！」

アリス:LP 4200→3400

「これでアリスは墓地からボンバーを蘇生、それと『翔爆竜-ブレイズフレアウィング・ドラゴン』のコントロールを永続的に得る！」
【はぁ！？なにそれズルじゃん！】
「そんな…『死者蘇生』と『強奪』みたいな効果が同時に…！なら、僕はチェーンして対象にされたブレイズフレアウィング・ドラゴンの効果を発動！１ターンに１度、相手フィールドのモンスターの攻守を半分にして守備表示に変更させます！」
ヘルホッフの闇の波動が届く寸前、ブレイズフレアウィング・ドラゴンは強烈な羽ばたきでヘルホッフを怯ませる。
「けど奪わせて貰うよ」
蘇ったボンバーと奪われたブレイズフレアウィング・ドラゴンは闇の波動に捕らわれると体が徐々に腐っていく。
「これは！」
「言い忘れてた☆この効果で蘇生及び奪ったモンスターは効果が無効になる代わりにアンデット族になるの」
「じゃあボンバーも、ブレイズフレアウィング・ドラゴンも…」
「そっ、アリスのヘルホッフのパワーの一部になるわよ。さらに言うとこの効果、１ターンに２回使えるんだよねぇ！」
「なんだって！」
「って言う訳でもう１回８００払って効果発動ぉ♪墓地のマスカレードとフィールドのハルベルトを貰うわ！」

アリス:LP 3400→2600

【遊季都くんのモンスター全部取り上げられちゃった！！】
「それよりも…ヘルホッフの攻守が…」

死霊皇-ヘルホッフ ATK 6600 DEF 2900

【寸前で守備表示にしたけど、堅すぎ！】
「さらにアリスは永続魔法『死霊の祝宴(デス･パレード)』を発動！アンデット族モンスターの攻撃力は３００アップし、相手に戦闘ダメージを与える度にアリスのライフをその数値分回復するわ！さぁ、あんたのモンスターに踏み潰されなさい！！」

焔獄竜-ボンバー ATK 1300 + 焔獄竜-マスカレード ATK 1700 + 焔獄竜-ハルベルト ATK 2200 + 翔爆竜-ブレイズフレアウィング・ドラゴン ATK 2600　直接攻撃

遊季都:LP 8000→200
アリス:LP 2600→10400

支配され朽ちた焔獄竜たちは元の主に牙を剥き、その衝撃で遊季都は吹き飛ばされる。
「あっは は は は ！ねぇどんな気持ち？自分のモンスターにボコボコにされるってどんな気持ちぃ？まぁアリス優しいからぁ、今サレンダーしてその悪魔くれるんだったら特別にアリスの奴隷(ファンクラブ)に入れてあげても良いわよ？」
【くっ！あの女…！】
「ラズベリー…僕は大丈夫だよ…」
遊季都はよろりと起き上がる。
【遊季都くん…】
「あんな人にラズベリーの力を使わせないし、白朧院さんと黒田さんを戻す為にも僕は負けられないよ。それに…昔みたいに何も出来ないまま終わるなんて…僕は嫌だ！」
昔、遊季都は幼い故に大人に逆らえず、流されるままとなって現在の遊季都になってしまった。それは覆らない事実だと諦めていたが、葛川の事件の時、ラズベリーをカードとして覚醒させる際に遊季都は分かった。自分で自身の立場に憤っていると、そしてそれを変えたいと。
「僕のターン、ドロー。…行くよラズベリー」
【合点！】
「無駄無駄。アリスのＬＰは１万越えてるんだよー？それに比べてそっちはたった２００。モンスターを倒せたにしてもそれっぽちのライフ、アリスの次のターンで消えちゃうよ？」
「いいえ、御門さん。あなたのターンはもう来ませんよ。僕はリバースしていた速攻魔法を発動！『焔獄の咆哮』！！僕のフィールドにモンスターがいない場合、デッキから焔獄モンスター１体を特殊召喚します！来い、『焔獄竜-ソウルハート』！」
胴体が幽霊のように半透明なドラゴンが現れる。
「何？その弱そうなモンスター？」
「これが僕の今を切り抜けさせてくれるカードだ！バトルフェイズに入ってソウルハートでマスカレードを攻撃！」
「何？カッコイイこと言っといて自滅なのぉ？」
「いいえ！攻撃宣言時にソウルハートの効果を発動！手札から『焔獄竜-ルドラド』を破壊して攻撃力を１５００アップします！」
「え！？」
「そして破壊されたルドラドは自身の効果で攻守を１０００にして復活します」

焔獄竜-ソウルハート ATK 3000 VS 焔獄竜-マスカレード ATK 1400

アリス:LP 10400→8800

「ふん、このくらいでアリスに勝てると思ってるの！？」
「勝ちます！僕は攻撃力２０００以上のドラゴン族モンスターで相手モンスターを戦闘破壊したため、ドライヴ条件を達成！！悪魔の力を貸して、ラズベリー！」
「はーい☆」
「ドライヴ召喚！『覚醒竜姫-ラズベリア』！！」
天高く昇った火柱が無くなると遊季都の悪魔の力が降り立つ。
「ラズベリー…それがお前のカードとしての姿か」
「ポップロック。アンタの負け確定よ？」
「何？」
「僕はルドラドでボンバーを攻撃！」

焔獄竜-ルドラド ATK 1000 VS 焔獄竜-ボンバー ATK 1000

「相撃ち？」
「ボンバーは破壊されたことで相手に１０００ダメージを与えます！効果は無効になっていてもそれはフィールドのみでの事です！」

アリス:LP 8800→7800

「さらにラズベリアでハルベルトを攻撃！」

覚醒竜姫-ラズベリア ATK 2500 VS 焔獄竜-ハルベルト 1900

アリス:LP 7800→7200

「ちまちま削っても無駄って言ってるでしょ！」
「いいえ！さらにラズベリアの効果！墓地からアーミーを除外してブレイズフレアウィング・ドラゴンを破壊して除外します！」
ラズベリアの炎が数倍の体格のドラゴンのゾンビを焼き払う。
「これで貴方のフィールドに他のアンデットモンスターはいなくなったため、ヘルホッフの攻守は０です」
「それで？守備表示だからダメージは」
「ラズベリアが僕のフィールドに単体でしか存在しない場合、２回攻撃と倍貫通の効果を得ます。それにラズベリアはこのターン、自身の戦闘及び効果で破壊したモンスターの攻撃力の合計分パワーアップします」
「えっ…えっ！？」
「奴の破壊したのはハルベルトの1900とブレイズフレアウィング・ドラゴンの2300…ふっ。我の負けか…」
「行って！ラズベリー！」
「ポップロック！悪いけど今回アタシの勝ちだよ！」
「ラズベリアでヘルホッフを攻撃！紅蓮のメテオアロー！！」

覚醒竜姫-ラズベリア ATK 6700 VS 死霊皇-ヘルホッフ DEF 0 (倍貫通)

炎の矢となったラズベリアがヘルホッフに突進し水晶諸共胴体を貫く。

アリス:LP 7200→0

「きゃあぁぁ！！」





アリスとの激闘は13400というオーバーキルによって幕を閉じた。