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HOME > 遊戯王SS一覧 > Ep11 答え

Ep11 答え 作:ター坊



日曜日の早朝。サニーアップ事務所には会長夫婦とプロ4人が集まっていた。
朝に集合してチャーターしたバスでイベント会場に向かい、開場時間の9時までにブースの総仕上げをする手筈だ。そもそもこのイベントはサニーアップ事務所以外にも様々なデュエルジムや事務所も参加しており、デュエルモンスターズをより盛り立てようという企画なのだ。
「おい、遊路くん。そろそろ出発するぞ!」
遊路の申し出でバスの出発時間は引き延ばされていたが、そろそろ厳しくなってきた。
「…来ないか。すいません。じゃあ、行きましょうか」
遊路も諦めてバスに乗り込もうとした時だった。
「あら?遊路ちゃん。あれが例の子じゃない?」
「来たか!」
早朝という事もあって気だるそうに歩いてくる少女が現れる。
「やれやれ。時間ギリギリに来やがって」
「うっせぇ。来ただけでもありがたく思いやがれ」
相変わらずの生意気な口調―詩音だ。




バス車内。バスの奥の座席で詩音は不機嫌そうに車窓から景色を眺めていた。その態度は本当に中学1年生の女の子かと疑う程だ。バスの最前列の席で勝彦会長と遊路が小声で話す。
「…時給1280円で釣ったが…。そこまで人件費は割けないぞ?」ヒソヒソ
「なら俺の給金から引いても構わないので」ヒソヒソ
「それにしても遊路くん。なんで彼女にそこまでこだわるんだ?」ヒソヒソ
「…昔の俺に似てるから…ですかね。いや、正確には昔の俺よりも進んでますけど…」ヒソヒソ




イベント会場に到着した事務所の面々は早速準備に取り掛かる。とは言っても会場の特設ステージやテントはだいたい組み立てられ、あとは細かい装飾や出し物の仕込み、ステージでの動きの確認くらいだ。
「ったく!なんでアタシがこんなこと…」
「ほら詩音ちゃん!若いんだからテキパキ動く動く!」
「っ!」
悪態をつく詩音だが千代さんのおばちゃんパワー(?)には敵わないようで、なんやかんやで作業を進める。
そしてイベント開始の時刻となり、デュエルモンスターズのファンやデュエリスト達がどっと押し寄せる。
各ブースでの催し物は縁日のような露店が多いが、デュエルアイドルのライブやカードのイラストレーターによる原画集・同人誌の即売会、モンスターのコスプレ大会などデュエルモンスターズならではの企画も多い。そんな中でサニーアップ事務所が露店で提供しているものは
「すいません!ドローたい焼き1つ!」
「はい、150円になります」
ドローたい焼き―一見すると普通のたい焼きだが中身はランダムという、食べる時にドローやパックの開封のようなドキドキ感が味わえる代物だ。スタンダードな餡子やカスタードクリームを始め、色々なジャム・チョコ・チーズ・ドライカレー・ピザ風などラインナップは広い。
「ったく。多いんだよ」
「すいません!ドローたい焼き5つ!」
「あっー!ハイハイ!!」
詩音は愚痴を言う暇もなく多忙さに揉まれていく。
「ん?」
詩音はふと隣を見る。
「ドローたい焼き3つお願いします」
「はい、全部で450円になります」
「ゆーじせんしゅ、あくしゅしてー!」
「はーい。いつも応援ありがとう」
「遊路選手!サイン下さい!」
「ごめんね?後ろのお客さんが困っちゃうからそれはお断りしてるんだ」
現役世界チャンピオンのデュエリストが間近で売り子をしてるため、ドローたい焼き以外にも握手やサインをねだる客も多いが、遊路は嫌な顔もせず、にこやかに応対する。
「…ふん」
詩音はそんな遊路の様子を蔑むように見る。もし自分がチャンピオンならあんな風にペコペコしないのに、と思いながら。




ドローたい焼きを売りに売って1時間半。売り子の交替で詩音はしばらくフリーとなる。遊路は少し後にステージイベントが控えているため単独行動だ。
笑い合う人混みの中、詩音は前回遊路に言われた『何かを守る力』について考える。ここに来ればそのヒントが掴める、と言われ来たが、やったことと言えば会場設営とたい焼きを売ったくらいだ。自分は騙されたのでは、と思い始めていた。
「きゃっ!」
「っ!」
詩音の体に誰かがぶつかる。ボーッと考えてて気付かなかったのだ。
「あっ。ごめんなさい」
詩音にぶつかったのはサラサラしてそうなピンク髪をサイドテールに結ってる、紙袋を持った背の低い女の子だった。
「美羽様!大丈夫ですか?」
「うん。平気…。あの、ホントにごめんなさい」
その背の低い女の子を美羽様と呼ぶ女性はベビーカーを押していた。
「…別に」
詩音は素っ気なく答える。
「あっ。美羽様!時間が!」
「…!ホントだ。…あの…すみません。サニーアップ事務所のブースって何処ですか?」
その二人組は恐る恐る詩音に訊ねる。
「何?アンタら、風峰遊路のファン?」
「いえ、ファンというか…彼女というか…」
「…ふーん」
そこで詩音はある事を閃く。
「…良いよ。アタシが案内してやる」
「まぁ!ありがとうございます。私、遊月と申します」
彼女という事は風峰遊路の事を色々知ってる筈。ムカつくアイツの弱味を握ってやる、化けの皮を剥がしてやると詩音は企んだのだった。







流れ的に詩音はその美羽・遊月と一緒にサニーアップ事務所のステージイベントを見る羽目になった。
「さっすが遊路!すごい人気」
美羽の言うようにステージ前のベンチは全て埋まっていた。
「ところで詩織様は遊路様のファンなんですか?」
詩織―というのは詩音が咄嗟に名乗った嘘の名前だ。
「そういう訳じゃないけどさ…。どんな奴かなって…」
「どんな人…ですか…」
「そーだなー…」
遊月と美羽は遊路の来歴を語り始めた。








「…」
詩音は遊路の歴史に口を挟まずに聞き入っていた。
遊路は去年の8月頃にデュエリンピック日本代表選抜トーナメントで優勝したものの、すぐにプロにはなれなかった。未成年で女二人と交際し、しかもその内の一人とは赤ちゃんまでデキちゃってる――実態はどうあれ、世間からの評判は冷たく、各大手デュエルジムや事務所もそんな遊路をプロとして迎える勇気が無かった。
その中で遊路をプロとして採用したのはサニーアップ事務所だった。元々は倒産寸前の事務所で、遊路のプロ採用は謂わばダメ元だったらしい。しかし遊路の人柄に触れて橘会長がいたく気に入り、事務所として遊路をバックアップ、遊路もイベント活動の中で社会的信頼を積み重ねていった。
「遊路は…私達をずっと優しく温かく守ってくれる大好きな人なの」
「はい。プロデュエリストとして…私達の夫、この子の父として、幸せを守るために戦ってくれているんです」
「…ふーん」

ビー

「あっ!ステージイベント始まったみたい」
「遊路様、頑張って!!」
美羽と遊月がステージ開始で盛り上がる一方、詩音は二人の話を一通り聞いて考え込む。
「守る力…ねぇ…」

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