Ep1　慌ただしくも幸せな朝　作：ター坊

「あ゛ぁぁー！あ゛ぁぁー！！」






１日の始まりを告げる幸せの鐘のような泣き声が響く。

「ん…」
その声にこの物語の主人公―遊路が目覚める。遊路はスマホの時計表示を確認し、今は本来目覚める時間よりもやや早い事に気付くが、二度寝することもなく着替え始める。
服をキチンと整え自室を出て、朝の泣き声の正体の元へ向かう。まぁこの家で朝から大泣きする人物は一人に絞られるが。
「遊月。おはよう」ﾋｿﾋｿ
「あっ。遊路様…」ﾋｿﾋｿ
部屋に入ると遊月が赤ん坊を抱っこしていた。
「申し訳ありません。折角のお休みなのに」ﾋｿﾋｿ
「いいよいいよ。赤ちゃんは泣くのが仕事みたいなもんだから。…落ち着いたみたいだな」ﾋｿﾋｿ
遊路は遊月が抱っこする赤ん坊のほっぺを指の背で愛しそうに撫でる。それもそのはず、この赤ん坊は遊路と遊月の血を引いた娘なのだ。
「おはよう大和(やまと)…。今日も元気一杯に過ごすんだぞ」ﾋｿﾋｿ
大和―。大和撫子を体現する美しく凛とした女性に、また、字の如く周囲を大いに和ませるような温かい人物になれるようにと願って付けた名前だ。
「う゛ぅっ…あ゛ぁぁっ！」
「大和！？」
「お、俺が悪いのか！？…ん。この臭いは…」
「あっ、きっとオムツですね…」
「あっちだけか？」
「あ、はい。お願いします」
二人のバタバタとした朝はまだ始まったばかりだ。



大和が疲れて眠りに就いた頃に遊路達の朝食となる。
「美羽。御苦労様」
「遊路こそ。すっかりお父さんって感じだよ」
テーブルに食事を並べているのは美羽だった。遊路と遊月が大和の世話をしている間に起きて、準備していたのだ。
「美羽様、お手伝い出来なくて申し訳ありません」
「ううん。遊月さんが育児で遊路が仕事だったら、私の今の役目はこういう家事、ってそういう風に決めたでしょ？」
美羽は遊月に笑いながらそう答える。基本的には３人それぞれの別々の役割を担っているが、適宜支え合って暮らしていくというのが今の遊路達の生活方針だ。
「…うん。良い味のだし巻き卵…腕を上げたな」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ
「遊路の教え方が上手だから… / / / 」
遊路は美羽の頭を撫でる。
「そうそう。今日はちょっと出掛けるから留守番任せたぞ」
「はい。…あれ？でも今日はお仕事も学校もお休みなんじゃ…」
「あー…まぁそうだけど…。ちょっと用事があってな。昼頃に行ってくる」
「かしこまりました」
「分かったよ」
こうして朝の時間が過ぎていく。







おまけ次回予告

遊路「じゃあ行ってくる」
遊月「…いってらっしゃいませ」
美羽「んー。でも行き先も言わずに何処に行ったんだろ？」
遊月「…もしかして他の女…」
美羽「まさか！」
遊月「いえ、遊路様が、ではありませんよ？きっと遊路様の優しさに突け込んだ女狐が…！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ
美羽「遊月さん、落ち着いて！では皆さん、また次回！」