71 ロバート再来　作：ギガプラント

（楠家）




夏武斗の部屋、
頭まですっぽりと布団を被っている夏武斗。
但し眠っているわけではなく、静かに苦悶の表情を浮かべている。




夏武斗「………」



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夏武斗「なんなんだよこれ…！！おい！しっかりしろよ爺ちゃん！！！」


宇佐美「そ…れ……だ……」


光は空へと昇華していく。爪先から順にゆっくりと


宇佐美「け聞け……れ…ば、充……分…」


そしてその全てが光となり、夏武斗の腕から完全に消えて無くなる。


宇佐美「ありが………と…」



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夏武斗（一体何があったってんだよ…身体が突然光になって…空にキラキラって…。）


夏武斗（でも……あれは…あれは間違いなく…。）





夏武斗（香子の爺ちゃんは………もう……）






夏武斗「もう嫌だ…訳分かんねえよ…ちっくしょぉ…」




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（Ｍ.Ｃ.Ｃデュエルセンター・ロビー）



仁「…夏武斗は？」


天音「今日も来ていません……。」


仁「……そうか。」


天音「一体何があったんでしょう…動物園依頼ずっとあの調子なんて。」


天音「やっぱりあの時様子がおかしかった飼育員の人達に何かされたんじゃ…！」


仁「アイツに大きな外傷は無かった。今度はカードを奪われた様子もない」


仁「…まぁ奴等が関連している可能性は否定できんがな。」


仁（と言っても、ほぼ確定か…。）


天音「飼育員の方々…結局全員気絶してしまっていて、目が覚めたら何も覚えていないようでした。」


仁「…例の事件と同じか。」


仁「なんにせよ当の本人があの調子ではな、なんとか訊きだしたいところだが。」


天音「あんなに辛そうにしてたんです。とても訊きだすなんてできません…！」




香子「あ、見つけた。天音さ～ん！」




センター入り口より手を振りながら走り寄って来る香子。


天音「香子さん。おはようございます。」


香子「天音さんおはよう。仁さんも。」


仁「……」


香子「夏武斗君……は、いない…か。」


天音「はい…。」


香子「やっぱり、あれ以来？」


天音「そうですね……あの日以来一度も来ていません。」


香子「そっか…。一体何があったのかしら。」


天音「連絡したんですけど……返信も無くて…。」


香子「うーん……お爺ちゃんなら何か知ってるかもしれないんだけど…。」



香子「はぁ…なんでよりによってあのタイミングで…。」



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夏武斗「うわあああぁあああアあああ！！！!！！！」




天音「夏武斗君！落ち着いて下さい！夏武斗君！！」


香子「一体何が…！」


夏武斗「ああぁっ……あああぁっ…！」


仁「………！」


夏武斗の肩を支える天音。


天音「夏武斗君……。」




夏武斗「あ、天姉……仁……香子も…。」


香子「あっミミ！」


先程まで姿を消していたミミが、どこからともなく現れる。

香子の姿を見つけると真っ直ぐ腕の中に駆けてくる。


香子「もう……また心配かけて…。」


香子「あなたを探してる間にお爺ちゃん行っちゃったのよ？」


夏武斗「っ！！」


香子「まぁ、一先ず見つかって良かった。」



夏武斗「こ、香子…。」


香子「えっ？」


天音「………！」


夏武斗「爺ちゃんは………じ、爺ちゃんは…。」


香子「あ、大丈夫。ちゃんと聞いてるから。」


夏武斗「えっ…！」





香子「事情は聞いたわ。さっきメールが来たの。」


香子「ごめんね。びっくりしたでしょう？」


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香子「『外国の古い友人から急な呼び出しを受けた。暫く帰れないかもしれぬ。ミミの事は任せた』ねぇ…。」


香子「いくらなんでも急すぎるわよね…。まさか夏武斗君を置いてさっさと行っちゃうなんて。」


仁「…その情報は信じられるのか？例の連中に攫われたりした可能性は…」


香子「それが家に帰ってお爺ちゃんの部屋に入ったら荷物がごっそり無くなってたのよ。間違いないわ。」


仁「………」


香子「兎に角私もお爺ちゃんに連絡してみるわ。…海外だから難しいとは思うけど。」


天音「ありがとうございます。」



仁「………！？」


仁のdPhoneが震える。


仁（通話だと？一体誰が……）



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（？？？）



マヘル「………」


マヘル「…宇佐美老人は散ってしまったか。」


平留「散った…とは？」


マヘル「『界精』のカードを使い……デュエルに敗北したそうだ。」


マヘル「それは死を意味すると思って差し支えない。」


平留「界精…あのカードが。」


マヘル「あれは我等の力の源であると同時に『魂』の源でもある。」


マヘル「ラーナからも聞いていようがあれは最終手段だ。努々忘れぬようにな。」


平留「…フン。女から施されたカードを使うなんてこっちから願い下げです。」





マヘル（しかし、これはつまり界精のカードを使った老に勝ったという事…。）


マヘル（あれを超える力を持つというのか……。）




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（Ｍ.Ｃ.Ｃデュエルセンター・裏口前）



裏のスタッフ専用口から出てきた仁を明るく迎えるロバート。



ロバート「おっつかっれちゃ～ん！」


仁「………」


ロバート「あれま、相変わらずドライですこと…。久々の再開、もう少し感動的に行かないもんかねぇ。」


仁「…何が久々だ。精々数日ぶりだろう。」


ロバート「つれないねぇ…あぁ寂し。」


仁「…それで何の用だ。こんな軽口の為にわざわざ通話してきた訳じゃあるまい。」


ロバート「せっかく仕事終わりまで待っててやったのにこれだもんなぁ。…てかお前、なんとなく察しはついてんじゃねえの？」


仁「………」


ロバート「ま、ここじゃアレだ。近くにバイク停めてんだ、乗れよ。」




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夏武斗「………」


夏武斗（香子のとこに来たっていうメール…。）



『外国の古い友人から急な呼び出しを受けた。暫く帰れないかもしれぬ。ミミの事は任せた』



夏武斗（爺ちゃんはどの道家族の前から姿を消すつもりだったんだ…。）


夏武斗（『アインヘリアル』って奴等のとこで人間を滅ぼす為に…。）



夏武斗「くっそぉ…！」


再び布団に包まる。





ドアの陰から夏武斗を見る夏武斗の祖父。


爺ちゃん「はぁ～。なんか知らねえが重症だな……。」



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（上波町）


上波町内のビルを渡っていく４人の男女。
真夏には似合わないフードを目深に被り、人間の限界を凌駕した身体能力で駆けていく。


アリス「だぁ～面倒くさい！！」


アリス「なんで何箇所も回んなきゃなんないのよ！ヴァルト、ジュース！！」


ヴァルト「どうぞ、アリス様。」


双葉「アリス……次で最後だから頑張ろう？」


ヴァルト「ラーナ曰くもうそろそろ時間が無いそうです。人間を殲滅するにはタイミングが重要だと…。」


？？「あーあ…ったくなんで俺がこんなこと。」


アリス「アンタ今まで碌に仕事してないじゃない！寧ろ一人で行きなさいよ！！」


双葉「まぁまぁ…見張りとか必要だし一人じゃ難しいから…。」


？？「ったく、宇佐美の爺さんがやられたからってマヘルの野郎ビビりすぎだっての。」


？？「…ん？」


足を止め、町の外に走っていくオートバイに目をやる。


？？「………」



アリス「ちょっと！！何してんの！」


双葉「どうかしたの？」


？？「………面白え。」


次の瞬間、５階建てのビルを軽々と飛び降り、どこか路地裏へと消えていく。



双葉「ちょ、ちょっと！？」


ヴァルト「……一体何処へ。」


アリス「なんなのよアイツ！！ヴァルト！！早く捕まえてきて！！」


ヴァルト「…いえ、今はアブソーバーの方を優先しましょう。施設の人が減ってからでは吸収量にも影響が出ます。」


双葉「そうだね…。」




アリス「むっきいいいぃぃぃ～！！！」

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（ハイウェイ）


慣れた様子でオートバイを運転するロバート。
サイドカーに座る仁を除き、辺りには殆ど人気が無く、見える建物の数もどんどんと減っている。


ロバート「はぁ～やっぱり町から出ちまうと一気に寂しくなっちまうなぁ。」


ロバート「このサイドカー結構良いだろ？仁ちゃんとデートする為にわざわざ借りてきたんだぜ。」


仁「………」


ロバート「無視ですか……まぁ分かっちゃいたがな。」


仁「…いい加減に本題に移ったらどうだ。」


ロバート「あれまぁせっかちさんだこと。まぁいいか。」



ロバート「…大会前に話した妹の話って言ったら大体分かるよな？」


仁「…大会でお前に勝ったら」
ロバート「ってぇ話だったな。…しっかしまぁ大会があんな事になるなんてなぁ。予想外だぜまったく。」


仁「…あの後早々に行方をくらましておいて、今になって突然連絡してくるお前も大概だがな。」


ロバート「あれま…ひょっとして寂しかったぁ？」


仁「いいから話を続けろ。」


ロバート「ははっ、まぁ止まっちまったもんは仕方ないしな。お前にも教えとこうと思う。」


少しだけ真面目な表情に変わる。


ロバート「あん時村であった事……そして、俺がぶっ潰すと決めたアイツの事。」


ロバート「助かった筈なのに……！」


仁「………」


仁「あの崩落が社で起きたなんらかの事故によるものだという事は理解している。助かった筈とはどういうことだ？」


ロバート「確かにあの訳の分かんねぇ地盤沈下で村はぶっ潰れた。だが村全体が崩落するまでにはかなりの時間があったんだよ。」


ロバート「現に俺もお前も助かってる。」


仁「………」


ロバート「たった一人…たった一人大人がいるだけで間に合ったんだ。」


ロバート「なのにあの野郎は……」







ﾌﾞｳｳｳｩｩｩﾝ!!!







ロバート「っ！！？」


後ろから猛スピードで走ってきたオートバイが真横を通り過ぎる。


ロバート「あっぶね…！なんだよありゃあ！！」


仁（あれは……Ｄホイールか。）


ロバート「ん？」



前方に通り過ぎたＤホイールが急ブレーキをかけ横向きに止まる。

明らかに進行方向を塞ぐようなその奇怪な行動に、思わずロバートもブレーキをかける。


ロバート（なんのつもりだこりゃ…！）


フルフェイスのヘルメットの奥から声が発せられる。



？？「見間違いじゃあなかったか。」


？？「やっと見つけたぜ……ロバート・バーンズ！！」


ロバート「…！」


仁「………」


？？「付いてきなあああ！！」


再びＤホイールを走らせる。


ロバート「………！！」


ロバートもそれに倣う。


仁「おい…！あの手の走り屋に付き合ってやる意味など…！！」


ロバート「いいからちょっと黙ってろ！！」


仁「………！？」


ロバート（あの声……まさか…！）






ロバート「おいおい！サイドカー付き相手にカーチェイスのお誘いですかぁ？どんなつもり知らないが安全運転をお勧めするぜ？」


？？「ははっ！この俺様にスピードで勝つなんざ１００年早ええ！俺がてめえにしかけるのは…コイツだ！！」


ハンドル部分が変形し、デュエルディスクが現れる。


ロバート「あれまご挨拶だこと！とりあえず名前くらい名乗ってもいいんじゃないの～！？」


？？「んな必要は無ええ！！」


？？「気づいてんだろ！？お前がこの俺を知らないわけ無えもんなあああ！！！」


ロバート「…ﾁｯ!」


ヘルメットを外す。


ロバート「っ！」


仁「………！？」




仁（アイツは……！）




終










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（次回予告）


ロバート「今はお前なんかに付き合ってる暇はないんだっての！どっかいけ偽物さんよぉ！」


？？「そうはいかねえ！てめぇが言った通り、俺自身の魂を見せてやる！」


ロバート「あれま、やる気満々で……どうしてこうタイミングが悪いかねえ。」


仁「っ！なんだこの力は！？」


ロバート「と、閉じ込められたってのか！？」


？？「走り続けろロバート・バーンズ！俺とのデュエルの決着がつくまでなぁ！！」


ロバート「次回！『ハイウェイの戦い！激闘ツーリング』！」


ロバート「……たまには、バイクで走りながらのデュエルってのも粋なもんか。」
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・オートバイの走行中にヘルメットを外すことは絶対にやめましょう。大変危険です。
・本編と全然関係ないけど、獏良君の亡くなった妹の名前が「天音」である事を最近知りました。
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『ちょっとしたおまけ』
謎の組織アインヘリアル。現段階で判明している事柄のまとめ。

メンバーは不思議な力を扱う事ができるらしく、人間離れした身体能力を持っている。具体的には『ドーム状の檻を作り出す』『負かした相手を気絶させる』『カードの力を実体化させる』等が確認されている。

■ラーナ
アインヘリアルの達のボス…らしい。人間を消そうとしている。
名前以外の情報は一切なし。

■オットー・アクランド・マヘル
アストベリー会長の旧友の考古学者。
Dオーラを集めるべく奮闘中。
ラーナへの忠誠心は強い。
リーダー的存在。

■宇佐美
宇佐美香子の祖父。
自然破壊を止めない人間を消滅させようとしていた。
夏武斗に負けた後、光となって消える。
使用デッキは森を軸とした儀式デッキ。

■？？
本話でも出てきたやたら煩い奴。
アリス曰くアストベリー杯での作戦では碌に仕事をしなかったらしい。
ロバートとのデュエルにこだわる。
…どこかで見たような。

■アリス
口の悪い少女。
アブソーバーを盗み出しした実行犯の一人。
大会中に竜巻を引き起こした実行犯の一人。
ジェネシック本社脱出時に夏武斗と決闘。
使用デッキは『御伽現影』

■ヴァルト
アリスの執事。
アブソーバーを盗み出しした実行犯の一人。
大会中に竜巻を引き起こした実行犯の一人。
ジェネシック本社脱出時に天音と決闘。
使用デッキは騎士成分の強い『戦士族』

■双葉
他メンバーと比べ、比較的穏やかな少女。
ラーナを『お姉ちゃん』と呼ぶ。
アブソーバーを盗み出した実行犯の一人。
大会中はいざというときの為、動きやすい位置で待機していたらしい。
ジェネシック本社脱出時に仁と決闘。
使用デッキは融合を使用する『デュアル』

■平留香織
通称『グレイシア平留』
トレジャー歌劇団で男型として活躍するトップスター。
何故かやたらと女嫌い。
ミミを人質にした左右田をワンキル。
使用デッキは氷河に関わるカードで構築された水属性デッキ。
アストベリー杯で天音と戦った際はロミジュリデッキを使った。

■フードの男
夏武斗からヴィクトリー・ビートルを奪った男。
八取大駕も彼（と彼に洗脳された人たち）に負けカードを奪われたらしい。
洗脳で複数人を操りリンチさせる汚い手口を使う。
アインヘリアルの一員のようだが、何故か他のメンバーに存在が認知されていないようであり、宇佐美は夏武斗のカードが奪われた事を知らなかった。