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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第13話 愛ゆえの奮闘

第13話 愛ゆえの奮闘 作:いちごT

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前回のあらすじ

校長、クロノスのすすめで部活見学に乗り出した遊飛と景介。ひょんな事から相撲部の勧誘を受け入部をかけ、2年生の「八卦鋸太郎」とデュエルをすることに。激戦の末に遊飛は辛くも勝利を収めたのだった。

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遊飛「………なあ景介。」


景介「………なんだい?」


遊飛「俺らのところ、スゲー賑やかになったよなぁ…」


昼下がり。胡座をかいて頬杖をつき空いた手でパンをかじり呟く遊飛はいつものようにちよ、景介、一果と共にランチタイムを過ごしていた。しばらくの間メンバーは4人で定着していたがここのところは昼飯を囲む数が倍増しており、それを景介とともに複雑そうに眺める。


香夜「お姉様ぁ。このミートボールも食べてぇ♡」


一果「たった今…んぐ…おひたし貰って…んぐんぐ……食ってるとこだろーが。」


ルイ「あははは! 焦らなくてもお姉様は逃げないよ。」


しいな「そ、そうですよ。急かしたらい、一果さん…のど詰まっちゃいますよ…」


繭「ちよ…ご飯粒ついてる。」


ちよ「あ、ありがとう。」


そんな男2人の目の前で和気藹々とする6人の女子たち。その空間はなにか男が立ち入ってはいけないような雰囲気を醸し出しており、疎外感を感じずにはいられない。


景介「うん。でも女の子ばかりだと肩身が狭いなあ。」


遊飛「景介、お前女にモテるんだろ? そんなの慣れてんじゃねーのか?」


景介「分かってないなあ。女性慣れしててもこういう空気はキツイものがあるんだよ。」


景介「………それにしても謎なんだよ。何故かこのデュエルアカデミアでは今の所全く女の子がよってこないんだ。これはとんでもないことだよ遊飛くん。」


珍しく神妙な顔で一点を見つめ考え込む景介。一果に抱きつこうとし、顔面を掴まれて阻止されているそこの須藤香夜から一時期熱を上げられていたことは彼にとっては数に入らないらしい。そんな景介に遊飛といえど呆れるばかりであった。
そうこうしているうちに昼食も終わり、それぞれ次の授業へと向かおうとする。



一果「それじゃ、女子はソフトボールだからグラウンド行くわ。」


遊飛「こっちは柔道だぜ? ソフトの方が楽しそうだなぁ。」


デュエルアカデミアの体育はプールはおろかグラウンドでの競技なども男女別に行うこととなっている。昨今そういった世間の目が厳しいため、悲しいことだが仕方がないのである。


景介「まあまあ、男同士ぶつかり合って汗を流すのも悪くないじゃないか。」


一果「……なんかスゲー誤解を生みそうな発言だな…」


景介「ん?何か変だった?」


一果「いや…いい。それじゃアタシら行くわ。」


遊飛「おう、じゃあな。」



遊飛らと別れ、ちよを真ん中に据えてグラウンドに向かって歩く女性陣。両手で体操着の入っているであろう布袋を持って歩くちよと繭。一果はそれと対象的にブンブン回したり、放り投げてはキャッチしたりとせわしないようすで有る。


ちよ「うち、あんまりソフトボール得意じゃないんだよね。」


一果「てゆーかちよっちはスポーツ全般できないじゃん。」


ちよ「うう…それは……そうだけど…」


繭「……一果。」


一果「う…わ、悪い…」


一果がほんの冗談のつもりでちよをからかうが繭にギロリと睨まれて萎縮する。


ちよ「大丈夫だよ! 一果ちゃんも意地悪でいったわけじゃ……へ…へ…」


一果「へ?」


ちよ「へっっくし!!!」


ちよが言葉を濁したと思った矢先、その勢いで小さな体が浮くのではないかというくらいの盛大なくしゃみを放った。二人が覗き込むとそこには鼻水が垂れてしまい、目を細めるちよの姿があった。


ちよ「うう…」ズビ


繭(かわいい……じゃなくてティッシュティッシュ…)


一果「ほい、これ使いな。」


ちよ「あ…ありがと…」


繭「あ…」


繭がポケットをまさぐっている間に一果が素早くポケットティッシュを手渡す。繭もティッシュを見つけて差し出そうとしたがすでに一果が渡した後だった。
一果のティッシュで鼻をかむちよを見て繭はある不安を覚えるとともにある決意をした。


繭(あれ?ボクって……ちよの役に立ってないんじゃ…)


繭(せっかく友達にしてくれたのにこれじゃダメ! 何か…ちよの役に立つことをしないと!)



ー翌日ー

ちよ「ふっ……う〜ん…」


購買のカード売り場に訪れたちよ、一果、繭。ちよはラックにかかっている封のされたカードに手を伸ばすがいかんせん小柄なので届かない。踏み台くらいは用意されているが彼女はそんなことを忘れてしまっているようで、必死に背伸びをしている。


繭「ちよ? ……はっ!?」


繭(これは……役に立つチャンス!?)


そんなちよの様子に気づいて近づく繭。背伸びすれば繭ならなんとか届く高さである。スッとちよの横に立って手を伸ばした瞬間、後ろから別の手がそのカードをラックから持っていった。繭は突然の強奪に憤り、すかさず振り向いた。


一果「ほい。これだろ?」


それは一果だった。彼女の身長はちよはおろか繭より10cm以上高く、女子としては破格の170cm超えである。高いところの商品は背伸びなどせずとも簡単に取れてしまうのだ。


ちよ「あ、うん。ありがとう!」


ちよ「繭ちゃんも取ろうとしてくれてありがとね。」


繭「……大丈夫。」


繭(……今回は運が悪かった。また次のチャンスを…)



ー3、4限目 体育ー

ちよ「……はあっ…ふっ……はっ…」


女子の体育はソフトボール。準備運動とグラウンド3周を軽くやってから始まるのが通例だが、ちよはそのランニング2周目に差し掛かった時点で息が上がっていた。


繭「……ちよ、無理しないで。」


一果「ちよっち、そろそろ本格的に体力つけなよ。アタシがみっちりとコーチしてやるからさ。」


心配そうにちよの顔を覗き込む繭とシャドーをしながら並走する一果。二人に挟まれたちよはというと冷や汗ダラダラでなんとか引きつった笑みを浮かべている。


ちよ「あ…はは…それはっ…怖いっ!?」


一果のセリフに対して途切れ途切れにちよが言葉を返したその途端、足がもつれ前のめりに倒れかけた。その体が地につこうとする刹那、眉が地を蹴って低空を飛んだ。


繭「ちよっ!!」


繭もちよ程ではないが運動能力は低い。しかしこの時ばかりは火事場のクソ力というヤツだろうか。自らがクッションになろうとものすごい速さで倒れかかったちよの下へとダイブした。


ちよ「わっ!?」


繭「え゛」


地につく、もとい繭めがけて落ちてくるはずのちよの体はその途中で動きを止めた。それを目撃し動揺した繭の体は空を切り大地めがけて体当たりを決め、土煙とうめき声をあげる。その衝撃をこらえながらも振り返るとそこにはちよの体操服の襟を掴む一果とそれによって宙ぶらりんのちよがいた。


一果「あ……」


ちよ「繭…ちゃん」


一果「……だ、大丈夫か?」


繭「……そ、そんな…」


ちよを救えなかったショックと思い切り地面に衝突したショックで繭の意識は薄れ、視界もぼやけていく。


一果「お、おい! 繭!?」


ちよ「繭ちゃん!?」



ー昼休みー

繭「はぁ……」


繭(…なんでこう上手くいかないんだろ……いや…一果がちよのサポートに手馴れすぎてるのかな…)


保健室に運ばれた繭が目を覚ました時にはすでに授業は終わり昼休みとなっていた。失意の中とりあえず何か食べようかと校舎内を歩き曲がり角に差し掛かった時、聞き覚えのある声に足が止まった。


一果「限定パック?」


それはストローを口にくわえながら誰かのセリフを復唱する一果であった。そしてそのセリフを発した誰かがさらに言葉を続ける。


景介「そうなんだよ!強いカードを選りすぐった特別なパックが一般販売されるより一足早くこのアカデミアに来てるんだ。」


遊飛「そうそう。いやぁ〜小遣い貯めてて良かったぜ。」


景介「今日これから購買に並ぶ予定らしいんだけど…」


ちよ「オシリスレッドはもうすぐ授業あるから…その後行くしかないかなぁ。」


景介「いや…この限定パックの情報を知る人がまだ少ないとはいえ購買に並んだらすぐに知れ渡るはず。そんな時間になったらもう無いと見ていい。」


遊飛「ブルーとイエローはこのあと授業無いんだよな。レッドってそういうとこ理不尽だぜ。」


一果「まあ成績悪いから他のとこよか勉強しろってことだな…」


景介「全く…差別もはなはだしいね。……って話が逸れてるけど問題は僕らがどうやってこれを手に入れるかだよ。」


遊飛「俺らは鋸太郎たち相撲部員に頼んで代わりに買ってもらうことになってる。」


一果「おいおい。この前なんとか逃げ切ったんだろ…相撲部に借りなんかつくって大丈夫か? つーか浦木とかに頼めば良かったじゃん。」


遊飛「あいつは人の分まで買う余裕がないんだと。相撲部員たちも後が怖いけどよ…」


景介「これもデッキ強化のためだからね…やむを得ないよ。」


遊飛「つーわけなんだけど2人はどうすんだ? 」


ちよ「どうするって言われても、誰かに頼むしか…」


一果「だよなぁ。香夜たちはレッドだから無理だし…」


繭「ちよ!」


ちよ「ま、繭ちゃん!?」


一果「繭…もう平気なのか?」


繭「……その限定パック…ボクが代わりに買ってくる。」


繭は一果の問いかけに答えもせず、ちよをまっすぐ見据える。


景介「まあ確かに彼女はラーイエローだから…うってつけではあるね。」


一果「今頼めるのは繭だけかもしれないけどさぁ…」


ちよ「繭ちゃん、無理しないで休んでなよ。」


繭「っ!?………だ、大丈夫!!」


ずいっと顔を近づけ心配そうにするちよの姿に再び気を失いかける繭だったが、なんとか我に返り購買に向かって走っていく。


遊飛「……なんか落ち着いてんだか落ち着かないんだか分かんねーな。あいつ。」


一果「ま、まあ…あれが繭の可愛いとこでもあるんだけどね…」


遊飛「???」


遊飛は一果の言葉の意味がわからず首をかしげる。一方その繭はというと校舎内を全力疾走。廊下を走るなという教員たちからの至極一般的な注意も聞く耳持たず、購買に向かって駆け抜ける。

繭(やっと…やっと役に立てる!)


そして辿り着いた購買部。そこには既に大勢の生徒が詰めかけひしめき合っていた。ここが渋谷かそこらならアイドルでも来ているのかと思うところだが、このデュエルアカデミアではそうはならない。アイドルよりカードなのだ。


購買のお姉さん「押さないでくださーい! 限定パックは1人3つまででお願いしまーす!!」

「オラァ! どけどけえ!!」
「てめコラ! これは俺が先に掴んだんだぞ!」
「何言ってやがる俺が先だ! 目ん玉腐ってんのか!?」


繭(……既にこんな人だかりに…でも行くしかない!)


繭は意を決して限定パックを目の前に怒れる類人猿の群れと化した生徒たちの中に飛び込んだ。


繭「くっ…このっ!」


隙間をぬってパックが置かれたワゴンに近づこうとするも肉の壁に遮られて上手く近寄ることが出来ない。それでも繭はメガネを守ることさえせず果敢に向かって行く。パックを手に取り会計へと向かう人の波に逆らい揉みくちゃになりながらもなんとかワゴンに接近する。


繭(残り……3つ!?)


山積みだったワゴンに残ったのはわずか3パック。ちょうど一人が買える制限の数である。すかさず手を伸ばしてそれをレジに持っていこうとするが、繭が掴んだのはパックではなく人間の手だった。


繭「えっ…!?」


自分より早くパックを掴んだ手を目で追っていき、見上げた先には知った顔がきょとんとこちらを見下ろしていた。


桃李「お、誰かと思ったら繭くんじゃないか!!」


繭「……お、お前…」


繭と同じくラーイエローに属する少年、座学においては学年トップを誇る秀才、浦木桃李であった。


桃李「お前とはご挨拶だな。しかしいきなり手を握ってくるとは見かけによらず大胆なんだな! 」


繭「っ!? 」


桃李の手を掴みっぱなしなことに気づき、素早く自らの手を後ろに下げる繭。そして彼をキッと睨む。


桃李「はっはっは! すまない冗談だ。さしずめこの限定パックが欲しかったが僕に遅れをとったというところだろう?」


繭「………」


桃李「さて、一応先に掴んだのは僕だが……僕を睨み続けているあたりよほどこれが欲しいと見える。」


繭「……これを…必要としてる人がいる。」


桃李「……なるほど。ではデュエルで決めよう。」


桃李「とりあえずこれは先に取った僕が買う。デュエルで君が勝ったらそれを譲る。それでどうだろうか?」


繭(……先に取ったのは確かにあいつ…ここでグダグダ不利な交渉するよりはマシかもしれない…)


繭「……分かった。」


二人は購買部から場所を変え、アカデミア校舎正面玄関の真上に位置する高台に立つ。普段遊飛らが昼食を取ることもある場所だ。


桃李「ではデュエルといこうか!」


繭「……ボクが勝ったらそのパックはもらうから。」


桃李「分かっているさ! では僕が勝ったら……そうだな、何か一つ頼みでも聞いてもらおうか。」


提示された条件を聞き、繭は静かに頷く。そして互いにデュエルディスクを構えた。


繭・桃李「「デュエル!!!」」


繭 LP4000 VS 浦木桃李 LP4000


繭「……先行はボクがもらう。ボクは『クロスソード・ハンター』を攻撃表示で召喚。カードを2枚伏せてターンエンド。」
・クロスソード・ハンター ☆4 地 1800/1200


桃李「俺のターン、ドロー! 俺は『I・HEROピーチソードマン』を召喚。召喚時にデッキより装備魔法『きびだんご』を手札に加え、装備する。」
・I・HEROピーチソードマン ☆4 地 1800/1000


桃李「そして『きびだんご』の効果でデッキよりレベル3以下イマジンモンスター、『イマジンドッグ』を特殊召喚!」
・イマジンドッグ ☆3 地 1200/300


桃李「『ピーチソードマン』の攻撃力はレベル3以下のイマジンモンスターの数×400アップ。さらに『イマジンドッグ』の効果でモンスター効果の対象にはならない!」
・I・HEROピーチソードマン 攻1800→攻2200


桃李「バトルフェイズ! 『ピーチソードマン』で『クロスソード・ハンター』を攻撃!!」


繭「伏せカード『擬態』発動。」


繭「…フィールドの昆虫モンスターと手札の昆虫モンスターを入れ替える。『クロスソード・ハンター』を手札に戻し、手札から『タンゴムシ』を特殊召喚!」
・タンゴムシ ☆3 地 600/1200

タキシードを着た団子虫のようなモンスターが現れる。


繭「…このモンスターが特殊召喚に成功した時、フィールド上のモンスター全ての表示形式を変更する。」

ラテン系の音楽が流れ、タンゴムシと2体のイマジンモンスター達はキビキビと踊り出す。その様を普段通りの涼しい瞳で見ている繭と対象的に、目玉が飛び出るのではないかというくらいに驚きの表情を浮かべる桃李。よほど自分のモンスターの豹変がショックだったのだろう。そして音楽が止み、モンスターたちは休むかのように守備表示となる。


桃李「『ピーチソードマン』……なんてことだ…」


繭「……守備表示になったことで攻撃は無効。…どうする?」


桃李「く…ターン終了だ。」



●繭 LP4000 手札2
モンスター1 『タンゴムシ』
魔法、罠1 セットカード

●桃李 LP4000 手札5
モンスター2 『I・HEROピーチソードマン』『イマジンドッグ
魔法、罠1 『きびだんご』


繭「ボクのターン、ドロー。再び『クロスソード・ハンター』を召喚。……効果は言わなくてもいいよね?」


桃李「…ああ、場に自身以外の昆虫族がいる場合、昆虫族は全て貫通効果を持つんだろう?」


繭「そう。さらに『タンゴムシ』を攻撃表示。……バトル。『タンゴムシ』で『イマジンドッグ』を、『クロスソード・ハンター』で『ピーチソードマン』を攻撃。」


桃李「ぐうう!?」

桃李 LP4000→LP3700→LP2900


繭「……モンスターがやられたことで装備魔法も破壊される。ボクはこれでターンエンド。」


桃李「……はっはっは! どうやら強いという噂は真実のようだな。それでこそこの争奪戦、燃えるというもの!!」


繭「(……うるさいなぁ。)」


桃李「俺のターン! ドロー! 手札を1枚捨てることで魔法カード『コストダウン』を発動。手札のモンスターのレベルを2つ下げる!」


桃李「そしてレベルが6から4になった『I・HEROゴールド・マッシブ』を生け贄なしで召喚する!」
・I・HEROゴールド・マッシブ ☆6 地 2000/1500

前掛けのような意匠を持つ鎧をまとった筋骨隆々の戦士が現れ、胸を張る。


桃李「『ゴールド・マッシブ』の召喚時、デッキより装備魔法『魔裂狩(まさかり)』を手札に加える。そしてそのまま装備!」

桃李はデッキから選択され、飛び出たカードを引いてそのままディスクにセットする。すると巨大な斧が出現、ゴールド・マッシブはそれを手に取って振り回したのち軽々と担いでみせた


桃李「『魔裂狩』の効果により『ゴールド・マッシブ』の攻撃力は500アップ!」
・I・HEROゴールド・マッシブ 攻2000→攻2500


桃李「バトル!『ゴールド・マッシブ』で『クロスソード・ハンター』を攻撃!」


繭「…速攻魔法『蜻蛉返り』発動。場の『タンゴムシ』を手札に戻し『ゴールド・マッシブ』を破壊する。」


桃李「カウンター狙いが仇となったな! 『魔裂狩』の第2の効果! 装備モンスターである『ゴールド・マッシブ』は相手の魔法効果を受けない!!」


繭「!?」


桃李「そのまま行かせてもらう!」

振り下ろされた斧はクロスソード・ハンターの強靭な顎をまるで小枝のように砕き、胴体ごと真っ二つにしてしまう。


繭「くっ……」

繭 LP4000→LP3300


桃李「この瞬間、『ゴールド・マッシブ』の効果発動! 倒したモンスターの攻撃力の半分、攻撃力を上げる!」
・ゴールド・マッシブ 攻2500→攻3400


桃李「バトルで稽古をつけてもらったおかげで『ゴールド・マッシブ』はひとつ強くなれた!感謝する!」


繭「……嫌味のつもり?」


桃李「なにを言っている?デュエルの相手に嫌味など言うワケがない!」


曇りのない目で力強く繭の疑問を否定する桃李。どうやら他意はない言葉通りの感謝であったようで繭はその姿をうんざりした様子で眺める他無かった


繭「そ…そう…」


桃李「もちろんだとも! 俺はこれでターン終了だ。」



●繭 LP3300 手札3
モンスター 0
魔法、罠0

●桃李 LP2900 手札3
モンスター1 『I・HEROゴールド・マッシブ』
魔法、罠1 『魔裂狩』


繭「……ドロー。『シールドワーム』を守備表示。」
・シールドワーム ☆4 地 800/2000

繭「『シールドワーム』の召喚時、場の昆虫族の数だけ相手はデッキからカードを墓地に送らなければならない。」


桃李「ふむ…」


繭「カードを1枚伏せてターンエンド。」


桃李は大きなリアクションもなくデッキトップを抜き取り墓地に送る。


桃李「俺のターン、ドロー!…このモンスターは自分フィールドに『ゴールド・マッシブ』が存在する時、手札から特殊召喚出来る。来い!『イマジンベアー』 !!」
・イマジンベアー☆5 地 2000/1800

でかでかと金の文字を宿した赤い前掛けをつけた大熊が出現。しかしその体躯に見合わずその顔はテディベアのように可愛らしいものであった。


桃李「『ゴールド・マッシブ』で『シールドワーム』に攻撃!」


攻撃力3000を超え、魔法カードへの耐性も持つモンスターの存在に守備を固めるのみの繭に対しモンスターを召喚して畳み掛けていく桃李。だがゴールド・マッシブの持つ斧が振り下ろされる瞬間繭は静かにデュエルディスクのボタンを押す。


繭「……リバースカードオープン。」


桃李「む!?」


先ほどのクロスソード・ハンターのように真っ二つにされたシールドワーム。通常はモンスターが破壊された場合、ソリッドビジョンがガラスを叩き割ったかのように散るところだが、シールドワームは青白い光を放つ亡霊のような姿となり自分を倒したゴールド・マッシブの口の中に吸い込まれる。

・『I・HEROゴールド・マッシブ』 攻3400→攻3000


桃李「何が起きた!?」


繭「……永続罠…『獅子身虫』。このカードが存在する限り昆虫族モンスターを戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力は破壊されたモンスターの攻撃力の数値だけダウンする。」


繭「……『ゴールド・マッシブ』は戦闘破壊したモンスターの攻撃力の半分、攻撃力を上げる。つまり…」


桃李「戦闘破壊した昆虫族の攻撃力の半分が差し引きダウンというわけか…」


桃李「だがバトルフェイズは終わっていない! 『イマジンベアー』でダイレクトアタック!」

イマジンベアーが可愛い顔に似合わぬ豪腕を繭に向かって振り下ろすが当の本人は微動だにせずまっすぐ桃李を見据えていた。

繭 LP3300→LP1300


桃李「俺はこれでターンエンドだ!」



●繭 LP1300 手札2
モンスター 0
魔法、罠 1 『獅子身虫』

●桃李 LP2900 手札3
モンスター 2 『I・HEROゴールド・マッシブ』『イマジンベアー』
魔法、罠1 『魔裂狩』


桃李「『獅子身虫』か…。驚きはしたが『ゴールド・マッシブ』は未だ攻撃力3000を誇る。そして隣には相棒である『イマジンベアー』」


桃李「このターンでどうにかしなければ勝利は難しいと思うが……どうかな?」


繭「……心配なんかいらないよ。このデッキはボクの想いに応えてくれるデッキ。逆転のカードは…来るッ! ドロー!」


繭「『タンゴムシ』召喚。さらに墓地の昆虫族1体を除外することで『ジャイアントワーム』を特殊召喚。」
・『タンゴムシ』 ☆3 地 600/1000
・『ジャイアントワーム』 ☆4 地 1900/400


桃李「低級モンスターが2体…手札は残り1枚か、さあ!どうする!!」


繭「……魔法カード『孵化』発動! 場の昆虫族1体を生贄にそれよりレベルが1つ高い昆虫族をデッキから特殊召喚する!」


繭「来て!『電動刃虫』!!」
・☆4 地 2400/0


桃李「下級モンスターのなかでもトップクラスの攻撃力を持つモンスター。なるほどそういうことか…」


何か合点がいったかのように桃李がニヤリと笑う。どうやら出現したモンスターから繭の思惑を見抜いたようだ。


繭「……『ジャイアントワーム』で『ゴールド・マッシブ』に攻撃!」


桃李「…迎え撃て! 『ゴールド・マッシブ』!!」


攻撃力1900のモンスターで攻撃力3000のモンスターへの攻撃、当然のように斧の一振りで繭のモンスターが散らされる。しかしフィールド上の1枚のカードの存在がその死を無駄にはしない。

繭 LP1300→LP200


繭「『獅子身虫』の効果発動。『ジャイアントワーム』の攻撃力分、攻撃力を下げる。」


桃李「だがこちらも攻撃力の半分、攻撃力を上げさせてもらう!」

・『I・HEROゴールド・マッシブ』 攻3000→攻3950→攻2050


繭「…これで攻撃力はこっちが上。そいつにはいい加減ここで倒れてもらう。『電動刃虫』で『ゴールド・マッシブ』に攻撃!」


電動ノコギリの顎を稼働させ、耳障りな音を響かせてゴールド・マッシブに襲いかかる。


桃李「『イマジンベアー』効果発動!!」


繭「!?」


桃李「場の『ゴールドマッシブ』の装備カードとなり攻撃力を500アップ! さらに相手の罠カードの効果を受けつけない!!」

先ほどまで後ろ足で立っていたイマジンベアーが四つん這いになり、その背中に颯爽とゴールド・マッシブが飛び乗る。


繭「ボクのターンに何を勝手な…」


桃李「『イマジンベアー』のこの効果は相手ターンでも発動出来る。悪く思わないでもらおう!」

・I・HEROゴールド・マッシブ 攻2050→攻4850


桃李「攻撃力が下がるのはその永続罠の効果によるもの。効果を受けなければ攻撃力は元に戻る!」


桃李「行け! 『ゴールド・マッシブ』!!」

ゴールド・マッシブを乗せたイマジンベアーが猛然とダッシュし電動刃虫と相見える。二つの刃が交わり激しい火花を散らして鍔迫り合いのようになるがすぐにその決着はついた。電動刃虫の顎はバキィッ!と音を立てて弾け飛び本体も爆散、


繭「くっ…!」

繭 LP200→LP0


桃李「ふう! いい意地を見せてもらった。やはりデュエルして良かった!」


繭「……くそ…」


桃李「そう気を落とすな。『蜻蛉返り』のタイミング次第では『ゴールド・マッシブ』は破壊されていたし『シールドワーム』の効果がなければ『イマジンベアー』は場に出なかった。運が良かったのさ。」


繭「じゃあ『イマジンベアー』の効果は?そんな効果があるならなんで1回目の攻撃で使わなかったの? 期待させてから潰そうって?」


桃李「あれか。あれはやはりプロを目指す者として逆転の演出もすべきではないかと思ってな。そういう点において俺はからっきしだからチャレンジしてみたというわけだ!」


繭(こ、こいつ……。)


悪びれもせず高笑いする桃李の姿を見て繭は静かに怒りを燃やすがそんな感情も知らず桃李は話を続ける。


桃李「さて約束の件だが……このパックでも受け取ってもらおう!!」


繭「………え?」


桃李「俺に新しいカードは必要ない。このデュエルで今のデッキでも十分戦えると確信した。だからそれは繭くん、君にやろう。」


驚きのあまり口を半開きにして硬直している繭に強引にパックを押し付けて桃李はその場を後にする。
桃李の姿が見えなくなった頃に繭は我に返り、その手に握られた3つのパックを見つめて唇を噛みしめる。


繭「………ムカつく奴。」




デュエルの後、繭はパックを持って校舎の中へと戻っていた。教室の前にあるベンチに座りちよ達を待つ。しばらくしてから扉が開く音とともに出てきたちよに気づき繭は顔を上げた。


ちよ「あ、繭ちゃん! 大丈夫? あれから気分悪くなってない? 痛くなったりしてない? 」


ちよは繭を見るや否や肩に手を置いて質問ぜめにする。そんな状況に先ほどの屈辱など吹っ飛び、繭の口元が緩む。


繭「あ…うん。大丈夫。」


遊飛「あんま大丈夫に見えねーけどな…」


遊飛はしまりのない顔で呆けている繭を見てポリポリと頬をかく。そして当初の目的を思い出した繭はパックをちよと一果に差し出す。


繭「こ、これ……」


一果「サンキュー、繭。いくらだった?」


繭「……いい。色々あってお金かからなかったから…」


ちよ「あ、ありがとう。でももう無理しちゃダメだよ!」


繭「……で、でも…友達になってくれたんだから…役に立たないと…」


ちよ「そんなの違う!!」


繭「え…?」


ちよ「役に立つとか立たないとか…そんなの友達どうしには関係ないよ。」


一果「ちよっち……」


ちよ「繭ちゃんの気持ちは嬉しい。…でも無理して頑張られても心配な気持ちの方が強くて…だから…えっと…うまく言えないんだけど…」


最初こそビシッと強気だったちよだが、喋っているうちに心の内を上手く言葉に出来なくなりあたふたする。しかしそれは繭にしっかり届いていた。


繭「…ありがと。」


ちよ「へっ?」


繭「……ボクのこと…そんなに考えてくれて…」


ちよ「う、うん。…なんか急に恥ずかしくなってきたよ…」


一果「いや〜青春ですなあ〜。」


ジジくさいことを言いながら一果が照れているちよと繭の首に手を回し抱きつく。


ちよ「わっ!」

繭「一果……苦しい。」


一果のそれに驚きながらも笑っているちよとまんざらでもない表情の繭。そんな3人を見て男二人は呟くのだ。


遊飛「俺らって最近…」


景介「蚊帳の外…だよね。」


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次回予告

景介「ついに始まったアカデミアカップのエントリー。でもエントリーするにはデュエルAIに勝たなくちゃならない! 狭き門を突破して僕らは出場権を得られるのか!?」

景介「次回! 「エントリーテスト、始まる!!」 デュエルスタンバイ!」


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いちごT
いやはや久しぶり、4ヶ月ぶりの投稿です。
忙しいようなそうでもないような…ニンテンドースイッチを買ってからそれに没頭しすぎました。
時間かけた割には相変わらず拙い文章とデュエル内容ですが今後も頑張っていきたいです。 (2017-06-19 23:06)
から揚げ
初めまして!から揚げと申します。それでは感想の方を書かせて頂きます!

女の子同士のイチャイチャは本当に最高ですね!正に、仲良き事は美しいですね!

桃李のイケメンっぷりに感服しました!さり気ない気遣いの出来る人は本当にカッコ良いですね!

友達のちよちゃんの為に一生懸命パックを手に入れようとした繭ちゃんがとても健気で愛らしかったです!

ちよちゃんも言葉の端々から繭ちゃんに対する心からの思い遣りや優しさが感じられまして素晴らしかったです!

これ程面白いストーリーに加えて、非常に見応えのあるデュエルや個性的で魅力的なキャラクターをお書きになって下さって、本当にありがとうございます!おかげ様で楽しい気持ちにさせて頂きました!

次回も楽しみにしております!ご無理の無い様にご執筆頑張って下さい!応援しております!

ちなみに、巨乳のキャラクターは出ますか?
(2017-06-20 12:49)
ギガプラント
うっひょ~昆虫だぜ昆虫!!(二回目)
擬態は罠カードなんですかね?これも登場させてみたい……!
やっぱりSSの非カテゴリデッキは好きだなぁ。イマジンヒーローも、このocgではまず回りそうにないけど都合良く綺麗に並ぶ感じが如何にもアニメっぽくて好きです。
一人三パックしか買えない中その枠で他人の分を買ってあげる……現実じゃまず誰もやってくれないでしょうね。優しい世界だ…。 (2017-06-20 16:54)
いちごT
唐揚げさん、コメントありがとうございます。
いろんなSSのコメント欄でお見かけするのではじめまして! ……な気がしないですね笑
女の子同士は何物にも例えられない美しい世界でございますよホント。
数多くのお褒めの言葉、嬉しい限りです。真剣に読んでくださって泣きそうです。応援してくださって感謝感激です(T ^ T)
そういえば巨乳好きなお人でしたね〜。明言はしてないですがオシリスレッドの大戸しいなという現時点ではモブ同然のキャラが巨乳のつもりです。とりあえず今後ラーイエローから巨乳キャラが出る予定です

ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
個人的にお気に入りの昆虫使い、繭。今後も出番多めで行くつもりなので昆虫もどんどん出ますよ〜
擬態はアニオリの罠カードですね。父親から譲り受けたカードの一つという設定です。
イマジンヒーローは書いていてもこんなの現実ならクソ弱いんだろうと思わざるを得ませんがアニメならではのご都合展開に向いています笑
相撲部員たちは力士以外に興味ないんですよきっと。だから協力してくれるんです(後付け) (2017-06-20 20:32)
ギガプラント
そうだ……羽蛾が使ったんだ……!大体調べきっていたつもりだったのにこんな面白いのを忘れていたとは……不覚! (2017-06-20 20:45)
ター坊
負けたが結果オーライ?そして久々に見てもちよちゃんは天使だった。前回はコスト程度だった金ちゃんが活躍したのも少し嬉しいですね。 (2017-06-20 21:02)
いちごT
ギガプラントさん
そうです!ドーマ編のあの伝説のデュエルで使用しましたね

ター坊さん、コメントありがとうございます。
本当に久しぶりですよ…
勝負には負けたけど目的は果たせた。しかし情けをかけられた屈辱も拭えない…いやはやむず痒いとこです。今回は金ちゃんだったけど次回は浦ちゃんか…? (2017-06-20 23:11)
から揚げ
いちごTさん、ご返信ありがとうございます!

私のコメントに共感して下さったのみならず、そこまで喜んで頂いて本当にありがとうございます!私もとても嬉しいです!これからも感想の方を書かせて頂きます!

主人公の遊飛は快活でポジティブな性格な所がとても好感が持てて惹かれますね!彼の使用デッキの機動獣も男のロマンを感じました!

金太郎や相撲といった日本の素晴らしい文化をモチーフにしたオリカの完成度が高くて、とてもセンスを感じました!

私の質問に誠実にお答えして下さってありがとうございます!しいなちゃんが巨乳とは最高ですね!益々しいなちゃんの事が好きになりました!ラーイエローの巨乳の女の子がどんなキャラクターなのか、とても楽しみです!

再び質問の方をさせて頂きますが、しいなちゃんやラーイエローの巨乳の女の子へのパイタッチはありますか?
(2017-06-21 08:19)

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