HOME > 遊戯王SS一覧 > 虹彩竜と歩むもの > 第23話:信頼

虹彩竜と歩むもの/第23話:信頼 作:光芒




☆TURN07(遊大)


「俺のターン、ドロー!」

 壊獣カウンターを2つ取り除くことで魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にしてゲームから除外する。そんな効果を持っているガメシエルが相手フィールドに存在する以上、遊大は下手に動くことはできなかった。
 ただ、KYOUTOUウォーターフロントに乗っている壊獣カウンターはちょうど2つである。そのため一度この効果を発動させてしまえばガメシエルがその効果を使えるようになるまで少しではあるが、猶予が生まれることもまた事実であった。

「俺はデッキの上から10枚ゲームから除外し、手札から強欲で貪欲な壺を発動します! 先輩方……ガメシエルの効果、使いますか?」

 この時遊大は敢えて剛士にガメシエルの効果を発動するかを尋ねた。ガメシエルの効果を使えば強欲で貪欲な壺の発動を無効にして除外できる。ライフには差があるとはいえ、デッキトップから10枚を除外しなければ発動できないカードの発動を無効にすれば―――と相手に思わせるのには十分だった。

「どうする、剛士? ガメシエルの効果は取っておきたいけど……」
「そうだな……だが強欲で貪欲な壺の効果を止められればでかい。よし決めた!……その効果は通さねー! 強欲で貪欲な壺の効果にチェーンしてガメシエルの効果を発動! KYOUTOUウォーターフロントの壊獣カウンターを2つ取り除いて強欲で貪欲な壺の効果の発動を無効にしてゲームから除外する!」

KYOUTOUウォーターフロント 壊獣カウンター:2→0


チェーン2(剛士):海亀壊獣ガメシエル→強欲で貪欲な壺
チェーン1(遊大):強欲で貪欲な壺


「強欲で貪欲な壺の効果の発動は無効化され、ゲームから除外されます。でもこれで壊獣カウンターは全て無くなりました!」
「……まさか強欲で貪欲な壺は囮か!」
「だいぶ勇気のいる囮でしたけどね……俺は手札からEMドクロバット・ジョーカーを召喚! ドクロバット・ジョーカーの効果でデッキから2枚目のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加えます! そして手札からオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをペンデュラム召喚!」
「すごい! 2体のモンスターを……」
「これが俺のデッキの強みだよ。バトル! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで海亀壊獣ガメシエルを攻撃!“螺旋のストライク・バースト”!!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500 VS 海亀壊獣ガメシエル ATK2200

「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの効果を発動! 戦闘で与えるダメージを2倍にします!“リアクション・フォース”!」

剛士・恒雄 LP5400→4800

「ガメシエルとグレイドル・アリゲーター……カードが2枚墓地に送られたことでKYOUTOUウォーターフロントに壊獣カウンターが2つ乗るぞ」

KYOUTOUウォーターフロント 壊獣カウンター:0→2

「でもこれでフィールドはがら空きです! EMドクロバット・ジョーカーでダイレクトアタック!」

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

剛士・恒雄 LP4800→3000

「ぐっ……!」
「ペンデュラムモンスターはリリースされてもエクストラデッキに送られます。仮に壊獣でリリースしてもPゾーンにカードがある限り何度でもフィールドに蘇る。壊獣でリリースすればいい、という考えは通用しませんよ」
「てめえ……」
「バトルフェイズを終了。俺はこれでターンエンドです」


美鈴・遊大 LP8000 手札3枚(美鈴)0枚(遊大)
デッキ:32(美鈴)22(遊大)モンスター:2(オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、EMドクロバット・ジョーカー)魔法・罠:1 墓地:9 除外:11 Pゾーン:青2(賤竜の魔術師)/赤8(虹彩の魔術師)エクストラ:13(0・美鈴)14(0・遊大)
剛士・恒雄 LP3000 手札4枚(剛士)3枚(恒雄)
デッキ:31(剛士)34(恒雄)モンスター:0 魔法・罠:4(KYOUTOUウォーターフロント:2)墓地:4 除外:0 Pゾーン:青/赤 エクストラ:0(0・剛士)15(0・恒雄)


☆TURN08(恒雄)


「僕のターン、ドロー!」

 デッキからカードをドローした恒雄はニタリ、と意地の悪そうな笑みを浮かべた。恐らく彼が引いたのは彼のデッキのキーカードだろう。表情からそう感じ取った遊大はぐっと身構える。

「ふっ、ここでこのカードをドローできる。僕は中々ツイているみたいだね! 僕はチューナーモンスター“グレイドル・スライムJr.”を召喚!」


※グレイドル・スライムJr.
チューナー・効果モンスター
星2/水属性/水族/攻0/守2000
(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の「グレイドル」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したモンスターと同じレベルの水族モンスター1体を手札から特殊召喚できる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は水属性モンスターしか特殊召喚できない。
(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「グレイドル」モンスター1体を特殊召喚する。


「グレイドル・スライムJr.……確かそのカードは」
「召喚に成功したグレイドル・スライムJr.の効果を発動! 墓地のグレイドルモンスター1体を特殊召喚し、そしてそのグレイドルモンスターと同じレベルの水族モンスターを手札から特殊召喚する! 墓地のグレイドル・アリゲーターを蘇生し、手札から同じレベルの水族モンスター“グレイドル・イーグル”を特殊召喚する!」


※グレイドル・イーグル
効果モンスター
星3/水属性/水族/攻1500/守500
(1):自分のモンスターゾーンのこのカードが戦闘またはモンスターの効果で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその相手モンスターに装備する。
(2):このカードの効果でこのカードが装備されている場合、装備モンスターのコントロールを得る。このカードがフィールドから離れた時に装備モンスターは破壊される。


「相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、私は墓地の迷い風の効果を発動します! このカードをセットします!」
「グレイドル・スライムJr.の1つ目の効果を発動したターン、僕は水属性のモンスターしか特殊召喚できなくなる」
「チューナーと非チューナーモンスターのレベルの合計は8……」
「でも問題はない! 僕はレベル3のグレイドル・イーグルとグレイドル・アリゲーターにレベル2の水族チューナー、グレイドル・スライムJr.をチューニング!“遥か遠き宇宙より飛来せし未確認生命体たちよ、今その命を一つとし、全てを操る魔竜となって新生せよ!”シンクロ召喚! 咆哮せよ!“グレイドル・ドラゴン”!!」


※グレイドル・ドラゴン
シンクロ・効果モンスター
星8/水属性/水族/攻3000/守2000
水族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
「グレイドル・ドラゴン」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがS召喚に成功した時、そのS素材とした水属性モンスターの数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。
(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。


KYOUTOUウォーターフロント 壊獣カウンター:2→5

「シンクロ召喚に成功したグレイドル・ドラゴンの効果を発動! このカードのシンクロ素材にした水属性モンスターの数だけ相手フィールドのカードを対象にして発動! そのカードを破壊する!」
「3枚除去かつ攻撃力3000……」
「僕が対象とするのはオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、ドクロバット・ジョーカー、そしてセットされた迷い風だ!」

 グレイドル・ドラゴンから放たれた三つの水弾がオッドアイズ、ドクロバット・ジョーカー、そしてセットされたばかりの迷い風を爆破し、破壊する。罠カードである迷い風はセットされたそのターンのうちは発動することができないのだ。そして自身の効果でセットされた迷い風はフィールドから離れたことでゲームから除外される。

「せっかくの攻撃力を下げられちゃ元も子もないもんな! でもこれでお前たちのフィールドはがら空きだ! バトル! グレイドル・ドラゴンでダイレクトアタック!“インベイダー・ヘル・ストリーム”!!」

グレイドル・ドラゴン ATK3000

「そしてグレイドル・ドラゴンを対象にリバースカードオープン! 罠カード“グレイドル・スプリット”!」


※グレイドル・スプリット
通常罠
「グレイドル・スプリット」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。このカードを攻撃力500アップの装備カード扱いとして、そのモンスターに装備する。
(2):自分メインフェイズに、このカードの効果で装備されているこのカードを墓地へ送って発動できる。このカードを装備していたモンスターを破壊し、デッキから「グレイドル」モンスター2体を特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。


グレイドル・ドラゴン ATK3000→3500


遊大・美鈴 LP8000→4500

「っ……!」
「きゃああっ!!」
「狡いバーンダメージで僕たちのライフを削っても無駄さ! 僕のグレイドル・ドラゴンと剛士の壊獣で1500のライフ差なんてあっという間だ! 僕はこれでターンエンド!」


美鈴・遊大 LP4500 手札3枚(美鈴)0枚(遊大)
デッキ:32(美鈴)22(遊大)モンスター:0 魔法・罠:1 墓地:8 除外:12 Pゾーン:青2(賤竜の魔術師)/赤8(虹彩の魔術師)エクストラ:13(0・美鈴)14(2・遊大)
剛士・恒雄 LP3000 手札4枚(剛士)2枚(恒雄)
デッキ:31(剛士)33(恒雄)モンスター:1(グレイドル・ドラゴン←グレイドル・スプリット)魔法・罠:4(KYOUTOUウォーターフロント:5、グレイドル・スプリット)墓地:6 除外:0 Pゾーン:青/赤 エクストラ:0(0・剛士)14(0・恒雄)


☆TURN09(美鈴)


 グレイドル・スプリットによって攻撃力の強化されたグレイドル・ドラゴンを前に美鈴は流石に動揺を隠せなかった。破壊耐性こそも持たないものの、破壊されることで墓地の水属性モンスター1体を蘇生できるこのモンスターの効果で墓地のグレイドルを蘇生されてしまえば迂闊な追撃はできない。
 それに仮にグレイドル・ドラゴンを超える攻撃力のモンスターを召喚したところでこの美鈴のターンで勝負を決めなければそのモンスターは次の剛士のターンで壊獣を特殊召喚するための生贄に過ぎない。
 またKYOUTOUウォーターフロントには壊獣カウンターが5つ乗っているために剛士は任意の壊獣モンスターをサーチすることができる。
 そのため前のターンにセルフバウンスしたラディアンとグラン・モールのコンボでフィールドをがら空きにされてしまえば、間違いなくこのデュエルは遊大と美鈴の敗北で終わる。かと言ってエクストラデッキのオッドアイズとドクロバット・ジョーカーを蘇生しながら壁にしたところでそれが突破されるのも時間の問題であることは重々承知していた。

(どうしましょう……このまま負けてしまったら、遊大さんにも……)

 剛士はこのデュエルで自分たちが勝った場合のことについては特段言及していない。とはいえ、美鈴には変わらず付きまとうであろうし、自分たち同級生に仮初の恋人を演じていた遊大がそのまま何もなく解放されるとは限らない。その言動から剛士が力で物を言うタイプの人間である。遊大の身に危険が及ぶのは容易に想像できた。美鈴は自分のせいでこの件に遊大を巻き込んでしまったため、それだけはなんとしても避けたかった。

「……美鈴さん? どうしたの?」

 隣で考え込んで中々カードをドローできないでいる美鈴を見た遊大は思わず声をかける。この時の美鈴はやはり陸がドラマを見ながら言っていたような悲しい目をしていた。

「遊大さん、私は……」
「美鈴さん……美鈴さんが何を考えているかは俺にはわからないけど、俺のことは気にしないで」
「えっ、でも、私があなたを巻き込んでしまって……」
「まあそうだけど、でも俺は望んで巻き込まれた。だから俺のことは気にしないで大丈夫だよ。俺のことを考えるよりもさ、自分のデッキを信じよう? デュエリストがデッキを信じることで初めてデッキはデュエリストに応えてくれるんだから」

 この言葉は上級生として、デュエリストとして彼が慕う遊希の言葉の受け売りである。受け売りの言葉をそのまま使ってしまったことを遊大は密かに悔いたが、それでもその受け売りの言葉を聞いて美鈴は小さく深呼吸する。

「そうですよね、私が信じないと誰が私のデッキを信じるというのでしょうか。私のターン、ドローです!」

 美鈴はデッキを、カードを信じて。その信じる心をもってデッキからカードをドローする。ドローしたカードを見た美鈴は前のターンに遊大が強欲で貪欲な壺を無効化されるリスクを恐れずに突き進んだことに触発されてそのカードを発動した。

「いいでしょう、私も遊大さんのようにデッキに賭けてみます!……私は手札から魔法カード“貪欲な壺”を発動します!」


※貪欲な壺
通常魔法(制限カード)
(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。


「私は墓地のクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン、WW-クリスタル・ベル、WW-アイス・ベル、WW-グラス・ベル、WW-スノウ・ベルの5体をデッキに戻し、2枚ドローします!……手札からハーピィの羽根帚を発動! 相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊します!」
「KYOUTOUウォーターフロントが効果で破壊される場合、壊獣カウンターを1つ取り除くことで破壊を無効にする!」

KYOUTOUウォーターフロント 壊獣カウンター:5→4

グレイドル・ドラゴン ATK3500→3000

「……どっちにしても壊獣カウンターは元通り、か」

KYOUTOUウォーターフロント 壊獣カウンター:4→5

「KYOUTOUウォーターフロントを破壊したかったようだが残念だったな! 次のターンで俺たちの……」
「先輩方、何か勘違いされていませんか?」
「えっ……」
「あなたたちに次のターンなどありません! 私たちのフィールドにモンスターが存在しない場合、手札からこのカードは特殊召喚できます! WW-アイス・ベル!」
「アイス・ベル!? まさか今のドローで引いたってのか!?」
「まあ3枚入っていますから引ける確率自体は決して低くはないのですけどね……でも、これで全てが決まります! アイス・ベルの効果でデッキからチューナーモンスター、WW-グラス・ベルを特殊召喚します! そしてグラス・ベルの1つ目の効果とアイス・ベルの2つ目の効果を発動します!」


チェーン2(美鈴):WW-グラス・ベル
チェーン1(美鈴):WW-アイス・ベル


「グラス・ベルの効果でWW-スノウ・ベルを手札に加え、アイス・ベルの効果で先輩方のライフに500のダメージを与えます!」

剛士・恒雄 LP3000→2500

「そして手札のスノウ・ベルの効果を発動! スノウ・ベルを特殊召喚します!」
「こ、この布陣は……」
「行きます! 私はレベル3のWW-アイス・ベルにレベル4のチューナーモンスター、WW-グラス・ベルをチューニング!“世界が白く染まる時、凍てつく風と共に鈴の音響かせる。氷雪を力に変え舞い踊れ!”シンクロ召喚! 再び降臨せよ、WW-ウインター・ベル!! ウィンター・ベルの効果で墓地のレベル4のWW-グラス・ベルのレベル×200のダメージを与えます!」

剛士・恒雄 LP2500→1700

「これで最後です! 私はレベル7のシンクロモンスター、WW-ウィンター・ベルにレベル1のチューナーモンスター、WW-スノウ・ベルをチューニング!“光り輝く雪風が呼び覚ますは水晶の翼を持ちし竜。雄々しくも美しいその身を以てあらゆるものを突き穿て!”シンクロ召喚! 我が元に再臨せよ!! クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン!!」
「ここでクリスタルウィングだと!?」
「クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンはレベル5以上のモンスターと戦闘を行う時、そのダメージ計算時だけその相手モンスターの攻撃力を加える! グレイドル・ドラゴンのレベルは8!」
「バトルです! クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンでグレイドル・ドラゴンを攻撃―――!!」





―――烈風のクリスタロス・エッジ―――!!





クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK3000→6000


クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン ATK6000 VS グレイドル・ドラゴン ATK3000


 まるで氷が鳴るかのような美しくも雄々しい咆哮を上げた水晶の竜の一撃が炸裂した。


剛士・恒雄 LP1700→0










「そ、そんな……」
「俺と恒雄のタッグが負けるだと……?」

 まさか一年生に負けるとは思っていなかった剛士と恒雄はその場にがくりと崩れ落ちた。アカデミアにおいては一部例外を除いては学年が上がれば上がるほどデュエリストとしての腕が高い、ということになる。
 そのため剛士と恒雄はまさに「負ける気がしない」と思いながらデュエルに臨んでいたのである。その気持ちが正面から突き崩されてしまったのだからショックを受けるのも当然だろう。

「やった……勝てました!」

 落ち込む上級生を尻目に満面の笑みで勝利を喜ぶ美鈴。デュエルの間は巻き込んでしまった遊大に対する申し訳なさと敗れてしまったらどうしようという気持ちでずっと強張った顔をしていたのだが、全てが終わり、肩の荷が下りた様子の彼女はまるで子供のようにぴょんぴょんと笑顔で跳ねていた。
 その外見や言動から「アジアンビューティー」「高嶺の花」と見られがちの美鈴であるが、彼女もまだ15歳の少女であり、歳相応の幼さも持っているのだ。ただ、その美貌と子供らしい内面のギャップに惹かれたからこそ今回のようなことが起きたのかもしれない。

「ありがとうございます、全部遊大さんのおかげです!」
「俺は何もしていないよ。最後のドローで貪欲な壺を引き、そしてそのドローでアイス・ベルを引いた孫さんがデッキを信頼したから勝つことができた。そういうことだよ」

 そう言って遊大は不器用な笑顔を見せる。遊大のそんな顔を見た美鈴の頬が仄かに朱に染まった。

「さて、先輩方。デュエルの前にした約束……守っていただけますよね?」

 美鈴を後ろに下げつつ、遊大は剛士と恒雄との詰めの交渉に移った。デュエルの前に確かに剛士はこう言っていた。「もしこのデュエルで遊大たちが勝てば、剛士は身を引く」と。柔道は立派な武道である。武道を日々極めし者が前言撤回などできるものか。

「ああ……約束は守る。俺はもう美鈴さんに言い寄らない」
「剛士……」
「わかりました。では今日はもうこれで終わりにしましょう。先輩方、もし機会があればまた俺とデュエルをしてくださいね」

 遊大は二人に一礼すると、美鈴と共にその場を去ろうとした。これで全てが丸く収まる―――しかし、物事はいつだって予想の斜め上を行くもの。この時の遊大も、やはりまだまだ世の汚さを知らない純朴な子供であった。

「ああ、俺は“美鈴さん”には手を出さない。だが―――お前をぶん殴ることはできる! そうだろぉ、高海ぃ!!」
「っ!? 美鈴さん!!」

 約束はあくまで“美鈴には言い寄らない”というものであり、遊大については特に言及していない。そのため遊大個人に対してどう振る舞おうととやかく言われる筋合いはないということだ。安易な口約束の代償がここに来た、と遊大はその点については自分の甘さを悔やんだ。
 しかし、だからと言ってデュエルで覇を競うはずのデュエリストが自らの感情に任せて暴力に訴える、という行為を遊大は一人のデュエリストとして許すことはできなかった。



「なっ……!?」



 殴りかかった剛士から美鈴を守ろうと彼女を突き飛ばした遊大。美鈴を守れるのであれば代わりに自分が殴られてもいい、と思っての行動だったのだが、この時の遊大はある意味で自分を見失っていた。
 遊大は殴りかかった剛士の拳を器用に身を反らしてかわすと、彼の右手首を右手で掴みあげていた。遊大は非力ではないのだが、怪力というわけでもない。そのために日夜柔道で鍛えている剛士に力で敵うはずがない。

「がっ……いててて!! 離せ! 離してくれえええ!! 腕が、腕が千切れる!!」
(えっ? なんで?)

 しかし、この時の遊大は違った。怒りに燃える遊大の力は剛士のそれを遥かに上回っていたのだ。それは彼の腕を掴みあげていた遊大自身も疑問に思うほどに。剛士が悲鳴をあげたことで我に返った遊大はその手を離す。掴まれていたその部分を抑えながら剛士はその場に蹲ってしまった。
 
「剛士、やべえよこいつ! 早く逃げよう!!」

 大柄な友人の身体に肩を貸しその場から立ち去ろうとする恒雄。しかし、そんな彼らの前には遊大と同じように怒りに燃えた瞳をした少女が立ちはだかった。

「遊大! 美鈴! だいじょうぶか!!」

 息を切らしながらそこに現れたのは留奈であった。そんな留奈の後ろからは留奈に呼ばれてきたと思われる遊希と千夏、そしてその中の誰よりも顔を真っ赤にして肩で息をする詩織の姿があった。
 所属するダンス部の活動に参加するために偶然その場を通りかかった留奈はデュエルをする四人を目撃しており、またデュエルをしている遊大と美鈴の様子に疑問を持った彼女が遊希たちに知らせていたのである。

「……これはどういうことかしら?」
「事と次第によってはあんたたち、覚悟はできてるんでしょうね!」

 剛士の力が強かろうと、恒雄の家が名家であったとしても、上級生それもアカデミア最強の呼び名を持つ遊希および三年生でも指折りのデュエリストである千夏に逆らうほど二人は愚かではなかった。

「ねえ詩織。エヴァが下級生の子から相談を受けていたのって……」
「……上級生の男子生徒に付きまとわれて迷惑している……エヴァさんから再三の注意を受けていたにも関わらず、それすらも無視していたのですね?」
「ひっ……」
「……あなたは確か柔道部の木村君でしたよね。あなたの軽率な行動の代償は柔道部に取ってもらうことになります。上級生の方々は残念がるでしょう。愚かな後輩のために自分たちの努力が水の泡と帰してしまうのですから。ですが、それを覚悟の上で行動に移したんですよね」

 いつものような穏やかな語り口ながら、詩織の声色はとても冷たく厳しいものであった。今回の剛士の行為は真意はどうあればストーカー行為として取られる可能性が高い。仮にそうなれば警察沙汰となり、アカデミア全体にその余波が及ぶことは避けられないだろう。
 遊希たちが詩織を生徒会長に推薦した理由の一つに彼女の信念の強さがあった。普段は大人しく心優しい詩織であるが、その裏には曲がったことは許さないという信念の強さがある。それは生徒の代表であり、学校の顔ともなる生徒会長に求められる素質の一つであるのだ。

「待ってください!!」

 しかし、そんな詩織の決定に異を唱える者がいた。他ならぬ遊大である。今回の件に関して遊大はあわや殴られそうになった被害者である。しかし、そんな被害者たる彼が真っ先に詩織に食いついたのだ。

「俺は孫さんを巻き込んで木村先輩と関先輩をつり出すような真似をしました。今になって思えばもっと適切な対応方法があったはずです。俺にも非はあります」
「……つまり?」
「俺にも処分をお願いします。喧嘩両成敗、ってよく言いますよね?」

 まさか自分から処分を望む、までは思っていなかった詩織はえっ、といつものような何処か気弱そうな声をあげる。そんな彼女に遊希と千夏がすかさず助け舟を出した。

「詩織、どうする? 彼はああ言っているけど」
「……わかりました。処分は先生方と協議した上で追って通達します。ただ、木村君と関君は高海君に感謝してくださいね。彼の申し出が無ければ……どうなっていたかわかりませんから」

 そう言ってぺこりと頭を下げて詩織は去っていった。そして一応加害者となる剛士と恒雄は千夏に伴われてその場を去る。言葉には出さなかったが何処か申し訳なさそうに遊大に頭を下げて彼らは去っていった。全てが終わり、ふう、と小さくため息をついた遊大の頭を遊希が軽く小突いた。

「ふう、じゃないわよ。高海くん、あなたデュエル委員でしょう? それなのに未許可でデュエルをするとはいい度胸してるじゃない」
「えっ、未許可だったんですか? 先輩方が出しているのかと……」
「それでいて自分にも処分をしてくれ、ってあなたそっちの趣味があるの?」
「そういうつもりはないんですけどね……」
「まあどっちでもいいわ。でも、今回の件は高くつくわよ?」
「……覚悟の上です。そうじゃなきゃ遊希さんの下では働けませんから」
「……どういう意味よ、馬鹿」

 そう言って顔を見合わせて苦笑いを浮かべる二人を美鈴は留奈と共に見つめていた。

「美鈴、だいじょうぶか? けがはないか?」
「大丈夫です。遊大さんが守ってくれましたから」
「そうか。さすがおまえのかれしだな!」
「……私と遊大さんは恋人ではありませんよ?」
「なっ、そうなのか! 礼や林檎があまりにさわぐからわたしもてっきりほんものなのかと……」
「皆さんまだまだ恋愛には疎いようですね。でも……」





―――もっと長く、遊大さんの隣にいたい、とは思いましたけどね。





 少女の心の内を知るのは、その本人だけである。






現在のイイネ数 35
作品イイネ
↑ 作品をイイネと思ったらクリックしよう(1話につき1日1回イイネできます)

浮幽さくら
最後にクリスタルウィングが出てくるとはmm(#^^#)
クリスタルウィングで始まり、クリスタルウィングで終わりましたね(^_^)
デッキを信じれば、答えてくれるものですね(´・ω・`)
最後の言葉、、恋愛フラグだったりして、、_( _´ω`)_ペショ (2017-03-22 00:53)
パニー
やはりクリスタルウィングは強かった・・・
それにしても強貪をブラフにした遊大君、かなり型破りなプレイングで大変驚かされました。

美鈴嬢と遊大君の進展にも期待ですねw (2017-03-22 19:39)
カズ
こちらではお久しぶりのコメントになります。
そちらの世界ではクリスタルウィングが一般流通しているのですか...。WWとの組み合わせはホントに強いですよね。
遊希から借りたとはいえ、何気ない遊大くんの言葉は美鈴にとってどれだけ心強かったことでしょうか。そんな彼女が、まさか本当に恋に落ちたか...?気になりますね。 (2017-03-22 21:26)
白金 将
おおっ、これはいい感じのフラグ……遊大君め、こうやっていろんな女の子を惚れさせていこうという魂胆だな!?(早とちり
デュエルもよかったですが、個人的には詩織が怒った所が怖かったですなぁ。声を荒げたりこそはしないですが、ああいうタイプは本当に怒らせるとまじでやばい(語彙不足 (2017-03-23 00:50)
から揚げ
WWとクリスタルウィングの組み合わせは本当に強力ですよね。少ない消費で素早く出てくる上に破壊耐性が付与されますし。

逆境に追い詰められても、屈する事無く美鈴を励ましていた遊大が本当にカッコ良かったです!そして、自分に殴りかかってきた先輩の処分を軽くするようにお願いしていた辺り、遊大が心優しいを通り越して菩薩メンタルの領域に達しているのを感じます!美鈴が惚れるのも納得のイケメンですね!

詩織が怒ったシーンは拝読させて頂いている私も背筋がヒヤッとしましたね。普段優しい人程怒った時は一切容赦しないというのはありますよね。詩織を怒らせてはいけない(戒め)
(2017-03-23 08:22)
光芒
浮幽さくらさん
活躍できなかったエースモンスターをもう一度出して活躍させる、というのはデュエリストからしてみれば一度はやってみたいことですよね。創作ものにはありがちなことですが、デッキを信じれば応えてくれる、というのは王道中の王道であると思います。

>最後の言葉、、恋愛フラグだったりして、、_( _´ω`)_ペショ
さあ、どうでしょうね(謎

パニーさん
クリスタルウィングは書いていてかなりのチートカードだと思います。そして強貪をブラフにできる大胆なプレイングができるのも主人公ならでは、というところでしょうか。

カズさん
こちらの世界ではレクイエム、クリスタルウィング、グリーディーは一般流通している設定ですね。それが故に遊大のみの持つレイジングが特殊であったりします。またオベリオンは存在こそしていますが、やはりオッドアイズが絡むために他のドラゴンよりも希少なカードだったりします。

>遊希から借りたとはいえ、何気ない遊大くんの言葉は美鈴にとってどれだけ心強かったことでしょうか。そんな彼女が、まさか本当に恋に落ちたか...?気になりますね。
タッグデュエルのいいところに隣に誰かがいる、ということがありますね。一人ではなく二人で戦っているということは精神的にも楽になります。
遊大と美鈴については……まあ見守っていてください。

白金 将さん
>おおっ、これはいい感じのフラグ……遊大君め、こうやっていろんな女の子を惚れさせていこうという魂胆だな!?(早とちり
残念ながら遊大にそんな甲斐性ありません; 甲斐性あったらこの年齢まで彼女いたことない、とかないですからね(痛烈

そして詩織激おこはいつか挟みたかったところではあります。生徒会長になった彼女の生徒会長らしいところを見せたかったので。でも詩織のような子が怒ると怖い、というのは理解して頂けたようで何よりです。

から揚げさん
【WW】はリンのテーマとあってユーゴのモンスターと好相性なのは中々オツな設定ですよね。二人の絆の強さが感じられます。まあ【WW】単体ならともかく【召喚獣】あたりとタッグ組まれると極悪なのですが。

>逆境に追い詰められても、屈する事無く美鈴を励ましていた遊大が本当にカッコ良かったです!そして、自分に殴りかかってきた先輩の処分を軽くするようにお願いしていた辺り、遊大が心優しいを通り越して菩薩メンタルの領域に達しているのを感じます!美鈴が惚れるのも納得のイケメンですね!
自分で書いていてなんですが、こいつのメンタルどうなってんだって思ってしまいました。このシーンにおいても今後の伏線が仕込んであるので覚えておいていただけると幸いです。

>詩織が怒ったシーンは拝読させて頂いている私も背筋がヒヤッとしましたね。普段優しい人程怒った時は一切容赦しないというのはありますよね。詩織を怒らせてはいけない(戒め)
詩織は優しい子なので怒鳴ったりとかは絶対にしないんですよね。それでも怒鳴らないが故に醸し出される怖さというものがあったりしますよね。
(2017-03-23 13:04)

名前
コメント

同シリーズ作品

イイネ タイトル 閲覧数 コメ数 投稿日 操作
12 プロローグ:邂逅 576 3 2017-01-16 -
16 第1話:感謝 428 4 2017-01-18 -
10 第2話:機竜 471 3 2017-01-20 -
11 第3話:試験 410 2 2017-01-23 -
8 第4話:不動 433 4 2017-01-25 -
9 第5話:烈火 494 7 2017-01-27 -
12 第6話:決着 454 6 2017-01-29 -
10 第7話:入学 437 4 2017-01-31 -
10 第8話:再会 418 3 2017-02-02 -
11 第9話:舞鳥 424 7 2017-02-05 -
9 第10話:逆鱗(前編) 474 5 2017-02-07 -
6 第11話:逆鱗(後編) 372 3 2017-02-09 -
11 第12話:最強 429 3 2017-02-10 -
12 メインキャラクター紹介 496 0 2017-02-15 -
10 第13話:親睦 378 3 2017-02-17 -
7 番外編:慟哭(2/18修正) 490 6 2017-02-17 -
8 第14話:血戦 533 8 2017-02-19 -
8 第15話:攻防 562 5 2017-02-21 -
12 第16話:約束 429 6 2017-02-23 -
13 第17話:部活 381 4 2017-02-25 -
9 第18話:激励 496 5 2017-02-28 -
8 第19話:恐獣 339 2 2017-03-07 -
15 第20話:天命 458 2 2017-03-09 -
8 第21話:恋情 429 4 2017-03-13 -
36 第22話:真価 331 3 2017-03-16 -
13 遊大たちが4月制限について語るようです 442 7 2017-03-17 -
35 第23話:信頼 377 6 2017-03-22 -
39 第24話:魔竜 426 8 2017-03-24 -
41 第25話:度胸 407 5 2017-03-28 -
26 第26話:漆黒 300 5 2017-03-30 -
82 番外編:4月1日 408 6 2017-04-01 -
13 第27話:英雄 301 3 2017-04-04 -
41 第28話:最高 398 4 2017-04-07 -
19 第29話:銀河 283 2 2017-04-10 -
46 第30話:昇華 440 3 2017-04-13 -
17 サブキャラクター紹介・1 411 3 2017-04-16 -
48 第31話:試練 361 5 2017-04-18 -
18 第32話:迷宮 350 3 2017-04-20 -
16 第33話:成長 348 3 2017-04-23 -
18 第34話:双子・1 311 4 2017-04-25 -
48 第35話:双子・2 363 2 2017-04-28 -
20 第36話:幻奏 353 2 2017-05-04 -
45 第37話:戦術 423 2 2017-05-08 -
23 第38話:門番 405 5 2017-05-12 -
37 第39話:白黒 272 3 2017-05-17 -
17 第40話:奇跡 309 6 2017-05-19 -
25 第41話:錬装 316 4 2017-05-23 -
42 第42話:命運 277 2 2017-05-27 -
34 第43話:覚悟 367 3 2017-05-30 -
17 第44話:条件 282 3 2017-06-03 -
18 1万アクセス記念企画のお知らせ 434 5 2017-06-04 -
40 第45話:幻影 317 4 2017-06-08 -
13 第46話:黒牙 267 2 2017-06-14 -
15 遊大たちが7月制限について語るようです 324 2 2017-06-14 -
15 第47話:終幕 357 4 2017-06-17 -
17 第48話:宣誓 283 2 2017-06-22 -
11 サブキャラクター紹介・2 246 2 2017-06-24 -
17 第49話:編入 265 6 2017-06-29 -
14 第50話:理由 295 4 2017-07-03 -
11 番外編:七夕 292 6 2017-07-07 -
18 第51話:一歩 365 5 2017-07-12 -
19 第52話:修練 281 4 2017-07-17 -
11 第53話:自信 255 5 2017-07-20 -
16 第54話:克服 227 4 2017-07-24 -
15 第55話:猛攻 260 6 2017-08-02 -
14 第56話:障壁 181 3 2017-08-08 -
8 第57話:意地 170 3 2017-08-13 -
9 第58話:提案 267 3 2017-08-17 -
11 第59話:来訪 221 3 2017-08-27 -
17 第60話:交錯 231 3 2017-09-04 -
14 第61話:諜報 197 3 2017-09-11 -
67 遊大たちが10月制限について語るそうです 308 5 2017-09-14 -
10 第62話:暴露 174 2 2017-09-21 -
13 第63話:決意 201 4 2017-09-25 -
6 第64話:結束 197 4 2017-10-02 -
10 第65話:渇望 343 3 2017-10-07 -
12 第66話:証明 171 4 2017-10-13 -
10 第67話:空想 145 2 2017-10-16 -
9 第68話:魔鎖 138 2 2017-10-23 -
6 第69話:喝采 113 2 2017-10-27 -
8 第70話:胸愛 158 3 2017-11-01 -
10 第71話:点火 139 4 2017-11-07 -
5 第72話:誘惑 107 3 2017-11-15 -
3 第73話:憤怒 92 3 2017-11-18 -

スポンサーリンク