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第3話 ボーイ・ミーツ・フェニックス 作:氷色
学校が近くになってくると遊緋は杏里と少し距離を取るようにしている。
どんな学校にもヒエラルキーというものが存在する。
それは遊緋達の通う『舞網市童実野区立童実野高等学校』も例外ではない。
所謂イケているグループや運動部のエース級の人達を筆頭に作られるピラミッド型の階級構造。
活発で男女共に人気がある杏里はこのヒエラルキーの中でも最上位に位置していると思うが、ゲームオタクで派手さのない遊緋は最下層の住人だ。
こと学校社会のヒエラルキーに於いては最下層の住人が杏里のような人間と親しくすることは許されない。無駄なやっかみを受けてイジメの標的にされるなんてまっぴら御免だ。
遊緋が杏里に遅れるようにして徐々に距離を空け始めると彼女は決まって寂しそうな顔をするが、最近はもうそれに文句を言うようなことはしなくなった。
これは要らぬ誤解で敵を作らないようにという遊緋なりの処世術だ。杏里もそれを理解し尊重してくれている。学校生活を平穏に過ごすためにはこういうちょっとしたことからのケアが大切なのだ。
杏里と充分な距離を取ると、遊緋はスマホを取り出した。
テクテクと歩きながら、ゲームアプリを起動する。スマホのディスプレイに『デュエルモンスターズ』というタイトルロゴが浮かび上がった。
スマホのデュエルモンスターズはパソコンのそれと同期してある。家ではパソコンで、それ以外ではスマホで、何処でもデュエルモンスターズをプレイできるようにしているのだ。
学校に着くまでにはまだ時間がある。上手く対戦相手が見つかれば1、2戦できるかもしれない。それに勝てれば、学校に着くまでもなく今日の目標であるランキングアップも夢ではない。
対戦相手はすぐに見つかった。
こんな朝早くからゲームをプレイしているなんて暇な人が多いんだな、と思うが自分もその一人なので言えた義理ではない。
すぐに対戦が始まり、ものの数分で決着が着いた。結果は遊緋の圧勝。相手はまだこのゲームに慣れていない初心者のようで、レートは微増したものの勝利の充足感はない。
もう一戦くらいーーーと次の相手を探そうとした時だ。
チャランとメールを知らせるチャイムが鳴り、見るとランキングアップの通知だった。
慌ててランキングを確認すると、確かに自分の名前が一つ上のランキングに移動している。
「やっーーー」
思わず歓喜の声を上げようとしたその時、不意にドンッと何かにぶつかった。
「あっ、すみまーーー」
反射的に謝罪の言葉が出そうになって、しかし遊緋はそれを最後まで言うことはできなかった。
振り向く『彼女』の燃えるような赤毛の髪がふわりと舞った。
絹糸のように繊細な髪の一本一本が陽の光を受けて光輝いている。まるで不死鳥が赤く燃える翼をはためかせているようだ。
『彼女』の美貌や、『彼女』が纏う高貴な雰囲気も相まって、それはとても神々しく幻想的な光景に思えた。
数瞬、遊緋はその『彼女』のいる風景に確かに見惚れていた。
綺麗だとか、美しいとか、そんな言葉さえどこか陳腐に思えるほどの圧倒的な存在感。女神様がいるとするならば、多分こんな風な人なのだろうと本気で思った。
しかし惚けていられたのはそこまでだった。
頼みもしないのに脳が勝手に『彼女』が誰なのかを思い出してくれやがったのだ。
『響 紅羽(ヒビキ クレハ)』
同じ高校の先輩で、最も有名な女性だ。
先程のヒエラルキーで言えば、頂点に君臨する女王であり女神。
当然彼女に憧れている生徒は多く、その支持率は絶大な力を持つ。よって最下層の住人である遊緋達にとっては校内で最も近付いてはならない最重要危険人物なのである。
そんな彼女に朝の通学路で衆人環視の中、ぶつかってしまった。
彼女の圧倒的な美しさに目を奪われ上気していた顔からサッと血の気が引く。
「ヤバい」と思った時には大抵の物事が既に手遅れ等とよく言うが、これは正にそれだ。
どうしていいのか分からずまごついている内に、サッと横から伸びてきた手に肩口を掴まれた。
誰かが助けてくれるのかなんて期待は無駄だ。遊緋を掴んだ手の主は全く知らない男子生徒。絶望に泣きたくなる。
「ちょーとキミ、あっち行こうか」
知らない男が目尻をひくつかせながら笑顔で遊緋に言う。茶髪のロン毛。その笑顔には有無を言わさない獰猛な臭いがプンプン。
彼の連れらしい二人も加わり、遊緋は一言もしゃべれないまま引き連られて行ってしまった。
周りが遠巻きにざわめく中、ぽつんとその場に残される形となってしまった紅羽はふと足元に転がるスマホを見つけた。
あの男子が落としたものだろうか。
それを拾い上げるとまだディスプレイは点灯したまま。その気はなくともそこに表示されている文字が目に入る。
『おめでとうございます!ランキングアップ!ユーヒさんのランキングは現在全国7位です!』
紅羽の瞳が大きく見開かれる。
「全国……7位……」
我知らず画面の文字をなぞる言葉が漏れる。
そしてその細い指がディスプレイの名前の部分を撫でた。
「ユーヒ……」
紅羽の切れ長で涼しげな目があの男子が連れていかれた方を見つめる。
周りの誰も気付いてはいないが、その瞳には僅かにではあるが喜びの色が見える。
朱の唇が笑みの形に変わった。
「……見つけた」
紅羽は確かにそう呟き、凛とした足取りで学校へと歩いて行く。
自然と彼女が歩く先にいた他の生徒は道を譲り、さながらそれはモーゼの海割のようであった。
☆
どんな学校にもヒエラルキーというものが存在する。
それは遊緋達の通う『舞網市童実野区立童実野高等学校』も例外ではない。
所謂イケているグループや運動部のエース級の人達を筆頭に作られるピラミッド型の階級構造。
活発で男女共に人気がある杏里はこのヒエラルキーの中でも最上位に位置していると思うが、ゲームオタクで派手さのない遊緋は最下層の住人だ。
こと学校社会のヒエラルキーに於いては最下層の住人が杏里のような人間と親しくすることは許されない。無駄なやっかみを受けてイジメの標的にされるなんてまっぴら御免だ。
遊緋が杏里に遅れるようにして徐々に距離を空け始めると彼女は決まって寂しそうな顔をするが、最近はもうそれに文句を言うようなことはしなくなった。
これは要らぬ誤解で敵を作らないようにという遊緋なりの処世術だ。杏里もそれを理解し尊重してくれている。学校生活を平穏に過ごすためにはこういうちょっとしたことからのケアが大切なのだ。
杏里と充分な距離を取ると、遊緋はスマホを取り出した。
テクテクと歩きながら、ゲームアプリを起動する。スマホのディスプレイに『デュエルモンスターズ』というタイトルロゴが浮かび上がった。
スマホのデュエルモンスターズはパソコンのそれと同期してある。家ではパソコンで、それ以外ではスマホで、何処でもデュエルモンスターズをプレイできるようにしているのだ。
学校に着くまでにはまだ時間がある。上手く対戦相手が見つかれば1、2戦できるかもしれない。それに勝てれば、学校に着くまでもなく今日の目標であるランキングアップも夢ではない。
対戦相手はすぐに見つかった。
こんな朝早くからゲームをプレイしているなんて暇な人が多いんだな、と思うが自分もその一人なので言えた義理ではない。
すぐに対戦が始まり、ものの数分で決着が着いた。結果は遊緋の圧勝。相手はまだこのゲームに慣れていない初心者のようで、レートは微増したものの勝利の充足感はない。
もう一戦くらいーーーと次の相手を探そうとした時だ。
チャランとメールを知らせるチャイムが鳴り、見るとランキングアップの通知だった。
慌ててランキングを確認すると、確かに自分の名前が一つ上のランキングに移動している。
「やっーーー」
思わず歓喜の声を上げようとしたその時、不意にドンッと何かにぶつかった。
「あっ、すみまーーー」
反射的に謝罪の言葉が出そうになって、しかし遊緋はそれを最後まで言うことはできなかった。
振り向く『彼女』の燃えるような赤毛の髪がふわりと舞った。
絹糸のように繊細な髪の一本一本が陽の光を受けて光輝いている。まるで不死鳥が赤く燃える翼をはためかせているようだ。
『彼女』の美貌や、『彼女』が纏う高貴な雰囲気も相まって、それはとても神々しく幻想的な光景に思えた。
数瞬、遊緋はその『彼女』のいる風景に確かに見惚れていた。
綺麗だとか、美しいとか、そんな言葉さえどこか陳腐に思えるほどの圧倒的な存在感。女神様がいるとするならば、多分こんな風な人なのだろうと本気で思った。
しかし惚けていられたのはそこまでだった。
頼みもしないのに脳が勝手に『彼女』が誰なのかを思い出してくれやがったのだ。
『響 紅羽(ヒビキ クレハ)』
同じ高校の先輩で、最も有名な女性だ。
先程のヒエラルキーで言えば、頂点に君臨する女王であり女神。
当然彼女に憧れている生徒は多く、その支持率は絶大な力を持つ。よって最下層の住人である遊緋達にとっては校内で最も近付いてはならない最重要危険人物なのである。
そんな彼女に朝の通学路で衆人環視の中、ぶつかってしまった。
彼女の圧倒的な美しさに目を奪われ上気していた顔からサッと血の気が引く。
「ヤバい」と思った時には大抵の物事が既に手遅れ等とよく言うが、これは正にそれだ。
どうしていいのか分からずまごついている内に、サッと横から伸びてきた手に肩口を掴まれた。
誰かが助けてくれるのかなんて期待は無駄だ。遊緋を掴んだ手の主は全く知らない男子生徒。絶望に泣きたくなる。
「ちょーとキミ、あっち行こうか」
知らない男が目尻をひくつかせながら笑顔で遊緋に言う。茶髪のロン毛。その笑顔には有無を言わさない獰猛な臭いがプンプン。
彼の連れらしい二人も加わり、遊緋は一言もしゃべれないまま引き連られて行ってしまった。
周りが遠巻きにざわめく中、ぽつんとその場に残される形となってしまった紅羽はふと足元に転がるスマホを見つけた。
あの男子が落としたものだろうか。
それを拾い上げるとまだディスプレイは点灯したまま。その気はなくともそこに表示されている文字が目に入る。
『おめでとうございます!ランキングアップ!ユーヒさんのランキングは現在全国7位です!』
紅羽の瞳が大きく見開かれる。
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我知らず画面の文字をなぞる言葉が漏れる。
そしてその細い指がディスプレイの名前の部分を撫でた。
「ユーヒ……」
紅羽の切れ長で涼しげな目があの男子が連れていかれた方を見つめる。
周りの誰も気付いてはいないが、その瞳には僅かにではあるが喜びの色が見える。
朱の唇が笑みの形に変わった。
「……見つけた」
紅羽は確かにそう呟き、凛とした足取りで学校へと歩いて行く。
自然と彼女が歩く先にいた他の生徒は道を譲り、さながらそれはモーゼの海割のようであった。
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連れてかれてしまった遊緋がどうなるのか、そして紅羽と遊緋がどの様に関わるのか楽しみです!
ちなみに、紅羽のスリーサイズとカップ数はいくつくらいでしょうか?
(2017-02-09 21:18)
杏里がDくらいで、紅羽はそれより少し小さいくらいでしょうか。 (2017-02-10 01:01)